特許第6015668号(P6015668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6015668長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォーム及びそれを用いる繊維強化樹脂成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015668
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォーム及びそれを用いる繊維強化樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/08 20060101AFI20161013BHJP
   B29B 9/14 20060101ALI20161013BHJP
   B29B 11/02 20060101ALI20161013BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20161013BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20161013BHJP
   C03C 13/00 20060101ALI20161013BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
   C08J5/08CER
   C08J5/08CEZ
   B29B9/14
   B29B11/02
   C08L101/00
   C08K7/14
   C03C13/00
   B29K105:12
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-548247(P2013-548247)
(86)(22)【出願日】2012年12月4日
(86)【国際出願番号】JP2012081390
(87)【国際公開番号】WO2013084892
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2015年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2011-267372(P2011-267372)
(32)【優先日】2011年12月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 貴史
(72)【発明者】
【氏名】藍原 宏保
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−514773(JP,A)
【文献】 特表2009−514772(JP,A)
【文献】 特開2009−242621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04− 5/10、5/24
B29B 7/00−11/16、13/00−15/14
C03C 13/00
C08K 7/14
C08L 101/00
B29K 105/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維束を含み、熱可塑性樹脂が該ガラス繊維束に含浸されると共に該ガラス繊維束の周囲に保持されている、3.0〜50mmの長さの長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームにおいて、
該ガラス繊維束を形成するガラス繊維は、全量に対しSiOの含有量が57.0〜60.2質量%、Alの含有量が19.0〜23.0質量%、MgOの含有量が10.0〜15.0質量%、CaOの含有量が5.5〜11.0質量%、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが0.8〜2.0の範囲にある組成を備えることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォーム。
【請求項2】
請求項1記載の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームにおいて、前記ガラス繊維と同等の組成を有する溶融ガラスは、温度を低下させたときに最初に析出する結晶がコーディエライトの単独結晶又はコーディエライトとアノーサイトとの混合結晶であることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォーム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームにおいて、前記ガラス繊維と同等の組成を有する溶融ガラスは、その粘度が1000ポイズとなる温度である1000ポイズ温度が1350℃以下であり、該1000ポイズ温度と、該溶融ガラスの温度を低下させたときに最初に結晶が析出する温度である液相温度との差が50℃以上であることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォーム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームにおいて、前記ガラス繊維は、その強度が4.0GPa以上であり、その弾性率が85GPa以上であることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォーム。
【請求項5】
全量に対しSiOの含有量が57.0〜60.2質量%、Alの含有量が19.0〜23.0質量%、MgOの含有量が10.0〜15.0質量%、CaOの含有量が5.5〜11.0質量%、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが0.8〜2.0の範囲にある組成を備えるガラス繊維を集束してなガラス繊維束と、該ガラス繊維束に含浸されると共にその周囲に保持される熱可塑性樹脂とを備える、3.0〜50mmの長さの長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームから、射出成形法またはスタンピング成形法により成形することを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォーム及びそれを用いる繊維強化樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化樹脂成形体は、軽量で強度に優れているので、車両や船舶の外装等に好んで用いられている。また、近年では、繊維長の長い強化繊維を含有させることにより、強度及び弾性率に優れる長繊維強化樹脂成形体が知られており、自動車のバンパーやボディに多用されている。前記長繊維強化樹脂成形体は、一般に長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームを用いて射出成形法又はスタンピング成形法により成形されている。
【0003】
ここで、前記長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームは、ペレット状又はシート状であり、例えば、所定の長さに切断されたガラス繊維束を長繊維として含み、熱可塑性樹脂が該ガラス繊維束に含浸されると共に該ガラス繊維束の周囲に保持されている。このような前記長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームは、次のようにして製造することができる。
【0004】
まず、ガラス繊維の原料となるガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスから紡糸された連続したガラス繊維を集束してガラス繊維束とする。そして、前記ガラス繊維束を溶融した熱可塑性樹脂中を通過させることにより、該熱可塑性樹脂を該ガラス繊維束に含浸させると共にその周囲に保持させる。その後、前記熱可塑性樹脂が含浸されると共にその周囲に保持されたガラス繊維束を冷却して、所定の長さに切断することにより、ペレット状の前記長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームを得ることができる。また、前記ペレット状の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームを薄く均一に分散させ、熱融着させることによりシート状の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームを得ることができる。
【0005】
前記ガラス繊維としては、通常、Eガラスからなるものが用いられているが、該Eガラスからなるガラス繊維では、十分な強度及び弾性率が得られないことがある。そこで、前記Eガラスに代えて、Eガラスより優れた強度を備えるとされているSガラスからなるガラス繊維が知られている。
【0006】
前記Sガラスからなるガラス繊維は、全量に対しSiOの含有量が64.0〜66.0質量%、Alの含有量が24.0〜26.0質量%、MgOの含有量が9.0〜11.0%である組成を備えている。しかし、前記Sガラスは、その原料となるガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスから紡糸してガラス繊維を得るときに、該溶融ガラスの1000ポイズ温度が極めて高いこと、加えて1000ポイズ温度と液相温度との差が小さいという問題がある。
【0007】
溶融ガラスの1000ポイズ温度が高いと、ガラスを溶融する過程および繊維化する過程で高温を必要とするため、熱負荷による製造設備への負担が大きい。また、1000ポイズ温度と液相温度との差が小さいと、該溶融ガラスが紡糸後に冷却されてガラス繊維となる過程で、僅かな温度低下の影響下においても結晶化(失透)しやすく、ガラス繊維が切断する等の問題が発生しやすくなる。この結果、前記Sガラスは、その原料となるガラス組成物を溶融して溶融ガラスとしたときに、該溶融ガラスからガラス繊維を安定に紡糸することが難しく、従って前記長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームとすることも難しい。
【0008】
尚、前記「1000ポイズ温度」とは、溶融ガラスを繊維化する際の目安の指標であり、溶融ガラスの粘度が1000ポイズとなる温度である。「液相温度」とは、該溶融ガラスの温度を低下させたときに最初に結晶が析出する温度である。1000ポイズ温度と液相温度との間の温度範囲(作業温度範囲)は紡糸のしやすさの目安であり、範囲が広いほど安定した紡糸がしやすい。また、「失透」とは、前記溶融ガラスの温度を低下させたときに結晶が析出する現象である。
【0009】
そこで、前記Sガラスの原料となるガラス組成物の組成を改良し、SiO、Al、MgOと共にCaOを含むようにしたガラス組成物が提案されている。前記ガラス組成物として、例えば、1000ポイズ温度を下げて粘性を低下させることにより、比較的低い温度で作業温度範囲を保ちながら容易に紡糸できるようにしたガラス組成物が知られている(特許文献1参照)。また、前記ガラス組成物として、1000ポイズ温度と液相温度との差の大きなガラス組成物が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭62−001337号公報
【特許文献2】特表2009−514773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、SiO、Al、MgOと共にCaOを含む特許文献1記載のガラス組成物は、溶融して溶融ガラスとしたときに失透しやすい傾向があり、安定に紡糸することが難しい。また、特許文献2記載のガラス組成物は、溶融して溶融ガラスとしたときに該溶融ガラスの1000ポイズ温度が高いために、ガラス繊維を得ること自体が難しい。従って、強度及び弾性率に優れたガラス繊維を含む長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームを製造することが難しいという不都合がある。
【0012】
本発明は、かかる不都合を解消して、強度及び弾性率に優れたガラス繊維を含み製造容易な長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームを提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明の目的は、前記長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームを用い、強度及び弾性率に優れた長繊維強化樹脂成形体の製造方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するために、本発明は、ガラス繊維束を含み、熱可塑性樹脂が該ガラス繊維束に含浸されると共に該ガラス繊維束の周囲に保持されている、3.0〜50mmの長さの長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームにおいて、該ガラス繊維束を形成するガラス繊維は、全量に対しSiOの含有量が57.0〜60.2質量%、Alの含有量が19.0〜23.0質量%、MgOの含有量が10.0〜15.0質量%、CaOの含有量が5.5〜11.0質量%、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが0.8〜2.0の範囲にある組成を備えることを特徴とする。前記長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームは、ペレット状であってもよくシート状であってもよい。
【0016】
前記ガラス繊維は、全量に対しSiOの含有量が57.0質量%未満ではガラス繊維として十分な機械的強度を得ることができず、60.2質量%を超えると、該ガラス繊維と同等の組成を有する溶融ガラスの1000ポイズ温度及び液相温度が高くなる。
【0017】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しAlの含有量が19.0質量%未満では十分な弾性率を得ることができず、23.0質量%を超えると、前記溶融ガラスの液相温度が高くなる。
【0018】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しMgOの含有量が10.0質量%未満では十分な弾性率を得ることができず、15.0質量%を超えると、前記溶融ガラスの液相温度が高くなる。
【0019】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しCaOの含有量が5.5質量%未満では前記ガラス組成物の液相温度が高くなり、11.0質量%を超えると、前記溶融ガラスの1000ポイズ温度及び液相温度が高くなる。
【0020】
さらに、前記ガラス繊維は、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが0.8未満では十分な弾性率を得ることができず、2.0を超えると、前記溶融ガラスの液相温度が高くなる。
【0021】
また、前記溶融ガラスを紡糸する際に、失透しやすいとガラス繊維の切断等の問題が発生する。しかし、本発明において、前記ガラス繊維は前記組成を備えているので、前記溶融ガラスは、温度を低下させたときに最初に析出する結晶(失透初相)がコーディエライトの単独結晶又はコーディエライトとアノーサイトとの混合結晶となる。この結果、前記溶融ガラスは、失透初相が前記以外の他の結晶である場合に比較して、液相温度において結晶が析出し難くなる。従って、前記溶融ガラスを紡糸するときに、ガラス繊維が切断する等の支障の発生を抑制することができ、安定した紡糸を行うことができる。
【0022】
また、本発明において、前記溶融ガラスは、1000ポイズ温度が1350℃以下であり、該1000ポイズ温度と液相温度との差が50℃以上であることが好ましい。前記溶融ガラスは、1000ポイズ温度が1350℃以下であることにより、容易に得ることができる。また、前記溶融ガラスは、1000ポイズ温度と液相温度との差が50℃以上であることにより、作業温度範囲が広くなり、安定した紡糸を行うことができる。
【0023】
また、本発明において、前記ガラス繊維は、その強度が4.0GPa以上であり、その弾性率が85GPa以上であることが好ましい。前記長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームは、前記範囲の強度及び弾性率を備えるガラス繊維を含むことにより、射出成形法またはスタンピング成形法により成形されたときに、強度及び弾性率に優れた長繊維強化樹脂成形体を得ることができる。
【0024】
そこで、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、前記本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームから射出成形法またはスタンピング成形法により成形することを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0026】
本実施形態の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームは、3.0〜50mmの長さのガラス繊維束を含み、熱可塑性樹脂が該ガラス繊維束に含浸されると共に該ガラス繊維束の周囲に保持されている。前記長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームは、ペレット状であってもよくシート状であってもよい。
【0027】
前記ガラス繊維束は、その原料となるガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスから紡糸された連続したガラス繊維を集束することにより得られる。前記ガラス繊維は、原料であるガラス組成物及び該ガラス組成物を溶融して得られる溶融ガラスと同等の組成を有する。前記ガラス組成物としては、ガラスカレット又はガラスバッチを用いることができる。また、前記溶融ガラスは、前記ガラスカレットを再溶融するか、前記ガラスバッチを直接溶融する方法により得ることができる。
【0028】
前記ガラス繊維は、前記溶融ガラスからそれ自体公知の方法により製造することができる。前記公知の方法によれば、前記溶融ガラスを数十〜数千個のブッシングと称される白金合金ノズルから引き出して紡糸し、高速で巻き取ることにより、繊維径が3〜30μmの範囲のガラス繊維を得ることができる。
【0029】
前記白金合金ノズルから引き出された前記ガラス繊維は、集束剤が付与されることにより、50〜8000本が収束されたガラス繊維束(ガラス繊維ストランド)とされる。前記ガラス繊維束は、紙又はプラスチック製の芯材の周囲に巻き付けた単糸又は、該単糸を複数本束ねた合糸として使用することができる。
【0030】
前記ガラス繊維束は、例えば、引き抜き成形法により熱可塑性樹脂を含浸させると共にその周囲に保持させることができる。前記引き抜き成形法では、1つの方法として、前記ガラス繊維束をクロスヘッドダイ(含浸ダイ)に導入し、開繊バーを設けた容器内で溶融した熱可塑性樹脂中に該ガラス繊維束を通過させる。また、別の方法として、前記ガラス繊維束と熱可塑性樹脂繊維束とを合糸した後、熱可塑性樹脂の溶融温度まで加熱した開繊バーを設けた容器内に、該ガラス繊維束と該熱可塑性樹脂繊維束とを通過させるようにしてもよい。
【0031】
この結果、前記ガラス繊維束を形成するガラス繊維間に前記熱可塑性樹脂が含浸されると共に該ガラス繊維束の周囲に該熱可塑性樹脂が保持される。そして、前記熱可塑性樹脂が含浸されると共にその周囲に保持された前記ガラス繊維束を冷却した後、所定の長さ、例えば3.0〜50mmの範囲の長さに切断することにより、ペレット状の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームを得ることができる。
【0032】
また、前記ペレット状の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームを薄く均一に分散させ、熱融着させることによりシート状の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームを得ることができる。
【0033】
本実施形態の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームは、例えば、全量に対し前記ガラス繊維を10〜90質量%の範囲で含むことが好ましい。
【0034】
前記ガラス繊維束を形成する前記ガラス繊維は、全量に対しSiOの含有量が57.0〜63.0質量%、Alの含有量が19.0〜23.0質量%、MgOの含有量が10.0〜15.0質量%、CaOの含有量が5.5〜11.0質量%、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが0.8〜2.0の範囲にある組成を備えている。
【0035】
この結果、前記溶融ガラスは、紡糸する際に作業温度範囲を広くすることができると共に、紡糸されたガラス繊維における切断等の発生を抑制することができ、安定した紡糸を行うことができる。
【0036】
前記溶融ガラスは、具体的には1000ポイズ温度が1350℃以下であり、該1000ポイズ温度と液相温度との差が50℃以上である。
【0037】
また、前記組成を備える前記ガラス繊維は、その強度が4.0GPa以上であり、その弾性率が85GPa以上である。
【0038】
前述のように、本実施形態の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームは、前記ガラス繊維から形成される前記ガラス繊維束を用い、例えば、引き抜き成形法により製造されるが、該引き抜き成形法では、前記ガラス繊維束をクロスヘッドダイから引き抜く際に、前記熱可塑性樹脂の粘度が高く、さらに前記開繊バーでしごきが付与される。このため、前記ガラス繊維束に大きな負荷がかかり、前記ガラス繊維のフィラメントが切断して毛羽立つ場合があり、製品の品質低下や、製造条件の再調整のために生産効率の低下が問題となることがある。
【0039】
しかし、前記組成を備える前記ガラス繊維は、4.0GPa以上の強度と、85GPa以上の弾性率とを備えており、耐屈曲性に優れているため、該ガラス繊維のフィラメントの切断、毛羽立ちを抑制することができ、品質及び生産効率を改善することができる。
【0040】
本実施形態の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームにおいて、前記ガラス繊維は、全量に対しSiOの含有量が57.0質量%未満ではガラス繊維として十分な機械的強度を得ることができず、60.2質量%を超えると、前記溶融ガラスの1000ポイズ温度及び液相温度が高くなる
【0041】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しAlの含有量が19.0質量%未満では十分な弾性率を得ることができず、23.0質量%を超えると、前記溶融ガラスの液相温度が高くなる。前記Alの含有量は、前記ガラス繊維において優れた弾性率を得ると共に、前記溶融ガラスの液相温度を低くして作業温度範囲を広くするために、該ガラス繊維の全量に対し、19.5〜22.0質量%の範囲にあることが好ましく、20.0〜21.0質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0042】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しAlの含有量が19.0〜23.0質量%の範囲にあり、19.0質量%〜22.0質量%近傍であることにより、前記溶融ガラスにおける前記失透初相をコーディエライトの単独結晶又はコーディエライトとアノーサイトとの混合結晶とすることができる。前記Alの含有量が前記ガラス繊維の全量に対し、19.0質量%未満では、前記溶融ガラスにおける前記失透初相をコーディエライトの単独結晶又はコーディエライトとアノーサイトとの混合結晶とすることができないことがある。そこで、前記ガラス繊維は、前記溶融ガラスにおける前記失透初相をコーディエライトの単独結晶又はコーディエライトとアノーサイトとの混合結晶とするために、前記Alの含有量が前記ガラス繊維の全量に対し、19.0質量%〜22.0質量%近傍の範囲にあることが好ましい。
【0043】
また、SiOの含有量/Alの含有量が重量比で2.6〜3.3であることが好ましい。このような範囲にすれば、ガラス繊維はその製造時における作業温度範囲が広いものとなり、また十分な弾性率を有するようになるからである。さらに、SiOの含有量/Alの含有量が重量比で2.7〜3.2であることがより好ましい。SiOの含有量/Alの重量比が、3.2以下であると高い弾性率を有するガラス繊維が得られるからである。また、当該重量比が2.7以上であると、液相温度を低くするとともに、失透現象を抑制することが可能となる。
【0044】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しMgOの含有量が10.0質量%未満では十分な弾性率を得ることができず、15.0質量%を超えると、前記溶融ガラスの液相温度が高くなる。前記MgOの含有量は、前記ガラス繊維において優れた弾性率を得ると共に、前記溶融ガラスの液相温度を低くして作業温度範囲を広くするために、該ガラス繊維の全量に対し、11.0〜14.0質量%の範囲にあることが好ましく、11.5〜13.0質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0045】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しCaOの含有量が5.5質量%未満では前記溶融ガラスの液相温度が高くなり、11.0質量%を超えると該溶融ガラスの1000ポイズ温度及び液相温度が高くなる。前記CaOの含有量は、前記溶融ガラスの1000ポイズ温度及び液相温度を低くして作業温度範囲を広くするために、該ガラス繊維の全量に対し、6.0〜10.5質量%の範囲にあることが好ましく、7.0〜10.0質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0046】
また、前記ガラス繊維は、SiOとAlとMgOとCaOとの合計含有量が99.0質量%未満では他の不純物成分の含有量が相対的に多くなるために、該ガラス繊維において十分な弾性率を得ることができず、前記溶融ガラスにおいて十分な作業温度範囲を確保することもできない。SiOとAlとMgOとCaOとの合計含有量は、前記ガラス繊維において優れた弾性率を得ると共に、前記溶融ガラスにおいて十分な作業温度範囲を確保するために、該ガラス繊維の全量に対し、99.5質量%以上の範囲にあることが好ましく、99.8質量%以上の範囲にあることがより好ましい。
【0047】
さらに、前記ガラス繊維は、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが0.8未満では十分な弾性率を得ることができず、2.0を超えると前記溶融ガラスの液相温度が高くなる。前記CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOは、前記ガラス繊維において優れた弾性率を得ると共に、前記溶融ガラスの液相温度を低くして作業温度範囲を広くするために、1.0〜1.8の範囲にあることが好ましい。
【0048】
前記ガラス繊維は、基本的組成としてSiOとAlとMgOとCaOとを前述の範囲の含有量で含むが、各成分の原料中に含まれる等の原因により不可避的に混入する他の成分を含んでいてもよい。前記他の成分としては、NaO等のアルカリ金属酸化物、Fe、TiO、ZrO、MoO、Cr等を挙げることができる。前記他の成分の含有量は、前記ガラス繊維の全量に対し、1.0質量%未満であることが好ましく、0.5質量%未満であることがより好ましく、0.2質量%未満であることがさらに好ましい。
【0049】
本実施形態の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームにおいて、前記熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリサルフォン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂等を挙げることができる。前記熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0050】
次に、本実施形態の長繊維強化熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、前記長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームを用い、射出成形法又はスタンピング成形法により所定の形状に成形する。本実施形態の製造方法により得られる長繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、前記長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームを用いることにより、優れた強度及び弾性率を得ることができる。また、本実施形態の製造方法により得られる長繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、前記長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォームを用いることにより、残存繊維長が長くなるのでさらに優れた強度を得ることができる。
【0051】
本実施形態の製造方法により得られる長繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、自動車構造部材、家電用品ハウジング材、鉄道部材、船舶部材、住宅機器、土木・建築部材、安全保護具、スポーツ用品、一般工業用品等の用途に用いることができる。
【0052】
前記自動車構造部材としては、アンダーボディカバー、シート、フロントエンドモジュール、ドアモジュール、バンパービーム、ハッチバックドア、インストルメントパネル構造材、スペアーホイールパン、ニープロテクター、エンジン周り部品、衝撃吸収ドア、クラッシュエレメント、電気自動車、圧縮天然ガス(CNG)ボンベ、バンパー等を挙げることができる。
【0053】
前記家電用品ハウジング材としては、携帯電話筐体、パーソナルコンピューター筐体、デジタルカメラ筐体、デジタルビデオ筐体、ゲーム機筐体等を挙げることができる。
【0054】
前記鉄道部材としては、天井材、座席、踏切遮断棒等を挙げることができる。
【0055】
前記船舶部材としては、プレジャーボート、水上バイク、液化天然ガス(LNG)タンク等を挙げることができる。
【0056】
前記住宅機器としては、バスタブ補強材、バスユニット天井材、オフィス家具等を挙げることができる。
【0057】
前記土木・建築部材としては、住宅基礎用型枠、ブロック用型枠、建造物補強材、足場材等を挙げることができる。
【0058】
前記安全保護具としては、安全靴、ヘルメット、プロテクター等を挙げることができる。
【0059】
前記スポーツ用品としては、ラケット、バット、シューズ等を挙げることができる。
【0060】
前記一般工業用品としては、パイプ、バネ要素、大型機械の天井材等を挙げることができる。
【0061】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0062】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、全量に対しSiOの含有量が60.2質量%、Alの含有量が20.1質量%、MgOの含有量が10.1質量%、CaOの含有量が9.5質量%、Feの含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.1である。前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0063】
次に、前記ガラス組成物を白金ルツボ中で溶融し、溶融ガラスの温度を変化させながら、回転式B型粘度計を用いて連続的に粘度を測定し、粘度が1000ポイズのときに対応する温度を1000ポイズ温度とした。尚、粘度は、JIS Z8803−1991に準じて測定した。
【0064】
次に、前記組成を備えるガラス粉砕物を白金ボート中に収容し、1000〜1500℃の温度勾配を設けた管状電気炉で加熱し、結晶の析出が始まった温度を液相温度とした。
【0065】
次に、1000ポイズ温度と液相温度との差(1000ポイズ温度−液相温度)として作業温度範囲を算出した。前記1000ポイズ温度、液相温度、作業温度範囲を表2に示す。
【0066】
次に、前記ガラス組成物を前記1000ポイズ温度以上の温度に加熱して溶融した後、前記液相温度より100〜300℃低い温度で6時間放置した。そして、前記ガラス組成物の表面及び内部に発現した結晶の様子を観察し、耐失透性をA,B,Cの3段階で評価した。Aは結晶が析出していないことを示し、Bは表面の一部に結晶が析出していることを示し、Cは、表面及び内部に結晶が析出していることを示す。
【0067】
次に、前記液相温度の測定に用いた試料において析出した結晶初相部を粉砕し、X線回折装置で分析し、失透初相の結晶種を同定した。耐失透性の評価及び失透初相の結晶種を表2に示す。
【0068】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、繊維径13μmのガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有している。
【0069】
次に、前記ガラス繊維のモノフィラメントを試料として引張試験を行い、該ガラス繊維の強度及び弾性率を算出した。前記ガラス繊維の強度及び弾性率を表2に示す。
【0070】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して13μmのガラス繊維を集束し、得られたガラス繊維束を用いて引き抜き成形法によりペレット状の長繊維強化熱可塑性樹脂プリフォーム(以下、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットと略記する)を製造した。熱可塑性樹脂としては、ポリアミド66樹脂を用いた。本実施例で得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットは、全量に対し40質量%の前記ガラス繊維を含み、10mmの長さを備えていた。また、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する際に、フィラメントの切断による毛羽立ちを目視で評価した。結果を表3に示す。
【0071】
次に、本実施例で得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを用い、射出成形法により80mm×10mm×4mmの寸法の板状の長繊維強化熱可塑性樹脂成形体を製造した。前記長繊維強化熱可塑性樹脂成形体を試料として3点曲げ試験を行うことにより、該長繊維強化熱可塑性樹脂成形体の強度及び弾性率を算出した。結果を表3に示す。
【0072】
〔実施例2〕
本実施例では、まず、全量に対しSiOの含有量が59.2質量%、Alの含有量が20.1質量%、MgOの含有量が12.6質量%、CaOの含有量が8.0質量%、Feの含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.6である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0073】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、1000ポイズ温度、液相温度を求め、作業温度範囲を算出した。また、実施例1と全く同一にして、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0074】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、ガラス繊維を得た。次に、本実施例で得られた前記ガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度及び弾性率を算出した。結果を表2に示す。
【0075】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造した。本実施例で得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットは、全量に対し40質量%の前記ガラス繊維を含み、10mmの長さを備えていた。また、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する際に、フィラメントの切断による毛羽立ちを目視で評価した。結果を表3に示す。
【0076】
次に、本実施例で得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを用い、射出成形法により実施例1と同一寸法の板状の長繊維強化熱可塑性樹脂成形体を製造した。前記長繊維強化熱可塑性樹脂成形体を試料として3点曲げ試験を行うことにより、該長繊維強化熱可塑性樹脂成形体の強度及び弾性率を算出した。結果を表3に示す。
【0077】
〔実施例3〕
本実施例では、まず、全量に対しSiOの含有量が58.2質量%、Alの含有量が20.7質量%、MgOの含有量が12.0質量%、CaOの含有量が9.0質量%、Feの含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.3である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0078】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、1000ポイズ温度、液相温度を求め、作業温度範囲を算出した。また、実施例1と全く同一にして、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0079】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、ガラス繊維を得た。次に、本実施例で得られた前記ガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度及び弾性率を算出した。結果を表2に示す。
【0080】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造した。本実施例で得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットは、全量に対し40質量%の前記ガラス繊維を含み、10mmの長さを備えていた。また、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する際に、フィラメントの切断による毛羽立ちを目視で評価した。結果を表3に示す。
【0081】
次に、本実施例で得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを用い、射出成形法により実施例1と同一寸法の板状の長繊維強化熱可塑性樹脂成形体を製造した。前記長繊維強化熱可塑性樹脂成形体を試料として3点曲げ試験を行うことにより、該長繊維強化熱可塑性樹脂成形体の強度及び弾性率を算出した。結果を表3に示す。
【0085】
〔実施例
本実施例では、まず、全量に対しSiOの含有量が58.0質量%、Alの含有量が21.9質量%、MgOの含有量が10.0質量%、CaOの含有量が10.0質量%、Feの含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.0である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0086】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、1000ポイズ温度、液相温度を求め、作業温度範囲を算出した。また、実施例1と全く同一にして、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0087】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、ガラス繊維を得た。次に、本実施例で得られた前記ガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率を算出した。結果を表2に示す。
【0088】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造した。本実施例で得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットは、全量に対し40質量%の前記ガラス繊維を含み、10mmの長さを備えていた。また、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する際に、フィラメントの切断による毛羽立ちを目視で評価した。結果を表3に示す。
【0089】
次に、本実施例で得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを用い、射出成形法により実施例1と同一寸法の板状の長繊維強化熱可塑性樹脂成形体を製造した。前記長繊維強化熱可塑性樹脂成形体を試料として3点曲げ試験を行うことにより、該長繊維強化熱可塑性樹脂成形体の強度及び弾性率を算出した。結果を表3に示す。
【0090】
〔実施例
本実施例では、まず、全量に対しSiOの含有量が57.0質量%、Alの含有量が20.0質量%、MgOの含有量が12.0質量%、CaOの含有量が10.9質量%、Feの含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.1である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0091】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、1000ポイズ温度、液相温度を求め、作業温度範囲を算出した。また、実施例1と全く同一にして、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0092】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、ガラス繊維を得た。次に、本実施例で得られた前記ガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率を算出した。結果を表2に示す。
【0093】
〔比較例1〕
本比較例では、いわゆるSガラスに相当する組成(SiOの含有量が64.0〜66.0質量%、Alの含有量が24.0〜26.0質量%、MgOの含有量が9.0〜11.0%)を備えたガラス組成物を得た。前記Sガラスに相当するガラス組成は、CaOは全く含有していない。従って、前記ガラス組成物は、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOは、算出できない。
【0094】
次に、本比較例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、1000ポイズ温度、液相温度を求め、作業温度範囲を算出した。また、実施例1と全く同一にして、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0095】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、ガラス繊維を得た。次に、本比較例で得られた前記ガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度及び弾性率を算出した。結果を表2に示す。
【0096】
次に、本比較例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造した。本比較例で得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットは、全量に対し40質量%の前記ガラス繊維を含み、10mmの長さを備えていた。また、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する際に、フィラメントの切断による毛羽立ちを目視で評価した。結果を表3に示す。
【0097】
次に、本比較例で得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを用い、射出成形法により実施例1と同一寸法の板状の長繊維強化熱可塑性樹脂成形体を製造した。前記長繊維強化熱可塑性樹脂成形体を試料として3点曲げ試験を行うことにより、該長繊維強化熱可塑性樹脂成形体の強度及び弾性率を算出した。結果を表3に示す。
【0098】
〔比較例2〕
本比較例では、いわゆるEガラスに相当する組成(SiOの含有量が52.0〜56.0質量%、Alの含有量が12.0〜16.0質量%、MgOの含有量が0〜6質量%、CaOの含有量が16〜25質量%、NaOの含有量が0〜0.8質量%、Bの含有量が5.0〜10.0質量%)を備えたガラス組成物を得た。
【0099】
次に、本比較例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、1000ポイズ温度、液相温度を求め、作業温度範囲を算出した。また、実施例1と全く同一にして、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0100】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、ガラス繊維を得た。次に、本比較例で得られた前記ガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度及び弾性率を算出した。結果を表2に示す。
【0101】
次に、本比較例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造した。本比較例で得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットは、全量に対し40質量%の前記ガラス繊維を含み、10mmの長さを備えていた。また、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する際に、フィラメントの切断による毛羽立ちを目視で評価した。結果を表3に示す。
【0102】
次に、本比較例で得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを用い、射出成形法により実施例1と同一寸法の板状の長繊維強化熱可塑性樹脂成形体を製造した。前記長繊維強化熱可塑性樹脂成形体を試料として3点曲げ試験を行うことにより、該長繊維強化熱可塑性樹脂成形体の強度及び弾性率を算出した。結果を表3に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
耐失透性:Aは結晶が析出していないことを示し、Bは表面の一部に結晶が析出していることを示し、Cは、表面及び内部に結晶が析出していることを示す。
失透初相:cor…コーディエライト、ano…アノーサイト、mul…ムライト、
cri…クリストバライト
表2に示すように、実施例1〜の溶融ガラスは、1000ポイズ温度が1350℃以下であり、1000ポイズ温度と液相温度との差が50℃以上であるので作業温度範囲が広い。そのため、安定した紡糸を行うことができることから、容易に大量生産を行うことが可能である。また、実施例1〜のガラス繊維は4.0GPa以上の強度と85.0GPa以上の弾性率とを備えることから、本発明のガラス繊維を含む長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットは、成形体自体の強度及び弾性率も優れたものとなる。
【0106】
これに対して、比較例1は、ガラス繊維の組成において、SiOの含有量が本発明の上限を超えているために1000ポイズ温度が高く、SiO及びAlの含有量が本発明の上限を超え、CaOを含まないために液相温度が高い上、作業温度範囲が狭い。さらに、失透初相がムライトであるため、耐失透性が低く、ガラス繊維を安定に紡糸することが難しい。この結果、比較例1は、紡糸条件が厳しいことから、大量生産に向かず、そのため、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造することが難しい。
【0107】
また、比較例2は、ガラス繊維の組成において、Al及びMgOの含有量が本発明の下限未満であるので、ガラス繊維の強度及び弾性率が低い。したがって、比較例2のガラス繊維を含む長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットは、成形体自体の強度及び弾性率も低いものとなる。
【0108】
次に、成形体の解析結果を表3に示す。実施例1〜、及び比較例1、2のガラス繊維を含む成形体を作成し、強度、弾性率を測定した。また、目視により成形時の毛羽立ちを解析した。
【0109】
【表3】
【0110】
表3中、成形時毛羽立ちの欄は、成形時毛羽立ちを起こさないものを○、起こすものを×としている。
【0111】
本解析結果において、本発明のガラス長繊維を含む長繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、強度が360GPa以上であり、弾性率Eが11.0以上と比較例2のガラス長繊維を含む成形体よりも強度、弾性率に優れたものが製造できる。
【0112】
比較例1のガラス組成を含む長繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、強度、及び弾性率に優れたものである。しかしながら、上記述べたように、比較例1のガラス組成は、表1に示すように1000ポイズ温度、液相温度が高く、作業温度範囲が狭い。さらに、失透初相がムライトであるため、耐失透性が低く、ガラス繊維を安定に紡糸することが難しい。したがって、強度、弾性率等の物理的特性には優れているものの、安定した紡糸ができないことから、大量生産を行うことが困難である。
【0113】
また、比較例2のガラス組成を含む長繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、強度及び弾性率の点で問題がある。この結果、比較例2は、引き抜き成形時に毛羽立ちが発生し、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造することが難しい。
【0114】
以上のように、本発明の製造方法により得られる長繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットから射出成形により成形されることにより、優れた強度及び弾性率を備えていることが明らかである。また、本発明のガラス組成を含む長繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、引き抜き成形時の毛羽立ちが無く、容易に製造できることが明らかである。