【実施例】
【0037】
図1は、ポリブタジエンの製造システムの概念図である。製造システムにおける基本的な製造方法について説明する。
【0038】
ブタジエンモノマー溶液からなる重合モノマー調整溶液を連続的に供給する。原料調整槽の前にて水を添加する。次いで、熟成槽の前にてDEAC/TEAのモル比3の割合で助触媒を添加する。その後重合槽にてコバルト系触媒を添加し、重合を行う。
【0039】
ついで、反応停止槽にて、老化防止剤と反応停止剤の混合溶液を添加し、重合を停止させる。これらによって得られたポリマー溶液は、熱風乾燥機で乾燥され、ポリマー製品が得られる。
【0040】
一方で、重合されるモノマーは一部であり、重合されなかったモノマー溶液は再び原料として供給される。
【0041】
以上のように連続的に製造を継続しているうちに、重合槽において触媒失活物質(4-ビニル-1-シクロヘキセン(4-VCH))が発生し、触媒失活物質の影響を受けて、徐々に収率が低下してくる。
【0042】
図2は、実験データに基づき求めた、触媒失活物質発生量と重合活性指数の関係を示す図である。横軸に4-VCH /DEACのモル比、縦軸に重合活性指数を取る。
【0043】
4-VCHの発生量は、重合開始時から随時、ガスクロマトグラフィー(GC)にて測定する。DEACは連続的に一定量供給される。
【0044】
重合活性指数は、失活物質が発生時の収量/失活物質未発生時の収量と定義する。すなわち、失活物質未発生時の重合活性指数を100%とする。
【0045】
ただし、ただ単に助触媒を増量すると、触媒と助触媒のバランスが崩れて、所望の物性の製品が得られない。また、有機アルミニウム化合物は、比較的高価であるので、経済性の観点から闇雲に増量することは好ましくない。したがって、本願発明では、下記の様な工夫をしている。
【0046】
図3は、上記近似曲線に基づいた動作履歴を示す図である。詳細を表1に示す。
【表1】
【0047】
実施例1について説明する。今、近似曲線1において、連続的な製造により、4-VCH /DEAC=2.46まで触媒失活物質が発生し、重合活性指数が80%まで低下したとする。
【0048】
このとき、第1基準値を80%と定めておき、重合活性指数が第1基準値以下となった判断し、16%増量した量の助触媒を連続的に供給する。これにより、近似曲線1から徐々に近似曲線2に移行するものと想定する。触媒失活物質の発生量は直ちに変わらない(不変)と仮定し、助触媒の量が増えるため、4-VCH /DEAC=2.12となる。したがって、近似曲線2において、重合活性指数が95%まで回復する。
【0049】
第2基準値を95%と定めておき、第2基準値以上となったことを確認して、充分な収率回復とみなし、増量を停止する。すなわち、増量前の所定供給量に戻す。なお、重合活性指数と収率は相関関係にある。
【0050】
これにより、製品の物性を変えることなく、収率を回復させることができる。さらに、適切なタイミングで増量を停止するため、無用の助触媒の浪費を抑制できる。
【0051】
実施例2について説明する。より早期の回復を望む場合は、第1基準値を80%以上(例えば90%)と定めてもよい。触媒失活物質が発生し、4-VCH /DEAC=1.23となったときに、重合活性指数が第1基準値(90%)以下となった判断し、16%増量した量の助触媒を連続的に供給する。
【0052】
これにより、近似曲線1から徐々に近似曲線2に移行し、4-VCH /DEAC=1.06となり、理論上、重合活性指数が98%まで回復可能となる。
【0053】
このとき、第2基準値を95%と定めておき、充分な収率回復とみなし、重合活性指数が98%まで回復する前に、増量を停止してもよい。もちろん、第2基準値を98%と定めて、より多くの収率回復を期待してもよい。
【0054】
さらに、第2基準値により判断せず、4-VCH /DEACの減少がなくなったとき(時間微分=0)を増量停止の判断基準としても良い。
【0055】
実施例3(参考例)について説明する。触媒失活物質が発生し、4-VCH /DEAC=7.33となり、重合活性指数が34%まで低下したとする。この時点で、16%増量すると、近似曲線1から徐々に近似曲線2に移行し、4-VCH /DEAC=6.32となり、理論上、重合活性指数が83%まで回復可能となる。
【0056】
ただし、83%程度の回復では実務上不充分とみなされるおそれもある。
【0057】
ところで、助触媒を増量させなかった場合は、近似曲線は移行せず、4-VCH/DEACの割合は高まるばかりであり、重合活性指数は低下する一方である。
【0058】
以上の実施例によれば、重合活性指数が80%に低下するまでに、助触媒増量を開始し、重合活性指数が95%以上に回復したことを確認し、助触媒増量を停止することが好ましい。
【0059】
図4は、本発明を実機に適用したときの結果を説明する図である。横軸に時間(年/月)、縦軸に平均収率(%)を取る。なお、実機では複数の銘柄をランダムに製造しており、銘柄の平均的な生産量に基づいて収率を求めている。
【0060】
99%〜100%の平均収率(%)にて推移していたが、前年4月より平均収率(%)が徐々に低下してきた。そこで、重合活性指数80%(重合活性指数と収率は相関関係にある)となった当年1月に助触媒増量を開始した。
【0061】
助触媒増量を継続したところ、収率回復傾向がみられた。重合活性指数95%まで回復した時点(当年1月)で、助触媒増量を停止した。
【0062】
その後、増量前の所定供給量に戻して、助触媒を供給した。収率ほぼ100%の生産量にて推移した。
【0063】
〜制御システム〜
図5は、増量開始/増量停止の制御システムに係る機能ブロック図である。
【0064】
制御システムは、基準値記憶部11と、失活物質検出部12と、増量開始/停止判断部13と、助触媒供給量調整部14とを備える。
【0065】
基準値記憶部11は、第1基準値および第2基準値を記憶する。第1基準値および第2基準値は、実験データに基づき、予め設定される。
【0066】
失活物質検出部12は、原料調整槽に設けられたガスクロマトグラフィーを介して随時失活物質発生量を検出する。
【0067】
増量開始/停止判断部13は、失活物質発生量検出値に基づいて助触媒の増量開始および増量停止を判断する。まず、失活物質発生量検出値に基づいて重合活性指数を推定する。重合活性指数が第1基準値以下まで低下した場合は、増量開始判断をおこなう。一方、増量継続時に重合活性指数が第2基準値以上まで回復した場合は、増量停止判断をおこなう。
【0068】
助触媒供給量調整部14は、連続的に一定量の助触媒を供給する。ただし、判断部13より増量開始指令を受け、連続的に増量した量の助触媒を供給する。さらに、判断部13より増量停止指令を受け、連続的に増量前の量の助触媒を供給する。
【0069】
〜補足事項〜
・補足事項1
本願発明者は、ブタジエンのモノマー溶液に対し、コバルト系触媒と有機アルミニウム系助触媒を添加して、高い収率でブタジエンのポリマーを製造した。しかしながら、連続的に製造を継続するうちに、収量が低下してきた。
【0070】
本願発明者は収率低下の原因を研究したところ、4-ビニル-1-シクロヘキセン(4-VCH)が発生していることが分かった。そして、4-VCHが失活物質として作用しているのではないかとの疑念を持った。
【0071】
・補足事項2
本願発明者は、収率を回復する方法を検討した。まず、失活物質を除去する方法を検討したが、有効な方法を見いだせなかった。次に、触媒を増量して重合を活性化する方法を検討したが、触媒を増量しても顕著な効果は得られなかった。そこで、助触媒に着目するに至った。
【0072】
一方で、助触媒(特にTEA)が失活物質発生の遠因ではないかとの疑念を持った。そこで、助触媒の供給量を減量することも検討した。しかし、助触媒や触媒の供給量は、種々の検討を経て、バランスの良い最適量が決定されているため、増減変更を検討することは容易ではなかった。
【0073】
・補足事項3
実験により、助触媒を増量すれば、収率低下が抑制されることが推測された(
図2参照)。しかしながら、ただ単に助触媒を増量すると、触媒と助触媒のバランスが崩れて、所望の物性の製品が得られなかった(分岐度が異なる)。また、有機アルミニウム化合物は、比較的高価であるので、経済性の観点から闇雲に増量することは好ましくない。
【0074】
このような前提に基づいて、助触媒を一時的に増量するに想い至った。失活物質発生後に助触媒を一時的に増量した場合、増量分(特にDEAC増量分)は触媒の作用を補助するのでなく、失活物質の作用を抑制するではないかと仮説をたてた。すなわち、増量分は助触媒本来の作用をしないため、製品の物性に影響を与えないと推測した。
【0075】
実験の結果、製品の物性は変わらないことを確認した。一方、収率を回復させることができた。以上のように仮説の妥当性を検証した。
【0076】
なお、助触媒増量は一時的であるので、経済的な影響は限定的である。