特許第6015860号(P6015860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015860
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】内部電極ペースト
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20161013BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20161013BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20161013BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20161013BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20161013BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20161013BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20161013BHJP
   H01C 7/04 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   H01B1/22 A
   H01B1/00 J
   C09D5/24
   C09D7/12
   C09D17/00
   C09D201/00
   C09D11/52
   H01C7/04
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-527187(P2015-527187)
(86)(22)【出願日】2014年2月5日
(86)【国際出願番号】JP2014052672
(87)【国際公開番号】WO2015008500
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2015年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-148568(P2013-148568)
(32)【優先日】2013年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079577
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 全啓
(72)【発明者】
【氏名】前田 頼宣
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−275511(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/085507(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/077585(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/157516(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22、1/00
C09D 5/24、7/12、11/52、17/00、201/00H01C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末としてAg粉末およびPd粉末と、樹脂と、溶剤とを含む内部電極ペーストであって、
Pd粉末の平均粒径D50が0.3μm〜0.7μmの範囲に含まれ、
Ag粉末の平均粒径D50が1.0μm以上かつ電極物理厚以下の範囲に含まれ、
導電性粉末においてAgの含有量が30wt%〜70wt%である、内部電極ペースト。
【請求項2】
全体に対して導電性粉末の比率が60wt%〜90wt%である、請求項1に記載の内部電極ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内部電極ペーストに関し、特に、例えばNTCサーミスタ、PTCサーミスタ、積層セラミックコンデンサ、圧電素子などの積層デバイスの内部電極に用いられる内部電極ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
積層デバイスのスクリーン印刷用の内部電極ペーストとして、例えば、特開2006−302525公報(特許文献1)には、Ag、樹脂、溶剤で構成されるペーストのAg粉表面が1000℃以上の融点を持つ金属・無機物と合金化しているものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−302525公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
NTCサーミスタにおいては抵抗値ばらつきの低減の施策として、スクリーン印刷時の内部電極の印刷精度の向上とカバレッジの向上が求められる。
印刷精度の向上には、無機粉末の含有量を増やしたり、微粒な粉末を用いたりすることによって、内部電極ペーストにチクソ性を付与することが多いが、チクソ性の高い内部電極ペーストを印刷すると、印刷物(塗膜)にはメッシュ痕がつきやすい。メッシュ痕による表面凹凸のある塗膜は、オストワルド成長によりポアが発生しやすく、カバレッジが低下することがある。また、メッシュ交差直下(メッシュ交点直下)の薄層化部位は、特にカバレッジが低下しやすいという問題がある。
低コスト化のために、内部電極ペーストにおいて、PdやPtに対してAg粉を混合する場合があるが、その場合、さらにカバレッジが低下しやすくなる。
そこで、Ag粉の表面に特許文献1に開示されているような高融点を持つ金属を被覆したものを用いたり、共沈殿・合金粉を用いたりすることがあるが、加工費が高くなることに加えて、メッシュ交点直下の薄層化部位のカバレッジ向上には効果が薄い。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、内部電極のカバレッジを向上させることができる内部電極ペーストを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる内部電極ペーストは、導電性粉末としてAg粉末およびPd粉末と、樹脂と、溶剤とを含む内部電極ペーストであって、Pd粉末の平均粒径D50が0.3μm〜0.7μmの範囲に含まれ、Ag粉末の平均粒径D50が1.0μm以上かつ電極物理厚以下の範囲に含まれ、導電性粉末においてAgの含有量が30wt%〜70wt%である、内部電極ペーストである。
この発明にかかる内部電極ペーストでは、全体に対して導電性粉末の比率が60wt%〜90wt%であることが好ましい。
【0007】
従来の内部電極ペーストの構成では、高カバレッジを確保するために、Ag/Pd粉末としてAg粉末・Pd粉末の双方とも微粒な粉末を用いることが多い。しかしながら、コストダウンを目的として高無機コンテントペーストを薄く印刷する場合、メッシュ交点直下の部位が薄層化する。さらに、微粒な粉末を用いたことでチクソ性が上がり、レベリング不足で局所的に薄層化し、焼成後カバレッジが低下することがある。
それに対して、この発明にかかる内部電極ペーストの構成では、0.3μm〜0.7μmの微粒なPd粉末に対して1.0μm以上のAg粉末を混合して用いることにより、スクリーン印刷時にメッシュ交点直下の薄層化部位に大きなAg粉末が入りづらく、高融点のPd粉末が優先的に入りやすくなる。そのため、薄層化部位に高融点のPdが多く存在することにより、高温焼成時にメッシュ交点直下の薄層化部位のカバレッジが確保されやすくなり、全体的な電極カバレッジが向上する効果が得られる。
なお、上述の構成と同等のAg/Pd含有比を有する合金・共沈殿や、微粒なAg・Pd粉末を用いた場合、メッシュ交点直下の薄層化部位に同程度のAg・Pdが存在することになる。すると、薄層化部位の融点はその他の部位と同等の融点を有するため、カバレッジの低下は免れられない。ましてやAg粉末よりも粒径の大きいPd粉末を用いた場合、メッシュ交点直下には逆にAg粉末が優先的に配置されることになり、さらにカバレッジは低下する。
以上のように、この発明にかかる内部電極ペーストでは、内部電極のカバレッジが向上する。そのため、この発明にかかる内部電極ペーストを用いた内部電極を有するサーミスタなどの積層デバイスでは、内部電極に関与する抵抗値のばらつきが低減する。
さらに、この発明にかかる内部電極ペーストでは、導電性粉末において、Agの含有量が30wt%〜70wt%であるので、効果的にコストダウンを図ることができる。
また、この発明にかかる内部電極ペーストでは、全体に対して導電性粉末の比率が60wt%〜90wt%であると、だれにくくなり、印刷性がよくなる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、内部電極のカバレッジを向上させることができる内部電極ペーストが得られる。
【0009】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この発明が適用されるチップ型サーミスタ素子の一例を示す斜視図である。
図2】(a)は図1に示すチップ型サーミスタ素子の平面断面図であり、(b)は図1に示すチップ型サーミスタ素子の側面断面図である。
図3】実施例1および比較例1〜3における内部電極ペーストの焼成後の電極の表面の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、この発明が適用されるチップ型サーミスタ素子の一例を示す斜視図であり、図2(a)は、図1に示すチップ型サーミスタ素子の平面断面図であり、図2(b)は、図1に示すチップ型サーミスタ素子の側面断面図である。
【0012】
図1に示すチップ型サーミスタ素子1は、直方体状のサーミスタ素体2を用いて構成されている。サーミスタ素体2は、負の抵抗温度特性を有する半導体セラミックスからなる。したがって、チップ型サーミスタ素子1は、NTCサーミスタとして動作する。
【0013】
サーミスタ素体2内には、第1の内部電極3a〜3c、第2の内部電極4a〜4cおよび第3の内部電極5a,5bが形成されている。
第1の内部電極3a〜3cは、サーミスタ素体2の第1の端面2aに引き出されている。第2の内部電極4a〜4cは、サーミスタ素体2の第1の端面2aと対向している第2の端面2bに引き出されている。
【0014】
第1の内部電極3a〜3cと、第2の内部電極4a〜4cとは、それぞれ、所定のギャップaを隔てて互いの先端が対向されている。また、このチップ型サーミスタ素子1では、第1の内部電極3a〜3cと、対応している第2の内部電極4a〜4cが、それぞれ同一平面上に位置している。例えば、第1の内部電極3aと、第2の内部電極4aは、同一平面上においてギャップaを隔てて対向されている。
【0015】
また、第1の内部電極3a〜3cと、第2の内部電極4a〜4cとの間のギャップaは、長さ方向において交互に異なる位置に配置されている。すなわち、第1の内部電極3aと第2の内部電極4aとの間のギャップaと、次に位置する第1の内部電極3bと第2の内部電極4bとの間のギャップaとは、図2(a)および図2(b)に示すように第1の端面2aと第2の端面2bとを結ぶ方向において異なる位置とされている。なお、第1,第2の端面2a,2bを結ぶ方向を長さ方向とする。
【0016】
また、図2(a)に示すように、第1,第2の内部電極3a,4aと、第1,第2の内部電極3a,4aの下方に位置する第1,第2の内部電極3b,4bとは、幅が異ならされている。すなわち、第1の内部電極3aおよび第2の内部電極4aの幅が、第1の内部電極3bおよび第2の内部電極4bの幅よりも相対的に広くされている。また、特に図示はしないが、第1の内部電極3cおよび第2の内部電極4cの幅は、第1の内部電極3bおよび第2の内部電極4bの幅よりも広くされている。
【0017】
このように、厚み方向において交互に第1,第2の内部電極の幅を異ならせることにより、積層ずれに起因する抵抗値のばらつきを抑制することができる。また、ギャップaを、上述のように交互にずらせることにより、低抵抗化を図り得る。
【0018】
また、第1,第2の端面2a,2bを覆うように第1,第2の外部電極6,7が形成されている。外部電極6,7は、端面2a,2bを覆うだけでなく、サーミスタ素体2の上面2c、下面2d、および側面2e,2fに至るように形成されている。すなわち、上面2c、下面2dおよび側面2e,2fに至る電極被り部6a,7aを有する。
【0019】
このチップ型サーミスタ素子1には、上述の第1,第2の内部電極3a〜3c,4a〜4cに加えて、第3の内部電極5a,5bが形成されている。
【0020】
第3の内部電極5a,5bは、第1,第2の内部電極3a〜4cが積層されている部分よりも積層方向外側に形成されている。内部電極5aを例にとると、積層方向最上部の第1,第2の内部電極3a,4aよりも積層方向外側に、すなわち上方に形成されている。第3の内部電極5aは、第2の端面2bに引き出されており、かつ下方に位置する第1,第2の内部電極3a,4a間のギャップaよりも長さ方向において内側に至るように形成されている。言い換えれば、第3の内部電極5aが引き出されている第2の端面2bから第3の内部電極5aの長さ方向内側端までの距離Xが、端面2bから、第3の内部電極5aが接続されている外部電極7とは反対側の第1の外部電極6に接続されている第1の内部電極3aの先端までの距離よりも長くされている。
【0021】
また、第3の内部電極5aの幅は、第1,第2の内部電極3a,4aの幅よりも広くされている。
したがって、図2(a)に示すように、第1,第2の内部電極3a,4aが対向しているギャップaを上方に投影した場合、ギャップaの全領域が第3の内部電極5aに含まれるように第3の内部電極5aが配置されている。
【0022】
第3の内部電極5bについても、第1,第2の内部電極3c,4c間のギャップaに対して、上述の第3の内部電極5aと同様に構成されている。
第3の内部電極5a,5bが上述のように形成されているので、このチップ型サーミスタ素子1では、電極被り部6a,7aの長さのばらつきの如何にかかわらず、抵抗値のばらつきを抑制することができる。
【0023】
すなわち、外部電極6,7を導電ペーストの塗布・焼き付け等により形成した場合、電極被り部6a,7aの長さ方向寸法にばらつきが生じやすい。
【0024】
しかしながら、このチップ型サーミスタ素子1では、最上層の第1,第2の内部電極3a,4a間のギャップaの上方に第3の内部電極5aが位置しており、第3の内部電極5aは、第2の外部電極7に電気的に接続されている。したがって、第1の内部電極3aの先端と電極被り部7aとの間に第3の内部電極5aが位置しており、電極被り部7aの内側端が第3の内部電極5aの内側端よりも外側に位置しているので、電極被り部7aと第1の内部電極3aとの間の抵抗によるサーミスタ素子1の抵抗値への影響をほぼ無くすことができる。同様に、下方においても、第3の内部電極5bの存在により、電極被り部7aと、第1の内部電極3cの内側端との間の抵抗値寄与をほぼ無くすことができる。
【0025】
したがって、電極被り部6a,7aにばらつきが生じたとしても、該電極被り部の長さのばらつきによる抵抗値のばらつきを効果的に抑制することができる。よって、抵抗値のばらつきの少ないチップ型NTCサーミスタ素子を提供し得ることがわかる。
【0026】
さらに、このチップ型サーミスタ素子1では、第1の内部電極3a〜3c、第2の内部電極4a〜4cおよび第3の内部電極5a,5bに用いられる内部電極ペーストとして、それぞれ、導電性粉末としてAg粉末およびPd粉末と、樹脂と、溶剤とを含む内部電極ペーストであって、Pd粉末の平均粒径D50が0.3μm〜0.7μmの範囲に含まれ、Ag粉末の平均粒径D50が1.0μm以上かつ電極物理厚以下の範囲に含まれ、導電性粉末においてAgの含有量が30wt%〜70wt%である、この発明にかかる内部電極ペーストが用いられ得る。電極物理厚とは、印刷により塗布される内部電極ペーストの層の厚さである。なお、その内部電極ペーストでは、全体に対して導電性粉末の比率が60wt%〜90wt%であることが好ましい。
【0027】
上述の内部電極ペーストの構成では、0.3μm〜0.7μmの微粒なPd粉末に対して1.0μm以上のAg粉末を混合して用いることにより、スクリーン印刷時にメッシュ交点直下の薄層化部位に大きなAg粉末が入りづらく、高融点のPd粉末が優先的に入りやすくなる。そのため、薄層化部位に高融点のPdが多く存在することにより、高温焼成時にメッシュ交点直下の薄層化部位のカバレッジが確保されやすくなり、全体的な電極カバレッジが向上する効果が得られる。
このように、その内部電極ペーストでは、第1の内部電極3a〜3c、第2の内部電極4a〜4cおよび第3の内部電極5a,5bのカバレッジが向上する。そのため、その内部電極ペーストを用いた第1の内部電極3a〜3c、第2の内部電極4a〜4cおよび第3の内部電極5a,5bを有するチップ型サーミスタ素子1では、第1の内部電極3a〜3c、第2の内部電極4a〜4cおよび第3の内部電極5a,5bに関与する抵抗値のばらつきが低減する。
【0028】
さらに、その内部電極ペーストでは、導電性粉末において、Agの含有量が30wt%〜70wt%であるので、効果的にコストダウンを図ることができる。
【0029】
また、その内部電極ペーストでは、全体に対して導電性粉末の比率が60wt%〜90wt%であると、だれにくくなり、印刷性がよくなる。
【0030】
次に、上述のチップ型サーミスタ素子1の製造方法の一例について説明する。
【0031】
まず、Mn、NiおよびCoなどの複数のセラミックス酸化物からなるサーミスタ材料に、有機バインダ、分散剤、消泡剤および水を所定量加え、セラミックスラリーを得た。上述のセラミックスラリーを用いて、厚み40μmのセラミックグリーンシートを作製した。
【0032】
その後、上述のセラミックグリーンシートを所定の矩形形状に切断し、複数枚の矩形のセラミックグリーンシートを得た。
【0033】
上述の複数枚のセラミックグリーンシートのうち、所定のセラミックグリーンシート上に、上述した第1,第2の内部電極3a,4a〜3c,4cおよび第3の内部電極5a,5bがそれぞれ形成されるように内部電極ペーストを印刷し、乾燥した。
【0034】
内部電極ペーストとしては、例えば、AgとPdとを重量比で3:7で含む内部電極ペーストであって、この発明の実施例1〜3および比較例1〜4の各内部電極ペーストを用いた。これらの内部電極ペーストは、表1に示す実施例1〜3および比較例1〜4の組成物を各種調合し、プラネタリーミキサーで攪拌後、ロール分散により得られた。なお、表1において、無機組成とは、内部電極ペースト中の導電性粉末に相当する。
【0035】
【表1】
【0036】
また、内部電極ペーストの印刷は、版厚10μmのスクリーン印刷版を用いて行われ、電極物理厚は、1.5μmであった。
【0037】
そして、上述の内部電極ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートの上下に無地のセラミックグリーンシートを積層し、厚み方向に加圧した後、焼成し、サーミスタ素体2を得た。
【0038】
また、上述のようにして得られたサーミスタ素体2の両端面2a,2bに、Ag−Pdからなる導電ペーストを塗布し、焼き付け、さらに外表面にNiメッキ層およびSnメッキ層を順次形成し、第1,第2の外部電極6,7を形成した。
【0039】
上述のようにして、0.60mm×0.32mmの寸法を有し、第1,第2の内部電極からなる電極層が7層積層されており、その上下に第3の内部電極5a,5bがX=0.25mmとなるように形成されており、第1,第2の内部電極間のギャップaの長さ方向寸法が117μm、図1(b)に示した距離Zが85.4μm、外部電極6,7の電極被り部6a,7aの長さ方向寸法Yが175±48μmの多数のチップ型サーミスタ素子1を得た。
【0040】
上述のようにして製造されたチップ型サーミスタ素子1のうち、実施例1〜3および比較例1〜4の各内部電極ペーストを用いたものについて、それぞれ、50個ずつの完成品の抵抗値を測定し、それらの抵抗値から抵抗値ばらつきを算出した。抵抗値ばらつきの算出方法としては、抵抗値ばらつき(CV)=([標準偏差]/[抵抗値の平均値])×100(%)によって算出する方法を用いた。
【0041】
さらに、実施例1〜3および比較例1〜4の各内部電極ペーストを用いた内部電極のカバレッジを測定した。このカバレッジの測定方法は、シート上に2mm×1mmの大きさに印刷した内部電極ペーストの印刷物(印刷層)を大気中で1250℃で焼成した。焼成後の印刷物の残存電極部位を2値化することにより、各カバレッジを算出した。
【0042】
そして、表1には、粒径の組合せによるカバレッジおよび抵抗値ばらつき、すなわち、実施例1〜3および比較例1〜4の各内部電極ペーストを用いた場合の内部電極のカバレッジおよび抵抗値ばらつきについても示した。なお、表1において、抵抗値ばらつきについては、比較例1の抵抗値ばらつきに対する抵抗値ばらつきである「抵抗値ばらつき(比較例1比)」を示した。
【0043】
表1より、この発明の範囲外である比較例1〜4の内部電極ペーストを用いた場合、内部電極のカバレッジが小さく、しかも、抵抗ばらつきが大きいことがわかる。
それに対して、この発明の範囲内である実施例1〜3の内部電極ペーストを用いた場合、内部電極のカバレッジが大きく、しかも、抵抗ばらつきが小さいことがわかる。
【0044】
また、図3には、実施例1および比較例1〜3における内部電極ペーストの焼成後の電極の表面の状態を示した。
すなわち、図3には、Ag粉末およびPd粉末としてそれぞれ1.5μmおよび0.7μmのものを用い、その組合せ(計4個:比較例1〜3および実施例1)の焼成後の電極の表面の状態を示した。
【0045】
図3より、粗大なPd粉末(1.5μm)を用いた場合は、カバレッジが著しく低下したことがわかる(比較例1、2)。一方、微粒なPd粉末(0.7μm)を用いた場合は、カバレッジが向上するものの、Pd粉末およびAg粉末の両者とも微粒な粉末(0.7μm)を用いた場合、メッシュ交点直下においてカバレッジが局所的に低下した(比較例3)。
それに対して、Pd粉末が0.7μm、Ag粉末が1.5μmの各粉末を用いたこの発明の実施例1では、微粒な粉末の組合せ(比較例1)よりも高カバレッジを確保できた。
【0046】
また、表2には、比較例1〜4および実施例1〜3のカバレッジを示した。
【0047】
【表2】
【0048】
すなわち、表2には、Ag粉末として0.7μm、1.0μmまたは1.5μmの平均粒径(D50)を持つ粉末と、Pd粉末として0.3μm、0.7μmまたは1.5μmの平均粒径(D50)を持つ粉末とを、Ag/Pd=3/7の重量割合で混合した内部電極ペーストのカバレッジを示した。表2より、Pd粉末を微粒化するほどカバレッジは向上するが、逆に、Ag粉末は1.0μm以上の方がカバレッジが向上している様子が見て取れる。粒径の範囲としては、Pd粉末が0.3μm〜0.7μmの範囲かつAg粉末が1.0μm以上の範囲において、良好なカバレッジが得られた。
【0049】
以上の結果は、次の理由によって得られたと考えられる。すなわち、上述の内部電極ペーストのような無機コンテストが高い内部電極ペーストを薄層に印刷する場合、メッシュ交点直下は局所的に薄層化されやすい。そこにおいて、粒径の大きなAg粉末を用いることによって薄層化部位にAg粉末よりも微粒なPd粉末が優先的に配位するため、例えば比較例3に対して実施例1のような高カバレッジが得られたと考えられる。
【0050】
さらに、表3には、Ag/Pd比率とカバレッジへの影響を示した。
【0051】
【表3】
【0052】
すなわち、表3には、Ag粉末として1.5μmの粉末を用い、Pd粉末として0.7μmの粉末を用いた場合において、内部電極ペースト中のAg/Pd比率の異なる実施例1、実施例4および比較例5のカバレッジを評価した結果などを示した。なお、表3においても、無機組成とは、内部電極ペースト中の導電性粉末に相当する。
【0053】
低コスト化する上においては、Ag/Pd比率を増加させることが望ましいが、表3において、無機成分(導電性粉末)の構成としてAg粉末の含有量が70wt%より大きい場合は、カバレッジが低下する傾向が見られた(比較例5)。これは、低融点のAg粉末が増加するとともに、メッシュ交点直下の薄層化部分に十分に微粒なPd粉末が存在することができないため、カバレッジが低下したと考えられる。
それに対して、この発明により高カバレッジが得られるAg/Pd比率の組成範囲は、無機成分(導電性粉末)の構成比率として、Ag粉末の含有量が30wt%〜70wt%であることがわかる。
【0054】
以上のように、この発明にかかる内部電極ペーストでは、内部電極のカバレッジが向上し、完成品であるチップ型サーミスタ素子の内部電極に関与する抵抗値ばらつきが低減する。
しかも、この発明にかかる内部電極ペーストでは、導電性粉末中のAg粉末の含有量が30wt%〜70wt%であるので、カバレッジが向上する効果を得つつ、効果的にコストダウンできる。
【0055】
なお、上述のチップ型サーミスタ素子(NTCサーミスタ)には、第3の内部電極が形成されているが、この発明にかかる内部電極ペーストは、そのような第3の内部電極が形成されていないNTCサーミスタの内部電極、例えば第1の内部電極および第2の内部電極にも用いられる。
【0056】
また、この発明にかかる内部電極ペーストは、NTCサーミスタの内部電極だけでなく、PTCサーミスタ、積層セラミックコンデンサ、圧電素子などの他の積層デバイスの内部電極にも用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
この発明にかかる内部電極ペーストは、特に、例えばNTCサーミスタ、PTCサーミスタ、積層セラミックコンデンサ、圧電素子などの積層デバイスの内部電極に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0058】
1 チップ型サーミスタ素子(NTCサーミスタ)
2 サーミスタ素体
2a,2b 第1,第2の端面
3a〜3c 第1の内部電極
4a〜4c 第2の内部電極
5a,5b 第3の内部電極
6,7 第1,第2の外部電極
6a,7a 電極被り部
図1
図2
図3