【実施例】
【0020】
(実施例1)
以下、本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。
図1,2は、コンクリートブロックとして方塊ブロック(直方体状ブロック)を5段に上下方向に千鳥配列に組積した防波堤の堤体1の例である。
【0021】
実施例1の防波堤の堤体1の各段のコンクリートブロックC1,C2,C3,C4,C5とも、長さ4.5m×巾2.0m×高さ1.7mの寸法で、各コンクリートブロックの質量は約35ton程である。5段のコンクリートブロックC1,C2,C3,C4,C5の総質量は175tonで、又各コンクリートブロックの荷重負荷面の面積はブロックの係合部を除いた全底面積で約9m
2である。
海底の基礎捨石Kと最下段のコンクリートブロックC1との間及び各段のコンクリートブロック間とに50mm厚みの弾性ゴムを使用した弾性体マットM1,M2,M3,M4,M5を介在させた例である。弾性体マットM1はその上方のコンクリートブロックC1に金具(図示せず)で固着され、基礎捨石Kの間に介在されている。他の弾性体マットM2,M3,M4,M5の寸法はブロック底面積の4.5m×2.0mである。そして、弾性体マットM2,M3,M4,M5の上面はその上方のコンクリートブロックC2,C3,C4,C5に金具(図示せず)で固着されていて滑り面は弾性体マットM2,M3,M4,M5の下面とその下方のコンクリートブロックのコンクリート上面との間となる。図中、Hは被覆石、Jは上部コンクリート、Nは根固方塊ブロック、Uは海底面である。
【0022】
上下のコンクリートブロック間には左右に長い係合部S(ほぞ)として深さ230mmで上面巾350mm前後長さbの嵌合溝Smに、高さ200mmで前後長さa上面巾300mmの左右に長い嵌合突起Stを嵌挿する構造としている。係合部Sのほぞは前後方向に寸法(b−a)の50mm程の遊びがある。
【0023】
この実施例1では、弾性体マットM1〜M5によって、防波堤の堤体1の水平振動の共振点を集約させることができ、共振周波数帯は狭くなり、その水平応答力も低減できた。また、弾性体マットの弾性特性及び等価剛性により、コンクリートブロック堤体の固有周期をずらす効果があり、地震の卓越周波数と、地震時のコンクリートブロックの堤体の固有周期とによる共振を抑えて堤体全体の滑動や転倒による崩壊を効果的に防止するようになる。共振周波数は地震で発生する地震波の卓越周期を避けるようにしている。これらの点は以下で記す実施例1の1/25のスケールのモデル試験で大略確認された。
【0024】
(モデル試験)
本実施例1の水平震動に対する耐震性と制震性を確認するため、モデル試験を行った。モデル堤体100は実施例1の1/25スケールで行った。
【0025】
モデル試験の状態を、
図3,4に示す。図中、100はモデル堤体、101はモデル堤体100を1〜100Hzで加振するための加振機、101aは同加振機のモデル堤体100を載せて前後に水平往復動する振動台、101bは同振動台の鋼製防護枠、101cは加振機101の振動台101aを往復動させるシリンダーロッドである。102はモデル堤体100の組積されたコンクリートブロックb1,b2,b3,b4,b5の前方の端面の前後方向の移動量を光学的に計測する変位計測器、102aは同変位計測器をコンクリートブロックの端面に向けて水平に保持するアームロッド、103は最上段のコンクリートブロックb5の左側ブロック,中央ブロック,右側ブロック及びその下位の段の複数のブロックの端面に取付けられた水平応答加速度計である。又104は最上段(5段目)のコンクリートブロックb5の上面に取付けられその上面の垂直方向の振動力を計測する垂直応答加速度計である。
【0026】
図5〜10の応答加速度周波数特性図は、CASE−1〜6のモデルの最上段のコンクリートブロックb5の水平応答加速度計103及び垂直(鉛直)応答加速度計104の加振の周波数に対する計測値であり、図中H−5−Lは5段目の左側ブロック端面の計測値、H−5−Cは5段目の中央ブロック端面の計測値、H−5−Rは5段目ブロックの右側ブロック端面の計測値を示す。
【0027】
モデル試験のコンクリートブロックb1,b2,b3,b4,b5の寸法は、実施例1のコンクリートブロックC1〜C5の寸法の1/25のスケールとしていて、前後長180mm×巾80mm×高さ68mmで容積は980000mm
3、質量2.25kgである。このモデル堤体100では係合部を設けずに係合部の影響をなくして試験している。弾性体マットm1,m2,m3,m4としては、下記の表1,表2のゴムマットを使用した。そのゴムマットの厚みは2mmとした。
【0028】
モデル試験は、上記モデルを使用しての50galで加振周波数1〜100Hzの水平震動対する最上段のコンクリートブロックb5の右側、中央、左側の3個所で水平応答加速度及び垂直応答加速度を計測し、共振振動数を検出するスイープ試験を行った。
【0029】
モデルは、弾性体マットなし及び弾性体マットm1,m2,m3,m4,m5として、下記表1のゴム特性のものを使用したCASE−1,CASE−2,CASE−3,CASE−4,CASE−5,CASE−6の場合のケースに分けて低周波域の加振試験を行った。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
又、モデル試験は上記スイープ試験の他に減衰試験を行った。これは、50galでスイープ試験で検出された共振振動数における減衰試験である。模擬地震波試験では、50galで10,20,30,40,50secの場合と、300galで50secで行った。更に、6,8,10,20,30,40Hzでのコンクリートブロックb1〜b5のずれの崩壊試験を行った。
【0033】
これらのモデル試験のスイープ試験、減衰試験、模擬地震波試験、崩壊試験の試験結果を種々のゴムマットの特性値のものを使用した弾性体マットのケースCASE−1,−2,−3,−4,−5,−6のケースに分けて試験した結果を下記の表3に表示している。
【0034】
【表3】
【0035】
(共振振動数の変動)
図5〜10に示された上記スイープ試験の応答加速度特性図の計測結果から、CASE−1〜6のモデルの共振振動数(周波数)は、下記の表4となった。
【0036】
【表4】
【0037】
この試験結果から、表4に示すモデルの共振振動数はゴムマットのゴム厚さ,剪断弾性係数G,静止摩擦係数A,動摩擦係数Bの特性と等価剛性KBの値によって、変動させることが可能なことが分った。ゴムマットの特性と等価剛性KBの値を、適切に選定することで、地震の卓越周波数と共振しないようにできることが分った。実寸の堤体の実際の共振振動数のHzは、モデルの相似則によりそのモデルの共振振動数をスケール比(本モデルでは25)で除した値に大略近似できるものとなる。従って、モデル試験の30〜60Hzの共振振動数は、地震の1〜3Hzに相当する。
【0038】
更に、
図5〜10からその応答加速度の平均値は下記表5の如くなった。この表5から分るように、ゴムマットの介在により鉛直応答加速度を、ゴムマットがない場合に比べ、大略1/2に低減できた。又、水平応答加速度はゴムマットがない場合に比べ、大略2/3に低減できる。
【0039】
【表5】
【0040】
このように、コンクリートブロックを組積みした堤体構造において、ゴムマットを介在する事によりゴムの静止摩擦力により初期滑動を抑制するが、滑り始めた場合においては鉛直応答加速度の低減効果によりホゾ部を跳び越える事もなく堤体の崩壊を防止できる。
【0041】
コンクリートブロックを組積みした堤体構造において、ゴムマットを介在して固有振動数を前後に制御し、地震波と共振しない構造にするには、ゴムの等価剛性KBに依存する事となるが、ゴムの材質、ゴム硬さ、ゴムの薬品配合を特殊にする事によりゴムの剪断弾性係数Gを調整する事により有効となる。
尚、ゴムの等価剛性KBを制御するには、剪断弾性係数Gと設置面積Ae及びゴムの厚さを変更する事により可能となる(等価剛性が大きくなると振動数が増大する)。
従って、ゴムの等価剛性KBを大きくするには、ゴムの剪断弾性係数Gを上げるか、設置面積Aeを大きくするか、ゴム厚さΣteを薄くする事により可能となる。
【0042】
平成15年十勝沖地震や平成23年東北地方太平洋沖地震において観測された長周期波形に対しては、柔らかいゴムを使用してゴムの等価剛性KBを小さくして固有振動数を低下させる事により、特に有効な効果が得られる。
【0043】
又、表3の崩壊試験から分るように、コンクリートブロックの最上段の滑動(ずれ)からみると、ゴムマットA40,A51では10〜20Hzで大きなずれを生じるが、ゴムマットA60,A69ではそのずれが小さくなっている。特にA81では、ずれが大巾に低減されて、しかも10Hz以下では安定している。
【0044】
従って、表3の崩壊試験からゴムマットはゴムの硬さをCASE−3,−4の中間のA55以上にすれば、滑動(ずれ)が少なく、CASE−5のA69を超えてA70以上とし、等価剛性KBを制御すれば、CASE−6に近く、ずれがきわめて少なく、又安定性があることが分って、これが崩壊しないことの設計指針となることが分った。
【0045】
(その他の実施例)
図11,12に示す海中に設置する直立消波ブロック堤の堤体2の実施例であり、基礎捨石201の上に弾性体マット202をブロック下面に固着した方塊状のコンクリートブロック203を1段目として設置し、その上に通水空間を有する直立消波ブロックであるコンクリートブロック205を2,3,4,5段として千鳥配列で組積している。弾性体マット204は各コンクリートブロック205の下面に固着している。最上段のコンクリートブロック205の上方には上部コンクリート206を設置している。コンクリートブロック205間及び最下段のコンクリートブロック203と2段目のコンクリートブロック205との間に、50mm程の水平遊びのある係合部であるホゾ207を設けている。弾性体マットとしては前記ゴムマットNo0,No2程のものを使用できる。尚、208は根固方塊ブロック、209は被覆石、210は海底面である。
【0046】
図13を示す護岸の実施例は、前記
図1,2の実施例の防波堤の堤体1の構造を使って護岸の堤体3とした例であり、
図14に示す護岸の実施例は、前記
図11,12の直立消波ブロック堤の堤体2の構造を使って護岸の堤体4とした例である。
【0047】
図13の護岸の堤体3は、海底面310の基礎捨石311の上に弾性体マット314を下面に固着した方塊状コンクリートブロック315を5段千鳥配列に段積し、コンクリートブロック315間に係合部であるホゾ317を設けている。図中316は上部コンクリート、301は裏込栗石、302は防砂布、303は陸地盤である。
【0048】
図14の護岸の堤体4は、海底面410の基礎捨石411上に下面に弾性体マット414を固着した方塊状のコンクリートブロック413を設置し、その上に下面に弾性体マット414を固着した直立消波ブロックであるコンクリートブロック415を4段千鳥配列に段積した例である。
【0049】
この護岸の例では、裏込栗石301,401と陸地盤303,403によって後方へのコンクリートブロック315,415の移動を制限しているので、主に前方海へのコンクリートブロックの水平移動量を抑止することが中心となる。この護岸の例でも弾性体マット314,414の高い静止摩擦係数及び動摩擦係数で各コンクリートブロック315,415の崩壊、海中への転倒を防止できる。又、背後の裏込栗石、陸地盤への地震による振動を大きく制限させることができる。