特許第6015998号(P6015998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6015998共役ジエン重合体の製造方法および製造システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6015998
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】共役ジエン重合体の製造方法および製造システム
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/00 20060101AFI20161013BHJP
   C08F 36/04 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   C08F2/00 A
   C08F36/04
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-527482(P2016-527482)
(86)(22)【出願日】2016年2月22日
(86)【国際出願番号】JP2016055035
【審査請求日】2016年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-64360(P2015-64360)
(32)【優先日】2015年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(72)【発明者】
【氏名】山下 博司
(72)【発明者】
【氏名】野瀬 誠
(72)【発明者】
【氏名】山下 純
(72)【発明者】
【氏名】北村 隆
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−209471(JP,A)
【文献】 特開2012−207052(JP,A)
【文献】 特開2000−072823(JP,A)
【文献】 特開平10−158316(JP,A)
【文献】 特開平09−176242(JP,A)
【文献】 特開昭61−031408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60
36/00−36/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属触媒を触媒として用い、有機アルミニウム化合物を助触媒として用いた共役ジエン重合反応において、
該反応系内で生成される失活物質の生成度合に基づいて、該反応の重合活性指数を判断し、
該失活物質未生成時の重合活性指数を100として、第1基準値を34%以上の範囲にて設定し、
該重合活性指数が第1基準値以下になった場合は、該重合活性指数が第1基準値以下になる前に比べて、該助触媒を増量して供給する
ことを特徴とする共役ジエン重合体の製造方法。
【請求項2】
該失活物質未生成時の重合活性指数を100として、該第2基準値は83%以上の範囲にて設定し、
該助触媒を増量して供給することにより、該重合活性指数が第2基準値以上になった場合は、該重合活性指数が第1基準値以下になる前と同量の該助触媒を供給する
ことを特徴とする請求項1記載の共役ジエン重合体の製造方法。
【請求項3】
該失活物質未生成時の重合活性指数を100とし、該第1基準値は80%以上に設定される
ことを特徴とする請求項1記載の共役ジエン重合体の製造方法。
【請求項4】
該失活物質未生成時の重合活性指数を100とし、
該第2基準値は95%以上に設定される
ことを特徴とする請求項2記載の共役ジエン重合体の製造方法。
【請求項5】
該有機アルミニウム化合物は、
ハロゲンを含む有機アルミニウム化合物と、ハロゲンを含まない有機アルミニウム化合物と
を有することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の共役ジエン重合体の製造方法。
【請求項6】
遷移金属触媒を触媒として用い、有機アルミニウム化合物を助触媒として用いた共役ジエン重合反応を制御するシステムであって、
該反応系内で生成される失活物質の生成度合を検出する検出部と、
該失活物質未生成時の重合活性指数を100として、重合活性指数34%に相当する失活物質の生成度合以下の範囲で失活物質生成度合基準値を設定し、
該検出部が検出する失活物質生成度合が、失活物質生成度合基準値以上となった場合は、該失活物質生成度合が失活物質生成度合基準値以上になる前に比べて、該助触媒を増量して供給量を調整する助触媒供給量調整部と
を備えた共役ジエン重合体製造システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低下した収率を回復させることのできる共役ジエン重合体の製造方法および製造システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
共役ジエン重合体の製造方法として、共役ジエン系モノマーを含む溶液に、触媒として遷移金属触媒を、助触媒として有機アルミニウム化合物を添加して、重合する方法が提案されている(例えば、特許文献1および2)。
【0003】
具体的には、1,3−ブタジエンのモノマー溶液に対し、コバルト系触媒と非ハロゲン化有機アルミニウム化合物とハロゲン化有機アルミニウム化合物を添加する。これにより、1,4−ポリブタジエンが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−209470号公報
【特許文献2】特開2013−227524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように触媒および助触媒を適切に用いることで高い収率が得られる。
【0006】
しかしながら、プラントにおいて、連続的に共役ジエン重合体の製造を継続しているうちに、徐々に収率が低下してくるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、徐々に収率が低下してきた場合に、収率を回復させることのできる共役ジエン重合体の製造方法および製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、収率低下の原因および対応策を鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0009】
本発明は共役ジエン重合体の製造方法であって、有機アルミニウム化合物を助触媒として用いた共役ジエン重合反応において、
該反応系内で生成される失活物質の生成度合に基づいて、該助触媒の供給量を調整する。
【0010】
上記発明において、該反応系内で生成される失活物質の生成度合に基づいて、該反応の重合活性指数を判断し、
該重合活性指数が第1基準値以下になった場合は、該重合活性指数が第1基準値以下になる前に比べて、該助触媒を増量して供給する。
【0011】
上記発明において、該助触媒を増量して供給することにより、該重合活性指数が第2基準値以上になった場合は、該重合活性指数が第1基準値以下になる前と同量の該助触媒を供給する。
【0012】
上記発明において、該失活物質未生成時の重合活性指数を100とする。該第1基準値は80%以上に設定される。該第2基準値は95%以上に設定される
【0013】
上記発明において、該有機アルミニウム化合物は、ハロゲンを含む有機アルミニウム化合物と、ハロゲンを含まない有機アルミニウム化合物とを有する。
【0014】
本発明は、有機アルミニウム化合物を助触媒として用いた共役ジエン重合反応を制御する共役ジエン重合体製造システムであって、該反応系内で生成される失活物質の生成度合を検出する検出部と、該検出値に基づいて該助触媒の供給量を調整する助触媒供給量調整部とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明の共役ジエン重合体の製造方法および製造システムでは、徐々に収率が低下してきた場合に、収率を回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】共役ジエン重合体の製造システムの概念図である。
図2】実験データに基づき求めた、触媒失活物質発生量と重合活性指数の関係を示す図である。
図3】想定される動作履歴を示す図である。
図4】本発明を実機に適用したときの結果を説明する図である。
図5】制御システムに係る機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<概要>
本願発明は、遷移金属触媒と、助触媒としての有機アルミニウム化合物とを用いて、共役ジエン重合体を製造するものである。その際に、反応系内で生成される失活物質の生成度合に基づいて、助触媒の供給量を調整する。具体的には、適切なタイミングで助触媒増量を開始し、さらに適切なタイミングで助触媒増量を停止する。詳細について、以下の通り説明する。
【0018】
<ジエン系モノマー>
本実施形態において、ジエン系モノマーとしては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を混合してもよく、さらに1,3−ヘキサジエンなど他のジエンと共重合して用いてもよい。中でも好ましいのは、1,3−ブタジエンである。
【0019】
モノマー液中の共役ジエン系モノマーの濃度は、10〜90重量%の範囲が好ましく、20〜70重量%の範囲がより好ましく、25〜50重量%の範囲がさらに好ましい。
【0020】
例えば、共役ジエン系モノマーとして1,3−ブタジエンを用い、シス−1,4重合を行うことで、1,4−ポリブタジエンが得られる。
【0021】
<遷移金属触媒>
遷移金属触媒としては、コバルト系触媒、ニッケル系触媒、ネオジウム系触媒、バナジウム系触媒、チタン系触媒が挙げられる。中でも、コバルト系触媒又はニッケル系触媒が好ましく、コバルト系触媒がより好ましい。遷移金属触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
コバルト系触媒としては、塩化コバルト、臭化コバルト等のハロゲン化コバルト塩;硫酸コバルト、硝酸コバルト等の無機酸コバルト塩;コバルトオクタエート、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、酢酸コバルト、マロン酸コバルト等の有機酸コバルト塩;ビスアセチルアセトネートコバルト、トリスアセチルアセトネートコバルト、アセト酢酸エチルエステルコバルト、コバルト塩のピリジン錯体、コバルト塩のピコリン錯体、コバルト塩のエチルアルコール錯体等のコバルト錯体が挙げられる。中でも、コバルトオクタエートが好ましい。
【0023】
コバルト系触媒の添加量は、ジエン系モノマー1モルに対し、通常、コバルト系触媒が1×10−7〜1×10−4モルが好ましく、1×10−6〜1×10−5モルが特に好ましい。
【0024】
<有機アルミニウム助触媒>
遷移金属触媒とともに有機アルミニウム助触媒を用いる。有機アルミニウム助触媒の添加量は、遷移金属触媒1モルに対し、50〜2000モルの範囲が好ましい。
【0025】
特に、本実施形態では、ハロゲンを含む有機アルミニウム化合物とハロゲンを含まない有機アルミニウム化合物とを併用する。
【0026】
非ハロゲン化有機アルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハイドライド、アルキルアルミニウムセスキハイドライド等の水素化有機アルミニウムが挙げられる。トリアルキルアルミニウムが好ましく、トリエチルアルミニウム(TEA)がより好ましい。
【0027】
ハロゲン化有機アルミニウムとしては、ジアルキルアルミニウムクロライド、ジアルキルアルミニウムブロマイド、アルキルアルミニウムジクロライド、アルキルアルミニウムジブロマイド、アルキルアルミニウムセスキクロライド、アルキルアルミニウムセスキブロマイドが挙げられる。なかでも、塩化有機アルミニウムが好ましく、ジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)がより好ましい。
【0028】
ハロゲン化有機アルミニウム/非ハロゲン化有機アルミニウム化合物のモル比は、1〜5であることが好ましく、2〜4であることがより好ましい。
【0029】
<失活物質および失活物質生成度合>
ブタジエンモノマー溶液に、コバルト系触媒と有機アルミニウム助触媒とを添加して、重合をすると、失活物質(被毒物質)として4-ビニル-1-シクロヘキセン(4-VCH)が発生する。失活物質の発生量は、重合開始時から随時、ガスクロマトグラフィー(GC)にて測定される。
【0030】
失活物質生成度合の指標として、失活物質生成量/ハロゲン化有機アルミニウム供給量のモル比を用いる。例えば、4-VCH/DEACモル比を用いる。失活物質生成量そのものを指標としてもよい。
【0031】
更に、失活物質の生成度合に基づいて、重合反応の活性指数を判断できる。たとえば、実験データをプロットすることにより、触媒失活物質発生量と重合活性指数の関係式(近似曲線)(例えば後述する図2参照)を得ることができる。
【0032】
<増量開始判断および増量停止判断>
失活物質の生成度合に基づいて、重合活性指数を判断する。さらに、重合活性指数に基づいて、増量開始および/または増量停止を判断する。失活物質の生成度合そのものを増量開始および/または増量停止の判断基準としてもよい。
【0033】
たとえば、重合活性指数が第1基準値以下になった場合は、重合活性指数が第1基準値以下になる前に比べて、助触媒を増量して供給する。第1基準値を80%以上(およそ4-VCH/DEACモル比2.5以下に相当)に設定しておけば、実務上、充分な回復を期待できる。
【0034】
一方、助触媒を増量して供給することにより、重合活性指数が第2基準値以上になった場合は、増量を停止し、重合活性指数が第1基準値以下になる前と同量の助触媒を供給する。第2基準値を95%以上(およそ4-VCH/DEACモル比2.1以下に相当)に設定しておけば、実務上、充分に回復したとみなすことができる。
【0035】
なお、第2基準値により増量停止を判断せず、失活物質発生量のモニタリングにより4-VCH /DEACの減少がなくなったとき(時間微分=0)を増量停止の判断基準としてもよい。
【0036】
<増量割合>
増量が必要と判断したときは、5−30%増量して助触媒を供給する。より好ましくは、10−20%増量する。
【実施例】
【0037】
図1は、ポリブタジエンの製造システムの概念図である。製造システムにおける基本的な製造方法について説明する。
【0038】
ブタジエンモノマー溶液からなる重合モノマー調整溶液を連続的に供給する。原料調整槽の前にて水を添加する。次いで、熟成槽の前にてDEAC/TEAのモル比3の割合で助触媒を添加する。その後重合槽にてコバルト系触媒を添加し、重合を行う。
【0039】
ついで、反応停止槽にて、老化防止剤と反応停止剤の混合溶液を添加し、重合を停止させる。これらによって得られたポリマー溶液は、熱風乾燥機で乾燥され、ポリマー製品が得られる。
【0040】
一方で、重合されるモノマーは一部であり、重合されなかったモノマー溶液は再び原料として供給される。
【0041】
以上のように連続的に製造を継続しているうちに、重合槽において触媒失活物質(4-ビニル-1-シクロヘキセン(4-VCH))が発生し、触媒失活物質の影響を受けて、徐々に収率が低下してくる。
【0042】
図2は、実験データに基づき求めた、触媒失活物質発生量と重合活性指数の関係を示す図である。横軸に4-VCH /DEACのモル比、縦軸に重合活性指数を取る。
【0043】
4-VCHの発生量は、重合開始時から随時、ガスクロマトグラフィー(GC)にて測定する。DEACは連続的に一定量供給される。
【0044】
重合活性指数は、失活物質が発生時の収量/失活物質未発生時の収量と定義する。すなわち、失活物質未発生時の重合活性指数を100%とする。
【0045】
ただし、ただ単に助触媒を増量すると、触媒と助触媒のバランスが崩れて、所望の物性の製品が得られない。また、有機アルミニウム化合物は、比較的高価であるので、経済性の観点から闇雲に増量することは好ましくない。したがって、本願発明では、下記の様な工夫をしている。
【0046】
図3は、上記近似曲線に基づいた動作履歴を示す図である。詳細を表1に示す。
【表1】
【0047】
実施例1について説明する。今、近似曲線1において、連続的な製造により、4-VCH /DEAC=2.46まで触媒失活物質が発生し、重合活性指数が80%まで低下したとする。
【0048】
このとき、第1基準値を80%と定めておき、重合活性指数が第1基準値以下となった判断し、16%増量した量の助触媒を連続的に供給する。これにより、近似曲線1から徐々に近似曲線2に移行するものと想定する。触媒失活物質の発生量は直ちに変わらない(不変)と仮定し、助触媒の量が増えるため、4-VCH /DEAC=2.12となる。したがって、近似曲線2において、重合活性指数が95%まで回復する。
【0049】
第2基準値を95%と定めておき、第2基準値以上となったことを確認して、充分な収率回復とみなし、増量を停止する。すなわち、増量前の所定供給量に戻す。なお、重合活性指数と収率は相関関係にある。
【0050】
これにより、製品の物性を変えることなく、収率を回復させることができる。さらに、適切なタイミングで増量を停止するため、無用の助触媒の浪費を抑制できる。
【0051】
実施例2について説明する。より早期の回復を望む場合は、第1基準値を80%以上(例えば90%)と定めてもよい。触媒失活物質が発生し、4-VCH /DEAC=1.23となったときに、重合活性指数が第1基準値(90%)以下となった判断し、16%増量した量の助触媒を連続的に供給する。
【0052】
これにより、近似曲線1から徐々に近似曲線2に移行し、4-VCH /DEAC=1.06となり、理論上、重合活性指数が98%まで回復可能となる。
【0053】
このとき、第2基準値を95%と定めておき、充分な収率回復とみなし、重合活性指数が98%まで回復する前に、増量を停止してもよい。もちろん、第2基準値を98%と定めて、より多くの収率回復を期待してもよい。
【0054】
さらに、第2基準値により判断せず、4-VCH /DEACの減少がなくなったとき(時間微分=0)を増量停止の判断基準としても良い。
【0055】
実施例3(参考例)について説明する。触媒失活物質が発生し、4-VCH /DEAC=7.33となり、重合活性指数が34%まで低下したとする。この時点で、16%増量すると、近似曲線1から徐々に近似曲線2に移行し、4-VCH /DEAC=6.32となり、理論上、重合活性指数が83%まで回復可能となる。
【0056】
ただし、83%程度の回復では実務上不充分とみなされるおそれもある。
【0057】
ところで、助触媒を増量させなかった場合は、近似曲線は移行せず、4-VCH/DEACの割合は高まるばかりであり、重合活性指数は低下する一方である。
【0058】
以上の実施例によれば、重合活性指数が80%に低下するまでに、助触媒増量を開始し、重合活性指数が95%以上に回復したことを確認し、助触媒増量を停止することが好ましい。
【0059】
図4は、本発明を実機に適用したときの結果を説明する図である。横軸に時間(年/月)、縦軸に平均収率(%)を取る。なお、実機では複数の銘柄をランダムに製造しており、銘柄の平均的な生産量に基づいて収率を求めている。
【0060】
99%〜100%の平均収率(%)にて推移していたが、前年4月より平均収率(%)が徐々に低下してきた。そこで、重合活性指数80%(重合活性指数と収率は相関関係にある)となった当年1月に助触媒増量を開始した。
【0061】
助触媒増量を継続したところ、収率回復傾向がみられた。重合活性指数95%まで回復した時点(当年1月)で、助触媒増量を停止した。
【0062】
その後、増量前の所定供給量に戻して、助触媒を供給した。収率ほぼ100%の生産量にて推移した。
【0063】
〜制御システム〜
図5は、増量開始/増量停止の制御システムに係る機能ブロック図である。
【0064】
制御システムは、基準値記憶部11と、失活物質検出部12と、増量開始/停止判断部13と、助触媒供給量調整部14とを備える。
【0065】
基準値記憶部11は、第1基準値および第2基準値を記憶する。第1基準値および第2基準値は、実験データに基づき、予め設定される。
【0066】
失活物質検出部12は、原料調整槽に設けられたガスクロマトグラフィーを介して随時失活物質発生量を検出する。
【0067】
増量開始/停止判断部13は、失活物質発生量検出値に基づいて助触媒の増量開始および増量停止を判断する。まず、失活物質発生量検出値に基づいて重合活性指数を推定する。重合活性指数が第1基準値以下まで低下した場合は、増量開始判断をおこなう。一方、増量継続時に重合活性指数が第2基準値以上まで回復した場合は、増量停止判断をおこなう。
【0068】
助触媒供給量調整部14は、連続的に一定量の助触媒を供給する。ただし、判断部13より増量開始指令を受け、連続的に増量した量の助触媒を供給する。さらに、判断部13より増量停止指令を受け、連続的に増量前の量の助触媒を供給する。
【0069】
〜補足事項〜
・補足事項1
本願発明者は、ブタジエンのモノマー溶液に対し、コバルト系触媒と有機アルミニウム系助触媒を添加して、高い収率でブタジエンのポリマーを製造した。しかしながら、連続的に製造を継続するうちに、収量が低下してきた。
【0070】
本願発明者は収率低下の原因を研究したところ、4-ビニル-1-シクロヘキセン(4-VCH)が発生していることが分かった。そして、4-VCHが失活物質として作用しているのではないかとの疑念を持った。
【0071】
・補足事項2
本願発明者は、収率を回復する方法を検討した。まず、失活物質を除去する方法を検討したが、有効な方法を見いだせなかった。次に、触媒を増量して重合を活性化する方法を検討したが、触媒を増量しても顕著な効果は得られなかった。そこで、助触媒に着目するに至った。
【0072】
一方で、助触媒(特にTEA)が失活物質発生の遠因ではないかとの疑念を持った。そこで、助触媒の供給量を減量することも検討した。しかし、助触媒や触媒の供給量は、種々の検討を経て、バランスの良い最適量が決定されているため、増減変更を検討することは容易ではなかった。
【0073】
・補足事項3
実験により、助触媒を増量すれば、収率低下が抑制されることが推測された(図2参照)。しかしながら、ただ単に助触媒を増量すると、触媒と助触媒のバランスが崩れて、所望の物性の製品が得られなかった(分岐度が異なる)。また、有機アルミニウム化合物は、比較的高価であるので、経済性の観点から闇雲に増量することは好ましくない。
【0074】
このような前提に基づいて、助触媒を一時的に増量するに想い至った。失活物質発生後に助触媒を一時的に増量した場合、増量分(特にDEAC増量分)は触媒の作用を補助するのでなく、失活物質の作用を抑制するではないかと仮説をたてた。すなわち、増量分は助触媒本来の作用をしないため、製品の物性に影響を与えないと推測した。
【0075】
実験の結果、製品の物性は変わらないことを確認した。一方、収率を回復させることができた。以上のように仮説の妥当性を検証した。
【0076】
なお、助触媒増量は一時的であるので、経済的な影響は限定的である。
【符号の説明】
【0077】
11 基準値記憶部
12 失活物質検出部
13 増量開始/停止判断部
14 助触媒供給量調整部
【要約】
共役ジエン重合体の製造において、徐々に収率が低下してきた場合に、収率を回復させることができる。遷移金属触媒と、助触媒としての有機アルミニウム化合物とを用いて、共役ジエン重合体を製造する。連続的に共役ジエン重合体の製造を継続しているうちに、徐々に収率が低下してくる。これに対し、反応系内で生成される失活物質の生成度合に基づいて、助触媒の供給量を調整する。具体的には、生成度合が所定値以下になった場合には助触媒増量を開始する。さらに充分回復したと判断される場合には助触媒増量を停止する。すなわち、増量前の所定量を供給する。
図1
図2
図3
図4
図5