特許第6015954号(P6015954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 伊東 敏夫の特許一覧

特許6015954電磁誘導型検査装置及び電磁誘導型検査方法
<>
  • 特許6015954-電磁誘導型検査装置及び電磁誘導型検査方法 図000002
  • 特許6015954-電磁誘導型検査装置及び電磁誘導型検査方法 図000003
  • 特許6015954-電磁誘導型検査装置及び電磁誘導型検査方法 図000004
  • 特許6015954-電磁誘導型検査装置及び電磁誘導型検査方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015954
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】電磁誘導型検査装置及び電磁誘導型検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/90 20060101AFI20161013BHJP
   G01V 3/10 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   G01N27/90
   G01V3/10 F
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-183248(P2013-183248)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-49224(P2015-49224A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】509211594
【氏名又は名称】伊東 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】伊東 敏夫
【審査官】 佐々木 龍
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−236670(JP,A)
【文献】 特開昭62−067484(JP,A)
【文献】 特開平01−248050(JP,A)
【文献】 特開2001−255305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72−27/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流磁場に導電性の検査対象物を配置して電磁誘導による当該交流磁場の変化を検出することで当該検査対象物の検査を行う電磁誘導型検査装置であって、
前記交流磁場を生成する励磁コイルと、
前記検査対象物によって変化した交流磁場を検知する検知コイルと、
前記検知コイルにより検知された電気信号の波形を基本波と複数の高調波成分とに分解する解析手段と、
前記解析手段により分解された前記基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との振幅比を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された複数の振幅比と、予め記憶されている前記検査対象物の基準となる基準物の基本波の振幅と前記各高調波成分と対応する各高調波成分のそれぞれの振幅との複数の振幅比とをそれぞれ比較して波形の歪みを評価することにより前記検査対象物の判定を行う判定手段と、を備えることを特徴とする電磁誘導型検査装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記解析手段により分解された基本波及び各高調波成分のうち、検査に必要な第n次までの高調波成分を選出して、この選出した基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との各振幅比を算出し、
前記判定手段は、前記算出手段により算出された各振幅比と、予め記憶されている前記基準物の基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との各振幅比とを比較して前記検査対象物の判定を行うことを特徴とする請求項1記載の電磁誘導型検査装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記基準物の各振幅比についてそれぞれ所定の評価範囲を設定しておき、前記算出手段により算出された振幅比が、対応する前記基準物における振幅比の評価範囲内にあるか否かを比較することで、前記検査対象物の判定を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の電磁誘導型検査装置。
【請求項4】
交流磁場に導電性の検査対象物を配置して電磁誘導による当該交流磁場の変化を検出することで当該検査対象物の検査を行う電磁誘導型検査方法であって、
励磁コイルにより前記交流磁場を生成する交流磁場生成ステップと、
検知コイルにより前記検査対象物を介して変化した交流磁場を検知する交流磁場検知ステップと、
前記検知コイルにより検知された電気信号の波形を基本波と複数の高調波成分とに分解する解析ステップと、
前記分解された基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との振幅比を算出する算出ステップと、
前記算出ステップにて算出された複数の振幅比と、予め記憶されている前記検査対象物の基準となる基準物の基本波の振幅と前記各高調波成分と対応する各高調波成分のそれぞれの振幅との複数の振幅比とをそれぞれ比較して波形の歪みを評価することにより前記検査対象物の判定を行う判定ステップと、
を有することを特徴とする電磁誘導型検査方法。
【請求項5】
前記算出ステップでは、前記解析ステップにて分解された基本波及び各高調波成分のうち、検査に必要な第n次までの高調波成分を選出して、この選出した基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との振幅比を算出し、
前記判定ステップでは、前記算出ステップにて算出された各振幅比と、予め記憶されている前記基準物の基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との振幅比とを比較して前記検査対象物の判定を行うことを特徴とする請求項4記載の電磁誘導型検査方法。
【請求項6】
前記判定ステップでは、前記基準物の各振幅比についてそれぞれ所定の評価範囲を設定しておき、前記算出ステップにて算出された各振幅比が、対応する前記基準物の各振幅比の評価範囲内にあるか否かを比較することで、前記検査対象物の判定を行うことを特徴とする請求項4又は5記載の電磁誘導型検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象物の物性的な違い等を高調波の成分比を用いて判定する電磁誘導型検査装置及び電磁誘導型検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から検査対象物を破壊することなく検査等を行う非破壊検査装置として、電磁誘導を利用する渦流探傷検査が知られている。渦流探傷検査は、導電性を有する検査対象物に対し渦電流を誘起させて、当該渦電流の変化を検出することで、検査対象物におけるクラックの検出や、形状、材質、寸法等の差異の検出等を行うものである。しかしながら渦流探傷検査は、電流、磁束の表皮効果作用によって検査対象物の深部までは渦電流が浸透せず、深部の情報までは得ることが難しいという課題が有り、また、渦電流法では、検査対象物の表面状態や、検査対象物と検査センサ間の距離(リフトオフ)が検出感度に大きく影響を与えるという課題も有している。
【0003】
そこで、電磁誘導を利用する電磁誘導型検査装置として、交流電流により同等の磁力線をもつ対の交流磁場を形成し、対の交流磁場の内の一方に導電性の被検査物(検査対象物)を配置して検査を行うものがある(特許文献1参照)。特許文献1の電磁誘導型検査装置では、対の交流磁場間で電磁誘導により生じる誘導電流の変化量を示す電気信号を計測し、当該電気信号から透磁率を示す電気信号及び電気抵抗率を示す電気信号を検出してこれら2つの電気信号を合成することにより情報を得ることで検査を行う。
【0004】
この特許文献1の電磁誘導型検査装置は、透磁率及び電気抵抗率を検出して合成することで、被検査物の磁気的な特性と電気的な特性とを含む信号波形の情報により表面だけでなく内部についても正確に、かつ、精度の高い検査を可能と称している。
具体的には、特許文献1に記載の技術は、計測して得られた電気信号の位相及び振幅を透磁率及び電気抵抗率を示す電気信号としており、これらの電気信号と標準試料(正常な被検査物)の検査結果と比較することで判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−54375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように電気信号の位相及び振幅等から被検査物と標準試料との比較による検査を正確に行う為には再現性が要求され、特に電気的には信号の値の再現性が不可欠となり、その再現性を確保する為には励磁電流すなわち交流磁場の安定性が要求される。そのため、例えば励磁電流の定電流化又は交流磁場から誘導電流を検知してフィードバック制御し磁場の安定化を図ることが必要となる。また、被検査物の検査位置や配置姿勢等によっても検知される結果が変化する為に、被検査物の検査位置や配置姿勢にも正確性、再現性が要求される。
【0007】
また、特許文献1において電気信号の位相及び振幅を透磁率及び電気抵抗率を示す電気信号と定義しているように、検知した電気信号を定義付けすることにより、定義付けに適合した調整手段も重要となる。また、同様にコイルの構成にも定義付けに適合した信号を取り出すための工夫が必要となる。さらに交流磁場を検知するセンサ部と被検査物との間には、位置関係の他に、被検査物の表面の状態、物理的な大きさ、移動速度等様々な要素が計測の精度や再現性に影響を与えることとなる。
【0008】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、前述した様な磁気的且つ位置的な高い再現性を必要とすることなく、より正確に検査対象物の検査を行うことが可能な電磁誘導型検査装置及び電磁誘導型検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(装置の発明)
交流磁場に導電性の検査対象物を配置して電磁誘導による当該交流磁場の変化を検出することで当該検査対象物の検査を行う電磁誘導型検査装置であって、前記交流磁場を生成する励磁コイルと、前記検査対象物によって変化した交流磁場を検知する検知コイルと、前記検知コイルにより検知された電気信号の波形を基本波と複数の高調波成分とに分解する解析手段と、前記解析手段により分解された前記基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との振幅比を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された振幅比と、予め記憶されている前記検査対象物の基準となる基準物の基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との振幅比とを比較して前記検査対象物の判定を行う判定手段と、を備えることを特徴としている。
【0010】
前記算出手段は、前記解析手段により分解された基本波及び各高調波成分のうち、検査に必要な第n次までの高調波成分を選出して、この選出した基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との各振幅比を算出し、前記判定手段は、前記算出手段により算出された各振幅比と、予め記憶されている前記基準物の基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との各振幅比とを比較して前記検査対象物の判定を行う。
【0011】
前記判定手段は、前記基準物の各振幅比についてそれぞれ所定の評価範囲を設定しておき、前記算出手段により算出された振幅比が、対応する前記基準物における振幅比の評価範囲内にあるか否かを比較することで、前記検査対象物の判定を行う。
【0012】
(方法の発明)
また、本発明に係る電磁誘導型検査方法は、交流磁場に導電性の検査対象物を配置して電磁誘導による当該交流磁場の変化を検出することで当該検査対象物の検査を行う電磁誘導型検査方法であって、励磁コイルにより前記交流磁場を生成する交流磁場生成ステップと、検知コイルにより前記検査対象物を介して変化した交流磁場を検知する交流磁場検知ステップと、前記検知コイルにより検知された電気信号の波形を基本波と複数の高調波成分とに分解する解析ステップと、前記分解された基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との振幅比を算出する算出ステップと、前記算出ステップにて算出された振幅比と、予め記憶されている前記検査対象物の基準となる基準物の基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との振幅比とを比較して前記検査対象物の判定を行う判定ステップと、を有することを特徴としている。
【0013】
前記算出ステップでは、前記解析ステップにて分解された基本波及び各高調波成分のうち、検査に必要な第n次までの高調波成分を選出して、この選出した基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との振幅比を算出し、前記判定ステップでは、前記算出ステップにて算出された各振幅比と、予め記憶されている前記基準物の基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との振幅比とを比較して前記検査対象物の判定を行う。
【0014】
基本波の振幅と各高調波成分のそれぞれの振幅との振幅比の算出は、(基本波の振幅値):(第2高調波の振幅値)、(基本波の振幅値):(第3高調波の振幅値)、・・・(基本波の振幅値):(第n高調波の振幅値)、を求めることであり、振幅比の算出手法は、基本波振幅値÷第n高調波振幅値、又は、第n高調波振幅値÷基本波振幅値のいずれかの適合となるが、第n高調波振幅値÷基本波振幅値を基本とするのが好ましい。また第n高調波の「n」(nは2以上の整数)の値をいくつまでにするかは、そのときのシステムの目的に適合させるのが好ましい。
【0015】
前記判定ステップでは、前記基準物の各振幅比についてそれぞれ所定の評価範囲を設定しておき、前記算出ステップにて算出された各振幅比が、対応する前記基準物の各振幅比の評価範囲内にあるか否かを比較することで、前記検査対象物の判定を行う。
【発明の効果】
【0016】
上記手段を用いる本発明によれば、励磁コイルにより交流磁場を発生させ、検知コイルにより検査対象物を介して変化した交流磁場を検知し、当該交流磁場を示す交流信号を基本波と複数の高調波成分とに分解することで、当該交流信号の波形の歪みを含め、基本波と高調波成分ごとに分けて定量化する。そして、特に検査の評価・判定に関わる必要な高調波成分を選出し、基本波と選出した各高調波成分との振幅比を算出して、予め記憶されている前記検査対象物の基準となる振幅比とを比較することで検査対象物の評価・判定を行う。
【0017】
検知コイルにより検知される交流信号は検査対象物により波形に歪みを生じる。この歪成分を含め、基本波と各高調波成分とに分解し、基本波と各高調波成分との振幅比を用いることによって、コイルの巻き斑による磁界強度の斑や検知感度の斑、また増幅器の増幅度及びこれらに類似するアナログ系の経時変化による感度の変化等の再現性への影響を軽減することができる。これにより検査の精度を容易に安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る電磁誘導型検査装置の全体構成図である。
図2図2(a)は本発明の一実施形態に係るセンサの形状例を示す正面図、図2(b)は図2(a)のA−A線に沿う断面図、図2(c)はセンサの別の形状例を示す正面図、である。
図3】本発明の一実施形態に係る関連波形として図3(a)は励磁コイルへの交流電流波形fa、図3(b)は検知コイルにおける誘導電流波形f、図3(c)は誘導電流波形を検知信号波形fとし、その周波数成分のうち基本波f1と第2高調波f2と第3高調波f3とに分解した波形、を示す。
図4】信号波をその基本波及び基本波のn倍の周波数成分をもった各高調波成分の振幅を示す説明図(ここではnを2、3とした場合を例示)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1には本発明の一実施形態に係る電磁誘導型検査装置の全体構成図がブロック図で示されている。図1に示すように、電磁誘導型検査装置1は、大別すると検出部10、算出・解析部20(算出手段、解析手段)、制御部30(判定手段)により構成されている。
【0020】
検出部10は電磁誘導により検査対象物Tの電気的・磁気的特性を電気的に検知する部分であり、具体的には発振器11、センサ12、増幅器13により構成されている。
センサ12は、励磁コイル12aと検知コイル12bとからなる。励磁コイル12aは交流電流を受けて励磁して交流磁場を生成し、当該交流磁場内に配置されている検知コイル12bは励磁コイル12aの励磁にともなう電磁誘導により誘導電流及び誘導起電力が生じることで検知を行うものである。検知コイル12bは、交流磁場内に検査対象物Tが存在する場合には、検査対象物Tを介して変化する交流磁場を検知することとなる。
【0021】
センサ12の形状は検査対象物Tに応じて設定されるものである。例えば図2を参照すると、図2(a)にはセンサ形状の一例を示す正面図、図2(b)には図2(a)のA−A線に沿う断面図、図2(c)にはセンサ形状の別例を示す正面図がそれぞれ示されている。
検査対象物Tが棒状である場合には、図2(a)、(b)に示すように、円筒状のセンサ12を用いるのが好ましい。図2(a)、(b)のセンサ12は、磁気抵抗の極めて小さい円筒状のコア(例えば継鉄)12cの外周面に沿って励磁コイル12aが巻回されており、コア12cの内周面に沿って検知コイル12bが巻回されている。このように全体として円筒状をなすセンサ12は、内孔部分に検査対象物Tを挿入し、励磁コイル12aにより交流磁場を発生させて、検知コイル12bにより誘導電流等を検知する。
【0022】
センサ12の形状はこれに限られるものではなく検査対象物Tの形状等に合わせたものを用いる。例えば、検査対象物Tが板状であれば、図2(c)に示すような四角筒状のセンサ12’を用いるのが好ましい。コア部分についても継鉄に限られるものではなく、例えばフェライトコアやケイ素鋼等であってもよい。コア部分の形状は筒形状に限られるものではなく、棒状のコアであってよい。特にコア部分を設けない空芯コイルとしたり、コイルを形作るケーシング機能のみのコア部分を設けて磁気的な空芯状態としてもよい。また、励磁コイルと検知コイルの関係はどちらが内側、外側の特定はなくその都度適合させることが肝要である。
【0023】
励磁コイル12aと接続されている発振器11は、励磁コイル12aに対し交流電流を供給するものである。当該交流電流は、例えば正弦波電流であり、当該正弦波電流の周波数、振幅は検査対象物Tの特性、形状、検査目的に応じて定められる。
検知コイル12bと接続されている増幅器13は、検知コイル12bにて発生した誘導電流を示す検知信号を、後述する算出・解析部20における処理に必要なレベルに増幅するものである。なお、検知信号を減衰させる場合には、当該増幅器13に代えて減衰器を設けてもよい。増幅器13の入力・出力間においては信号の相似性が保たれていることが必須である。
【0024】
算出・解析部20は、検出部10において検知した検知信号の変換、分解処理等を行う部分であり、A/D(アナログ/デジタル)変換器21、記憶部22、信号処理部23により構成されている。検知した波形信号の確定手段として、オシロスコープ等を用いることは一つの方法である。
【0025】
増幅器13と接続されているA/D変換器21は、増幅器13からアナログの交流信号として入力されるデータをデジタルデータに変換(量子化)するものである。A/D変換器21としては、例えば逐次比較型高速A/D変換器を用いる。
A/D変換器21と接続されている記憶部22は、A/D変換器21において変換されたデジタルデータを一時的に記憶するものである。また、記憶部22は、他の部(後述する信号処理部23、判定部31、設定部33等)の記憶部としても用いられる。
【0026】
記憶部22と接続されている信号処理部23は、記憶部22に記憶されたデジタルデータを演算処理するものである。具体的には信号処理部23は、入力されたデジタルデータをFFT(Fast Fourier Transform)処理(フーリエ級数展開を目的とした処理)して、基本波と複数の高調波成分とに分解する。FFT処理を用いることは、高調波成分の分解を高速に行うことを目的としている。
【0027】
続いて制御部30は、算出・解析部20において分解された基本波と各高調波成分に基づき検査対象物Tの判定や評価を行うとともに、得られた結果や設定操作に応じて各種装置の設定等を行う部分であり、判定部31、表示部32、設定部33、操作部34、電源部35、及び入出力部36により構成されている。制御部30は、具体的にはハード機構やソフト面の充実、且つコストパフォーマンスの点からもパーソナルコンピュータを用いるのがより効率的である。
【0028】
信号処理部23と接続されている判定部31は、信号処理部23において分解された基本波と複数の高調波成分のうち、検査に必要な高調波成分を選出して、選出したそれぞれの高調波成分の振幅と基本波の振幅との振幅比を算出する。判定部31には、予め検査対象物Tと同種の基準物となり得る試料体に対して同等の計測・検査を行っておき、基準物における各種データがマスターデータとして保存されている。このマスターデータには基準物における基本波と各高調波成分との各振幅比も含まれており、判定部31はマスターデータの各振幅比と今回検出した検査対象物Tの対応する各振幅比とを比較することで、基準物と検査対象物Tとの差異を判定する。この判定は、例えば基準物の各振幅比についてそれぞれ所定の評価範囲を設定しておき、検査対象物Tの各振幅比が対応する基準物の各振幅比の評価範囲内にあるか否かを比較することで行う。
【0029】
判定部31と接続されている表示部32は、判定部31に入力される検査対象物Tにおける基本波と複数の高調波成分の波形や振幅比、基準物のマスターデータ、及び判定結果等を表示するものである。
また、判定部31と接続されている設定部33は、判定部31における判定結果等を受けて発振器11、増幅器13、A/D変換器21、記憶部22、信号処理部23等の各部間等の制御を行う。設定部33は、検査対象物Tに対し再度検査を行う場合にはより適した条件に調整したり、段階的な検査を行う場合には次の検査条件を設定したりする。
【0030】
また設定部33は、操作部34とも接続されており、操作部34の操作に応じて計測・制御のための各種運転パラメータの設定及び変更が可能となる。そして、設定部33は設定した条件に応じて発振器11並びに各部間を制御する。さらに、電源部35は各種装置への電力供給を行う。
判定部31及び設定部33に接続されている入出力部36は、外部機器の信号の授受を行う。この信号には判定結果の出力、外部状態信号の入力等がある。
【0031】
以下、このように構成された電磁誘導型検査装置1による検査方法について説明する。
検査対象物Tは、鉄、又は非鉄等で導電性を有するものを主体とするものであり、センサ12内に配置される。検査対象物Tの配置位置は検知コイル12bにより検知される誘導電流(検知信号)の値が最も顕著な位置に配置することが好ましく、例えば前述の図2(a)、(b)に示したような円筒状のセンサ12の場合は、内孔の中央位置に検査対象物Tを配置するのが好ましい。或いは、検査対象物Tとセンサ12との位置関係は相対的に移動させながら連続的に検査を行ってもよい。このような場合には、検知信号の振幅の最大時のデータを検査対象物の検査値とする手法が良策である。
【0032】
検査対象物Tの設置後、発振器11において図3(a)に示すような、正弦波の交流電流(交流信号)faを励磁コイル12aに供給して交流磁場を発生させる(交流磁場生成ステップ)。この交流磁場内にある検知コイル12bは電磁誘導により誘導電流等が生じるが、交流磁場内にある検査対象物Tの影響を受けることで、例えば図3(b)に示すように歪んだ誘導電流の波形fを検知する(交流磁場検知ステップ)。そして、増幅器13において検知コイル12bで検知した信号波形を増幅し、A/D変換器21においてアナログの当該波形をデジタルデータに変換(量子化)し、記憶部22において当該デジタルデータとして記憶する。
【0033】
次に、信号処理部23は記憶部22に記憶されている波形fを示すデジタルデータをFFT処理により、基本波と各高調波成分とに分解する(解析ステップ)。例えば本実施形態では図3(b)の波形fが、図3(c)に示すようにf=f1+f2+f3となる基本波成分f1、第2高調波成分f2、第3高調波成分f3の3つの成分に分解されたものの合成波と同じであることを意味する。図4は、検知信号波fに対する基本波f1、第2高調波f2、第3高調波f3を周波数軸上に別記した概念図である。
【0034】
続いて、判定部31は、各周波数成分ごとのf1〜f3の振幅A1〜A3間の振幅の比を算出する(算出ステップ)。例えば基本波成分f1の振幅A1を基準とし、A1:A2、A1:A3というように基本波f1と第2高調波成分f2、第3高調波成分f3との振幅比をそれぞれ算出する。判定部31は、算出した各振幅比に対応して、予めマスターデータとして基準物の基本波と各高調波成分fm1〜fm3の各振幅Am1〜Am3との比(振幅比)Am1:Am2、Am1:Am3が保存されており、当該基準物における振幅比Am1:Am2、Am1:Am3と検査対象物Tの振幅比A1:A2、A1:A3とをそれぞれ比較して、判定を行う(判定ステップ)。ここで判定部31は、基準物における各振幅比についてそれぞれ所定の評価範囲を設定しておき、検査対象物Tの各振幅比が、対応する基準物の各振幅比の評価範囲内にあるか否かを比較する。判定部31は、比較した結果、両者の振幅比が一致又は所定の評価範囲内であるかの判定を行い、判定結果を表示部32及び入出力部36に出力する。
【0035】
表示部32は、判定部31からの信号により必要且つ明瞭な表現方法により他の情報を含めながら表示する。
入出力部36は、判定部31からの信号に基づき外部機器へ主として判定結果の良否を出力する。なお、本実施形態では分解した基本波と高調波成分f1〜f3を選出しているが、基本波と検査に必要な高調波成分を選出することが好ましい。
【0036】
前記の振幅比により評価することは、電気信号の電圧値を絶対評価する場合とは異なり、相似形の波形であれば電圧値の大小にかかわらず基本波と各高調波間との比は同一となることを、波形の評価方法としている。これは、電圧値の大小、即ち計測時の再現性に依存する必要性が軽減される。
【0037】
設定部33は、判定部31での判定結果情報又は操作部34からの操作情報を受け、各構成部等に対し、検査対象物Tに適した検査を再度行うためにより適合した条件に調整したり、段階的な検査を行う場合には次の検査条件を設定したりする。例えば、検査対象物Tの誘導電流に対する磁束の浸透度は、周波数に依存する表皮効果によって決まることから、逆に浸透度を変化させ、深さに対応した検査を目的とする場合には、予め必要に応じた周波数及び振幅値を設定しておき、又は周波数等を段階的に変化させる場合にも必要な値を設定しておき、それらに対応した制御を行い、且つ、その制御下における信号波形の基本波と各高調波毎の振幅比を求めることができ、それに必要な発振器制御を行う。この他にも設定部33は、増幅器13における信号の増幅度、A/D変換器21による変換の精度やタイミング、信号処理部23における波形の解析処理のタイミング、判定部31への判定情報の伝達と判定タイミング等の制御を行う。
【0038】
以上のような本実施形態に係る電磁誘導型検査装置1は、具体的には検査対象物Tの材質の識別、焼き入れの識別や損傷の判定、表面や内部の探傷、その他品質管理等に適応することが可能である。つまり、検査対象物Tは、鉄損(例えばヒステリシス損、渦電流損失)が明らかに発生するもの、磁気的に透磁率の計測が可能となり得るものが好ましい。例えば、工業製品の高周波焼き入れでの焼入層の深さ、焼き入れの有無の判定に適用可能であり、また、フィライトの様な粉末の圧縮焼結品、粉末焼結合金等における粉末量、圧縮後の欠損、焼結後の焼入状況、欠損状況等の工程中の品質管理にも適用可能である。さらには、加工後の表面、内部の探傷等にも適用可能である。
【0039】
このように、本実施形態における電磁誘導型検査装置1では、励磁コイル12aにより交流磁場を発生させ、検知コイル12bにより検査対象物Tを介して変化した交流磁場を検知し、当該交流磁場を示す交流信号波形fを基本波と複数の高調波成分f1〜f3に分解することで、当該交流信号の波形の歪みを基本波及び高調波成分ごとに分別定量化する。そして、基本波と高調波成分f1〜f3の各振幅A1〜A3間における比A1:A2、A1:A3を算出して、予め記憶されている前記検査対象物の基準となる信号波の基本波と各高調波成分の各振幅Am1〜Am3間における比Am1:Am2、Am1:Am3とをそれぞれ比較することで検査対象物Tの判定を行う。なお、高調波のn次成分(本実施形態では3次成分)について何次成分まで取り扱うかはシステムの目的に応じて決定すればよい。
【0040】
電気信号の電圧値の絶対値を評価するものとは異なり、各振幅の比は波形が相似形であれば常に同じ比となることから、本実施形態では波形の歪みを基本波と高調波成分とに分解し、基本波と各高調波成分との振幅比をそれぞれ比較して判定を行うことで、波形の歪みを評価する。これはコイル製作上の均一性や、検査の再現性に大きく寄与することとなり、即ちコイルの巻き斑による磁束の斑、検知感度の斑等を軽減することができる。
【0041】
また、コイルの巻線処理にて物理的な粗密が発生し、これが発生磁場の強弱や均一性を阻害する1つの要因となる。さらにコイル内の磁束は、中心部では密集し、端部では拡散して粗くなっており、中心部と端面部とでは大幅に異なることから、コイル内の磁束密度は均一、一様ではなく、検査対象物の配置位置により検知感度に変化、即ち電圧の絶対値に差異が生じる。これに対し、本実施形態のように波形歪みを評価することで、電圧値の評価に比べ、検知感度の再現性の重要度は軽減される。例えば交流磁場の極度な均一化も必要としなくなる。従って、交流磁場を発生させるための励磁電流の定電流化又は交流磁場から誘導電流を検知して磁場の定量化のためのフィードバック制御の手法も必要としなくなり、電気制御回路側の負担軽減が可能となる。
【0042】
また、検知コイル12bにより検知される交流信号の波形は通常検査対象物の有無に関わらず多少の歪みを持っている。そこで、検査対象物を配置していないときの波形歪みは電磁誘導型検査装置1のシステム固有の歪みとし、これを予め成分計測しておくことによりシステムの固有歪値を確定させておく。そして、検査対象物を配置した時に基本波と高調波成分とに分解した信号により前記固有歪値を除去して検査に必要な信号成分のみを選出することにより、検査精度を向上させることが可能となる。以上のことから、基本波と高調波成分の振幅比と基準物の基本波と高調波成分の振幅比とを比較することにより、精度の高いより正確な検査を行うことが可能となる。
【0043】
以上で本発明に係る電磁誘導型検査装置及び電磁誘導型検査方法についての説明を終えるが、実施形態は上記構成に限られるものではない。図1で示した電磁誘導型検査装置1の構成は一例に過ぎず、各部の位置関係を変えたり、各機能を合わせたりしてもよい。例えば算出・解析部20の記憶部22と信号処理部23と入れ替えたり、記憶部22を設定部33に組み込んだりしてもよい。
【0044】
さらに、上記実施形態では、信号処理部においてFFT処理により、入力された交流信号を基本波と高調波成分とに分解しているが、フーリエ級数展開の手法としてはFFT処理に限らず、基本波とそれに基づく高調波成分に定量化できる同等若しくはより効率的な手法が適用可能であればそれらを用いてもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、信号処理部23が誘導電流の波形fの高調波成分として第2高調波成分f2及び第3高調波成分f3に分解し、これを選出しているが、高調波成分の分解及び選出する高調波成分の数はこれに限られるものではない。信号処理部は、分解された基本波及び各高調波成分のうち、検査に必要な第n次までの高調波成分を選出すればよい。
【0046】
また、上記実施形態では、基本波成分f1の振幅A1を基準として、他の高調波成分f2、f3との振幅比A1:A2、A1:A3を算出している。すなわち基本波と各高調波成分間の振幅比を採用しているが、各周波数成分間(基本波、第2高調波、第3高調波、・・・第n高調波)における振幅比を用いるのであれば、これは同形若しくは同種とみなすことができる。
【符号の説明】
【0047】
1 電磁誘導型検査装置
10 検出部
20 算出・解析部(算出手段、解析手段)
30 制御部(判定手段)
11 発振器
12 センサ
12a 励磁コイル
12b 検知コイル
13 増幅器
21 A/D変換器
22 記憶部
23 信号処理部
31 判定部
32 表示部
33 設定部
34 操作部
35 電源部
36 入出力部
図1
図2
図3
図4