(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電力用半導体装置として、400V、600V、1200V、1700V、3300Vあるいはそれ以上の耐圧を有するダイオードやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等がある。これらの電力用半導体装置は、コンバーター・インバーター等の電力変換装置に用いられている。電力用半導体装置は、低損失・高効率・高耐量という特性および低コストが求められている。
【0003】
図12は、従来技術を説明するダイオードの断面図である。n
-型半導体基板1500の主面にp型アノード層1501が形成され、対面にはn
+型カソード層1502が形成される。そして、p型アノード層1501の外周位置に終端領域1503となるp型の層が形成されている。p型アノード層1501上にはアノード電極1505が設けられ、n
+型カソード層1502の下面には、カソード電極1506が設けられる。符号1507はフィールドプレート、符号1508は絶縁層である。
【0004】
このダイオード等の素子で、スイッチング時におけるノイズの原因となる電圧振動を低減させるために、おもて面側から裏面側に向かってn
-型半導体基板1500の深い位置でのドーピング濃度コントロールが求められている。
【0005】
キャリア濃度コントロールの方法として、比較的低い加速電圧で、シリコン中に深い飛程が得られるプロトン注入を用いたドナー生成の方法が知られている。この方法は、所定の濃度の酸素が含まれる領域にプロトン注入を行い、n型領域を形成する方法である。このプロトン注入は、シリコン基板中に結晶欠陥を発生させることが知られている。ドナー生成にはこの結晶欠陥が不可欠であるが、欠陥の種類や濃度などによっては、漏れ電流の増加を招き電気特性の悪化を引き起こす。
【0006】
プロトン注入により導入される欠陥は、プロトンの飛程Rp(イオン注入によって注入されたイオンが最も高濃度に存在する位置の注入面からの距離)だけでなく、注入面から飛程までのプロトンの通過領域や、注入面近傍に多く残留する。この残留欠陥は、格子位置からの原子(この場合シリコン原子)のずれが大きく、また結晶格子自体の強い乱れにより、アモルファスに近い状態である。そのため、残留欠陥は、電子および正孔といったキャリアの散乱中心となってキャリア移動度を低下させて導通抵抗を増加させるほか、キャリアの発生中心となって漏れ電流を増加させる等、素子の特性不良をもたらす。このように、プロトンの注入により、プロトンの注入面から飛程までのプロトンの通過領域に残留し、キャリア移動度の低下や漏れ電流の原因となるような、結晶状態から強く乱れた欠陥を、特にディスオーダーと呼ぶ。
【0007】
このようにディスオーダーは、キャリア移動度を低下させ、漏れ電流や導通損失の増加等の特性不良をもたらす。そのため、漏れ電流の増加を抑えつつ、ドナーの生成を行うというような、適切な結晶欠陥の制御技術が必要になっている。
【0008】
プロトン注入によるドナー生成の方法によれば、主なドナー生成要因の一つはシリコン中に導入した水素が熱処理によりシリコン空孔と酸素原子が結びついたVO欠陥の酸素と置換されて、酸素クラスターによるドナー化を促進することが知られている。
【0009】
このプロトン注入によるドナー生成において、ドナー生成量を上げるためにはシリコン中に導入した水素量を増やすことが効果的であるが、プロトン注入量を上げると結晶欠陥が増大してしまう。また、高温の熱処理により結晶欠陥を回復させるとプロトンによるドナーが消滅してしまう。このため、ドナー生成量を上げるには上記のようなトレードオフの関係があり、このトレードオフ特性を克服するためにプロトン注入以外で水素をシリコン中に導入する方法を組み合わせるか、高温熱処理以外で結晶欠陥を回復させる必要がある。
【0010】
例えば、プロトン注入によるドナー生成に対して、プロトン注入量とアニール温度に関する技術(例えば、下記特許文献1参照。)、プロトン注入によるドナー生成方法に対し熱処理条件を記載した技術(例えば、下記特許文献2参照。)、プロトン注入によるドナー生成方法により形成された領域について注入面からの深さを記載した技術(例えば、下記特許文献3参照。)が開示されている。
【0011】
特許文献1の技術では、シリコンサイリスタペレットを、主接合形成後、周辺部に局所的にプロトンをイオン打ち込みし、低温熱処理し結晶中のプロトンを局所的にドナー化させ、低抵抗のチャンネルストップ層を形成するというものであり、シリコン基板のパターニングの困難な結晶内部の場所に、簡単なプロセスでチャンネルストップ層を形成するというものである。
【0012】
特許文献2の技術では、半導体基板に埋設された阻止ゾーンを形成する方法にかかり、第1および第2の面を有し、第1伝導型の基本ドーピングがなされた半導体基板を準備する工程と、半導体基板における第1および第2の面の一方に、陽子を注入し、陽子が、注入面と離間して配された、半導体基板の第1の領域に導入されるようにする工程と、半導体基板を所定時間、所定温度に加熱する加熱処理を行い、第1の領域、および該第1の領域と注入面で隣接する第2の領域の両方で、水素によって誘発されたドナーが生成されるようにする工程と、を含む。
【0013】
特許文献3の技術では、半導体基板へのプロトンの注入により、複数の阻止ゾーンが形成され、そのうち最も深いもので注入面から15μmの深さに形成する技術が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0047】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明にかかる半導体装置としてダイオードを示す断面図である。
図1に示す半導体装置100は、ダイオードの例を示すが、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)であってもよい。
【0048】
この半導体装置100は、n
-型半導体基板(n
-ドリフト領域)101の主面の表面層にp型アノード層102が形成され、対面(裏面)の表面層にはn
+型カソード層101bが形成される。そしてp型アノード層102の外周位置に終端領域104となるp型の層が形成される。この半導体装置100は、スイッチング時におけるノイズの原因となる電圧振動を低減させるために、おもて面側から裏面側に対して深い位置でのn型ドーピング濃度のコントロールを行っている。
【0049】
この
図1には、プロトン注入後、水素雰囲気アニールによりプロトンのドナー生成を促進させた状態を示している。キャリア濃度コントロールについては、比較的低い加速電圧で、シリコン中に深い飛程が得られるプロトン注入を用いてn層101aを形成する。このn層101aはプロトン注入によるフィールドストップ(FS)層となり、n
-のドリフト領域(n
-型半導体基板101)より高い不純物濃度を有する。
【0050】
p型アノード層102上にはアノード電極105が設けられ、n
+型カソード層101bの下面(半導体装置100の裏面)には、カソード電極106が設けられる。また、活性部110は、半導体装置のオン時に電流が流れる領域であり、耐圧構造部111は、n
-型半導体基板(n
-ドリフト領域)101の主面側の電界を緩和し、耐圧を保持する領域である。
【0051】
耐圧構造部111には、例えばフローティングのp型領域であるフィールドリミッティングリング(FLR:終端領域)104と、終端領域104に電気的に接続された導電膜であるフィールドプレート(FP)107とが設けられている。符号108は絶縁層である。
【0052】
図2〜
図8は、それぞれ本発明のダイオードの活性部の製造工程を示す断面図である。これらの図を用いて活性部110の構造について説明する。はじめに、
図2に示すように、n
-ドリフト領域となるn
-型半導体基板101を水蒸気雰囲気中で熱処理をすることにより初期酸化膜を形成する。この後、フォトリソグラフィとウェットエッチングにより活性部領域のみ酸化膜を取り除く。
【0053】
そして、
図3に示すように、酸化膜108をマスクとして、n
-型半導体基板101の主面側から例えばボロン(B)をイオン注入し、熱処理することにより、p型アノード層102を形成する。また、p型アノード層102上にアノード電極105をメタルのスパッタにより形成する。108は、上記の酸化膜による絶縁層である。
【0054】
次に、アノード電極105を覆うおもて面保護膜(不図示)を作製し、
図4に示すように、おもて面側から電子線401を照射し、熱処理することにより、ライフタイムキラー制御を行う。この後、
図5に示すように、n
-型半導体基板101を裏面側から研削していき、半導体装置100として用いる製品厚さの位置502まで研削する。
【0055】
次に、
図6に示すように、n
-型半導体基板101の裏面側から所定の注入エネルギーおよび注入量を有してプロトン601を注入する。そして、
図7に示すように、プロトン601のドナー領域(フィールドストップ層としてのn層101a)を生成するために、炉内の水素H
2雰囲気中で所定温度のアニール701を行う。このn層101aは、p型アノード層102およびn
+型カソード層101bとも離れて設けられる。
【0056】
プロトン601の注入エネルギーは0.3MeVから10MeV、例えば、2.1MeV(飛程Rpは51μm)、注入量は1×10
14/cm
2とする。プロトン601の注入エネルギーが1.0MeV〜5.0MeVの場合、プロトン601の飛程Rpは16μm〜220μmとなる。特に、プロトン601の注入エネルギーが1.0MeV以上の場合は、プロトン601の飛程Rpは16μm以上となり、逆回復の発振抑制効果が大きくなり好ましい。逆回復の発振抑制効果については後述する。さらに、プロトン601の注入エネルギーが2.0MeV〜3.0MeVの場合、プロトン601の飛程Rpは20μm〜100μmとなる。
【0057】
プロトン601の注入量は、例えば、3×10
12/cm
2〜5×10
14/cm
2程度であってもよい。好ましくは、プロトン601の注入量は、欠陥回復とドナー化率とが所望の状態となるように、1×10
13/cm
2〜1×10
14/cm
2程度であるのがよい。ドナー生成のためのアニール701は、例えば、温度が420℃、水素濃度が6%〜30%の雰囲気であってもよい。アニール701の処理時間は、例えば1時間〜10時間程度であってもよい。好ましくは、アニール701の処理時間は、例えば3時間〜7時間程度であるのがよい。その理由は、アニール701の開始から1時間程度生じる温度変動を安定させることができるからである。また、製造コストを低く抑える場合には、アニール701の処理時間は例えば1時間〜5時間程度であるのがよい。
【0058】
この後、
図8に示すように、n
-型半導体基板101の裏面側から例えばリン(P)をイオン注入801し、熱処理によりn
+層(n
+型カソード層101b、以下、n
+層101bとする)を形成する。この後、n
-型半導体基板101の裏面にメタルをスパッタしてカソード電極106を形成する。n層101aとn
+層101bはフィールドストップ領域となり、n
-ドリフト領域(n
-型半導体基板101)より高い不純物濃度を有する。これにより、
図1に示すダイオードの活性部が完成する。
【0059】
(実施例)
次に、上記構成の半導体装置100についての特性について説明する。
図9は、第1の実施の形態にかかるダイオードの活性部の製造工程におけるアニール後のキャリア濃度の深さ方向の分布の測定結果を示す図表である。プロトンのアニールを行うための炉において水素濃度が0%と16%のそれぞれでアニールを行った際の
図1のX−X'軸部分の広がり抵抗測定法(SRA:Spreading Resistance Analysis)による測定結果を示している(
図22〜24においても同様)。このSRA法により測定したキャリア濃度は、キャリアの移動度が結晶の理想値と同じ場合はほぼドーピング濃度を示す。一方、結晶欠陥が多い場合や結晶の乱れ(ディスオーダー)が多い場合には、移動度が下がるので広がり抵抗が増加し、キャリア濃度が低く測定される(つまり、見かけ上、ドーピング濃度が低い値となる)。図中0の位置は、カソード電極106とn
+層101bの境界である(
図22〜24においても同様)。水素H
2濃度が0%の場合に比べて水素濃度が16%の場合には、n層101aからn
+層101bおよびn層101aからn
-ドリフト領域(n
-型半導体基板101)のいずれにおいても全体的にドナー生成によるキャリア濃度が増加していることがわかる。
【0060】
図10は、水素濃度に対するドナー生成率の関係を示す図表である。
図10を用いて、プロトン注入量に対するドナー生成率のアニールの水素濃度依存性を説明する。ドナー生成率として、ドナー活性化率(%)を用いている。例えば、ドナー活性化率は、プロトン注入量が1×10
14/cm
2に対して、2×10
12/cm
2のドナーが生成されたとき2%となる。ドナー活性化率は、実測のプロトンドナー濃度分布(単位cm
3)の突出する部分(
図9の山)の領域を深さで積分して(単位cm
2)、算出する。
【0061】
実験値は、プロトン注入量が1×10
14/cm
2とし、水素濃度が0%のとき、ドナー量が2.370×10
12/cm
2、活性化率は2.37%である。また、水素濃度が16%のとき、ドナー量が2.760×10
12/cm
2、活性化率は2.76%となる。そして、
図10に示すように、水素濃度が上がると、6%を境にドナー生成率が増加し、30%で飽和する。飽和特性を示すのはVO欠陥から水素により置換された酸素がすべてドナー化されたためと推測できる。ここで、VO欠陥とは、空孔(V)と酸素(O)との複合欠陥のことである。水素濃度を必要以上に上げると爆発の危険性が上がることを考慮すると、プロトン注入後に水素濃度6%〜30%の雰囲気で炉アニールを行うことがドナー生成率向上に効果的であることが分かる。さらに、ドナー活性化率がおよそ2.7%以上で安定化し、且つ爆発のリスクを十分低減できるように、水素濃度を10%以上30%以下、さらには15%以上25%以下とすると、一層好ましい。
【0062】
上記のように、第1の実施の形態によれば、プロトン注入後の熱処理を水素雰囲気中において水素濃度6%〜30%の範囲内で行うことにより、プロトン注入以外でシリコン中に水素を導入できるようになる。また、多量の水素は、結晶欠陥のダングリングボンドを終端させ、結晶回復を促進させる効果がある。
【0063】
そして、上記第1の実施の形態の製造方法によれば、ドナー生成のためのドーズ量を小さくでき、また、炉のアニール温度を下げることができるようになるため、工程時間(リードタイム)を下げることができるようになり、半導体装置100のチップ単価(コスト)を下げることができるようになる。
【0064】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法について説明する。第2の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法は、プロトンの注入エネルギー(加速エネルギーともいう)とアニール条件とが第1の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法と異なる。第2の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法のプロトンのアニール条件以外の構成は、第1の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法と同様である。
【0065】
具体的には、まず、第1の実施の形態と同様に、p型アノード層102の形成からプロトン601の注入までの工程を行う(
図2〜6)。プロトンの注入エネルギーは、例えば1.1MeV(飛程Rpは18μm)である。次に、例えば、水素濃度が6.0%〜30.0%の雰囲気において350℃の温度で10時間のアニール701を行うことでドナー領域(n層101a)を生成する(
図7)。その後、第1の実施の形態と同様に、リンのイオン注入およびレーザーアニールによるn
+層101bの形成から以降の工程を行うことで(
図8)、
図1に示すダイオードが完成する。
【0066】
このように製造したダイオードのキャリア濃度の深さ方向の分布をSRA法により測定した結果を
図22に示す。
図22は、第2の実施の形態にかかるダイオードの活性部の製造工程におけるアニール後のキャリア濃度の深さ方向の分布の測定結果を示す特性図である。
図22に示すように、プロトン601の注入面近傍および通過領域のキャリア濃度がn
-型半導体基板101の不純物濃度(点線で図示する基板濃度、
図23,24においても同様)よりも高くなっていることから、第2の実施の形態において結晶欠陥(ディスオーダー)を回復させながらドナー領域を生成することができることがわかる。
【0067】
以上、説明したように、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。第2の実施の形態によれば、プロトンのアニール温度を350℃以下とすることにより、裏面研削前の厚さの厚いn
-型半導体基板に基板おもて面側の構造(p型アノード層、アノード電極および層間絶縁膜など)をすべて形成することができるため、n
-型半導体基板の厚さが薄い状態で行う工程を少なくすることができる。これにより、歩留りを向上させることができ、かつ製造設備のコストを低減することができる。また、第2の実施の形態によれば、プロトンのアニール温度を350℃以下とすることにより、裏面研削前の厚さの厚いn
-型半導体基板に電子線照射を行うことができるため、歩留りを向上させることができる。また、ドナー化率はアニール温度が300℃以上350℃以下の範囲で最も高くなる(例えば10%〜50%)。よって、この温度範囲でアニール処理を行うことで、プロトンのドナー化率を高く維持することができる。
【0068】
(第3の実施の形態)
次に、第3の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法について説明する。第3の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法が第1の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法と異なる点は、欠陥回復とドナー化率とが所望の状態となるように、330℃以上380℃以下の温度のプロトンのアニールを行う点である。このため、第3の実施の形態においては、各工程を行う順序が第1の実施の形態と異なり、プロトンのアニール後に、ライフタイム制御のための電子線照射および熱処理を行う。
【0069】
具体的には、まず、第1の実施の形態と同様に、p型アノード層の形成からおもて面保護膜の形成までの工程を行う。次に、n
-型半導体基板を裏面側から研削していき、半導体装置として用いる製品厚さの位置まで研削する。次に、n
-型半導体基板の裏面側からプロトンを注入した後、水素濃度が6.0%以上30.0%未満の雰囲気において例えば380℃の温度で5時間のアニールを行うことでドナー領域を生成する。次に、基板おもて面側から電子線を照射し、熱処理することにより、ライフタイムキラー制御を行う。その後、第1の実施の形態と同様に、リンのイオン注入およびレーザーアニールによるn
+層の形成から以降の工程を行うことで、
図1に示すダイオードが完成する。
【0070】
このように製造したダイオードのキャリア濃度の深さ方向の分布をSRA法により測定した結果を
図23に示す。
図23は、第3の実施の形態にかかるダイオードの活性部の製造工程におけるアニール後のキャリア濃度の深さ方向の分布の測定結果を示す特性図である。
図23に示すように、プロトンの注入面近傍および通過領域のキャリア濃度がn
-型半導体基板の不純物濃度よりも高くなっていることから、第3の実施の形態において結晶欠陥(ディスオーダー)を回復させながらドナー領域を生成することができることがわかる。
【0071】
以上、説明したように、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、第3の実施の形態によれば、プロトンのアニール温度を380℃以下とすることにより、欠陥を低減させるとともに、ドナー化率を向上させることができる。また、第2の実施の形態と同様に、裏面研削前の厚さの厚いn
-型半導体基板に基板おもて面側の構造をすべて形成することができるため、歩留り向上やコスト低減を実現することができる。
【0072】
(第4の実施の形態)
次に、第4の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法について説明する。第4の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法が第1の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法と異なる点は、ドナー化率を高くするために、300℃〜450℃の温度でプロトンのアニールを行う点である。このため、第4の実施の形態においては、各工程を行う順序が第1の実施の形態と異なり、プロトンのアニール後に、おもて面保護膜の形成と、ライフタイム制御のための電子線照射および熱処理とを行う。
【0073】
具体的には、まず、第1の実施の形態と同様に、p型アノード層およびアノード電極を形成する。次に、n
-型半導体基板を裏面側から研削していき、半導体装置として用いる製品厚さの位置まで研削する。次に、n
-型半導体基板の裏面側からプロトンを注入した後、水素濃度が6.0%以上30.0%未満の雰囲気において例えば420℃の温度で3時間のアニールを行うことでドナー領域を生成する。次に、アノード電極を覆うおもて面保護膜を形成する。次に、基板おもて面側から電子線を照射し、熱処理することにより、ライフタイムキラー制御を行う。その後、第1の実施の形態と同様に、リンのイオン注入およびレーザーアニールによるn
+層の形成から以降の工程を行うことで、
図1に示すダイオードが完成する。
【0074】
このように製造したダイオードのキャリア濃度の深さ方向の分布をSRA法により測定した結果を
図24に示す。
図24は、第4の実施の形態にかかるダイオードの活性部の製造工程におけるアニール後のキャリア濃度の深さ方向の分布の測定結果を示す特性図である。
図24に示すように、プロトンの注入面近傍および通過領域のキャリア濃度がn
-型半導体基板の不純物濃度よりも高くなっていることから、第4の実施の形態において結晶欠陥(ディスオーダー)を回復させながらドナー領域を生成することができることがわかる。また、プロトンの注入面近傍および通過領域のキャリア濃度が第2,3の実施の形態の場合よりも高くなっていることから、第2,3の実施の形態よりも結晶欠陥を安定して回復させることができることがわかる。
【0075】
以上、説明したように、第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、第4の実施の形態によれば、プロトンのアニール温度を高くすることにより、裏面研削後、n
-型半導体基板の厚さが薄い状態で行う工程数が多くなるが、結晶欠陥を安定して回復させることができる。
【0076】
(第5の実施の形態)
次に、第5の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法について説明する。第5の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法が第1の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法と異なる点は、常圧( 例えば100,000Pa程度)雰囲気において雰囲気内の酸素を窒素で置換し、炉内から酸素分圧を低減させた状態でプロトンのアニールを行う点である。第5の実施の形態は、第2〜4の実施の形態にも適用可能である。
【0077】
以上、説明したように、第5の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、第5の実施の形態によれば、プロトンのアニールを行うための炉内の酸素分圧を低くすることで水素による爆発を防止することができる。
【0078】
(第6の実施の形態)
次に、第6の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法について説明する。第6の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法が第1の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法と異なる点は、プロトンのアニールを行うための炉に水素ガスによる爆発を防止する対策が施されている点である。例えば、炉内にn
-型半導体基板を搬入するための開口部など炉内と外部との連結部や、炉と反応ガス管との連結部にOリング等の密封用部材を取り付けることで炉内の気密性を高めることにより、炉内での水素ガスによる爆発を防止している。
【0079】
具体的には、まず、n
-型半導体基板(ウェハー)を、大気雰囲気の状態で、常圧でアニール炉内に搬入した後、前述の密閉用部材等により、炉内と外部との連結部等を密閉する。続いて、炉内を例えば0.1Pa程度に減圧して酸素分圧を低くする。次に、密封用部材によって炉内の気密性を保った状態で、炉内に窒素ガスと水素ガスとを導入して例えば常圧雰囲気とする。電気炉により炉内温度を所定の温度増加率にて上述の所定アニール温度まで昇温し、ウェハーに対してプロトンのアニール処理を行う。続いて、炉内温度を所定の温度減少率にてウェハーを搬出する温度まで降温する。続いて、密封用部材によって炉内の気密性を保った状態で、炉内を例えば0.1Pa程度に減圧して水素分圧を十分低くする。続いて、炉内に窒素ガスを導入し、炉内を常圧にする。そして、ウェハーを搬出する。第6の実施の形態は、第2〜4の実施の形態にも適用可能である。
【0080】
以上、説明したように、第6の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、第6の実施の形態によれば、プロトンのアニールを行うために炉内の気密性を高くして酸素分圧を低くすることで水素による爆発を防止することができる。
【0081】
(第7の実施の形態)
以上において本発明は、半導体基板にダイオードを形成する半導体装置の製造方法について説明したが、上述した実施の形態に限らず、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)のn層(フィールドストップ層)101aを作製するものについても同様に適用することが可能である。
【0082】
図11は、本発明を適用した半導体装置としてIGBTを示す断面図である。このIGBT200は、n
-型半導体基板(n
-ドリフト領域)201の主面の表面層にp型ベース層210が形成されている。さらにこのp型ベース層210の表面層には、n型エミッタ層209が形成されている。そして、n
-ドリフト領域(n
-型半導体基板201)、p型ベース層210、n型エミッタ層209に対向するように、ゲート酸化膜213を介して、トレンチ型のゲート電極208が設けられ、金属−酸化膜−半導体(MOS)型ゲート電極を形成している。
【0083】
また、n
-型半導体基板201の主面の表面層には、トレンチ型のゲート電極208のp型ベース層210側に対して反対側の側面に接するように、フローティング(浮遊)電位のフローティングp層211が形成される。そして、フローティングp層211を挟んでトレンチ型のゲート電極208と隣り合うように、ゲート酸化膜213を介してトレンチ型のダミーゲート212が形成される。ダミーゲート212の電位は、フローティング電位であってもよいし、エミッタ電位であってもよい。一方、対面(裏面)の表面層にはp
+型コレクタ層203が形成される。そしてp型ベース層210の外周位置に終端領域104となるp型のガードリング204が形成される。
【0084】
このIGBT200は、スイッチング時におけるノイズの原因となる電圧振動を低減させるために、おもて面側から裏面側に対して深い位置でのn型ドーピング濃度のコントロールを行っている。この
図11には、プロトン注入後、水素雰囲気アニールによりプロトンのドナー生成を促進させた状態を示している。キャリア濃度コントロールについては、比較的低い加速電圧で、シリコン中に深い飛程が得られるプロトン注入を用いてn型層201aを形成する。このn型層201aはプロトン注入によるフィールドストップ層となり、n
-ドリフト領域(n
-型半導体基板201)より高い不純物濃度を有する。
【0085】
p型ベース層210およびn型エミッタ層209上にはエミッタ電極202が設けられ、p
+型コレクタ層203の下面(IGBT200の裏面)には、コレクタ電極206が設けられる。また、活性部110は、IGBTがオンの時に電流が流れる領域であり、終端領域104は、n型半導体基板(n
-ドリフト領域)201の主面側の電界を緩和し、耐圧を保持する領域である。終端領域104には、例えばフローティングのp型領域であるp型ガードリング204と、ガードリング204に電気的に接続された導電膜であるフィールドプレート(FP)207とが設けられている。205は層間絶縁膜、214は絶縁層である。
【0086】
以上、説明したように、第7の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0087】
(第8の実施の形態)
次に、フィールドストップ層の位置についての説明を、第8の実施の形態として説明する。プロトン注入によるフィールドストップ層は、当然1つだけでなく複数形成してもよい。以下では、複数回のプロトン注入において、1段目のフィールドストップ層のプロトンピーク位置の好ましい位置について説明する。1段目のフィールドストップ層とは、ダイオードの場合はn
+型カソード層、IGBTの場合はp
+型コレクタ層側となる基板裏面から、深さ方向で最も深い箇所に位置するフィールドストップ層のことである。
【0088】
図15は、一般的なダイオードの逆回復時の発振波形である。アノード電流が定格電流の1/10以下の場合、蓄積キャリアが少ないために、逆回復が終わる手前で発振することがある。アノード電流をある値に固定して、異なる電源電圧V
CCにてダイオードを逆回復させる。このとき、電源電圧V
CCがある所定の値を超えると、カソード・アノード間電圧波形において、通常のオーバーシュート電圧のピーク値を超えた後に、付加的なオーバーシュートが発生するようになる。そして、この付加的なオーバーシュート(電圧)がトリガーとなり、以降の波形が振動する。電源電圧V
CCがこの所定の値をさらに超えると、付加的なオーバーシュート電圧がさらに増加し、以降の振動の振幅も増加する。このように、電圧波形が振動を始める閾値電圧を発振開始閾値V
RROと呼ぶ。このV
RROが高ければ高いほど、ダイオードは逆回復時に発振しないことを示すので、好ましい。
【0089】
発振開始閾値V
RROは、ダイオードのp型アノード層とn
-ドリフト領域とのpn接合からn
-ドリフト領域を広がる空乏層端(厳密には、正孔が存在するので空間電荷領域端)が、複数のプロトンピークのうち最初に達する1段目のプロトンピークの位置に依存する。その理由は、次のとおりである。逆回復時に空乏層がおもて面側のp型アノード層からn
-ドリフト領域を広がるときに、空乏層端が1つ目のフィールドストップ層に達することでその広がりが抑えられ、蓄積キャリアの掃き出しが弱まる。その結果、キャリアの枯渇が抑制され、発振が抑えられる。
【0090】
逆回復時の空乏層は、p型アノード層とn
-ドリフト領域との間のpn接合からカソード電極に向かって深さ方向に沿って広がる。このため、空乏層端が最初に達するフィールドストップ層のピーク位置は、p型アノード層とn
-ドリフト領域との間のpn接合に最も近いフィールドストップ層となる。そこで、n
-型半導体基板の厚さ(アノード電極とカソード電極とに挟まれた部分の厚さ)をW
0、空乏層端が最初に達するフィールドストップ層のピーク位置の、カソード電極とn
-型半導体基板の裏面との界面からの深さ(以下、裏面からの距離とする)をXとする。ここで、距離指標Lを導入する。距離指標Lは、下記の(1)式であらわされる。
【0092】
図17は、本発明にかかる半導体装置において空乏層が最初に達するフィールドストップ層の位置条件を示す図表である。
図19は、複数のフィールドストップ層を有するダイオードを示す説明図である。
図19(a)には、複数のフィールドストップ層を3形成したダイオードの断面図を示す。
図19(b)には、
図19(a)の切断線B−B'に沿ったネットドーピング濃度分布を示す。n
-ドリフト領域1となるn
-型半導体基板のおもて面側にp型アノード層52を形成し、裏面側にはn
+型カソード層53を形成している。符号51はアノード電極であり、符号54はカソード電極である。n
-ドリフト領域1の内部にはフィールドストップ層3を例えば3段形成している。また、基板裏面から最も深いフィールドストップ層3のピーク位置の、基板裏面からの距離Xは50μmである。これは、
図17に示す図表に基づいて距離指標Lを58.2μmとし、後述するγを1.2とした場合である。また、
図19(b)に示したLの矢印は、例えばp型アノード層52とn
-ドリフト領域1との間のpn接合からの距離(長さ)を示している。
【0093】
図18は、複数のフィールドストップ層を有するIGBTを示す説明図である。
図18(a)には、複数のフィールドストップ層3を形成したIGBTの断面図を示す。
図18(b)には、
図18(a)の切断線A−A'に沿ったネットドーピング濃度分布を示す。n
-ドリフト領域1となるn
-型半導体基板のおもて面側にp型ベース層33を形成し、裏面側にはpコレクタ層4を形成している。符号2はn
+エミッタ層であり、符号23はp型ベース層33とn
-ドリフト領域1との間のpn接合であり、符号31はエミッタ電極であり、符号32はコレクタ電極である。また、符号38はnバッファ層であり、符号41は層間絶縁膜であり、符号42はゲート電極であり、符号43はゲート絶縁膜である。n
-ドリフト領域1の内部にはフィールドストップ層3を例えば3段形成している。基板裏面から最も深いフィールドストップ層3のピーク位置の、基板裏面からの距離Xは50μmである。これは、
図17に示す図表に基づいて距離指標Lを
図17から58.2μmとし、後述するγを1.2とした場合である。また、
図18(b)示したLの矢印は、例えばp型ベース層33とn
-ドリフト領域1との間のpn接合からの距離(長さ)を示している。
【0094】
次に、ダイオードの逆回復発振について説明する。上記(1)式に示す距離指標Lは、逆回復時に、カソード・アノード間電圧V
AKが電源電圧V
CCとなるときに、p型アノード層とn
-ドリフト領域との間のpn接合からn
-ドリフト領域に広がる空乏層(正しくは空間電荷領域)の端部(空乏層端)の、当該pn接合からの距離を示す指標である。平方根の内部の分数の中で、分母は逆回復時の空間電荷領域(簡単には、空乏層)の空間電荷密度を示している。周知のポアソンの式は、divE=ρ/ε
Sで表され、Eは電界強度、ρは空間電荷密度でρ=q(p−n+N
d−N
a)である。qは電荷素量、pは正孔濃度、nは電子濃度、N
dはドナー濃度、N
aはアクセプタ濃度、ε
Sは半導体の誘電率である。特にドナー濃度N
dは、n
-ドリフト領域を深さ方向に積分し、積分した区間の距離で割った平均濃度とする。
【0095】
この空間電荷密度ρは、逆回復時に空間電荷領域(空乏層)を駆け抜ける正孔濃度pとn
-ドリフト領域の平均的なドナー濃度N
dで記述され、電子濃度はこれらよりも無視できるほど低く、アクセプタが存在しないため、ρ≒q(p+N
d)と表すことができる。このときの正孔濃度pは、ダイオードの遮断電流によって決まり、特に素子の定格電流密度が通電している状況を想定するため、p=J
F/(qv
sat)で表され、J
Fは素子の定格電流密度、v
satはキャリアの速度が所定の電界強度で飽和した飽和速度である。
【0096】
上記ポアソンの式を距離xで2回積分し、電圧VとしてE=−gradV(周知の電界Eと電圧Vとの関係)であるため、境界条件を適当にとれば、V=(1/2)(ρ/ε
S)x
2となる。この電圧Vが、定格電圧BVの1/2としたときに得られる空間電荷領域の長さxを、上記の距離指標Lとしているのである。その理由は、インバーター等の実機では、電圧Vとなる動作電圧(電源電圧V
CC)を、定格電圧の半値程度とするためである。フィールドストップ層は、ドーピング濃度をn
-ドリフト領域よりも高濃度とすることで、逆回復時に広がる空間電荷領域の伸びを、フィールドストップ層において広がり難くする機能を有する。ダイオードのアノード電流が、回路上の別の位置にあるIGBTのMOSゲートのオンにより遮断電流から減少を始めるときに、空乏層が最初に達するフィールドストップ層のピーク位置が、ちょうどこの空間電荷領域の長さにあれば、蓄積キャリアがn
-ドリフト領域に残存した状態で、空間電荷領域の伸びを抑えることができるので、残存キャリアの掃出しが抑えられる。
【0097】
実際の逆回復動作は、例えばIGBTモジュールを周知のPWMインバーターでモーター駆動するときには、電源電圧V
CCや遮断電流が固定ではなく可変である。したがって、このような場合では、空乏層が最初に達するフィールドストップ層のピーク位置の好ましい位置に、ある程度の幅を持たせる必要がある。発明者らの検討の結果、空乏層が最初に達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xは、
図17に示す図表のようになる。
図17には、定格電圧が600V〜6500Vのそれぞれにおいて、最初に空乏層端が達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xを示す。ここで、X=W
0−γLとおき、γは係数である。このγを、例えば0.7〜1.6まで変化させたときのXを示している。
【0098】
図17に示すように、各定格電圧では、素子(ダイオード)が定格電圧よりも10%程度高い耐圧を持つように、安全設計をする。そして、オン電圧や逆回復損失がそれぞれ十分低くなるように、
図17に示すようにn
-型半導体基板の総厚(研削等によって薄くした後の仕上がり時の厚さ)およびn
-ドリフト領域の平均的な比抵抗とする。平均的とは、フィールドストップ層を含めたn
-ドリフト領域全体の平均濃度および比抵抗である。定格電圧によって、定格電流密度J
Fも
図17に示したような典型値となる。定格電流密度J
Fは、定格電圧と定格電流密度J
Fとの積によって決まるエネルギー密度が、およそ一定の値となるように設定され、ほぼ
図17に示す値のようになる。これらの値を用いて上記(1)式に従い距離指標Lを計算すると、
図17に記載した値となる。最初に空乏層端が達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xは、この距離指標Lに対してγを0.7〜1.6とした値をn
-型半導体基板の厚さW
0から引いた値となる。
【0099】
これら距離指標Lおよびn
-型半導体基板の厚さW
0の値に対して、逆回復発振が十分抑えられるような、最初に空乏層端が達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xは、次のようになる。
図14は、電圧波形が振動を始める閾値電圧について示す特性図である。
図14には、このγに対する、発振開始閾値V
RROの依存性を、典型的ないくつかの定格電圧V
rate(600V、1200V、3300V)について示す。ここで、縦軸は、発振開始閾値V
RROを定格電圧V
rateで規格化した値とする。3つの定格電圧ともに、γが1.5以下で発振開始閾値V
RROを急激に高くできることが分かる。
【0100】
前述のように、インバーター等の実機では、電圧Vとなる動作電圧(電源電圧V
CC)を定格電圧V
rateの半値程度とするため、電源電圧V
CCを定格電圧V
rateの半値とするときには、少なくともダイオードの逆回復発振は生じないようにしなければならない。つまり、V
RRO/V
rateの値は0.5以上とする必要がある。
図14から、V
RRO/V
rateの値が0.5以上となるのは、γが0.2以上1.5以下であるので、少なくともγを0.2〜1.5とすることが好ましい。
【0101】
また、図示しない600V〜1200Vの間(800Vや1000Vなど)、1200V〜3300Vの間(1400V,1700V,2500Vなど)、および3300V以上(4500V、6500Vなど)のいずれにおいても、
図14に示す3つの曲線から大きく逸脱せず、この3つの曲線と同様の依存性(γに対する発振開始閾値V
RROの値)を示す。
図7から、γが0.7〜1.4の範囲で、いずれの定格電圧も発振開始閾値V
RROを十分高くできる領域であると分かる。
【0102】
γが0.7より小さくなると、発振開始閾値V
RROは定格電圧V
rateのおよそ80%以上であるものの、フィールドストップ層がp型ベース層に近くなるため、素子のアバランシェ耐圧が定格電圧V
rateより小さくなる場合が生じる。そのため、γは0.7以上が好ましい。また、γが1.4より大きくなると、発振開始閾値V
RROは定格電圧V
rateの約70%から急速に減少し、逆回復発振が発生し易くなる。したがって、γは1.4以下であるのが好ましい。より好ましくは、γが0.8〜1.3の範囲、さらに好ましくはγが0.9〜1.2の範囲内であれば、素子のアバランシェ耐圧を定格電圧V
rateよりも十分高くしつつ、発振開始閾値V
RROを最も高くすることができる。
【0103】
この
図14で重要な点は、いずれの定格電圧V
rateにおいても、発振開始閾値V
RROを十分高くできるγの範囲は、ほぼ同じ(0.7〜1.4)となることである。この理由は、空乏層が最初に到達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xの範囲を、W
0−L(γ=1)を中心とすることが最も効果的なためである。γ=1.0を含むことが最も効果的なのは、パワー密度(定格電圧V
rateと定格電流密度J
Fとの積)が略一定(例えば1.8×10
5VA/cm
2〜2.6×10
5VA/cm
2)となることに起因する。つまり、ターンオフ等のスイッチング時に、素子の電圧が定格電圧V
rate相当になったときに、空間電荷領域端の距離(深さ)は上記(1)式で示す距離指標L程度となり、この距離指標Lの位置に裏面から最も深いフィールドストップ層のピーク位置があれば(すなわちγが約1.0)、スイッチング時の発振は抑制することができる。そして、パワー密度が略一定なので、距離指標Lは定格電圧V
rateに比例するようになる。これにより、どの定格電圧V
rateにおいても、γ=1を略中心に含む範囲とすれば発振開始閾値V
RROを十分高くでき、逆回復時の発振抑制効果を最も大きくできる。
【0104】
以上より、最初に空乏層端が達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xを上記範囲とすることで、逆回復時にダイオードは蓄積キャリアを十分残存させることができ、発振現象を抑えることができる。したがって、いずれの定格電圧V
rateにおいても、最初に空乏層端が達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xは、距離指標Lの係数γを上述の範囲とすることがよい。これにより、逆回復時の発振現象を効果的に抑制することができる。
【0105】
また、
図17では、定格電圧V
rateが600V以上において、上述のように裏面から最も深い1つ目(1段目)のフィールドストップ層の裏面からの深さをγ=1程度とする場合、距離指標Lはいずれの定格電圧V
rateも20μmより深いことがわかる。すなわち裏面から最も深い1段目のプロトンピークを形成するためのプロトンの飛程Rpを基板裏面から15μmよりも深く、特に20μm以上とする理由は、まさにこの発振抑制効果を最も高くするためである。
【0106】
以上のように、良好なスイッチング特性を得るためには、n
-型半導体基板の裏面から少なくとも15μmよりも深い領域にフィールドストップ層を形成する必要がある。なお、上記の距離指標Lの考え方、およびγの好ましい範囲については、ダイオードだけでなく、IGBTにおいても同様の範囲とすることが可能である。つまり、逆回復発振はターンオフ発振と置き換えて考えればよく、発振の起きやすさ、および抑制する作用効果についても、類似している。
【0107】
(第9の実施の形態)
次に、本発明にかかる半導体装置の製造方法におけるプロトンの加速エネルギーについての説明を、第9の実施の形態として説明する。上記のγの範囲を満たすように、空乏層が最初に達するフィールドストップ層のピーク位置が基板裏面からの距離Xを有するように当該フィールドストップ層を実際にプロトン注入で形成するには、プロトンの加速エネルギーを
図16に示すの特性図から決めればよい。
図16は、本発明にかかる半導体装置のプロトンの飛程とプロトンの加速エネルギーとの関係を示す特性図である。
【0108】
発明者らは鋭意研究を重ねた結果、プロトンの飛程Rp(フィールドストップ層のピーク位置)と、プロトンの加速エネルギーEについて、プロトンの飛程Rpの対数log(Rp)をx、プロトンの加速エネルギーEの対数log(E)をyとすると、下記(2)式の関係があることを見出した。
【0109】
y=−0.0047x
4+0.0528x
3−0.2211x
2+0.9923x+5.0474 ・・・(2)
【0110】
図16は、上記(2)式を示す特性図であり、プロトンの所望の飛程Rpを得るためのプロトンの加速エネルギーを示している。
図16の横軸はプロトンの飛程Rpの対数log(Rp)であり、log(Rp)の軸数値の下側の括弧内に対応する飛程Rp(μm)を示す。また、縦軸はプロトンの加速エネルギーEの対数log(E)であり、log(E)の軸数値の左側の括弧内に対応するプロトンの加速エネルギーEを示す。上記(2)式は、実験等によって得られた、プロトンの飛程Rpの対数log(Rp)と加速エネルギーの対数log(E)との各値を、x(=log(Rp))の4次の多項式でフィッティングさせた式である。
【0111】
なお、上記のフィッティング式を用いて所望のプロトンの平均飛程Rpからプロトン注入の加速エネルギーEを算出(以下、算出値Eとする)して、この加速エネルギーの算出値Eでプロトンをシリコン基板に注入した場合における、実際の加速エネルギーE'と実際に広がり抵抗測定法(SRA法)等によって得られた平均飛程Rp'(プロトンピーク位置)との関係は、以下のように考えればよい。
【0112】
加速エネルギーの算出値Eに対して、実際の加速エネルギーE'がE±10%程度の範囲にあれば、実際の平均飛程Rp'も所望の平均飛程Rpに対して±10%程度の範囲に収まり、測定誤差の範囲内となる。そのため、実際の平均飛程Rp'の所望の平均飛程Rpからのバラつきが、ダイオードやIGBTの電気的特性へ与える影響は、無視できる程度に十分小さい。したがって、実際の加速エネルギーE'が算出値E±10%の範囲にあれば、実際の平均飛程Rp'は実質的に設定どおりの平均飛程Rpであると判断することができる。あるいは、実際の加速エネルギーE'を上記(2)式に当てはめて算出した平均飛程Rpに対して、実際の平均飛程Rp'が±10%以内に収まれば、問題ない。
【0113】
実際の加速器では、加速エネルギーEおよび平均飛程Rpはいずれも上記の範囲(±10%)に収まり得るため、実際の加速エネルギーE'および実際の平均飛程Rp'は、所望の平均飛程Rpと算出値Eとで表される上記(2)式に示すフィッティング式にしたがっていると考えて、全く差支えない。さらに、バラつきや誤差の範囲が、平均飛程Rpに対して±10%以下であればよく、好適には±5%に収まれば、申し分なく上記(2)式に従っていると考えることができる。
【0114】
上記(2)式を用いることにより、所望のプロトンの飛程Rpを得るのに必要なプロトンの加速エネルギーEを求めることができる。上述したフィールドストップ層を形成するためのプロトンの各加速エネルギーEも、上記(2)式を用いており、実際に上記の加速エネルギーE'でプロトンを注入した試料を周知の広がり抵抗測定法(SRA法)にて測定した実測値ともよく一致する。したがって、上記(2)式を用いることで、極めて精度よく、プロトンの飛程Rpに基づいて必要なプロトンの加速エネルギーEを予測することが可能となった。
【0115】
(第10の実施の形態)
次に、本発明にかかる半導体装置の逆回復波形についての説明を、第10の実施の形態として説明する。
図21は、本発明にかかる半導体装置の逆回復波形を示す特性図である。
図21には、第1の実施の形態にしたがって作製された本発明(以下、実施例1とする)の逆回復波形と、プロトン注入を行わずに電子線照射のみとした比較例の逆回復波形とを示す。定格電圧は1200Vとし、FZシリコン基板のドーピング濃度(平均濃度)N
d、および、研削後のFZシリコン基板の仕上がり厚さW
0は
図17の通りである。基板裏面から最も深いフィールドストップ層のγは1である。電子線照射条件は、本発明では線量を300kGyとし、加速エネルギーを5MeVとした。比較例では線量を60kGyとした。本発明および比較例のいずれも定格電流密度(
図17の1200Vの欄)における順電圧降下は1.8Vとした。試験条件は、電源電圧V
CCを800Vとし、初期の定常的なアノード電流を定格電流(電流密度×活性面積約1cm
2)とし、チョッパー回路においてダイオード、駆動用IGBT(同じ1200V)、中間コンデンサとの浮遊インダクタンスを200nHとした。
【0116】
図21からも明らかなように、実施例1は、比較例よりも、逆回復ピーク電流が小さく、電源電圧V
CCに対して高い電圧が発生するオーバーシュート電圧も200V程度小さくできていることがわかる。すなわち、本発明の逆回復波形はいわゆるソフトリカバリー波形である。これは、高速だがハードリカバリーになりやすい電子線照射によるライフタイム制御でも、極めてソフトな波形を達成することができたことを示し、従来(比較例)では得られない効果である。
【0117】
このような本発明に見られる効果の作用(理由)について、
図20を参照して説明する。
図20は、本発明にかかる半導体装置のキャリアライフタイムを示す特性図である。
図20には、実施例1のダイオードについて、アノード電極からの深さ方向に対するネットドーピング濃度、点欠陥濃度、およびキャリアライフタイムを示す。本発明がソフトリカバリー化を実現することができる理由は、電子線照射によって導入された点欠陥(空孔(V)、複空孔(VV))に対し、基板裏面からのプロトン注入によって導入された水素原子によってダングリングボンドが終端されたためであると推測される。キャリアの生成・消滅を促す欠陥は、点欠陥が主であり、空孔(V)・複空孔(VV)を主体とするエネルギー中心(センター)である。点欠陥にはダングリングボンドが形成されている。そこに、基板裏面からプロトンを注入してアニール(熱処理)を行うことにより、欠陥が緩和されて正常な結晶状態に近い状態に戻ろうとする。このとき、ダングリングボンドを周辺の水素原子が終端する。これにより、空孔(V)および複空孔(VV)を主体とするセンターは消滅する。一方、水素原子に起因するドナー(水素誘起ドナー)は、空孔(V)+酸素(O)+水素(H)のVOH欠陥が主体であるため、プロトン注入により単にダングリングボンドが水素原子で終端されるだけでなく、VOH欠陥も形成される。すなわち、ドナー形成に最も寄与するVOH欠陥の形成こそが、空孔(V)および複空孔(VV)を主体とする点欠陥を消滅させる理由である。これが、漏れ電流やキャリア再結合の原因である空孔(V)および複空孔(VV)の密度を低下させつつ、VOHドナーの生成を促すと推測される。
【0118】
ここで、通常は、シリコンウェハーをインゴットから製造してウェハー状にスライスした段階で、ウェハーには酸素が含まれている。例えば純ポリシリコンから製造したFZウェハーには、酸素は1×10
15/cm
3〜1×10
16/cm
3程度含有されている。CZウェハーを原料とするポリシリコンから引き上げたFZウェハーについては、酸素は1×10
16/cm
3〜1×10
17/cm
3程度含有されている。これらの含有されている酸素が、VOH欠陥のOとして寄与する。
【0119】
なお、従来技術として、ドナーをあまり形成せずにライフタイム低減のみを目的としたプロトン注入は広く知られているが、このプロトン注入は空孔(V)および複空孔(VV)を主体とする欠陥を大量に残し、VOH欠陥は相対的にほとんど形成していないものと推測される。この点は、本発明の基板裏面からのプロトン注入と水素誘起ドナーとによるフィールドストップ層の形成、および電子線照射によるダングリングボンドを水素原子で終端する効果によって得られる空孔(V)および複空孔(VV)を主体とする欠陥の低減と、大きく異なる点である。
【0120】
このような現象により、点欠陥密度は、
図20の中段に示すように、p型アノード層からフィールドストップ層までは電子線照射による点欠陥が十分残留し、一様なライフタイム分布を形成している。このときのライフタイムは、例えば、0.1μs以上3μs以下の程度である。一方、フィールドストップ層から基板裏面のカソード側では、プロトンの注入により、基板裏面から50μm程度およびそれよりさらにカソード側に近いところで、水素濃度が増加する。この水素原子がダングリングボンドを終端することで、点欠陥濃度は減少する。これにより、フィールドストップ層を形成している深さ領域(裏面から50μm深さ〜基板裏面表層)のライフタイムは、それより浅い領域よりも増加し、例えば10μs程度となる。この値は、電子線照射を行わないときのライフタイム値(10μs以上)か、それに十分近い値である。これにより、図示しない少数キャリア(この場合正孔)の濃度分布は、アノード側で十分低く、カソード側で十分高い分布とすることができ、ダイオードのソフトリカバリー特性にとって極めて理想的なキャリア濃度分布を達成できる。
【0121】
以上より、基板の深さ方向に電子線照射により点欠陥を導入し、基板裏面からのプロトン注入によって水素誘起ドナーからなるフィールドストップ層を形成することによって、フィールドストップ層を形成した領域の空孔(V)および複空孔(VV)を主体とする点欠陥を減らし、ライフタイム分布をソフトリカバリー特性に有効な分布とすることができる。