(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016020
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】ER流体の制御方法と制御装置
(51)【国際特許分類】
F15B 21/06 20060101AFI20161013BHJP
C10M 107/28 20060101ALI20161013BHJP
C10M 177/00 20060101ALI20161013BHJP
F15B 21/04 20060101ALI20161013BHJP
F16F 9/53 20060101ALN20161013BHJP
A61F 2/30 20060101ALN20161013BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20161013BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20161013BHJP
C10N 40/14 20060101ALN20161013BHJP
C10N 70/00 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
F15B21/06
C10M107/28
C10M177/00
F15B21/04 B
!F16F9/53
!A61F2/30
C10N10:02
C10N30:00 Z
C10N40:14
C10N70:00
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-244365(P2012-244365)
(22)【出願日】2012年11月6日
(65)【公開番号】特開2014-92257(P2014-92257A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年10月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本機械学会2012年度年次大会講演論文集2012.9.9−12(平成24年9月9日)、第60回レオロジー討論会講演要旨集(平成24年9月26日)に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】栂 伸司
【審査官】
関 義彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開平4−225405(JP,A)
【文献】
特開平7−47265(JP,A)
【文献】
特開平11−117985(JP,A)
【文献】
特開2001−343005(JP,A)
【文献】
特開平9−53610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 21/06
F15B 15
A61F 2/30
F16F 9/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン供給源に電場をかけて、多数の微細孔が形成されたフィルタを介して、前記イオン供給源の反対側に設けられた高分子電解質から成るER流体中に、前記イオン供給源中のイオンを供給し、前記フィルタを通過したイオンにより前記ER流体中の高分子のコンフォーメーションを変化させ、前記ER流体の粘性を制御することを特徴とするER流体の制御方法。
【請求項2】
前記イオン供給源から供給されるイオンは、プラスイオンであり、前記高分子電解質から成るER流体中の高分子のマイナスの帯電を、前記プラスイオンにより中和して、前記高分子の高分子形態を収縮させる請求項1記載のER流体の制御方法。
【請求項3】
イオン供給源と、このイオン供給源に電場を形成する電極と、前記イオン供給源に接し前記イオン供給源中のイオンが通過可能な多数の微細孔が形成されたフィルタと、前記フィルタを介して前記イオン供給源の反対側の容器内に収容された高分子電解質から成るER流体とを設け、前記電極に電圧をかけて前記イオン供給源に電場を形成し、前記イオン供給源中のイオンを前記フィルタの微細孔を通過させて前記ER流体中に供給し、前記フィルタを通過したイオンにより、前記ER流体中の高分子のコンフォーメーションを変化させて、前記ER流体の粘性を制御することを特徴とするER流体の制御装置。
【請求項4】
前記高分子電解質は、生体親和性がある請求項3記載のER流体の制御装置。
【請求項5】
前記高分子電解質は、ポリアクリル酸ナトリウムである請求項4記載のER流体の制御装置。
【請求項6】
前記フィルタは、樹脂フィルムであり、前記微細孔の直径は、30〜70nmである請求項3記載のER流体の制御装置。
【請求項7】
前記イオン供給源は、コロイド溶液、イオン交換樹脂、又は高分子電解質水溶液である請求項3記載のER流体の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電界強度に応じて粘性が変化するER流体(Electrorheological Fluid)の粘性を制御する制御方法と制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電場を形成することで材料の弾性や粘性等のレオロジー特性が変化する性質は、ER(Electro-Rheology)効果と呼ばれ、このような特性を持つER流体として、絶縁性の液体に誘電性固体微粒子を分散させた懸濁液や液晶がある。従来、こうしたER流体のER効果の制御方法としては、特許文献1に開示されているように、一対の平板電極を対向させた平行平板電極間にER流体を収容したものや、特許文献2に開示されているように、円筒内に正、負の電極を配置して電場を形成し、内部を流れるER流体の粘性を制御する構造があった。
【0003】
上記背景技術の特許文献1,2に開示されたER流体の制御方法の場合、絶縁性の液体に誘電性固体微粒子を分散させたもので、これらの流体を生体に利用するには、生体親和性の点で問題があった。
【0004】
そこで、生体親和性のあるER流体として、高分子電解質水溶液を用いることが考えられる。高分子電解質水溶液のER流体は、水溶液中の高分子の立体配座(Conformation:コンフォーメーション)により粘性や粘弾性が変化する。そこで、この水溶液に電場をかければ、水溶液中の高分子の形態が伸長又は収縮し、高分子のコンフォーメーションを変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−174565号公報
【特許文献2】特開2004−68655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ER流体の電解質水溶液中の高分子のコンフォーメーションを変化せることができる電場は、電極表面の数百nm程度の極近傍に限られ、ER流体の薄い層の粘性を制御することしかできないものであった。これに対して、高電圧をかけることにより、制御可能なER流体の層を厚くすることができるが、高分子電解質水溶液の場合、高電圧を印加すると高分子自体が電極に吸着され、層分離してしまう問題がった。
【0007】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、高分子電解質水溶液から成るER流体中の高分子のコンフォーメーションを制御し、ER流体の粘性を容易に制御することができるER流体の制御方法と制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、イオン供給源に電場をかけて、多数の微細孔が形成されたフィルタを介して、前記イオン供給源の反対側に設けられた高分子電解質から成るER流体中に、前記イオン供給源中のイオンを供給し、前記フィルタを通過したイオンにより前記ER流体中の高分子のコンフォーメーションを変化させ、前記ER流体の粘性を制御するER流体の制御方法である。
【0009】
前記イオン供給源から供給されるイオンは、プラスイオンであり、前記高分子電解質から成るER流体中の高分子のマイナスの帯電を、前記プラスイオンにより中和して、前記高分子の高分子形態を収縮させるものである。
【0010】
またこの発明は、イオン供給源と、このイオン供給源に電場を形成する電極と、前記イオン供給源に接し前記イオン供給源中のイオンが通過可能な多数の微細孔が形成されたフィルタと、前記フィルタを介して前記イオン供給源の反対側の容器内に収容された高分子電解質から成るER流体とを設け、前記電極に電圧をかけて前記イオン供給源に電場を形成し、前記イオン供給源中のイオンを前記フィルタの微細孔を通過させて前記ER流体中に供給し、前記フィルタを通過したイオンにより、前記ER流体中の高分子のコンフォーメーションを変化させて、前記ER流体の粘性を制御するER流体の制御装置である。前記高分子電解質は、生体親和性があるものであり、例えばポリアクリル酸ナトリウムである。
【0011】
前記フィルタは、ポリカーボネート等の樹脂フィルムであり、前記微細孔の直径は、30〜70nm、好ましくは45〜55nmである。
【0012】
前記イオン供給源は、ポリスチレンやシリカのコロイド溶液、スルホン酸型等のイオン交換樹脂、ポリアクリル酸ナトリウム等の高分子電解質の水溶液である。
【発明の効果】
【0013】
この発明のER流体の制御方法と制御装置によれば、電極にかける電圧を制御することにより、高分子電解質から成るER流体中の高分子のコンフォーメーションを容易に制御することができ、ER流体の粘性や光学特性等の物理的性質を任意に調整することができる。しかも、生体親和性のある高分子電解質水溶液を用いることにより、生体内での利用や生体に取り付けて用いることが可能となり、医療分野でのER流体の応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の一実施形態のER流体制御装置の分解斜視図である。
【
図2】この実施形態のER流体制御方法のイオン供給源を説明する模式図である。
【
図3】この実施形態のER流体制御方法のイオン供給源の動作を説明する模式図である。
【
図4】この実施形態のER流体の制御方法において、イオン供給源にプラス電圧を印加した場合のER流体内の高分子の挙動を説明する模式図である。
【
図5】この実施形態のER流体の制御方法においてイオン供給源にマイナス電圧を印加した場合のER流体内の高分子の挙動を説明する模式図である。
【
図6】この実施形態のER流体の制御方法の利用例を説明する模式図である。
【
図7】この実施形態のER流体の制御方法の他の利用例を説明する模式図である。
【
図8】この実施形態のER流体の制御方法の他の利用例を説明する模式図である。
【
図9】この発明の一実施例のER流体の制御方法により、イオン供給源に強酸性陽イオン交換樹脂(Na型)を用いた場合のER流体の制御例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1〜
図5はこの発明の第一実施形態を示すもので、この実施形態のER流体制御装置10は、所定のプラスイオン12a又はマイナスイオンを供給するイオン供給源12を備えている。イオン供給源12は、ポリスチレンやシリカの巨大分子が水等の液体中に分散し、プラスイオン供給分子12bを有したもので、コロイド溶液、スルホン酸型等のイオン交換樹脂やポリアクリル酸ナトリウム等の高分子電解質の水溶液や懸濁液、ゲル等である。イオン供給源12は、環状のスペーサ13により囲まれ、液漏れがないように、電極14とスペーサ13及び後述するフィルタ押さえ18により形成された筒状容器部13aに収容される。
【0016】
イオン供給源12には、プラス又はマイナスの電場を形成する板状の電極14が直接に接触している。電極14は、プラス又はマイナスの電圧を印加する電圧制御部15に接続され、所定の電圧を印加可能に設けられている。
【0017】
イオン供給源12の、電極14側とは反対側には、イオン供給源12中のプラスイオン12aであるH
+イオンやNa
+イオンが通過可能な多数の微細孔16aが形成されたフィルタ16が重ねられ、イオン供給源12の表面と接している。フィルタ16は、ポリカーボネート等の樹脂フィルムであり、微細孔16aの直径は、通過させるイオンにより決定されるが、30〜70nm、好ましくは50nm程度、45〜55nmが良い。フィルタ16の厚さは、5〜10μm程度である。フィルタ16は、薄いので剛性がなく、多数のスリットが形成された薄い樹脂板製のフィルタ押さえ18,19に挟持されている。この状態で、フィルタ16は、イオン供給源12に接して設けられる。
【0018】
フィルタ16のイオン供給源12とは反対側の面には、フィルタ押さえ19を介してER流体20が筒状の容器22に収容されて積層されている。ER流体20は、筒状の容器22に側面が囲まれ、底面側はフィルタ押さえ18,19を介してフィルタ16により塞がれている。ER流体20は、例えば濃度が200〜1000ppmのポリアクリル酸ナトリウムが好適である。その他、デンプンのカルボン酸塩、スルホン酸塩、ヒアルロン酸、キト酸等を用いることが出来る。
【0019】
次に、この発明の実施形態のER流体20の制御方法について説明する。イオン供給源12は、
図2に示すように、例えばイオン化したポリスチレン等のコロイドやイオン交換樹脂のプラスイオン供給分子12bであり、プラスイオン供給分子12bから電離したプラスイオン12aが多数存在している。この状態で、電圧制御部15により電極14にプラスの電圧、例えば60Vを印加すると、
図3(a)に示すように、電極14によるプラス電場により、イオン供給源12中のプラスイオン12aが反対側のフィルタ16側に反発して寄せられるとともに、プラスイオン供給分子12bの負に帯電した高分子鎖が電極14側に寄せられ、電極14側では、中性領域12cが形成される。そして、プラスイオン12aは、電極14とは反対側のフィルタ16から、その微細孔16aを通過して、ER流体20側に移行する。
【0020】
具体的には、プラスイオン供給分子12bとしてのポリスチレンは、末端のカルボキシル基(−COOH)が水中で、−COO
−とH
+に解離し、負に帯電したポリスチレン粒子を中心に電気二重層を構成する。この状態で、電極14に正電圧を印加し、ポリスチレン分子に正電場を加えると、電気二重層中のH
+がポリカーボネートのフィルタ16側に寄せられて微細孔16aを通過し、ER流体20中に拡散する。また、プラスイオン供給分子12bとしての強酸性陽イオン交換樹脂(Na型)は、末端のスルホン酸基(−SO
3Na)が水中で、−SO
3−とNa
+に解離し、負に帯電したイオン交換樹脂を中心に電気二重層を構成する。この状態で、電極に正電圧を印加し、イオン交換樹脂に正電場を加えると、電気二重層中のNa
+がフィルタ16の微細孔を通過して、ER流体20中に拡散する。逆に、負電圧を印加すると、イオン交換樹脂がフィルタ16側に押し出されて、フィルタ16を通してER流体20中のNa
+イオンを回収する。
【0021】
ER流体20中には、
図4(a)に示すように、高分子電解質であるポリアクリル酸ナトリウムの長鎖の高分子20aが電離して、マイナスに帯電して存在する。電離したポリアクリル酸ナトリウムの高分子20aは、主鎖のマイナス極性部分同士が反発し合い、高分子20aが伸長した状態の形態で存在する。この状態で、イオン供給源12からプラスイオン12aが大量に供給されると、増加したプラスイオン12aにより、主鎖のマイナス電荷が遮蔽される。これにより、高分子20aのマイナス極性主鎖同士の静電的反発が緩和されて、
図4(b)に示すように、高分子20aの高分子形態が収縮する。このような状態になると、ER流体20の流動性が増し、粘性や粘弾性が低下する。
【0022】
他方、電圧制御部15により電極14にマイナスの電圧、例えば−60Vを印加すると、
図3(b)に示すように、ポリスチレン粒子等のプラスイオン供給分子12bの負に帯電した高分子鎖が、電極14のマイナス電場に反発してフィルタ16側に寄せられるとともに、電極14側にプラスイオン12aが引き寄せられて中性領域12cが形成される。イオン供給源12中のプラスイオン12aが電極14側に集まり、負に帯電したプラスイオン供給分子12bがフィルタ16側に寄せられると、ER流体20側のプラスイオン12aが、フィルタ16の微細孔16aを通過してイオン給源12側に移行する。
【0023】
図4(b)に示す様態から、電圧制御部15により電極14にマイナスの電圧を印加すると、
図5(a)に示すように、イオン供給源12側にプラスイオン12aが寄せられ、ER流体20中のプラスイオン12aが減少する。すると、ポリアクリル酸ナトリウムの長鎖の高分子20aのマイナス電荷を中和していたプラスイオン12aが無くなる。これにより、
図5(b)に示すように、ポリアクリル酸ナトリウムの高分子20aが、自身の負に帯電した主鎖同士が反発して高分子鎖が伸長する。即ち、ポリアクリル酸ナトリウムの高分子電解質水溶液中の対イオン濃度を調整してプラスイオン12aを減少させることにより、その高分子内部での主鎖同士の静電的反発により、高分子20aの高分子形態が空間的に広がる。このような状態になると、ER流体20の流動性が低下し、粘性や粘弾性が増加する。
【0024】
以上述べたように、この実施形態のER流体の制御方法と制御装置によれば、所定のイオンが通過可能なフィルタ16を介して、イオン供給源12からER流体20にイオンの出し入れを行うことにより、ER流体20中の高分子の形態を伸長及び収縮させ、粘性や粘弾性を容易に制御することができる。しかも、制御可能なER流体20の層の厚さや体積は、電場の届く範囲に制限されず、イオン供給可能な範囲で任意に設定することができ、ER流体20の利用範囲を大幅に広げることができる。さらに、ポリアクリル酸ナトリウム等の生体親和性のある高分子電解質水溶液を用いることにより、関節等の生体内での利用や、皮膚表面に取り付けて用いることが可能となり、医療分野でのER流体の応用が大きく進展する。
【0025】
その他、利用例としては、種々の機械や装置のショックアブソーバに利用することができる。このショックアブソーバ30は、
図6に示すように、シリンダ32内にER流体20が封入され、シリンダ32内のER流体20中をピストン34が移動可能に設けられている。ピストン34には、ロッド36の一端が取り付けられ、ロッド36の他端が図示しない可動部材に連結されている。
【0026】
ショックアブソーバ30の動作は、図示しない可動部材の動きに連動してロッド36とともにピストン34が移動する。このとき、ピストン34に形成された例えば100μm程度の小孔38をER流体20が通過する。ピストン34は、往復運動可能なものであり、小孔38をER流体20が通過する流動抵抗が、ロッド36の動作の抵抗となり、図示しない移動部材に緩衝作用等を与える。この場合、電極14に電圧をかけて電場をイオン供給源12に作用させ、イオン供給源12からのイオン供給状態を変えることで、ER流体20の粘性を変化させ、ショックアブソーバ30のダンパ特性を調節することができる。
【0027】
また、
図7に示すショックアブソーバ40のような構造でも良い。このショックアブソーバ40は、フィルタ16上にER流体20を載せ、ER流体20表面にダンパ板42を接触させ、ダンパ板42がロッド44を介して可能部材に連結された構造である。この場合、ER流体20は、表面張力でフィルタ16とダンパ板42間に接触している。
【0028】
この場合、電極14に電圧をかけて電場をイオン供給源12に作用させ、イオン供給源12からのイオン供給状態を変えることで、ER流体20の粘弾性が変化し、ダンパ板42を介してロッド44の動きを緩衝するダンパ特性を調節することができる。
【0029】
次にこの発明の第二実施形態について、
図8を基にして説明する。この実施形態のER流体の制御装置50は、コロイド溶液から成るER流体52を用いたものである。このコロイド溶液は、例えばポリスチレンやシリカのコロイド粒子52aが媒体中に分散したもので、コロイド粒子52aの結晶化と非結晶化を、イオンの供給状態により制御し、光の透過性や反射特性を制御するものである。例えば、
図8(a)の状態では、ER流体52のコロイドは非結晶化しており、コロイドは白濁状体にあるので、光を当てると乱反射する。次に、電圧制御部15によりイオン供給源12に負電圧を印加すると、
図8(b)に示すように、ER流体52中のプラスイオン12a減少し、コロイドが結晶化する。この状態で光を照射すると、ER流体20の表面で光のブラッグ反射が起きる。
【0030】
この実施形態によっても、イオンの供給状態を制御するだけで、ER流体52の光学的特性を制御することができる。
【0031】
なお、この発明のER流体の制御方法と制御装置は、上記材料に限定されるものではなく、イオン供給源は、電場によりイオンを制御可能な材料であれば良く、ER流体も高分子電解質水溶液であって、イオン供給によりER流体中の高分子のコンフォーメーションの制御が可能なものであれば良い。また、フィルタは、通過させるイオンにより、適宜微細孔の径や厚さ、材質を選択することができる。
【実施例】
【0032】
次に、この発明のER流体の制御方法の一実施例として、イオン供給源に強酸性陽イオン交換樹脂(Na型)を用い、ER流体にポリアクリル酸ナトリウムを用いた場合の制御例を示すグラフを、
図9に示す。
【0033】
この実験のイオン供給用粒子である強酸性陽イオン交換樹脂(Na型)は、末端のスルホン酸基(−SO
3Na)が水中で、−SO
3−とNa
+に解離し、負に帯電したイオン交換樹脂を中心に電気二重層を構成する。この状態で、イオン供給源の電極に正電圧を印加し、イオン交換樹脂に正電場を加えると、電気二重層中のNa
+がポリカーボネートのフィルタの微細孔を通過して、ER流体中に拡散する。逆に、負電圧を印加すると、イオン交換樹脂がフィルタ側に押し出されて、フィルタを通してER流体中のNa
+イオンを回収する。これにより、ER流体の粘性を制御するものである。
【0034】
この実験では、
図9に示すように、ポリアクリル酸ナトリウム濃度が1000ppmで、電圧をかけない状態から、先ず電極に−60Vを印加し、その後、電極に+60Vを印加し、再度−60Vをかけた例を示す。
【0035】
ポリアクリル酸ナトリウムの粘度は、
図9のグラフに示すような曲線を描いて時間の経過とともに低下する。そして、最初に電極14にマイナスの電圧をかけると、粘度が一端低下する。その後この発明による制御を行う。
【0036】
先ず、プラスの電圧をかけると、
図9に示すように、粘度が低下する。次に、マイナスの電圧をかけると、粘度は最初のマイナス電圧をかけた状態の粘度付近まで上昇する。
【0037】
この結果から、電圧制御により、高分子電解質水溶液のポリアクリル酸ナトリウムのコンフォーメーションが変化し、上記メカニズムで粘度を調節することができることが確認された。
【符号の説明】
【0038】
10 ER流体制御装置
12 イオン供給源
12a プラスイオン
12b プラスイオン供給分子
14 電極
15 電圧制御部
16 フィルタ
16a 微細孔
18,19 フィルタ押さえ
20 ER流体
20a 高分子
22 容器