(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のハイブリッド車両の駆動トルク制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施の形態1に基づいて説明する。
【0011】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1のハイブリッド車両の制御装置の構成を説明する。
この構成の説明にあたり、実施の形態1におけるハイブリッド車両の制御装置の構成を、「パワートレーン系構成」、「制御システム構成」、「統合コントローラの構成」、「エンジン始動制御演算処理構成」に分けて説明する。
【0012】
[パワートレーン系構成]
まず、実施の形態1のハイブリッド車両のパワートレーン系構成を説明する。
図1は、実施の形態1のハイブリッド車両の駆動トルク制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【0013】
実施の形態1におけるハイブリッド車両の駆動系は、
図1に示すように、エンジンEngと、フライホイールFWと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪(駆動輪)RLと、右後輪(駆動輪)RRと、左前輪FLと、右前輪FRとを備えている。
【0014】
エンジンEngは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、エンジンコントローラ1からのエンジン制御指令に基づいて、エンジン始動制御やエンジン停止制御やスロットルバルブのバルブ開度制御が行われる。なお、エンジン出力軸には、フライホイールFWが設けられている。
【0015】
第1クラッチCL1は、エンジンEngとモータジェネレータMGの間に介装されたクラッチである。この第1クラッチCL1は、第1クラッチコントローラ5からの第1クラッチ制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された第1クラッチ制御油圧により、半クラッチ状態を含み締結・開放が制御される。また、この第1クラッチCL1としては、例えば、ピストン14aを有する油圧アクチュエータ14により締結・開放が制御される乾式単板クラッチが用いられる。
【0016】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、モータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。
このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作する(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)。さらに、モータジェネレータMGは、ロータがエンジンEngや駆動輪から回転エネルギを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、ダンパーを介して自動変速機ATの変速機入力軸に連結されている。
【0017】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチである。この第2クラッチCL2は、ATコントローラ7からの第2クラッチ制御指令に基づき、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結とスリップ開放を含み締結・開放が制御される。この第2クラッチCL2としては、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられる。
なお、第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに付設されるAT油圧コントロールバルブユニットCVUに内蔵している。
【0018】
自動変速機ATは、前進5速/後退1速等の有段階の変速段を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える有段変速機である。そこで、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、トルク伝達経路に配置される最適なクラッチやブレーキを選択している。なお、第2クラッチCL2は、自動変速機ATの摩擦締結要素を用いることなく、図において二点鎖線により示すように、専用のクラッチを、モータジェネレータMGと自動変速機ATとの間、あるいは、自動変速機ATと駆動輪(左右後輪RL,RR)との間に介在させてもよい。
【0019】
また、自動変速機ATの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0020】
[制御システム構成]
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。
実施の形態1におけるハイブリッド車両の制御系は、
図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有している。なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、情報交換が互いに可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0021】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報と、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、エンジンEngのスロットルバルブアクチュエータ等へ出力する。
【0022】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報と、統合コントローラ10からの目標MGトルク指令および目標MG回転数指令と、他の必要情報を入力する。そして、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電容量をあらわすバッテリSOCを監視していて、このバッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いられると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0023】
第1クラッチコントローラ5は、油圧アクチュエータ14のピストン14aのストローク位置を検出する第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの目標CL1トルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVU内の第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。
【0024】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と、車速センサ17と、他のセンサ類18(変速機入力回転数センサ、インヒビタースイッチ等)からの情報を入力する。そして、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点がシフトマップ上で存在する位置により最適な変速段を検索し、検索された変速段を得る制御指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVUに出力する。また、ATコントローラ7は、上記自動変速制御に加えて、統合コントローラ10から目標CL2トルク指令を入力した場合、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVU内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する第2クラッチ制御を行う。
なお、シフトマップとは、アクセル開度APOと車速VSPに応じてアップシフト線とダウンシフト線を書き込んだマップであって、
図8に一例を示している。
【0025】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19と、ブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの回生協調制御指令と、他の必要情報を入力する。そして、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(液圧制動力やモータ制動力)で補うように、回生協調ブレーキ制御を行う。
【0026】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21や他のセンサ・スイッチ類22からの必要情報およびCAN通信線11を介して情報を入力する。そして、エンジンコントローラ1へ目標エンジントルク指令、モータコントローラ2へ目標MGトルク指令および目標MG回転数指令、第1クラッチコントローラ5へ目標CL1トルク指令、ATコントローラ7へ目標CL2トルク指令、ブレーキコントローラ9へ回生協調制御指令を出力する。
【0027】
図2は、実施の形態1のハイブリッド車両の制御装置が適用されたハイブリッド車両の統合コントローラ10にて実行される演算処理を示す制御ブロック図である。
図3は、ハイブリッド車両の統合コントローラ10でのモード選択処理を行う際に用いられるEV-HEV選択マップを示す図である。以下、
図2及び
図3に基づき、実施の形態1の統合コントローラ10にて実行される演算処理を説明する。
【0028】
統合コントローラ10は、
図2に示すように、目標駆動トルク演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400とを有する。
目標駆動トルク演算部100では、
図4Aに示す目標定常駆動トルクマップと
図4Bに示すMGアシストトルクマップとを用いて、アクセル開度APOと車速VSPに応じた変速機入力回転数とから、目標定常駆動トルクとMGアシストトルクを算出する。
【0029】
モード選択部200では、
図5に示す車速毎に設定されたアクセル開度APOにより設定されているエンジン始動停止線マップを用いて、「EV走行モード」または「HEV走行モード」を目標走行モードとして選択する。なお、エンジン始動線およびエンジン停止線は、バッテリSOCが低くなるに連れて、アクセル開度が小さくなる方向に低下する。
【0030】
目標充放電演算部300では、
図6に示す走行中発電要求出力マップを用いて、バッテリSOCに基づいて、目標発電出力を演算する。また、目標充放電演算部300では、現在の動作点から
図7において太線にて示す最良燃費線までエンジントルクを上げるために必要な出力を演算し、目標発電出力と比較して少ない出力を要求出力として、エンジン出力に加算する。
【0031】
動作点指令部400では、アクセル開度APOと目標駆動トルクtFoO、MGアシストトルクと目標モードと車速VSPと目標充放電電力(要求発電出力)tPとから、これらを動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標MGトルクと目標MG回転数と目標CL1トルクと目標CL2トルクと目標変速比と、を演算する。これらの演算結果は、CAN通信線11を介して各コントローラ1,2,5,7に出力する。
【0032】
さらに、動作点指令部400では、エンジン始動処理を実行する。
すなわち、モード選択部200では、EV走行中にアクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせで決まる運転点がEV→HEV切り換え線を越えてHEV領域に入るとき、EV走行モードからエンジン始動を伴うHEV走行モードへのモード切り換えを行う。
また、モード選択部200では、HEV走行中に運転点がHEV→EV切り換え線を越えてEV領域に入るとき、HEV走行モードからエンジン停止およびエンジン切り離しを伴うEV走行モードへの走行モード切り換えを行う。
【0033】
この走行モード切換に応じ、動作点指令部400では、EV走行モードにて
図5に示すエンジン始動線をアクセル開度APOが越えた時点で、始動処理を行なう。この始動処理は、第2クラッチCL2に対し、半クラッチ状態にスリップさせるようトルク容量を制御し、第2クラッチCL2のスリップ開始と判断した後に、第1クラッチCL1の締結を開始してエンジン回転を上昇させる。そして、エンジン回転が初爆可能な回転数に達成したらエンジンEngを作動させてモータ回転数とエンジン回転数とが近くなったところで第1クラッチCL1を完全に締結し、その後、第2クラッチCL2をロックアップさせてHEV走行モードに遷移させる。
【0034】
変速制御部500では、目標CL2トルク容量と目標変速比とから、これらを達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。
図8は、変速線を示している。すなわち、変速制御部500では、車速VSPとアクセル開度APOとに基づいて、現在の変速段から次変速段を判定し、変速要求があれば変速クラッチを制御して変速させる。
【0035】
以上の構成を備えた統合コントローラ10は、走行モードとしては
図9に示すように、EVモードおよびHEVモードの他に、これら走行モード間での切り換え過渡期におけるWSCモードを設定する。
EVモードは、モータジェネレータMGの動力のみで走行するモードである。このEVモードでは、エンジンEngを停止させた状態に保ち、第1クラッチCL1を開放し、第2クラッチCL2の締結またはスリップ締結により自動変速機ATを介してモータジェネレータMGからの出力回転のみを左右後輪RL,RRに伝達する。
HEVモードは、エンジンEngとモータジェネレータMGの動力で走行するモードであり、第2クラッチCL2ならびに第1クラッチCL1を締結させ、エンジンEngからの出力回転およびモータジェネレータMGからの出力回転を、自動変速機ATを介して左右後輪RL,RRに伝達する。
WSCモードは、「HEVモード」からのP,N→Dセレクト発進時、あるいは、「EVモード」や「HEVモード」からのDレンジ発進時に、クラッチトルク容量をコントロールしながら発進するモードである。この場合、モータジェネレータMGの回転数制御により第2クラッチCL2のスリップ締結状態を維持し、第2クラッチCL2を経過するクラッチ伝達トルクが、車両状態やドライバ操作に応じて決まる要求駆動トルクとなるようにコントロールしながら発進する。この時、第2クラッチCL2がスリップ締結状態であることにより、モード切換ショックを吸収して、ショック対策を行うことができる。なお、「WSC」とは「Wet Start Clutch」の略である。
【0036】
[エンジン始動制御処理構成]
図10は、上記のようにEVモードからHEVモードに移行する際に、統合コントローラ10のエンジン始動制御部に相当する部分にて実行されるエンジン始動制御の処理の流れを示している。
【0037】
このエンジン始動制御は、前述のように、アクセル開度APOおよび車速VSPが、
図5に示すエンジン始動線を横切った時点で開始される。
最初のステップS101では、第2クラッチCL2の伝達トルク容量指令値tTcl2を、スリップ制御時値Tslipまで低下させた後、スリップイン制御時CL2指令勾配R0(
図13参照)により増加させる。また、これと並行して、モータジェネレータMGの出力トルクであるモータトルクTmotを目標駆動トルクtFoO(目標定常駆動トルク)よりも上昇させ、次のステップS102に進む。
【0038】
次のステップS102では、第2クラッチCL2のスリップ判定を行い、スリップが生じていない場合はステップS101に戻り、スリップが生じていればステップS103に進む。なお、このスリップ状態の判定は、モータ回転数Nmと、自動変速機ATの出力回転数×ギヤ比Noutと、の差に基づいて判定する。
【0039】
第2クラッチCL2のスリップ時に進むステップS103では、第1クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl1を、モータジェネレータMGからEngに始動用トルク伝達のために予め設定されたクランキング時トルクTcrまで上昇させ、ステップS104に進む。
クランキング時トルクTcrは、駆動トルクの上昇と、第2クラッチCL2の安定的なスリップを維持するため、次式で表される範囲内の値とする。
Tcl1min<Tcr< Tmmax− tTcl2=Tmmax−tTi
ここで、Tcl1minは、エンジン点火前であればエンジンフリクション値とし、エンジン点火後であればゼロとする。Tmmaxは、モータジェネレータMGの最大トルクである。tTcl2は、第2クラッチCL2の伝達トルク容量指令値である。tTiは、目標変速機入力トルクであり、目標駆動トルクtFoOとする。
【0040】
ステップS104では、第2クラッチ伝達トルク容量としての第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を、第1増加勾配R1により上昇させた後、ステップS105に進む。
ここで、第1増加勾配R1および後述する第2増加勾配R2、第3増加勾配R3は、動作点指令部400(
図2参照)に含まれる
図12に示すエンジン始動制御部400aの増加勾配設定部400cに保存された設定マップに基づいて設定される。すなわち、各増加勾配R1,R2,R3は、
図11Aに示す各増加勾配R1,R2,R3の設定マップに基づいて、アクセル開度APOが大きいほど勾配が急に設定される。また、各増加勾配R1,R2,R3は、R2<R1<R3の順に増加勾配が急になるように設定されている。そして、各増加勾配R1,R2,R3は、自動変速機ATのギヤ段毎に、高ギヤ段ほど増加勾配が急になるように設定されている。
さらに、後述するが、第1増加勾配R1および第2増加勾配R2は、エンジンEngのクランキングが終了して第1クラッチCL1を締結するタイミングで、クランキング中トルク制限値Tcrlimに達することを目安に設定されている。
【0041】
図10に戻り、ステップS105では、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2が、勾配切換閾値T1以上となったか否か判定し、勾配切換閾値T1以上となったらステップS106に進み、勾配切換閾値T1を越えない場合はステップS107に進む。
【0042】
第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2が勾配切換閾値T1に達した場合に進むステップS106では、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を第2増加勾配R2により上昇させた後、ステップS107に進む。このステップS106では、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を、第1増加勾配R1に比べて緩やかな第2増加勾配R2により上昇させる。また、このステップS106では、初期状態で0の第2増加勾配フラグF=1にセットする。
以上のステップS102〜S106では、第2クラッチCL2のスリップ開始後、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を、第1増加勾配R1により上昇させ、その後、勾配切換閾値T1に達したら、第2増加勾配R2により上昇させる。
【0043】
なお、勾配切換閾値T1は、
図12に示す増加勾配切換閾値設定部400dにおいて、
図11Bに示す設定マップに基づいて、アクセル開度APOが大きくなるほど、大きな値となるように設定される。また、この勾配切換閾値T1は、アクセル開度APOが急加速相当の所定値以上では、後述するクランキング中トルク制限値Tcrlimよりも大きな値に設定される。
【0044】
第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を第2増加勾配R2により増加させた後に進むステップS107では、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2がクランキング中トルク制限値Tcrlim以上であるか否か判定する。そして、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2がクランキング中トルク制限値Tcrlim未満であればステップS109に進む。一方、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2が、クランキング中トルク制限値Tcrlim以上の場合はステップS108に進む。このクランキング中トルク制限値Tcrlimは、下記の演算式(1)により求める。
Tcrlim=Tmotmax−tTcl1−クラッチばらつき量 ・・・・(1)
なお、Tmotmaxは、モータトルク上限値、tTcl1は、第1クラッチCL1の伝達トルク容量指令値、クラッチばらつき量は、両クラッチCL1,CL2のトルクばらつき量である。
【0045】
ステップS107にて第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2≧クランキング中トルク制限値Tcrlimの場合に進むステップS108では、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2をクランキング中トルク制限値Tcrlimに制限した後、ステップS109に進む。
【0046】
次のステップS109では、第1クラッチCL1のスリップ回転量が収束判定閾値以下であるか否か判定し、スリップ回転量が収束判定閾値よりも大きければステップS112に進み、収束判定閾値以下になればステップS110に進む。なお、収束判定閾値は、エンジンEngが始動したことを判定する値であって、エンジン回転数Neと、自動変速機ATの出力回転数×ギヤ比Noutと、の差が設定値未満のほぼ等回転となったことを示す値である。
【0047】
ステップS109にて、第1クラッチCL1のスリップ回転量が収束判定閾値よりも大きい場合に進むステップS112では、第2増加勾配フラグFが1であるか否か判定し、F=1の場合はステップS106に戻り、F≠1の場合はステップS103に戻る。
【0048】
第1クラッチCL1のスリップ量が収束判定値以下に低下した場合に進むステップS110では、第1クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl1を完全締結相当まで上昇させた後、ステップS111に進む。
そして、ステップS111では、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を、目標駆動トルクtFoOまで第3増加勾配R3により上昇させた後、始動処理を終了する。
【0049】
以上のように、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2は、第1増加勾配R1にて増加させた場合、勾配切換閾値T1の設定に応じ、勾配切換閾値T1に達した場合は、その後、第2増加勾配R2により増加される。また、第1増加勾配R1にて増加させた場合に、勾配切換閾値T1に達する前にクランキング中トルク制限値Tcrlimに達した場合(T1>Tcrlimの場合)は、クランキング中トルク制限値Tcrlimで制限される。
【0050】
一方、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2が勾配切換閾値T1に達した後、第2増加勾配R2により上昇された場合は、クランキング中トルク制限値Tcrlimに達すると、クランキング中トルク制限値Tcrlimで制限される。また、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2がクランキング中トルク制限値Tcrlimに達する前に、第1クラッチCL1のスリップ量が収束判定値以下に低下した場合は、第3増加勾配R3にて増加される。
【0051】
(実施の形態1の作用)
次に、実施の形態1の作用を、
図13のタイムチャートに示す動作例に基づいて説明する。
この動作例は、EVモードにてアクセル開度0の惰性走行を行っている状態から、ドライバがアクセルペダルを踏み込んで加速操作を行い、HEVモードに移行する場合の動作例である。
【0052】
図においてt0の時点は、上記のようにEVモードにてアクセル開度0の惰性走行を行っている状態である。
この状態からt1の時点でアクセルペダルの踏込が開始され、アクセル開度APOが立ち上がり、その後、t3の時点の近傍でアクセル開度APOが一定に保たれる。
【0053】
このようなアクセルペダル操作(加速操作)が行われた場合、t2の時点でエンジン始動判定が成されている。これは、アクセル開度APOおよび車速VSPがエンジン始動線(
図5参照)を横切ることにより判定される。
エンジン始動判定が成されると、
図10に示すエンジン始動制御が実行され、まず、第2クラッチCL2をスリップさせながらモータジェネレータMGの駆動トルクであるモータトルクTmotを上昇させる。この場合、第2クラッチ伝達トルク容量としての第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2は、まず、スリップ制御時値Tslipまで低下された後、スリップイン制御時CL2指令勾配R0で上昇される(ステップS101)。
【0054】
そして、第2クラッチCL2にスリップが生じたt3の時点で、第1クラッチCL1を締結させて、モータ回転をエンジンEngに入力してクランキングを開始する(ステップS102→S103)。
その後、第2クラッチCL2をスリップ状態に維持し、エンジン回転数が所定回転数まで上昇して、始動が確認されると両クラッチCL1,CL2を締結させるのであるが、このときの課題を比較例に基づいて説明する。
【0055】
(比較例における解決すべき課題)
エンジンEngのクランキング中は、第2クラッチCL2の伝達トルク容量には、クランキング中トルク制限値Tcrlimが設定され、第2クラッチCL2をスリップ状態に維持し、エンジンEngの回転変動などが駆動輪側に伝達されないようにしている。
すなわち、
図13においてt3の時点からt5の時点までの間は、第2クラッチCL2の伝達トルク容量が、クランキング中トルク制限値Tcrlimを越えないようにして、スリップ状態に保たれている。
【0056】
このとき、比較例では、第1クラッチCL1のスリップ締結開始したt3の時点から、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を、図において点線で示すように、目標駆動トルクtFoOに応じた一定勾配で上昇させていた。
この場合、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2が、図において点線にて示すように、早期にクランキング中トルク制限値Tcrlimに達し(t4b)、それ以降、クランキング中トルク制限値Tcrlimに制限された状態に維持される。
このため、車両加速度Gは、
図13において点線にて示すように、t4の時点近傍からt5の時点以降まで、一定に保持され、加速のもたつきが生じていた。
【0057】
(実施の形態1の動作)
まず、本実施の形態1において、急加速以外の加速操作を行った場合について説明する。
本実施の形態1では、第2クラッチCL2のスリップが開始されたt3の時点で、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を、まず、アクセル開度APOに応じた第1増加勾配R1により増加させる(ステップS102〜S104)。
その後、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2が勾配切換閾値T1に達したt4の時点からは、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を、第2増加勾配R2により増加させる(ステップS105→S106の処理)。この第2増加勾配R2は、第1増加勾配R1よりも緩やかに設定されている。
この第1増加勾配R1および第2増加勾配R2は、エンジンEngのクランキングが終了して第1クラッチCL1を締結するタイミングで、クランキング中トルク制限値Tcrlimに達することを目安に設定されている。
したがって、エンジンEngをクランキングしている間、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2は、クランキング中トルク制限値Tcrlimに制限される期間が殆ど生じないようにすることができる。すなわち、
図13において、拡大して示している部分に示すように、アクセル開度APOに応じ、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2は、クランキング中トルク制限値Tcrlimに達するタイミングは、多少前後するものの、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2がクランキング中トルク制限値Tcrlimに制限される期間を短くできる。
よって、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2がクランキング中トルク制限値Tcrlimに維持されて、車両前後加速度が一定となることによる加速もたつきを抑制することが可能となる。また、緩やかながら、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2が上昇を続けることにより、車両の前後方向加速度が生じ続けるため、乗員は加速を感じ続ける。
【0058】
その後、エンジン回転数Neが上昇し、第1クラッチCL1のスリップ回転量が収束判定閾値以下となったt5の時点にて、第1クラッチCL1を完全締結に向けて制御し、かつ、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を第3増加勾配R3にて目標駆動トルクtFoOまで上昇させる。
【0059】
次に、急加速時について説明する。
アクセル開度APOが設定値よりも大きな急加速時には、勾配切換閾値T1はクランキング中トルク制限値Tcrlimよりも大きく設定される。
この場合、
図10のステップS103→S104→S105→S107→S109→S112→S103が繰り返され、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2が第1増加勾配R1に維持されたまま上昇する(
図13の拡大部分の点線参照)。
そして、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2がクランキング中トルク制限値Tcrlimに達すると、クランキング中トルク制限値Tcrlimに制限される(ステップS107→S108)。この場合は、比較例と同様の動作になるが、ドライバがアクセルペダルを急踏込して急加速を行うような場合は、クランキング中トルク制限値Tcrlimに制限される時間も短く、加速ショックも大きいため、加速がもたつくことはない。
【0060】
(実施の形態1の効果)
以下に、実施の形態1の効果を列挙する。
a)実施の形態1のハイブリッド車両の制御装置は、
車両の駆動源として設けられたエンジンEngおよびモータジェネレータMGと、
駆動源から駆動輪としての左右後輪RL,RRへの駆動伝達系に設けられ、エンジンEngとモータジェネレータMGとの間に介在されて、両者間の伝達トルクを可変とした第1クラッチCL1、および、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介在されて、両者間の伝達トルクを可変とした第2クラッチCL2と、
第1クラッチCL1を開放する一方で第2クラッチCL2を締結させてモータジェネレータMGによる駆動トルクにより走行可能なEVモードにおいて、車両の走行状態および運転状態に基づいてエンジン始動要求判定手段としての動作点指令部400がエンジン始動要求有りと判定した際に、第1クラッチCL1をスリップ締結状態とする(ステップS103)とともに、第2クラッチCL2をスリップさせつつ、モータジェネレータMGの駆動トルクを増加させてエンジンEngを始動させる(ステップS101)エンジン始動制御部であって、第2クラッチCL2のスリップを開始させるスリップ開始処理(S101)と、第1クラッチCL1をスリップ締結状態とするとともに、第2クラッチ伝達トルク容量としての第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を設定されたクランキング中トルク制限値Tcrlim以下としてスリップ状態に維持してエンジンEngをクランキングさせるクランキング処理(ステップS104〜S108))と、エンジンEngが駆動状態となると第1クラッチCL1および第2クラッチCL2を完全締結状態に向けて制御するクラッチ締結処理(S109〜S111)と、を実行するエンジン始動制御部400aと、
このエンジン始動制御部400aに含まれ、クランキング処理の実行時に、第2クラッチ伝達トルク容量としての第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を、スリップ開始状態から予め設定された第1増加勾配R1にて増加させる第1増加処理(ステップS104)と、第1増加勾配R1よりも緩やかな第2増加勾配R2により増加させる第2増加処理(S106)と、を実行する第2クラッチトルク増加勾配制御部400bと、
を備えていることを特徴とする。
このように、クランキング処理の際に、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を、まず、相対的に増加率が大きい第1増加勾配R1により増加させる第1増加処理を実行した後、相対的に増加率の小さな第2増加勾配R2により増加させる第2増加処理を実行するようにした。
したがって、相対的に増加率が大きい第1増加勾配R1のみで増加するものと比較して、第2クラッチ伝達トルク容量がクランキング中トルク制限値Tcrlimに達する時期を遅らせることができる。これにより、第2クラッチCL2から駆動輪側への出力が、クランキング中トルク制限値Tcrlimにより制限されにくくなり、この出力制限が早期に制限される場合と比較して、加速のもたつきが減少する。
一方、相対的に増加率が小さい第2増加勾配R2のみで増加するのと比較して、車両加速度を確保することができる。
このように、本実施の形態1では、モータジェネレータMGの駆動力を走行に使用するトルクが制限されたクランキングしながら加速する状況において、車両加速度を確保しながら、その後、クランキング中トルク制限値Tcrlimによる制限により、加速もたつきが生じるのを抑制することができる。
【0061】
b)実施の形態1のハイブリッド車両の制御装置は、
第2クラッチトルク増加勾配制御部400bは、第1増加勾配R1および第2増加勾配R2が、クランキング処理の終了時期(
図13のt5の時点)近傍にて、クランキング中トルク制限値Tcrlimに達することを目標として設定されていることを特徴とする。
このように設定することにより、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2の上昇がクランキング中トルク制限値Tcrlimに維持される時間帯を極力短くすることが可能となる。これにより、クランキング中に、車両加速度を発生させて、アクセルレスポンスの向上を図ることが可能となる。
【0062】
c)実施の形態1のハイブリッド車両の制御装置は、
第2クラッチトルク増加勾配制御部400bは、第1増加勾配R1と第2増加勾配R2とをアクセル開度APOに応じ、アクセル開度APOが大きいほど増加勾配が急になるように設定(
図11A)する増加勾配設定部400cを備えていることを特徴とする。
これにより、運転者の加速要求が強いほど、車両加速度の立ち上がりが急になり、アクセルレスポンスの向上を図ることができる。
さらに、実施の形態1では、増加勾配設定部400cは、第1増加勾配R1と第2増加勾配R2との設定において自動変速機ATのギヤ段ごとに設定したため、ギヤ段に応じたアクセルレスポンスの設定が可能となる。
【0063】
d)実施の形態1のハイブリッド車両の制御装置は、
第2クラッチトルク増加勾配制御部400bは、第1増加勾配R1から第2増加勾配R2に切り換える勾配切換閾値T1をアクセル開度APOに応じ、アクセル開度APOが大きいほど勾配切換閾値T1を大きく設定(
図11B)する勾配切換閾値設定部400dを備えていることを特徴とする。
これにより、運転者の加速要求が強いほど、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2が第1増加勾配R1により増加される時間帯が長くなり、車両加速度の立ち上がりが急になる。よって、車両加速度を、運転者の加速要求に応じて上昇させることができ、アクセルレスポンスの向上を図ることができる。
さらに、実施の形態1では、勾配切換閾値設定部400dは、勾配切換閾値T1の設定において自動変速機ATのギヤ段ごとに設定したため、ギヤ段に応じたアクセルレスポンスの設定が可能となる。
【0064】
e)実施の形態1のハイブリッド車両の制御装置は、
第2クラッチトルク増加勾配制御部400bは、アクセル開度APOが設定値よりも大きな急加速時には、第1増加勾配R1のままクランキング中トルク制限値Tcrlimまで上昇させる急加速時処理を実行することを特徴とする。
このような急加速時には、エンジン始動に要する時間が短時間であり、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2がクランキング中トルク制限値Tcrlimに制限される時間も短くなって、加速もたつきが生じにくい。
このような場合は、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2を、目標駆動トルクtFo0に近い立ち上がりとして、アクセルレスポンスを向上させることができる。
【0065】
f)実施の形態1のハイブリッド車両の制御装置は、
勾配切換閾値設定部400dは、前記急加速時に勾配切換閾値T1をクランキング中トルク制限値Tcrlimよりも大きな値に設定することにより、第2クラッチトルク増加勾配制御部400bによる急加速時処理の実行を可能としたことを特徴とする。
すなわち、急加速時には、第2クラッチ伝達トルク容量指令値tTcl2が第1増加勾配R1により勾配切換閾値T1に達する前にクランキング中トルク制限値Tcrlimに達する。
このように、勾配切換閾値T1の設定を変えるだけで急加速時処理が可能となり、急加速時処理用の制御処理部を新に組むよりも、低コストで実施可能となる。
【0066】
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施の形態に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施の形態に限られるものではなく、請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0067】
例えば、実施の形態では、ハイブリッド車両として、後輪駆動車を示しているが、前輪駆動車や全輪駆動車にも適用することができる。
また、実施の形態では、第2クラッチトルク増加勾配制御部が第2クラッチ伝達トルク容量を制御するのにあたり、第2クラッチ伝達トルク容量指令値を用いた。しかしながら、第2クラッチトルク増加勾配制御部は、モータの出力トルクおよび変速機からの出力トルクに基づいて算出される第2クラッチ伝達トルク容量に基づいて制御することも可能である。
【0068】
本出願は、2012年12月25日に日本国特許庁に出願された特願2012−280506に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。