(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が610nm〜625nmの波長域にある蛍光を発し、その際の外部量子効率が50%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸窒化物蛍光体粉末。
前記ケイ素源となる物質が窒化ケイ素粉末であり、前記窒化ケイ素粉末の酸素含有量が0.2〜0.9質量%であり、平均粒子径が1.0〜12.0μmであり、比表面積が0.2〜3.0m2/gであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の酸窒化物蛍光体粉末の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、青色発光ダイオード(LED)が実用化されたことにより、この青色LEDを利用した白色LEDの開発が精力的に行われている。白色LEDは、既存の白色光源に較べ消費電力が低く、長寿命であるため、液晶パネル用バックライト、室内外の照明機器等への用途展開が進行している。
【0003】
現在、開発されている白色LEDは、青色LEDの表面にCeをドープしたYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)を塗布したものである。しかしながら、CeをドープしたYAGの蛍光ピーク波長は560nm付近にあり、この蛍光の色と青色LEDの光を混合して白色光にすると、やや青みの強い白色光となるため、この種の白色LEDには演色性が悪いという問題がある。
【0004】
これに対して、多くの酸窒化物蛍光体が研究されており、特に、Euにより賦活されたα型サイアロン蛍光体は、CeをドープしたYAGの蛍光ピーク波長より長い580nm前後のピーク波長の(黄〜橙色)蛍光を発生することが知られており(特許文献1参照)、前記のα型サイアロン蛍光体を用いて、または、CeをドープしたYAG蛍光体と組み合わせて、白色LEDを構成すると、CeをドープしたYAGのみを用いた白色LEDよりも、色温度の低い電球色の白色LEDを作製することができる。
【0005】
さらに、演色性が良く、色再現性の良い白色LEDが求められており、青色LEDに緑色蛍光体と赤色蛍光体を組み合わせた白色LEDの開発が行われている。しかしながら、既存の赤色蛍光体では、700nm以上の発光を多く含むため、発光効率が悪くなるという問題がある。そのため、赤色蛍光体としては、ピーク波長が600〜630nm程度の橙色〜赤色の蛍光を発する蛍光体が求められている。
【0006】
しかしながら、
一般式:
Ca
xEu
ySi
12−(m+n)Al
(m+n)O
nN
16−n
で表されるEuにより賦活された、Ca含有α型サイアロン蛍光体は、実用に値する高輝度な蛍光体は、ピーク波長が580〜605nmの範囲で蛍光を発する蛍光体のみしか開発されておらず、ピーク波長が605nmより大きな波長範囲で、実用に値する高輝度な蛍光体は未だ開発されていない。
【0007】
特許文献2には、原料粉末中に予め合成したα型サイアロン粉末を粒成長の種結晶として添加することにより、従来よりも大きく、表面が平滑な粒子が得られ、しかもその合成粉末から粉砕処理することなく、特定粒度の粉末を得ることにより、発光効率の優れる595nm以上の波長に蛍光ピークを有する蛍光体とその製造方法が開示されている。
【0008】
具体的には、組成が(Ca
1.67、Eu
0.08)(Si、Al)
12(O、N)
16である(x+y=1.75、O/N=0.03)α型サイアロン蛍光体であって、455nmの青色光によって励起した場合に得られた蛍光スペクトルのピーク波長が599〜601nmの範囲であり、発光効率(=外部量子効率=吸収率×内部量子効率)が61〜63%であるα型サイアロン蛍光体が開示されている。
【0009】
しかしながら、同文献には、蛍光ピーク波長が601nmより大きな蛍光体で実用可能な発光効率を有する具体例は示されていない。
【0010】
特許文献3には、一般式:(Ca
α、Eu
β)(Si、Al)
12(O、N)
16(但し、1.5<α+β<2.2、0<β<0.2、O/N≦0.04)で示されるα型サイアロンを主成分とし、比表面積が0.1〜0.35m
2/gである蛍光体を用いたことを特徴とする発光装置、それを用いた車両用灯具、およびヘッドランプが開示されている。
【0011】
同文献には、455nmの青色光によって励起した場合に得られた蛍光スペクトルのピーク波長が592、598及び600nmであるα型サイアロン蛍光体の実施例が開示されており、それらの発光効率(=外部量子効率)は、各々、61.0、62.7、及び63.2%となっている。
【0012】
しかしながら、同文献には、蛍光ピーク波長が600nmより大きな蛍光体で実用可能な発光効率を有する具体例は示されていない。
【0013】
特許文献4には、一般式:Ca
xEu
ySi
12−(m+n)Al
(m+n)O
nN
16−n(但し、1.37≦x≦2.60、0.16≦y≦0.20、3.6≦m≦5.50、0≦n≦0.30、m=2x+3y)で表され、窒化ケイ素粉末、ユーロピウム源、及びカルシウム源の混合物を、不活性ガス雰囲気中で焼成して予めCa含有α型サイアロン前駆体を得た上で、該Ca含有α型サイアロン前駆体にアルミニウム源を混合し、不活性ガス雰囲気中で再度焼成してCa含有α型サイアロン焼成物を得て、更に不活性ガス雰囲気中で熱処理することにより得られるCa含有α型サイアロン蛍光体粉末とその製造方法が開示されている。
【0014】
同文献には、450nmの青色光によって励起した場合に得られた蛍光スペクトルのピーク波長が602nmから605nmであるCa含有α型サイアロン蛍光体の実施例が開示されており、それらの発光効率(=外部量子効率)は、54%以上となっている。
【0015】
しかしながら、同文献には、蛍光ピーク波長が605nmより大きな蛍光体で実用可能な発光効率を有する具体例は示されていない。
【0016】
特許文献5には、焼成することによりサイアロン蛍光体を構成しうる金属化合物混合物を、特定の圧力のガス中において、特定の温度範囲で焼成した後に、特定の粒径まで粉砕、分級し、さらに熱処理を施すことにより、従来のものに比し高輝度発光する特有な性質を有するサイアロン蛍光体とその製造方法が開示されている。
【0017】
しかしながら、同文献に具体的に開示されるのは、ピークの発光強度が開示されているのみであり、ピークの発光強度は測定装置、測定条件により変化するため、実用可能なまでの発光強度が得られているかは定かでない。
【0018】
特許文献6には、Ca−α−サイアロンのCa位置を部分的にEu
2+で置換した一般式(Ca
x、Eu
y)(Si
12-(m+n)Al
m+n)(O
nN
16-n)で示されるCa−Eu−α−サイアロンにおいて、x、y、m、nが、0.5≦x<2.0、0<y<0.4、0.5<x+y<2.0、1.0≦m<4.0、y≦n<(x+y)の範囲内にあり、Ca−α−サイアロンの出発原料組成がSi
3N
4−a(CaO・3AlN)−bEuOとSi
3N
4−c(Ca
3N
2・6AlN)−bEuOとの2本の組成線の間の範囲内で、a、b、cが、0.5≦a<2.5、0<b<0.4、15≦c<0.85の範囲内であるサイアロン蛍光体とすることにより、ピーク波長が593nm〜620nmのサイアロン蛍光体粉末が得られることが記載されている。
【0019】
しかしながら、同文献に具体的に開示されるのは、ピークの発光強度が開示されているのみであり、ピークの発光強度は測定装置、測定条件により変化するため、実用可能なまでの発光強度が得られているかは定かでない。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0037】
本開示において、数値限定されている場合、有効数字が考慮されていると理解されるべきである。たとえば、610〜615nmの数値範囲は609.5〜615.4nmの範囲を意味する。
【0038】
本発明は、組成式:
Ca
x1Eu
x2Si
12−(y+z)Al
(y+z)O
zN
16−z
で表される酸窒化物蛍光体において、
1.60≦x1+x2≦2.90、0.18≦x2/x1≦0.70、4.0≦y≦6.5、0.0≦z≦1.0で表される、α型サイアロンと窒化アルミニウムとを含む酸窒化物蛍光体粉末とすることにより、450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が610nmから625nmの広い波長域で蛍光を発し、その際の外部量子効率が特に大きい、酸窒化物蛍光体粉末に関するものである。
【0039】
α型サイアロン、特に、Ca含有α型サイアロンとは、α型窒化ケイ素のSi−N結合の一部がAl−N結合およびAl−O結合に置換され、Caイオンが格子内に侵入固溶して電気的中性が保たれた固溶体である。
【0040】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末に含まれるα型サイアロン蛍光体は、前記Caイオンに加えてEuイオンが格子内に侵入固溶することで、Ca含有α型サイアロンが賦活されて、青色光によって励起され、前記一般式で表される黄色から橙色の蛍光を発する蛍光体となる。
【0041】
一般的な希土類元素を賦活させたα型サイアロン蛍光体は、特許文献1に記載されているとおり、Me
αSi
12−(m+n)Al
(m+n)O
nN
16−n(Meは、Ca、Mg、Y、又はLaとCeを除くランタニド金属の一種若しくは二種以上)で表され、金属Meは、(Si,Al)
3(N,O)
4の4式量を含むα型サイアロンの大きな単位胞3個当たり最低1個から、単位胞1個当たり最高1個まで固溶する。固溶限界は、一般に、金属元素Meが二価のとき、前述の一般式において、0.6<m<3.0、且つ、0≦n<1.5であり、金属Meが三価のとき、0.9<m<4.5、且つ、0≦n<1.5である。この範囲以外ではα型サイアロン単相とはならないことが知られている。
【0042】
また、金属Meがα型サイアロンの格子内に固溶した際に電気的中性を保つために、Siの一部がAlに置換される。置換量は式、m=β×αで表される。式中の係数βはα型サイアロン蛍光体に固溶する金属元素Meの価数から、式中αはα型サイアロン蛍光体に固溶する金属元素Meの量から与えられる数値である。α型サイアロン蛍光体に固溶する金属元素Meが複数存在する場合には、m=β1×α1+β2×α2のように表すことができる。
【0043】
前述の一般的にα型サイアロン単相が得られる組成範囲内については、一般式中のm、nの変化にともない、発光波長などの蛍光特性がどのように変化するか検討がなされている。一方、α型サイアロン単相が得られる組成範囲外の組成、α型サイアロン蛍光体に固溶する金属元素Meの比率等については十分検討されているとは言い難い。発明者は、610nm以上の蛍光ピーク波長を発するα型サイアロン蛍光体を得るべく、Ca含有サイアロン蛍光体粉末の組成、特に、α型サイアロンに固溶するCa、Euの量及びm値について鋭意検討し、ある特定の組成範囲において、610nm以上の蛍光ピーク波長を発し、その際の発光効率が飛躍的に向上することを見出したものである。
【0044】
次に、本発明の酸窒化物蛍光体粉末について具体的に説明する。
【0045】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、
組成式:
Ca
x1Eu
x2Si
12−(y+z)Al
(y+z)O
zN
16−z
において、
1.60≦x1+x2≦2.90、0.18≦x2/x1≦0.70、4.0≦y≦6.5、0.0≦z≦1.0で表される、α型サイアロンと窒化アルミニウムとを含む酸窒化物蛍光体粉末である。
【0046】
前述したように、α型サイアロンへのCaイオンおよびEuイオンの侵入固溶量を示す値であるx1+x2は、y=2x1+3x2で表されるように、α型サイアロンへのAl置換量であるyと関連した値である。一方、x2/x1は、y=2x1+3x2を満たすように任意に決定できる値である。しかしながら、従来は、Eu量が大きくなると濃度消光と呼ばれる発光効率の低下が起こるため、また、yつまり2x1+3x2が、2x1+3x2≧4.0であるとα型サイアロン単独の組成とならなくなるため、α型サイアロン中に一定以上の量が存在しない組成領域でのみ、検討がなされていた。つまり、1.60≦x1+x2≦2.90、0.18≦x2/x1≦0.70を満たす組成領域では、検討がなされていなかった。発明者らは、x2/x1の比率が、α型サイアロンの発光波長に大きく影響することを見出し、x2/x1で本発明を規定することが、610nm以上の蛍光ピーク波長を有するα型サイアロン蛍光体を得るために重要であることを明らかにした。また、1.60≦x1+x2≦2.90、且つ、0.18≦x2/x1≦0.70の条件を満たした時に、610nm以上のピーク波長を有し、高い外部量子効率を有するα型サイアロンと窒化アルミニウムとを含む酸窒化物蛍光体粉末が得られることを見出した。
【0047】
前記x1及びx2はα型サイアロンへのCaイオンおよびEuイオンの侵入固溶量を示す値で、x1+x2が1.60より小さくなるか、若しくは、x2/x1が0.18より小さくなると蛍光ピーク波長が610nmより小さくなる。また、x1+x2が2.90より大きくなるか、若しくは、x2/x1が0.70より大きくなると蛍光強度が小さくなるとともに外部量子効率が50%より小さくなる。
【0048】
前述したように、前記yはα型サイアロンへ金属元素が固溶する際に電気的中性を保つために決められる値で、前記酸窒化物蛍光体粉末では、y=2x1+3x2で表される。式中のx1の係数2はCa含有α型サイアロン蛍光体に固溶するCaイオンの価数から、式中x2の係数3はCa含有α型サイアロン蛍光体に固溶するEuイオンの価数から与えられる数値である。また、本発明の酸窒化物蛍光体粉末では、α型サイアロン以外に窒化アルミニウムを含んでおり、前記yは、窒化アルミニウムの生成量に関連した値でもある。
【0049】
本発明においては、前記y及びzの範囲は、4.0≦y≦6.5、0.0≦z≦1.0である。yおよびzがこの範囲の組成である場合、蛍光ピーク波長が610〜625nmの範囲で、外部量子効率が50%以上の高効率な酸窒化物蛍光体粉末が提供される。
【0050】
前記yが6.5より大きくなると生成する窒化アルミニウム結晶相の量が大きく成り過ぎ、外部量子効率が50%より小さくなる。また、前記yが4.0より小さくなると、蛍光ピーク波長が610nmより小さくなるとともに、外部量子効率が50%より小さくなる。さらに、前記zはα型サイアロンへの酸素の置換固溶量に関する値である。zが1より大きくなると、蛍光ピーク波長が610nmより小さくなる。また、0≦y<1.0、0≦z<1.5の範囲ではβ型サイアロンが生成し、外部量子効率が50%より小さくなる。
【0051】
また、本発明においては、前記x1、x2、y、zは、1.90≦x1+x2≦2.60、0.18≦x2/x1≦0.50、4.6≦y≦5.5、0.0≦z≦0.20であることが好ましい。x1、x2、yおよびzがこの範囲の組成である場合、蛍光ピーク波長が610nm〜620nmの範囲で、59%以上と特に高い外部量子効率を備えた酸窒化物蛍光体粉末が提供される。
【0052】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、好ましい態様において、さらにLiを50〜10000ppm、より好ましくは50〜2000ppm、さらに好ましくは200〜1000ppm含む。Liを特定量含むことで外部量子効率がより向上される。
【0053】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、CuKα線を用いたX線回折(XRD)装置により結晶相を同定すると、三方晶に分類されるα型サイアロン結晶相と六方晶に分類される窒化アルミニウム結晶相とからなる。窒化アルミニウム結晶相を適量含む場合には、蛍光ピーク波長が比較的大きく成り易く好ましい。また、窒化アルミニウム結晶相が多くなりすぎると、外部量子効率が小さくなる。酸窒化物蛍光体粉末に含まれる窒化アルミニウム結晶相の含有量としては、0質量%より大きく33質量%より小さい範囲で含むことが好ましい。さらに、より好ましくは、24質量%以下である。この範囲で窒化アルミニウム結晶相を含んだ場合には、蛍光ピーク波長が長波長化するとともに、外部量子効率が大きくなる。
【0054】
XRD測定における結晶相の同定、及び定量化は、X線パターン解析ソフトを用いて行うことができる。解析ソフトとしては、リガク社製PDXL等が挙げられる。尚、酸窒化物蛍光体粉末のXRD測定、リートベルト法による結晶相の定量化は、リガク社製X線回折装置(Ultima IV Protectus)および解析ソフト(PDXL)を用いて行った。
【0055】
酸窒化物蛍光体粉末に含まれるLi含有量(全Li含有量)は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)を用いて定量分析することが出来る。酸窒化物蛍光体粉末をリン酸、過塩素酸、硝酸、フッ化水素酸にて加熱分解、純水にて定容し、ICP−AESにて定量分析することで、Li含有量を求めることができる。
【0056】
本発明の好ましい態様では、Ca含有α型サイアロンと窒化アルミニウムを含む酸窒化物蛍光体焼成物を作製した後、Liが存在する条件下で熱処理を行うことから、Liは酸窒化物蛍光体粉末の表面近傍に存在している。つまり、Ca含有α型サイアロンと窒化アルミニウムを含む酸窒化物蛍光体の結晶格子内には殆ど存在しておらず、粒子表面に多く存在している。
【0057】
酸窒化物蛍光体粉末の内部に存在するLi量は、次のようにして求めることができる。酸窒化物蛍光体粉末を1N硝酸中で5時間酸処理することで、酸窒化物蛍光体の表面層を除去した後、前記ICP−AES定量分析にて粒子内Li含有量を求め、前述の全Li含有量との差から、表面Li量の割合を式(1)にて算出することができる。
((全Li含有量―粒子内Li含有量)/全Li含有量)×100・・・式(1)
【0058】
また、前記硝酸処理前後での重量変化から、エッティング量(深さ)を、酸窒化物蛍光体粉末を球形粒子と仮定して算出した場合、1〜100nmの厚みであった。従って、表面から1〜100nmに存在するLiを表面Li量と定義することができる。表面近傍に存在するLi量は、蛍光体粉末全体のLi含有量の50%以上、好ましくは60%以上であることが好ましい。本発明において、表面近傍に存在するLi量が蛍光体粉末全体のLi含有量のLi含有量が50%以上であると、発光ピーク波長の向上の効果、外部量子効率が向上する効果が好ましく得られる。
【0059】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末を白色LED用蛍光体として好適に使用するためには、粒度分布曲線における50%径であるD
50が10.0〜20.0μmであり、かつ、比表面積は0.2〜0.6m
2/gであることが好ましい。D
50が10.0μmより小さく、また、比表面積が0.6m
2/gより大きい場合は、発光強度が低くなることがあり、D
50が20.0μmより大きく、また、比表面積が0.2m
2/gより小さい場合は、蛍光体を封止する樹脂中に均一分散し難くなり、白色LEDの色調にバラツキを生じることがあるからである。
【0060】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末の粒子径および比表面積を制御する方法としては、原料となる窒化ケイ素粉末の粒子径を制御することで可能である。平均粒子径が1.0μm以上の窒化ケイ素粉末を用いた場合には、酸窒化物蛍光体粉末のD
50は10μm以上で、且つ、比表面積が0.2〜0.6m
2/gとなり、外部量子効率がより大きくなるため好ましい。
【0061】
酸窒化物蛍光体粉末のD
50は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における50%径である。また、酸窒化物蛍光体粉末の比表面積は、島津社製フローソーブ2300型比表面積測定装置(窒素ガス吸着法によるBET法)で測定した。
【0062】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、450nmの波長域の光の励起によって、ピーク波長が610nmから625nmの波長域にある蛍光を発することができ、その際の外部量子効率は50%以上を示す。これにより、本発明の酸窒化物蛍光体粉末では、青色の励起光により長波の橙色〜赤色の蛍光を効率的に得ることができ、また、励起光として用いる青色光との組み合わせで、演色性が良好な白色光を効率的に得ることができる。
【0063】
蛍光ピーク波長は、日本分光社製FP6500に積分球を組み合わせた固体量子効率測定装置により測定することができる。蛍光スペクトル補正は、副標準光源により行うことができるが、蛍光ピーク波長は、用いる測定機器や補正条件によって若干の差を生じることがある。
【0064】
また、外部量子効率は、日本分光社製FP6500に積分球を組み合わせた固体量子効率測定装置により、吸収率および内部量子効率を測定し、それらの積から算出することができる。
【0065】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、公知の発光ダイオード等の発光源と組み合わせられて、発光素子として各種照明器具に用いることができる。
【0066】
特に、励起光のピーク波長が330〜500nmの範囲にある発光源は、本発明の酸窒化物蛍光体粉末に好適である。紫外領域では、酸窒化物蛍光体粉末の発光効率が高く、良好な性能の発光素子を構成することが可能である。また、青色の光源でも発光効率は高く、本発明の酸窒化物蛍光体粉末の橙色〜赤色の蛍光と、緑色蛍光体の緑色及び青色の励起光との組み合わせで、良好な昼白色〜昼光色の発光素子を構成できる。
【0067】
さらに、本発明の窒化物蛍光体は、物体色が橙色〜赤色を示すので、酸化鉄等、鉄や銅、マンガン、クロムなどの重金属を含有する顔料の代替材料として、塗料やインク等に適用することができる。さらには、紫外線、可視光吸収材料として、幅広い用途に使用することができる。
【0068】
次に、本発明のα型サイアロンと窒化アルミニウムとを含む酸窒化物蛍光体粉末の製造方法について具体的に説明する。
【0069】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、組成式:
Ca
x1Eu
x2Si
12−(y+z)Al
(y+z)O
zN
16−z
において、1.60≦x1+x2≦2.90、0.18≦x2/x1≦0.70、4.0≦y≦6.5、0.0≦z≦1.0で表される組成となるように、ケイ素源となる物質と、ユーロピウム源となる物質と、カルシウム源となる物質と、アルミニウム源となる物質とを混合し、不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成することにより得られる。
【0070】
好ましくは、得られた焼成物を、さらに、熱処理する。熱処理としては、不活性ガス雰囲気中または還元雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理する。または、Liが存在する条件下、とりわけ、不活性ガス雰囲気中、又は、還元性ガス雰囲気中、1450℃〜前記焼成温度未満の温度で熱処理する。
【0071】
原料のケイ素源となる物質は、ケイ素の窒化物、酸窒化物、酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質から選択される。特に、結晶性窒化ケイ素が好ましく、結晶性窒化ケイ素を用いることにより、外部量子効率が高い酸窒化物蛍光体粉末を得ることが出来る。
【0072】
原料のユーロピウム源となる物質は、ユーロピウムの窒化物、酸窒化物、酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質から選択される。特に好ましくは、窒化ユーロピウム(EuN)である。EuNを用いることでzを小さくすることが可能であり、蛍光ピーク波長の大きな蛍光体を得ることが出来る。
【0073】
原料のカルシウム源となる物質は、カルシウムの窒化物、酸窒化物、酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質から選択される。特に好ましくは、窒化カルシウム(Ca
3N
2)である。Ca
3N
2を用いることでzを小さくすることが可能であり、蛍光ピーク波長の大きな蛍光体を得ることが出来る。
【0074】
原料のアルミニウム源となる物質としては、酸化アルミニウム、金属アルミニウム、窒化アルミニウムが挙げられ、これらの粉末の夫々を単独で使用しても良く、併用しても良い。
【0075】
また、本発明の酸窒化物蛍光体粉末の製造原料としての窒化ケイ素粉末の平均粒子径は、1.0μm以上12.0μm以下が好ましい。さらに好ましくは3.0μm以上12.0μm以下である。平均粒子径が1.0μm未満では酸素含有量が増加する傾向があり、蛍光特性の効果が小さくなる。平均粒子径が12.0μmを超えると、製造が難しく実用的ではない。なお、窒化ケイ素粉末の平均粒子径は、該窒化ケイ素粉末の走査型電子顕微鏡写真から測定した。具体的には、走査型電子顕微鏡像写真内に円を描き、その円に接する個々の粒子について、粒子に内接する最大の円を定め、その円の直径をその粒子の径とし、それらの粒子の径の平均をとることにより粉末の平均粒子径を算出した。対象とする測定粒子の数は、約50〜150個になるようにした。
【0076】
また、窒化ケイ素粉末の比表面積は、0.2〜3.0m
2/gが好ましい。さらに好ましくは0.2m
2/g以上、1.0m
2/g以下である。結晶質窒化ケイ素粉末の比表面積を0.2m
2/g未満にする事は製造上難しく実用的ではなく、素子化する上で不都合を生じる。比表面積が3m
2/gを超えると、蛍光特性の効果が小さくなるので、0.2〜3.0m
2/gが好ましい。なお、比表面積は、島津社製フローソーブ2300型比表面積測定装置(窒素ガス吸着法によるBET法)で測定した。
【0077】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末の製造に用いる窒化ケイ素粉末として、上記の如く、結晶質窒化ケイ素粉末を好ましく用いることができ、α型窒化ケイ素粉末であることが好ましい。
【0078】
本発明は1つの側面において、本発明の酸窒化物蛍光体粉末の製造に用いる窒化ケイ素粉末として、特に酸素含有量が少ない結晶質窒化ケイ素粉末、α型窒化ケイ素粉末を好ましく用いることができる。従来の蛍光体原料としての窒化ケイ素粉末の酸素含有量は、1.0〜2.0質量%であり、本発明に従い酸素含有量が0.2〜0.9質量%と少ない窒化ケイ素粉末を蛍光体原料に用いることにより、従来のα型サイアロン蛍光体よりも蛍光強度の高い酸窒化物蛍光体粉末を得ることができる。窒化ケイ素中の酸素含有量は、好ましくは、0.2〜0.8質量%、さらに好ましくは酸素量0.2〜0.4質量%である。酸素量を0.2質量%未満にする事は製造上難しく、酸素量が0.9質量%を超えると本発明の酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性の顕著な向上が認められない。なお、含有酸素の測定は、LECO社製酸素窒素同時分析装置で測定した。
【0079】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末製造用に好ましく用いることができる窒化ケイ素粉末は、含窒素シラン化合物および/または非晶質(アモルファス)窒化ケイ素粉末を熱分解して得ることができる。含窒素シラン化合物としては、シリコンジイミド(Si(NH)
2)、シリコンテトラアミド、シリコンニトロゲンイミド、シリコンクロルイミド等が挙げられる。これらは、公知の方法、例えば、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを気相で反応させる方法、液状の前記ハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとを反応させる方法などによって製造される。
【0080】
また、非晶質窒化ケイ素粉末は、公知の方法、例えば、前記含窒素シラン化合物を窒素又はアンモニアガス雰囲気下に1200℃〜1460℃の範囲の温度で加熱分解する方法、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを高温で反応させる方法などによって製造されたものが用いられる。非晶質窒化ケイ素粉末及び含窒素シラン化合物の平均粒子径は、通常、0.003〜0.05μmである。
【0081】
前記の含窒素シラン化合物、非晶質窒化ケイ素粉末は加水分解し易く、酸化され易いので、これらの原料粉末の秤量は、不活性ガス雰囲気中で行う。また、前記含窒素シラン化合物の加熱分解に用いる加熱炉に流通させる窒素ガス中の酸素濃度を0〜2.0vol%の範囲で制御できる。前記含窒素シラン化合物の加熱分解時の雰囲気中の酸素濃度を、例えば、100ppm以下、好ましくは10ppm以下などに規定して、低酸素含有量の非晶質窒化ケイ素粉末を得る。非晶質窒化ケイ素粉末の酸素含有量が低いほど、得られる結晶質窒化ケイ素粒子の酸素含有量も低くなる。また、反応容器材質および粉末取り扱い機器における粉末と金属との擦れ合い状態を改良した公知の方法により、非晶質窒化ケイ素粉末に混入する金属不純物は10ppm以下に低減される。
【0082】
次に、含窒素シラン化合物および/または非晶質窒化ケイ素粉末を1300〜1700℃の範囲で、窒素又はアンモニアガス雰囲気下で焼成して結晶質窒化ケイ素粉末を得る。焼成の条件(温度と昇温速度)を制御することで、粒子径を制御する。本発明の場合、低酸素の結晶質窒化ケイ素粉末を得るためには、含窒素シラン化合物から非晶質窒化ケイ素粉末を焼成する際の窒素ガス雰囲気焼成に同時含有させる酸素を制御する必要がある。大きな粒子径の結晶質窒化ケイ素粉末を得るためには、非晶質窒化ケイ素粉末から結晶質窒化ケイ素粉末を焼成する際、40℃/h以下のようなゆっくりとした昇温が必要である。このようにして得られた結晶質窒化ケイ素粉末は
図1に示すように、大きな一次粒子がほぼ単分散の状態にあり、凝集粒子、融着粒子はほとんどない。得られた結晶質窒化ケイ素粉末は金属不純物100ppm以下の高純度粉末である。また、この結晶質窒化ケイ素粉末を酸洗浄するなど化学的処理をする事で低酸素の結晶質窒化ケイ素粉末が得られる。このようにして、本発明の酸素量が0.2〜0.9質量%の酸窒化物蛍光体粉末製造用窒化ケイ素粉末を得ることができる。
【0083】
また、このようにして得られた窒化ケイ素粉末は、金属シリコンの直接窒化法により製造された窒化ケイ素と違って、強力な粉砕を必要とせず、そのため、不純物量が100ppm以下と極めて少ないという特徴がある。本発明の結晶質窒化ケイ素粉末に含まれる不純物(Al、Ca、Fe)は、100ppm以下、好ましくは20ppm以下とすることで、外部量子効率が大きい酸窒化物蛍光体粉末が得られるので好ましい。
【0084】
上記の低酸素含有量の窒化ケイ素粉末原料は、本発明の酸窒化物蛍光体粉末の製造に一般的に好ましく使用できる。特に、前記の組成式において、前記x1、x2、y、zが、1.60≦x1+x2≦2.90、0.18≦x2/x1≦0.70、4.0≦y≦6.5、0.0≦z≦1.0である酸窒化物蛍光体粉末の製造でも有用である。この組成において、窒化ケイ素粉末原料が、上記の低酸素含有量であるとともに、その平均粒子径が、前述した1.0μm以上12.0μm以下、さらには3.0μm以上12.0μm以下の範囲であり、その比表面積が、0.2〜3.0m
2/g、さらには、0.2m
2/g以上1.0m
2/g以下の範囲であることが好ましい。窒化ケイ素粉末原料の酸素含有量、平均粒子径、及び比表面積がこの範囲にあると、得られる酸窒化物蛍光体粉末が、450nmの波長の光で励起されて発光する蛍光のピーク波長が610〜625nmの波長域にある蛍光を発し、その際の外部量子効率が50%以上となるので好ましい。
【0085】
また、上記の低酸素含有量の窒化ケイ素粉末原料は、特に、前記の組成式において、前記x1、x2、y、zが、1.90≦x1+x2≦2.60、0.18≦x2/x1≦0.50、4.6≦y≦5.5、0.0≦z≦0.20である酸窒化物蛍光体粉末の製造においても有用である。この組成において、窒化ケイ素粉末原料が、上記の低酸素含有量であるとともに、その平均粒子径が、前述した1.0μm以上12.0μm以下、さらには3.0μm以上12.0μm以下の範囲であり、その比表面積が、0.2〜3.0m
2/g、さらには、0.2m
2/g以上1.0m
2/g以下の範囲であることが好ましい。窒化ケイ素粉末原料の酸素含有量、平均粒子径、及び比表面積がこの範囲にあると、得られる酸窒化物蛍光体粉末が、450nmの波長の光で励起されて発光する蛍光のピーク波長が610〜620nmの波長域にある蛍光を発し、その際の外部量子効率が59%以上となるので好ましい。
【0086】
焼成においては、焼結を促進し、より低温でα型サイアロン結晶相を生成させることを目的に、焼結助剤となるLi含有化合物を添加することが好ましい。用いるLi含有化合物としては、酸化リチウム、炭酸リチウム、金属リチウム、窒化リチウムが挙げられ、これらの粉末の夫々を単独で使用しても良く、併用しても良い。特に、窒化リチウムを用いた場合には、蛍光ピーク波長が大きくなり好ましい。また、Li含有化合物の添加量は、酸窒化物焼成物1molに対して、Li元素として0.01〜15.0molが適当である。
【0087】
ケイ素源となる物質と、ユーロピウム源となる物質と、カルシウム源となる物質と、アルミニウム源となる物質とを混合する方法については、特に制約は無く、それ自体公知の方法、例えば、乾式混合する方法、原料各成分と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法などを採用することができる。混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミル、媒体攪拌ミルなどが好適に使用される。
【0088】
ケイ素源となる物質と、ユーロピウム源となる物質と、カルシウム源となる物質と、アルミニウム源となる物質との混合物を、不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成することで、前記組成式で表される酸窒化物焼成物を得ることができる。1500℃より低いとα型サイアロンの生成に長時間の加熱を要し、実用的ではない。2000℃より高いと窒化ケイ素およびα型サイアロンが昇華分解し遊離のシリコンが生成するため、外部量子効率が高い酸窒化物蛍光体粉末が得られなくなる。不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の範囲の焼成が可能であれば、焼成に使用される加熱炉については、特に制約は無い。例えば、高周波誘導加熱方式または抵抗加熱方式によるバッチ式電気炉、ロータリーキルン、流動化焼成炉、プッシャ−式電気炉などを使用することができる。混合物を充填する坩堝には、BN製の坩堝、窒化ケイ素製の坩堝、黒鉛製の坩堝、炭化珪素製の坩堝を用いることができる。焼成によって得られる酸窒化物焼成物は、凝集が少なく、分散性が良好な粉体である。
【0089】
上記の焼成により得られた酸窒化物焼成物は更に熱処理してもよい。得られた酸窒化物焼成物を、不活性ガス雰囲気中、または還元性ガス雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理することで、450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が610nmから625nmの波長域にある蛍光を発する際の外部量子効率が特に高い酸窒化物蛍光体粉末を得ることができる。より外部量子効率が高い酸窒化物蛍光体粉末を得るためには、熱処理温度を1500〜1600℃の範囲とすることが好ましい。熱処理温度が1100℃に満たない場合、または1600℃を超える場合は、得られる酸窒化物蛍光体粉末の外部量子効率が小さくなる。熱処理を行う場合の最高温度での保持時間は、特に高い外部量子効率を得るには、0.5時間以上であることが好ましい。4時間を越えて熱処理を行なっても、時間の延長に伴った外部量子効率の向上は僅かに留まるか、殆ど変わらないため、熱処理を行う場合の最高温度での保持時間としては、0.5〜4時間の範囲であることが好ましい。
【0090】
不活性ガス雰囲気中、または還元性ガス雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理することが可能であれば、熱処理に使用される加熱炉については、特に制約は無い。例えば、高周波誘導加熱方式または抵抗加熱方式によるバッチ式電気炉、ロータリーキルン、流動化焼成炉、プッシャ−式電気炉などを使用することができる。混合物を充填する坩堝には、BN製の坩堝、窒化ケイ素製の坩堝、黒鉛製の坩堝、炭化ケイ素製の坩堝を用いることができる。
【0091】
前記の不活性ガス雰囲気中、または還元性ガス雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理することによって、本発明の酸窒化物蛍光体粉末の蛍光ピーク波長は、熱処理前の酸窒化物焼成物と比較して、0.5〜2.0nm程度長波長側にシフトし、同時に外部量子効率及び蛍光ピーク波長における発光強度が向上する。
【0092】
上記の焼成により得られた酸窒化物焼成物は、1つの好ましい態様において、更にLiが存在する条件下で熱処理される。得られた酸窒化物焼成物を、不活性ガス雰囲気中、または還元性ガス雰囲気中、1450℃〜前記焼成温度未満の温度範囲で熱処理することで、Li含有量が50〜10000ppmの酸窒化物蛍光体粉末が得られ、450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が610nmから625nmの波長域にある蛍光を発する際の外部量子効率が特に高い酸窒化物蛍光体粉末を得ることができる。
【0093】
Liが存在する条件下での熱処理としては、中間物の酸窒化物焼成物に、Li化合物を混合し熱処理する方法、さらには、熱処理に用いる坩堝中に事前にLi化合物を入れ、1200〜1600℃の温度範囲にて焼成し、その坩堝を用い、中間物の酸窒化物焼成物を熱処理する方法、さらには、酸窒化物焼成物を入れた坩堝と、Li化合物を入れた坩堝を同時に、不活性ガス雰囲気中、又は還元性ガス雰囲気中で熱処理する方法などが挙げられる。Li化合物としては、炭酸リチウム、酸化リチウム、窒化リチウムなどが挙げられる。また、中間物の酸窒化物焼成物にLi化合物を混合し熱処理する方法においては、添加するLi化合物の量としては、酸窒化物焼成物100gに対して、0.4g〜18.5gが適当である。さらに、熱処理に用いる坩堝中に事前にLi化合物を入れ、1200〜1600℃の温度範囲にて焼成し、その坩堝用い、中間物の酸窒化物焼成物を熱処理する方法においては、Li化合物の量としては、酸窒化物焼成物100gに対して、0.4g〜18.5gが適当である。
【0094】
より外部量子効率が高い酸窒化物蛍光体粉末を得るためには、熱処理温度を1450〜1600℃の範囲とすることが好ましい。熱処理温度が1450℃に満たない場合、または1600℃を超える場合は、得られる酸窒化物蛍光体粉末の外部量子効率の改善幅が小さくなる。熱処理を行う場合の最高温度での保持時間は、特に高い外部量子効率を得るには、0.5時間以上であることが好ましい。4時間を越えて熱処理を行なっても、時間の延長に伴った外部量子効率の向上は僅かに留まるか、殆ど変わらないため、熱処理を行う場合の最高温度での保持時間としては、0.5〜4時間の範囲であることが好ましい。
【0095】
不活性ガス雰囲気中、または還元性ガス雰囲気中、1450℃〜前記焼成温度未満の温度範囲で熱処理することが可能であれば、熱処理に使用される加熱炉については、特に制約は無い。例えば、高周波誘導加熱方式または抵抗加熱方式によるバッチ式電気炉、ロータリーキルン、流動化焼成炉、プッシャ−式電気炉などを使用することができる。混合物を充填するるつぼには、BN製の坩堝、窒化ケイ素製の坩堝、黒鉛製の坩堝、炭化ケイ素製の坩堝を用いることができる。
【0096】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末の好ましい一態様は、前記記載の製造方法により得られる蛍光体粉末であり、より詳しくは、ケイ素源となる物質と、ユーロピウム源となる物質と、カルシウム源となる物質と、アルミニウム源となる物質とを混合し、不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成し、次いで、不活性ガス雰囲気中または還元雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理することにより得られる、組成式:
Ca
x1Eu
x2Si
12−(y+z)Al
(y+z)O
zN
16−z
において、
1.60≦x1+x2≦2.90、0.18≦x2/x1≦0.70、4.0≦y≦6.5、0.0≦z≦1.0で表されるα型サイアロンと窒化アルミニウムとを含む酸窒化物蛍光体粉末である。
【0097】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末の好ましいもおう一態様は、前記記載の製造方法により得られる蛍光体粉末であり、より詳しくは、ケイ素源となる物質と、ユーロピウム源となる物質と、カルシウム源となる物質と、アルミニウム源となる物質とを混合し、不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成し、次いで、Liが存在する条件下で、不活性ガス雰囲気中、又は、還元性ガス雰囲気中、1450℃〜前記焼成温度未満の温度で熱処理することにより得られる、組成式:
Ca
x1Eu
x2Si
12−(y+z)Al
(y+z)O
zN
16−z
において、
1.60≦x1+x2≦2.90、0.18≦x2/x1≦0.70、4.0≦y≦6.5、0.0≦z≦1.0で表され、さらにLiを50〜10000ppm含むα型サイアロンと窒化アルミニウムとを含む酸窒化物蛍光体粉末である。
【実施例】
【0098】
以下では、具体的例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
【0099】
(実施例1)
窒化ケイ素と窒化ユーロピウム、窒化アルミニウム、窒化カルシウムを、表1の酸窒化物蛍光体粉末の設計組成となるように窒素パージされたグローブボックス内で秤量し、乾式の振動ミルを用いて混合して、混合粉末を得た。窒化ケイ素粉末の比表面積、平均粒子径及び酸素量は、それぞれ、0.3m
2/g、8.0μm、及び0.29質量%であった。得られた混合粉末を窒化ケイ素製の坩堝に入れて、黒鉛抵抗加熱式の電気炉に仕込み、電気炉内に窒素を流通させながら、常圧を保った状態で、1725℃まで昇温した後、1725℃で12時間保持して、酸窒化物焼成物を得た。
【0100】
得られた酸窒化物焼成物を解砕して粒子径が5〜20μmの粉末を分級によって得た後、得られた粉末をアルミナ坩堝に入れて、黒鉛抵抗加熱式の電気炉に仕込み、電気炉内に窒素を流通させながら、常圧を保った状態で、1600℃まで昇温した後、1600℃で1時間保持して、本発明の酸窒化物蛍光体粉末を得た。
【0101】
得られた酸窒化物蛍光体粉末のD
50は16.7μm、比表面積は0.30m
2/gであった。本発明の酸窒化物蛍光体粉末のD
50は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における50%径である。また、前記酸窒化物蛍光体粉末の比表面積は、島津社製フローソーブ2300型比表面積測定装置を用いて、窒素ガス吸着法によるBET法で測定した。
【0102】
また、得られた酸窒化物蛍光体粉末のXRD測定を行った。酸窒化物蛍光体粉末は、α型サイアロン結晶相と窒化アルミニウム結晶相からなっていた。それぞれの含有量は、98質量%と2質量%であった。
【0103】
さらに、得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性を評価するために、日本分光社製FP−6500に積分球を組み合わせた固体量子効率測定装置を用いて、励起波長450nmにおける蛍光スペクトルを測定し、同時に吸収率と内部量子効率を測定した。得られた蛍光スペクトルから蛍光ピーク波長とその波長における発光強度を導出し、吸収率と内部量子効率から外部量子効率を算出した。また、輝度の指標になる相対蛍光強度は、市販品のYAG:Ce系蛍光体(化成オプトニクス社製P46Y3)の同励起波長による蛍光スペクトルの最高強度の値を100%とした場合の蛍光ピーク波長における発光強度の相対値とした。実施例1に係る酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性の評価結果を表2に、また、酸窒化物蛍光体粉末の生成結晶相と含有量、比表面積、および、D
50を表3に示す。
【0104】
(実施例2〜16)
酸窒化物蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、実施例2〜16に係る原料粉末を秤量し混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、比表面積、D
50、生成結晶相および含有量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を、表2および表3に記載した。また、実施例7及び比較例1の蛍光スペクトルを示す。実施例7の蛍光ピーク波長は615.5nmと比較例1の604.5nmに比べ、大きく長波長化していることが分かる。
【0105】
表1及び2より、実施例5〜7、9〜11のように、前記一般式において、1.90≦x1+x2≦2.60、0.18≦x2/x1≦0.50、4.6≦y≦5.5、0.0≦z≦0.20の範囲である酸窒化物蛍光体粉末は、蛍光ピーク波長が610nm〜620nmと長波長の蛍光ピーク波長であるともとに、59%以上と特に大きな外部量子効率であることが分かる。
【0106】
また、
図3に実施例7の酸窒化物蛍光体粉末の走査型電子線顕微鏡写真を示す。図より、粒子径が比較的に揃っており、また、凝集の少ない蛍光体粉末となっていることが分かる。さらに、
図4には、実施例7のXRDパターンを示す。図より明らかなように、α型サイアロン結晶相と窒化アルミニウム結晶相からなっていることが分かる。α型サイアロン結晶相と窒化アルミニウム結晶相の含有量は、それぞれ92質量%と8質量%であった。
【0107】
(実施例17〜19)
酸窒化物蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、原料粉末として、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化ユーロピウムを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、比表面積、D
50、生成結晶相および含有量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を、表2及び表3に記載した。
【0108】
実施例17のように、前記一般式において、1.90≦x1+x2≦2.60、0.18≦x2/x1≦0.50、4.6≦y≦5.5、0.0≦z≦0.20の範囲である酸窒化物蛍光体粉末は、蛍光ピーク波長が610nm〜620nmと長波長の蛍光ピーク波長であるともとに、59%以上と特に大きな外部量子効率であることが分かる。
【0109】
(比較例1〜7)
酸窒化物蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、比較例1〜7に係る原料粉末を秤量し混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、比表面積、D
50、生成結晶相および含有量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を、表2および表3に記載した。
【0110】
(比較例8、9)
酸窒化物蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、原料粉末として、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化ユーロピウムを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、比表面積、D
50、生成結晶相および含有量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を、表2及び表3に記載した。
【0111】
(実施例20)
原料の窒化ケイ素粉末の酸素量を、0.75質量%とした以外は、実施例7と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、D
50、比表面積を実施例7と同様の方法で測定した。その結果を、表4に記載した。窒化ケイ素粉末の酸素量が0.29質量%である実施例7の熱処理後の外部量子効率61.6%対して、酸素量が0.75質量%である実施例20の外部量子効率は、59.7%と小さくなっていることが分かる。
【0112】
(実施例21〜26)
原料の窒化ケイ素粉末の比表面積、平均粒子径、酸素量が表4に記載されている窒化ケイ素粉末を用いたこと以外は、実施例7と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、比表面積、D
50を実施例7と同様の方法で測定した。その結果を、表4に記載した。表4より、窒化ケイ素粉末の酸素含有量が0.2〜0.9質量%で、平均粒子径が1.0〜12.0μmで、比表面積が0.2〜3.0m
2/g以下である場合に、特に、外部量子効率が大きくなっていることが分かる。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
(実施例27〜33)
実施例7と同様の方法で酸窒化物焼成物を作製した。得られた酸窒化物焼成物を解砕して粒子径が5〜20μmの粉末を分級によって得た後、得られた粉末100gに対して、表5に示す量のLi
2Oを添加し、乳鉢で混合した。この混合物をアルミナ坩堝に入れて、黒鉛抵抗加熱式の電気炉に仕込み、電気炉内に窒素を流通させながら、常圧を保った状態で1600℃まで昇温させた後、1600℃で1時間保持して、Liを含有するα型サイアロン蛍光体からなる酸窒化物蛍光体を得た。
【0118】
得られた酸窒化物蛍光体粉末のLi含有量をICP−AES分析法にて測定した。酸窒化物蛍光体粉末に含まれるLi量を表5に記載した。表5より、Li含有量としては、50〜2000ppmの範囲内である場合に、外部量子効率がより向上するため、特に好ましい。
【0119】
【表5】