【実施例1】
【0025】
図1Aは本発明の一実施例(実施例1)にかかる多層回路モジュールの機能ブロック図、
図1Bは回路構成図、
図2は同多層回路モジュールの全体を示す斜視図、
図3は
図2のX−X線に沿う断面図である。
【0026】
この実施例1の多層回路モジュール1は、例えばUHF帯のRFID(Radio Frequency Identification)システムのリーダライタとして適用されるもので、アンテナ素子2とのインピーダンスマッチングをとるためのRF回路3、このRF回路3を介して送受信される高周波信号を処理する無線通信用のIC素子(以下、ICチップという)4、およびこのICチップ4に電源を供給するための電源回路5を備えており、RF回路3、ICチップ4、および電源回路5は、コア基板6に一体化して設けられている。
【0027】
ここに、ICチップ4は、図示しないが信号処理回路、メモリ回路、制御回路などを備えて有している。そして、このICチップ4は全体がコア基板6の内部に埋設された状態で配置されている。このように、ICチップ4をコア基板6の内部に配置する構成にすれば、コア基板6の上面に後述のインダクタ基板31を搭載するスペースを容易に確保することが可能で、小型、薄型化を図ることが可能になるとともに、ICチップ4についての耐候性などを向上させて信頼性を高めることができる。
【0028】
また、電源回路5は、電気的に図外の電源(例えば二次電池)とICチップ4との間に配置されており、
図1A、
図1Bに示すように、主にキャパシタンス素子C1〜C10、および抵抗素子R1から構成されている。
【0029】
RF回路3は、電気的にICチップ4と電源回路5との間に配置されており、
図1A,
図1Bに示すように、基本的にはコイル素子L1,L2、キャパシタンス素子C11〜C14、および抵抗素子R2,R3を有する整合回路素子から構成されている。
なお、この場合の整合回路素子としては、例えばLC並列共振回路やLC直列共振回路、π型回路、T型回路などが適用される。
【0030】
また、この実施例の高周波回路モジュール1において、RF回路3は、磁性体多層基板を素体として内部にコイル素子(ここでは2つのコイル素子L1,L2)が形成されてなる、平面形状が矩形状のインダクタ基板31を備えている。
【0031】
このインダクタ基板31は、
図4に示すように、フェライトなどからなる複数の磁性体層311に、コイル素子L1,L2形成用の導電性パターン312を配設した後、これらの磁性体層311を多層に積層して焼成、一体化することにより形成されている。なお、このインダクタ基板31に用いる磁性体層311としては、セラミック磁性体層であることが好ましいが、樹脂中に磁性体粉末を分散させてなる磁性体層であってもよい。
【0032】
また、
図4に示すインダクタ基板31において、2つのコイルL1,L2は、磁性体層311の積層方向に沿う巻回軸Zが互いに同軸になるように構成されており、各コイル素子L1、L2の入力端子P11,P21から出力端子P12,P22に向けてそれぞれ電流が流れた場合に、共通の磁束が巻回軸Zに沿って生じるように構成されている。
【0033】
これにより、
図5に示すように、各コイル素子L1,L2は、比較的大きな相互インダクタンスMを介して(高い結合度kによって)結合する。このため、所定のインダクタンス値を得るのに必要なコイル素子L1,L2の長さを、両コイル素子L1,L2が結合していない場合に比べて短くすることが可能になり、各コイル素子L1,L2を小型化することができるとともに、その分、直流抵抗も小さくすることが可能になることから、Q値も向上する。具体的には、k=0.85であれば、k=0の場合に比べて0.54倍に小型化することができる。
【0034】
なお、
図4では、各コイル素子L1,L2を構成するための導電性パターン312は、各コイル素子L1,L2ごとに巻回軸Zに沿う方向において、領域を分けて配設するようにしているが、これに限らず、各コイル素子L1,L2を構成するための導電性パターン312を巻回軸Zに沿って交互に配置積層した構成とすることも可能である。
【0035】
一方、コア基板6は、複数の誘電体層を積層してなる平面形状が矩形の多層基板として構成されている。
この実施例では、誘電体層としては、ポリイミドや液晶ポリマーなどの熱可塑性樹脂が用いられている。
【0036】
ただし、ポリイミドや液晶ポリマーなどの熱可塑性樹脂に限らず、エポキシなどの熱硬化性樹脂、あるいは、LTCCなどのセラミックを適用することが可能である。
【0037】
なお、誘電体層として熱可塑性樹脂を適用する方が、それらを積層して多層基板を構成した場合に、積層時に加熱することでICチップとのクリアランスを埋めるように流動するため、小型化を図る上で好ましい。
【0038】
また、誘電体層に樹脂を用いることにより、ICチップがコア基板の内部に埋設された構造を容易に実現することが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0039】
そして、
図2に示すように、コア基板6の上面には、上記のようにコイル素子L1,L2を一体化したインダクタ基板31が配置されている。
そして、このインダクタ基板31によって左右に隔てられた2つの領域のうち、一方の領域には、RF回路3におけるキャパシタンス素子C11〜C14、および抵抗素子R2,R3などを構成する表面実装部品9が搭載され、他方の領域には、電源回路5におけるキャパシタンス素子C1〜C10、および抵抗素子R1などを構成する表面実装部品10が搭載されている。
そして、これらの表面実装部品9,10は、コア基板6に設けられた表面電極61にハンダなどの導電性接合材を介して電気的に接続されている。
また、コア基板6の下面には、このコア基板6を図示しないプリント配線板などのマザーボードに搭載する際に電気的接続を行うための裏面電極62が設けられている。
【0040】
また、
図3に示すように、コア基板6の内部には、ICチップ4、インダクタ基板31、および表面実装部品9,10を互いに電気的に接続するための面内配線や層間配線からなる内部配線63が設けられている。
【0041】
そして、この実施例の高周波回路モジュール1において、ICチップ4は、その入出力端子が設けられた端子面41がインダクタ基板31に対向するように配置されている。なお、これらの表面電極61、裏面電極62、配線導体63、銅や銀などの低抵抗金属を主成分とする導体パターンとして構成されている。
【0042】
ここで、インダクタ基板31とICチップ4やコア基板6の配線との間の外形寸法や配置関係に着目した場合、インダクタ基板31は、平面視でICチップ4の全面を覆うような形状、寸法に構成されている。そして、このインダクタ基板31は、コア基板6の厚み方向から見たとき(平面視したとき)に、ICチップ4の真上に位置して、ICチップ4の全面を覆うような態様でコア基板6の表面に搭載されている。
【0043】
さらに、この実施例では、
図3に示すように、ICチップ4とインダクタ基板31とを電気的に接続する内部配線63(63a)や表面電極61(61a)の要部もインダクタ基板31の外形寸法内に収まるように引き回されている。
【0044】
したがって、ICチップ4や、その周りの内部配線63(63a)、表面電極61(61a)などからの輻射ノイズは、磁性体であるインダクタ基板31で吸収されるため、輻射ノイズがその近傍の電子回路部品の誤動作や特性劣化などを引き起こすことを効果的に抑制、防止することができる。
【0045】
また、ICチップ4の入出力端子が設けられた端子面41は、インダクタ基板31に面するように配置されているので、ICチップ4とインダクタ基板31とを電気的に接続するための配線距離を短くすることができ、ICチップ4や、その周りの内部配線63(63a)などからの輻射ノイズをインダクタ基板31によって一層有効に吸収することができる。
【0046】
上述のように、この実施例の高周波回路モジュールにおいては、インダクタ基板31が、インダクタとしての本来の機能と、ノイズ吸収材としての機能の両方の機能を果たすため、従来の高周波回路モジュールの場合のように、ICチップ4やその周りの配線を覆う接地電極パターンを別途形成することを必要とせずに、小型、薄型で、かつ低ノイズの多層回路モジュール1を実現することができる。
【0047】
なお、上記実施例では、ICチップ4がコア基板6の内部に埋設された状態で配置されている場合について説明したが、本発明はこのような構成のものに限らず、例えば
図6に示すように、コア基板6に凹部(キャビティ)64を形成し、この凹部64内にICチップ4を収容するとともに、この凹部64を覆うような態様で、コア基板6の上面にインダクタ基板31を配置した構成とすることも可能である。そして、この場合も、同様の効果を得ることができる。
【0048】
なお、コア基板6の凹部(キャビティ)64内にICチップ4を収容する構成は、誘電体層をセラミック層で形成する場合、すなわち、コア基板6をセラミック多層基板とする場合にも、従来の公知の方法で態様することが可能であり、有意義である。
【0049】
また、この実施例では、インダクタ基板31は、コア基板6の厚み方向から見たとき(平面視したとき)に、ICチップ4や内部配線63などを全て覆うような態様で設けられているが、インダクタ基板31が、ICチップの主要部を覆っていれば、輻射ノイズを低減する上で有効である。
したがって、インダクタ基板31が、ICチップ4の主要部を覆っているような構成とすることも可能である。