【実施例1】
【0020】
図1は本発明の実施例1のセシウムイオンの除去装置の説明図である。
図1において、本発明の実施例1のセシウムイオンの除去装置1は、第1の槽の一例としての主水槽2と、第2の槽の一例としての捕獲槽3と、からなる水槽2+3を有する。主水槽2と捕獲槽3とは、接続部4で接続されており、接続部4には、陽イオン(カチオン)が通過可能なイオン交換膜6が支持されている。なお、カチオンが通過可能なイオン交換膜6は、従来公知であり、例えば、ナフィオン(登録商標)膜等、任意のものを使用することが可能である。
また、実施例1の捕獲槽3は、主水槽2に対して着脱可能なカートリッジ方式の構成となっており、接続部4の止水栓4aにより、捕獲槽3と主水槽2とが着脱可能に連結されている。なお、止水栓4aは、従来公知であり、例えば、水道や洗濯機等で使用される止水栓を使用可能であるため、図示および詳細な説明は省略する。
【0021】
実施例1の主水槽2には、第1の溶液の一例として、セシウムイオンが溶解している水溶液が収容される。セシウムイオンが溶解された水溶液は、例えば、セシウムイオンが溶けた汚染水や、放射性セシウム等で放射能汚染された土壌の酸処理を行って放射性セシウムイオンを水中に溶解させたものを使用可能である。このとき、セシウムイオンの捕獲効率が最大になるように、pH調整を行い、イオン交換膜6や図示しないフィルターの目詰まりの原因となる砂等の粒子を除去することが好ましい。
実施例1の捕獲槽3には、第2の溶液の一例として、アニオン(陰イオン)としての鉄シアノ錯体イオン([Fe(CN)
6]
3-または[Fe(CN)
6]
4-)を含む水溶液と、第3の溶液の一例として、カチオン(陽イオン)としての遷移金属イオンを含む水溶液とが供給される。
【0022】
また、実施例1では、前記カチオンとして、鉄シアノ錯体イオンと化学反応してシアノ架橋金属錯体が得られるCr
3+,Mn
2+,Fe
2+,Co
2+,Ni
2+,Cu
2+,Zn
2+を含む水溶液を使用可能であるが、後述する捕獲効率から、Mn
2+,Co
2+,Zn
2+を使用することが好適である。
また、実施例1の除去装置1では、アニオンは、図示しないアニオン水溶液タンク、ポンプ等からなるアニオン供給装置11により捕獲槽3に供給され、カチオンは、アニオン供給装置11と同様に構成されたカチオン供給装置12により捕獲槽3に供給される。前記アニオン供給装置11およびカチオン供給装置12により実施例1の供給装置11+12が構成されている。前記主水槽2には、セシウムイオンのイオン濃度を検出する検出部材の一例としての濃度センサ16が支持されている。なお、濃度センサ16は、従来公知の種々のセンサを使用可能であるが、一例として、ICP-OES(Inductivity Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry:誘導結合プラズマ発光分析装置)を使用することが可能である。
【0023】
濃度センサ16の信号は、供給装置11+12の制御部17に入力される。実施例1の制御部17は、小型の情報処理装置、いわゆるマイクロコンピュータにより構成されており、外部との信号の入出力、および、入出力信号レベルの調節等を行うI/O、必要な処理を実行するためのプログラム、および、データ等が記憶されたROM、必要なデータを一時的に記憶するためのRAMや、HDD、前記ROMや、前記HDDに記憶されたプログラムに応じた処理を行うCPU、ならびにクロック発振器等を有しており、前記ROMに記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
前記制御部17は、セシウムイオン濃度検出手段18と、アニオン供給制御手段19と、カチオン供給制御手段20とを有する。
セシウムイオン濃度検出手段18は、濃度センサ16からの信号に基づいてセシウムイオンのイオン濃度を検出する。
【0024】
アニオン供給制御手段19は、セシウムイオン濃度検出手段18の検出結果に基づいて、アニオン供給装置11の供給量を制御し、カチオン供給制御手段20は、セシウムイオン濃度検出手段18の検出結果に基づいて、カチオン供給装置12の供給量を制御する。実施例1のアニオン供給制御手段19およびカチオン供給制御手段20は、セシウムイオンのイオン濃度に応じて、実験等で予め設定された捕獲効率が最大となる量のアニオン、カチオンを供給し、イオン濃度が低下するのに応じてアニオン、カチオンの供給量を低下させる。
【0025】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1のセシウムイオンの除去装置1では、主水槽2中のセシウムイオン(Cs
+)は、イオン交換膜6を通過して捕獲槽3側に移動可能である。捕獲槽3では、アニオンとしての鉄シアノ錯体イオン([Fe(CN)
6]
3-または[Fe(CN)
6]
4-)と、カチオン(Cr
3+,Mn
2+,Fe
2+,Co
2+,Ni
2+,Cu
2+,Zn
2+)が供給されており、化学反応によりシアノ架橋金属錯体が生成される。すなわち、Mをカチオン(Cr
3+,Mn
2+,Fe
2+,Co
2+,Ni
2+,Cu
2+,Zn
2+)とし、xを0より大きく2以下の数とし、yを0より大きく1以下の数とし、zを0より大きく14以下の数とした場合に、化学式Cs
xM[Fe(CN)
6]
y・nH
2Oで表されるシアノ架橋金属錯体が生成される。
【0026】
図2はシアノ架橋金属錯体の要部説明図であり、
図2Aは実施例1の除去装置で生成されるシアノ架橋金属錯体の説明図、
図2Bは従来のシアノ架橋金属錯体の説明図である。
したがって、実施例1のセシウムイオンの除去装置1では、カチオンとアニオンとが化学反応して、シアノ架橋金属錯体結晶を形成する過程で、
図2に示すようなM[Fe(CN)
6]の格子中にCsが捕獲された状態でシアノ架橋金属錯体の結晶が生成される。
従来のプルシャンブルー(Fe[Fe(CN)
6])系のシアノ架橋金属錯体を使用する場合には、
図2Bに示すように、Csの代わりにNa等のアルカリ金属が収容された状態のシアノ架橋金属錯体を、セシウム溶液中に浸漬することでセシウムの除去を行っている。すなわち、従来の構成では、Na等が存在しない格子中の空間にセシウムが進入したり、格子中のNa等のイオンが脱離した空間にセシウムが進入することでセシウムが除去されている。しかしながら、この構成では、シアノ架橋金属錯体の表面近傍でしかセシウムを収着、除去することができず、表面積を広げるためにシアノ架橋金属錯体を微粒子化(ナノ粒子化)する必要があり、ナノ粒子化する手間がかかる問題がある。
【0027】
さらに、従来の構成では、表面近傍で収着されたセシウムは、再び脱離する恐れがあり、セシウム収着後のシアノ架橋金属錯体を処理する際に、セシウムが再流出して、二次汚染を発生させる恐れがある。
これらに対して、実施例1では、カチオンとアニオンとが化学反応して結晶格子が生成される際に、捕獲槽3内のセシウムが結晶中、格子中に捕獲される。すなわち、生成されたシアノ架橋金属錯体の表面近傍だけでなく、結晶の内部深くの格子中にもセシウムが捕獲され、閉じこめられた状態となる。したがって、表面近傍でしかセシウムを収着できない従来の構成に比べて、セシウムの回収効率が高まると共に、内部に捕獲されたセシウムは再流出しにくく、二次汚染を低減することが可能である。よって、放射性セシウムイオンの濃度に対して、放射性汚泥の量、すなわち、生成されて沈殿したシアノ架橋金属錯体の量を少なくすることができ、放射性物質の保管等の処理スペースを削減することもできる。
【0028】
(実験例)
次に、実施例1の効果を確認するための実験を行った。なお、実験は、放射性セシウムと化学的な特性が同様の非放射性のセシウムを使用して行った。
(実験例1)
実験例1は、室温で行い、疑似汚染水として、1000ppmのセシウム標準液(CsNO
3in 0.5M(=0.5mmol/L) HNO
3)を希釈して、2ppmのCsを含んだ水溶液を使用した。
実験例1では、カチオン源として、10mMのCrCl
3、MnCl
2、FeCl
2、CoCl
2、NiCl
2、CuCl
2、ZnCl
2水溶液を各5ml使用した。
また、アニオン源として、10mMのNa
4[Fe(CN)
6]、K
3[Fe(CN)
6](水和水の表記は省略する)水溶液を各5ml使用した。
疑似汚染水10mlにカチオン源水溶液5ml、アニオン源水溶液5mlを加え、5分間撹拌し、5分間超音波洗浄機にかける。なお、この操作で、Csの濃度は、1ppmとなる。
次に、3500rpmで15分間遠心分離器にかける。
次に、上澄みを抽出して、2回目の遠心分離器(3500rpmで15分間)にかける。
次に、上澄みを抽出して、0.2μmのPTFEフィルターで沈殿物を除去する。
そして、MS-ICP(Mass Spectroscopy-Inductivity Coupled Plasma:誘導結合プラズマ質量分析装置)で水溶液中のCs濃度を評価した。
実験結果を
図3に示す。
【0029】
図3は実験例1の実験結果の説明図であり、横軸にイオン半径をとり、縦軸にセシウム濃度を取ったグラフであり、
図3Aはアニオンが[Fe(CN)
6]
4-の場合の実験結果のグラフ、
図3Bはアニオンが[Fe(CN)
6]
3-の場合の実験結果のグラフである。
図3において、実験例1では、アニオンが[Fe(CN)
6]
4-、[Fe(CN)
6]
3-の両方の場合において、カチオンがMn、Znでは、Cs濃度が1/100、あるいはそれ以下まで減少させることができ、非常に良好な結果を示した。また、[Fe(CN)
6]
3-では、Coを使用した場合も、1/100以下まで濃度を減少させることができ、非常に良好な結果が確認された。また、他のカチオン(Fe,Cr,Ni,Cu)でも、Csの濃度をある程度減少させられることが確認された。
図3において、実験例1から、イオン半径が大きい方が、セシウムの濃度を低減する効果が大きい傾向があることが確認され、特に、イオン半径が0.74[Å]以上になると、良好な結果が得られ傾向があることが確認された。これは、イオン半径とセシウムイオンの大きさとの関係で、イオン半径が大きくなると格子中の空間が大きくなり、イオン半径の大きなセシウムを収容しやすくなるためである。
【0030】
(実験例2)
実験例2では、初期のセシウム濃度とアニオンおよびカチオンを加えた後のセシウム濃度との変化について実験を行った。実験は、実験例1において、アニオン源としてK
3[Fe(CN)
6]水溶液を使用し、カチオン源として、実験例1で良好な結果を示したMnCl
2、CoCl
2、ZnCl
2水溶液を使用すると共に、疑似汚染水として、希釈後のセシウム濃度が2ppm、20ppm、200ppmのものを使用し、アニオン源水溶液およびカチオン源水溶液を加えた後では、1ppm、10ppm、100ppmとなる以外は、実験例1と同様にして実験を行った。
実験結果を
図4に示す。
【0031】
図4は実験例2の実験結果の説明図であり、横軸にカチオンの種類をとり、縦軸にセシウム濃度を取ったグラフである。
図4において、実験例2では、セシウムの初期の濃度が高くなるに連れて、カチオン源がCo
2+の場合は、アニオンおよびカチオンを加えた後(捕獲後)のセシウムの濃度が高くなることが確認された。なお、それでも、初期濃度に比べて1/100程度には減少させることが可能であった。また、カチオン源がZn
2+の場合は、セシウムの初期濃度が100ppmになると、捕獲後のセシウム濃度が少し高くなったが、それでも1/10000程度まで濃度が減少させられることが確認された。さらに、カチオン源がMn
2+の場合は、セシウムの初期濃度が100ppmになると、捕獲後のセシウム濃度が10
-3ppmとなり、それでも1/100000程度まで濃度が減少させられることが確認された。よって、特に、Zn、Mnについては、高濃度のセシウム水溶液でも、セシウムの濃度を大きく低減できることが確認され、カチオン源やアニオン源が少ない量でも効率的にセシウムを捕獲、除去できる。
【0032】
(実験例3)
実験例3は、実験例1に対して、Cs標準液ではなく、セシウム源として、CsClを使用した。
実験例3では、カチオン源としての10mMのMnCl
2水溶液を各5ml、アニオン源としての10mMのK
3[Fe(CN)
6]水溶液を各5ml使用した。
カチオン源水溶液5mlとアニオン源水溶液5mlに対して、CsClを1ppm,10ppm,100ppm,1mM,2mM,4mM,6mM,8mM,10mMとなるように、溶解する。
その後の2回の遠心分離、PTFEフィルターでの沈殿物の除去、MS-ICPによる評価は実験例1と同様に行った。
実験結果を
図5に示す。
【0033】
図5は実験例3の実験結果の説明図であり、横軸に沈殿物除去後の溶液中のCs濃度を取り、縦軸にセシウム吸収率を取ったグラフである。
なお、本願明細書では、セシウム吸収率を、(沈殿物中のセシウムの重量)/(沈殿物中のアニオン源およびカチオン源の重量)と定義する。
図5において、セシウム源として加えたセシウムの濃度が高くなると、セシウム吸収率も高くなるが、溶液中に残留するセシウム濃度も高くなることが確認されたが、セシウム吸収率が400[mg/g]を超えると吸収率が飽和しつつあることが確認された。なお、理想的な化合物であるCsMn[Fe(CN)
6]が生成された場合のCsの吸収率(理論値、上限値)は498[mg/g]であり、理論値に近いことが確認された。
なお、従来のゼオライトでは、Csの吸収率は、100〜200[mg/g]程度であり、この2倍以上の吸収率を有することが確認された。
したがって、実験例1〜3の結果、実験例1,2に示すような比較的低濃度の領域(1mM以下)では、0.01ppm以下という極めて高い除去性能を発揮できると共に、実験例3に示すような比較的高濃度の領域(1mM以上)では、高い吸収率でセシウムを除去することができる。
【実施例2】
【0034】
図6は本発明の実施例2のセシウムイオンの除去装置の説明図であり、実施例1の
図1に対応する図である。
なお、この実施例2の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
この実施例2は、下記の点で前記実施例1と相違しているが、他の点では実施例1と同様に構成されている。
図6において、実施例2のセシウムイオンの除去装置1′では、捕獲槽3にカチオンが供給される実施例1と異なり、第1の槽の一例としての主水槽2側にカチオンが供給される。
【0035】
(実施例2の作用)
前記構成を備えた実施例2のセシウムイオンの除去装置1′では、主水槽2側に供給されたカチオン(陽イオン)は、イオン交換膜6を通過して、セシウムイオン(陽イオン)と共に捕獲槽3に移動する。そして、アニオンが供給される捕獲槽3において、化学反応により、セシウムイオンが捕獲されたシアノ架橋金属錯体が生成され、主水槽2の水溶液中からセシウムイオンが除去される。
よって、実施例2のセシウムイオンの除去装置1′も、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0036】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H07)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、セシウムイオンの除去装置1,1′の構成としてカートリッジ方式の構成を例示したが、これに限定されず、交換不能な構成とすることも可能である。また、カートリッジ方式における交換可能な部分も、実施例に例示したイオン交換膜を含めて交換可能とする構成に限定されず、イオン交換膜6を主水槽2側に配置する構成とすることも可能である。水槽2,3の形状は実施例に例示した構成に限定されず、任意に変更可能である。
【0037】
(H02)前記実施例において、主水槽2には、予めセシウムイオンが溶解した水溶液が収容された状態の構成を例示したが、これに限定されず、例えば、主水槽2に対してセシウムイオン溶液を少しずつ流入させつつ一部を主水槽2から流出させながら、セシウムイオンの除去を行うことも可能である。
(H03)前記実施例において、主水槽2中のセシウムイオンの除去は、1回に限定されず、例えば、主水槽2中の溶液を交換せずに捕獲槽3側のカートリッジ交換を複数回行って、複数回セシウムイオンの除去を行ったり、変更例(H02)を適用して、セシウムイオン溶液を循環させて主水槽2に複数回流入させることで、複数回セシウムの除去を行う構成とすることも可能である。
【0038】
(H04)前記実施例において、セシウムイオンの溶液の作製方法について、放射線汚染された土壌の酸処理やpH調整等の構成を例示したが、これに限定されず、セシウムイオンが溶解した溶液であれば、任意の方法を採用可能である。
(H05)前記実施例において、カチオンやアニオンの両方を供給する構成を例示したが、これに限定されず、いずれか一方を予め水槽2,3中に収容しておき、他方を逐次供給する構成とすることも可能である。例えば、捕獲槽3に予め設定された量のアニオン水溶液を収容しておき、カチオン水溶液を供給装置により、主水槽2または捕獲槽3に供給する構成とすることも可能である。逆に、主水槽2または捕獲槽3に予め設定された量のカチオン水溶液を収容しておき、アニオン水溶液を供給装置により捕獲槽3に供給する構成とすることも可能である。
【0039】
(H06)前記実施例において、センサによりセシウムイオンの濃度に応じて、アニオンやカチオンの供給量を制御する構成が望ましいが、セシウムイオンの濃度が予め設定されている場合には、アニオンやカチオンの供給量も予め設定可能であり、センサや供給量の制御の構成は省略することが可能である。なお、セシウムイオンの濃度に応じて、アニオンやカチオンの供給量を制御することが望ましいが、セシウムイオンの濃度の幅に対して、十分な量のアニオンおよびカチオンを供給する構成として、センサや供給量の制御の構成を削除することも可能である。
(H07)前記実施例において、カチオンまたはアニオンを1種類ずつ使用する実験例を例示したが、これに限定されず、複数のカチオンや複数のアニオンを混合して供給する構成とすることも可能である。