(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015953
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】熱間圧延鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 1/26 20060101AFI20161013BHJP
B21B 37/76 20060101ALI20161013BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20161013BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20161013BHJP
C22C 38/04 20060101ALI20161013BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
B21B1/26 E
B21B37/76 A
B21B37/00BBM
C22C38/00 301W
C22C38/04
C21D9/46 S
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-179000(P2013-179000)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-65077(P2014-65077A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年2月23日
(31)【優先権主張番号】特願2012-195899(P2012-195899)
(32)【優先日】2012年9月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平松 成
(72)【発明者】
【氏名】杉原 広和
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−240354(JP,A)
【文献】
特開平03−277721(JP,A)
【文献】
特開2008−018459(JP,A)
【文献】
特開2009−220158(JP,A)
【文献】
特開2012−055950(JP,A)
【文献】
特開2009−214112(JP,A)
【文献】
特公平04−068045(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/26
B21B 37/76
B21B 45/02
B21C 45/00−49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延鋼板を熱間圧延機で熱間圧延した後に、これをホットランテーブル上で冷却し、コイラーで巻き取ってコイル状熱間圧延鋼板を製造するに際し、
前記熱間圧延鋼板を、熱間圧延機から送り出した直後のその熱間圧延鋼板の温度がその熱間圧延鋼板の長手方向に沿って一定となるように熱間圧延中にその熱間圧延鋼板の尾端側に行くほど冷却温度量を減らして冷却した後、熱間圧延機からホットランテーブル上に一定速度で送り出し、
その熱間圧延鋼板を、熱間圧延機からの送り出しからコイラーでの巻取までの間の冷却速度と冷却時間とがその熱間圧延鋼板の長手方向に沿って一定となるとともに、巻取時にその熱間圧延鋼板の全長に亘りフェライト変態の変態率が60±10%となるようにホットランテーブル上で冷却することを特徴とする熱間圧延鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記熱間圧延鋼板を、熱間圧延機から送り出した直後のその熱間圧延鋼板の温度がその熱間圧延鋼板の長手方向に沿って一定となるようにする前記熱間圧延中の冷却は、仕上圧延機を構成する複数基の圧延スタンド間の冷却で行うことを特徴とする請求項1記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【請求項3】
熱間圧延鋼板を熱間圧延機で熱間圧延した後に、これをホットランテーブル上で冷却し、コイラーで巻き取ってコイル状熱間圧延鋼板を製造するに際し、
ホットランテーブルにラミナー冷却設備を設け、
前記熱間圧延鋼板を、熱間圧延機からホットランテーブル上に加速しながら送り出し、
その熱間圧延鋼板を、単位長さ当りの冷却温度量が前記送り出し速度の上昇に比例してその熱間圧延鋼板の長手方向に沿って増加して冷却速度がその熱間圧延鋼板の全長に亘り一定となり、この冷却速度を、送り出し速度とホットランテーブルの長さとの関係で、コイラーへの到達までに熱間圧延鋼板の先端部の温度がTTT線図でフェライトノーズ温度付近まで低下するように設定するとともに、熱間圧延鋼板の単位長さ毎に、圧延最高速度におけるラミナー冷却設備の最大冷却量から求めたその最大冷却量による冷却速度の最大値以下となるように設定し、熱間圧延鋼板の単位長さ毎に、熱間圧延機の送り出し速度からラミナー冷却設備の通過速度を求め、その通過速度において前記設定した冷却速度になるように冷却温度量を求め、その求めた冷却温度量が達成できるようにラミナー冷却設備の冷却能力から冷却水量を決定するという処理を行うことで、巻取時にその熱間圧延鋼板の全長に亘り相変態が終了するかまたは終了直前になるようにホットランテーブル上で冷却することを特徴とする熱間圧延鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記巻取時の熱間圧延鋼板の相変態率はその全長に亘り90%以上であることを特徴とする請求項3記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記熱間圧延鋼板は、C:0.25質量%以下(0質量%を含まず)、Mn:1.5質量%〜2.7質量%およびSi:1.5質量%以下(0質量%を含まず)を添加したものであることを特徴とする請求項1から請求項4までの何れか1項記載の熱間圧延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延鋼板を熱間圧延機で熱間圧延した後に、これをホットランテーブル上で冷却し、コイラーで巻き取ってコイル状熱間圧延(熱延)鋼板を製造する際に、そのコイル状熱延鋼板がコイラー内で自重によりつぶれるのを抑制する熱延鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、熱延鋼板を製造するには、加熱炉1においてスラブを所定温度に加熱し、加熱したスラブを熱間圧延機としての粗圧延機2で圧延して粗バーとなし、次いでこの粗バーをこれも熱間圧延機としての、複数基の圧延スタンドからなる連続熱間仕上圧延機3で圧延して所定の厚みの熱延鋼板4とする。そしてこの熱延鋼板4を、ホットランテーブル(HRT)に設置した冷却装置5で上方および下方から供給する冷却水によって冷却した後、長手方向に張力を付与しながらコイラー6で巻き取り、コイル状熱延鋼板(以下、単に「コイル」と呼ぶ場合もある)7とする。
【0003】
コイラー6によって熱延鋼板4を巻き取る際に、熱延鋼板4にその長手方向に付与する張力は、巻取後のコイル状熱延鋼板(コイル)7内では半径方向の面圧として作用し、鋼板層間に摩擦力を発生させる。それにより、鋼板のすべりを抑制し、コイル7の剛性を高めている。
【0004】
ところでコイラー6内では、ダウンエンド状態(巻取軸穴が横に向いた状態)のコイル7が自重でつぶれる、いわゆる「コイルつぶれ」と呼ばれる現象が生じることがあり、場合によっては巻取軸穴の変形が過大になって、コイル7が次工程のマンドレルに装入できず、その場合には、コイル7を巻き直す工程が追加され、生産能率が低下する。
【0005】
このコイラー6内でのコイルつぶれは、HRT上で相変態が完了しない場合に発生することが判明している。すなわち、HRT上で相変態が完了しない場合には、コイラー6内で巻取後の鋼板に相変態による体積膨張が生じる。この体積膨張がコイル外周でコイル内周よりも大きい場合、半径方向の面圧が小さくなり、鋼板層間の摩擦力も小さくなる。それにより、鋼板がすべりやすくなり、コイル7の剛性が低下する。コイル7の剛性が大幅に低下するとコイルつぶれが生じ、このコイルつぶれは特に、C:0.25質量%以下(0質量%を含まず)、Mn:1.5質量%〜2.7質量%およびSi:1.5質量%以下(0質量%を含まず)を添加した熱延鋼板の場合に発生し易い傾向がある。
【0006】
このため従来は、コイラー6内の巻取軸上で数十秒間冷却を行ってからコイル7を抜き出すことでコイルつぶれを防止しているが、このようにコイルをコイラー内に保持して冷却する方法では、コイルの冷却中は次の熱延鋼板をコイラーで巻き取ることができず、生産効率が低下するという不都合がある。そこで、例えば特許文献1に記載のように、コイラーから取り出したコイルを置き台上で常温まで徐冷する方法も試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献l】特開2006−281306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この特許文献1記載の方法は、水平面に対し45度〜55度の角度をなす支持面をV字状に向き合わせて配置した置き台上にコイルを載置するもので、この置き台によれば、コイルの自重による下向きの力と自重に対する反力による横向きの力とをV字状の支持面で受け止めることでコイルつぶれを防止することができるものの、この方法では、コイラー内でのコイルつぶれの発生によりコイルがコイラーの巻取軸から抜き出しにくくなったり抜き出せなくなったりするコイル抜き出し不良の問題は解決できない。
【0009】
このため本発明者がコイルつぶれについてさらに研究を進めたところ、コイラー内でのコイルつぶれは、HRT上で相変態が完了しないことに加えて、熱延鋼板の長手方向の相変態率変化が関係しており、それゆえ、熱延鋼板の長手方向の相変態率変化を抑制すれば、HRT上で相変態が未完了であってもコイルつぶれを抑制できるということが判明した。
【0010】
本発明は上述した本発明者の知見に鑑みて、仕上圧延速度の制御やHRT上での冷却制御等により、熱延鋼板の長手方向の相変態率変化を抑制することで、コイラー内でのコイルつぶれの発生を抑制し、生産性を向上させる熱延鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
図2に中炭素鋼および中炭素・高Mn鋼のTTT線図(Time−Temperature−Transformation Diagram)の一例を示す。
図2中、曲線Aは中炭素鋼のフェライト変態開始温度と時間との関係、曲線Bは中炭素・高Mn鋼のフェライト変態開始温度と時間との関係、曲線Cは中炭素鋼のベイナイト変態開始温度と時間との関係、曲線Dは中炭素・高Mn鋼のベイナイト変態開始温度と時間との関係を示す。一般的に相変態には、フェライト変態、ベイナイト変態、パーライト変態およびマルテンサイト変態があるが、本発明が対象とする鋼種では、仕上圧延後から巻取までの時間が10〜20sec.(秒)、巻取温度が500℃〜650℃であり、その条件で生じる相変態はフェライト変態(γ→α変態)が主であるため、本発明ではフェライト変態に着目する。
【0012】
図2において、中炭素鋼については、フェライト変態の開始が1sec.以内であるため巻取時間に対して十分短く、仕上圧延後から巻取までに相変態がほぼ完了する。一方、中炭素・高Mn鋼については、フェライト変態の開始が10sec.前後であり、また、最も早く相変態が開始する温度(フェライトノーズ温度)でない場合には、相変態の進行がさらに遅くなり、仕上圧延後から巻取までに相変態があまり進行しない。すなわち、巻取前の冷却温度量(何度冷却したか)と冷却時間ひいてはそれによる冷却速度が相変態の進行に大きく影響する。
【0013】
図3は、低炭素鋼としての590MPa級高張力鋼のTTT線図の一例を示す。図示のように低炭素鋼では、温度を820℃から640℃程度まで冷却すると、仕上圧延後4〜5sec.で相変態率30%のフェライトノーズに達し、さらに600℃程度まで冷却すると、仕上圧延後60sec.程度で相変態率70%のフェライトノーズに達する。ここに、tは仕上圧延後経過時間(sec.)、ΔTは仕上圧延後冷却温度量、Vcは仕上圧延後冷却速度(ΔT/t)である。すなわち、冷却時間と冷却温度と(合わせて冷却速度)によって相変態率が決まる。
【0014】
ところで、コイラー内でのコイルつぶれを抑制するためには、巻取後の相変態による体積膨張量をコイル外周部とコイル内周部とで同程度にすればよく、そのためには、巻取前にコイル外周部になる部分の相変態率をコイル内周部になる部分の相変態率と同程度にすればよい。これは、巻取前にコイル外周部になる部分の相変態率をコイル内周部になる部分の相変態率と同程度にして巻取後の体積膨張量をコイルの外周側と内周側とで同程度とすると、その体積膨張量はコイルの外周側では内周側よりも周方向長さの増加に使われるので、内周側よりも厚さの増加が少なくなってコイルの緩みが抑制され、これによりコイルつぶれを効果的に抑制することが可能となるからである。
【0015】
かかる知見に基づいて前記課題を解決する本発明の熱間圧延鋼板の製造方法の第1の態様は、
熱間圧延鋼板を熱間圧延機で熱間圧延した後に、これをホットランテーブル上で冷却し、コイラーで巻き取ってコイル状熱間圧延鋼板を製造するに際し、
前記熱間圧延鋼板を、熱間圧延機から送り出した直後のその熱間圧延鋼板の温度がその熱間圧延鋼板の長手方向に沿って一定となるように熱間圧延中にその熱間圧延鋼板の尾端側に行くほど冷却温度量を減らして冷却した後、熱間圧延機からホットランテーブル上に一定速度で送り出し、
その熱間圧延鋼板を、熱間圧延機からの送り出しからコイラーでの巻取までの間の冷却速度と冷却時間とがその熱間圧延鋼板の長手方向に沿って一定となる
とともに、巻取時にその熱間圧延鋼板の全長に亘りフェライト変態の変態率が60±10%となるようにホットランテーブル上で冷却することを特徴としている。
【0016】
また、本発明の熱間圧延鋼板の製造方法の第2の態様は、
熱間圧延鋼板を熱間圧延機で熱間圧延した後に、これをホットランテーブル上で冷却し、コイラーで巻き取ってコイル状熱間圧延鋼板を製造するに際し、
ホットランテーブルにラミナー冷却設備を設け、
前記熱間圧延鋼板を、熱間圧延機からホットランテーブル上に加速しながら送り出し、
その熱間圧延鋼板を、単位長さ当りの冷却温度量が前記送り出し速度の上昇に比例してその熱間圧延鋼板の長手方向に沿って増加して
冷却速度がその熱間圧延鋼板の全長に
亘り一定となり、この冷却速度を、送り出し速度とホットランテーブルの長さとの関係で、コイラーへの到達までに熱間圧延鋼板の先端部の温度がTTT線図でフェライトノーズ温度付近まで低下するように設定するとともに、熱間圧延鋼板の単位長さ毎に、圧延最高速度におけるラミナー冷却設備の最大冷却量から求めたその最大冷却量による冷却速度の最大値以下となるように設定し、
熱間圧延鋼板の単位長さ毎に、熱間圧延機の送り出し速度からラミナー冷却設備の通過速度を求め、その通過速度において前記設定した冷却速度になるように冷却温度量を求め、その求めた冷却温度量が達成できるようにラミナー冷却設備の冷却能力から冷却水量を決定
するという処理を行うことで、巻取時にその熱間圧延鋼板の全長に亘り相変態が終了するかまたは終了直前になるようにホットランテーブル上で冷却することを特徴としている。
【0017】
さらに、本発明の熱間圧延鋼板の製造方法の第3の態様
(参考態様)は、
熱間圧延鋼板を熱間圧延機で熱間圧延した後に、これをホットランテーブル上で冷却し、コイラーで巻き取ってコイル状熱間圧延鋼板を製造するに際し、
前記熱間圧延鋼板を、熱間圧延機からホットランテーブル上に加速しながら送り出し、
その送り出し速度の最低速度と最高速度とに対しそれぞれ、コイラーでの巻取時点で前記熱間圧延鋼板の相変態率が10%以下となるようにホットランテーブル上での中間温度目標および/またはコイラーでの巻取温度目標を設定し、それら温度目標に基づき前記熱間圧延鋼板をその送り出し速度に応じてホットランテーブル上で冷却することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱間圧延鋼板の製造方法の第1の態様(圧延速度一定方法)にあっては、熱間圧延鋼板を、熱間圧延機から送り出した直後のその熱間圧延鋼板の温度がその熱間圧延鋼板の長手方向に沿って一定となるように熱間圧延中に冷却した後、熱間圧延機からホットランテーブル上に一定速度で送り出し、その熱間圧延鋼板を、熱間圧延機からの送り出しからコイラーでの巻取までの間の冷却速度と冷却時間とがその熱間圧延鋼板の長手方向に沿って一定となるようにホットランテーブル上で冷却するので、コイラーでの巻取時に、コイル内周部になる熱間圧延鋼板の先端側は、コイル外周部になる熱間圧延鋼板の尾端側を巻き終わるまでに多少相変態が進行するものの、巻取後の相変態率にコイル外周部とコイル内周部とでさほど大きな差が無くなる。
【0019】
従って、この第1の態様によれば、コイラーでの巻取後にコイラー内でコイル状熱間圧延鋼板のコイル外周部とコイル内周部とにおいてそれぞれ相変態が進行してさほど差のない量の体積膨張が生じ、その際、コイルの外周側では内周側よりも周長が長いためその体積膨張量が周方向長さの増加に使われるので厚さの増加が少なくなる。その結果、コイル外周部に対するコイル内周側の相対的な厚さの増加によって、半径方向の面圧減少によるコイルの緩みが抑制されることから、コイラー内でのコイルつぶれの発生を抑制して生産性を向上させることができる。
【0020】
ここで、熱間圧延鋼板を、熱間圧延機から送り出した直後のその熱間圧延鋼板の温度がその熱間圧延鋼板の長手方向に沿って一定となるように熱間圧延中に冷却した後、熱間圧延機からホットランテーブル上に一定速度で送り出すには、例えば熱間圧延機のうちの仕上圧延機を構成する複数基の圧延スタンドでの圧延におけるベース速度(鋼板先端部の圧延速度)を上昇させるとともに圧延加速率をゼロとして送り出し速度を一定とする一方で、それらの圧延スタンド間での熱間圧延鋼板の冷却をコントロールしたり熱間圧延機のうちの粗圧延機で圧延中の粗バーの冷却をコントロールしたりすることによって、
上述のように、熱間圧延鋼板の尾端側に行くほど圧延中の冷却温度量を減ら
すこととし、これにより熱間圧延機から送り出した直後の熱間圧延鋼板の温度をその熱間圧延鋼板の長手方向に一定となるように
保つ。このようにすれば、ホットランテーブルでの冷却水量および冷却位置を固定としても、熱間圧延鋼板の全長に亘り一定の冷却速度と冷却時間ひいては巻取温度を確保することができる。
【0021】
また、本発明の熱間圧延鋼板の製造方法の第2の態様(冷却速度一定方法)にあっては、熱間圧延鋼板を、熱間圧延機からホットランテーブル上に加速しながら送り出し、その熱間圧延鋼板を、中間温度目標を用いずに、単位長さ当りの冷却温度量が前記送り出し速度の上昇に比例してその熱間圧延鋼板の長手方向に沿って増加してその熱間圧延鋼板の全長に亘り冷却速度が一定となりかつ巻取時にその熱間圧延鋼板の全長に亘り相変態が終了するかまたは終了直前、例えば好ましくは相変態率90%以上になるようにホットランテーブル上で冷却することから、尾端側に行くほど送り出し速度が速くなるため冷却時間が短くなるのに応じて、送り出し速度の上昇に比例して冷却温度量が多くなるので、冷却速度が熱間圧延鋼板の全長に亘り一定になり、この冷却速度を送り出し速度とホットランテーブルの長さとの関係で、コイラーへの到達までに熱間圧延鋼板の先端部の温度がTTT線図で相変態開始時間が最短のフェライトノーズ温度付近まで低下するように設定することで、コイラーでの巻取時には、熱間圧延鋼板の全長に亘り相変態が終了するかまたは終了直前になる。
【0022】
従って、この第2の態様によれば、コイラーでの巻取時にコイラー内でコイル状熱間圧延鋼板のコイル外周部とコイル内周部とにおいてそれぞれ相変態が殆ど終了しているため、巻取後に殆ど体積膨張が生じなくなる。その結果、半径方向の面圧減少によるコイルの緩みが抑制されることから、コイラー内でのコイルつぶれの発生を抑制して生産性を向上させることができる。
【0023】
ここで、熱間圧延鋼板を、単位長さ当りの冷却温度量が送り出し速度の上昇に比例してその熱間圧延鋼板の長手方向に沿って増加してその熱間圧延鋼板の全長に亘り冷却速度が一定となりかつ巻取時にその熱間圧延鋼板の全長に亘り相変態が終了するかまたは終了近くになるようにホットランテーブル上で冷却するには、
上述のように、熱間圧延鋼板を層流冷却水で水蒸気を介さず直接冷却するラミナー(層流)冷却設備をホットランテーブルに設け、圧延最高速度におけるラミナー冷却設備の最大冷却量からその最大冷却量による冷却速度の最大値を求め、その最大値以下となるように熱間圧延鋼板の冷却速度を設定し、仕上圧延機の出側速度すなわち送り出し速度からラミナー冷却設備の通過速度を求め、その通過速度において上記設定した冷却速度になるように冷却温度量を求め、その求めた冷却温度量が達成できるようにラミナー冷却設備の冷却能力から冷却水量を決定する、という処理を熱間圧延鋼板の全長について行い、全長の冷却速度を一定
とする。
【0024】
さらに、本発明の熱間圧延鋼板の製造方法の第3の態様(
参考態様:変態率低下方法)にあっては、熱間圧延鋼板を、熱間圧延機からホットランテーブル上に加速しながら送り出し、その送り出し速度の最低速度と最高速度とに対しそれぞれ、コイラーでの巻取時点で前記熱間圧延鋼板の相変態率が10%以下となるようにホットランテーブル上での中間温度目標および/またはコイラーでの巻取温度目標を設定し、それらの温度目標に基づき前記熱間圧延鋼板をその送り出し速度に応じてホットランテーブル上で冷却することから、コイラーでの巻取時点で熱間圧延鋼板の相変態率がその全長に亘り10%以下となって、巻取後に熱間圧延鋼板がその全長に亘り相変態することになる。
【0025】
従って、この第3の態様
(参考態様)によれば、コイラーでの巻取後にコイラー内でコイル状熱間圧延鋼板のコイル外周部とコイル内周部とにおいてそれぞれ相変態が進行してほぼ等しい量の体積膨張が生じ、その際、コイルの外周側では内周側よりも周長が長いためその体積膨張量が周方向長さの増加に使われるので厚さの増加が少なくなる。その結果、コイル外周部に対するコイル内周側の相対的な厚さの増加によって、半径方向の面圧減少によるコイルの緩みが抑制されることから、コイラー内でのコイルつぶれの発生を抑制して生産性を向上させることができる。
【0026】
ここで、コイラーでの巻取時点で前記熱間圧延鋼板の相変態率が10%以下となるようにするには、例えばホットランテーブル上での中間温度目標および/またはコイラーでの巻取温度目標をTTT線図に基づきフェライトノーズ温度よりも極力高く設定することで、相変態の開始を巻取時点まで遅らせれば良い。
【0027】
本発明の熱間圧延鋼板の製造方法の、
参考態様を含む上記第1〜第3の態様は何れも特に、C:0.25質量%以下(0質量%を含まず)、Mn:1.5質量%〜2.7質量%およびSi:1.5質量%以下(0質量%を含まず)を添加した熱間圧延鋼板の製造の際に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】通常の熱間圧延ラインの概略を示す構成図である。
【
図2】中炭素鋼および中炭素・高Mn鋼の相変態を例示する関係線図である。
【
図3】低炭素鋼の仕上圧延後経過時間と温度と相変態率(%)との関係を例示するTTT線図である。
【
図4】本発明の熱間圧延鋼板の製造方法の実施例を適用する、
図1に示す熱間圧延ラインのホットラン冷却設備を示す構成図である。
【
図5】本発明の熱間圧延鋼板の製造方法の
、参考態様を含む三つの態様における熱間圧延鋼板の先端部(TOP)と尾端部(BOT)の相変態率およびそれらの差を示す関係線図である。
【
図6】
参考態様を含む上記三つの態様のうち圧延速度一定の態様を示す概念図であり、(a)は圧延速度一定の状態、(b)は冷却速度一定の状態、(c)は冷却温度一定の状態をそれぞれ熱間圧延鋼板の先端部(TOP)から尾端部(BOT)まで示す。
【
図7】
参考態様を含む上記三つの態様のうち冷却速度一定の態様を示す概念図であり、(a)は圧延速度加速の状態、(b)は冷却速度一定の状態、(c)は冷却温度量増加の状態をそれぞれ熱間圧延鋼板の先端部(TOP)から尾端部(BOT)まで示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。ここに、
図4は、この発明の熱間圧延鋼板の製造方法の
、参考態様を含む上記三つの態様のそれぞれの一実施形態を適用する通常の熱間圧延ラインの概略を示す構成図であり、ここにおける熱間圧延ラインでも、加熱炉1において所定温度に加熱したスラブを粗圧延機2で圧延して粗バーとなし、ついでこの粗バーを複数基の圧延スタンドからなる連続熱間仕上圧延機3において所定の厚みの熱間圧延(熱延)鋼板4とする。そして、この熱延鋼板4を、ホットランテーブル(HRT)に設置した冷却装置5で上方および下方から供給する冷却水によって冷却した後、張力を付与しながらコイラー6で巻き取り、コイル状熱延鋼板(コイル)7とする。
【0030】
コイラー6によって熱延鋼板4を巻き取る際に、熱延鋼板4にその長手方向に付与する張力は、巻取後のコイル状熱延鋼板(コイル)7内では半径方向の面圧として作用し、鋼板層間に摩擦力を発生させる。それにより、鋼板のすべりを抑制し、コイル7の剛性を高めている。
【0031】
ところで、コイルつぶれの発生が確認されている鋼の添加元素とは、C:0.25質量%以下(0質量%を含まず)、Mn:1.5質量%〜2.7質量%、Si:1.5質量%以下(0質量%を含まず)であり、特に、Mnを1.5質量%以上と多量に添加している。これらは他の鋼種に比べて相変態の進行が遅く、コイルつぶれが発生しやすい条件となっている。このため、本発明の熱間圧延鋼板の製造方法の三つの態様P1,P2,P3
(参考態様)は、上記の鋼種に適用する。なお、
図2,3に例示するように、相変態温度と目標加工温度とは材料によって異なるので、材料に応じてこれら三つの態様を使い分けると好ましい。
【0032】
コイルつぶれを十分抑制するためには、前述のように巻取前の相変態制御によってコイラー6内でのコイル7の外周部の相変態率を内周部の相変態率と同程度とすることが重要であり、相変態率は、例えば本願出願人が先に特開平08−062181号や特開平09−049017号にて開示した、熱延鋼板の透磁率の変化を利用した変態率計等の変態率計により、オンラインでの測定による確認が可能である。
【0033】
図5は、コイラー6内でのコイル7の外周部の相変態率を内周部の相変態率と同程度とするための本発明の熱間圧延鋼板の製造方法の三つの態様P1,P2,P3における熱間圧延鋼板の先端部(TOP)と尾端部(BOT)の相変態率およびそれらの差を示す関係線図であり、また、以下の表1は、上記三つの態様P1,P2,P3
(参考態様)の内容をそれぞれ示すものである。
【0035】
ここに、TOPは熱延鋼板先端部の略称であり、BOTは熱延鋼板尾端部の略称である。なお、ここでいう熱延鋼板先端部とは熱延鋼板の最先端から10m程度の長さ範囲までの部位を意味し、熱延鋼板尾端部とは熱延鋼板の最尾端から10m程度の長さまでの部位を意味する。
【0036】
図5および表1に示すように本発明の第1の態様P1は、TOPとBOTとの間の相変態率差を減少させることで、コイラー6内でのコイル7の外周部の相変態率を内周部の相変態率と同程度とするものであり、そのために一定速度の仕上圧延により、仕上圧延機3からの送り出しを一定速度で行っている。
【0037】
図6は、その第1の態様P1の一実施形態を示す概念図であり、熱間圧延鋼板の先端部(TOP)から尾端部(BOT)までについて、(a)に圧延速度一定の状態、(b)に冷却速度一定の状態、(c)に冷却温度一定の状態をそれぞれ示す。これらの図から明らかなように第1の態様P1のこの実施形態では、熱間圧延鋼板4を、熱間圧延機としての連続熱間仕上圧延機3から送り出した直後のその熱間圧延鋼板4の温度がその熱間圧延鋼板4の長手方向に沿って一定となるように、連続熱間仕上圧延機3での熱間圧延中に冷却した後、連続熱間仕上圧延機3から図示しないホットランテーブル(HRT)上に圧延速度に等しい一定速度Vで送り出し、その熱間圧延鋼板4を、連続熱間仕上圧延機3からの送り出しからコイラー6での巻取までの間の冷却速度Vcと冷却時間tとがその熱間圧延鋼板4の長手方向に沿って一定となるようにHRT上で冷却する。
【0038】
ここで、熱間圧延鋼板4を、連続熱間仕上圧延機3から送り出した直後のその熱間圧延鋼板4の温度がその熱間圧延鋼板4の長手方向に沿って一定となるように熱間圧延中に冷却した後、連続熱間仕上圧延機3からHRT上に一定速度で送り出すには、この実施形態では、連続熱間仕上圧延機3を構成する複数基の圧延スタンドでの圧延におけるベース速度(鋼板先端部の圧延速度)を上昇させるとともに、圧延加速率をゼロとして送り出し速度を一定とする一方で、それらの圧延スタンド間での熱間圧延鋼板4の冷却をコントロールすることによって、熱間圧延鋼板4の尾端側に行くほど圧延中の冷却温度量を減らして、連続熱間仕上圧延機3から送り出した直後の熱間圧延鋼板4の温度をその熱間圧延鋼板4の長手方向に一定となるように保つ。これにより、HRTでの冷却水量および冷却位置を固定としても、熱間圧延鋼板4の全長に亘り一定の冷却速度と冷却時間ひいては巻取温度を確保することができる。
【0039】
従って、この第1の態様P1によれば、コイラー6での巻取時に、コイル7の内周部になる熱間圧延鋼板4の先端側は、コイル7の外周部になる熱間圧延鋼板4の尾端側を巻き終わるまでに多少相変態が進行するものの、巻取後の相変態率にコイル7の外周部と内周部とでさほど大きな差が無くなることから、コイラー6での巻取後にコイラー6内でコイル状熱間圧延鋼板7のコイル外周部とコイル内周部とにおいてそれぞれ相変態が進行してさほど差のない量の体積膨張が生じ、その際、コイル7の外周側では内周側よりも周長が長いためその体積膨張量が周方向長さの増加に使われるので厚さの増加が少なくなる。その結果、コイル外周部に対するコイル内周側の相対的な厚さの増加によって、半径方向の面圧減少によるコイル7の緩みが抑制されることから、コイラー6内でのコイルつぶれの発生を抑制して生産性を向上させることができる。
【0040】
また、
図5および表1に示すように本発明の第2の態様P2は、一定の冷却速度での冷却により熱間圧延鋼板4の全体の相変態率を増加させることで、コイラー6内でのコイル7の外周部の相変態率を内周部の相変態率と同程度とするものであり、そのために高冷却能力の冷却設備を活用し、冷却温度の低温化を図っている。
【0041】
図7は、その第2の態様P2の一実施形態を示す概念図であり、熱間圧延鋼板の先端部(TOP)から尾端部(BOT)までについて、(a)に圧延速度加速の状態、(b)に冷却速度一定の状態、(c)に冷却温度量増加の状態をそれぞれ示す。これらの図から明らかなように第2の態様P2のこの実施形態では、熱間圧延鋼板4を、熱間圧延機としての連続熱間仕上圧延機3からHRT上に加速しながら送り出し、その熱間圧延鋼板4を、中間温度目標を用いずに、単位長さ当りの冷却温度量が送り出し速度の上昇に比例してその熱間圧延鋼板4の長手方向に沿って増加してその熱間圧延鋼板4の全長に亘り冷却速度が一定となりかつ巻取時にその熱間圧延鋼板4の全長に亘り相変態が終了するかまたは終了直前、すなわちここでは相変態率90%以上になるようにHRT上で冷却する。
【0042】
ここで、熱間圧延鋼板4を、単位長さ当りの冷却温度量が送り出し速度の上昇に比例してその熱間圧延鋼板4の長手方向に沿って増加してその熱間圧延鋼板4の全長に亘り冷却速度が一定となりかつ巻取時にその熱間圧延鋼板4の全長に亘り相変態が終了するかまたは終了直前、すなわち相変態率90%以上になるようにHRT上で冷却するには、この実施形態では、熱間圧延鋼板4を層流冷却水で水蒸気を介さず直接冷却するラミナー(層流)冷却設備であって高冷却能力のものをHRTに設け、熱間圧延鋼板4の単位長さ毎に、圧延最高速度におけるラミナー冷却設備の最大冷却量からその最大冷却量による冷却速度の最大値を求め、その最大値以下となるように熱間圧延鋼板4の冷却速度を設定し、仕上圧延機3の出側速度すなわち送り出し速度からラミナー冷却設備の通過速度を求め、その通過速度において上記設定した冷却速度になるように冷却温度量を求め、その求めた冷却温度量が達成できるようにラミナー冷却設備の冷却能力から冷却水量を決定する、という処理を熱間圧延鋼板4の全長について行う。
【0043】
従って、この第2の態様P2によれば、熱間圧延鋼板4の尾端側に行くほど送り出し速度が速くなるため冷却時間が短くなるのに応じて、送り出し速度の上昇に比例して冷却温度量が多くなるので、冷却速度が熱間圧延鋼板4の全長に亘り一定になり、この冷却速度を、送り出し速度とHRTの長さとの関係で、コイラー6への到達までに熱間圧延鋼板4の先端部の温度がTTT線図で相変態開始時間最短のフェライトノーズ温度付近まで低下するように設定することで、コイラー6での巻取時には、熱間圧延鋼板4の全長に亘り相変態が終了するかまたは終了直前になるようにでき、これにより、コイラー6での巻取時にコイラー6内でコイル状熱間圧延鋼板7のコイル外周部とコイル内周部とにおいてそれぞれ相変態が殆ど終了しているため、巻取後に殆ど体積膨張が生じなくなる。その結果、半径方向の面圧減少によるコイル7の緩みが抑制されることから、コイラー6内でのコイルつぶれの発生を抑制して生産性を向上させることができる。
【0044】
そして、
図5および表1に示すように本発明の第3の態様P3
(参考態様)は、熱間圧延鋼板4の全体の相変態率を減少させることで、コイラー6内でのコイル7の外周部の相変態率を内周部の相変態率と同程度とするものであり、そのために冷却温度の高温化を図っている。
【0045】
このため第3の態様P3のこの実施形態では、熱間圧延鋼板4を、熱間圧延機としての連続熱間仕上圧延機3からHRT上に加速しながら送り出し、その送り出し速度の最低速度と最高速度とに対しそれぞれ、コイラー6での巻取時点で熱間圧延鋼板6の相変態率が10%以下となるようにHRT上での中間温度目標および/またはコイラー6での巻取温度目標を設定し、それらの温度目標に基づき熱間圧延鋼板4をその送り出し速度に応じてHRT上で冷却することから、コイラー6での巻取時点で熱間圧延鋼板4の相変態率がその全長に亘り10%以下となって、巻取後に熱間圧延鋼板4がその全長に亘り相変態することになる。
【0046】
ここで、コイラー6での巻取時点で熱間圧延鋼板4の相変態率が10%以下となるようにするには、この実施形態ではHRT上での中間温度目標および/またはコイラー6での巻取温度目標を、TTT線図に基づきフェライトノーズ温度よりも極力高く設定することで、相変態の開始を巻取時点まで遅らせる。
【0047】
従って、この第3の態様によれば、コイラー6での巻取後にコイラー6内でコイル状熱間圧延鋼板7のコイル外周部とコイル内周部とにおいてそれぞれ相変態が進行してほぼ等しい量の体積膨張が生じ、その際、コイルの外周側では内周側よりも周長が長いためその体積膨張量が周方向長さの増加に使われるので厚さの増加が少なくなる。その結果、コイル外周部に対するコイル内周側の相対的な厚さの増加によって、半径方向の面圧減少によるコイル7の緩みが抑制されることから、コイラー6内でのコイルつぶれの発生を抑制して生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0048】
次に、本実施形態に基づく実施例を、
図1に示す熱間圧延鋼板の製造ラインの
図4に示すホットラン冷却設備において、熱延鋼板4の冷却を行う場合について説明する。このホットラン冷却設備では、仕上温度計8を仕上圧延機3の出口近傍に、また中間温度計9を仕上圧延機3からコイラー6までの距離の圧延機側1/5〜1/2の位置のうち、冷却装置5を設けたHRTのテーブル長の仕上圧延機3側1/3の位置に、そして巻取温度計10をコイラー6の近傍にそれぞれ設置しており、さらに確認のために変態率計11を、巻取温度計10と同じ場所に設置している。この変態率計11は上述のように、例えば熱延鋼板4の透磁率の変化を利用したものとすることができる。
【0049】
このホットラン冷却設備を用い、その冷却装置5の作動条件(熱延鋼板4に供給する冷却水の温度や水量等)を制御することにより、以下の実施例1
,2および参考例の製造方法でそれぞれ熱延鋼板を製造した。実施例1の製造方法は、上記第1の態様P1を実施するものであり、この実施例1は、適用材を、C:0.15質量%、Mn:2.0質量%、その他の元素は相変態挙動に影響を与えない程度の微小量である高Mn中炭素鋼種で板厚2.9mmの熱延鋼板とし、適用設備/適用工程/適用作業を、仕上圧延速度一定、仕上圧延加速率0.0mpm/sec.、HRT上での冷却装置5の冷却制御も一定とし、操業条件/加工条件を、仕上出側温度870℃、巻取温度600℃としている。
【0050】
また、実施例2の製造方法は、上記第2の態様P2を実施するものであり、この実施例2は、操業条件のみ実施例1と異なり、仕上圧延加速率15mpm/sec.としている。そして
参考例の製造方法は、上記第3の態様P3を実施するものであり、この
参考例は、適用材を、C:0.005質量%以下、Mn:2.0質量%、その他の元素は相変態挙動に影響を与えない程度の微小量である高Mn低炭素鋼種で板厚3.2mmの熱延鋼板とし、適用設備/適用工程/適用作業を、仕上圧延加速率8.0mpm/sec.とし、操業条件/加工条件を、仕上出側温度890℃、巻取温度640℃としている。なお、コイル内径は750mm、相変態率は変態率計11で測定した結果、実施例1では熱延鋼板4の全長に亘り60%±10%以内、実施例2では熱延鋼板4の全長に亘り100%−10%以内、
参考例では熱延鋼板4の全長に亘り0%+10%以内であった。
【0051】
従来方法で製造したコイル7では、コイルつぶれの発生を抑制するためのコイラー6内での水冷時間は10秒であったのに対し、上記実施例1〜3でそれぞれ製造したコイル7では、コイルつぶれの発生を抑制するためのコイラー6内での水冷時間は0秒であった。すなわち、コイラー6内での水冷なしでもコイルつぶれの発生はなかった。
【0052】
上述した結果から明らかなように本発明の上記
二種類の態様
および参考態様の熱間圧延鋼板の製造方法によれば何れも、巻取後に半径方向の面圧減少によるコイルの緩みが抑制されることから、コイラー内でのコイルつぶれの発生を抑制して生産性を向上させることができる。
【0053】
以上、図示例に基づき説明したが、本発明は上述の例の限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものであり、例えば、上記第1の態様P1では、連続熱間仕上圧延機3から送り出した直後の熱間圧延鋼板4の温度をその熱間圧延鋼板4の長手方向に一定となるように保つのに、熱間圧延機のうちの粗圧延機2で圧延中の粗バーの冷却をコントロールすることによって熱間圧延鋼板4の尾端側に行くほど圧延中の冷却温度量を減らしても良い。
【0054】
また、上記第2の態様P2では、HRT上での熱間圧延鋼板4の冷却速度を一定とするのに通常のラミナー冷却設備で冷却能力が足りれば、特に高冷却能力のラミナー冷却設備を用いず通常のラミナー冷却設備を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0055】
かくして本発明の熱間圧延鋼板の製造方法によれば、コイラーでの巻取後に、半径方向の面圧減少によるコイルの緩みが抑制されることから、コイラー内でのコイルつぶれの発生を抑制して生産性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0056】
1 加熱炉
2 粗圧延機
3 仕上圧延機
4 熱延鋼板
5 冷却装置
6 コイラー
7 コイル状熱延鋼板(コイル)
8 仕上温度計
9 中間温度計
10 巻取温度計
11 相変態率計