特許第6015903号(P6015903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6015903-相乗的抗糖尿病治療剤 図000016
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015903
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】相乗的抗糖尿病治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/216 20060101AFI20161013BHJP
   A61K 31/7052 20060101ALI20161013BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20161013BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20161013BHJP
   A61P 5/48 20060101ALI20161013BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   A61K31/216
   A61K31/7052
   A23L33/10
   A61P3/10
   A61P5/48
   A61P43/00 121
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-108729(P2012-108729)
(22)【出願日】2012年5月10日
(65)【公開番号】特開2013-234159(P2013-234159A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年5月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラムフィージビリティスタディステージ 起業検証タイプ、新たに精製・同定したアルギニン分子標的に作用する糖尿病薬剤の開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】今井 剛
(72)【発明者】
【氏名】半田 宏
(72)【発明者】
【氏名】山口 雄輝
【審査官】 深谷 良範
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−088403(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/029958(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/216
A23L 33/10
A61K 31/7052
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】
(式中、
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OR、−CHOR、−COOR、−COR、又は−CON(R)Rであり、ここで、R、R、R、R、R、及びRは、同一又は異なってもよく、独立して、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択され;及び
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、−OR(ここで、Rは、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択される)、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、又はC2−6アルキニルであり、ここで、該C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、及びC2−6アルキニルは、ハロゲン;水酸基;ニトロ;シアノ;酸素、窒素、及び硫黄から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含有してもよいフェニル、トリル、ナフチル、ピリジル、チアゾリル、フリル、又はチエニル;及びアルコキシカルボニルからなる群から選択される1以上の置換基を有してもよい)
で表される化合物又はその医薬として許容される塩若しくは溶媒和物;並びに
糖ヌクレオチド
を有効成分とし、各成分を1:10〜1:200のモル比で含有するインスリン分泌促進剤。
【請求項2】
が、水酸基であり;Rが、水素又はC2−6アルケニルである、請求項1に記載のインスリン分泌促進剤。
【請求項3】
一般式(I)で表される化合物が、
(E)−3−[3−(3−メチルブタ−2−エン−1−イル)−4−{(3−フェニルプロパノイル)オキシ}フェニル]アクリル酸;又は
(E)−3−[4−{(3−フェニルプロパノイル)オキシ}フェニル]アクリル酸
である、請求項1又は2に記載のインスリン分泌促進剤。
【請求項4】
糖ヌクレオチドが、UDPグルコース、ADPグルコース、GDPグルコース、及びUDPグルクロン酸からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインスリン分泌促進剤。
【請求項5】
一般式(I):
【化2】
(式中、
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OR、−CHOR、−COOR、−COR、又は−CON(R)Rであり、ここで、R、R、R、R、R、及びRは、同一又は異なってもよく、独立して、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択され;及び
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、−OR(ここで、Rは、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択される)、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、又はC2−6アルキニルであり、ここで、該C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、及びC2−6アルキニルは、ハロゲン;水酸基;ニトロ;シアノ;酸素、窒素、及び硫黄から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含有してもよいフェニル、トリル、ナフチル、ピリジル、チアゾリル、フリル、又はチエニル;及びアルコキシカルボニルからなる群から選択される1以上の置換基を有してもよい)
で表される化合物又はその医薬として許容される塩若しくは溶媒和物;
糖ヌクレオチド;及び
医薬として許容される担体
を含む糖尿病を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
【請求項6】
一般式(I):
【化3】
(式中、
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OR、−CHOR、−COOR、−COR、又は−CON(R)Rであり、ここで、R、R、R、R、R、及びRは、同一又は異なってもよく、独立して、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択され;及び
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、−OR(ここで、Rは、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択される)、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、又はC2−6アルキニルであり、ここで、該C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、及びC2−6アルキニルは、ハロゲン;水酸基;ニトロ;シアノ;酸素、窒素、及び硫黄から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含有してもよいフェニル、トリル、ナフチル、ピリジル、チアゾリル、フリル、又はチエニル;及びアルコキシカルボニルからなる群から選択される1以上の置換基を有してもよい)
で表される化合物又はその医薬として許容される塩若しくは溶媒和物;及び
糖ヌクレオチド
を含むことを特徴とするインスリン分泌促進作用を有する食品組成物。
【請求項7】
一般式(I):
【化4】
(式中、
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OR、−CHOR、−COOR、−COR、又は−CON(R)Rであり、ここで、R、R、R、R、R、及びRは、同一又は異なってもよく、独立して、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択され;及び
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、−OR(ここで、Rは、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択される)、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、又はC2−6アルキニルであり、ここで、該C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、及びC2−6アルキニルは、ハロゲン;水酸基;ニトロ;シアノ;酸素、窒素、及び硫黄から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含有してもよいフェニル、トリル、ナフチル、ピリジル、チアゾリル、フリル、又はチエニル;及びアルコキシカルボニルからなる群から選択される1以上の置換基を有してもよい)
で表される化合物又はその医薬として許容される塩若しくは溶媒和物;及び
糖ヌクレオチド
を含むことを特徴とするインスリン分泌促進作用を有する機能性食品。
【請求項8】
一般式(I):
【化5】
(式中、
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OR、−CHOR、−COOR、−COR、又は−CON(R)Rであり、ここで、R、R、R、R、R、及びRは、同一又は異なってもよく、独立して、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択され;及び
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、−OR(ここで、Rは、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択される)、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、又はC2−6アルキニルであり、ここで、該C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、及びC2−6アルキニルは、ハロゲン;水酸基;ニトロ;シアノ;酸素、窒素、及び硫黄から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含有してもよいフェニル、トリル、ナフチル、ピリジル、チアゾリル、フリル、又はチエニル;及びアルコキシカルボニルからなる群から選択される1以上の置換基を有してもよい)
で表される化合物又はその医薬として許容される塩若しくは溶媒和物を含む食品;及び
糖ヌクレオチドを含む食品
を含むことを特徴とするインスリン分泌促進作用を有する機能性食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の化合物を組み合わせる新規な抗糖尿病治療用剤に関する。より具体的には、本発明は、バッカリン類と糖ヌクレオチド又はグルコサミンとを有効成分とするインスリン分泌促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、持続的な高血糖状態を伴う疾患であり、多種多様の環境因子と遺伝的因子とが作用した結果、生じると言われている。血糖の主要な調節因子はインスリンであり、高血糖は、インスリン欠乏、又はその作用を阻害する諸因子(例えば、遺伝的素因、運動不足、肥満、ストレス等)が過剰となって生じることが知られている。糖尿病は、主に、自己免疫疾患などによる膵インスリン分泌機能の低下によって生じる1型糖尿病、及び持続的な高インスリン分泌に伴う膵疲弊による膵インスリン分泌機能の低下やインスリン抵抗性が原因である2型糖尿病に分類される。我が国においては、糖尿病は現代の国民病であり、糖尿病患者の95%以上(予備軍を含めると2,000万人を超えると予測されている)は、インスリン非依存性糖尿病と言われており、生活様式の変化に伴い、患者数の増加が問題となっている。世界レベルでは、約2億人と推定され(非特許文献1)、世界の糖尿病治療薬の市場は、2006年では約1兆円の規模である。これは、市場及び人口ともにほぼ第1位である。
【0003】
糖尿病の治療は、軽症においては、食事療法、運動療法、及び肥満の改善等が主として行われ、さらに進行すると経口糖尿病薬(インスリン分泌促進剤)の投与、さらに重症の場合は、インスリン製剤の投与が行われている。インスリン分泌促進物質(又はインスリン分泌促進剤)としては、グルコースの他、アミノ酸(特にアルギニン)、βレセプター刺激剤、αレセプター遮断剤、スルホニルウレア剤などが知られている。このうち、スルホニルウレア剤は、膵β細胞を刺激し、内因性インスリン分泌を促進するが、インスリン分泌のタイミング及び分泌量は、血糖値とは関係なく、薬物の投与タイミング及び投与量によって決まる。このため、副作用として薬剤の作用持続に起因する低血糖を呈する場合がある(非特許文献2)。このように従来用いられているインスリン分泌促進剤及びインスリン製剤は、前記課題を有していた。そこで、より高度な血糖管理が可能な薬剤、すなわち、単に血糖を下げる薬剤ではなく、正常範囲内に血糖をコントロールすることのできる薬剤が切望されていた。
【0004】
また、アミノ酸の1つであるL−アルギニンは、生体内で多くの作用を示し、例えば、免疫機能の調節、創傷治癒、ホルモン分泌、血管緊張、内皮機能、インスリン分泌に関与している(非特許文献3)。L−アルギニンは、直接又は代謝産物を介して、多数の生理的活性を媒介する生物学的に活性な食品化合物である。これに関連して、基質としてL−アルギニンを用いる代謝酵素は周知のL−アルギニン標的因子(Arginine Interacting Factor:AIF)である。しかしながら、L−アルギニンの生理作用を直接媒介するAIFについてはほとんど知られていない。これまで、本発明者らは、自らが開発したL−アルギニンメチルエステル(AME)を固定化した磁気ナノビーズを使用して、AIFの精製及び同定に成功した(非特許文献4)。AMEは、アルギニンと同様に、アルギニンのアゴニストとしてインスリン分泌を促進するが、一方、AMEは、L−NAME(ニトロ−L−アルギニン−メチルエステル)と同様に、アルギニンのアンタゴニストとしてNOS(一酸化窒素合成酵素)を抑制する。このAME固定化磁気ナノビーズにより、AIFとしてPFK(ホスホフルクトキナーゼ)、RBL2(RuvB様2)、及びRBL1(RuvB様1)が同定された(非特許文献4)。
【0005】
本発明者らは、これまで、新たにインスリン分泌制御因子を同定し、該因子を用いた抗糖尿病薬剤のスクリーニング法を開発した(特許文献1)。さらに、インスリンの分泌を促進する活性を有するバッカリンを用いて、バッカリンが抗糖尿病薬剤として使用し得ることを上記スクリーニング法によって検証した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2012/029958号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Stumvoll.M.ら,Lancet,365,1333−1346(2005)
【非特許文献2】McCrimmon,R.J.ら,Diabete.Metab.,20,503−512(1994)
【非特許文献3】Weinhaus,A.J.ら,Diabetologia,40,374−382(1997)
【非特許文献4】Hiramotoら,Biomed.Chromatogr.,24,606−612(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、糖尿病患者の血糖のコントロールに優れ、かつ、副作用を抑え、投与量を低減することができる抗糖尿病治療薬剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した通り、インスリンの分泌を促進させる物質として複数知られているが、今回、本発明者らは、従前開発した新規抗糖尿病薬スクリーニング法を用いて、インスリン分泌促進物質を探索した結果、バッカリン類と糖ヌクレオチドとの組み合わせ剤が、インスリン分泌を非常に顕著に促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]一般式(I):
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OR、−CHOR、−COOR、−COR、又は−CON(R)Rであり、ここで、R、R、R、R、R、及びRは、同一又は異なってもよく、独立して、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択され;及び
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、−OR(ここで、Rは、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択される)、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、又はC2−6アルキニルであり、ここで、該C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、及びC2−6アルキニルは、ハロゲン;水酸基;ニトロ;シアノ;酸素、窒素、及び硫黄から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含有してもよいフェニル、トリル、ナフチル、ピリジル、チアゾリル、フリル、又はチエニル;及びアルコキシカルボニルからなる群から選択される1以上の置換基を有してもよい)
で表される化合物又はその医薬として許容される塩若しくは溶媒和物;並びに
糖ヌクレオチド又はグルコサミン
を有効成分とするインスリン分泌促進剤。
【0013】
[2]Rが、水酸基であり;Rが、水素又はC2−6アルケニルである、上記[1]に記載のインスリン分泌促進剤。
【0014】
[3]一般式(I)で表される化合物が、
(E)−3−[3−(3−メチルブタ−2−エン−1−イル)−4−{(3−フェニルプロパノイル)オキシ}フェニル]アクリル酸;又は
(E)−3−[4−{(3−フェニルプロパノイル)オキシ}フェニル]アクリル酸
である、上記[1]又は[2]に記載のインスリン分泌促進剤。
【0015】
[4]糖ヌクレオチドが、UDPグルコース、ADPグルコース、GDPグルコース、及びUDPグルクロン酸からなる群から選択される、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載のインスリン分泌促進剤。
【0016】
[5]グルコサミンがN−アセチル−D−グルコサミンである、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載のインスリン分泌促進剤。
【0017】
[6]一般式(I):
【0018】
【化2】
【0019】
(式中、
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OR、−CHOR、−COOR、−COR、又は−CON(R)Rであり、ここで、R、R、R、R、R、及びRは、同一又は異なってもよく、独立して、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択され;及び
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、−OR(ここで、Rは、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択される)、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、又はC2−6アルキニルであり、ここで、該C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、及びC2−6アルキニルは、ハロゲン;水酸基;ニトロ;シアノ;酸素、窒素、及び硫黄から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含有してもよいフェニル、トリル、ナフチル、ピリジル、チアゾリル、フリル、又はチエニル;及びアルコキシカルボニルからなる群から選択される1以上の置換基を有してもよい)
で表される化合物又はその医薬として許容される塩若しくは溶媒和物;
糖ヌクレオチド又はグルコサミン;及び
医薬として許容される担体
を含む糖尿病を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
【0020】
[7]一般式(I):
【0021】
【化3】
【0022】
(式中、
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OR、−CHOR、−COOR、−COR、又は−CON(R)Rであり、ここで、R、R、R、R、R、及びRは、同一又は異なってもよく、独立して、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択され;及び
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、−OR(ここで、Rは、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択される)、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、又はC2−6アルキニルであり、ここで、該C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、及びC2−6アルキニルは、ハロゲン;水酸基;ニトロ;シアノ;酸素、窒素、及び硫黄から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含有してもよいフェニル、トリル、ナフチル、ピリジル、チアゾリル、フリル、又はチエニル;及びアルコキシカルボニルからなる群から選択される1以上の置換基を有してもよい)
で表される化合物又はその医薬として許容される塩若しくは溶媒和物;及び
糖ヌクレオチド又はグルコサミン
を含むことを特徴とするインスリン分泌促進作用を有する食品組成物。
【0023】
[8]一般式(I):
【0024】
【化4】
【0025】
(式中、
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OR、−CHOR、−COOR、−COR、又は−CON(R)Rであり、ここで、R、R、R、R、R、及びRは、同一又は異なってもよく、独立して、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択され;及び
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、−OR(ここで、Rは、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択される)、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、又はC2−6アルキニルであり、ここで、該C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、及びC2−6アルキニルは、ハロゲン;水酸基;ニトロ;シアノ;酸素、窒素、及び硫黄から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含有してもよいフェニル、トリル、ナフチル、ピリジル、チアゾリル、フリル、又はチエニル;及びアルコキシカルボニルからなる群から選択される1以上の置換基を有してもよい)
で表される化合物又はその医薬として許容される塩若しくは溶媒和物;及び
糖ヌクレオチド又はグルコサミン
を含むことを特徴とするインスリン分泌促進作用を有する機能性食品。
【0026】
[9]一般式(I):
【0027】
【化5】
【0028】
(式中、
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OR、−CHOR、−COOR、−COR、又は−CON(R)Rであり、ここで、R、R、R、R、R、及びRは、同一又は異なってもよく、独立して、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択され;及び
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、−OR(ここで、Rは、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択される)、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、又はC2−6アルキニルであり、ここで、該C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、及びC2−6アルキニルは、ハロゲン;水酸基;ニトロ;シアノ;酸素、窒素、及び硫黄から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含有してもよいフェニル、トリル、ナフチル、ピリジル、チアゾリル、フリル、又はチエニル;及びアルコキシカルボニルからなる群から選択される1以上の置換基を有してもよい)
で表される化合物又はその医薬として許容される塩若しくは溶媒和物を含む食品;及び
糖ヌクレオチド又はグルコサミンを含む食品
を含むことを特徴とするインスリン分泌促進作用を有する機能性食品。
【0029】
[10]一般式(I):
【0030】
【化6】
【0031】
(式中、
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OR、−CHOR、−COOR、−COR、又は−CON(R)Rであり、ここで、R、R、R、R、R、及びRは、同一又は異なってもよく、独立して、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択され;及び
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、−OR(ここで、Rは、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択される)、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、又はC2−6アルキニルであり、ここで、該C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、及びC2−6アルキニルは、ハロゲン;水酸基;ニトロ;シアノ;酸素、窒素、及び硫黄から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含有してもよいフェニル、トリル、ナフチル、ピリジル、チアゾリル、フリル、又はチエニル;及びアルコキシカルボニルからなる群から選択される1以上の置換基を有してもよい)
で表される化合物又はその医薬として許容される塩若しくは溶媒和物;並びに
糖ヌクレオチド又はグルコサミン
の有効量を投与することを特徴とする糖尿病の予防及び/又は治療法。
【発明の効果】
【0032】
本発明の上記式(I)で表されるバッカリン類と糖ヌクレオチド又はグルコサミンとを組み合わせた合剤は、それらの相乗効果により非常に高いインスリン分泌促進活性を示す。したがって、本発明のインスリン分泌促進剤を用いることにより、既存の糖尿病薬と比較して、その投与量を低減することができ、副作用を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】インスリン分泌促進因子を強制発現させたNIT−1細胞において、バッカリン(Bac)とUDP−グルコースの添加後のインスリン分泌量を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
1.インスリン分泌促進剤
本発明のインスリン分泌促進剤は、有効成分として、下記一般式(I):
【0035】
【化7】
【0036】
で表される化合物又はその医薬として許容される塩若しくは溶媒和物;並びに糖ヌクレオチド又はグルコサミンを含む。
【0037】
上記式中、
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OR、−CHOR、−COOR、−COR、又は−CON(R)Rであってもよく、ここで、R、R、R、R、R、及びRは、同一又は異なってもよく、独立して、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択されてもよく;及び
は、水素原子、ハロゲン、ニトロ、シアノ、−OR(ここで、Rは、水素原子、C1−6アルキル、及びC3−6シクロアルキルからなる群から選択されてもよく)、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、又はC2−6アルキニルであってもよく、ここで、該C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C2−6アルケニル、及びC2−6アルキニルは、ハロゲン;水酸基;ニトロ;シアノ;酸素、窒素、及び硫黄から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含有してもよいフェニル、トリル、ナフチル、ピリジル、チアゾリル、フリル、又はチエニル;及びアルコキシカルボニルからなる群から選択される1以上の置換基を有してもよい。
【0038】
ここで、本発明における用語の定義は、以下の通りである。
本明細書で使用するとき、「C1−6アルキル」とは、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜6の飽和炭化水素基を意味する。「C1−6アルキル」としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、2−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
【0039】
本明細書で使用するとき、「C3−6シクロアルキル」とは、炭素数3〜6の単環状飽和炭化水素基を意味する。「C3−6シクロアルキル」としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0040】
本明細書で使用するとき、「C2−6アルケニル」とは、炭素数2〜6の直鎖又は分岐鎖の不飽和炭化水素基を意味し、エチニル基、プロパ−1−エン−1−イル基、プロパ−2−エン−1−イル基、ブタ−1−エン−1−イル基、ブタ−3−エン−1−イル基、1−メチルプロパ−2−エン−1−イル基、3−メチルブタ−2−エン−1−イル基、ペンタ−1−エン−1−イル基、ペンタ−4−エン−1−イル基、ヘキサ−1−エン−1−イル、ヘキサ−5−エン−1−イル基が挙げられる。「C2−6アルケニル」としては、3−メチルブタ−2−エン−1−イル基が好ましい。
【0041】
本明細書で使用するとき、「C2−6アルキニル」とは、炭素数2〜6の直鎖又は分岐鎖の不飽和炭化水素基を意味し、プロパ−1−イン−1−イル基、プロパ−2−イン−1−イル基、ブタ−1−イン−1−イル基、ブタ−3−イン−1−イル基、1−メチルプロパ−2−イン−1−イル基、ペンタ−1−イン−1−イル基、ペンタ−4−イン−1−イル基、ヘキサ−1−イン−1−イル基、ヘキサ−5−イン−1−イル基が挙げられる。
【0042】
本明細書で使用するとき、「アルコキシカルボニル」とは、カルボニル基にアルコキシ基が置換した基を意味し、ここで、アルコキシ基は、酸素原子に上記「アルキル」が置換した基を指す。「アルコキシカルボニル」としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n−プロポキシカルボニル、i−プロポキシカルボニル、n−ブトキシカルボニル、i−ブトキシカルボニル、sec−ブトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、n−ペンチルオキシカルボニル、n−ヘキシルオキシカルボニル、n−ヘプチルオキシカルボニル、n−オクチルオキシカルボニルが挙げられる。
その他、本明細書に定義が記載されていない基については、通常の定義に従う。
【0043】
本発明の一般式(I)で表される化合物の具体例として、下記の化合物を挙げることができる。
【0044】
【表1】
【0045】
本発明の一般式(I)で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物は、本発明の化合物のみならず、その医薬として許容される塩、それらの各種の水和物や溶媒和物、若しくはそれらの結晶多形、又はこれらの物質のプロドラッグとなる物質を包含している。
【0046】
本発明の一般式(I)で表される化合物の医薬として許容される塩としては、具体的には、化合物を塩基性化合物として扱う場合は、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等)や有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等)との酸付加塩等が挙げられ、化合物を酸性化合物として扱う場合には、無機塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、バリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等)や有機塩(例えば、ピリジニウム塩、ピコリニウム塩、トリエチルアンモニウム塩等)が挙げられる。
【0047】
本発明の一般式(I)で表される化合物やその医薬として許容される塩の溶媒和物としては、水和物や各種の溶媒和物(例えば、エタノールなどのアルコールとの溶媒和物)が挙げられる。
【0048】
本発明の一般式(I)で表される化合物は、公知の方法、あるいはこれに準じた方法を参考に製造することができる。以下に製造法の一例を示すが、本発明の一般式(I)で表される化合物の製造法はこれに限定されるものではない。
【0049】
【化8】
(式中、R及びRは、前記と同じものを示し、Rは、−CO(CHPhである)
【0050】
上記スキーム1中の反応工程iにおける原料である化合物(II)から化合物(III)は、Bates,R.W,et al.,Tetrahedron,Vol.51,No.30,p.8199−8212(1995)を参考にして合成することができる。さらに、化合物(III)から化合物(IV)(反応工程ii)は、Tani,H.,et al.,Bioorg.Med.Chem.,Vol.18,p.151−158(2010)を参考にして合成することができる。また、化合物(IV)から最終化合物(I)(反応工程iii)は、Mizoroki−Herk反応により合成することができる。
【0051】
副反応を回避する目的で、化合物(I)の置換基R及びRを適切な保護基で保護しておき、前記反応工程の終了後に脱保護を行うことにより化合物(I)を製造することもできる。置換基の保護、脱保護条件としては一般に用いられる方法(Protective Groups in Organic Synthesis Third Edition,John Wiley & Sons,Inc.)を参考にして行うことができる。
【0052】
前記の各反応で得られた中間体及び目的物は、有機合成化学で常用されている精製法、例えば、ろ過、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、再結晶、各種クロマトグラフィー等に付して必要に応じて単離、精製することができる。また、中間体においては、特に精製することなく次反応に供することもできる。
【0053】
さらに、各種の異性体は、異性体間の物理化学的性質の差を利用し、常法により単離できる。例えばラセミ混合物は、例えば、酒石酸等の一般的な光学活性酸とのジアステレオマー塩に導いて光学分割する方法、又は光学活性カラムクロマトグラフィーを用いた方法等の一般的ラセミ分割法により、光学的に純粋な異性体に導くことができる。また、ジアステレオマー混合物は、例えば、分別結晶化又は各種クロマトグラフィー等により分割できる。また、光学活性な化合物は適当な光学活性な原料を用いることにより製造することもできる。
【0054】
上記表1に記載の化合物1は、R=−COOH、及びR=3−メチルブタ−2−エン−1−イル基である化合物であり、化合物2は、R=−COOH、及びR=Hである化合物である。ここで、化合物1は、一般に、バッカリンと称される化合物であり、上記のようにスキーム1に基づいて化学的に合成することもできるが、天然のプロポリスから抽出することもできる。
【0055】
プロポリスは、ミツバチが採取した植物の新芽や浸出物、樹木の樹液、花粉、及び蜜蝋などの混合物であって、樹脂状の固形塊である。プロポリスは、フラボノイド、テルペノイド、有機酸、アミノ酸、多糖類、ミネラルなどの多種多様な天然成分からなっている。これまでに、プロポリスは、抗菌活性、抗炎症活性、鎮痛活性、鎮痒活性、免疫賦活活性、抗腫瘍活性、抗酸化活性など、様々な生物活性を有することが報告されており(例えば、特開2003−55297号公報)、その成分や生物活性についてさらに研究が進められている。バッカリンは、ブラジル産プロポリスの主成分として知られている(Tani,H.,et al.,Inhibitory activity of Brazilian green propolis components and their derivatives on the release of cys−leukotriens.,Bioorg.Med.Chem.,18:151−157,2010参照)。一方、プロポリス抽出物は、インスリン依存性糖尿病(1型糖尿病)を改善する作用を有することが知られている(例えば、特開2010−37211号公報)。前記の通り、本発明者ら、インスリンの分泌を促進する活性を有するバッカリンを用いて、バッカリンが抗糖尿病薬剤として使用し得ることを本発明者らによって開発されたスクリーニング法によって検証した(WO2012/029958(特許文献1))。
【0056】
本発明のインスリン分泌促進剤は、上記一般式(I)で表される化合物と糖ヌクレオチド又はグルコサミンを組み合わせることによって、相乗的にインスリンの分泌を促進することができる。ここで、本発明のインスリン分泌促進剤に使用される糖ヌクレオチド及びグルコサミンは、当業者に周知の技術用語である。本明細書において使用するとき、「糖ヌクレオチド」とは、糖残基が結合したヌクレオチドを意味し、「ヌクレオチド糖」とも称することがある。糖ヌクレオチドとしては、限定されないが、ウリジン−5’−二リン酸グルコース(「UDP−グルコース」)、アデノシン−5’−二リン酸グルコース(「ADP−グルコース」)、グアノシン−5’−二リン酸グルコース(「GDP−グルコース」)、シチジン−5’−二リン酸グルコース(「CDP−グルコース)、ウリジン−5’−二リン酸グルクロン酸(「UDP−グルクロン酸」)、ウリジン−5’−二リン酸ガラクトース(「UDP−ガラクトース:」)、ウリジン−5’−二リン酸−N−アセチルグルコサミン(「UDP−N−アセチルグルコサミン」)、ウリジン−5’−二リン酸−N−アセチルガラクトサミン(「UDP−N−アセチルガラクトサミン」)、ウリジン−5’−二リン酸キシロース(「UDP−キシロース」)、グアノシン−5’−二リン酸フコース(「GDP−フコース」)、グアノシン−5’−二リン酸マンノース(「GDP−マンノース」)、シチジン−5’−モノリン酸−N−アセチルノイラミン酸(「CDP−N−アセチルノイラミン酸」)、及びこれらの塩などが挙げられる。本発明において、一般式(I)で表される化合物とともに使用された場合、インスリン分泌を相乗的に促進させる作用を有する糖ヌクレオチドであれば限定されないが、好ましくはUDP−グルコース、ADP−グルコース、GDP−グルコース、UDP−グルクロン酸である。
【0057】
また、本発明においては、「糖ヌクレオチド」の代りにグルコサミンを使用することができる。本明細書で使用するとき、「グルコサミン」とは、2−アミノ−2−デオキシグルコース又はキトサミンとも呼ばれるアミノ糖を指し、D体、L体又はDL体のいずれでもあり得る。グルコサミンとしては、N−アセチル−D−グルコサミンが好ましい。本発明においては、一般式(I)で表される化合物及び糖ヌクレオチドとともに使用することができる。
【0058】
本発明におけるインスリン分泌促進剤において使用される一般式(I)で表される化合物と糖ヌクレオチド又はグルコサミンとのモル比は、限定されないが、1:1〜1:1000であり、好ましくは1:2〜1:500、より好ましくは1:10〜1:200である。後述するように、実施例1は、種々のモル比でバッカリンとUDP−グルコースを用いた場合に、インスリンの分泌を相乗的に促進した結果を示す(図1参照)。
【0059】
本発明のインスリン分泌促進剤は、一般式(I)で表される化合物、その塩又はそれらの溶媒和物、及び糖ヌクレオチド又はグルコサミンを有効成分として含有するものであって、医薬組成物として使用することができる。本発明によれば、これら有効成分だけを用いてもよいが、通常は医薬として許容される担体、及び/又は希釈剤を配合して使用される。この場合、本発明の医薬組成物中の有効成分の添加量は、該医薬組成物の具体的な形態や目的に応じて適宜選択されるべきものであり、限定されないが、上記有効成分は、該組成物全体に対して少なくとも0.01重量%である。好ましくは0.1〜50重量%であり、より好ましくは0.5〜30重量%であり、なおより好ましくは1.0〜10重量%である。なお、一般式(I)で表される化合物と糖ヌクレオチド又はグルコサミンを医薬組成物において使用する場合、各成分のモル比は、上記インスリン分泌促進剤と同様である。
【0060】
投与経路は、特に限定されないが、治療目的に応じて適宜選択することができる。例えば、経口剤、注射剤、坐剤、吸入剤等のいずれでもよい。これらの投与形態に適した医薬組成物は、公知の製剤方法を利用することによって製造できる。
【0061】
経口用固形製剤を調製する場合は、一般式(I)で表される化合物及び糖ヌクレオチド又はグルコサミンに医薬として許容される賦形剤、さらに必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法を利用して、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。添加剤は、当該技術分野で一般的に使用されているものでよい。例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等が挙げられる。結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。崩壊剤としては、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。滑沢剤としては、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。矯味剤としては、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0062】
経口用液体製剤を調製する場合は、一般式(I)で表される化合物及び糖ヌクレオチド又はグルコサミンに矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法を利用して内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。矯味剤としては上記に挙げられたものでよく、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0063】
注射剤を調製する場合は、一般式(I)で表される化合物及び糖ヌクレオチド又はグルコサミンにpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法を利用して皮下、筋肉及び静脈内注射剤を製造することができる。pH調整剤及び緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。安定化剤としては、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。局所麻酔剤としては塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が挙げられる。
【0064】
坐剤を調製する場合は、一般式(I)で表される化合物及び糖ヌクレオチド又はグルコサミンに公知の坐剤用担体、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセライド等、さらに必要に応じて界面活性剤(例えば、Tween(登録商標))等を加えた後、常法を利用して製造することができる。
上記以外に、常法を利用して適宜好ましい製剤とすることもできる。
【0065】
本発明の一般式(I)で表される化合物及び糖ヌクレオチド又はグルコサミンの投与量は、投与される対象の年齢、体重、症状、投与形態及び投与回数等によって異なるが、通常は成人に対して一般式(I)で表わされる化合物及び糖ヌクレオチド又はグルコサミンとして1日あたり1mg〜1000mgを、1回又は数回に分けて経口投与又は非経口投与することが好ましい。
【0066】
後述する実施例1に示されるように、インスリン分泌制御因子を発現させることによって、インスリン分泌を負に制御したNIT−1細胞において、本発明のインスリン分泌促進剤の添加によって、インスリン分泌が顕著に増加される。したがって、本発明のインスリン分泌促進剤及び医薬組成物は、糖尿病の予防及び/又は治療を目的としたインスリン代替医療及び代替医薬品として使用し得るものである。
【0067】
2.インスリン分泌促進作用を有する食品組成物若しくは健康食品又は機能性食品
本発明によれば、一般式(I)で表される化合物及び糖ヌクレオチド又はグルコサミンの組み合わせによる使用は、投与形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、食品添加物として使用する場合の食品組成物又は健康食品(好ましくは機能性食品)あるいは飼料として飲食物の形で与えることもできる。ここで、食品には、(1)栄養素としての働き(第一次機能)、(2)ヒトの五感に訴える働き(第2次機能)、及び(3)ヒトの健康、身体能力、又は心理状態に好ましい影響を与える働き(第3次機能)、例えば、消化器系、循環器系、内分泌系、免疫系、又は神経系などの生理系統を調節して、健康の維持や健康の回復に好ましい効果を及ぼす働きがあることが知られている。本明細書において「食品組成物又は健康食品」とは、健康に何らかの効果を与えるか、あるいは、効果を期待することができる食品を意味する。さらに、「機能性食品」とは、上記「健康食品」の中でも、前記の種々の生体調節機能(すなわち、消化器系、循環器系、内分泌系、免疫系、又は神経系などの生理系統の調節機能)を充分に発現することができるように設計及び加工された食品を意味する。本発明では、一般式(I)で表される化合物及び糖ヌクレオチド又はグルコサミンの組み合わせを機能性食品として使用することができる。
【0068】
本発明の食品組成物における一般式(I)で表される化合物及び糖ヌクレオチド又はグルコサミンの添加量は、本発明の食品組成物の具体的な形態や目的に応じて適宜選択されるべきものであり、限定されないが、添加量は、医薬組成物と比較して、医薬組成物における添加量の1/1000〜1/100程度であり、例えば、組成物全体に対して0.001〜0.5質量%であり、好ましくは0.005〜0.3質量%であってもよい。また、本発明の機能性食品においては、限定されないが、添加量は、医薬組成物と比較して、医薬組成物における添加量の1/100〜1/10程度であり、例えば、食品全体に対して0.01〜5質量%であり、好ましくは0.05〜3質量%である。なお、一般式(I)で表される化合物と糖ヌクレオチド又はグルコサミンを食品組成物又は機能性食品において使用する場合、各成分のモル比は、上記インスリン分泌促進剤と同様である。
【0069】
本発明の一態様によれば、一般式(I)で表される化合物又はその医薬として許容される塩若しくは溶媒和物を含む食品と、糖ヌクレオチド又はグルコサミンを含む食品とを組み合わせた機能性食品を提供することができる。ここで、一般式(I)で表される化合物の典型例として挙げられるバッカリンは、ブラジル産プロポリスに含まれる。プロポリスそのものは健康食品又は機能性食品として市販されている。一方、糖ヌクレオチドは、例えば、酵母、ウシのレバーに多く含まれていることが知られている。また、グルコサミンを多く含む食品又は食材としては、エビやカニなどの甲殻類、ヤマイモ、ウナギ、フカヒレ等が挙げられる。
【0070】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
実施例1:インスリン分泌制御因子を強制発現させたNIT−1細胞におけるバッカリンとUDP−グルコースの組み合わせによるインスリン分泌
インスリン分泌制御因子を発現するNIT−1細胞は、本発明者らによる特開2010−196952を参照して作製した。形質転換されたNIT−1細胞の培養系に、バッカリン(「Bac」)(0、1.5、及び3mM)とUDP−グルコース(10、30、100、及び300mM)をそれぞれ組み合わせて添加し、10分培養した。対照として、UDP−グルコースを添加しない系、及びUDP−グルコースの代りにグルコース(「Glc」)(2.8mM及び22.2mM)を添加した系を用いた。その後、各培地を回収し、株式会社シバヤギ レビス インスリン測定用ELISAキットによって、1細胞から分泌される1分間あたりのインスリン分泌量(任意の単位)を測定した。
【0072】
インスリン分泌の結果を図1に示す。Bac(3mM)及びGlc(22.2mM(高濃度))のGlcを添加した系においては、Bac以外に添加物がない系(「(−)」と表記される)、及びGlcを2.8mM(低濃度)で添加されている系に比べて、インスリン分泌が顕著に見られた(約100を超える)。これは、本発明者らによって以前に開示された結果と同じであった(特開2010−196952参照)。次に、Bac及びUDP−グルコースを添加した系においては、UDP−グルコースが10mMである場合には対照と同程度にインスリン分泌は低かった。これに対して、Bacに高濃度(30、100、及び300mM)のUDP−グルコースを添加してある系では、Glc(高濃度)を添加した系と比較して、非常に高いインスリン分泌が観察された。UDP−グルコースが100mMを超える系においては、単独使用の系と比較すると100〜1000倍、またGlcの添加系と比較すると10〜100倍を超える顕著なインスリン分泌が測定された。これらの結果から、このように高いインスリン分泌活性は、Bac及びUDP−グルコースを単独で使用した場合と比較すると、それぞれの組み合わせによる相乗的な効果によるものと言える。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、従来報告されたバッカリン等のインスリン分泌促進因子の単独使用と比較して、バッカリンとUDP−グルコースとの同時使用により、相乗的効果に基づいてインスリン分泌を顕著に促進することができるため、糖尿病患者の血糖のコントロールに優れ、かつ、副作用を抑え、投与量を低減した抗糖尿病治療薬剤を提供することができる。
【0074】
本明細書に引用する全ての刊行物及び特許文献は、参照により全体として本明細書中に援用される。なお、例示を目的として、本発明の特定の実施形態を本明細書において説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の改変が行われる場合があることは、当業者に容易に理解されるであろう。
図1