特許第6015956号(P6015956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6015956パネル部品の補強方法およびその方法で補強されたパネル部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015956
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】パネル部品の補強方法およびその方法で補強されたパネル部品
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/00 20060101AFI20161013BHJP
   B62D 65/00 20060101ALI20161013BHJP
   B62D 25/02 20060101ALI20161013BHJP
   B62D 25/10 20060101ALI20161013BHJP
   B62D 25/06 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   B60J5/00 P
   B60J5/00 Z
   B62D65/00 Z
   B62D25/02 B
   B62D25/10 D
   B62D25/06 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-198571(P2013-198571)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-63235(P2015-63235A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2015年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 欣哉
(72)【発明者】
【氏名】岩間 隆史
(72)【発明者】
【氏名】小日置 英明
(72)【発明者】
【氏名】卜部 正樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 雄司
【審査官】 常盤 務
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−221114(JP,A)
【文献】 特開2013−054611(JP,A)
【文献】 特開2013−130429(JP,A)
【文献】 特開2012−101763(JP,A)
【文献】 特開2011−251624(JP,A)
【文献】 特開2003−205741(JP,A)
【文献】 特開2001−171349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00
B62D 25/02
B62D 25/06
B62D 25/10
B62D 65/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネル部品のパネル裏面に補強部品を配置してパネル部品の張り剛性を高めるに際し、
前記パネル部品の張り剛性の分布を求め、
前記張り剛性の分布において張り剛性が低い位置またはその近傍を補強位置に決定し、
前記補強位置で補強部品とパネル部品のパネル裏面とを接着することとし、
前記補強位置1箇所当りの張り剛性向上効果を求め、
前記張り剛性向上効果を複数箇所の補強位置について重ね合わせることでパネル部品全体の張り剛性を向上させ、
前記複数個所の補強位置を求めるために、前記張り剛性の分布において張り剛性が最も低い位置を補強位置に決定し、
その補強位置を補強した後の前記パネル部品の張り剛性の分布を求め、
その張り剛性の分布において張り剛性が最も低い位置を補強位置に決定する、
という工程を繰り返すことを特徴とするパネル部品の補強方法。
【請求項2】
パネル部品のパネル裏面に補強部品を配置してパネル部品の張り剛性を高めるに際し、
前記パネル部品の張り剛性の分布を求め、
前記張り剛性の分布において張り剛性が低い位置またはその近傍を補強位置に決定し、
前記補強位置で補強部品とパネル部品のパネル裏面とを接着することとし、
前記補強位置1箇所当りの張り剛性向上効果を求め、
前記張り剛性向上効果を複数箇所の補強位置について重ね合わせることでパネル部品全体の張り剛性を向上させ、
前記複数個所の補強位置を求めるために、前記張り剛性の分布において張り剛性が最も低い位置の近傍の複数の位置を補強位置に決定し、
それらの補強位置を補強した後の前記パネル部品の張り剛性の分布を求め、
その張り剛性の分布において張り剛性が最も低い位置の近傍の複数の位置を補強位置に決定する、
という工程を繰り返すことを特徴とするパネル部品の補強方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のパネル部品の補強方法を用いて補強されていることを特徴とするパネル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用パネル部品等の張り剛性を必要とされるパネル部品に関して効果的に張り剛性を高める補強方法および、その方法で補強されたパネル部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドア、エンジンフード、ルーフ等の自動車用パネル部品等のパネル部品に求められる特性のひとつとして張り剛性が挙げられる。張り剛性を高めるためには、デザインの変更や裏面からの補強といった手法をとることが一般的であるが、デザインの変更は外観の変更に直結するため、裏面からの補強により張り剛性対策が採られる場合が多い。
【0003】
裏面から補強部材によって張り剛性を高める手段として、従来から様々な検討が行われている。特許文献1では効果的に張り剛性を高める補強部材の形状が開示され、特許文献2では張り剛性を効果的に高めるための補強部材の配置方法が開示され、特許文献3では補強部材とパネル部品とを接着剤を用いて接合する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−251624号公報
【特許文献2】特開2001−171349号公報
【特許文献3】特開2010−083248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パネル部品の裏面に補強部材を配置する方法で張り剛性を高めるには、補強部材とパネル部品とを樹脂等の接着剤を用いて接合することにより、外力によるパネル部品の変形を、接着剤を介して補強部材に伝えることが必要であると考えられる。このパネル部品と補強材との間の力の伝達をなす接着剤を配置する位置を、以下では「補強位置」と呼ぶ。
【0006】
一般に、裏面からの補強による張り剛性向上効果は高い方が良いが、補強位置を増やすことは工数増大、重量増等につながる。そのため補強位置の数は、パネル部品の張り剛性を必要なだけ確保できる点数のうちで、できるだけ少なくすることが望ましい。しかしながら従来は、効果的に張り剛性を高める補強位置の決定方法が確立されていないため、補強が必要とされると考えられる位置に補強がなされていなかったり、逆に補強による張り剛性向上効果が低いと考えられる位置に過剰に補強がなされていたりする場合がある。
【0007】
特許文献1および特許文献2記載の方法では、パネル部品の張り剛性を効果的に高めるための補強部材の形状や配置について述べられているが、外力は最終的に接着剤を介して補強部材に伝達されるため、補強部材の形状や配置の適正化だけでは張り剛性を効果的に高められるとはいえない。
【0008】
また、特許文献3には接着剤を用いて補強部材を接合することでパネル部品の張り剛性を高める方法が記載されているが、同様に、張り剛性を効果的に高められる位置に接着剤を配置しなければ、不必要に補強位置が増加したり、逆に必要な位置に補強がなされなかったりする可能性がある。そして、必要な位置に補強をなさないまま設計を行えば、当然にパネル部品の張り剛性が低くなることから、それを補うために補強部材の追加や高剛性化等の措置が必要となり、コスト増や重量増等に繋がることになる。
【0009】
それゆえ本発明は、前記従来技術の課題を有利に解決したパネル部品の補強方法およびその方法で補強されたパネル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、パネル部品の張り剛性解析を行うことにより、張り剛性を効果的に向上させる補強位置の決定方法について知見を得ており、この知見に基づいて前記目的を達成する本発明のパネル部品の補強方法は、
パネル部品のパネル裏面に補強部品を配置してパネル部品の張り剛性を高めるに際し、
前記パネル部品の張り剛性の分布を求め、
前記張り剛性の分布において張り剛性が低い位置またはその近傍の位置を補強位置に決定し、
前記補強位置で補強部材とパネル部品のパネル裏面とを接着することを特徴とするものである。
【0011】
さらに、本発明のパネル部品の補強方法においては、
補強位置1箇所当りの張り剛性向上効果を求め、これを複数箇所の補強位置について重ね合わせることでパネル部品全体の張り剛性を向上させる。
すなわち、前記張り剛性の分布において張り剛性が最も低い位置を補強位置に決定し、その補強位置を補強した後の前記パネル部品の張り剛性の分布を求め、その張り剛性の分布において張り剛性が最も低い位置を補強位置に決定する、という工程を繰り返して、パネル部品全体の張り剛性を向上させる。
あるいは、前記張り剛性の分布において張り剛性が最も低い位置の近傍の複数の位置を補強位置に決定し、それらの補強位置を補強した後の前記パネル部品の張り剛性の分布を求め、その張り剛性の分布において張り剛性が最も低い位置の近傍の複数の位置を補強位置に決定する、という工程を繰り返して、パネル部品全体の張り剛性を向上させる。
そして、本発明のパネル部品は、前記補強方法を用いて補強されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパネル部品の補強方法によれば、パネル部品のパネル裏面に補強部品を配置してパネル部品の張り剛性を高めるに際し、前記パネル部品の張り剛性の分布を求め、前記張り剛性の分布において張り剛性が低い位置またはその近傍を補強位置に決定し、前記補強位置で補強部材とパネル部品のパネル裏面とを接着するので、短時間で簡便に、張り剛性を効果的に向上させる補強位置を決定してその補強位置を補強でき、それにより、設計にかかる時間的コストを削減することができ、また、補強位置の数の削減による工数削減や軽量化等の効果を得ることができる。
【0013】
そして本発明のパネル部品によれば、本発明の補強方法で補強されたものであるので、設計にかかる時間的コストを削減することができ、また、補強位置の数の削減による工数削減や軽量化等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のパネル部品の補強方法の一実施形態で用いるパネル部品としての自動車用ドアパネルの有限要素解析モデルを示す平面図である。
図2】上記実施形態の補強方法において上記有限要素解析モデルを用いて解析した補強前の自動車用ドアパネルの張り剛性分布を示す平面図である。
図3】上記実施形態の補強方法において上記補強前の自動車用ドアパネルの張り剛性分布から第1の方法で求めた補強位置を示す平面図である。
図4】上記実施形態の補強方法において上記補強前の自動車用ドアパネルの張り剛性分布から第2の方法で求めた補強位置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。この実施形態のパネル部品の補強方法は、パネル部品としての例えば自動車用ドアパネルのパネル裏面にチャンネル材等の補強部品を配置して自動車用ドアパネルの張り剛性を高めるに際し、先ず、その自動車用ドアパネルの張り剛性の分布を求め、その張り剛性の分布において張り剛性が低い位置またはその近傍を補強位置に決定するものであり、このようにすることにより、張り剛性を効果的に向上させるための補強位置が決定可能になり、その決定した補強位置で、補強部材と自動車用ドアパネルのパネル裏面とを接着して自動車用ドアパネルを補強する。
【0016】
なお、ここでいう「張り剛性」とは、パネル上に加重を付加してゆく際にある一定変位に達するときの荷重、あるいは荷重−変位曲線における傾き等、種々考えられるが何れでも良い。本発明は、何らかの方法により張り合成の閾値を決定し、パネル全体がその閾値の張り剛性を越えるような補強位置を決定するものである。
【0017】
一般的には、裏面からの補強による張り剛性向上の効果は、補強位置に近いほうが高いと考えられる。しかし、具体的な向上効果は、補強に用いられる樹脂等の材質により変わると考えられる。本実施形態では、先ず補強位置1箇所当りの張り剛性向上効果を見積もることが必要である。本発明者らは、市販されている自動車のドアパネルを対象に張り剛性試験と解析とを行って解析の精度を充分に確かめた後に、解析により補強位置1箇所当りの張り剛性向上効果を見積もった。
【0018】
方法としては、図1に示される自動車用ドアパネルの有限要素解析モデルに対し、補強を全て外した条件での解析と、補強を中央に1点だけ配した条件での解析とを行った。有限要素解析モデルの作成についてはアルテア(Altair)社の市販CAEプログラムであるハイパーメッシュ(Hyper Mesh)を用いて行った。パネルのメッシュサイズは5mmとした。要素はシェル要素を用い、ドアパネルモデルの自動車本体と繋がる部分を空間に対し完全拘束とした。有限要素解析はこれも市販CAEプログラムであるエルエスダイナ(LS-DYNA)ver971d R3.2.1を用いて、静的陰解法で行った。結果として、合成ゴムや熱可塑性樹脂等からなる接着剤での補強材のマスチック接合による張り剛性向上効果率p(向上なし:p=1)は、本検討のケースでは補強位置との距離d(mm)を用いて以下の式で表されることが判明した。但し、d<120である。
p=(−d/120)+2 ・・・(式1)
なお、dの値が120mm以上になると、補強位置からの距離が充分に遠くなるため、補強による張り剛性向上効果が及ばなくなる。
【0019】
次に、複数の補強により、張り剛性向上効果を受ける位置はどのように張り剛性が向上するのかについて解析を行った。パネル中央に補強位置を一箇所設け、その接合位置から半径120mm以内に補強を設けて解析を行った結果、今回解析に使ったモデルでは、n箇所の補強の影響を受ける位置の張り剛性向上率pm(向上なし:pm=1)は、最大値を2(倍)として、式1から求められるそれぞれの補強位置からの張り剛性向上率pを加算した以下の式2で表されることを知見した。但し、di<120である。
【数1】
従って、Pm<2の場合は、張り剛性向上率p=pmであり、Pm≧2の場合は、張り剛性向上率p=2となる。
【0020】
以上の結果から、張り剛性を効果的に上昇させる補強位置の決定方法として二種類の方法が考えられる。第1の方法は、先ず、パネル上の最も張り剛性が低い位置に補強位置を配置し、その補強位置を配置した後に、再びパネル上で最も張り剛性が低い位置を探し、その位置に補強位置を配置する、ということを繰返し、パネル全体が張り剛性の閾値を超えるように補強位置を配置するものである。
【0021】
第2の方法は、先ず、パネル上の最も張り剛性が低い位置が張り剛性の閾値を超えるように式2を用いてその最も張り剛性が低い位置を囲むように複数の補強位置を配置し、次に、再びパネル上で最も張り剛性が低い位置を探し、その位置が張り剛性の閾値を超えるのに必要な張り剛性上昇率を与える距離を式1を用いて算出し、その位置から式1で求めた距離だけ離れた場所のうち最も張り剛性が低い位置に補強位置を配置する、ということを繰返し、パネル全体が張り剛性の閾値を超えるように補強位置を配置するものである。
【0022】
上記の何れの方法でも、最初にパネル全体の張り剛性分布と補強による張り剛性上昇率を表す式1,式2とを解析、実験等で得れば、補強位置の配置は式1,式2を用いて手計算により行うことができるが、より精密に行うためには表計算ソフトを用いることが望ましい。
【0023】
第1の方法と第2の方法とのどちらを適用するのが好ましいかは、パネル形状や張り剛性の強弱の分布によって異なる。また、例えばドア内のインパクトビームのように、インナー部品の構造によっては補強位置に制約ができる場合があるため、補強位置を設定する際には両方の方法を施工してより好適な配置を選択することが好ましい。またその際、第1の方法と第2の方法とを重複して用いることも可能である。
【0024】
(実施例)
本実施形態の実施例として、図2に示す自動車用ドアパネル1に対して適正な補強位置を算出した。先ず図1に示すドアパネルの解析モデル1Mに対して補強を全て外した条件での解析を行い、図2に示すように、補強していない状態での自動車用ドアパネル1の張り剛性の分布を得た。有限要素解析モデルの作成についてはアルテア(Altair)社の市販CAEプログラムであるハイパーメッシュ(Hyper Mesh)を用いて行った。パネルのメッシュサイズは5mmとした。板厚は0.60mmとし、要素はシェル要素を用い、ドアパネルモデルの自動車本体と繋がる部分を空間に対し完全拘束とした。有限要素解析はこれも市販CAEプログラムであるエルエスダイナ(LS-DYNA)ver971d R3.2.1を用いて、静的陰解法で行った。
【0025】
本実施例では、張り剛性の閾値を「パネル上の任意の位置を2mm変位させるのに必要な荷重が40N以上である」と設定した。図2は張り剛性の分布として、パネル上の任意の位置を2mm変位させるのに必要な荷重のコンター(等値線)図を示す。従来は補強位置の効果的な決定方法がなかったため、適正な補強位置を得るためには解析、試作を繰返す必要があり、時間とコストが必要であった。しかしながら本実施形態の方法を適当することにより、簡便に補強位置を決定することができる。
【0026】
図3に、第1の方法で決定した補強位置を図2の張り剛性分布と重ねて示す。この方法では先ず、張り剛性分布から求めた自動車用ドアパネル1上の最も張り剛性が低い位置に補強位置P1を配置し、その補強位置P1を配置した後に再び自動車用ドアパネル1の張り剛性分布を求めて、その自動車用ドアパネル1上で最もはり剛性が低い位置を探し、その位置に補強位置P2を配置し、それら補強位置P1,P2を配置した後に再び自動車用ドアパネル1の張り剛性分布を求めて、その自動車用ドアパネル1上で最も張り剛性が低い位置を探し、その位置に補強位置P3を配置する、というようにして補強位置P1〜P7を求め、それらの補強位置P1〜P7を配置した後に再び自動車用ドアパネル1の張り剛性分布を求めて、その自動車用ドアパネル1全体の張り剛性が上記閾値を超えるようにしている。
【0027】
また図4に、第2の方法で決定した補強位置を図2の張り剛性分布と重ねて示す。この方法では先ず、自動車用ドアパネル1上の最も張り剛性が低い位置が張り剛性の閾値を超えるように式2を用いてその最も張り剛性が低い位置の近傍に、その最も張り剛性が低い位置を囲むように複数、例えば三箇所の補強位置P1−1,P1−2,P1−3を配置する。例えば最も張り剛性が低い位置が閾値を超えるには張り剛性上昇率を1.9倍とする必要があるとすると、式2から補強位置1ヶ所当りでは1.3倍とする必要があり、1.3倍にするには式1から距離d=0.7×120=84mmとなり、最も張り剛性が低い位置を中心に半径84mmの円周上に補強位置P1−1,P1−2,P1−3を、互いに120度ずつ離間させて配置する。
【0028】
次に、それら補強位置P1−1,P1−2,P1−3を配置した後に再び自動車用ドアパネル1上で最も張り剛性が低い位置を探し、その最も張り剛性が低い位置が張り剛性の閾値を超えるように式2を用いてその最も張り剛性が低い位置を囲むように複数、例えば三箇所の補強位置P2−1,P2−2,P2−3を配置し、さらに、それら補強位置P1−1,P1−2,P1−3,P2−1,P2−2,P2−3を配置した後に再び自動車用ドアパネル1上で最も張り剛性が低い位置を探し、その最も張り剛性が低い位置が張り剛性の閾値を超えるように式2を用いてその最も張り剛性が低い位置を囲むように複数、例えば三箇所の補強位置P3−1,P3−2,P3−3を配置する、というようにして補強位置P1−1〜1−3、P2−1〜2−3,P3−1〜3−3を求め、それらの補強位置を配置した後に再び自動車用ドアパネル1の張り剛性分布を求めて、その自動車用ドアパネル1全体の張り剛性が上記閾値を超えるようにしている。
【0029】
なお、上記第2の方法で1箇所の補強位置を追加する場合は、先に補強位置を配置した後に再び自動車用ドアパネル1上で最も張り剛性が低い位置を探し、その最も張り剛性が低い位置が張り剛性の閾値を超えるのに必要な張り剛性上昇率を与える距離dを式1を用いて算出し、その位置から式1で求めた距離dだけ離れた場所のうち最も張り剛性が低い位置に補強位置を配置する。
【0030】
例えば、最も張り剛性が低い位置が張り剛性の閾値を超えるには張り剛性上昇率を1.4倍にする必要があるとすると、式1からd=0.6×120=72mmとなり、上記最も張り剛性が低い位置を中心に半径72mmの円周上で最も張り剛性が低い位置に補強位置を配置する。
【0031】
第1の方法で決定した補強位置の方が補強位置の数が少ないが、第2の方法で決定した場合は補強位置がほぼ直線状に並ぶため、直線状の補強部材を用いて補強する際に補強がしやすいという利点がある。このように、本実施形態の方法によれば、従来の方法と比較して簡便かつ迅速に適正な補強位置を得ることが可能になり、本実施形態の方法で補強位置を決定して補強した自動車用ドアパネルによれば、設計にかかる時間的コストを削減することができ、また、補強位置の数の削減による工数削減や軽量化等の効果を得ることができる。
【0032】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限られるものでなく、所要に応じて特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものであり、例えば、第2の方法における張り剛性が最も低い位置の近傍の複数の位置は、張り剛性が最も低い位置を挟む2箇所または張り剛性が最も低い位置を囲む4箇所以上の位置でもよい。また、この発明の方法では、適用するパネル部品の構成等に応じて、上記第1の方法と第2の方法とを適宜組み合わせて用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
かくして本発明のパネル部品の補強方法によれば、短時間で簡便に、張り剛性を効果的に向上させる補強位置を決定してその補強位置を補強でき、それにより、設計にかかる時間的コストを削減することができ、また、補強位置の数の削減による工数削減や軽量化等の効果を得ることができる。
【0034】
また、本発明のパネル部品によれば、設計にかかる時間的コストを削減することができ、また、補強位置の数の削減による工数削減や軽量化等の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 自動車用ドアパネル
1M 自動車用ドアパネルの有限要素解析モデル
P1〜P7 第1の方法での補強位置
P1−1〜P3−3 第2の方法での補強位置
図1
図2
図3
図4