(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ベース部材の表面に開口する蓋溝の底面に形成された凹溝に、熱媒体用管を挿入しつつ前記蓋溝に蓋板を挿入し、前記ベース部材及び前記蓋板の表面側が凸となるようにテーブルに固定する準備工程と、
前記蓋溝の側壁と前記蓋板の側面との突合部に沿って攪拌ピンを備え、摩擦攪拌装置の回転軸に連結された回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う本接合工程と、を含み、
前記攪拌ピンの周面に螺旋溝が刻設されており、前記回転ツールを右回転させる場合は、前記螺旋溝を前記攪拌ピンの基端側から先端側に向けて左回りに刻設し、前記回転ツールを左回転させる場合は、前記螺旋溝を前記攪拌ピンの基端側から先端側に向けて右回りに刻設するとともに、
前記ベース部材及び前記蓋板の少なくとも一方の変形量を計測し、前記本接合工程において、回転した前記攪拌ピンを前記突合部に挿入し、前記摩擦攪拌装置及び前記回転ツールのうち、前記回転ツールの前記攪拌ピンのみを前記ベース部材及び前記蓋板に接触させて摩擦熱を発生させた状態で、前記攪拌ピンの挿入深さを前記変形量に合せて調節しながら摩擦攪拌を行うことを特徴とする伝熱板の製造方法。
ベース部材の表面に開口する凹溝又は凹部を覆うように、前記ベース部材の表面に蓋板を重ね合わせつつ、前記ベース部材及び前記蓋板の表面側が凸となるようにテーブルに固定する準備工程と、
前記蓋板の表面から攪拌ピンを備え、摩擦攪拌装置の回転軸に連結された回転ツールを挿入し、前記ベース部材の表面と前記蓋板の裏面との重合部に沿って前記回転ツールを相対移動させる本接合工程と、を含み、
前記攪拌ピンの周面に螺旋溝が刻設されており、前記回転ツールを右回転させる場合は、前記螺旋溝を前記攪拌ピンの基端側から先端側に向けて左回りに刻設し、前記回転ツールを左回転させる場合は、前記螺旋溝を前記攪拌ピンの基端側から先端側に向けて右回りに刻設するとともに、
前記ベース部材及び前記蓋板の少なくとも一方の変形量を計測し、前記本接合工程では、前記摩擦攪拌装置及び前記回転ツールのうち、前記回転ツールの前記攪拌ピンのみを前記ベース部材と前記蓋板の両方、又は、前記蓋板のみに接触させて摩擦熱を発生させた状態で、前記攪拌ピンの挿入深さを前記変形量に合せて調節しながら前記重合部の摩擦攪拌を行うことを特徴とする伝熱板の製造方法。
前記本接合工程の終了後、前記回転ツールの摩擦攪拌によって生じたバリを切除するバリ切除工程を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の伝熱板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図15の(a)に示すように、特許文献1に係る発明では、ショルダG1の下端面をベース部材101の表面101Aに押し込んで摩擦攪拌接合を行う。ショルダG1を押し込むと、塑性流動化した金属が回転ツールGの周囲から溢れ出るのを防ぐことができる。しかし、ショルダG1の下端面によってベース部材101に大きな押圧力が作用するため、凹溝103に塑性流動材が流入する可能性がある。一方、凹溝103に塑性流動材が流入しないように摩擦攪拌の位置を設定すると、伝熱板の設計の自由度が制限されるという問題がある。
【0007】
また、
図15の(b)に示すように、ベース部材101が裏面101Bに凸状となるように反っているため、E1方向に回転ツールGを移動させる際には、ショルダG1の下端面のうち進行方向前側が裏面101Bに当接する。また、E2方向に回転ツールを移動させる際には、ショルダG1の下端面のうち進行方向後側が裏面101Bに当接する。これにより、回転ツールGの操作性が低下するという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、平坦な伝熱板を製造することができるとともに、回転ツールの操作性が良好であり、かつ、設計の自由度が高い伝熱板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、ベース部材の表面に開口する凹溝の周囲に形成された蓋溝に、蓋板を挿入しつつ、前記ベース部材及び前記蓋板の表面側が凸となるようにテーブルに固定する準備工程と、前記蓋溝の側壁と前記蓋板の側面との突合部に沿って攪拌ピンを備え
、摩擦攪拌装置の回転軸に連結された回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う本接合工程と、を含み、
前記攪拌ピンの周面に螺旋溝が刻設されており、前記回転ツールを右回転させる場合は、前記螺旋溝を前記攪拌ピンの基端側から先端側に向けて左回りに刻設し、前記回転ツールを左回転させる場合は、前記螺旋溝を前記攪拌ピンの基端側から先端側に向けて右回りに刻設するとともに、前記ベース部材及び前記蓋板の少なくとも一方の変形量を計測し、前記本接合工程において、回転した前記攪拌ピンを前記突合部に挿入し、
前記摩擦攪拌装置及び前記回転ツールのうち、前記回転ツールの前記攪拌ピンのみを前記ベース部材及び前記蓋板に接触させ
て摩擦熱を発生させた状態で
、前記攪拌ピンの挿入深さを前記変形量に合せて調節しながら摩擦攪拌を行うことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、ベース部材の表面に開口する蓋溝の底面に形成された凹溝に、熱媒体用管を挿入しつつ前記蓋溝に蓋板を挿入し、前記ベース部材及び前記蓋板の表面側が凸となるようにテーブルに固定する準備工程と、前記蓋溝の側壁と前記蓋板の側面との突合部に沿って攪拌ピンを備え
、摩擦攪拌装置の回転軸に連結された回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う本接合工程と、を含み、
前記攪拌ピンの周面に螺旋溝が刻設されており、前記回転ツールを右回転させる場合は、前記螺旋溝を前記攪拌ピンの基端側から先端側に向けて左回りに刻設し、前記回転ツールを左回転させる場合は、前記螺旋溝を前記攪拌ピンの基端側から先端側に向けて右回りに刻設するとともに、前記ベース部材及び前記蓋板の少なくとも一方の変形量を計測し、前記本接合工程において、回転した前記攪拌ピンを前記突合部に挿入し、
前記摩擦攪拌装置及び前記回転ツールのうち、前記回転ツールの前記攪拌ピンのみを前記ベース部材及び前記蓋板に接触させ
て摩擦熱を発生させた状態で
、前記攪拌ピンの挿入深さを前記変形量に合せて調節しながら摩擦攪拌を行うことを特徴とする。
【0011】
かかる製造方法によれば、準備工程において予めベース部材及び蓋板の表面側が凸となるように固定した状態で本接合工程を行うため、本接合工程によって発生する熱収縮によって伝熱板を平坦にすることができる。また、回転ツールのうちの攪拌ピンのみがベース部材及び蓋板に接触することになるので、ベース部材及び蓋板の表面が凸状に反っていたとしても、従来の製造方法のようにショルダがベース部材及び蓋板に当たらないため回転ツールの操作性が良好となる。
【0012】
また、従来の製造方法のようにショルダがベース部材及び蓋板と接触しないため、ベース部材及び蓋板に対する押圧力が小さくなるとともに、従来の製造方法に比べて、塑性化領域の幅が小さくなる。これにより、従来の製造方法よりも回転ツールを凹溝に近づけることが可能となり、伝熱板の設計の自由度が向上する。また、従来の製造方法に比べて、接合するベース部材及び蓋板と回転ツールとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。これにより、突合部の深い位置まで容易に摩擦攪拌接合することができる。
また、ベース部材及び蓋板に対する攪拌ピンの深さ位置を一定に保つことができる。
【0013】
また、前記本接合工程の前に、前記突合部を仮接合する仮接合工程を含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、本接合工程の際の突合部の目開きを防止することができる。
【0014】
また、前記仮接合工程では、前記回転ツールの攪拌ピンのみを前記突合部に挿入して仮接合することが好ましい。かかる製造方法によれば、本接合工程と仮接合工程とで同じ回転ツールを用いることができるため、製造サイクルの短縮化を図ることができる。
【0015】
また、
前記準備工程では、テーブルに配置されたスペーサーの上に仮接合された前記ベース部材及び前記蓋板を表面側が凸となるように湾曲させて配置し、四隅をクランプで固定することが好ましい。
【0017】
また、本発明は、ベース部材の表面に開口する凹溝又は凹部を覆うように、前記ベース部材の表面に蓋板を重ね合わせつつ、前記ベース部材及び前記蓋板の表面側が凸となるようにテーブルに固定する準備工程と、前記蓋板の表面から攪拌ピンを備え
、摩擦攪拌装置の回転軸に連結された回転ツールを挿入し、前記ベース部材の表面と前記蓋板の裏面との重合部に沿って前記回転ツールを相対移動させる本接合工程と、を含み、
前記攪拌ピンの周面に螺旋溝が刻設されており、前記回転ツールを右回転させる場合は、前記螺旋溝を前記攪拌ピンの基端側から先端側に向けて左回りに刻設し、前記回転ツールを左回転させる場合は、前記螺旋溝を前記攪拌ピンの基端側から先端側に向けて右回りに刻設するとともに、前記ベース部材及び前記蓋板の少なくとも一方の変形量を計測し、前記本接合工程では、
前記摩擦攪拌装置及び前記回転ツールのうち、前記回転ツールの前記攪拌ピンのみを前記ベース部材と前記蓋板の両方、又は、前記蓋板のみに接触させ
て摩擦熱を発生させた状態で
、前記攪拌ピンの挿入深さを前記変形量に合せて調節しながら前記重合部の摩擦攪拌を行うことを特徴とする。
【0018】
かかる製造方法によれば、準備工程において予めベース部材及び蓋板の表面側が凸となるように固定した状態で本接合工程を行うため、本接合工程によって発生する熱収縮によって伝熱板を平坦にすることができる。また、回転ツールのうちの攪拌ピンのみが蓋板に接触することになるので、ベース部材の表面が凸状に反っていたとしても、従来の製造方法のようにショルダが蓋板に当たらないため回転ツールの操作性が良好となる。
【0019】
また、従来の製造方法のようにショルダが蓋板と接触しないため、蓋板に対する押圧力が小さくなるとともに、従来の製造方法に比べて、塑性化領域の幅が小さくなる。これにより、従来の製造方法よりも回転ツールを凹溝又は凹部に近づけることが可能となり、伝熱板の設計の自由度が向上する。また、従来の製造方法に比べて、接合するベース部材及び蓋板と回転ツールとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。これにより、突合部の深い位置まで容易に摩擦攪拌接合することができる。
また、ベース部材及び蓋板に対する攪拌ピンの深さ位置を一定に保つことができる。
【0020】
また、前記本接合工程の前に、前記重合部を仮接合する仮接合工程を含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、本接合工程の際の重合部の目開きを防止することができる。
【0021】
また、
前記準備工程では、テーブルに配置されたスペーサーの上に仮接合された前記ベース部材及び前記蓋板を表面側が凸となるように湾曲させて配置し、四隅をクランプで固定することが好ましい。なお
、前記ベース部材の変形量は、伝熱板の裏面側から計測しておき、伝熱板の表面側における変形量に換算してもよい。
【0023】
また、前記本接合工程の終了後、前記回転ツールの摩擦攪拌によって生じたバリを切除するバリ切除工程を含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、伝熱板の表面を平坦にすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る伝熱板の製造方法によれば、平坦な伝熱板を製造することができるとともに、回転ツールの操作性が良好であり、かつ、設計の自由度が高い。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔第一実施形態〕
本発明の第一実施形態に係る伝熱板及び伝熱板の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。まずは、本実施形態で用いる本接合用回転ツール及び仮接合用回転ツールについて説明する。
【0027】
図1の(a)に示すように、本接合用回転ツールFは、連結部F1と、攪拌ピンF2とで構成されている。本接合用回転ツールFは、特許請求の範囲の「回転ツール」に相当する。本接合用回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されている。連結部F1は、
図1の(b)に示す摩擦攪拌装置の回転軸Dに連結される部位である。連結部F1は円柱状を呈し、ボルトが締結されるネジ孔B,Bが形成されている。
【0028】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンF2の外周面には螺旋溝F3が刻設されている。本実施形態では、本接合用回転ツールFを右回転させるため、螺旋溝F3は、基端から先端に向かうにつれて左回りに形成されている。
【0029】
なお、本接合用回転ツールFを左回転させる場合は、螺旋溝F3を基端から先端に向かうにつれて右回りに形成することが好ましい。螺旋溝F3をこのように設定することで、摩擦攪拌の際に塑性流動化した金属が螺旋溝F3によって攪拌ピンF2の先端側に導かれる。これにより、被接合金属部材(後記するベース部材2及び蓋板3)の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。
【0030】
図1の(b)に示すように、本接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌接合をする際には、被接合金属部材に回転した攪拌ピンF2のみを挿入し、被接合金属部材と連結部F1とは離間させつつ移動させる。言い換えると、攪拌ピンF2の基端部は露出させた状態で摩擦攪拌接合を行う。本接合用回転ツールFの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域Wが形成される。
【0031】
仮接合用回転ツールGは、
図2の(a)に示すように、ショルダG1と、攪拌ピンG2とで構成されている。仮接合用回転ツールGは、例えば工具鋼で形成されている。ショルダG1は、
図2の(b)に示すように、摩擦攪拌装置の回転軸Dに連結される部位であるとともに、塑性流動化した金属を押える部位である。ショルダG1は円柱状を呈する。ショルダG1の下端面は、流動化した金属が外部へ流出するのを防ぐために凹状になっている。
【0032】
攪拌ピンG2は、ショルダG1から垂下しており、ショルダG1と同軸になっている。攪拌ピンG2はショルダG1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンG2の外周面には螺旋溝G3が刻設されている。
【0033】
図2の(b)に示すように、仮接合用回転ツールGを用いて摩擦攪拌接合をする際には、回転した攪拌ピンG2とショルダG1の下端面を被接合金属部材に挿入しつつ移動させる。仮接合用回転ツールGの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域W1が形成される。
【0034】
次に、本実施形態の伝熱板について説明する。
図3の(a)に示すように、本実施形態に係る伝熱板1は、ベース部材2と、蓋板3とで主に構成されている。ベース部材2は、平坦な板状部材である。ベース部材2には、凹溝10と、蓋溝11とが形成されている。ベース部材2の材料は摩擦攪拌可能であれば特に制限されないが、本実施形態ではアルミニウム合金である。
【0035】
凹溝10は、ベース部材2の表面2aにおいて平面視蛇行状に形成されている。
図3の(b)に示すように、凹溝10は、蓋溝11の底面11aに凹設されている。本実施形態では、凹溝10は矩形断面になっているが他の形状であってもよい。凹溝10の開口は、ベース部材2の表面2a側に開放されている。凹溝10の平面形状は用途に応じて適宜設定すればよい。
【0036】
蓋溝11は、凹溝10よりも幅広になっており、凹溝10の表面2a側において凹溝10に連続して形成されている。蓋溝11は、断面視矩形を呈し、表面2a側に開放されている。
【0037】
蓋板3は、蓋溝11に挿入される平坦な板状部材である。蓋板3は、本実施形態では、ベース部材2と同等の材料であるアルミニウム合金で形成されている。蓋板3は、蓋溝11に挿入されるように、蓋溝11の中空部と略同一形状になっている。
【0038】
図3,4に示すように、蓋溝11の側壁11b,11bと蓋板3の側面3c,3cとがそれぞれ突き合わされて突合部J1,J1が形成される。突合部J1,J1は、深さ方向の全長に亘って摩擦攪拌により接合される。伝熱板1の凹溝10と蓋板3の裏面3bとで囲まれた空間が流体の流路となる。
【0039】
次に、第一実施形態に係る伝熱板の製造方法について説明する。伝熱板の製造方法では、準備工程と、本接合工程と、バリ切除工程とを行う。
【0040】
準備工程では、挿入工程と、仮接合工程と、固定工程とを行う。
図3に示すように、挿入工程では、ベース部材2の蓋溝11に蓋板3を挿入して、蓋溝11の側壁11b,11bと、蓋板3の側面3c,3cとをそれぞれ突き合わせる。これにより、
図5に示すように、突合部J1,J1が形成される。蓋板3の表面3aとベース部材2の表面2aとは面一になる。
【0041】
仮接合工程では、ベース部材2と蓋板3とを仮接合する。
図5に示すように、仮接合工程では、仮接合用回転ツールGを用いて突合部J1,J1に対して摩擦攪拌接合を行う。仮接合用回転ツールGの移動軌跡には、塑性化領域W1が形成される。仮接合は連続的に行ってもよいし、
図5に示すように断続的に行ってもよい。仮接合用回転ツールGは小型であるため、当該仮接合におけるベース部材2及び蓋板3の熱変形量は小さくなっている。
【0042】
図6に示すように、固定工程では、仮接合されたベース部材2及び蓋板3をテーブルKに固定する。
図6の(a)に示すように、テーブルKは、上面が平坦に形成された基板K1と、基板K1の中央に配置されたスペーサK2と、基板K1の四隅にそれぞれ形成された4つのクランプK3とで構成されている。スペーサK2は、本実施形態では円柱状を呈する。スペーサK2の高さは、本接合工程の入熱量等の条件に応じて適宜設定すればよい。
【0043】
図6の(b)に示すように、固定工程では、スペーサK2の上に仮接合されたベース部材2及び蓋板3を表面2a側が凸となるように湾曲させて配置し、四隅をクランプK3で固定する。これにより、
図7の(a)にも示すように、ベース部材2及び蓋板3の表面2a,3aには引張応力が作用した状態となる。
【0044】
図7の(b)に示すように、本接合工程は、本接合用回転ツールFを用いて突合部J1,J1に対して摩擦攪拌接合を行う工程である。本接合工程では、仮接合工程で形成された塑性化領域W1及び突合部J1をなぞるようにして摩擦攪拌接合を行う。本接合工程では、本接合用回転ツールFの先端が、蓋溝11の底面11aに達するように本接合用回転ツールFを挿入することが好ましい。
【0045】
攪拌ピンF2は、蓋溝11の深さよりも長くなっているため、攪拌ピンF2の先端が蓋溝11の底面11aに達しても、連結部F1がベース部材2及び蓋板3に当接しない。つまり、本接合工程では、連結部F1の下端面がベース部材2及び蓋板3の表面2a,3aに接触しない。本接合用回転ツールFの移動軌跡には、塑性化領域Wが形成される。また、本実施形態では、突合部J1と凹溝10との距離は、本接合工程を行った際に凹溝10に塑性流動材が流入しないように設定することが好ましい。
【0046】
さらに、本接合工程の前に、テーブルKに固定されたベース部材2の高さ方向の変形量を計測しておき、本接合工程において前記変形量に合わせて攪拌ピンF2の挿入深さを調節しながら摩擦攪拌を行うことが好ましい。つまり、ベース部材2及び蓋板3の表面2a,3aの曲面に沿って本接合用回転ツールFの移動軌跡が曲線となるように移動させる。このようにすることで、塑性化領域Wの深さ及び幅を一定にすることができる。
【0047】
なお、ベース部材2及び蓋板3の変形量の計測については、公知の高さ検知装置を用いればよい。また、例えば、テーブルKからベース部材2の表面2a及び蓋板3の表面3aの少なくともいずれか一方までの高さを検知する検知装置が装備された摩擦攪拌装置を用いて、ベース部材2又は蓋板3の変形量を検知しながら本接合工程を行ってもよい。
【0048】
本接合工程が終了したら、ベース部材2及び蓋板3をクランプK3から離脱させて静置する。本接合工程によって形成された塑性化領域Wが熱収縮するため、ベース部材2及び蓋板3が、表面2a,3a側に凹状となる方向に変形する。これにより、結果的にベース部材2及び蓋板3が平坦になる。
【0049】
バリ切除工程は、本接合工程後にベース部材2及び蓋板3に発生したバリを除去する工程である。以上により、
図4に示す伝熱板1が完成する。
【0050】
以上説明した本実施形態に係る伝熱板の製造方法によれば、準備工程において予めベース部材2及び蓋板3の表面2a,3a側が凸となるように固定した状態で本接合工程を行うため、本接合工程によって発生する熱収縮によって伝熱板1を平坦にすることができる。
【0051】
また、本接合用回転ツールFのうちの攪拌ピンF2のみがベース部材2及び蓋板3に接触することになるので、ベース部材2及び蓋板3の表面2a,3aが凸状に反っていたとしても、連結部F1がベース部材2及び蓋板3に当たることがなく本接合用回転ツールFの操作性が良好となる。
【0052】
また、本接合用回転ツールFの連結部F1がベース部材2及び蓋板3の表面2a,3aと接触しないため、ベース部材2及び蓋板3に対する押圧力が小さくなるとともに、従来の製造方法に比べて、塑性化領域Wの幅が小さくなる。これにより、従来よりも本接合用回転ツールFを凹溝10に近づけることが可能となり、伝熱板の設計の自由度が向上する。また、従来の製造方法に比べて、接合するベース部材2及び蓋板3と本接合用回転ツールFとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。これにより、突合部J1の深い位置まで容易に摩擦攪拌接合することができる。また、必ずしも突合部J1の深さ方向の全体にわたって摩擦攪拌をする必要はないが、突合部J1の深さ方向全体にわたって摩擦攪拌をすることで、伝熱板1の水密性及び気密性を向上させることができる。
【0053】
また、仮接合工程を行うことで、本接合工程を行う際に、ベース部材2と蓋板3との目開きを防ぐことができる。また、バリ切除工程を行うことで、伝熱板1をきれいに仕上げることができる。
【0054】
なお、本接合工程を行う前に、タブ材を配置するタブ材配置工程を行ってもよい。具体的な図示は省略するが、タブ材配置工程では、ベース部材2の側面に一又は複数のタブ材を取り付ける。本接合工程では、当該タブ材にスタート位置及びエンド位置を設けて摩擦攪拌接合を行うことができる。本接合工程が終了したら、ベース部材2からタブ材を切除すればよい。タブ材を用いることで、伝熱板1内に抜き穴が残存するのを防ぐことができるとともに伝熱板1の側面をきれいに仕上げることができる。また、本接合工程の作業性を高めることができる。
【0055】
また、本実施形態では、ベース部材2及び蓋板3の変形量に応じてテーブルKに対する本接合用回転ツールFの高さ位置を変更するようにしたが、テーブルKに対する本接合用回転ツールFの高さ位置を一定にして本接合工程を行ってもよい。
【0056】
また、テーブルKの基板K1とスペーサK2とは一体でもよい。また、スペーサK2に替えて、基板K1の表面を上方に凸となる曲面で形成してもよい。つまり、テーブルKは、ベース部材2及び蓋板3を上方に凸となるように保持できる構成であればよい。
【0057】
また、仮接合工程では、本実施形態では仮接合用回転ツールGを用いたが、本接合用回転ツールFを用いて仮接合を行ってもよい。この場合は、本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2の先端のみを突合部J1に挿入して摩擦攪拌を行う。本接合用回転ツールFを用いて仮接合を行うと、回転ツールを交換する必要がないため製造サイクルを短縮することができる。
【0058】
また、
図6の(b)に示すように、本実施形態の固定工程では、ベース部材2及び蓋板3の表面2a,3aが略球面となるように湾曲させた。つまり、固定工程において、ベース部材2の対向する一方の辺2c,2c及び対向する他方の辺2d,2dの両方が上方に凸となるように湾曲させたが、これに限定されるものではない。例えば、ベース部材2の対向する一方の辺2c,2cは直線のままで、他方の辺2d,2dが上方に凸となるように湾曲させてもよい。もしくは、他方の辺2d,2dは直線のままで、一方の辺2c,2cが上方に凸となるように湾曲させてもよい。
【0059】
また、本接合工程後に、摩擦攪拌によって形成される溝が大きくなった場合には、当該溝に肉盛溶接を行って補修してもよい。若しくは、当該溝に蓋部材を配置して、当該蓋部材とベース部材2とを摩擦攪拌等によって接合して補修してもよい。
【0060】
〔変形例〕
次に、第一実施形態に係る伝熱板の製造方法の変形例について説明する。
図8に示すように、当該変形例では、ベース部材2A及び蓋板3Aの形状が第一実施形態と相違する。第一実施形態に係るベース部材2及び蓋板3は挿入工程の前においていずれも平坦な部材であったが、変形例では挿入工程の前においてベース部材2A及び蓋板3Aが表面2a,3a側に凸となるように変形している。
【0061】
当該変形例では、ダイキャストによって予め表面2a,3a側に凸となるベース部材2A及び蓋板3Aを成形する。ベース部材2A及び蓋板3Aの曲率は、本接合工程の入熱量等の条件に応じて適宜設定すればよい。特許請求の範囲の「前記ベース部材及び前記蓋板の表面側が凸となるように」とは、前記した実施形態のようにベース部材2及び蓋板3が凸となって表面2a,3aに引張応力が作用している状態に加えて、当該変形例のようにベース部材2及び蓋板3が凸となっているが、表面2a,3aに引張応力が作用していない状態も含み得る。
【0062】
変形例に係る伝熱板の製造方法では、準備工程と、本接合工程と、バリ切除工程とを行う。これらの工程は、第一実施形態と略同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0063】
当該変形例によっても、第一実施形態と略同等の効果を得ることができる。また、ベース部材2A及び蓋板3Aが予め凸状に変形されているため、ベース部材2Aをクランプする固定工程を容易に行うことができる。なお、変形例では、ダイキャストによってベース部材2A及び蓋板3Aを用意したが、平坦な部材をそれぞれ成形した後、所望の曲率となるように変形させてもよい。
【0064】
〔第二実施形態〕
次に、本発明の第二実施形態に係る伝熱板及び伝熱板の製造方法について説明する。
図9に示すように、第二実施形態に係る伝熱板1Bは、熱媒体用管4を用いる点で第一実施形態と相違する。伝熱板1Bは、ベース部材2と、蓋板3と、熱媒体用管4とで構成されている。
【0065】
ベース部材2は、凹溝10と、蓋溝11とを備えている。凹溝10の底面は、熱媒体用管4が面接触するように曲面になっている。また、凹溝10の幅及び高さは、熱媒体用管4の外径と略同等になっている。熱媒体用管4は、凹溝10に挿入される中空管である。熱媒体用管4は、内部に熱媒体が流通する部材である。
【0066】
第二実施形態に係る伝熱板の製造方法では、準備工程において、凹溝10に熱媒体用管4を挿入することを除いては、第一実施形態と略同等であるため詳細な説明は省略する。第二実施形態に係る伝熱板の製造方法によれば、熱媒体用管4を備えた伝熱板を製造することができるとともに、第一実施形態と略同等の効果を得ることができる。
【0067】
なお、第二実施形態においても、前記した変形例のように、挿入工程の前にベース部材2、蓋板3及び熱媒体用管4を予め凸状に変形させておいてもよい。
【0068】
また、
図10に示すように、第二実施形態に係る伝熱板の製造方法の本接合工程においては、熱媒体用管4の周囲の空隙部Qに塑性流動材が流入するようにしてもよい。蓋板3、熱媒体用管4及び凹溝10とで囲まれた空隙部Qに塑性流動材を流入させることで、伝熱板の水密性及び気密性を向上させることができる。
【0069】
〔第三実施形態〕
次に、本発明の第三実施形態に係る伝熱板の製造方法について説明する。
図11に示すように、第三実施形態に係る伝熱板の製造方法では、ベース部材22と蓋板23とを用いて伝熱板を製造する。
【0070】
ベース部材22は、平坦な板状部材である。ベース部材22の表面22aには、凹溝30が形成されている。凹溝30は、上方に開放しており、平面視蛇行状を呈する。凹溝30の平面形状は用途に応じて適宜設定すればよい。
【0071】
蓋板23は、平坦な板状部材である。蓋板23は、本実施形態ではベース部材22と略同等の形状になっているが、少なくとも凹溝30の全体を塞ぐ部材であればよい。
【0072】
第三実施形態に係る伝熱板の製造方法では、準備工程と、本接合工程と、バリ切除工程とを行う。準備工程では、凹溝閉塞工程と、ベース部材22と蓋板23とを仮接合する仮接合工程と、ベース部材22及び蓋板23の表面22a,23a側が凸となるようにテーブルKに固定する固定工程とを行う。
【0073】
図11及び
図12(a)に示すように、凹溝閉塞工程は、ベース部材22の表面22aに蓋板23を載置して凹溝30の上方を覆う工程である。凹溝閉塞工程では、ベース部材22の表面22aと蓋板23の裏面23bとが重ね合わされて重合部J2が形成される。
【0074】
図12の(a)に示すように、仮接合工程では、ベース部材22と蓋板23とを溶接によって仮接合する。仮接合は、ベース部材22と蓋板23との重合部J2に沿って断続的又は連続的に行う。溶接に代えて、仮接合用回転ツールGを用いて重合部J2に仮接合を行ってもよい。
【0075】
図12の(b)に示すように、固定工程では、仮接合されたベース部材22及び蓋板23を表面22a,23a側が凸となるように配置して、四隅をクランプK3で固定する。これにより、ベース部材22及び蓋板23の表面22a,23aには引張応力が作用した状態となる。
【0076】
図13に示すように、本接合工程は、本接合用回転ツールFを蓋板23の表面23aから挿入し、蓋板23上で移動させて重合部J2に対して摩擦攪拌接合を行う工程である。本接合工程では、本接合用回転ツールFの先端が、ベース部材22に達するように本接合用回転ツールFを挿入することが好ましい。本接合用回転ツールFの移動軌跡には、塑性化領域Wが形成される。重合部J2と凹溝30との距離は、本接合工程を行った際に、凹溝30に塑性流動材が流入しないように設定することが好ましい。
【0077】
さらに、本接合工程の前に、テーブルKに固定されたベース部材22及び蓋板23の高さ方向の変形量を計測しておき、本接合工程において、当該変形量に合わせて攪拌ピンF2の挿入深さを調節しながら摩擦攪拌を行うことが好ましい。つまり、蓋板23の表面23aの曲面に沿って本接合用回転ツールFの移動軌跡が曲線となるように移動させる。このようにすることで、塑性化領域Wの深さ及び幅を一定にすることができる。
【0078】
なお、ベース部材22及び蓋板23の変形量の計測については、例えば、テーブルKから蓋板23の表面23aまでの高さを検知する検知装置が装備された摩擦攪拌装置を用いて、ベース部材22及び蓋板23の変形量を検知しながら本接合工程を行ってもよい。本実施形態においては、ベース部材22及び蓋板23の少なくともいずれか一方の変形量を計測するだけでもよい。なお、本実施形態の場合、ベース部材22の変形量は、伝熱板21の裏面側から計測しておき、伝熱板21の表面側における変形量に換算してもよい。
【0079】
本接合工程が終了したら、ベース部材22及び蓋板23をクランプK3から離脱させて静置する。これにより、本接合工程によって形成された塑性化領域Wが熱収縮するため、ベース部材22及び蓋板23が、表面22a,23a側に凹状となる方向に変形する。これにより、結果的にベース部材22及び蓋板23が平坦になる。
【0080】
バリ切除工程では、本接合工程後にベース部材22及び蓋板23に発生したバリを除去する工程である。以上により、伝熱板21が完成する。
【0081】
以上説明した本実施形態に係る伝熱板の製造方法によれば、準備工程において予めベース部材22及び蓋板23の表面22a,23a側が凸となるように固定した状態で本接合工程を行うため、本接合工程によって発生する熱収縮によって伝熱板21を平坦にすることができる。
【0082】
また、本接合用回転ツールFのうちの攪拌ピンF2のみが蓋板23の表面23aに接触することになるので、蓋板23の表面23aが凸状に反っていたとしても、連結部F1が蓋板23の表面23aに接触することがないため本接合用回転ツールFの操作性が良好となる。
【0083】
また、本接合用回転ツールFの連結部F1が蓋板23の表面23aと接触しないため、蓋板23に対する押圧力が小さくなるとともに、従来の製造方法に比べて塑性化領域Wの幅が小さくなる。これにより、従来の製造方法よりも本接合用回転ツールFを凹溝30に近づけることが可能となり、伝熱板の設計の自由度が向上する。また、従来の製造方法に比べて、蓋板23と本接合用回転ツールFとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。これにより、深い位置に重合部J2が存在する場合でも、容易に摩擦攪拌接合することができる。
【0084】
また、仮接合工程を行うことで、本接合工程を行う際に、ベース部材22と蓋板23との目開きを防ぐことができる。また、バリ切除工程を行うことで、伝熱板21をきれいに仕上げることができる。
【0085】
〔変形例〕
次に、第三実施形態に係る伝熱板の製造方法の変形例について説明する。
図14に示すように、当該変形例では、ベース部材22Aの形状が第三実施形態と相違する。当該変形例のベース部材22Aの表面22Aaには凹部31が形成されている。凹部31は、上方に開放し、直方体を呈する中空部となっている。
【0086】
変形例に係る伝熱板の製造方法では、準備工程と、本接合工程と、バリ切除工程とを行う。準備工程及びバリ切除工程は、第三実施形態と略同等であるため詳細な説明は省略する。
図14の(b)に示すように、本接合工程では、蓋板23の表面23aから本接合用回転ツールFを挿入して、凹部31の周りに沿って一周させつつ、重合部J2に対して摩擦攪拌接合を行う。これにより、伝熱板21Aを製造することができる。変形例によれば、第三実施形態と略同等の効果を得ることができる。
【0087】
なお、本実施形態では、攪拌ピンF2の先端が、ベース部材22,22Aに達する位置まで押し込むように設定したが、ベース部材22,22Aに達しないように設定する、つまり、攪拌ピンF2と蓋板23のみとが接触する位置まで押し込み、重合部J2を摩擦攪拌するように設定してもよい。このような場合は、攪拌ピンF2と蓋板23との接触によって生じた摩擦熱で、ベース部材22,22a及び蓋板23が塑性流動化されることにより、重合部J2が接合される。
【0088】
また、本実施形態では、蓋板23の表面23aから本接合用回転ツールFを挿入したが、ベース部材22,22Aの裏面22b,22Abから本接合用回転ツールFを挿入して、重合部J2を摩擦攪拌するようにしてもよい。この場合であっても、攪拌ピンF2は、ベース部材22,22A及び蓋板23の両方と接触する位置まで押し込んでもよいし、ベース部材22,22Aのみと接触する位置まで押し込んで、摩擦攪拌するように設定してもよい。
【0089】
また、第三実施形態及びその変形例では、凹溝30又は凹部31がある形態を例示したが、凹溝30又は凹部31が無いベース部材22Aを用いてもよい。つまり、直方体を呈するベース部材22A及び直方体を呈する蓋板23を接合して伝熱板を製造してもよい。