【実施例】
【0041】
以下に実施例、比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
<製造例1> 3−ヒドロキシアルカノエート重合体
本実施例で使用するPHBH(原料A−1)は、以下のようにして作製した。
PHAの培養生産にはKNK−631株(国際公開第2009/145164号参照)を用いた。
種母培地の組成は1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−Tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% Na
2HPO
4・12H
2O、0.15w/v% KH
2PO
4、pH6.8とした。
【0043】
前培養培地の組成は1.1w/v% Na
2HPO
4・12H
2O、0.19w/v% KH
2PO
4、1.29w/v% (NH
4)
2SO
4、0.1w/v% MgSO
4・7H
2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl
3・6H
2O、1w/v% CaCl
2・2H
2O、0.02w/v% CoCl
2・6H
2O、0.016w/v% CuSO
4・5H
2O、0.012w/v% NiCl
2・6H
2Oを溶かしたもの)とした。また、炭素源はパーム核油を10g/Lの濃度で一括添加した。
【0044】
PHA生産培地の組成は0.385w/v% Na
2HPO
4・12H
2O、0.067w/v% KH
2PO
4、0.291w/v% (NH
4)
2SO
4、0.1w/v% MgSO
4・7H
2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N 塩酸に1.6w/v% FeCl
3・6H
2O、1w/v% CaCl
2・2H
2O、0.02w/v% CoCl
2・6H
2O、0.016w/v% CuSO
4・5H
2O、0.012w/v% NiCl
2・6H
2Oを溶かしたもの)、0.05w/v% BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
【0045】
まず、KNK−631株のグリセロールストック(50μL)を種母培地(10mL)に接種して24時間培養し種母培養を行なった。次に種母培養液を1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0046】
次に、前培養液を6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS−1000型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度400rpm、通気量6.0L/minとし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源としてパーム核オレイン油を使用した。培養は64時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0047】
得られた乾燥菌体1gに100mLのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mLになるまで濃縮後、90mLのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥し、PHAを得た。得られたPHAの3−ヒドロキシヘキサノエート(3HH)組成分析は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥PHA20mgに2mLの硫酸−メタノール混液(容積比率15:85)と2mLのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、PHA分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mLのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μLを注入した。温度条件は、初発温度100〜200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200〜290℃まで30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、前記化学式(1)に示すようなPHA、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)であった。3HH組成は11.2モル%であった。培養後、培養液から国際公開第2010/067543号に記載の方法に準じてPHBHを得た。GPCで測定した重量平均分子量は57万であった。また、PHBHの160℃の溶融粘度を測定したところ、1,150Pa・sであった。
【0048】
以下の実施例および比較例においては、以下の原料も用いた。
<3−ヒドロキシアルカノエート重合体>
原料A−2:Mw32万、3HH=11.2モル%、160℃の溶融粘度=510Pa・sのPHBH(カネカ社製)。原料A−1を80℃、相対湿度95%で72時間加水分解して得た。
原料A−3:Mw79万、3HH=10.4モル%、160℃の溶融粘度=1,910Pa・sのPHBH。培養時間を96時間にした以外は、製造例1と同様にして得た。
原料A−4:原料A−1 100重量部に対して2重量部のイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMR200)を、2軸押出機により、設定温度100〜130℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混錬して、原料A−4を得た。得られた原料A−4の溶融粘度は2,350Pa・sであった。
原料A−5:Mw48万、3HH=11.2モル%、160℃の溶融粘度940Pa・sのPHBH(カネカ社製)。原料A−1を80℃、相対湿度95%で36時間加水分解して得た。
原料A−6:Mw62万、3HH=5.4モル%、160℃の溶融粘度=1,240Pa・sのPHBH(カネカ社製)。KNK−631株のかわりにKNK−005株を用い、製造例1と同様にして得た。
<ポリエステル>
原料B−1:160℃の溶融粘度1,800Pa・sのPBAT(BASF社製、「エコフレックス(登録商標)」)。
原料B−2:PBS(昭和電工社製、「ビオノーレ(登録商標)」)。
<変性グリセリン化合物>
原料C−1:アセチル化モノグリセライド(理研ビタミン社製、「リケマール(登録商標)」PL012)。
【0049】
<実施例1および2>
(樹脂組成物の製造)
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−1)100重量部に対して、ポリエステルB−1(PBAT)100重量部、ポリエステルB−2(PBS)50重量部、変性グリセリン化合物C−1(アセチル化モノグリセライド)25重量部を、2軸押出機(日本製鋼社製:TEX30)で、設定温度100〜130℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混錬して、PHBHを含有するポリエステル樹脂組成物を得た。
【0050】
(フィルムの製造)
得られた樹脂組成物はインフレーションフィルム成形機(北進産業社製)を用い、円形ダイスリップ厚=1mm、円形ダイスリップ直径=100mm、設定温度=120〜140℃、表1に記載した引き取り速度でフィルムを成形した。
【0051】
(MD方向の引き裂き強度の測定)
得られたフィルム成形品またはシート成形品は、エルメンドルフ引き裂き強度測定器(熊谷理器工業社製)を用い、JIS 8116に準拠して引き裂き強度を測定した。
【0052】
(PHBHの分散状態の観察)
得られたフィルムまたはシート成形品から、ミクロトームを用い、MD方向が観察できるようにフィルムまたはシートの表面に平行に約100nm厚の薄片サンプルを切り取り、RuO
4で染色した後、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製、JEM−1200EX)を用い、加速電圧80kVでPHBHの分散状態を観察した。
図1に実施例1で得られたフィルムのTEM画像を示す。なお、図中、上下方向が引取り方向(MD方向)である。
【0053】
(長径の計算)
画像解析ソフト(三谷商事社製「Win Roof」)を用いて最大長径と平均長径を算出した。値は、1万倍の倍率で撮影したTEM画像の約18μm×約25μmの範囲で算出した。
前記画像はRuO
4染色でコントラストをつけているが、このコントラストがはっきりしないと解析ソフトで2値化処理によるPHBHからなる相の判別が困難な場合がある。そのような場合は、TEM写真から手作業で長径を求めた。
図2に前記画像解析ソフトでPHBHの長径を判別した画像の様子を示す。
【0054】
<実施例3>
実施例1で得られた樹脂組成物をシート成形して、実施例1と同様に引き裂き強度およびPHBHからなる相の最大長径と平均長径とを測定した。
【0055】
(シートの成形)
得られた樹脂組成物はTダイシート成形機(東洋精機製作所社製:ラボプラストミル)を用い、ダイスリップ厚=250μm、ダイスリップ幅=150mm、シリンダー設定温度=120〜140℃、ダイス設定温度=150〜160℃、表1に記載した引き取り速度でシートを成形した。
【0056】
(比較例1)
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−1)100重量部の代わりに溶融粘度が低い3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−2)100重量部を用いた以外は実施例1と同様に樹脂組成物を製造し、実施例2と同様の方法でフィルムを成形し、そのフィルムの引き裂き強度、PHBHの相の最大長径と平均長径を算出した。
図3に比較例1で得られたフィルムのTEM画像を示す。図中、上下方向がMD方向である。
【0057】
(比較例2)
比較例1で得られた樹脂組成物を用いて実施例3と同様の方法でシートを成形し、得られたシートについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径と平均長径を測定した。
【0058】
以上の実施例1〜3および比較例1、2の結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1で得られたシートにおけるPHBHの相(図中の白い部分)は、
図1に示すようにMD方向にやや延伸した楕円形状となっているものの、ランダムに分散して配置されており、表1に示すように、これらのPHBHの相の最大長径は18μm未満であり、平均長径は8μm未満であった。
また、実施例2で得られたフィルムおよび実施例3で得られたシートのPHBHの相も、実施例1と同様の分散相を形成しており、それぞれのPHBHの相の最大長径は18μm未満であり、平均長径は8μm未満であった。また、MD方向の引き裂き強度は実施例1〜3いずれも40mN/μm以上であり、高い値を示した。
これに対し、比較例1および比較例2で使用した原料A−2は分子量が低いので溶融粘度が低く、実施例1または2と同じ条件で樹脂組成物およびフィルムあるいはシート成形しても、
図3に示すように、PHBH(図中の白い部分)はDM方向に大きく延伸・配向し、最大長径が18μmより大きく、平均長径が8μmより大きくなり、長径が非常に大きな層状の相になった。そのため、引き裂き強度は実施例1、2に比べて低い値であった。
【0061】
<実施例4および5>
(樹脂組成物の製造)
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−3)100重量部に対して、ポリエステルB−1(PBAT)=80重量部、ポリエステルB−2(PBS)=25重量部、変性グリセリン化合物C−1(アセチル化モノグリセライド)=25重量部を、2軸押出機で、設定温度100〜130℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混錬して、PHBHを含有するポリエステル樹脂組成物を得た。
実施例4は実施例1と同様の方法、実施例5は実施例2と同様の方法でフィルムを成形し、得られたフィルムについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径の算出を実施例1と同様に実施した。
【0062】
<実施例6>
実施例4で得られた樹脂組成物を、実施例3と同様の方法でシート成形し、得られたシートについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径を測定した。
【0063】
<実施例7>
原料A−3の代わりに原料A−4を用いた以外は、実施例4と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。
得られたポリエステル樹脂組成物を実施例3と同様の方法でシート成形し、得られたシートについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径を測定した。
【0064】
<比較例3>
原料A−3=100重量部の代わりに原料A−2=100重量部を用いた以外は実施例5と同様にポリエステル樹脂組成物を製造した。
得られたポリエステル樹脂組成物を実施例5と同様の方法でフィルムを成形し、得られたフィルムについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径を算出した。
【0065】
<比較例4>
比較例3で得られた樹脂組成物を、実施例6と同様の方法でシート成形し、得られたシートについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径を測定した。
【0066】
以上の実施例4〜7および比較例3、4の結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2に示すとおり、実施例4および5で得られたフィルムおよび実施例6で得られたシートにおけるPHBH(原料A−3)は分子量が高いので溶融粘度が1,910Pa・sでありエコフレックス(原料B−1)よりも高かった((P3HA/PBAT)が1.0以上。)。そのため、PHBHの組成比が樹脂全量の45重量%を超えて50重量%近くになってもPHBHからなる相は分散状態を形成できた。さらに実施例4〜7で得られたフィルムおよびシートにおけるPHBHの相の最大長径はいずれも18μm未満であり、また平均長径はいずれも8μm未満であったため、MD方向の引き裂き強度はいずれも高い値を示した。一方、比較例3、4では、ポリエステル原料A−2が連続相を形成してしまい、島相(分散相)を形成しなかったため、最大長径と平均長径の算出はできなかった。
【0069】
<実施例8〜12>
表3に記載した配合で実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を製造し、表3に示す引き取り速度に調整した以外は実施例1と同様の方法でフィルムを成形した。得られたフィルムについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径を算出した。その結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
表3に示すとおり、実施例8〜12で得られたフィルムにおける最大長径はそれぞれ18μm未満であり、平均長径はそれぞれ8μm未満であったため、MD方向の引き裂き強度は高い値を示した。
【0072】
<比較例5>
変性グリセリン化合物C−1を用いない以外は実施例2と同様に樹脂組成物を製造し、この樹脂組成物からフィルムを成形し、得られたフィルムについて、引き裂き強度、PHBHの相の最大長径および平均長径を算出した。その結果を表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
比較例5では、最大長径、平均長径がいずれも実施例2のものと比べて大きく、引き裂き強度は逆に低くなっている。このことから、変性グリセリン化合物C−1がないと、樹脂組成物中のPHBHからなる非連続相はその最大長径や平均長径が長くなってしまって実施例1のように細かくならず、その結果、引き裂き強度が低くなると考える。
【0075】
<比較例6>
変性グリセリン化合物C−1の代わりに、変性グリセリンに類似の化合物としてヒマシ油脂肪酸(伊藤製油社製)を用いた以外は実施例1と同様の配合で樹脂組成物の製造を試みた(表4に組成を記載する)。しかし、原料A−1、原料B−1、B−2のような樹脂と混練しても相溶せずにブリードアウトしてしまい、樹脂組成物を得ることができなった。
【0076】
<比較例7>
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−1)100重量部の代わりに溶融粘度が低い3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−2)100重量部を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、引き取り速度を15m/分にした以外は実施例1と同様にしてフィルムを成形し、引き裂き強度とTEM画像からPHBH相の最大長径と平均長径を算出した。結果を表1に示すが、比較例5と同様に、最大長径、平均長径がいずれも実施例2のものと比べて大きく、引き裂き強度は逆に低くなっていた。
【0077】
<比較例8>
原料A−3=100重量部の代わりに原料A−2=100重量部を用いた以外は実施例4と同様にして樹脂組成物を製造し、引き取り速度を15m/分にした以外は実施例1と同様にしてフィルムを成形した。得られたフィルムのTEM画像を確認したところ、PHBH相が連続相を形成していたため、最大長径と平均長径の算出はできなかった。また、引っ張り強度を測定したところ、5.9mN/μmと非常に低いものであった。これらの結果を表2に示す。