特許第6015748号(P6015748)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015748
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】生分解性ポリエステル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20161013BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20161013BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20161013BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20161013BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
   C08L67/04ZBP
   C08L67/02
   C08K5/103
   C08J5/18CFD
   !C08L101/16
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-508084(P2014-508084)
(86)(22)【出願日】2013年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2013059493
(87)【国際公開番号】WO2013147139
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2016年1月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-82310(P2012-82310)
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紀之
(72)【発明者】
【氏名】中村 信雄
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−227882(JP,A)
【文献】 特表2006−525136(JP,A)
【文献】 特開2009−073498(JP,A)
【文献】 特開2007−145423(JP,A)
【文献】 特開昭59−074148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00−67/04
101/16
C08J 5/18
C08K 5/00−5/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):[−CHR−CH2−CO−O−]
(但し、RはCn2n+1で表されるアルキル基であり、nは1以上15以下の整数である。)
で示される繰り返し単位を有する脂肪族ポリエステル(P3HA)100重量部に対し、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)を60〜400重量部および変性グリセリンを10〜50重量部含有し
ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)の溶融粘度に対する脂肪族ポリエステル(P3HA)の溶融粘度の比(P3HA/PBAT)が0.5以上2.0以下であり、
変性グリセリンがアセチル化モノグリセライドである
分解性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
フィルム成形用またはシート成形用である請求項1に記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
脂肪族ポリエステル(P3HA)が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)(PHBV)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタデカノエート)からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
脂肪族ポリエステル(P3HA)の160℃における溶融粘度が900〜3,600Pa・sである請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
脂肪族ポリエステル(P3HA)100重量部に対し、さらにポリブチレンサクシネート(PBS)を20〜150重量部含有してなる請求項1〜のいずれかに記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
脂肪族ポリエステル(P3HA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)およびポリブチレンサクシネート(PBS)の合計量に対する脂肪族ポリエステル(P3HA)の比率が45重量%以下である請求項に記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物を成形してなり、
透過型電子顕微鏡分析−画像解析法(TEM法)によって測定される前記脂肪族ポリエステル(P3HA)からなる相の長径の最大値が18μm以下であり、平均値が8μm以下であるフィルムまたはシート。
【請求項8】
インフレーション法またはTダイ押出法により成形される請求項に記載のフィルムまたはシート。
【請求項9】
成形時の引き取り速度が30m/分以下である請求項またはに記載のフィルムまたはシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリエステル樹脂組成物およびそれからなるフィルム、シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄プラスチックが引き起こす環境問題がクローズアップされ、地球規模での循環型社会の実現が切望される中で、使用後、微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックが注目を集めている。生分解性プラスチックとしては、1)ポリヒドロキシアルカノエート(以下、PHAと記す。)といった微生物生産系脂肪族ポリエステル、2)ポリ乳酸やポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートなどの石油由来系樹脂、3)澱粉や酢酸セルロース等の天然高分子物などがある。しかし、石油由来系脂肪族ポリエステルのなかでもポリ乳酸、ポリカプロラクトンは耐熱性に問題があり、また、天然高分子物は非熱可塑性であることや耐水性に劣るといった問題がある。さらに、炭酸ガス排出量削減の観点からは、バイオマス度の高い非石油由来系樹脂を使用することが望まれる社会となってきている。そこで、植物原料を使用しており、地球上の二酸化炭素を増大させない、つまりカーボンニュートラルである微生物生産系脂肪族ポリエステルの配合割合を高めた生分解性樹脂の使用が望まれている。
【0003】
従来、微生物生産系脂肪族ポリエステルを用いたフィルムやシートとして、微生物から生産される、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート、略称:PHBH)からなるフィルム(特許文献1参照。)、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロクラクトンなどの石油由来系樹脂とPHBHとを含有する樹脂組成物からなるシート(特許文献2参照。)などが開示されている。
【0004】
しかしながら、PHBHなどの微生物生産系脂肪族ポリエステルやそれを含む樹脂組成物をインフレーション法やTダイ押出し法でフィルムやシートに成形した場合、得られたフィルムやシートのMD方向(成形時の引取り方向)における引き裂き強度が不充分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−45365号公報
【特許文献2】国際公開第2010/013483号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、微生物生産系脂肪族ポリエステルを含む樹脂組成物から成形されるフィルムやシートのMD方向における引き裂き強度の改善を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、得られる成形品の微細組織(モルホロジー)を透過型電子顕微鏡分析−画像解析法(TEM法)によって調べたところ、脂肪族ポリエステル成分が成形時の引取り方向(MD方向)に延伸・配向している状態となっていることを見出した。さらに、本発明者らは前記フィルムやシートのMD方向における引き裂き強度の低下が前記脂肪族ポリエステル成分の延伸・配向状態に原因があると推定し、前記成形品のモルホロジーを調整すべくさらに検討した結果、微生物生産系脂肪族ポリエステルと他の生分解性樹脂に加えて特定量の変性グリセリンを併用することで、フィルムやシートの成形品における樹脂材料のモルホロジーを制御できることを見出し、これにより成形品のモルホロジーを制御することで、フィルムやシートなどの成形品のMD方向における引き裂き強度を高めることに初めて成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第一は、式(1):[−CHR−CH2−CO−O−]
(但し、RはCn2n+1で表されるアルキル基であり、nは1以上15以下の整数である。)
で示される繰り返し単位を有する脂肪族ポリエステル(P3HA)100重量部に対し、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)を60〜400重量部および変性グリセリンを10〜50重量部含有してなる生分解性ポリエステル樹脂組成物に関する。
好ましい実施態様では、前記生分解性ポリエステル樹脂組成物は、フィルム成形用またはシート成形用である。
好ましい実施態様では、前記脂肪族ポリエステル(P3HA)は、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)(PHBV)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタデカノエート)からなる群から選択される少なくとも1種である。
好ましい実施態様では、脂肪族ポリエステル(P3HA)の160℃における溶融粘度が900〜3,600Pa・sである。
好ましい実施態様では、前記ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)の溶融粘度に対する脂肪族ポリエステル(P3HA)の溶融粘度の比(P3HA/PBAT)が0.5以上である。
好ましい実施態様では、脂肪族ポリエステル(P3HA)100重量部に対し、さらにポリブチレンサクシネート(PBS)を20〜150重量部含有してなる。
好ましい実施態様では、脂肪族ポリエステル(P3HA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)およびポリブチレンサクシネート(PBS)の合計量に対する脂肪族ポリエステル(P3HA)の比率が45重量%以下である。
好ましい実施態様では、変性グリセリンが、アセチル化モノグリセライドである。
【0009】
本発明の第二は、前記生分解性ポリエステル樹脂組成物を成形してなり、
透過型電子顕微鏡分析−画像解析法(TEM法)によって測定される前記脂肪族ポリエステル(P3HA)からなる相の長径の最大値が18μm以下であり、平均値が8μm以下であるフィルムまたはシートに関する。
好ましい実施態様では、前記フィルムまたはシートはインフレーション法またはTダイ押出法により成形される。
好ましい実施態様では、成形時の引き取り速度が30m/分以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生分解性の樹脂原料を使用しており、地球上の二酸化炭素を増大させない、つまりカーボンニュートラルである微生物生産系脂肪族ポリエステルの配合割合が高く、しかも成形品のMD方向における引き裂き強度の高いフィルムおよびシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1で得られたフィルムのTEM画像である。
図2図2は、図1のTEM画像を画像解析ソフトで処理し、PHBHの長径を判別した画像である。
図3図3は、比較例1で得られたフィルムのTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る生分解性ポリエステル樹脂組成物は、樹脂成分として、式(1):[−CHR−CH2−CO−O−](但し、RはCn2n+1で表されるアルキル基であり、nは1以上15以下の整数である。)で示される繰り返し単位を有する脂肪族ポリエステル(P3HA)およびポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)を併用し、更に変性グリセリンを含有してなる。
【0013】
本発明に用いられるポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)(略称:P3HA)は、微生物から生産されるものであり、式(1):[−CHR−CH2−CO−O−](式中、RはCn2n+1で表されるアルキル基で、nは1〜15の整数である。)で示される繰り返し単位を有する脂肪族ポリエステル系重合体である。
【0014】
P3HAを生産する微生物としては、P3HA類生産能を有する微生物であれば特に限定されない。例えば、ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体生産菌としては、3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシバリレートをモノマーユニットとする共重合体(以下、「PHBV」と略称する。)およびポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、「PHBH」と略称する。)生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutropbus)などが知られている。特に、PHBHに関し、PHBHの生産性を上げるために、PHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP−6038)(J.Bateriol.,179,p4821−4830(1997))などがより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にPHBHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。
【0015】
本発明で使用するP3HAの重量平均分子量としては、成形性と物性のバランス観点から50,000〜3,000,000が好ましく、100,000〜1,500,000がより好ましい。なお、ここでの重量平均分子量は、クロロホルム溶離液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。
【0016】
本発明で使用するP3HAとしては、前記式(1)において、アルキル基(R)のnが1で示される繰り返し単位からなるもの、またはnが1で示される繰り返し単位とnが2、3、5および7の少なくとも1種で示される繰り返し単位からなるものが好ましく、nが1で示される繰り返し単位およびnが3で示される繰り返し単位からなるものがより好ましい。P3HAの具体例としては、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(略称:PHBH)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)(略称:PHBV)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB4HB)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタデカノエート)などが挙げられる。これらなかでも、工業的に生産が容易であるものとして、P3HB、PHBH、PHBV、P3HB4HBが挙げられる。
【0017】
このうち、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、ヤング率、耐熱性などの物性を変化させることができ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、また上記したように工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、前記式(1)において、アルキル基(R)のnが1である繰り返し単位とnが3である繰り返し単位とからなる、PHBHが好ましい。PHBHの具体的な製造方法は、例えば、国際公開第2010/013483号(特許文献2)に記載されている。また、PHBHの市販品としては、株式会社カネカ「アオニレックス(AONILEX)」(登録商標)などが挙げられる。
【0018】
また、PHBHの繰り返し単位の組成比は、柔軟性と強度のバランスの観点から、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)/ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)の組成比が80/20〜99/1(mol/mol)であることが好ましく、75/15〜97/3(mo1/mo1)であることがより好ましい。その理由は、柔軟性の点から99/1以下が好ましく、また樹脂が適度な硬度を有する点で80/20以上が好ましいからである。
【0019】
また、PHBVは、3−ヒドロキシブチレート(3HB)成分と3−ヒドロキシバリレート(3HV)成分の比率によって融点、ヤング率などが変化するが、3HB成分と3HV成分が共結晶化するため結晶化度は50%以上と高く、ポリ3−ヒドロキシブチレート(P3HB)に比べれば柔軟ではあるが、破壊伸びは50%以下と低い傾向にある。
【0020】
また、本発明で使用するP3HAは、160℃における溶融粘度が900〜3,600Pa・sが好ましい。前記溶融粘度が900Pa・s未満では、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)に対する溶融粘度比が小さくなり、樹脂組成物さらにはそれから得られるフィルムやシートなどの成形品におけるモルホロジーの制御が困難になる場合があり、3,600Pa・sより大きいと成形加工性が劣る場合がある。なお、本発明では、P3HAにイソシアネートを添加することで、溶融粘度を高めることもできる。
【0021】
微生物が生産するP3HAは、脂肪族ポリエステルの中でも特に結晶化速度が遅いため、本発明のような加工法を用いることがとりわけ有効である。また、P3HAは、好気性、嫌気性何れの環境下での生分解性にも優れ、燃焼時には有毒ガスを発生しない。とりわけ、PHBHは、原料として石油由来のものを使用せず、植物原料を使用しており、地球上の二酸化炭素を増大させない、つまりカーボンニュートラルであるという優れた特徴を有している点でも好ましい。また、本発明は、非生分解性の結晶核剤を添加することがなく、P3HAの優れた生分解性を損ねないという利点がある。
【0022】
本発明で使用するポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)とは、1,4−ブタンジオールとアジピン酸とテレフタル酸のランダム共重合体のことをいい、なかでも、特表平10−508640号公報などに記載されているような、(a)主としてアジピン酸もしくはそのエステル形成性誘導体またはこれらの混合物35〜95モル%、テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体またはこれらの混合物5〜65モル%(個々のモル%の合計は100モル%である)よりなる混合物に、(b)ブタンジオールが含まれている混合物(ただし(a)と(b)とのモル比が0.4:1〜1.5:1)の反応により得られるPBATが好ましい。PBATの市販品としてはBASF社製「エコフレックス」(登録商標)などが挙げられる。
【0023】
本発明の生分解性ポリエステルにおける前記PBATの含有量は、前記P3HA100重量部に対して60〜400重量部が好ましく、100〜250重量部がより好ましい。前記含有量が60重量部未満では、P3HAが分散状態の非連続層を形成できなくなるので引き裂き強度が低くなる場合があり、また、400重量部を超えると、成形性が低下する場合がある。
【0024】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物には、上記のような樹脂成分に、更に変性グリセリンを配合することで、樹脂組成物さらにはそれから得られるフィルムやシートなどの成形品におけるモルホロジーを制御することができる。
変性グリセリンとしては、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエートなどのアセチル化モノグリセライドが好ましい。変性グリセリンの市販品としては、理研ビタミン株式会社の「リケマール」(登録商標)PLシリーズなどが挙げられる。
【0025】
本発明の生分解性ポリエステルに対する前記変性グリセリンの含有量は、前記P3HA100重量部に対して10〜50重量部が好ましく、20〜40重量部がより好ましい。前記含有量が10重量部未満では、P3HAからなる相の長径の最大値と平均値が大きくなりすぎてしまい、P3HAが分散状態の非連続層を形成できず、フィルムやシートの引き裂き強度が低下する場合があり、また、50重量部を超えるとそれ以上は効果が変わらない上にブリードアウトの原因になる場合がある。
【0026】
また、本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物では、ポリブチレンサクシネート(PBS)を含有することで、PBATの溶融粘度を下げる働きがあるので、PBATに対するP3HAの粘度比が高まり、P3HAが非連続相を形成し易くなり、引き裂き強度が向上するという点で優れたものとなる。PBSは、1,4−ブタンジオールとコハク酸との脱水重縮合により合成される脂肪族ポリエステル共重合体であり、市販品としては、昭和電工社製「ビオノーレ」などが挙げられる。
【0027】
本発明の生分解性ポリエステルにおける前記PBSの含有量は、引き裂き強度に影響を与えないという観点から、前記P3HA100重量部に対して20〜150重量部が好ましく、40〜120重量部がより好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、通常の添加剤として使用される充填剤、顔料,染料などの着色剤、活性炭,ゼオライトなどの臭気吸収剤、バニリン,デキストリンなどの香料、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、摺動性改良剤、その他の副次的添加剤を少なくとも1種添加してもよい。
【0029】
本発明においては、上記のような樹脂組成物およびそれから得られるフィルムやシートはモルホロジーを制御して得られることを特徴としている。具体的には、樹脂組成物から得られるフィルムやシートにおいて、透過型電子顕微鏡分析−画像解析法(TEM法)によって測定される前記P3HAからなる相の長径の最大値が18μm以下であり、平均値が8μm以下の範囲となり、P3HAが分散状態の非連続層を形成するようにモルホロジーを制御して得られる。
【0030】
本発明でいう前記TEM法とは、前記フィルムやシートから、ミクロトームを用い、MD方向が観察できるようにフィルムまたはシートの表面に対して平行に約100nm厚に切り出した切片を四酸化ルテニウム(RuO4)、4酸化オスミウム、りんタングステン酸などによりP3HAを選択的に染色した後、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEM−1200EX)を用い、加速電圧80kVで、前記フィルムやシートの切断面を面方向から観察したときのP3HAからなる相の状態を1万倍の倍率で撮影し、その画像の約18μm×約25μmの範囲を2値化画像解析ソフト(三谷商事社製「Win Roof」)により、P3HAからなる相の長径およびその平均値を自動的に測定する方法をいう。また、前記画像解析ソフトで判別できないP3HAからなる相は手作業で長径を求める。
【0031】
なお、P3HAからなる相の長径とは顕微鏡観察した画像内にあるP3HAからなる個々の相における最も長い径を示し、また、平均値とは前記視野内に存在する全てのP3HAからなる相の長径の平均値を示す。前記長径を測定する場合、観察する視野としてはランダムに3個の視野を観察する。
【0032】
前記モルホロジーの制御の方法としては、1)ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)の溶融粘度に対する脂肪族ポリエステル(P3HA)の溶融粘度の比(P3HA/PBAT)を0.5以上、好ましくは0.7以上、更に好ましくは1.0以上とする方法、2)脂肪族ポリエステル(P3HA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)およびポリブチレンサクシネート(PBS)の合計量に対する脂肪族ポリエステル(P3HA)量の比率を45重量%以下、好ましくは40重量%以下とする方法、さらに、フィルムやシートなどの成形品においては、3)成形時の引き取り速度が30m/分以下、好ましくは25m/分以下、より好ましくは20m/分以下とする方法が挙げられる。
【0033】
前記1)の溶融粘度の比(P3HA/PBAT)は、P3HAとPBATの160℃における溶融粘度の比である。この溶融粘度の比が0.5未満であると、樹脂中でPHBHが連続相を構成し、成形されたフィルムやシートなどの成形品におけるMD方向の引き裂き強度が低下し過ぎる場合がある。PBATの溶融粘度に対するP3HAの溶融粘度の比の上限は特に限定はないが、大きすぎると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎ、成形加工性が低下する場合があり、またP3HAが微分散化し易い観点から、2.0以下が好ましい。ここで、「PBATの溶融粘度に対するP3HAの溶融粘度の比(P3HA/PBAT)」とは、P3HAの溶融粘度をPBATの溶融粘度で除した値をいう。
【0034】
なお、前記溶融粘度の測定方法は、高剪断粘度計キャピラリーレオメーターを用いて、設定温度160℃〜170℃、キャピラリーサイズφ1mm、10mm長、剪断速度100(1/sec)〜2,000(1/sec)で測定する方法が挙げられる。後述の実施例ではこの方法で溶融粘度を測定している。
【0035】
前記2)の方法において、脂肪族ポリエステル(P3HA)の比率が45重量%を超えると、樹脂中でPHBHが連続相を構成し、成形されたフィルムやシートなどの成形品におけるMD方向の引き裂き強度が低下し過ぎる場合がある。脂肪族ポリエステル(P3HA)の比率の下限は特に限定はないが、脂肪族ポリエステル(P3HA)の含有量の比率は非石油度が大きくなる観点から1重量%以上が好ましく、脂肪族ポリエステル(P3HA)の比率が小さすぎると、カーボンニュートラルである微生物生産系脂肪族ポリエステルの配合割合を高めるという効果が薄れることから、脂肪族ポリエステル(P3HA)の比率は、20重量%以上とすることがより好ましく、更に好ましくは25重量%以上である。
【0036】
更に、前記3)の方法において、フィルムやシートなどの成形時の引き取り速度が30m/分を超えると、フィルムやシートなどにおけるP3HAからなる相の長径が長くなりすぎ、更にはMD方向に連続した相となり、引き裂き強度が大きく低下する場合がある。
【0037】
上記1)〜3)の方法により、P3HAからなる不連続相の長径の最大値が18μm以下であり、平均値が8μm以下である本発明のフィルムおよびシートを得ることができる。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、単軸押出機、2軸押出機などを用いて加熱溶融して混合するなどの公知の方法により作製することができる。また、本発明のフィルムまたはシートは、インフレーション法やTダイ押出法などの公知の成形加工方法により製造することができる。具体的な条件については適宜設定すればよいが、例えば、インフレーション法では、インフレーション成形前に除湿乾燥機などでペレットの水分率が500ppm以下になるまで乾燥し、シリンダー設定温度100℃〜160℃、アダプターおよびダイスの設定温度130℃〜160℃にすることが好ましい。
【0039】
フィルムまたはシートの厚みについて厳格な規定はないが、一般に厚み1〜100μm程度をフィルム、厚み100μmを越えて20mm程度までをシートと呼ぶ。
【0040】
本発明のフィルムまたはシートは、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、食品産業、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に用いることができる。例えば農業用マルチフィルム、林業用燻蒸シート、フラットヤーンなどを含む結束テープ、植木の根巻フィルム、おむつのバックシート、包装用シート、ショッピングバック、ゴミ袋、水切り袋、その他コンポストバックなどの用途に用いられる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例、比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
<製造例1> 3−ヒドロキシアルカノエート重合体
本実施例で使用するPHBH(原料A−1)は、以下のようにして作製した。
PHAの培養生産にはKNK−631株(国際公開第2009/145164号参照)を用いた。
種母培地の組成は1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−Tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% Na2HPO4・12H2O、0.15w/v% KH2PO4、pH6.8とした。
【0043】
前培養培地の組成は1.1w/v% Na2HPO4・12H2O、0.19w/v% KH2PO4、1.29w/v% (NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの)とした。また、炭素源はパーム核油を10g/Lの濃度で一括添加した。
【0044】
PHA生産培地の組成は0.385w/v% Na2HPO4・12H2O、0.067w/v% KH2PO4、0.291w/v% (NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N 塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの)、0.05w/v% BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
【0045】
まず、KNK−631株のグリセロールストック(50μL)を種母培地(10mL)に接種して24時間培養し種母培養を行なった。次に種母培養液を1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0046】
次に、前培養液を6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS−1000型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度400rpm、通気量6.0L/minとし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源としてパーム核オレイン油を使用した。培養は64時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0047】
得られた乾燥菌体1gに100mLのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mLになるまで濃縮後、90mLのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥し、PHAを得た。得られたPHAの3−ヒドロキシヘキサノエート(3HH)組成分析は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥PHA20mgに2mLの硫酸−メタノール混液(容積比率15:85)と2mLのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、PHA分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mLのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μLを注入した。温度条件は、初発温度100〜200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200〜290℃まで30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、前記化学式(1)に示すようなPHA、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)であった。3HH組成は11.2モル%であった。培養後、培養液から国際公開第2010/067543号に記載の方法に準じてPHBHを得た。GPCで測定した重量平均分子量は57万であった。また、PHBHの160℃の溶融粘度を測定したところ、1,150Pa・sであった。
【0048】
以下の実施例および比較例においては、以下の原料も用いた。
<3−ヒドロキシアルカノエート重合体>
原料A−2:Mw32万、3HH=11.2モル%、160℃の溶融粘度=510Pa・sのPHBH(カネカ社製)。原料A−1を80℃、相対湿度95%で72時間加水分解して得た。
原料A−3:Mw79万、3HH=10.4モル%、160℃の溶融粘度=1,910Pa・sのPHBH。培養時間を96時間にした以外は、製造例1と同様にして得た。
原料A−4:原料A−1 100重量部に対して2重量部のイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMR200)を、2軸押出機により、設定温度100〜130℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混錬して、原料A−4を得た。得られた原料A−4の溶融粘度は2,350Pa・sであった。
原料A−5:Mw48万、3HH=11.2モル%、160℃の溶融粘度940Pa・sのPHBH(カネカ社製)。原料A−1を80℃、相対湿度95%で36時間加水分解して得た。
原料A−6:Mw62万、3HH=5.4モル%、160℃の溶融粘度=1,240Pa・sのPHBH(カネカ社製)。KNK−631株のかわりにKNK−005株を用い、製造例1と同様にして得た。
<ポリエステル>
原料B−1:160℃の溶融粘度1,800Pa・sのPBAT(BASF社製、「エコフレックス(登録商標)」)。
原料B−2:PBS(昭和電工社製、「ビオノーレ(登録商標)」)。
<変性グリセリン化合物>
原料C−1:アセチル化モノグリセライド(理研ビタミン社製、「リケマール(登録商標)」PL012)。
【0049】
<実施例1および2>
(樹脂組成物の製造)
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−1)100重量部に対して、ポリエステルB−1(PBAT)100重量部、ポリエステルB−2(PBS)50重量部、変性グリセリン化合物C−1(アセチル化モノグリセライド)25重量部を、2軸押出機(日本製鋼社製:TEX30)で、設定温度100〜130℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混錬して、PHBHを含有するポリエステル樹脂組成物を得た。
【0050】
(フィルムの製造)
得られた樹脂組成物はインフレーションフィルム成形機(北進産業社製)を用い、円形ダイスリップ厚=1mm、円形ダイスリップ直径=100mm、設定温度=120〜140℃、表1に記載した引き取り速度でフィルムを成形した。
【0051】
(MD方向の引き裂き強度の測定)
得られたフィルム成形品またはシート成形品は、エルメンドルフ引き裂き強度測定器(熊谷理器工業社製)を用い、JIS 8116に準拠して引き裂き強度を測定した。
【0052】
(PHBHの分散状態の観察)
得られたフィルムまたはシート成形品から、ミクロトームを用い、MD方向が観察できるようにフィルムまたはシートの表面に平行に約100nm厚の薄片サンプルを切り取り、RuO4で染色した後、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製、JEM−1200EX)を用い、加速電圧80kVでPHBHの分散状態を観察した。図1に実施例1で得られたフィルムのTEM画像を示す。なお、図中、上下方向が引取り方向(MD方向)である。
【0053】
(長径の計算)
画像解析ソフト(三谷商事社製「Win Roof」)を用いて最大長径と平均長径を算出した。値は、1万倍の倍率で撮影したTEM画像の約18μm×約25μmの範囲で算出した。
前記画像はRuO4染色でコントラストをつけているが、このコントラストがはっきりしないと解析ソフトで2値化処理によるPHBHからなる相の判別が困難な場合がある。そのような場合は、TEM写真から手作業で長径を求めた。図2に前記画像解析ソフトでPHBHの長径を判別した画像の様子を示す。
【0054】
<実施例3>
実施例1で得られた樹脂組成物をシート成形して、実施例1と同様に引き裂き強度およびPHBHからなる相の最大長径と平均長径とを測定した。
【0055】
(シートの成形)
得られた樹脂組成物はTダイシート成形機(東洋精機製作所社製:ラボプラストミル)を用い、ダイスリップ厚=250μm、ダイスリップ幅=150mm、シリンダー設定温度=120〜140℃、ダイス設定温度=150〜160℃、表1に記載した引き取り速度でシートを成形した。
【0056】
(比較例1)
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−1)100重量部の代わりに溶融粘度が低い3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−2)100重量部を用いた以外は実施例1と同様に樹脂組成物を製造し、実施例2と同様の方法でフィルムを成形し、そのフィルムの引き裂き強度、PHBHの相の最大長径と平均長径を算出した。図3に比較例1で得られたフィルムのTEM画像を示す。図中、上下方向がMD方向である。
【0057】
(比較例2)
比較例1で得られた樹脂組成物を用いて実施例3と同様の方法でシートを成形し、得られたシートについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径と平均長径を測定した。
【0058】
以上の実施例1〜3および比較例1、2の結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1で得られたシートにおけるPHBHの相(図中の白い部分)は、図1に示すようにMD方向にやや延伸した楕円形状となっているものの、ランダムに分散して配置されており、表1に示すように、これらのPHBHの相の最大長径は18μm未満であり、平均長径は8μm未満であった。
また、実施例2で得られたフィルムおよび実施例3で得られたシートのPHBHの相も、実施例1と同様の分散相を形成しており、それぞれのPHBHの相の最大長径は18μm未満であり、平均長径は8μm未満であった。また、MD方向の引き裂き強度は実施例1〜3いずれも40mN/μm以上であり、高い値を示した。
これに対し、比較例1および比較例2で使用した原料A−2は分子量が低いので溶融粘度が低く、実施例1または2と同じ条件で樹脂組成物およびフィルムあるいはシート成形しても、図3に示すように、PHBH(図中の白い部分)はDM方向に大きく延伸・配向し、最大長径が18μmより大きく、平均長径が8μmより大きくなり、長径が非常に大きな層状の相になった。そのため、引き裂き強度は実施例1、2に比べて低い値であった。
【0061】
<実施例4および5>
(樹脂組成物の製造)
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−3)100重量部に対して、ポリエステルB−1(PBAT)=80重量部、ポリエステルB−2(PBS)=25重量部、変性グリセリン化合物C−1(アセチル化モノグリセライド)=25重量部を、2軸押出機で、設定温度100〜130℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混錬して、PHBHを含有するポリエステル樹脂組成物を得た。
実施例4は実施例1と同様の方法、実施例5は実施例2と同様の方法でフィルムを成形し、得られたフィルムについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径の算出を実施例1と同様に実施した。
【0062】
<実施例6>
実施例4で得られた樹脂組成物を、実施例3と同様の方法でシート成形し、得られたシートについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径を測定した。
【0063】
<実施例7>
原料A−3の代わりに原料A−4を用いた以外は、実施例4と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。
得られたポリエステル樹脂組成物を実施例3と同様の方法でシート成形し、得られたシートについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径を測定した。
【0064】
<比較例3>
原料A−3=100重量部の代わりに原料A−2=100重量部を用いた以外は実施例5と同様にポリエステル樹脂組成物を製造した。
得られたポリエステル樹脂組成物を実施例5と同様の方法でフィルムを成形し、得られたフィルムについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径を算出した。
【0065】
<比較例4>
比較例3で得られた樹脂組成物を、実施例6と同様の方法でシート成形し、得られたシートについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径を測定した。
【0066】
以上の実施例4〜7および比較例3、4の結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2に示すとおり、実施例4および5で得られたフィルムおよび実施例6で得られたシートにおけるPHBH(原料A−3)は分子量が高いので溶融粘度が1,910Pa・sでありエコフレックス(原料B−1)よりも高かった((P3HA/PBAT)が1.0以上。)。そのため、PHBHの組成比が樹脂全量の45重量%を超えて50重量%近くになってもPHBHからなる相は分散状態を形成できた。さらに実施例4〜7で得られたフィルムおよびシートにおけるPHBHの相の最大長径はいずれも18μm未満であり、また平均長径はいずれも8μm未満であったため、MD方向の引き裂き強度はいずれも高い値を示した。一方、比較例3、4では、ポリエステル原料A−2が連続相を形成してしまい、島相(分散相)を形成しなかったため、最大長径と平均長径の算出はできなかった。
【0069】
<実施例8〜12>
表3に記載した配合で実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を製造し、表3に示す引き取り速度に調整した以外は実施例1と同様の方法でフィルムを成形した。得られたフィルムについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径を算出した。その結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
表3に示すとおり、実施例8〜12で得られたフィルムにおける最大長径はそれぞれ18μm未満であり、平均長径はそれぞれ8μm未満であったため、MD方向の引き裂き強度は高い値を示した。
【0072】
<比較例5>
変性グリセリン化合物C−1を用いない以外は実施例2と同様に樹脂組成物を製造し、この樹脂組成物からフィルムを成形し、得られたフィルムについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径を算出した。その結果を表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
比較例5では、最大長径、平均長径がいずれも実施例2のものと比べて大きく、引き裂き強度は逆に低くなっている。このことから、変性グリセリン化合物C−1がないと、樹脂組成物中のPHBHからなる非連続相はその最大長径や平均長径が長くなってしまって実施例1のように細かくならず、その結果、引き裂き強度が低くなると考える。
【0075】
<比較例6>
変性グリセリン化合物C−1の代わりに、変性グリセリンに類似の化合物としてヒマシ油脂肪酸(伊藤製油社製)を用いた以外は実施例1と同様の配合で樹脂組成物の製造を試みた(表4に組成を記載する)。しかし、原料A−1、原料B−1、B−2のような樹脂と混練しても相溶せずにブリードアウトしてしまい、樹脂組成物を得ることができなった。
【0076】
<比較例7>
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−1)100重量部の代わりに溶融粘度が低い3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−2)100重量部を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、引き取り速度を15m/分にした以外は実施例1と同様にしてフィルムを成形し、引き裂き強度とTEM画像からPHBH相の最大長径と平均長径を算出した。結果を表1に示すが、比較例5と同様に、最大長径、平均長径がいずれも実施例2のものと比べて大きく、引き裂き強度は逆に低くなっていた。
【0077】
<比較例8>
原料A−3=100重量部の代わりに原料A−2=100重量部を用いた以外は実施例4と同様にして樹脂組成物を製造し、引き取り速度を15m/分にした以外は実施例1と同様にしてフィルムを成形した。得られたフィルムのTEM画像を確認したところ、PHBH相が連続相を形成していたため、最大長径と平均長径の算出はできなかった。また、引っ張り強度を測定したところ、5.9mN/μmと非常に低いものであった。これらの結果を表2に示す。
図1
図2
図3