特許第6015974号(P6015974)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6015974-抗生物質標的を同定する方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015974
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】抗生物質標的を同定する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20161013BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20161013BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20161013BHJP
   C12P 1/04 20060101ALN20161013BHJP
   A61P 31/04 20060101ALN20161013BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12Q1/02
   C12Q1/68 Z
   !C12P1/04
   !A61P31/04
   !A61K45/00
【請求項の数】13
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-508869(P2014-508869)
(86)(22)【出願日】2012年5月3日
(65)【公表番号】特表2014-513961(P2014-513961A)
(43)【公表日】2014年6月19日
(86)【国際出願番号】GB2012000402
(87)【国際公開番号】WO2012150432
(87)【国際公開日】20121108
【審査請求日】2015年5月1日
(31)【優先権主張番号】1107515.7
(32)【優先日】2011年5月5日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】513277326
【氏名又は名称】ディスキューバ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DISCUVA LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ, デーヴィッド, ヒュー
(72)【発明者】
【氏名】ターナー, アーサー, キース
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2002/000916(WO,A1)
【文献】 国際公開第1999/020402(WO,A1)
【文献】 Applied and environmental microbiology,2008年 6月,vol.74,p.3419-3425
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12Q 1/02
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌において抗生物質標的として機能する必須遺伝子を同定する方法であって、
(a)2種以上の異なる活性化トランスポゾン(Tn)でのトランスポゾン突然変異誘発によって変異細菌のプールを生成するステップであって、各々のTnは、細菌DNAへのトランスポゾン挿入が位置依存的に挿入部位又はその付近の遺伝子の機能を破壊する又はその転写を増大させるようなプロモーターを含み、トランスポゾン突然変異誘発は細菌DNAの10塩基対当たり少なくとも1つのトランスポゾンの挿入率をもたらす、ステップと、
(b)0.5、1及び2×MICの濃度の抗生物質の存在下で変異体プールから細菌を増殖させて少なくとも3種の試験培養物を得るステップと、
(c)試験培養物間でTn挿入の分布を比較して、
(i)必須遺伝子機能を破壊するTn挿入部位、及び
(ii)必須遺伝子産物が前記抗生物質のシンクとして機能し、そのようにして前記細菌に対する前記抗生物質の効果を改変するレベルまで必須遺伝子産物が過剰発現するように必須遺伝子転写が増強されるような位置にあるTn挿入部位
を同定し、それにより、ステップ(b)で使用されるすべての増殖条件下で生存に必須であり、前記細菌において前記抗生物質の標的として機能する推定必須遺伝子を同定するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
変異細菌のプールは、
少なくとも0.5×10個の変異体
なくとも1×10個の変異体、
なくとも5×10個の変異体、
なくとも1×10個の変異体、
.5×10〜2×10個の変異体、又は
×10個の変異体
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)の細菌DNAは、
(a)染色体(ゲノム)DNA、
(b)プラスミドDNA、又は
(c)染色体(ゲノム)DNAとプラスミドDNAとの混合物
である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)のトランスポゾン突然変異誘発はin vivo又はin vitroで生じる、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
細菌はグラム陽性細菌又はグラム陰性細菌である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
細菌は、
(a)エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、及びナイセリア・ゴノレー(Neisseria gonorrhoeae)から選択されるグラム陽性細菌、又は
(b)クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumanii)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、E.コリ(E. coli)ST131株、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、及びナイセリア・ゴノレー(Neisseria gonorrhoeae)から選択されるグラム陰性細菌
である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)において
異体プールの1010cfuを増殖培地に接種することによって変異体プールから細菌を増殖させる、
求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
試験培養物のTn挿入の分布は、Tnの挿入部位に隣接した又はその付近のDNAを配列決定することによって比較される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Tnの挿入部位に隣接した又はその付近のDNAの配列決定は、
(a)トランスポゾン−細菌DNA接合部の選択的増幅、及び/又は
(b)合成による配列決定(SBS)の生化学
を含
請求項に記載の方法。
【請求項10】
(a)Tn挿入部位に隣接した又はその付近のDNAの25、50、75、100塩基対又は100を超える塩基対が配列決定される、及び/又は
(b)配列決定されるDNAはTn挿入部位の5’及び/又は3’である、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記推定必須遺伝子に必須の機能を割り当てるステップをさらに含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法であって、
(a)前記推定必須遺伝子への必須の機能の割り当ては、前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子との配列比較によって行われる、又は
(b)前記推定必須遺伝子への必須の機能の割り当ては、前記推定必須遺伝子が抗生物質耐性遺伝子ではないことを決定することによって行われる
方法。
【請求項12】
前記推定必須遺伝子に必須の機能を割り当てるステップをさらに含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法であって、
(a)前記推定必須遺伝子への必須の機能の割り当ては、前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子との配列比較によって行われ、挿入の際に不活性化するトランスポゾンを用いたトランスポゾン指向性挿入部位配列決定によって前記必須遺伝子が同定される、又は
(b)前記推定必須遺伝子への必須の機能の割り当ては、前記推定必須遺伝子が抗生物質耐性遺伝子ではないことを決定することによって行われ、決定ステップは、挿入の際に不活性化するトランスポゾンを用いたトランスポゾン指向性挿入部位配列決定によって抗生物質耐性遺伝子を同定するステップを含む、
方法。
【請求項13】
前記細菌の抗生物質耐性変異体を、前記抗生物質の存在下での増殖について選択を行って抗生物質耐性変異体クローン(Ab変異体)を得るステップを含む方法によって生成するステップと、
(i)前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子と、(ii)細菌DNAを挿入により不活性化するトランスポゾンと、でAb変異体を形質転換して、前記1つ又は複数の必須遺伝子について部分二倍体であるトランスポゾン変異体のプールを得るステップと、
種々の量の前記抗生物質の存在下で部分二倍体プールから細菌を増殖させて2種以上の試験培養物を得るステップと、
試験培養物間でトランスポゾン挿入の分布を比較して、前記細菌において前記抗生物質の標的として機能する推定必須遺伝子を同定するステップと、
をさらに含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、細菌における抗生物質標的を同定する方法、抗生物質を同定する方法、並びに抗生物質及び該抗生物質を含む医薬組成物を製造する方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
新規病原体及び既存の抗菌薬に対する耐性の出現に対抗するために、新規抗生物質が緊急に必要である。候補抗生物質の標的の同定は、そのような情報が、多くの機能的に関連している新規薬物ファミリーに近づく方法を提供し得るので重要である。例えば、ペニシリンの標的としてペニシリン結合性タンパク質を発見したことが、複数の世代のセファロスポリン、ペニシリン及びカルバペネムを含む抗生物質の大きなファミリーの開発につながった(Schmid(2006年) Nature Biotechnology 24(4):419〜420頁参照)。
【0003】
トランスポゾン指向性挿入部位配列決定(TraDIS−Langridgeら(2009年)Genome Research 19:2308〜2316頁参照)が、(a)必須遺伝子、(b)増殖に有利な(ただし非必須)遺伝子、(c)特定の条件下での増殖に不利な遺伝子、(d)特定の条件に対する耐性の付与に関与している遺伝子(「ニッチ特異的」必須遺伝子)を同定するために最近使用されている。同様の技術は、例えば、Gawronskiら(2009年)PNAS 106:16422〜16427頁;Goodmanら(2009年)Cell Host Microbe 6:279〜289頁;van Opijnenら(2009年)Nat.Methods 6:767〜772頁及びGallagherら(2011年)mBio 2(1):e00315〜10に記載されており、そのような技術は本明細書ではまとめて「Tn−seq」法と呼ばれる。
【0004】
しかし、重要なクラスの抗生物質標的は、使用される増殖条件における生存に不可欠な細胞プロセスに関与している遺伝子産物である。そのような標的は、(抗生物質標的として機能するものを含む)必須遺伝子へのトランスポゾン挿入が最初の変異体プールでは顕著に現れないので、(TraDISを含む)Tn−seqによっては同定され得ない。したがって、抗生物質を用いて又は用いずに(又は種々の量の抗生物質を用いて)変異体プールを増殖させた後にトランスポゾン分布の相違が生じず、その結果、Tn−seqは、必須遺伝子と抗生物質標的として機能する必須遺伝子とを区別できない。
【0005】
したがって、抗生物質標的として機能する必須遺伝子を同定できる、抗生物質標的のハイスループット機能的スクリーニングが必要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の一態様によれば、
細菌において抗生物質標的として機能する必須遺伝子を同定する方法であって、
(a)活性化トランスポゾン(Tn)でのトランスポゾン突然変異誘発によって変異細菌のプールを生成するステップであって、Tnは、細菌DNAへのトランスポゾン挿入が挿入部位又はその付近の遺伝子の転写を増大させるようなプロモーターを含む、ステップと、
(b)種々の量の前記抗生物質の存在下で変異体プールから細菌を増殖させて2種以上の試験培養物を得るステップと、
(c)試験培養物間でTn挿入の分布を比較して、前記細菌において前記抗生物質の標的として機能する推定必須遺伝子を同定するステップと、
を含む方法が提供される。
【0007】
上記方法は、
前記細菌の抗生物質耐性変異体を、前記抗生物質の存在下での増殖について選択を行って抗生物質耐性変異体クローン(Ab変異体)を得るステップを含む方法によって生成するステップと、
(i)前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子と、(ii)細菌DNAを挿入により不活性化するトランスポゾンと、でAb変異体を形質転換して、前記1つ又は複数の必須遺伝子の部分二倍体であるトランスポゾン変異体のプールを得るステップと、
種々の量の前記抗生物質の存在下で部分二倍体プールから細菌を増殖させて2種以上の試験培養物を得るステップと、
試験培養物間でトランスポゾン挿入の分布を比較して、前記細菌において前記抗生物質の標的として機能する推定必須遺伝子を同定するステップと、
をさらに含み得る。
【0008】
別の態様では、前記抗生物質の標的として機能する必須遺伝子を本発明の方法に従って同定するステップを含む、抗生物質の同定方法が提供される。
【0009】
さらなる態様では、前記抗生物質の標的として機能する必須遺伝子を本発明の方法に従って同定するステップを含む方法によって抗生物質を同定するステップを含む、抗生物質の製造方法が提供される。そのような方法は、前記抗生物質を合成するステップを任意選択でさらに含んでもよく、また、合成抗生物質を薬学的に許容される賦形剤と混合して医薬組成物を得るステップを任意選択でさらに含んでもよい。
【0010】
トランスポゾン挿入が挿入による不活性化ではなく遺伝子活性化をもたらし得るので、活性化トランスポゾンを使用すると、必須遺伝子へのトランスポゾン挿入が確実に最初の変異体プールにおいて現れるようになる。したがって、トランスポゾン分布に対する、変異体プールのその後の培養中の抗生物質の存在の効果を調べることができる(また、遺伝子標的の同一性がそれによって決定される)。
【0011】
本発明の他の態様及び好ましい実施形態は添付の特許請求の範囲において規定・記載される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】サルモネラ・チフィ(Salmonella Typhi)においてシプロフロキサシン耐性に寄与する遺伝子を同定するためのパイロットスタディの結果を示す。
図2】トランスポゾン送達プラスミドpAMICS2を示す。
【発明の詳細な説明】
【0013】
本明細書で言及されたすべての刊行物、特許、特許出願及び他の文献は、あたかも各々の刊行物、特許又は特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示され、それらの内容がすべて記載されているかのように、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0014】
定義及び全般的な優先傾向:
本明細書において、以下の用語は、特に断らない限り、該用語が当技術分野で有し得る任意のより広い(又はより狭い)意味に加えて、以下の意味を有するものとする。
【0015】
文脈上別異に解すべき場合でない限り、本明細書における単数形の使用は、複数形を含むものと解されるべきであり、逆も同様である。ある実体に関連して使用される“a”又は“an”は、1つ又は複数の該実体を指すものとして読まれなければならない。そのようなものとして、“a”(又は“an”)、“one or more”(「1つ又は複数」)及び“at least one”(「少なくとも1つ」)は、本明細書において同義的に使用される。
【0016】
本明細書において、「含む」(“comprise”、“comprises”、“comprising”)は、記載された任意の整数(例えば、特徴(feaure)、要素、特徴(characteristic)、特性(property)、方法/プロセスステップ、又は限定)又は整数(例えば、特徴(feaure)、要素、特徴(characteristic)、特性(property)、方法/プロセスステップ、又は限定)の群を含むが、他の任意の整数又は整数の群を排除しないことを示すものとして読まれるものとする。すなわち、本明細書において、「含む」(“comprising”)は、包括的なもの又は制限のないものであり、記載されていないさらなる整数又は方法/プロセスステップを排除するものではない。
【0017】
「遺伝子」は、染色体又はプラスミド上の特定の位置を占め、生物において特定の特徴を決定するDNAの配列からなる遺伝単位を記述する用語である。遺伝子は、タンパク質又はタンパク質の一部を形成するポリペプチド鎖を特定することによって生物の特徴を決定する(構造遺伝子)か、あるいはRNA分子をコードするか、あるいは他の遺伝子の作動を制御し、又はそのような作動を抑制するか、あるいはまだ明らかになっていない他の何らかの機序によって表現型に影響を及ぼし得る。
【0018】
本明細書において、「ゲノムDNA」は、染色体外で維持されるプラスミドDNAと異なるものとして染色体DNAを規定するために使用される専門用語である。
【0019】
本明細書において、「ゲノム」は、生物の全遺伝的相補物を規定するために使用される専門用語であり、そのため、染色体、プラスミド、プロファージ及び任意の他のDNAを含む。
【0020】
「グラム陽性細菌」は、特定の細胞壁染色特性に基づいて一つのグループにまとめられる特定のクラスの細菌を規定する専門用語である。
【0021】
「低G+Cグラム陽性細菌」は、DNA中の塩基の組成に基づいてグラム陽性細菌内の進化的に関連する特定のサブクラスの細菌を規定する専門用語である。このサブクラスは、連鎖球菌(Streptococcus spp.)、ブドウ球菌(Staphylococcus spp.)、リステリア(Listeria spp.)、バチルス(Bacillus spp.)、クロストリジウム(Clostridium spp.)、腸球菌(Enterococcus spp.)及びラクトバチルス(Lactobacillus spp.)を含む。
【0022】
「高G+Cグラム陽性細菌」は、DNA中の塩基の組成に基づいてグラム陽性細菌内の進化的に関連する特定のサブクラスの細菌を規定する専門用語である。このサブクラスは、アクチノミセス(Actinomyces spp.)、アルスロバクター(Arthrobacter spp.)、コリネバクテリウム(Corynebacterium spp.)、フランキア(Frankia spp.)、ミクロコッカス(Micrococcus spp.)、ミクロモノスポラ(Micromonospora spp.)、マイコバクテリア(Mycobacterium spp.)、ノカルジア(Nocardia spp.)、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium spp.)及びストレプトマイセス(Streptomyces spp.)を含む放線菌(放線細菌(actinobcteria))を含む。
【0023】
「グラム陰性細菌」は、特定の細胞壁染色特性に基づいて一つのグループにまとめられる特定のクラスの細菌を規定する専門用語である。グラム陰性細菌属としては、例えば、クレブシエラ(Klebsiella)、アシネトバクター(Acinetobacter)、エシェリキア(Escherichia)、シュードモナス(Pseudomonas)、エンテロバクター(Enterobacter)及びナイセリア(Neisseria)が挙げられる。
【0024】
本明細書において、「必須遺伝子」は、すべての条件下又は使用される増殖条件下で産物が生存に必須である特定のクラスの遺伝子を規定する専門用語である。必須遺伝子の重要なサブクラスは、重要な増殖条件下(例えば、病原菌の場合には、宿主における感染又は分裂増殖の際に支配的である条件下)で生存に必須である代謝プロセスに寄与する産物(例えば、タンパク質、ペプチド及び調節性ポリヌクレオチド)をコードするものである。
【0025】
抗生物質及び抗生物質標的:
本発明の試験培養物を得るために使用される抗生物質は、典型的には、作用機序(ひいては生物学的標的)が未知である、試験中の新規の抗生物質(抗細菌性化学療法剤)である。多くの適用では、抗生物質は、コンビナトリアルライブラリー、天然物ライブラリー、定義された化学実体、ペプチド、ペプチドミメティクス及びオリゴヌクレオチドから選択される。
【0026】
本発明に従って同定される抗生物質標的は必須遺伝子/遺伝子産物であり、したがって、細菌宿主における以下の生物学的プロセスのうちの1種又は複数に関与し得る。
(a)細胞分裂;
(b)DNA複製(重合及びスーパーコイル形成を含む);
(c)転写(プライミング、伸長及び終結を含む);
(d)翻訳(リボソーム構成要素、開始、伸長及び放出を含む);
(e)生合成経路(ペプチドグリカン及び脂肪酸を含む);
(f)プラスミドアディクション;
(g)細胞壁構築;及び/又は
(h)細菌細胞完全性
【0027】
本発明の方法において使用するための細菌:
本発明の方法は、任意の細菌において抗生物質標的を同定するために適用され得る。すなわち、本発明の方法は、(a)グラム陽性、グラム陰性及び/又はグラム可変性細菌、(b)胞子形成菌、(c)非胞子形成菌、(d)糸状性細菌、(e)細胞内細菌、(f)偏性好気性細菌、(g)偏性嫌気性細菌、(h)通性嫌気性細菌、(i)微好気性細菌、及び/又は(f)日和見細菌性病原体における抗生物質標的の同定に適用される。
【0028】
特定の実施形態において、本発明の方法は、以下の属の細菌において抗生物質標的を同定するために適用される。
アシネトバクター(例えば、A.バウマニ(A.baumannii));エーロモナス(Aeromonas)(例えば、A.ハイドロフィラ(A.hydrophila));バチルス(例えば、B.アントラシス(B.anthracis));バクテロイデス(例えば、B.フラジリス(B.fragilis));ボルデテラ(Bordetella)(例えば、B.パータシス(B.pertussis));ボレリア(Borrelia)(例えば、B.ブルグドルフェリ(B.burgdorferi));ブルセラ(Brucella)(例えば、B.アボルタス(B.abortus)、B.カニス(B.canis)、B.メリテンシス(B.melitensis)及びB.スイス(B.suis));バークホルデリア(Burkholderia)(例えば、B.セパシア複合体(B.cepacia complex));カンピロバクター(Campylobacter)(例えば、C.ジェジュニ(C.jejuni));クラミジア(Chlamydia)(例えば、C.トラコマチス(C.trachomatis、C.スイス(C.suis)及びC.ムリダルム(C.muridarum));クラミドフィラ(Chlamydophila)(例えば(例えば、C.ニューモニエ(C.pneumoniae)、C.ペコルム(C.pecorum)、C.シタッシ(C.psittaci)、C.アボルタス(C.abortus)、C.フェリス(C.felis)及びC.キャビエ(C.caviae));シトロバクター(Citrobacter)(例えば、C.フロインディ(C.freundii));クロストリジウム(例えば、C.ボツリヌス(C.botulinum)、C.ディフィシレ(C.difficile)、C.パーフリンジェンス(C.perfringens)及びC.テタニ(C.tetani));コリネバクテリウム(Corynebacterium)(例えば、C.ジフテリエ(C.diphteriae)及びC.グルタミクム(C.glutamicum));エンテロバクター(例えば、E.クロアカ(E.cloacae)及びE.エロゲネス(E.aerogenes));エンテロコッカス(Enterococcus)(例えば、E.フェカリス(E.faecalis)及びE.フェシウム(E.faecium));エシェリキア(例えば、E.コリ(E.coli));フラボバクテリウム(Flavobacterium);フランシセラ(Francisella)(例えば、F.ツラレンシス(F.tularensis));フソバクテリウム(Fusobacterium)(例えば、F.ネクロホラム(F.necrophorum));ヘモフィルス(Haemophilus)(例えば、H.ソムナス(H.somnus)、H.インフルザエ(H.influenzae)及びH.パラインフルエンザH.parainfluenzae));ヘリコバクター(Helicobacter)(例えば、H.ピロリ(H.pylori));クレブシエラ(例えば、K.オキシトカ(K.oxytoca)及びK.ニューモニエ(K.pneumoniae))、レジオネラ(Legionella)(例えば、L.ニューモフィラ(L.pneumophila));レプトスピラ(Leptospira)(例えば、L.インターロガンス(L.interrogans));リステリア(例えば、L.モノサイトゲネス(L.monocytogenes));モラクセラ(Moraxella)(例えば、M.カタラーリス(M.catarrhalis));モルガネラ(Morganella)(例えば、M.モルガニー(M.morganii));マイコバクテリウム(Mycobacterium)(例えば、M.レプレ(M.leprae)及びM.ツベルクローシス(M.tuberculosis));マイコプラズマ(Mycoplasma)(例えば、M.ニューモニエ(M.pneumoniae));ナイセリア(例えば、N.ゴノレー(N.gonorrhoeae)及びN.メニンギティディス(N.meningitidis));パスツレラ(Pasteurella)(例えば、P.マルトシダ(P.multocida));ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus);プレボテラ(Prevotella);プロテウス(Proteus)(例えば、P.ミラビリス(P.mirabilis)及びP.ブルガリス(P.vulgaris))、シュードモナス(例えば、P.エルギノーサ(P.aeruginosa));リケッチア(Rickettsia)(例えば、R.リケッチイ(R.rickettsii));サルモネラ(Salmonella)(例えば、血清型、チフィ(Typhi)及びチフィムリウム(Typhimurium));セラチア(Serratia)(例えば、S.マルセセンス(S.marcesens));シゲラ(Shigella)(例えば、S.フレクスナリア(S.flexnaria)、S.ダイセンテリエ(S.dysenteriae)及びS.ソネイ(S.sonnei));スタフィロコッカス(Staphylococcus)(例えば、S.アウレウス(S.aureus)、S.ヘモリチカス(S.haemolyticus)、S.インターメディウス(S.intermedius)、S.エピデルミデス(S.epidermidis)及びS.サプロフィリカス(S.saprophyticus));ステノトロホモナス(Stenotrophomonas)(例えば、S.マルトフィリア(S.maltophila));ストレプトコッカス(Streptococcus)(例えば、S.アガラクチア(S.agalactiae)、S.ミュータンス(S.mutans)、S.ニューモニエ(S.pneumoniae)及びS.ピオゲネス(S.pyogenes));トレポネーマ(Treponema)(例えば、T.パリダム(T.pallidum));ビブリオ(Vibrio)(例えば、V.コレラ(V.cholerae));及びエルシニア(Yersinia)(例えば、Y.ペスティス(Y.pestis))。
【0029】
本発明の方法は、多剤耐性細菌、これらに限られないが、例えばペニシリン耐性、メチシリン耐性、キノロン耐性、マクロライド耐性及び/又はバンコマイシン耐性細菌株(例えば:ペニシリン−、メチシリン−、マクロライド−、バンコマイシン−及び/又はキノロン耐性ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae);ペニシリン−、メチシリン−、マクロライド−、バンコマイシン−及び/又はキノロン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus);ペニシリン−、メチシリン−、マクロライド−、バンコマイシン−及び/又はキノロン耐性ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes);並びにペニシリン−、メチシリン−、マクロライド−、バンコマイシン−及び/又はキノロン耐性腸球菌)において抗生物質標的を同定するために使用され得る。
【0030】
すなわち、本発明の方法は、例えば、C−MSRA1、C−MRSA2、C−MRSA3、C−MSRA4、ベルギーMRSA、スイスMRSAのいずれか及びEMRSA株のいずれかから選択されるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)において抗生物質標的を同定するために使用され得る。
【0031】
本発明の化合物は、高G+Cグラム陽性細菌及び低G+Cグラム陽性細菌の両方において抗生物質標的を同定するために使用され得る。
【0032】
本発明の方法は、クレブシエラ・ニューモニエ、アシネトバクター・バウマニ、エシェリキア・コリ(ST131を含む)、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、シュードモナス・エルギノーサ、エンテロバクター・クロアカ、エンテロバクター・エロゲネス及びナイセリア・ゴノレーから選択される細菌において抗生物質標的の同定において特に適用される。
【0033】
クレブシエラ・ニューモニエ、アシネトバクター・バウマニ又はE.コリにおいて抗生物質標的を同定する方法が特に好ましい。
【0034】
変異体プール:
本発明の方法は、トランスポゾン突然変異誘発によって変異細菌のプールを生成することを含む。変異体プールのサイズは方法の分解能に影響を及ぼす。プールサイズが増大するほど、Tn挿入を有する多くの異なる遺伝子が現れる(そのため効果的にアッセイされる)。プールサイズが減少するほど、方法の分解能が低下し、遺伝子はあまり有効にはアッセイされず、多くの遺伝子が全くアッセイされなくなる。
【0035】
理想的には、本発明の方法において生成された変異体プールは、すべての遺伝子への挿入が現れるという意味で包括的である。これを達成するために必要なTn挿入変異体の数(すなわち、変異体プールのサイズ)は、(a)細菌ゲノムのサイズ、(b)遺伝子の平均サイズ、及び(c)Tn挿入部位バイアスを含む種々の因子によって決まる。
【0036】
細菌ゲノムの一部の領域は低頻度の挿入を招く(特にGCリッチ領域)。したがって、挿入抵抗性の領域への挿入が確実になされる程度に大きい挿入頻度及びプールサイズが好ましい。
【0037】
概して、包括的プール/ライブラリーを達成するには、25bp当たり1トランスポゾンの最小挿入率が必要であり、これは、典型的には、4〜7Mbのゲノムサイズを有する細菌に関しては、0.5×10〜1×10、例えば5×10、好ましくは少なくとも約1×10個の変異体の最小プールサイズを必要とする。多くの場合、1×10個の変異体は約300,000の異なる挿入部位の同定を可能にし、13〜23bpごとに1トランスポゾン挿入(又は遺伝子当たり約40〜70の異なる挿入部位)に対応する。
【0038】
しかし、本発明の方法は、抗生物質薬物標的の同一性について有用な情報を戻すために、(前述の意味での)包括的変異体プールを必ずしも要しない。むしろ、分解能の低減(及び、それに伴って、特定の遺伝子がアッセイできないこと)が許容される限り、理想的な包括的プール未満のプールサイズが使用され得る。このことは、例えば、標的が同定されるまで反復して実行されるように本発明の方法が設計されている場合に当てはまり得る。そのような実施形態では、方法を繰り返すごとに有効なプールサイズが増大する。
【0039】
トランスポゾン突然変異誘発:
トランスポゾンは、他のポリヌクレオチドにそれ自体のコピーを挿入できるポリヌクレオチドであり、転移因子と呼ばれることもある。「トランスポゾン」という語は当業者に周知であり、配列構成に基づいて区別され得る複数のクラスのトランスポゾン、例えば:各末端の短い逆方向反復配列;直接反復されている長い末端反復配列(LTR);及び5’末端がしばしば切断されているRNA転写物の3’末端のポリAを包含する。
【0040】
トランスポソームは、トランスポゾンがトランスポサーゼをコードしていないトランスポサーゼ−トランスポゾン複合体である。したがって、挿入されると、トランスポゾンは安定である。変異体プールの安定性を確実にするには、トランスポゾンは、以下に記載されるように、トランスポサーゼをコードせず、トランスポソームの形態で(すなわち、トランスポサーゼ酵素との複合体として)提供されるのが好ましい。
【0041】
本明細書において、「活性化トランスポゾン」(以下「Tn」と略す。)とは、トランスポゾン挿入が挿入部位又はその付近の遺伝子の転写を増大させるようなプロモーターを含むトランスポゾンを意味する。そのようなトランスポゾンの例は、Troeschelら(2010年)Methods Mol Biol.668:117〜39頁及びKimら(2008年)Curr Microbiol.57(4):391〜394頁に記載されている。
【0042】
活性化トランスポゾン/トランスポソームは、当業者に周知である種々の標準的な方法のいずれかによって細菌ゲノム(染色体DNA及び/又はプラスミドDNAを含む)に導入され得る。例えば、Tnトランスポソームは、エレクトロポレーション(又は任意の他の適当な形質転換法)によって導入され得る。
【0043】
形質転換法は、形質転換体1×10〜5×10個/1ng DNAを生じることが好ましく、そのような形質転換効率は、概して、エレクトロポレーションを用いて達成可能である。
【0044】
あるいは、Tnを用いたトランスポゾン突然変異誘発はin vitroで実施され、組換え分子は細菌細胞に形質転換/トランスフェクトされ得る。そのような実施形態では、トランスポソームは、市販のトランスポサーゼ酵素をトランスポゾンDNA断片と混合することによって標準プロトコールに従って調製され得る。次いで、得られたトランスポソームを対象プラスミドのプラスミドDNAと混合して転移を可能にし、次いで、電気的形質転換を用いてDNAを宿主細菌株に導入し、プラスミドトランスポゾン変異体のプールを得る。
【0045】
突然変異誘発がin vitroで実施される実施形態では、in vitroでトランスポソームをゲノムDNAと混合し、次いで、突然変異誘発されたDNAを(任意選択で断片化及び/又は環状化後に)宿主細菌株に(例えばエレクトロポレーションによって)導入する(すぐに内因性組換え機構によってゲノム中に組み込まれる。)ことが可能である。そのようなアプローチは、天然でコンピテントである細菌(例えばアシネトバクター)、及び/又は相同乗り換え(例えば二重乗り換え)による組換えによってDNAを組み込むことができる細菌の場合には特に有用であり得る。
【0046】
本発明の方法において使用するための活性化トランスポゾン:
任意の適当な活性化トランスポゾンが本発明の方法において使用され得る。適当なトランスポゾンとしては、Tn3及びTn3様(クラスII)トランスポゾン(例えば、γδ(Tn1000)、Tn501、Tn2501、Tn21、Tn917、及びその関連物)に基づくものが挙げられる。また、Tn10、Tn5、TnphoA、Tn903、バクテリオファージMu、及び関連する転移性バクテリオファージが挙げられる。また、種々の適当なトランスポゾン(例えば、EZ−Tn5(商標)<R6Kyori/KAN−2>トランスポゾン)が市販されている。
【0047】
好ましいトランスポゾンは、抗生物質耐性遺伝子(これは、トランスポゾンを保持する変異体の同定において有用であり得る。)を保持するもの(例えば、Tn5、Tn10、TnphoA)である。例えば、Tn10は、そのISエレメント間にテトラサイクリン耐性遺伝子を保持し、Tn5は、カナマイシン、ストレプトマイシン及びブレオマイシンに対する耐性を付与するポリペプチドをコードする遺伝子を保持する。他の適当な耐性遺伝子としては、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(クロラムフェニコールに対する耐性を付与する。)を含むものが挙げられる。
【0048】
もちろん、ISエレメント間に抗生物質耐性遺伝子の種々の組み合わせを挿入することによって、あるいは(好ましくは)トランスポゾンモザイク末端間に抗生物質耐性遺伝子の組み合わせを挿入することによって、あるいはトランスポゾンのポリヌクレオチド配列を変更することによって、例えば、抗生物質耐性遺伝子のコーディング領域において、又はトランスポゾン中の他の場所において、重複塩基置換又はトランスポゾンの転移若しくは抗生物質耐性に影響を与えない他の任意の塩基置換を行うことによって、新規トランスポゾンを生成することが可能である。そのようなトランスポゾンは本発明の範囲に含まれる。
【0049】
多くの実施形態では、変異体プールを生成するために単一トランスポゾンが使用される。しかし、前述のように、包括的プール又はライブラリーを達成するのに必要なTn挿入変異体の数(すなわち、変異体プールのサイズ)は、とりわけTn挿入部位バイアスによって決まる。したがって、トランスポゾン挿入部位バイアスが生じる場合には、挿入部位バイアスを低減又は除去するために2種以上の異なるトランスポゾンを使用してもよい。例えば、Tn5及びTn10に基づく2種の異なるトランスポゾンの組み合わせを使用してもよい。
【0050】
活性化トランスポゾンにおいて使用するためのプロモーター:
Tn中に存在するプロモーターの性質は、トランスポゾンの性質及び最終細菌宿主に依存している。概して、挿入部位の付近の、又はそれに隣接するDNAの高レベル転写を駆動する効率的な外向きプロモーターが選択される。
【0051】
プロモーターとしては、例えば、(a)プリブノーボックス(−10エレメント)、(b)−35エレメント、及び/又は(c)UPエレメントが挙げられる。
【0052】
例えば、lacプロモーターをEZ−Tn5(商標)<R6Kγori/KAN−2>トランスポゾンとともに使用してもよく、そのような構築物は、例えば、E.コリ、エンテロバクター、及び腸内細菌科の他のメンバー(例えばクレブシエラ)のアッセイに適している。他の適当なプロモーターとしては、rplJ(リボソーム大サブユニットタンパク質;中程度の強度のプロモーター);tac(人工lac/trpハイブリッド;強力なプロモーター)、及びrrnB(リボソームRNA遺伝子プロモーター;極めて強力なプロモーター)が挙げられる。これらのプロモーターの配列は以下に示す通りである。
【0053】
【化1】
【0054】
Tn挿入の分布の決定:
トランスポゾン挿入の分布は、Tn挿入部位に隣接した又はその付近(5’及び/又は3’)の細菌DNAを配列決定することによって(例えば、Tn−ゲノムDNA接合部を含むDNAを配列決定することによって)決定されることが好ましい。典型的には、Tnの一方の端部若しくは両端にフランキングするか、又はそれに隣接する細菌DNAを配列決定する。
【0055】
配列決定される隣接DNAの長さは広範である必要はなく、比較的短いことが好ましい(例えば、200塩基対未満)。
【0056】
種々の方法を使用し、DNA配列決定法を用いてTn挿入分布を決定できる。そのような方法は近年Tn−seq法と呼ばれている(van Opijnenら(2009年)Nat.Methods 6:767〜772頁)。例えば、Tn−seq法は、増幅されたTn接合部のアフィニティ精製(Gawronskiら(2009年)PNAS 106:16422〜16427頁);特殊化した制限部位を使用する、トランスポゾンの末端から遠位のゲノム配列へのアダプターのライゲーション(Goodmanら(2009年)Cell Host Microbe 6:279〜289頁;van Opijnenら(2009年)Nat.Methods 6:767〜772頁);選択的増幅(Langridgeら(2009年)Genome Research 19:2308〜2316頁);及び、エキソヌクレアーゼ消化によるゲノムDNAの除去後の増幅及び配列決定のための鋳型として機能する、Tn接合部を有する一本鎖DNA環の生成(Gallagherら(2011年)mBio 2(1):e00315〜10)を含む。
【0057】
任意の適当なハイスループット配列決定法を使用してもよく、本発明の方法において使用するのに適した多くの市販の配列決定プラットフォームがある。合成による配列決定(Sequencing−by−synthesis(SBS))に基づく配列決定プラットフォームは、本発明の方法において使用するのに特に適している。例えば、イルミナ(Illumina)(商標)システムは数百万の比較的短い配列リード(54、75又は100bp)を生成するものであり、特に好ましい。
【0058】
他の適当な方法としては、可逆的ダイターミネーターに基づく方法が挙げられる。ここでは、DNA分子をまずスライド上でプライマーに結合させ、局所クローンコロニーが形成されるように増幅させる(ブリッジ増幅)。4種のddNTPを加え、組み込まれていないヌクレオチドを洗い流す。パイロシークエンシングとは異なり、DNAは一度に1ヌクレオチドのみ伸長され得る。カメラによって、蛍光標識されたヌクレオチドの像をとり、次いで、末端3’ブロッカーとともに色素をDNAから化学的に除去する(これにより次のサイクルが可能となる)。
【0059】
短い配列リードを可能にする他のシステムとしては、ソリッド(SOLiD)(商標)法及びIon Torrent法(両方とも、アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)(商標)によって販売されている。)が挙げられる。ソリッド(商標)法はライゲーションによる配列決定を使用する。ここでは、固定された長さのすべてのあり得るオリゴヌクレオチドのプールを、配列決定された位置に従って標識する。オリゴヌクレオチドがアニーリングされ、ライゲートされる。配列を対応させるためのDNAリガーゼによる選択的なライゲーションは、その位置のヌクレオチドの情報を与えるシグナルをもたらす。配列決定の前に、エマルジョンPCRによってDNAを増幅する。得られたビーズ(各々が同一DNA分子のコピーのみを有する。)をガラススライド上に付着させる。結果は、イルミナ配列決定に匹敵する量及び長さの配列である。
【0060】
Ion Torrent Systems Inc.は、標準配列決定化学の使用に基づくが、新規半導体に基づく検出システムを有するシステムを開発した。この配列決定法は、他の配列決定システムにおいて使用される光学的方法とは対照的に、DNAの重合の際に放出される水素イオンの検出に基づく。配列決定される鋳型DNA鎖を含有するマイクロウェルを単一種のヌクレオチドで満たす。導入されたヌクレオチドがリーディング鋳型ヌクレオチドと相補的である場合には、伸びている相補鎖中に組み込まれる。これは、高感度イオンセンサーを作動させる水素イオンの放出を引き起こす。これは反応が起きたことを示す。ホモポリマーリピートが鋳型配列中に存在する場合には、単一サイクルで複数のヌクレオチドが組み込まれる。これは、対応する数の放出水素及び比例的に高い電気信号をもたらす。
【0061】
推定必須遺伝子の機能評価:
試験培養物間でTn挿入の分布を比較することによって同定された推定必須遺伝子を、その機能を直接的又は間接的に評価する種々の技術によってさらに特性決定してもよい。そのような方法では、必須の機能が前記推定必須遺伝子に明確に割り当てられ得る。
【0062】
適当な技術としてバイオインフォマティクスが挙げられる。そこでは、アッセイされる細菌及び/又は他の種から得た情報を含有する配列データベースを、推定必須遺伝子の(全又は部分)配列を用いて調べ、必須の生化学的機能がすでに割り当てられている、及び/又は必須であることが明らかになっている遺伝子(例えば、他の種におけるオーソロガス遺伝子)を同定する。
【0063】
適当なバイオインフォマティクスプログラムは当業者に周知である。例えば、Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)プログラム(Altschulら(1990年) J.Mol.Biol.215:403〜410頁及びAltschulら(1997年) Nucl.Acids Res.25:3389〜3402頁)が挙げられる。適当なデータベースとしては、例えば、EMBL、GENBANK、TIGR、EBI、SWISS−PROT、及びtrEMBLが挙げられる。
【0064】
あるいは、又はさらに、先行技術文献(例えば、Gawronskiら(2009年)PNAS 106:16422〜16427頁;Goodmanら(2009年)Cell Host Microbe 6:279〜289頁;van Opijnenら(2009年)Nat.Methods 6:767〜772頁;Langridgeら(2009年)Genome Research 19:2308〜2316頁;Gallagherら(2011年) mBio 2(1):e00315〜10頁)に記載されている従来のTn−seq法及び/又はWO01/07651(その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。)に記載されている技術を用いて先に構築されている必須遺伝子の同定についての情報を含有する配列データベースを、推定必須遺伝子の(全又は部分)配列を用いて調べる。
【0065】
あるいは、又はさらに、必須性は、推定必須遺伝子が抗生物質耐性遺伝子として作用する可能性を排除することによって帰属され得る。例えば、Gawronskiら(2009年)PNAS 106:16422〜16427頁;Goodmanら(2009年)Cell Host Microbe 6:279〜289頁;Langridgeら (2009年)Genome Research 19:2308〜2316頁又はGallagherら(2011年)mBio 2(1):e00315〜10に記載されたTn−seq法を用いて抗生物質耐性遺伝子として先に同定された遺伝子の配列情報を含有する配列データベースを、推定必須遺伝子の(全又は部分)配列を用いて調べる。抗生物質耐性遺伝子は、そのような方法において、ニッチ特異的な/条件つきで必須の遺伝子のクラスとして同定され得る。
【0066】
挿入配列内のプロモーターの存在にもかかわらず、多くのTn挿入が遺伝子/DNA機能を破壊し、標準Tn−seq(TraDISを含む)におけるように、必須の/重要なDNA領域の同定を可能にする。しかし、一部のトランスポゾンは特定の重要なDNA領域に関して適切に配置され、それにより、挿入プロモーターによって駆動されるそれらの特定の領域の転写が内因性転写と比較して大幅に増強される。抗生物質濃度を増加させながら変異体プールを増大させること及び配列決定を反復することによって、リード数の変化を観察することが可能となる。それは、どのDNA領域が抗生物質に対する生存力に寄与するかだけでなく、相対的寄与も示す。高レベルの特定の抗生物質標的転写(トランスポゾンによって挿入されたプロモーターによって駆動される。)は抗生物質における細菌生存に有利に働き、挿入部位をDNA領域に接近させることによって両者を結び付ける。
【0067】
特異的抗生物質標的を同定するために、挿入プロモーターの位置を、関連する下流DNA配列の転写の増大へのその寄与に関して評価することができる。この技術の数学的/技術的に複雑でないバイオインフォマティクス構成要素によって、推定抗生物質標的遺伝子の転写への挿入プロモーター配列の寄与の認識が可能となる。例えば、抗生物質標的部分遺伝子産物の転写は抗生物質耐性を付与するのに十分であり得、バイオインフォマティクス分析によって説明が可能である。例えば、部分遺伝子転写物は、依然として、末端切断型で機能的に必須のタンパク質の翻訳を可能にするのに十分な情報をコードし得る。バイオインフォマティクスは、挿入トランスポゾンに隣接する遺伝子の下流の遺伝子に対する転写リードスルーの効果を考慮することを可能にする。ここでは明確なRNA転写終結配列はない。
【0068】
例えば、遺伝子A、B及びCの上流のトランスポゾン/プロモーターは3種の遺伝子(A〜C)のすべてのポリシストロン性転写物を生成する可能性があり、Bの上流のそれは遺伝子B及びCのポリシストロン性転写物を生成する可能性があり、Cの上流のそれは遺伝子Cのみを生成する可能性がある。抗生物質において、最初の2種のトランスポゾンのリードが多く、かつ第3のものが少ない場合は、抗生物質標的は遺伝子Bとなる。
【0069】
補助的分析法:
本発明の方法は、抗生物質標的が、標的デコンボリューションに使用されるレベルで抗生物質との結合キネティクスにおいて寄与し、重要な役割を果たすレベルまで過剰発現する場合に特に適用される。すなわち、本発明の方法は、抗生物質が単量体高分子と結合し、その機能を改変する場合に、抗生物質標的に理想的に適している。しかし、抗生物質標的が三元複合体でのみ利用可能な場合で、過剰発現から供給される追加の標的が有効なシンクとして機能せず、そのため抗生物質の効果を改変しない場合は、感受性が低下する可能性がある。
【0070】
したがって、一部の状況では、本発明の方法は、以下に記載されるような、必須遺伝子、条件つき必須遺伝子、非必須遺伝子、及び/又は抗生物質の標的として機能する必須遺伝子を同定するための他の補完的技術とともに使用され得る。
【0071】
(a)補完された配列決定:
本発明の方法は、
(a)前記細菌の抗生物質耐性変異体を、前記抗生物質の存在下での増殖について選択行って抗生物質耐性変異体クローン(Ab変異体)を得るステップを含む方法によって生成するステップと、
(b)(i)前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子と、(ii)細菌DNAを挿入により不活性化するトランスポゾンと、でAb変異体を形質転換して、前記1つ又は複数の必須遺伝子について部分二倍体であるトランスポゾン変異体のプールを得るステップと、
(c)種々の量の前記抗生物質の存在下で部分二倍体プールから細菌を増殖させて2種以上の試験培養物を得るステップと、
(d)試験培養物間でトランスポゾン挿入の分布を比較して、前記細菌において前記抗生物質の標的として機能する推定必須遺伝子を同定するステップと、
を任意選択でさらに含み得る。
【0072】
1つ又は複数の必須遺伝子について部分二倍体である抗生物質耐性変異体から生成されたトランスポゾン変異体プールを使用すると、(抗生物質標的として機能するものを含む)必須遺伝子へのトランスポゾン挿入が確実に最初の変異体プールにおいて現れるようになる。これは、抗生物質標的遺伝子へのトランスポゾン挿入が、非選択条件下(必須遺伝子の野生型コピーが、挿入により不活性化された変異体コピーを補完する場合)では生存可能な表現型をもたらすが、選択条件下(野生型コピーが、挿入により不活性化された変異体コピーを補完しない場合)ではそうでないからである。
【0073】
したがって、抗生物質を用いて又は用いずに部分二倍体変異体プールを増殖させた後のトランスポゾン分布の相違は容易に検出され得、それによって、抗生物質標的として機能する必須遺伝子の同定が可能になる。
【0074】
上記の任意選択のさらなるステップに関して以下のことがいえる。
部分二倍体プールは少なくとも0.5×10個の変異体、例えば少なくとも1×10個の変異体を含み得る。
部分二倍体プールは少なくとも5×10個の変異体を含み得る。
部分二倍体プールは少なくとも1×10個の変異体を含み得る。
部分二倍体プールは0.5×10〜2×10個の変異体を含み得る。
部分二倍体プールは約1×10個の変異体を含み得る。
ステップ(b)におけるトランスポゾンでの形質転換は、細菌DNAの50塩基対当たり少なくとも1つのトランスポゾン、細菌DNAの30塩基対当たり少なくとも1つのトランスポゾン、細菌DNAの25塩基対当たり少なくとも1つのトランスポゾン、細菌DNAの15塩基対当たり少なくとも1つのトランスポゾン又は細菌DNAの10塩基対当たり少なくとも1つのトランスポゾンの挿入率をもたらし得る。
ステップ(b)の細菌DNAは、染色体DNA、プラスミドDNA又は染色体及びプラスミドDNAの混合物であり得、全細菌ゲノムを含み得る。
AbR変異体は、前記細菌を突然変異誘発するステップを、前記抗生物質の存在下の増殖についての選択の前にさらに含む方法によって生成され得る。
突然変異誘発ステップは、(a)化学的突然変異誘発及び/又は(b)放射線突然変異誘発であり得る。
細菌はグラム陽性細菌であり得る。
細菌は、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム及びナイセリア・ゴノレーから選択され得る。
細菌はグラム陰性細菌であり得る。
細菌は、クレブシエラ・ニューモニエ、アシネトバクター・バウマニ、エシェリキア・コリ、E.コリST131株、シュードモナス・エルギノーサ、エンテロバクター・クロアカ、エンテロバクター・エロゲネス及びナイセリア・ゴノレーから選択され得る。
ステップ(c)において、細菌は、部分二倍体プールから得た10〜10cfu、例えば約10cfuを増殖培地に接種することによって部分二倍体プールから増殖し得る。
ステップ(c)では、少なくとも2種の試験培養物が生成され得、1種は抗生物質の非存在下で増殖したものであり、1種は(例えば約1〜約4×MICの濃度の)抗生物質の存在下で増殖したものである。
試験培養物のトランスポゾン挿入の分布は、トランスポゾン挿入部位に隣接した又はその付近のDNAを配列決定することによって比較され得る。
挿入部位に隣接した又はその付近のDNAの配列決定はトランスポゾン−細菌DNA接合部の選択的増幅を含み得る。
配列決定は、合成による配列決定(SBS)の生化学を含み得る。
挿入部位に隣接した又はその付近のDNAの約25、50、75、100塩基対又は100を超える塩基対が配列決定され得る。
配列決定されるDNAは挿入部位の5’及び/又は3’であり得る。
本発明の方法は、前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子との配列比較によって、例えば、トランスポゾン指向性挿入部位配列決定によって、前記推定必須遺伝子に必須の機能を割り当てるステップをさらに含み得る。
本発明の方法は、抗生物質耐性遺伝子ではないことを決定することによって、例えば、挿入の際に不活性化するトランスポゾンを用いたトランスポゾン指向性挿入部位配列決定によって抗生物質耐性遺伝子を同定するステップを含む方法によって、必須の機能を前記推定必須遺伝子に割り当てるステップをさらに含み得る。
ステップ(b)の1つ又は複数の必須遺伝子は、発現ベクター上で、又は形質転換後に細菌染色体中に挿入される組込み発現ベクター上で、又は形質転換後に染色体外で安定に維持される単一又は低コピー数発現ベクター上で提供され得る。
発現ベクターは、前記細菌の天然染色体の断片を含有するプラスミドの組み合わせ、又は細菌人工染色体(BAC)であり得る。
ステップ(b)の1つ又は複数の必須遺伝子は直鎖DNA(例えば、前記細菌のゲノムDNAの断片)上で提供され得る。
ステップ(b)の1つ又は複数の必須遺伝子は前記細菌の必須遺伝子のすべて又は所定のサブセットを含み得る。
ステップ(b)の1つ又は複数の必須遺伝子は、前記細菌の少なくとも10、少なくとも20、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250又は少なくとも300の必須遺伝子を含み得る。
ステップ(b)の1つ又は複数の必須遺伝子は、トランスポゾン指向性挿入部位配列決定によって前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子を同定するステップを含む方法によって提供され得る。
ステップ(b)の1つ又は複数の必須遺伝子は、細胞分裂及び/又はDNA複製(例えば、重合又はスーパーコイル形成)及び/又は転写(例えば、プライミング、伸長及び/又は終結)及び/又は翻訳(例えば、リボソーム構成要素をコードする遺伝子、開始、伸長及び/又は放出に関与する遺伝子)及び/又は生合成経路(例えば、ペプチドグリカン及び/又は脂肪酸代謝)に関与する遺伝子から選択され得る。
ステップ(b)では、Ab変異体は、前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子とトランスポゾンとで同時に形質転換され得る。
ステップ(b)では、Ab変異体は、まずトランスポゾンで形質転換され、次いで前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子で形質転換され得る。及び/又は、
ステップ(b)では、Ab変異体は、まず前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子で形質転換され、次いでトランスポゾンで形質転換され得る。
【0075】
Ab変異体が前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子とトランスポゾンとで同時に形質転換されるか、あるいは、まず前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子で形質転換され、次いでトランスポゾンで形質転換される場合には、導入された必須遺伝子への望ましくないトランスポゾン挿入が起こり得、これは、部分二倍体形成の効率を低減させ、そのようなライブラリーから得られたデータの解析を複雑にし得る。
【0076】
Ab変異体を、まずトランスポゾンで形質転換し、次いで前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子で形質転換する場合には、そのような問題は避けられる。しかし、必須遺伝子を導入するために使用されるプロセスの効率に応じて、そのような戦略は、十分な大きさのライブラリーをもたらすのにかなり多くの形質転換実験を必要とし得る。代替的な方法では転移免疫の現象が利用される。ここでは、導入された必須遺伝子への望ましくない転移は、使用される必須遺伝子を有する染色体外DNA(典型的にはプラスミド又はBAC)にトランスポゾンモザイク末端配列を組み込んで部分二倍体を生成することによって除去(又は低減)される。そのような戦略は、以下に記載されるクラスII(Tn3様)トランスポゾン、例えば、Tn3又はその関連物に基づくトランスポゾンとともに使用され得る。
【0077】
(上記の)転移免疫の現象を利用する方法において使用するための適当なトランスポゾンシステムとしては、Tn3及びその関連物に基づくものが挙げられる。例えば、トランスポゾン送達プラスミドpAMICS2(図2参照)は、全Tn3ベースのトランスポゾン生成システム(リゾルバーゼ及びトランスポサーゼ酵素、TnpR及びTnpAをコードする遺伝子を含む)、及びpir遺伝子によって補完される場合にのみ活性であり、したがって、転移後にレシピエント細菌における伝播を妨げる複製起点(oriR6K)を含有する。また、プラスミドは、プラスミド複製に対して許容的である(すなわち、pir遺伝子を含有する)適当なドナー株からの接合による移動を可能にするmobRP4可動化起点を含有する。プラスミドの不用意な伝播もトブラマイシン耐性遺伝子(aacA4)の存在によって検出され得る。
【0078】
他の適当なトランスポゾンとしては、Tn3及びTn3様(クラスII)トランスポゾン(例えば、γδ(Tn1000)、Tn501、Tn2501、Tn21、Tn917、及びその関連物)に基づくものが挙げられる。また、Tn10、Tn5、TnphoA、Tn903、バクテリオファージMu、及び関連する転移性バクテリオファージが挙げられる。また、種々の適当なトランスポゾン(例えば、EZ−Tn5(商標)<R6Kγori/KAN−2>トランスポゾン)が市販されている。
【0079】
好ましいトランスポゾンは、抗生物質耐性遺伝子(これは、トランスポゾンを保持する変異体の同定において有用であり得る。)を保持するもの(例えば、Tn5、Tn10、TnphoA)である。例えば、Tn10は、そのISエレメント間にテトラサイクリン耐性遺伝子を保持し、Tn5は、カナマイシン、ストレプトマイシン及びブレオマイシンに対する耐性を付与するポリペプチドをコードする遺伝子を保持する。他の適当な耐性遺伝子としては、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(クロラムフェニコールに対する耐性を付与する。)を含むものが挙げられる。
【0080】
もちろん、ISエレメント間に抗生物質耐性遺伝子の種々の組み合わせを挿入することによって、あるいは(好ましくは)トランスポゾンモザイク末端間に抗生物質耐性遺伝子の組み合わせを挿入することによって、あるいはトランスポゾンのポリヌクレオチド配列を変更することによって、例えば、抗生物質耐性遺伝子のコーディング領域において、又はトランスポゾン中の他の場所において、重複塩基置換又はトランスポゾンの転移若しくは抗生物質耐性に影響を与えない他の任意の塩基置換を行うことによって、新規トランスポゾンを生成することが可能である。そのようなトランスポゾンは本発明の範囲に含まれる。
【0081】
多くの実施形態では、変異体プールを生成するために単一トランスポゾンが使用される。しかし、前述のように、包括的プール又はライブラリーを達成するのに必要なTn挿入変異体の数(すなわち、変異体プールのサイズ)は、とりわけTn挿入部位バイアスによって決まる。したがって、トランスポゾン挿入部位バイアスが生じる場合には、挿入部位バイアスを低減又は除去するために2種以上の異なるトランスポゾンを使用してもよい。例えば、Tn5及びTn10に基づく2種の異なるトランスポゾンの組み合わせを使用してもよい。
【0082】
すなわち、本発明の方法は、細菌において抗生物質標的として機能する遺伝子(例えば必須遺伝子)を同定するステップを任意選択でさらに含み得、該方法は、
(a)(i)前記細菌の1つ又は複数の必須遺伝子と、(ii)1つ又は複数のトランスポゾン反復配列と、を含む染色体外要素(例えば、プラスミド又はBAC)で細菌を形質転換して、前記1つ又は複数の必須遺伝子について部分二倍体である細菌のプールを得るステップと、
(b)(i)トランスポサーゼ及びリゾルバーゼをコードする遺伝子と、(ii)逆方向反復トランスポサーゼ認識部位と、を含むトランスポゾン送達プラスミドでステップ(a)の部分二倍体を形質転換するステップと、
を含み、ステップ(a)の染色体外要素の1つ又は複数のトランスポゾン反復配列は、ステップ(b)のプラスミドによって送達されるトランスポゾンに対するトランスポゾン免疫性を付与する。
【0083】
本発明のこの態様では、トランスポゾン送達システムは、例えば、Tn3 tnpA及びtnpR遺伝子を含有するTn3に基づくことが好ましい。1つ又は複数の抗生物質耐性遺伝子をさらに含むトランスポゾン送達プラスミドが好ましい。
【0084】
(b)Tn−seq:
本発明の方法は、任意選択で、例えば、Gawronskiら(2009年) PNAS 106:16422〜16427頁;Goodmanら(2009年)Cell Host Microbe 6:279〜289頁;Langridgeら(2009年)Genome Research 19:2308〜2316頁又はGallagherら(2011年)mBio 2(1):e00315〜10頁に記載されるTn−seq分析のステップをさらに含み得る。Tn−seq分析と組み合わせて使用される場合には、本発明は、抗生物質標的として機能する必須遺伝子に加えて、(a)必須遺伝子、(b)増殖に有利な(ただし非必須)遺伝子、(c)特定の条件下での増殖に不利な遺伝子、及び(d)特定の条件に対する耐性の付与に関与している遺伝子(「ニッチ特異的」必須遺伝子)をさらに同定できる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を、特定の実施例を参照して説明する。これらは単に例示的なものであり、専ら説明目的のためのものであり、決して、請求される特許の範囲又は記載される本発明に制限を加えることを意図したものではない。これらの実施例は、本発明を実施するために現在考えられるベストモードをなす。
【0086】
エレクトロポレーションのための細菌の調製:
細菌を、2×TYブロスにおいて0.3〜0.5のOD600に増殖させる。次いで、細胞を回収し、元の培養液量の1/2の10%グリセロールで3回洗浄し、元の培養液量の1/1000の10%グリセロールに再懸濁し、−80℃で保存する。
【0087】
トランスポソームの調製:
トランスポゾンDNA(内部lacプロモーターを有するEZ−Tn5(商標)<R6Kγori/KAN−2>)の誘導体を、Pfu Ultra Fusion II DNAポリメラーゼ(Stratagene)とともにオリゴヌクレオチド5’−CTGTCTCTTATACACATCTCCCT及び5’−CTGTCTCTTATACACATCTCTTCを用いて増幅した。あるいは、内部lacプロモーターを(上記の)tacプロモーターと置換してもよい。次いで、得られたアンプリコンを、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs)を用いてリン酸化した。次いで、200ナノグラムのこのDNAをEZ−Tn5(商標)トランスポサーゼ(Epicenter Biotechnologies)とともに37℃で1時間インキュベートし、次いで、20ng/μlのDNA濃度の下、−20℃で保存した。
【0088】
変異細菌プールの生成:
60マイクロリットルの細胞(−80℃で先に保存されていたもの)を、トランスポソーム0.2μl(4ng)、及び必須遺伝子を含む相補プラスミド1μl(20g)と混合し、2.4kV、25μF及び200Ωに設定されたBio−Rad GenePulser IIを用いて2mm電極ギャップキュベット中で電気的形質転換する。細胞をSOC培地(Invitrogen)1mLに再懸濁し、37℃で2時間インキュベートし、次いで、適当な濃度のカナマイシンを添加したL−寒天細菌増殖培地上に広げる。使用されるカナマイシンの濃度は株依存性であり、経験的に決定される。
【0089】
37℃で一晩インキュベートした後、いくつかのプレート上のコロニー数を、その一部をカウントすることによって推定し、これから、すべてのプレート上のコロニーの総数を保守的に推定する。カナマイシン耐性コロニーを、細菌スプレッダーを用いて滅菌脱イオン水に再懸濁することによって回収する。次いで、数回のエレクトロポレーションから得られた再懸濁細胞をプールして、100万を越える変異体を含むと推定される変異体ライブラリー混合物を得る。
【0090】
抗生物質標的遺伝子の同定:
100mlのブロス培地の8種の培養物を調製し、そのうちの6種に二つ組で0.5、1及び2×MICの濃度の試験抗生物質を添加する。この時点で、必要なプロモーター誘導物質も培地に加えて、トランスポゾン配列から染色体DNAに向けられる活発な転写を確実にする。
【0091】
100万個の変異体のトランスポゾン変異体プールを仮定し、10〜10cfuのプールを用いて各培養物に接種する。培養物を静止期まで増殖させ、ゲノムDNA抽出のために細胞を回収する。新鮮な培養物も調製し、最初の培養物から得た10〜10cfuを接種する。これらを静止期まで増殖させ、ゲノムDNA抽出のために細胞を回収する。
【0092】
トランスポゾン挿入部位から開始された配列リードを得るためのTraDIS修飾を導入するイルミナ(商標)プラットフォームを用いてゲノムDNAを配列決定する。次いで、配列リードを細菌ゲノム配列に対してマッピングし、ゲノムアノテーションと比較して、8種の培養物(6種の試験及び2種の対照)の各遺伝子に位置する配列リードの数を決定する。対照データセットの相互の比較及び試験データセットの相互の比較によって実験変動の程度が示される。
【0093】
対照データの試験データセットとの比較によって実験再現性が示され、抗生物質により標的とされる遺伝子が示される。抗生物質標的必須遺伝子内のトランスポゾン挿入からのイルミナ(商標)配列リードは、抗生物質で増殖した細胞において増加する。ここで、プロモーターはこの特定の遺伝子転写の増大を引き起こした。さらに、標的遺伝子からの関連リードカウントは、使用される抗生物質の濃度につれて増大する。
【0094】
抗生物質耐性遺伝子の排除:
従来のトランスポゾン指向性挿入部位配列決定(TraDIS−Langridgeら(2009年)Genome Research 19:2308〜2316頁参照)を使用して、正常条件下での増殖にとって必須ではないが、抗生物質に対する耐性を付与する抗生物質耐性遺伝子(すなわち、Langridgeら(2009年)に記載されている「ニッチ特異的」必須遺伝子のクラス)を同定できる。これによって、以下に記載されるように、候補抗生物質標的遺伝子からの抗生物質耐性遺伝子の除去が可能となる。
【0095】
対象の細菌について、試験される抗生物質のMICを決定する。100mlのブロス培地の4種の培養物を調製し、そのうちの2種に濃度0.5〜0.75×MIC(すなわち、MICの少し下)の抗生物質を添加する。100万の変異体のトランスポゾン変異体プールを仮定し、10〜10cfuのプールを用いて各培養物に接種する。培養物を静止期まで増殖させ、ゲノムDNA抽出のために細胞を回収する。新鮮な培養物も調製し、最初の培養物から得た10〜10cfuを接種する。これらを静止期まで増殖させ、ゲノムDNA抽出のために細胞を回収する。トランスポゾン挿入部位から開始された配列リードを得るためのTraDIS修飾を導入するイルミナ(商標)プラットフォームを用いてゲノムDNAを配列決定する。次いで、配列リードを細菌ゲノム配列に対してマッピングし、ゲノムアノテーションと比較して、4種の培養物(2種の試験及び2種の対照)の各遺伝子に位置する配列リードの数を決定する。
【0096】
対照データセットの相互の比較及び試験データセットの相互の比較によって実験変動の程度が示される。対照データの試験データセットとの比較によって実験再現性が示され、耐性に関与する遺伝子が示される。
【0097】
図1は、サルモネラ・チフィ(Salmonella Typhi)においてシプロフロキサシン耐性に寄与する遺伝子を同定するためのパイロットスタディの結果を示す。グラフは細菌ゲノム中のあらゆる非必須遺伝子のデータを含む。トランスポゾン挿入ライブラリーを次の4条件で増大させた。2種の対照培養物(抗生物質なし)、及び最適濃度以下のシプロフロキサシンを用いた2種の培養物。各点は遺伝子を表し、各遺伝子は3回プロットされている(ctrl1対ctrl2及びCIP1対CIP2=黒色であり、実験変動の程度を示す。CIP平均対ctrl平均=灰色。黒色対照点のクラスターを超えてプロットされている灰色の点は、データが有意な相違を示す遺伝子を表す)。図1において、黒色点の斜め方向のクラスターの下側の灰色点は耐性に寄与する遺伝子である。灰色点は、黒色クラスターから離れたものほど重要なデータである。サルモネラにおいてシプロフロキサシン耐性に寄与することが知られている遺伝子及び耐性に寄与することがこれまで知られていなかった遺伝子がグラフのこの領域中に見られる。黒色クラスターの上側の灰色点は感受性に寄与する遺伝子である。やはり、感受性に寄与することが知られている遺伝子がグラフのこの領域において見られる。このデータは、感受性に寄与することがこれまで知られていなかった遺伝子を同定する。データは、概して十分に明確であり、統計解析は必要ない。
【0098】
均等物:
以上の記載は、本発明の現在の好ましい実施形態を説明したものである。実際には、それらの説明を考慮すれば、当業者はその多くの修正及び改変に想到するものと思われる。そのような修正及び改変は本明細書に添付の特許請求の範囲に包含されるものとする。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]