(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導体の周囲が架橋シリコーンゴムを含む絶縁層で被覆されている絶縁電線において、前記架橋シリコーンゴムが、ミラブル型シリコーンゴムを架橋したものであり、前記絶縁層が、有機高分子によりなる表面処理剤により水酸化マグネシウムが表面処理された表面処理水酸化マグネシウムと重質炭酸カルシウム粉末とを含有し、前記重質炭酸カルシウム粉末の平均粒径が1μm以下であることを特徴とする絶縁電線。
前記表面処理剤としての有機高分子が、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、およびそれらの誘導体から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の絶縁電線。
前記表面処理剤の水酸化マグネシウムへのコート量が、前記表面処理水酸化マグネシウム全体に占める割合として、0.1〜10質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の絶縁材料では、未架橋のシリコーンゴムを架橋させる際の加熱により、水酸化アルミニウムの結晶水が放出されて脱水が起こり、発生した水によって絶縁材料が発泡するという問題がある。絶縁材料が発泡すると、絶縁層が外観不良となり、各種物性が低下するおそれがある。また、ゴム材料(シリコーンゴム)を用いているため、例えば塩化ビニル樹脂を用いた場合などに比べ、絶縁層が軟らかく、摩耗しやすいという問題がある。また、シリコーンゴムはガソリンに接触すると膨潤しやすく、耐ガソリン性に劣るという問題がある。
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、架橋シリコーンゴムを含む絶縁層を有する絶縁電線において、架橋時に発泡することに起因する絶縁層の外観不良による各種物性の低下を抑えるとともに、耐寒性や耐摩耗性、耐ガソリン性にも優れる絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る絶縁電線は、導体の周囲が架橋シリコーンゴムを含む絶縁層で被覆されている絶縁電線において、前記絶縁層が、有機高分子よりなる表面処理剤により水酸化マグネシウムが表面処理された表面処理水酸化マグネシウムと炭酸カルシウム粉末とを含有していることを要旨とするものである。
【0009】
炭酸カルシウム粉末の平均粒径は1μm以下であることが好ましい。この場合、炭酸カルシウム粉末は脂肪酸、ロジン酸またはシランカップリング剤により表面処理された表面処理炭酸カルシウム粉末であることが好ましい。炭酸カルシウム粉末の含有量は、架橋シリコーンゴム100質量部に対し、0.1〜100質量部の範囲内であることが好ましい。
【0010】
表面処理水酸化マグネシウムの含有量は、架橋シリコーンゴム100質量部に対し、0.1〜100質量部の範囲内であることが好ましい。表面処理剤としての有機高分子は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、およびそれらの誘導体から選択される1種類以上であることが好ましい。表面処理剤の水酸化マグネシウムへのコート量は、表面処理水酸化マグネシウム全体に占める割合として、0.1〜10質量%の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る絶縁電線は、架橋シリコーンゴムを含む絶縁層に、有機高分子よりなる表面処理剤により水酸化マグネシウムが表面処理された表面処理水酸化マグネシウムと炭酸カルシウム粉末とを含有している。
【0012】
水酸化マグネシウムは、シリコーンゴムの架橋時の加熱では、水酸化アルミニウムのように脱水することはない。すなわち水酸化マグネシウムが脱水する温度は、水酸化アルミニウムが脱水する温度と比較して高温であり、シリコーンゴムの加熱架橋の温度では水酸化アルミニウムのように脱水するおそれはない。したがって、本発明に係る絶縁電線によれば、水酸化マグネシウムの脱水による絶縁層の外観不良は発生せず、良好な外観が得られる。これにより、各種物性の低下が抑えられる。
【0013】
また、水酸化マグネシウムは、有機高分子よりなる表面処理剤により表面処理されているため、シリコーンゴム中における水酸化マグネシウムの分散性に優れる。これにより、耐寒性に優れる。このように水酸化マグネシウムの分散性が良好であると、シリコーンゴムと水酸化マグネシウムとを混練する際の負荷が小さくなり、混練時の温度上昇を抑えることができる。これにより、温度上昇に敏感な材料等を使用することが可能となり、絶縁電線として利用できる材料の幅が広がるという効果が得られる。
【0014】
さらに、水酸化マグネシウムとともに炭酸カルシウム粉末を用いることで、難燃性を維持しつつ、絶縁層にゴム材料を用いた場合の耐摩耗性の低下を抑えることができる。また、炭酸カルシウム粉末を用いることで、耐ガソリン性を向上することができる。これは、炭酸カルシウム粉末によりシリコーンゴム中にガソリンが浸透するのを抑え、ガソリンによるシリコーンゴムの膨潤が抑えられるためと推察される。
【0015】
この際、炭酸カルシウム粉末の平均粒径が1μm以下であると、耐摩耗性、耐ガソリン性の向上により効果がある。この場合、炭酸カルシウム粉末が脂肪酸、ロジン酸またはシランカップリング剤により表面処理されていれば、炭酸カルシウム微粒子の凝集が抑えられ、耐摩耗性、耐ガソリン性の向上により効果がある。そして、炭酸カルシウム粉末の含有量が特定範囲内にあると、耐寒性の低下を抑えつつ耐摩耗性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明に係る絶縁電線は、導体と、この導体の周囲を被覆する絶縁層とを有している。絶縁層は、架橋シリコーンゴムと、難燃剤としての水酸化マグネシウムと、炭酸カルシウム粉末とを含有している。水酸化マグネシウムは、有機高分子よりなる表面処理剤により表面処理されている。
【0018】
この絶縁層は、未架橋のシリコーンゴムを含む絶縁層用のゴム組成物を用いて形成される。未架橋のシリコーンゴムは、架橋剤を混練した後、加熱架橋させることで弾性体となるミラブル型(加熱架橋型)、或いは架橋前は液状である液状ゴム型のいずれを用いてもよい。液状ゴム型シリコーンゴムは、室温付近で架橋が可能な室温架橋型(RTV)と、混合後100℃付近で加熱すると架橋する低温架橋型(LTV)がある。
【0019】
未架橋のシリコーンゴムとしては、ミラブル型シリコーンゴムが好ましい。ミラブル型シリコーンゴムは、架橋温度が180℃以上と比較的高温であり安定性が良いので、混練の際の混合がし易く、作業性に優れるという利点がある。これに対し、液状ゴム型シリコーンゴムは、架橋温度が通常120℃程度と低温であるため、安定性が低く混練の際の発熱を低く抑制する必要があり、温度管理などの面から作業性にやや劣る。ミラブル型シリコーンゴムは、直鎖状のオルガノポリシロキサンを主原料(生ゴム)として、補強充填剤、増量充填剤、分散促進剤、その他添加剤などを配合したゴムコンパウンドとして市販されているものを用いてもよい。
【0020】
水酸化マグネシウムは、海水から結晶成長法で合成するもの、塩化マグネシウムと水酸化カルシウムの反応で合成するものなどの合成水酸化マグネシウム、或いは天然に産出する鉱物を粉砕した天然水酸化マグネシウムなどを用いることができる。
【0021】
表面処理水酸化マグネシウムは、表面処理されていることから、微粒子であっても二次凝集が抑えられており、微粒子であってもよいが、取り扱い性や入手容易性などの観点から、その平均粒径は0.1μm以上であることが好ましい。より好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上である。また、絶縁層の表面平滑性により優れるなどの観点から、その平均粒径は20μm以下であることが好ましい。より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0022】
表面処理剤としての有機高分子は、パラフィン系樹脂、オレフィン系樹脂などの炭化水素系樹脂が好ましい。炭化水素系樹脂は、具体的には、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィンの単独重合体、もしくは相互共重合体、或いはそれらの混合物、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及びそれらの誘導体などが挙げられる。表面処理剤は、少なくとも上記樹脂の1種類以上を含有していればよい。
【0023】
表面処理剤としての有機高分子は変性されていてもよい。変性剤としては、不飽和カルボン酸やその誘導体を用いることができる。具体的には不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、無水マレイン酸(MAH)、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステルなどが挙げられる。このうちで好ましいのは、マレイン酸、無水マレイン酸などである。なお、これらの表面処理剤としての有機高分子の変性剤は1種単独で使用しても、2種以上を併用してもいずれでもよい。
【0024】
表面処理剤としての有機高分子に酸を導入する方法としては、グラフト法や直接法などが挙げられる。また酸変性量としては、表面処理剤としての有機高分子の0.1〜20質量%、好ましくは0.2〜10質量%、さらに好ましくは0.2〜5質量%である。
【0025】
水酸化マグネシウムに対する表面処理剤による表面処理方法としては、特に限定されるものではない。水酸化マグネシウムの表面処理方法は、例えば、所定の粒径の水酸化マグネシウムに表面処理してもよいし、合成時に同時に処理してもよい。また処理方法としては、溶媒を用いた湿式処理でもよいし、溶媒を用いない乾式処理でもよい。湿式処理の際、好適な溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒などを用いることができる。また、絶縁層の組成物を調製する際に、表面処理剤を他のゴム原料などの材料と同時に混練してもよい。
【0026】
表面処理剤の水酸化マグネシウムへのコート量(表面処理剤の添加量)は、その粒径にもよるが、水酸化マグネシウム粒子の凝集が抑えられやすいなどの観点から、表面処理水酸化マグネシウム全体に占める割合として0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0027】
表面処理水酸化マグネシウムの含有量は、架橋ゴム100質量部に対し、0.1〜100質量部の範囲であることが好ましい。より好ましくは0.5〜95質量部の範囲である。表面処理水酸化マグネシウムの含有量が0.1質量部以上であると、優れた難燃性を確保できる。また、表面処理水酸化マグネシウムの含有量が100質量部以下であると、耐寒性の低下を抑えつつ難燃性の向上を図ることができる。
【0028】
炭酸カルシウム粉末は、架橋シリコーンゴムを含む絶縁層の強度向上に効果がある。絶縁層の強度を向上させることにより、耐摩耗性を向上させることができる。つまり、架橋シリコーンゴムよりも削れにくい炭酸カルシウム粉末を配合することにより、絶縁層の強度が向上し、耐摩耗性が高められる。また、炭酸カルシウム粉末は、絶縁層の耐ガソリン性を向上することができる。これは、炭酸カルシウム粉末によりシリコーンゴム中にガソリンが浸透するのを抑え、ガソリンによるシリコーンゴムの膨潤が抑えられるためと推察される。
【0029】
絶縁層の摩耗は、炭酸カルシウム粉末が絶縁層から脱落することによって起こると推察される。この観点からいえば、炭酸カルシウム粉末の粒径は小さいほうが好ましい。絶縁層が表面平滑性に優れ、摩擦力を受けたときに炭酸カルシウム粉末が絶縁層の表面から脱落しにくくなるからである。また、炭酸カルシウム粉末の粒径が小さいほど嵩が大きくなるため、単位質量において炭酸カルシウム粉末によりシリコーンゴム中にガソリンが浸透するのを抑える効果はより高まる。また、炭酸カルシウム粉末の粒径が小さいと、絶縁層における炭酸カルシウム粉末の分散性を高くでき、耐摩耗性の向上により効果がある。また、粒径が小さいと、絶縁層の熱劣化後の伸びの低下が小さく、耐熱性にも優れる。炭酸カルシウム粉末の粒径が小さいときには、脂肪酸やロジン酸やシランカップリング剤などの表面処理剤により表面処理することで、炭酸カルシウム微粒子の凝集が抑えられ、耐摩耗性の向上により効果がある。
【0030】
炭酸カルシウム粉末の平均粒径は、具体的には、1μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下である。なお、炭酸カルシウム粉末の平均粒径の下限は特に限定されるものではないが、取り扱い性に優れるなどの観点から、好ましくは0.001μm以上、より好ましくは0.005μm以上、さらに好ましくは0.01μm以上である。
【0031】
炭酸カルシウム粉末には、化学反応によって作られる合成炭酸カルシウムと、石灰石を粉砕して作られる重質炭酸カルシウムとがある。合成炭酸カルシウムは、脂肪酸やロジン酸やシランカップリング剤などの表面処理剤で表面処理を行うことによりサブミクロン以下(数十nm程度)の一次粒子径の微粒子として用いることができる。表面処理された微粒子の平均粒径は一次粒子径で表される。一次粒子径は、電子顕微鏡観察により測定することができる。重質炭酸カルシウムは粉砕品であり、特段、脂肪酸などで表面処理を行わなくてもよく、数百nm〜1μm程度の平均粒径の粒子として用いることができる。平均粒径は、空気透過法により測定することができる。炭酸カルシウム粉末としては、合成炭酸カルシウムおよび重質炭酸カルシウムのいずれを用いることもできる。
【0032】
ベースとなるゴム材料がシリコーンゴムであることから、炭酸カルシウム粉末を表面処理する表面処理剤としてシランカップリング剤を用いると、シリコーンゴムに対する炭酸カルシウム粉末の分散性が向上し、シリコーンゴムとの間の接着力が向上する。その結果、絶縁層の耐寒性、耐摩耗性等の特性をさらに良好にすることができる。
【0033】
炭酸カルシウム粉末の含有量は、架橋シリコーンゴム100質量部に対し0.1〜100質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは1〜95質量部の範囲内、さらに好ましくは5〜90質量部の範囲内である。炭酸カルシウム粉末の含有量が少ないと、耐摩耗性、耐ガソリン性を高める効果が低下しやすい。また、シリコーンゴムとの混練に時間がかかりやすい。炭酸カルシウム粉末の含有量が多いと、伸びの低下により耐寒性が低下しやすい。炭酸カルシウム粉末の含有量が特定範囲内にあると、耐寒性の低下を抑えつつ耐摩耗性、耐ガソリン性の向上を図ることができる。
【0034】
炭酸カルシウム粉末としては、特に限定されるものではないが、例えば白石カルシウム社製の合成炭酸カルシウムや重質炭酸カルシウムなどが挙げられる。合成炭酸カルシウムとしては、より具体的には、白艶華CC(一次粒子径0.05μm)、白艶華CCR(一次粒子径0.08μm)、白艶華CCR−B(一次粒子径0.08μm)、白艶華O(一次粒子径0.03μm)、白艶華DD(一次粒子径0.05μm)などが挙げられる。これらは、表面処理剤により表面処理されている。重質炭酸カルシウムとしては、ソフトン3200(平均粒径0.7μm)、ソフトン2600(平均粒径0.85μm)、ソフトン2200(平均粒径1.0μm)などが挙げられる。これらは、表面処理剤により表面処理されていない。また、炭酸カルシウム粉末としては、丸尾カルシウム社製のR重炭(平均粒径7.4μm)、重炭N−35(平均粒径6.3μm)、重質炭酸カルシウム(平均粒径3.2μm)、スーパーS(平均粒径2.7μm)、スーパー♯1500(平均粒径1.5μm)などが挙げられる。これらは重質炭酸カルシウムであり、表面処理剤により表面処理されていない。
【0035】
絶縁層用のゴム組成物において、未架橋のシリコーンゴムは、加熱等により架橋することが可能であるが、架橋剤(加硫剤)を用いて架橋しても良い。
【0036】
架橋剤は、未架橋のゴムの種類や架橋条件などに応じて適宜選択することができる。架橋剤としては、例えば、有機過酸化物などのラジカル発生剤、金属石けん、アミン、チオール、チオカルバミン酸塩、有機カルボン酸などの化合物を挙げることができる。架橋剤としては、有機過酸化物などが、架橋速度の向上の点から好ましい。
【0037】
有機過酸化物としては、例えば、ジへキシルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンなどのジアルキルパーオキサイド、n−ブチル4,4−ジ(t―ブチルパーオキサイド)バレレートなどのパーオキシケタールなどを挙げることができる。
【0038】
架橋剤の配合量は、適宜決定することができる。架橋剤の配合量は、例えば、未架橋のゴムと架橋剤の合計量に対し、0.01〜10質量%の範囲で配合するのが好ましい。
【0039】
絶縁層は、架橋ゴム、特定の難燃剤の他に、絶縁層の特性を損なわない範囲で、各種の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、絶縁電線の絶縁層に用いられる一般的な添加剤を挙げることができる。具体的には、他の難燃剤、架橋剤、充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、顔料などを挙げることができる。
【0040】
本発明に係る絶縁電線は、例えば次のようにして製造することができる。すなわち、まず、絶縁層を形成するための絶縁層用のゴム組成物を調製する。次いで、調製したゴム組成物を導体の周囲に押出して、導体の周囲に未架橋ゴムを含む被覆層を成形する。次いで、加熱などの架橋手段により、被覆層の未架橋ゴムを架橋する。これにより、導体の周囲が架橋ゴムを含む絶縁層により被覆された絶縁電線を製造することができる。また、本発明に係る絶縁電線は、導体の周囲に絶縁層用のゴム組成物を塗工して被覆層を形成し、加熱などの架橋手段により被覆層の未架橋ゴムを架橋することによっても製造することができる。
【0041】
絶縁層用のゴム組成物は、未架橋のシリコーンゴムと、水酸化マグネシウムと、炭酸カルシウム粉末と、必要に応じて配合される架橋剤などの各種添加剤とを混練することにより調製することができる。ゴム組成物の成分を混練する際には、例えば、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸混練押出機、ロールなどの通常の混練機を用いることができる。
【0042】
絶縁層用のゴム組成物の押出成形には、通常の絶縁電線の製造に用いられる電線押出成形機などを用いることができる。導体は、通常の絶縁電線に使用されるものを利用できる。例えば、銅系材料やアルミニウム系材料よりなる単線の導体や撚線の導体を挙げることができる。また、導体の径や絶縁層の厚みなどは特に限定されず、絶縁電線の用途などに応じて適宜決めることができる。
【0043】
以上の構成の本発明に係る絶縁電線は、架橋シリコーンゴムを含む絶縁層に、有機高分子よりなる表面処理剤により水酸化マグネシウムが表面処理された表面処理水酸化マグネシウムと炭酸カルシウム粉末とを含有している。
【0044】
水酸化マグネシウムは、シリコーンゴムの架橋時の加熱では、水酸化アルミニウムのように脱水することはない。すなわち水酸化マグネシウムが脱水する温度は、水酸化アルミニウムが脱水する温度と比較して高温であり、シリコーンゴムの加熱架橋の温度では水酸化アルミニウムのように脱水するおそれはない。したがって、本発明に係る絶縁電線によれば、水酸化マグネシウムの脱水による絶縁層の外観不良が発生せず、良好な外観が得られる。これにより、各種物性の低下が抑えられる。
【0045】
また、水酸化マグネシウムは、有機高分子よりなる表面処理剤により表面処理されているため、シリコーンゴム中における水酸化マグネシウムの分散性に優れる。これにより、耐寒性に優れる。このように水酸化マグネシウムの分散性が良好であると、シリコーンゴムと水酸化マグネシウムとを混練する際の負荷が小さくなり、混練時の温度上昇を抑えることができる。これにより、温度上昇に敏感な材料等を使用することが可能となり、絶縁電線として利用できる材料の幅が広がるという効果が得られる。
【0046】
さらに、水酸化マグネシウムとともに炭酸カルシウム粉末を用いることで、難燃性を維持しつつ、絶縁層にゴム材料を用いた場合の耐摩耗性の低下を抑えることができる。また、炭酸カルシウム粉末を用いることで、耐ガソリン性を向上することができる。これは、炭酸カルシウム粉末によりシリコーンゴム中にガソリンが浸透するのを抑え、ガソリンによるシリコーンゴムの膨潤が抑えられるためと推察される。
【0047】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、上記態様の絶縁電線は、単一層の絶縁層から構成したが、本発明の絶縁電線は、2層以上の絶縁層から構成してもよい。
【0048】
本発明に係る絶縁電線は、自動車、電子・電気機器に使用される絶縁電線に利用することができる。特に高い耐熱性と難燃性を要求される用途の絶縁電線として好適である。例えば自動車用絶縁電線において、このような高い耐熱性が要求される用途としては、ハイブリッド車や電気自動車のエンジンとバッテリを繋ぐパワーケーブルなどのような高電圧、大電流の用途などが挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例、比較例を示す。
【0050】
〔実施例1〜9〕
表1に示す配合組成となるように各成分を混合することにより、未架橋のシリコーンゴム、水酸化マグネシウムおよび炭酸カルシウム粉末を含む絶縁層用のゴム組成物を調製した。次いで、押出成形機を用いて、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅撚線の導体(断面積0.5mm
2)の外周に絶縁層用のゴム組成物を押出することにより、未架橋のゴムを含む被覆層を形成した。次いで、200℃×4時間の条件で被覆層の熱処理を行うことにより、未架橋のゴムを架橋させた。これにより、実施例1〜9の絶縁電線を得た。
【0051】
〔比較例1〜7〕
表2に示す配合組成となるように各成分を混合することにより、未架橋のシリコーンゴムおよび水酸化アルミニウムを含む絶縁層用の組成物を調製した。次いで、実施例と同様にして、比較例1〜7の絶縁電線を得た。
【0052】
実施例1〜9、比較例1〜7の絶縁電線について、耐寒性試験、電線の外観観察、耐摩耗性試験、耐ガソリン性試験を行い、評価した。その結果を表1及び表2に合わせて示す。尚、表1及び表2の各成分組成、試験方法及び評価は、下記の通りである。
【0053】
〔表1及び表2の成分〕
・シリコーンゴム1:信越化学社製、931(組成:ジメチルシロキサン)
・シリコーンゴム2:信越化学社製、541(組成:ジメチルシロキサン)
・シリコーンゴム3:東芝社製、2267(組成:ジメチルシロキサン)
・シリコーンゴム4:東芝社製、2277(組成:ジメチルシロキサン)
・PE5%コート水酸化マグネシウム
水酸化マグネシウム:結晶成長法、平均粒径1.0μm
表面処理剤:ポリエチレン(三井化学社製、800P)
表面処理剤の使用量:ポリエチレンと水酸化マグネシウムの合計量の5質量%
・炭酸カルシウム粉末1:白石カルシウム社製、白艶華CC、一次粒子径0.05μm、脂肪酸表面処理品
・炭酸カルシウム粉末2:白石カルシウム社製、ソフトン2200、平均粒径1.0μm
・炭酸カルシウム粉末3:丸尾カルシウム社製、スーパー♯1500、平均粒径1.5μm
・架橋剤:日本油脂社製、パーへキシルD(ジ−t−へキシルパーオキサイド)
・水酸化アルミニウム:昭和電工社製、ハイジライトH42
【0054】
〔耐寒性試験方法〕
JIS C3055に準拠して行った。すなわち作製した絶縁電線を38mmの長さに切断し試験片とした。この試験片を耐寒性試験機に装着し、所定の温度まで冷却し、打撃具で打撃して、試験片の打撃後の状態を観察した。5本の試験片を用いて、5本の試験片が全て割れた温度を耐寒温度とした。
【0055】
〔押出外観の評価〕
製品の表面に凹凸およびザラツキが見られない場合を良好「○」、製品の表面に凹凸およびザラツキが見られる場合を不良「×」とした。
【0056】
〔耐摩耗性試験方法〕
社団法人自動車技術規格「JASO D618」に準拠して、ブレード往復法により試験を行った。すなわち、実施例、比較例の絶縁電線を750mmの長さに切り出して試験片とした。そして、23±5℃の室温下で試験片の被覆材(絶縁層)に対し軸方向に10mm以上の長さでブレードを毎分50回の速さで往復させ、導体に接するまでの往復回数を測定した。この際、ブレードにかかる荷重は、7Nとした。回数については200回以上のものを合格「○」とし、200回未満のものを不合格「×」とした。また、回数が300回以上のものは特に優れる「◎」とした。
【0057】
〔耐ガソリン性試験方法〕
ISO6722(2011年版)のメソッド2に準拠した。すなわち、作製した絶縁電線を600mmの長さに切断して試験片とし、ISO1817の液体Cに23℃で20時間浸漬し、電線外径の最大変化率が15%以下のものを良好「○」、最大変化率が10%以下のものを特に良好「◎」、最大変化率が15%を超えるものを不良「×」とした。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表1に示すように実施例1〜9の絶縁電線は、いずれも電線の外観及び耐寒性が良好で耐摩耗性、耐ガソリン性に優れることが確認できた。このうち、炭酸カルシウム粉末の粒径がより小さい実施例1〜7は、耐ガソリン性の面でより優れていることが確認できた。これに対し、比較例1〜7の絶縁電線は、表2に示すように、絶縁層の表面に発泡が見られ外観が不良であった。また、比較例1〜7の絶縁電線の耐寒性、耐摩耗性、耐ガソリン性は、それぞれ対応する実施例1〜7の絶縁電線の耐寒性、耐摩耗性と比較して、いずれも実施例よりも低下していた。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。