特許第6015931号(P6015931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6015931化学機械研磨用水系分散体および化学機械研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015931
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】化学機械研磨用水系分散体および化学機械研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20161013BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20161013BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   H01L21/304 622D
   H01L21/304 622X
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550C
   C09K3/14 550Z
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-272158(P2012-272158)
(22)【出願日】2012年12月13日
(65)【公開番号】特開2013-145877(P2013-145877A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2015年7月16日
(31)【優先権主張番号】特願2011-274234(P2011-274234)
(32)【優先日】2011年12月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】星野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】篠村 尚志
(72)【発明者】
【氏名】野田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】金野 智久
【審査官】 山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2003/0134575(US,A1)
【文献】 特開2004−300348(JP,A)
【文献】 特開2004−079984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304−463
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造工程における、アルミニウム膜またはアルミニウム合金膜を研磨する用途に用いられる化学機械研磨用水系分散体であって、
(A)シリカ0.1質量%以上10質量%以下と、
(B)炭素数1〜5の有機基を有するリン酸エステル化合物0.01質量%以上質量%以下と、
を含有し、pHが1以上2.4以下である、化学機械研磨用水系分散体。
【請求項2】
前記(B)リン酸エステル化合物が、リン酸モノエステルおよびリン酸ジエステルから選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の化学機械研磨用水系分散体。
【請求項3】
前記(B)リン酸エステル化合物が下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1または請求項2に記載の化学機械研磨用水系分散体。
(RO)(RO)−PO(OH) ・・・・・(1)
(上記式(1)中、Rはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の有機基を表し、Rは水素原子またはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の有機基を表す。)
【請求項4】
前記(B)リン酸エステル化合物が、リン酸モノメチル、リン酸モノエチル、リン酸モノ−n−プロピル、リン酸モノイソプロピル、リン酸モノ−n−ブチル、リン酸モノイソブチル、リン酸モノ−n−ペンチル、リン酸モノイソペンチル、リン酸ジエチル、リン酸ジプロピル、リン酸ジブチル及びリン酸ジペンチルよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の化学機械研磨用水系分散体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の化学機械研磨用水系分散体を用いて、半導体装置を構成するアルミニウム膜またはアルミニウム合金膜を有する基板を研磨する工程を含む、化学機械研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学機械研磨用水系分散体および化学機械研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(以下、「CMP」ともいう)もその一つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線(ダマシン配線)形成において頻繁に利用されている技術である。このダマシン配線技術は、配線工程の簡略化、歩留まりと信頼性の向上が可能であり、今後その適用が拡大していくと考えられる。現在、ダマシン配線の配線金属としては、高速ロジックデバイスでは、低抵抗を理由に、銅が主に用いられている。また、DRAMに代表されるメモリデバイスでは、低コスト化を理由に、アルミニウムまたはタングステンが配線金属として用いられている。低抵抗および低コスト化の双方を勘案すると、いずれのデバイスにおいてもダマシン配線金属として、銅に次ぐ低い抵抗を有するアルミニウムおよびその合金が有力視されている。
【0003】
アルミニウム膜およびその合金膜(以下、単に「アルミニウム膜」ともいう)を研磨するための研磨用組成物は、適切な研磨速度やスクラッチ耐性等の種々の性能が要求される。さらに、近年の配線の更なる微細化に伴ってアルミニウム膜表面に発生する微小な孔食が大きな問題となっている。この孔食とは、ある特定の場所だけに集中して腐食孔を生じ、他の大部分は不動態を保っているような腐食形態のことをいう。この孔食が発生する理由は、アルミニウム膜表面の結晶粒界部などの不一様な箇所が部分的に腐食してしまうためであると考えられており(例えば非特許文献1参照)、特に酸性領域において顕著に発生することが知られている。
【0004】
このような孔食を抑制するための研磨用組成物としては、例えばアゾール構造を有する化合物を添加した研磨用組成物が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、アルミニウム膜表面の孔食を抑制する手段としては、防食剤を添加する方法が提案されている(例えば特許文献2〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4263397号公報
【特許文献2】特公平6−80192号公報
【特許文献3】特開平10−168585号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】木島茂、「防食工学」、日刊工業新聞社、1982年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の研磨用組成物は、主に銅膜を研磨対象としており、アルミニウム膜で発生する腐食に対する抑制効果は十分ではなかった。また、特許文献2〜3に記載の一般的なアルミニウム用防食剤は、腐食抑制のための強力な保護膜を形成するため、保護膜の形成と保護膜および研磨対象物の除去とを両立させる必要のある半導体装置製造用の化学機械研磨用水系分散体に適用することは容易ではなかった。そのため、次世代LSIに要求されるアルミニウム膜に対する十分な研磨速度と孔食抑制の両立とを達成し得る新たな化学機械研磨用水系分散体の開発が求められていた。
【0008】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、上記課題を解決することで、半導体装置製造工程において、アルミニウム膜およびその合金膜に対する高研磨速度と孔食発生の抑制とを両立できると共に、良好な貯蔵安定性を有する化学機械研磨用水系分散体、およびそれを用いた化学機械研磨方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0010】
[適用例1]
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体の一態様は、
(A)砥粒0.1質量%以上10質量%以下と、
(B)炭素数1〜5の有機基を有するリン酸エステル化合物0.01質量%以上2質量%以下と、
を含有し、pHが1以上4以下である。
【0011】
[適用例2]
適用例1の化学機械研磨用水系分散体において、
前記(B)リン酸エステル化合物が、リン酸モノエステルおよびリン酸ジエステルから選択される少なくとも1種を含有することができる。
【0012】
[適用例3]
適用例1または適用例2の化学機械研磨用水系分散体において、
前記(B)リン酸エステル化合物が下記一般式(1)で表される化合物であることができる。
(RO)(RO)−PO(OH) ・・・・・(1)
(上記式(1)中、Rはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の有機基を表し、Rは水素原子またはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の有機基を表す。)
【0013】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例の化学機械研磨用水系分散体は、半導体装置の製造工程における、アルミニウム膜またはアルミニウム合金膜を研磨する用途に用いられることができる。
【0014】
[適用例5]
本発明に係る化学機械研磨方法の一態様は、
適用例1ないし適用例4のいずれか一例の化学機械研磨用水系分散体を用いて、半導体装置を構成するアルミニウム膜またはアルミニウム合金膜を有する基板を研磨する工程を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体によれば、半導体装置製造工程において、アルミニウム膜およびその合金膜に対する高研磨速度と孔食発生の抑制とを両立できると共に、貯蔵安定性が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施の形態に係る化学機械研磨方法の使用に適した被処理体を模式的に示した断面図である。
図2】本実施の形態に係る化学機械研磨方法の使用に適した化学機械研磨装置を模式的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0018】
1.化学機械研磨用水系分散体
本発明の一実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(A)砥粒0.1質量%以上10質量%以下と、(B)炭素数1〜5の有機基を有するリン酸エステル化合物0.01質量%以上2質量%以下と、を含有し、pHが1以上4以下であることを特徴とする。以下、本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0019】
1.1.(A)砥粒
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(A)砥粒(以下、「(A)成分」ともいう)を含有する。(A)成分としては、例えばヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、セリア、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン等が挙げられる。これらの中でも、スクラッチ等の研磨欠陥を低減する観点から、コロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカは、例えば特開2003−109921号公報等に記載されている方法で製造されたものを使用することができる。また、特開2010−269985号公報や、J.Ind.Eng.Chem.,Vol.12,No.6,(2006)911−917等に記載されているような方法で表面修飾されたコロイダルシリカを使用してもよい。
【0020】
(A)成分の平均粒子径は、本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体について動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置で測定することにより求めることができる。(A)成分の平均粒子径は、15nm以上100nm以下であることが好ましく、30nm以上70nm以下であることがより好ましい。(A)成分の平均粒子径が前記範囲であると、アルミニウム膜に対する実用的な研磨速度を達成できると共に、(A)成分の沈降・分離が発生しにくい貯蔵安定性に優れた化学機械研磨用水系分散体を得ることができる。動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置としては、ベックマン・コールター社製のナノ粒子アナライザー「DelsaNano S」;Malvern社製の「Zetasizer nano zs」;株式会社堀場製作所製の「LB550」等が挙げられる。なお、動的光散乱法を用いて測定した平均粒子径は、一次粒子が複数個凝集して形成された二次粒子の平均粒子径を表している。
【0021】
(A)成分の含有割合は、化学機械研磨用水系分散体の全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは0.2質量%以上8質量%以下、より好ましくは0.3質量%以上7質量%以下である。(A)成分の含有割合が前記範囲である場合には、アルミニウム膜に対する実用的な研磨速度を得ることができる。(A)成分の含有割合が前記範囲未満の場合、アルミニウム膜に対する研磨速度が著しく低下することがある。一方、(A)成分の含有割合が前記範囲を超えると、化学機械研磨用水系分散体の貯蔵安定性が悪化する場合がある。
【0022】
1.2.(B)リン酸エステル化合物
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(B)炭素数1〜5の有機基を有するリン酸エステル化合物(以下、「(B)成分」ともいう)を含有する。一般にリン酸エステル化合物とは、リン酸(O=P(OH))が持つ3個の水素の全てまたは一部が有機基で置換された構造を有する化合物の総称のことをいうが、(B)成分は、その置換された有機基の炭素数が1以上5以下であることを要し、1以上4以下であることが好まし
く、2以上3以下であることがより好ましい。有機基の炭素数が前記範囲である場合には、アルミニウム膜の表面に適度な保護膜が形成されることにより孔食抑制効果が得られると共に、アルミニウム膜に対する実用的な研磨速度を得ることができる。有機基の炭素数が前記範囲を超える場合には、アルミニウム膜の表面に保護膜が形成されることにより孔食抑制効果は得られるものの、アルミニウム膜表面が過度に保護されるため良好な研磨速度を得ることができない。
【0023】
上記有機基としては、具体的には炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等)、炭素数3〜5の脂環式炭化水素基(例えば、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等)が挙げられ、酸素、硫黄、ハロゲン等のヘテロ原子を含んでいてもよく、その一部は他の置換基で置換されていてもよい。
【0024】
また、(B)成分は、リン酸モノエステルおよびリン酸ジエステルから選択される少なくとも1種であることが好ましく、(B)成分がリン酸モノエステルおよびリン酸ジエステルの双方を含む場合にはその含有比率は特に制限されない。
【0025】
(B)成分としては、下記一般式(1)で表されるリン酸モノエステルおよび/またはリン酸ジエステルであることが好ましい。
(RO)(RO)−PO(OH) ・・・・・(1)
上記式(1)中、Rはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の有機基を表し、炭素−炭素二重結合を有していてもよい。Rは水素原子またはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の有機基を表し、炭素−炭素二重結合を有していてもよい。なお、RおよびRの有機基は、炭素数1〜4であることが好ましく、炭素数2〜3であることがより好ましい。ヘテロ原子としては、酸素、硫黄、ハロゲン等が挙げられ、ヘテロ原子が酸素または硫黄の場合は、エーテル、チオエーテルを形成していてもよい。また、(B)成分が多価エステルである場合、複数存在する有機基に含まれる炭素数の合計が5を超えないことが好ましい。
【0026】
このような(B)成分の具体例としては、リン酸モノメチル、リン酸モノエチル、リン酸モノ−n−プロピル、リン酸モノイソプロピル、リン酸モノ−n−ブチル、リン酸モノイソブチル、リン酸モノ−n−ペンチル、リン酸モノイソペンチル等のリン酸モノエステル;リン酸ジエチル、リン酸ジプロピル、リン酸ジブチル、リン酸ジペンチル等のリン酸ジエステル等が挙げられる。前記例示した(B)成分は、1種単独で用いてもよいし、任意の割合で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
(B)成分の含有割合は、化学機械研磨用水系分散体の全質量に対して、0.01質量%以上2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上1質量%以下である。(B)成分の含有割合が前記範囲である場合には、アルミニウム膜の孔食抑制効果が得られると共に、アルミニウム膜に対する実用的な研磨速度を得ることができる。(B)成分の含有割合が前記範囲未満の場合、アルミニウム膜の表面に十分な保護膜を形成することができないため、孔食抑制効果が得られない。一方、(B)成分の含有割合が前記範囲を超えると、アルミニウム膜の表面に保護膜が形成されることによる孔食抑制効果は得られるものの、アルミニウム膜表面が過度に保護されるため良好な研磨速度を得ることができない。また、化学機械研磨用水系分散体の貯蔵安定性が悪化する場合がある。
【0028】
1.3.分散媒
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、分散媒を含有する。分散媒としては、水、水およびアルコールの混合媒体、水および水との相溶性を有する有機溶媒を含む混合媒体等が挙げられる。これらの中でも、水、水およびアルコールの混合媒体を用いることが好ましく、水を用いることがより好ましい。
【0029】
1.4.その他の添加剤
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、さらに必要に応じてpH調整剤、界面活性剤、水溶性高分子、酸化剤等の添加剤を添加してもよい。以下、各添加剤について説明する。
【0030】
1.4.1.pH調整剤
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、さらに必要に応じてpH調整剤を添加してもよい。pH調整剤を適宜添加することにより、化学機械研磨用水系分散体のpHを1以上4以下に調整することができる。上記pH調整剤としては、酸性化合物および/または塩基性化合物が挙げられる。
【0031】
酸性化合物としては、有機酸および無機酸が挙げられる。有機酸としては、例えばマロン酸、マレイン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、乳酸等、およびこれらの塩が挙げられる。無機酸としては、例えばリン酸、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられる。前記例示した酸性化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
塩基性化合物としては、例えば水酸化カリウム、エチレンジアミン、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)、アンモニア等が挙げられる。
【0033】
1.4.2.界面活性剤
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、さらに必要に応じて界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤には、化学機械研磨用水系分散体に適度な粘性を付与する効果がある。化学機械研磨用水系分散体の粘度は、25℃において0.5mPa・s以上10mPa・s未満となるように調整することが好ましい。
【0034】
界面活性剤としては、特に制限されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、アルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩等の硫酸塩;パーフルオロアルキル化合物等の含フッ素系界面活性剤等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪族アミン塩および脂肪族アンモニウム塩などが挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物、アセチレンアルコール等の三重結合を有する非イオン性界面活性剤;ポリエチレングリコール型界面活性剤等が挙げられる。また、ポリビニルアルコール、シクロデキストリン、ポリビニルメチルエーテル、ヒドロキシエチルセルロース等を用いることもできる。これらの界面活性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
界面活性剤の含有割合は、化学機械研磨用水系分散体の全質量に対して、好ましくは0.001質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.001質量%以上3質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以上1質量%以下である。
【0036】
1.4.3.水溶性高分子
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、さらに必要に応じて水溶性高分子を添加してもよい。この水溶性高分子には、化学機械研磨用水系分散体に適度な粘性を付与する効果がある。また、被研磨面の表面に吸着し被膜を形成することでディッシング等の発生を抑制し、被研磨面の平坦性をより一層高める効果がある。
【0037】
水溶性高分子としては、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー、ノニオン性ポリマー等が挙げられる。アニオン性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、およびこれらの塩等が挙げられる。カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール等が挙げられる。ノニオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等が挙げられる。これらの水溶性高分子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
水溶性高分子の重量平均分子量は、好ましくは2千以上120万以下、より好ましくは1万以上80万以下である。本発明において「重量平均分子量」とは、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量のことをいう。
【0039】
水溶性高分子の含有割合は、化学機械研磨用水系分散体の全質量に対して、好ましくは0.002質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上1質量%以下である。
【0040】
1.4.4.酸化剤
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、さらに必要に応じて酸化剤を添加してもよい。酸化剤には、アルミニウム膜の表面を酸化し研磨液成分との錯化反応を促すことにより、アルミニウム膜の表面に脆弱な改質層を作り出し、研磨しやすくする効果がある。
【0041】
酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、硝酸第二鉄、硝酸二アンモニウムセリウム、硫酸鉄、次亜塩素酸、オゾン、過ヨウ素酸カリウムおよび過酢酸等が挙げられる。これらの酸化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの酸化剤のうち、酸化力、保護膜との相性および取扱いやすさ等を考慮すると、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素が好ましい。
【0042】
酸化剤の含有割合は、化学機械研磨用水系分散体の全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上3質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以上1.5質量%以下である。
【0043】
1.5.pH
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体のpHは1以上4以下であり、好ましくは1.5以上3以下、より好ましくは1.8以上2.5以下である。pHが前記範囲にあると、アルミニウム膜に対する実用的な研磨速度を達成することができる。pHが前記範囲を超えると、アルミニウム膜に対する研磨速度が著しく低下する場合がある。
【0044】
1.6.用途
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、上述したようにアルミニウム膜およびアルミニウム合金膜に対する実用的な研磨速度を達成できると共に、アルミニウム膜およびアルミニウム合金膜表面の孔食抑制効果を有する。そのため、本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、半導体装置の製造工程において、半導体装置の配線を形成するアルミニウム膜および/またはアルミニウム合金膜を有する基板を化学機械研磨するための研磨材として好適である。なお、本発明において「アルミニウム合金」とは、アルミニウム90質量%以上および他の金属元素を含有する合金のことをいう。他の金属元素としては、例えばSi、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Ti等が挙げられる。
【0045】
1.7.化学機械研磨用水系分散体の調製方法
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、水等の分散媒に前述した各成分を溶解または分散させることにより調製することができる。溶解または分散させる方法は、特に制限されず、均一に溶解または分散できればどのような方法を適用してもよい。また、前述した各成分の混合順序や混合方法についても特に制限されない。
【0046】
また、本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、濃縮タイプの原液として調製し、使用時に水等の分散媒で希釈して使用することもできる。
【0047】
2.化学機械研磨方法
本発明の一実施形態に係る化学機械研磨方法は、前述した化学機械研磨用水系分散体を用いて、半導体装置を構成するアルミニウム膜またはアルミニウム合金膜を有する基板を研磨する工程を含む。以下、本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体機械研磨方法の一具体例について、図面を用いて詳細に説明する。
【0048】
2.1.被処理体
図1は、本実施の形態に係る化学機械研磨方法の使用に適した被処理体を模式的に示した断面図である。被処理体100は、以下の工程(1)ないし(4)を経ることにより形成される。
(1)まず、シリコン基板10を用意する。シリコン基板10には、(図示しない)トランジスタ等の機能デバイスが形成されていてもよい。
(2)次に、シリコン基板10の上に、CVD法または熱酸化法を用いてシリコン酸化膜12を形成する。
(3)次に、シリコン酸化膜12をパターニングする。それをマスクとして、例えばエッチング法を適用して酸化シリコン膜12に配線用凹部20を形成する。
(4)次に、配線用凹部20を充填するように、アルミニウム膜14をスパッタ法により堆積させると、被処理体100が得られる。
【0049】
2.2.研磨工程
上述の化学機械研磨用水系分散体を用いて、被処理体100のシリコン酸化膜12上に堆積したアルミニウム膜14を研磨除去し、全体的に平坦化することでアルミニウム配線部を形成する。本実施の形態に係る化学機械研磨方法によれば、上述した化学機械研磨用水系分散体を用いることで、アルミニウム膜14に対する研磨速度が十分に大きく、かつアルミニウム膜14表面の孔食の発生を抑制することができる。
【0050】
2.3.化学機械研磨装置
上述の研磨工程には、例えば図2に示すような化学機械研磨装置200を用いることができる。図2は、化学機械研磨装置200を模式的に示した斜視図である。上述の研磨工程は、スラリー供給ノズル42からスラリー(化学機械研磨用水系分散体)44を供給し、かつ、研磨布46が貼付されたターンテーブル48を回転させながら、半導体基板50を保持したキャリアーヘッド52を当接させることにより行う。なお、図2には、水供給ノズル54およびドレッサー56も併せて示してある。
【0051】
キャリアーヘッド52の押し付け圧は、10〜1,000hPaの範囲内で選択することができ、好ましくは30〜500hPaである。また、ターンテーブル48およびキャリアーヘッド52の回転数は10〜400rpmの範囲内で適宜選択することができ、好ましくは30〜150rpmである。スラリー供給ノズル42から供給されるスラリー(化学機械研磨用水系分散体)44の流量は、10〜1,000mL/分の範囲内で選択することができ、好ましくは50〜400mL/分である。
【0052】
市販の研磨装置として、例えば、株式会社荏原製作所製、形式「EPO−112」、「EPO−222」;ラップマスターSFT社製、型式「LGP−510」、「LGP−552」;アプライドマテリアル社製、型式「Mirra」、「Reflexion」等が挙げられる。
【0053】
3.実施例
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、本実施例における「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0054】
3.1.砥粒を含む水分散体の調製
3.1.1.コロイダルシリカを含む水分散体の調製
容量2000cmのフラスコに、25質量%濃度のアンモニア水70g、イオン交換水40g、エタノール175gおよびテトラエトキシシラン21gを投入し、180rpmで撹拌しながら60℃に昇温した。60℃のまま1時間撹拌した後冷却し、コロイダルシリカ/アルコール分散体を得た。次いで、エバポレータにより、80℃でこのコロイダルシリカ/アルコール分散体にイオン交換水を添加しながらアルコール分を除去する操作を数回繰り返すことによりコロイダルシリカ/アルコール分散体中のアルコールを除き、固形分濃度15%の水分散体を調製した。この水分散体の一部を取り出しイオン交換水で希釈したサンプルについて、動的光散乱式粒径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、形式「LB550」)を用い、算術平均径を平均粒子径として測定したところ、60nmであった。このようにして調製したコロイダルシリカを本実施例において「コロイダルシリカA」という。
【0055】
3.1.2.セリアを含む水分散体の調製
炭酸セリウムを750℃で4時間焼成し、その後、イオン交換水と混合してジルコニアビーズを用いてビーズミルで粉砕し、72時間分散させた。得られたセリアの水分散体を静置し、上澄み液のうち90質量%相当分を分取することにより、35.8質量%のセリアを含む水分散体を得た。得られたセリア含有量35.8質量%の水分散体に、イオン交換水を添加して、セリア含有量を5質量%に調整し、5質量%セリア水分散体を調整した。このときのpHは5.3であった。
【0056】
3.2.化学機械研磨用水系分散体の調製
上記において調製された水分散体が所定の砥粒濃度となるよう計算されたイオン交換水を容量1000cmのポリエチレン製の瓶に投入し、これに表記載の酸性化合物または塩基性化合物を表記載のpHとなるような量をそれぞれ添加し十分に撹拌した。その後、撹拌しながら上記において調製された水分散体、表記載のリン酸エステル、酸化剤、その他の添加剤をそれぞれ添加した。その後、孔径5μmのフィルターで濾過することにより、実施例1〜10及び比較例1〜10の化学機械研磨用水系分散体を得た。なお、表中の値は、正味の配合量を表している。
【0057】
3.3.評価方法
3.3.1.化学機械研磨試験
上記において調製した化学機械研磨用水系分散体を用いて、直径8インチのアルミニウム膜を被研磨体として、下記の研磨条件で化学機械研磨を行った。
<研磨条件>
・研磨装置:株式会社荏原製作所製、形式「EPO−112」
・研磨パッド:ロデール・ニッタ株式会社製、「IC1000/K−Groove」
・化学機械研磨用水系分散体供給速度:200mL/分
・定盤回転数:90rpm
・研磨ヘッド回転数:91rpm
・研磨ヘッド押し付け圧:140hPa
【0058】
3.3.1.1.アルミニウム膜の研磨速度の算出
被研磨体である直径8インチのアルミニウム膜について、研磨前の膜厚をKLA−Tencor株式会社製の金属膜厚計「Omnimap A−RS75tc」を用いて予め測定しておき、上記の条件で1分間研磨を行った。研磨後の被研磨体の膜厚を、同様に金属膜厚計を用いて測定し、研磨前と研磨後の膜厚の差、すなわち化学機械研磨により減少した膜厚を求めた。そして、化学機械研磨により減少した膜厚および研磨時間から研磨速度を算出した。その評価基準は下記の通りである。アルミニウム膜の研磨速度および評価結果を表1〜表2に併せて示す。
「○」:研磨速度が10nm/minを超えている。
「×」:研磨速度が10nm/min以下である。
【0059】
3.3.1.2.孔食評価
被研磨体である直径8インチのアルミニウム膜について、上記の条件で1分間研磨を行った後、サブストレートを順次洗浄して乾燥させた。乾燥後、光学顕微鏡を用いてサブストレート表面を観察し、微細な孔食の有無を判定した。その評価基準は下記の通りである。その評価結果を表1〜表2に併せて示す。
「○」:微細な孔食が全く認められない。
「×」:微細な孔食が認められる。
【0060】
3.3.2.貯蔵安定性の評価
上記で調製した化学機械研磨用水系分散体を、500ccポリ瓶に500cc入れ、25℃の環境下で1日貯蔵した。貯蔵後の外観について目視で観察した。その評価基準は下記の通りである。その評価結果を表1〜表2に併せて示す。
「○」:砥粒の沈降が全く認められない。
「×」:砥粒の沈降が認められる。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
なお、表1〜表2における各成分の略称は、以下の通りである。
・リン酸イソプロピル(竹本油脂株式会社製、製品名「パイオニンA76」)
・リン酸ジエチル(城北化学株式会社製、製品名「JP−502」)
・リン酸エチル(城北化学株式会社製、製品名「JAMP−2」)
・リン酸ブチル(城北化学株式会社製、製品名「JAMP−4」)
・リン酸オクチル(竹本油脂株式会社製、製品名「パイオニンA−70」)
【0064】
3.4.評価結果
実施例1〜10では、被研磨体であるアルミニウム膜表面の孔食の発生が認められず、アルミニウム膜に対する良好な研磨速度が得られることが判明した。
【0065】
比較例1は、(B)成分の代わりに銅膜の防食剤として知られているベンゾトリアゾールを使用した例である。かかる場合には、アルミニウム膜に対する良好な研磨速度は得られるものの、アルミニウム膜の表面に孔食の発生が認められた。
【0066】
比較例2は、(B)成分を含有しない化学機械研磨用水系分散体を使用した例である。かかる場合には、アルミニウム膜に対する良好な研磨速度は得られるものの、アルミニウム膜の表面に孔食の発生が認められた。
【0067】
比較例3は、(A)成分を含有しない化学機械研磨用水系分散体を使用した例である。かかる場合には、アルミニウム膜に対する研磨速度が著しく低下した。
【0068】
比較例4〜5は、(B)成分の含有量が規定範囲外の化学機械研磨用水系分散体を使用した例である。(B)成分が規定範囲未満の場合には孔食が多く発生してしまい、(B)成分が規定範囲を超える場合にはアルミニウム膜に対する研磨速度が著しく低下すると共に、化学機械研磨用水系分散体の貯蔵安定性も悪化した。
【0069】
比較例6は、炭素数8の有機基を有するリン酸エステル化合物を使用した例である。かかる場合には孔食の発生は抑制されるものの、アルミニウム膜に対する研磨速度が著しく低下すると共に、化学機械研磨用水系分散体の貯蔵安定性も悪化した。
【0070】
比較例7〜8は、(A)成分の含有量が規定範囲外の化学機械研磨用水系分散体を使用した例である。(A)成分が規定範囲未満の場合にはアルミニウム膜に対する研磨速度が著しく低下した。(A)成分が規定範囲を超える場合には化学機械研磨用水系分散体の貯蔵安定性が悪化した。
【0071】
比較例9〜10はpHが規定範囲外の化学機械研磨用水系分散体を使用した例である。中性からアルカリ性領域の場合には、孔食の発生は抑制されるものの、アルミニウム膜に対する研磨速度が著しく低下した。
【0072】
以上の結果から、本発明に係る化学機械研磨用水系分散体によれば、アルミニウム膜に対する高研磨速度と孔食発生の抑制とを両立できると共に、良好な貯蔵安定性を有することが明らかとなった。これにより、アルミニウム膜を含む半導体装置において良好な研磨性能を得られることが判明した。
【0073】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した
構成を含む。
【符号の説明】
【0074】
10…シリコン基板、12…シリコン酸化膜、14…アルミニウム膜、20…配線用凹部、42…スラリー供給ノズル、44…スラリー(化学機械研磨用水系分散体)、46…研磨布、48…ターンテーブル、50…半導体基板、52…キャリアーヘッド、54…水供給ノズル、56…ドレッサー、100…被処理体、200…化学機械研磨装置
図1
図2