(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記解離吸着曲線に基づいて触媒表面Msに吸着した状態の吸着分子の解離エネルギーを求め、該解離エネルギーに基づいて触媒の反応活性を評価することを特徴とする請求項1に記載の触媒の評価方法。
生成した分子の触媒表面Msからの脱離エネルギーを前記解離吸着曲線に基づいて求め、該脱離エネルギーに基づいて触媒の反応活性を評価することを特徴とする請求項3に記載の触媒の評価方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、熱力学データを新たに実験的に求める必要がなく、比較的短時間で触媒反応の経路を解析して触媒の反応活性を評価することが可能な新たな触媒評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、吸着分子が触媒表面で解離吸着する際の反応熱を用いて触媒表面Msに吸着している原子の全電子エネルギーを求め、この全電子エネルギーに基づいて触媒表面と吸着分子を構成する原子との単結合あたりの結合エネルギーを求め、この単結合あたりの結合エネルギーをBond energy−Bond order(BEBO)の関係式に導入することによって、熱力学データを新たに実験的に求める必要がなく、比較的短時間で触媒反応の経路を解析できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の触媒の評価方法は、触媒表面Msに吸着している原子Xの全電子エネルギーを、
(a)触媒表面Msに吸着している等核二原子分子X
2に基づいて求める場合には、下記式(1a):
E
X/Ms=(D
X2+E
M+Q
X2)/2 (1a)
(式中、Xは原子AまたはBを表し、E
X/Msは触媒表面Msに吸着している原子Xの全電子エネルギーを表し、D
X2は遊離の等核二原子分子X
2の解離エネルギーを表し、E
Mは触媒Mの全電子エネルギーを表し、Q
X2は等核二原子分子X
2が触媒表面Msで解離吸着する際の反応熱を表す。)
を用いて求め、
(b)触媒表面Msに吸着している異核二原子分子XYに基づいて求める場合には、下記式(1b):
E
X/Ms=D
XY+E
M+Q
XY−(D
Y2+E
M+Q
Y2)/2 (1b)
(式中、Xは原子AおよびBのうちの一方を表し、Yは原子AおよびBのうちの他方を表し、E
X/Msは触媒表面Msに吸着している原子Xの全電子エネルギーを表し、D
XYおよびD
Y2はそれぞれ遊離の異核二原子分子XYおよび遊離の等核二原子分子Y
2の解離エネルギーを表し、E
Mは触媒Mの全電子エネルギーを表し、Q
XYおよびQ
Y2は異核二原子分子XYおよび等核二原子分子Y
2がそれぞれ触媒表面Msで解離吸着する際の反応熱を表す。)
を用いて求め、
触媒表面Msに対する原子Xの単結合あたりの結合エネルギーを、下記式(2):
E
Ms−X,s=E
X/Ms/n
0Ms−X (2)
(式中、Xは原子AまたはBを表し、E
Ms−X,sは前記単結合あたりの結合エネルギーを表し、E
X/Msは触媒表面Msに吸着している原子Xの前記全電子エネルギーを表し、n
0Ms−Xは前記等核二原子分子X
2または前記異核二原子分子XYが触媒表面Msに吸着した状態における原子Xと触媒表面Msとの結合次数を表す。)
を用いて求め、
触媒表面Msに対する吸着分子の解離吸着曲線を、
(i)吸着分子が異核二原子分子ABの場合には、下記式(3a):
V
AB=D
AB−E
AB(n
AB)−E
Ms−A,s×f
Ms−A(n
AB)
−E
Ms−B,s×f
Ms−B(n
AB) (3a)
(式中、V
ABは触媒表面Msに対する異核二原子分子ABの解離吸着過程におけるポテンシャルエネルギーを表し、D
ABは遊離の異核二原子分子ABの解離エネルギーを表し、E
Ms−A,sおよびE
Ms−B,sはそれぞれ原子AおよびBの触媒表面Msに対する前記単結合あたりの結合エネルギーを表し、n
ABは異核二原子分子AB中の原子Aと原子Bとの結合次数を表し、f
Ms−A(n
AB)およびf
Ms−B(n
AB)は触媒表面Msに結合している原子AおよびBのそれぞれについて結合次数保存則に従って決定される結合次数n
ABの一次関数を表し、E
AB(n
AB)は結合次数がn
ABの異核二原子分子ABのポテンシャルエネルギーを表し、下記式(4a):
E
AB(n
AB)=−6×(n
AB)
3
+43×(n
AB)
2−3×(n
AB) (4a)
により求められる。)
を用いて求め、
(ii)吸着分子が等核二原子分子A
2およびB
2のうちの少なくとも一方の場合には、下記式(3b):
V
X2=D
X2−E
X2(n
X2)−E
Ms−X,s×f
Ms−X(n
X2) (3b)
(式中、Xは原子AまたはBを表し、V
X2は触媒表面Msに対する等核二原子分子X
2の解離吸着過程におけるポテンシャルエネルギーを表し、D
X2は遊離の等核二原子分子X
2の解離エネルギーを表し、E
Ms−X,sは触媒表面Msに対する原子Xの前記単結合あたりの結合エネルギーを表し、n
X2は等核二原子分子X
2中のX原子間の結合次数を表し、f
Ms−X(n
X2)は触媒表面Msに結合している原子Xについて結合次数保存則に従って決定される結合次数n
X2の一次関数を表し、E
X2(n
X2)は結合次数がn
X2の等核二原子分子X
2のポテンシャルエネルギーを表し、下記式(4b):
E
X2(n
X2)=−6×(n
X2)
3
+43×(n
X2)
2−3×(n
X2) (4b)
により求められる。)
を用いて求め、
得られた解離吸着曲線に基づいて吸着分子の触媒反応の経路を解析することによって、触媒の反応活性を評価することを特徴とするものである。この触媒の評価方法においては、前記解離吸着曲線に基づいて触媒表面Msに吸着した状態の吸着分子の解離エネルギーを求め、該解離エネルギーに基づいて触媒の反応活性を評価することができる。
【0009】
また、本発明の触媒の評価方法においては、前記式(3a)により求められる異核二原子分子ABの解離吸着曲線と前記式(3b)により求められる等核二原子分子A
2およびB
2のうちの少なくとも一方の解離吸着曲線とを組み合わせて、吸着分子が触媒表面Msに吸着して反応し、生成した分子が触媒表面Msから脱離する触媒反応の経路を解析することによって、触媒の反応活性を評価することができる。この評価方法においては、生成した分子の触媒表面Msからの脱離エネルギーを前記解離吸着曲線に基づいて求め、該脱離エネルギーに基づいて触媒の反応活性を評価することができる。
【0010】
本発明の触媒の評価方法においては、吸着分子が異核二原子分子ABであり、生成した分子が等核二原子分子A
2およびB
2のうちの少なくとも一方であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱力学データを新たに実験的に求める必要がなく、比較的短時間で触媒反応の経路を解析して触媒の反応活性を評価することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明は前記図面に限定されるものではない。なお、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
本発明の触媒の評価方法は、等核二原子分子および異核二原子分子のうちの少なくとも一方が触媒表面に解離吸着する過程を含む反応に用いることが可能な触媒の評価に適用することができる。このような触媒反応としては、異核二原子分子ABが触媒表面Msに分子吸着し、原子Aおよび原子Bとして解離吸着する解離吸着過程(
図1)や、等核二原子分子X
2(Xは原子AまたはB)が触媒表面Msに分子吸着し、原子Xとして解離吸着する解離吸着過程(
図2)を含む反応などが挙げられる。
【0015】
また、前記反応には、解離吸着している原子AおよびBが反応して等核二原子分子A
2およびB
2や異核二原子分子ABが生成し、これらの分子が脱離する過程がさらに含まれていてもよい。例えば、異核二原子分子ABが原子AおよびBとして解離吸着した(解離吸着過程)後、原子A同士および原子B同士が反応してそれぞれ等核二原子分子A
2およびB
2が生成し、これらの等核二原子分子A
2およびB
2が脱離する過程(脱離過程)を含む反応や、等核二原子分子A
2およびB
2がそれぞれ原子AおよびBとして解離吸着した(解離吸着過程)後、原子Aと原子Bとが反応して異核二原子分子ABが生成し、この異核二原子分子ABが脱離する過程(脱離過程)を含む反応などが挙げられる。
【0016】
本発明の触媒の評価方法においては、先ず、触媒表面Msに吸着している原子Xの全電子エネルギーを求める。すなわち、等核二原子分子X
2の熱力学データ(具体的には、遊離分子の解離エネルギーD
X2および分子X
2が触媒表面Msで解離吸着する際の反応熱Q
X2)が存在する場合には、この等核二原子分子X
2の熱力学データに基づいて原子Xの前記全電子エネルギーを求める(方法(a))。一方、等核二原子分子X
2やその熱力学データが存在しない場合には、等核二原子分子Y
2の熱力学データと異核二原子分子XYの熱力学データとに基づいて原子Xの前記全電子エネルギーを求める(方法(b))。
【0017】
(a)等核二原子分子X
2の熱力学データに基づいて求める場合:
下記式(1a):
E
X/Ms=(D
X2+E
M+Q
X2)/2 (1a)
を用いて、触媒表面Msに吸着している原子Xの全電子エネルギーE
X/Msを求める。前記式(1a)中、Xは原子AまたはBを表し、D
X2は遊離の等核二原子分子X
2の解離エネルギーを表し、E
Mは触媒Mの全電子エネルギーを表し、Q
X2は等核二原子分子X
2が触媒表面Msで解離吸着する際の反応熱を表す。
【0018】
(b)異核二原子分子XYの熱力学データに基づいて求める場合:
下記式(1b):
E
X/Ms=D
XY+E
M+Q
XY−(D
Y2+E
M+Q
Y2)/2 (1b)
を用いて、触媒表面Msに吸着している原子Xの全電子エネルギーE
X/Msを求める。前記式(1b)中、Xは原子AおよびBのうちの一方を表し、Yは原子AおよびBのうちの他方を表し、D
XYは遊離の異核二原子分子XYの解離エネルギーを表し、D
Y2は遊離の等核二原子分子Y
2の解離エネルギーを表し、E
Mは触媒Mの全電子エネルギーを表し、Q
XYは異核二原子分子XYが触媒表面Msで解離吸着する際の反応熱を表し、Q
Y2は等核二原子分子Y
2が触媒表面Msで解離吸着する際の反応熱を表す。
【0019】
前記式(1b)を用いることによって、原子Xについて等核二原子分子X
2やその熱力学データが存在しない場合であっても、異核二原子分子XYの熱力学データと等核二原子分子Y
2の熱力学データとが存在すれば、これらの熱力学データから、触媒表面Msに吸着している原子Xの全電子エネルギーを求めることができる。
【0020】
なお、前記式(1a)および(1b)は以下のように導かれる。すなわち、二原子分子xyが触媒表面Msで解離吸着する際の反応熱Q
xyは下記式(1c):
Q
xy=E
x/Ms+E
y/Ms−D
xy−E
M (1c)
で表される。前記式(1c)中、E
x/Msは触媒表面Msに吸着している原子xの全電子エネルギーを表し、E
y/Msは触媒表面Msに吸着している原子yの全電子エネルギーを表し、D
XYは遊離の二原子分子xyの解離エネルギーを表し、E
Mは触媒Mの全電子エネルギーを表す。
【0021】
二原子分子xyが等核二原子分子X
2の場合、x=y=Xであるので、前記式(1c)から、下記式(1d):
Q
X2=2×E
X/Ms−D
X2−E
M (1d)
が導かれ、これを変形すると前記式(1a)が導かれる。
【0022】
また、二原子分子xyが異核二原子分子XYの場合、前記式(1c)にx=Xおよびy=Yを代入すると、下記式(1e):
Q
XY=E
X/Ms+E
Y/Ms−D
XY−E
M (1e)
が導かれる。ここで、触媒表面Msに吸着している原子Yの全電子エネルギーE
Y/Msは、前記式(1a)と同様に、遊離の等核二原子分子Y
2の解離エネルギーD
Y2、触媒Mの全電子エネルギーE
Mおよび等核二原子分子Y
2が触媒表面Msで解離吸着する際の反応熱Q
Y2を用いて、
E
Y/Ms=(D
Y2+E
M+Q
Y2)/2 (1f)
と表されるので、これを前記式(1e)に代入すると、下記式(1g):
Q
XY=E
X/Ms−D
XY−E
M+(D
Y2+E
M+Q
Y2)/2 (1e)
が導かれ、これを変形すると前記式(1b)が導かれる。
【0023】
前記式(1a)および(1b)において用いる、遊離分子の解離エネルギーの値は、例えば、Johnston,H.S.、Gas Phase Reaction Rate Theory、Ronald Press、New York、1996年などに記載の文献値を採用することができる。ここで、遊離分子とは、触媒表面Msに吸着していない分子を意味する。また、触媒の全電子エネルギーの値は、第一原理計算を用いて求めることができる。さらに、分子が触媒表面で解離吸着する際の反応熱の値は、例えば、D.Brennanら、Phil.Trans.R.Soc.A、1965年、第258巻、第347頁〜第373頁などに記載の文献値を採用することができる。
【0024】
次に、このようにして求めた触媒表面Msに吸着している原子Xの全電子エネルギーE
X/Msを、下記式(2):
E
Ms−X,s=E
X/Ms/n
0Ms−X (2)
に代入して、触媒表面Msに対する原子Xの単結合あたりの結合エネルギーE
Ms−X,sを求める。前記式(2)中、Xは原子AまたはBを表し、E
X/Msは触媒表面Msに吸着している原子Xの前記全電子エネルギーを表す。また、n
0Ms−Xは前記等核二原子分子X
2または前記異核二原子分子XYが触媒表面Msに吸着した状態における原子Xと触媒表面Msとの結合次数を表す。
【0025】
次に、このようにして得られた単結合あたりの結合エネルギーE
Ms−X,sを、Bond energy−Bond orderの式(BEBO式)に導入して、触媒表面Msに対する吸着分子の解離吸着曲線を求める。
【0026】
(i)吸着分子が異核二原子分子ABの場合:
下記式(2a):
V
AB=D
AB−E
AB(n
AB)−E
Ms−A,s×f
Ms−A(n
AB)
−E
Ms−B,s×f
Ms−B(n
AB) (3a)
で表されるBEBO式を用いて解離吸着曲線を求める。前記式(3a)中、V
ABは触媒表面Msに対する異核二原子分子ABの解離吸着過程におけるポテンシャルエネルギーを表し、D
ABは遊離の異核二原子分子ABの解離エネルギーを表し、E
Ms−A,sおよびE
Ms−B,sはそれぞれ原子AおよびBの触媒表面Msに対する前記単結合あたりの結合エネルギーを表し、n
ABは異核二原子分子AB中の原子Aと原子Bとの結合次数を表す。また、f
Ms−A(n
AB)およびf
Ms−B(n
AB)は触媒表面Msに結合している原子AおよびBのそれぞれについて結合次数保存則に従って決定される結合次数n
ABの一次関数を表す。さらに、E
AB(n
AB)は結合次数がn
ABの異核二原子分子ABのポテンシャルエネルギーを表し、下記式(4a):
E
AB(n
AB)=−6×(n
AB)
3
+43×(n
AB)
2−3×(n
AB) (4a)
により求められるものである。
【0027】
なお、前記式(3a)は以下のように導かれる。すなわち、原子Aと原子Bとの結合指数がn
ABであり且つ触媒表面Msと原子Aおよび原子Bとの結合次数がそれぞれn
Ms−Aおよびn
Ms−Bである異核二原子分子ABの解離吸着過程におけるポテンシャルエネルギーV
ABは下記式(5a)で表される。
V
AB=D
AB−E
AB(n
AB)
−E
Ms−A,s×n
Ms−A−E
Ms−B,s×n
Ms−B (5a)
(式(5a)中のV
AB、D
AB、E
Ms−A,s、E
Ms−B,s、E
AB(n
AB)は、それぞれ前記式(3a)中のV
AB、D
AB、E
Ms−A,s、E
Ms−B,s、E
AB(n
AB)と同義である。)
触媒表面Msに対する異核二原子分子ABの解離吸着過程においては、結合次数が保存されるという法則(結合次数保存則)により、下記式(6a):
n
Ms−A+n
Ms−B=λ
AB(n
0AB−n
AB) (6a)
(式(6a)中、n
0ABは遊離の異核二原子分子ABの原子Aと原子Bとの結合次数を表し、λ
ABは比例定数である。)
が成立するので、n
Ms−Aおよびn
Ms−Bはそれぞれ下記式(7a)および(8a):
n
Ms−A=λ
AB(n
0AB−n
AB)−n
Ms−B
=f
Ms−A(n
AB) (7a)
n
Ms−B=λ
AB(n
0AB−n
AB)−n
Ms−A
=f
Ms−B(n
AB) (8a)
で表されるように、n
ABの一次関数として表され、これらを前記式(5a)に代入することによって、前記式(3a)が導かれる。
【0028】
(ii)吸着分子が等核二原子分子A
2およびB
2のうちの少なくとも一方の場合:
下記式(3b):
V
X2=D
X2−E
X2(n
X2)−E
Ms−X,s×f
Ms−X(n
X2) (3b)
で表されるBEBO式を用いて解離吸着曲線を求める。前記式(3b)中、Xは原子AまたはBを表し、V
X2は触媒表面Msに対する等核二原子分子X
2の解離吸着過程におけるポテンシャルエネルギーを表し、D
X2は遊離の等核二原子分子X
2の解離エネルギーを表し、E
Ms−X,sは触媒表面Msに対する原子Xの前記単結合あたりの結合エネルギーを表し、n
X2は等核二原子分子X
2中のX原子間の結合次数を表す。また、f
Ms−X(n
X2)は触媒表面Msに結合している原子Xについて結合次数保存則に従って決定される結合次数n
X2の一次関数を表す。さらに、E
X2(n
X2)は結合次数がn
X2の等核二原子分子X
2のポテンシャルエネルギーを表し、下記式(4b):
E
X2(n
X2)=−6×(n
X2)
3
+43×(n
X2)
2−3×(n
X2) (4b)
により求められるものである。
【0029】
なお、前記式(3b)は以下のように導かれる。すなわち、X原子間の結合次数がn
X2であり且つ触媒表面Msと原子Xとの結合次数がn
Ms−Xである等核二原子分子X
2の解離吸着過程におけるポテンシャルエネルギーV
ABは、下記式(5b)で表される。
V
X2=D
X2−E
X2(n
X2)−E
Ms−X,s×n
Ms−X (5b)
(式(5b)中のV
X2、D
X2、E
Ms−X,s、E
X2(n
X2)は、それぞれ前記式(3b)中のV
X2、D
X2、E
Ms−X,s、E
X2(n
X2)と同義である。)
触媒表面Msに対する等核二原子分子X
2の解離吸着過程においても同様に、結合次数が保存されるという法則(結合次数保存則)により、下記式(6b):
n
Ms−X=λ
X2(n
0X2−n
X2) (6b)
(式(6b)中、n
0X2は遊離の異核二原子分子X
2のX原子間の結合次数を表し、λ
X2は比例定数である。)
が成立するので、n
Ms−Xは下記式(7b):
n
Ms−X=λ
X2(n
0X2−n
X2)
=f
Ms−X(n
X2) (7b)
で表されるように、n
X2の一次関数として表され、これを前記式(5b)に代入することによって、前記式(3b)が導かれる。
【0030】
前記式(3a)および(3b)において用いる遊離分子の解離エネルギーの値は、例えば、Johnston,H.S.、Gas Phase Reaction Rate Theory、Ronald Press、New York、1996年などに記載の文献値を採用することができる。ここで、遊離分子とは、触媒表面Msに吸着していない分子を意味する。
【0031】
本発明の触媒の評価方法は、このようにして求めた解離吸着曲線に基づいて吸着分子の触媒反応の経路を解析することによって、触媒の反応活性を評価する方法である。例えば、前記解離吸着曲線に基づいて吸着分子の解離吸着過程の反応経路解析を行うことによって、触媒の反応活性を評価することができる。この場合、反応活性の評価の指標としては特に制限はないが、例えば、前記解離吸着曲線に基づいて触媒表面Msに吸着している吸着分子の解離エネルギーを求め、この解離エネルギーを指標として、所望の反応に対する触媒の有利・不利を判定することができる。
【0032】
以下に、吸着分子の解離吸着過程の反応経路解析に基づいて触媒の反応活性を評価する方法を、触媒にNO分子をN原子とO原子として解離吸着させる場合やCO分子をC原子とO原子として解離吸着させる場合を例として説明する。
【0033】
(a)NO分子をN原子とO原子として解離吸着させる場合:
先ず、触媒表面Msに吸着しているN原子およびO原子の全電子エネルギーE
N/MsおよびE
O/Msを求める。ここで、N原子およびO原子については、いずれも等核二原子分子のN
2分子およびO
2分子が存在するので、これらの遊離分子の解離エネルギーD
N2およびD
O2、これらの分子が触媒表面Msで解離吸着する際の反応熱Q
N2およびQ
O2を、前記式(1a)に代入して、前記全電子エネルギーE
N/MsおよびE
O/Msを求める。
【0034】
次に、得られた全電子エネルギーE
N/MsおよびE
O/Msを、前記式(2)に代入して、触媒表面Msに対するN原子およびO原子の単結合あたりの結合エネルギーE
Ms−N,sおよびE
Ms−O,sを求める。そして、単結合あたりの結合エネルギーE
Ms−N,sおよびE
Ms−O,sをBEBO式に導入して、触媒表面Msに対するNO分子の解離吸着曲線を求める。このとき、NO分子は異核二原子分子であるので、前記式(3a)および(4a)を使用する。なお、NO分子中のN原子とO原子との結合次数n
NOの範囲は0(解離吸着状態)〜2.5(気体状態)である。
【0035】
(b)CO分子をC原子とO原子として解離吸着させる場合:
先ず、触媒表面Msに吸着しているC原子およびO原子の全電子エネルギーE
C/MsおよびE
O/Msを求める。ここで、O原子については、前記(a)と同様にして前記全電子エネルギーE
O/Msを求める。一方、C原子については、等核二原子分子が存在しないので、遊離のCO分子およびO
2分子の解離エネルギーD
COおよびD
O2、これらの分子が触媒表面Msで解離吸着する際の反応熱Q
COおよびQ
O2を、前記式(1b)に代入して、前記全電子エネルギーE
C/Msを求める。
【0036】
次に、得られた全電子エネルギーE
C/MsおよびE
O/Msを、前記式(2)に代入して、触媒表面Msに対するC原子およびO原子の単結合あたりの結合エネルギーE
Ms−C,sおよびE
Ms−O,sを求める。そして、単結合あたりの結合エネルギーE
Ms−C,sおよびE
Ms−O,sをBEBO式に導入して、触媒表面Msに対するCO分子の解離吸着曲線を求める。このとき、CO分子は異核二原子分子であるので、前記式(3a)および(4a)を使用する。なお、CO分子中のC原子とO原子との結合次数n
COの範囲は0(解離吸着状態)〜3(気体状態)である。
【0037】
このように本発明の触媒の評価方法においては、触媒表面に解離吸着する異核二原子分子が、一方の原子が等核二原子分子が存在しない原子である場合でも、解離吸着曲線を求めることができ、吸着分子の解離吸着過程の反応経路解析を幅広く実施することができる。
【0038】
図3は、NO分子やCO分子のような異核二原子分子の解離吸着過程におけるポテンシャルエネルギーを前記異核二原子分子中の各原子間の結合次数に対してプロットして得た解離吸着曲線を示す。
図3に示したように、気体状態の異核二原子分子(最大結合次数)のポテンシャルエネルギーと解離吸着過程における異核二原子分子のポテンシャルエネルギーの極小値との差から触媒表面Msに対する異核二原子分子の吸着エネルギーを求めることができる。また、解離吸着過程における異核二原子分子のポテンシャルエネルギーの極小値と極大値との差から触媒表面Msに吸着している異核二原子分子の解離エネルギーを求めることができる。さらに、気体状態の異核二原子分子(最大結合次数)のポテンシャルエネルギーと触媒表面Msに解離吸着している異核二原子分子(最小結合次数)のポテンシャルエネルギーとの差から遊離の異核二原子分子と触媒表面Msとの反応熱を求めることができる。
【0039】
このようにして求めた触媒表面Msに吸着している異核二原子分子の解離エネルギーの大小によって、所望の反応に対する触媒の有利・不利を判定することができる。すなわち、前記解離エネルギーが小さいほど、所望の反応に対して有利な触媒と判定することができる。
【0040】
このような触媒の評価方法は、触媒にNO分子やCO分子などの異核二原子分子を吸着させる場合に限定して適用されるものではなく、N
2分子やO
2分子などの等核二原子分子を吸着させる場合にも、前記式(3a)および(4a)の代わりに前記式(3b)および(4b)を用いることによって、適用することができる。
【0041】
また、本発明の触媒の評価方法においては、上記のようにして求められる2種以上の解離吸着曲線を組み合わせることによって、解離吸着過程と脱離過程といった多段階過程の触媒反応経路を解析して、触媒の反応活性を評価することもできる。例えば、前記式(3a)により求められる異核二原子分子ABの解離吸着曲線と前記式(3b)により求められる等核二原子分子A
2およびB
2のうちの少なくとも一方の解離吸着曲線とを組み合わせて、吸着分子が触媒表面Msに吸着して反応し、生成した分子が触媒表面Msから脱離する触媒反応の経路を解析することによって、触媒の反応活性を評価することができる。この場合、反応活性の評価の指標としては特に制限はないが、上述した触媒表面Msに吸着している吸着分子の解離エネルギーのほかに、例えば、生成した分子の触媒表面Msからの脱離エネルギーを前記解離吸着曲線に基づいて求め、この脱離エネルギーを指標として、所望の反応に対する触媒の有利・不利を判定することができる。
【0042】
以下に、生成した分子の脱離過程の反応経路解析に基づいて触媒の反応活性を評価する方法を、触媒に解離吸着しているO原子からO
2分子を生成させ、このO
2分子を脱離させる場合を例として説明する。すなわち、先ず、前記(a)と同様にして、触媒表面Msに吸着しているO原子の全電子エネルギーE
O/Msを求める。そして、得られた全電子エネルギーE
O/Msを、前記式(2)に代入して、触媒表面Msに対するO原子の単結合あたりの結合エネルギーE
Ms−O,sを求める。
【0043】
次に、単結合あたりの結合エネルギーE
Ms−O,sをBEBO式に導入して、触媒表面Msに対するO
2分子の解離吸着曲線を求める。このとき、O
2分子は等核二原子分子であるので、前記式(3b)および(4b)を使用する。なお、O
2分子中のO原子間の結合次数n
O2の範囲は0(解離吸着状態)〜3(気体状態)である。そして、得られたO
2分子の解離吸着曲線の結合次数軸を反転させることによりO
2分子の脱離曲線が得られる。
【0044】
図4は、O
2分子などの等核二原子分子の脱離過程におけるポテンシャルエネルギーを前記等核二原子分子中の各原子間の結合次数に対してプロットして得た脱離曲線を示す。
図4に示したように、解離吸着している等核二原子分子(最小結合次数)のポテンシャルエネルギーと脱離過程における等核二原子分子のポテンシャルエネルギーの極大値との差から触媒表面Msからの等核二原子分子の脱離エネルギーを求めることができる。
【0045】
このようにして求めた触媒表面Msからの等核二原子分子の脱離エネルギーの大小によって、所望の反応に対する触媒の有利・不利を判定することができる。すなわち、前記脱離エネルギーが小さいほど、所望の反応に対して有利な触媒と判定することができる。
【0046】
このような触媒の評価方法は、触媒からO
2分子などの等核二原子分子を脱離させる場合に限定して適用されるものではなく、NO分子やCO分子などの異核二原子分子を脱離させる場合にも、前記式(3b)および(4b)の代わりに前記式(3a)および(4a)を用いることによって、適用することができる。
【0047】
特に、本発明の触媒の評価方法は、NO分子やCO分子などの異核二原子分子を触媒に解離吸着させた後、O
2分子などの等核二原子分子を触媒から脱離させる場合に限定して適用されるものではなく、N
2分子やO
2分子などの等核二原子分子を触媒に解離吸着させた後、NO分子などの等異核二原子分子を触媒から脱離させる場合にも、適用することが可能である。
【0048】
本発明の触媒の評価方法においては、遊離の二原子分子の解離エネルギー、触媒の全電子エネルギー、ならびに二原子分子が触媒表面で解離吸着する際の反応熱から、触媒表面に吸着している原子の全電子エネルギーを求めることから、本発明の触媒の評価方法を触媒の特定の表面や特定の組成を有する触媒に適用することが可能である。
【0049】
また、本発明の触媒の評価方法においては、吸着分子の解離吸着曲線に基づいて触媒反応の経路を解析しているため、触媒被毒を考慮して触媒の反応活性を評価することができる。さらに、複数種の吸着分子の解離吸着曲線を組み合わせることによって、多段階過程の反応経路を有する触媒や、二元系、三元系の触媒の評価にも本発明の触媒の評価方法を適用することが可能である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
ジニトロジアンミン白金の硝酸水溶液にイオン交換水を加えた後、市販のアルミナ(γ−Al
2O
3)担体を混合して、アルミナ担体にジニトロジアンミン白金の硝酸水溶液を含浸させた。固形分を回収して、大気中、500℃で3時間焼成し、白金の担持量が1.0質量%のPt担持アルミナ触媒を得た。
【0052】
(実施例2)
ジニトロジアンミン白金の硝酸水溶液の代わりに硝酸ロジウム溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、ロジウム担持量が0.5質量%のRh担持アルミナ触媒を得た。
【0053】
(実施例3)
ジニトロジアンミン白金の硝酸水溶液の代わりに硝酸パラジウム溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、パラジウム担持量が1.0質量%のPd担持アルミナ触媒を得た。
【0054】
(実施例4)
Au
3+イオン、Ni
2+イオンおよびポリビニルピロリドンを含有するテトラエチレングリコール溶液にNaBH
4を添加して還元反応を行い、Au−Ni合金溶液を調製した。この溶液からAu−Ni合金を分離回収し、エタノールに再分散させた。この分散液に、市販のアルミナ(γ−Al
2O
3)担体を混合して、アルミナ担体にAu−Ni合金を含浸させた。固形分を回収して、大気中、300℃で1時間焼成し、金担持量が0.98質量%、ニッケル担持量が0.56質量%のAu−Ni担持アルミナ触媒を得た。
【0055】
(比較例1)
Au
3+イオンを使用しなかった以外は実施例4と同様にして、ニッケル担持量が0.80質量%のNi担持アルミナ触媒を得た。
【0056】
(比較例2)
Ni
2+イオンを使用しなかった以外は実施例4と同様にして、金担持量が0.82質量%のAu担持アルミナ触媒を得た。
【0057】
<触媒活性評価>
得られた触媒0.6gを流通型反応器(直径:1.5cm、長さ:10cm)に充填し、触媒入りガス温度を50℃から600℃まで20℃/minで昇温しながら、NO(3000ppm)、CO(3000ppm)、N
2(残り)からなる混合ガスを流量1L/minで供給し、各ガス温度での触媒入りガス中および触媒出ガス中のNO濃度を測定してNO浄化率を求めた。得られたNO浄化率を触媒入りガス温度に対してプロットしてNO浄化率曲線を作成し、NO浄化率が20%に到達した温度(以下、「NO20%浄化温度」という。)を求めた。また、NO20%浄化温度が300℃以下の場合を「良」、300℃超過の場合を「不良」と判定して触媒の反応活性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0058】
<触媒反応の経路解析(1)>
先ず、各種触媒Mの表面Msに吸着しているN
2分子またはO
2分子に基づいて、下記式(1a−1)および(1a−2):
E
N/Ms=(D
N2+E
M+Q
N2)/2 (1a−1)
E
O/Ms=(D
O2+E
M+Q
O2)/2 (1a−2)
を用いて、触媒表面Msに吸着しているN原子およびO原子の全電子エネルギーE
N/MsおよびE
O/Msを求めた。なお、遊離のN
2分子およびO
2分子の解離エネルギーD
N2およびD
O2はそれぞれ226kcal/molおよび118kcal/molとした。
【0059】
また、各種触媒Mの表面Msに吸着しているCO分子に基づいて、下記式(1b−1):
E
C/Ms=D
CO+E
M+Q
CO−(D
O2+E
M+Q
O2)/2 (1b−1)
を用いて、触媒表面Msに吸着しているC原子の全電子エネルギーE
C/Msを求めた。なお、遊離のCO分子およびO
2分子の解離エネルギーD
COおよびD
O2はそれぞれ256kcal/molおよび118kcal/molとした。
【0060】
得られた全電子エネルギーE
N/Ms、E
O/MsおよびE
C/Msを、下記式(2−1)〜(2−3):
E
Ms−N,s=E
N/Ms/n
0Ms−N (2−1)
E
Ms−O,s=E
O/Ms/n
0Ms−O (2−2)
E
Ms−C,s=E
C/Ms/n
0Ms−C (2−3)
に代入して、触媒表面Msに対するN原子、O原子およびC原子の単結合あたりの結合エネルギーE
Ms−N,s、E
Ms−O,sおよびE
Ms−C,sを求めた。その結果を表1に示す。なお、結合次数n
0Ms−N、n
0Ms−Oおよびn
0Ms−Cは表1に示した値を用いた。
【0061】
次に、単結合あたりの結合エネルギーE
Ms−N,sおよびE
Ms−O,s、ならびに下記式(3a−1)および(4a−1):
V
NO=D
NO−E
NO(n
NO)−E
Ms−N,s×f
Ms−N(n
NO)
−E
Ms−O,s×f
Ms−O(n
NO) (3a−1)
E
NO(n
NO)=−6×(n
NO)
3
+43×(n
NO)
2−3×(n
NO) (4a−1)
を用いて、触媒表面Msに対するNO分子の解離吸着曲線を求めた。なお、遊離のNO分子の解離エネルギーD
NOは151kcal/molとした。また、NO分子中のN原子とO原子との結合次数n
NOの範囲は0(解離吸着状態)〜2.5(気体状態)とした。さらに、f
Ms−N(n
NO)およびf
Ms−O(n
NO)はそれぞれ下記式:
f
Ms−N(n
NO)=2×(2.5−n
NO) (n
NO≧1で定義される。)
f
Ms−O(n
NO)=2×(1−n
NO) (n
NO≦1で定義される。)
を用いた。各種触媒表面Msに対するNO分子の解離吸着曲線を
図5に示す。
【0062】
また、単結合あたりの結合エネルギーE
Ms−N,s、ならびに下記式(3b−1)および(4b−1):
V
N2=D
N2−E
N2(n
N2)
−E
Ms−N,s×f
Ms−N(n
N2) (3b−1)
E
N2(n
N2)=−6×(n
N2)
3
+43×(n
N2)
2−3×(n
N2) (4b−1)
を用いて、触媒表面Msに対するN
2分子の解離吸着曲線を求めた。なお、遊離のN
2分子の解離エネルギーD
N2は226kcal/molとした。また、N
2分子中のN原子間の結合次数n
N2の範囲は0(解離吸着状態)〜3(気体状態)とした。さらに、f
Ms−N(n
N2)は下記式:
f
Ms−N(n
N2)=2×(3−n
N2)
を用いた。各種触媒表面Msに対するN
2分子の解離吸着曲線を
図6に示す。
【0063】
さらに、単結合あたりの結合エネルギーE
Ms−O,s、ならびに下記式(3b−2)および(4b−2):
V
O2=D
O2−E
O2(n
O2)
−E
Ms−O,s×f
Ms−O(n
O2) (3b−2)
E
O2(n
O2)=−6×(n
O2)
3
+43×(n
O2)
2−3×(n
O2) (4b−2)
を用いて、触媒表面Msに対するO
2分子の解離吸着曲線を求めた。なお、遊離のO
2分子の解離エネルギーD
O2は118kcal/molとした。また、O
2分子中のO原子間の結合次数n
O2の範囲は0(解離吸着状態)〜2(気体状態)とした。さらに、f
Ms−O(n
O2)は下記式:
f
Ms−O(n
O2)=2×(2−n
O2)
を用いた。各種触媒表面Msに対するO
2分子の解離吸着曲線を
図7に示す。
【0064】
また、単結合あたりの結合エネルギーE
Ms−C,sおよびE
Ms−O,s、ならびに下記式(3a−2)および(4a−2):
V
CO=D
CO−E
CO(n
CO)−E
Ms−C,s×f
Ms−C(n
CO)
−E
Ms−O,s×f
Ms−O(n
CO) (3a−2)
E
CO(n
CO)=−6×(n
CO)
3
+43×(n
CO)
2−3×(n
CO) (4a−2)
を用いて、触媒表面Msに対するCO分子の解離吸着曲線を求めた。なお、遊離のCO分子の解離エネルギーD
COは256kcal/molとした。また、CO分子中のC原子とO原子との結合次数n
COの範囲は0(解離吸着状態)〜3(気体状態)とした。さらに、f
Ms−C(n
CO)およびf
Ms−O(n
CO)はそれぞれ下記式:
f
Ms−C(n
CO)=1.667×(3−n
CO) (n
CO<1.2のとき)
f
Ms−C(n
CO)=3 (n
CO≧1.2のとき)
f
Ms−O(n
CO)=0 (n
CO<1.2のとき)
f
Ms−O(n
CO)=1.667×(n
CO−1.2) (n
CO≧1.2のとき)
を用いた。各種触媒表面Msに対するCO分子の解離吸着曲線を
図8に示す。
【0065】
図5〜
図8に示した結果から、各種触媒表面に吸着しているNO分子およびCO分子の解離エネルギー、各種触媒表面MsからのN
2分子およびO
2分子の脱離エネルギーを求めた。その結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
NOの浄化(NOの還元)は、先ず、触媒表面にNO分子が解離吸着してN原子とO原子が生成し、次に、N原子同士およびO原子同士が反応してN
2分子およびO
2分子が生成し、これらの分子が触媒表面から脱離することによって進行すると考えられる。また、COの浄化(COの還元)は、先ず、触媒表面にCO分子が解離吸着してC原子とO原子が生成し、次に、O原子同士が反応してO
2分子が生成し、このO
2分子が触媒表面から脱離することによって進行すると考えられる。
【0068】
表1に示した結果から明らかなように、触媒種としてAuを用いた場合(比較例2)には、他の触媒種に比べて、NO分子およびCO分子の解離エネルギーが著しく高い値となった。吸着分子の解離エネルギーが低い方が解離吸着しやすいことから、NO分子およびCO分子の解離吸着過程においては、Pt(実施例1)、Rh(実施例2)、Pd(実施例3)、Au−Ni(実施例4)、Ni(比較例1)が、Au(比較例2)に比べて有利であることがわかった。なお、NO分子およびCO分子の解離エネルギーの値から、触媒種としてAuを用いてもNO分子およびCO分子は解離吸着しにくいと予想される。
【0069】
また、触媒種としてNiを用いた場合(比較例1)には、他の触媒種に比べて、O
2分子の脱離エネルギーが高い値となった。生成した分子の脱離エネルギーが低い方が脱離しやすいことから、脱離過程においては、Pt(実施例1)、Rh(実施例2)、Pd(実施例3)、Au−Ni(実施例4)、Au(比較例2)が、Ni(比較例1)に比べて有利であることがわかった。なお、O
2分子の脱離エネルギーの値から、触媒種としてNiを用いてもO
2分子は脱離しにくいと予想される。
【0070】
NO浄化(NO還元)やCO浄化(CO還元)の活性は、触媒表面でのNO分子やCO分子の解離吸着のしやすさと、触媒表面からのO
2分子の脱離のしやすさとのバランスによって決まると考えられる。以上の計算結果を総合すると、NO浄化やCO浄化においては、Pt(実施例1)、Rh(実施例2)、Pd(実施例3)、Au−Ni(実施例4)が触媒種として有利であり、Ni(比較例1)、Au(比較例2)は触媒活性が低いと予想される。
【0071】
そこで、これらの計算結果と、実際のNO浄化試験の結果とを対比したところ、表1に示した結果から明らかなように、Pt(実施例1)、Rh(実施例2)、Pd(実施例3)、Au−Ni(実施例4)は、NO20%浄化温度が300℃以下と低い(すなわち、触媒活性が高い)ものであり、Ni(比較例1)、Au(比較例2)は、NO20%浄化温度が300℃超過と高い(すなわち、触媒活性が低い)ものであった。
【0072】
このように、本発明の触媒の評価方法による結果は、実際の触媒の評価結果と一致しており、本発明にかかる触媒反応の経路解析によって、触媒の反応活性を評価できることが確認された。
【0073】
<多段階過程への適用性>
次に、
図6および
図7のグラフの結合次数軸(x軸)を反転させ、これらのグラフと
図5のグラフとにおいて、ポテンシャルエネルギーが連続するように、すなわち、結合次数0においてポテンシャルエネルギーが一致するように、グラフを補正して組み合わせた。その結果を
図9および
図10に示す。
【0074】
図8および
図9に示した結果から明らかなように、NO分子、N
2分子、O
2分子の解離吸着曲線を組み合わせることによって、NO浄化反応の進行に伴うポテンシャルエネルギー変化を示すグラフが得られ、NO浄化の反応経路を容易に解析できることが確認された。
【0075】
また、
図7のグラフの結合次数軸(x軸)を反転させ、このグラフと
図8のグラフとにおいて、ポテンシャルエネルギーが連続するように、すなわち、結合次数0においてポテンシャルエネルギーが一致するように、グラフを補正して組み合わせた。その結果を
図11に示す。
【0076】
図11に示した結果から明らかなように、CO分子、O
2分子の解離吸着曲線を組み合わせることによって、CO浄化反応の進行に伴うポテンシャルエネルギー変化を示すグラフが得られ、CO浄化の反応経路を容易に解析できることが確認された。
【0077】
以上の結果から、複数の吸着分子の解離吸着曲線を組み合わせることによって、多段階過程の触媒反応の経路を解析することが可能となり、複雑な反応に用いられる触媒も評価することが可能であると考えられる。