(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1は、加速器を用いる装置の一例としての粒子線照射治療装置1の概略構成を示す構成図である。粒子線照射治療装置1は、荷電粒子入射部2、加速器4、ビーム輸送部6および照射部8を備えている。
【0012】
荷電粒子入射部2は、荷電粒子を生成するイオン源、1次線形加速器、および2次線形加速器を備えており、加速された荷電粒子を加速器4に供給する。
【0013】
加速器4は、入射器11、射出器12、及び各種電磁石(偏向電磁石20等)を有するシンクロトロンと、これらをコントロールするコントローラ(図示省略)を備えている。加速器4は、荷電粒子入射部2から入射器11を介して入射する荷電粒子を、略円環状の軌道に沿って軌道偏向しながらさらに加速し、射出器11から射出する。
【0014】
荷電粒子入射部2、加速器4、ビーム輸送部6および照射部8は、ビーム路30により互いに接続されている。荷電粒子は、このビーム路30内で輸送される。
【0015】
加速器4内のビーム路30も含め、各ビーム路30には、荷電粒子の輸送方向を偏向させる偏向電磁石20が設けられている。この偏向電磁石は、湾曲するビーム路30に沿って湾曲している。
【0016】
図2は、偏向電磁石20の構成を説明する説明図である。
図2(A)は、偏向電磁石20をビーム路と垂直に縦断した概略構成を示す縦断斜視図であり、
図2(B)は、巻線コイルである単層の第k層コイル51(k)(単層コイル)をビーム路30と垂直に縦断した概略構成を示す縦断斜視図である。なお、
図2(A)および
図2(B)は、いずれも概略構成を説明するために簡略化したものである。したがって、コンダクタ63(超電導線)の巻き数も実際のものとは異なっている。
【0017】
偏向電磁石20は、超電導偏向電磁石であり、ビーム路30に沿って湾曲した偏向円筒形のコイル51と、このコイル51の外側周囲を囲む偏向円筒形のヨーク52と、このヨーク52のさらに外側周囲を囲む真空チャンバ53とを備えている。コイル51のビーム路方向の長さと、ヨーク52のビーム路方向の長さは、ほぼ同じ長さに構成されている。
【0018】
コイル51は、枠体61(
図2(B)参照)上に配置された第k層コイル51(k)(
図2(B)参照)をビーム路方向垂直断面の同心円上に多層に重ねた多層コイルである。コイル51の内側全体には、真空で偏向円筒形の磁場空間56が存在している。この磁場空間56内がビーム路30となる。なお、枠体61の外側の表面は、偏向円筒面62を形成する。
【0019】
ヨーク52は、内周面がコイル51の外周面と接触するか近接する大きさであり、鉄で構成されている。このヨーク52により、コイル51による磁場の強度を増大している。
【0020】
真空チャンバ53は、内周面がヨーク52の外周面と離れるようにヨーク52よりも大きく構成されている。この真空チャンバ53の内周面とヨーク52の外周面との間には、空間57が設けられている。
【0021】
図2(B)に示すように、枠体61は、偏向円筒形に構成されている。この枠体61は、図示する境界線62で分離され、図示上側の第一枠体61Aと図示下側の第二枠体61Bとで構成されている。なお、枠体61は、このように加速器4で略円形をなすビーム路30の円形面で横断して上側と下側に分離することに限らず、略円形をなすビーム路30の円周面で枠体61を縦断して内側と外側に分離する、あるいは分離せずに一体の枠体61とするなど、適宜の構成とすることができる。
【0022】
枠体61の外周面には、一層のコンダクタ63がコイル状に配置されている。このコンダクタ63は、枠体61の偏向に沿ってビーム路方向に配置され、枠体61の端部付近で折り返されて、枠体61の偏向に沿ってビーム路方向に配置されることを繰り返して配置されている。従って、コンダクタ63の中央大部分(折り返される端部付近を除いた部分)は、ビーム路と垂直の断面をビーム路方向のどの位置で見ても、後述の
図3(A1)に示すような同じ配置となる。
【0023】
以降の説明において、偏向電磁石20およびコイル51の座標系について、
図2(B)に示す座標系に統一する。すなわち、円弧状に湾曲しているビーム路30の方向をL軸とし、このL軸に垂直な平面をXZ平面とする。XZ平面は、ビーム路30の円弧半径方向を水平軸であるX軸とし、このX軸と垂直な垂直軸をZ軸とする。
【0024】
ここから、コイル51を二極コイル51aとして設計する場合の実施形態について説明する。
【0025】
<補正前の二極コイル>
図3(A1)は、第k層となる第k層二極コイル51a(k)の断面図を示す。
第k層二極コイル51a(k)は、コンダクタとなる第k層コンダクタ63a(k)を、cosθの電流分布を作るように配置している。
【0026】
これにより、コンダクタ位置(第k層コンダクタ63a(k)の位置)は、ビーム路垂直面におけるビーム路中心を中心点とする角度で表現することができる。このコンダクタ分布を用いることで、二次元磁場計算上では均一な磁場分布を得ることができる。これ以降、「二次元磁場計算」とは、XZ平面(ビーム路の垂直面)の二次元上に変数を設定した磁場計算のことをいう。
【0027】
なお、この実施形態では、二極磁場を発生させたいためにcosθとしているが、2n極の磁場を発生させるためには、円周上にcos(nθ)の電流分布をつくればよく、二極に限られるものではない。このように第k層コンダクタ63a(k)を
図3(A1)のように配置することで、cosθの電流分布を模擬している。
【0028】
第k層コンダクタ63a(k)は、
図3(A1)に示す左右両端、すなわち湾曲している二極コイル51aの内側端と外側端が密で、
図3(A1)に示す上下両端、すなわち湾曲している二極コイル51aの両側端が粗となるように配置されている。
【0029】
図3(A2)は、第k層コンダクタ63a(k)を22層重ねた補正前の二極コイル51aの断面図である。この二極コイル51aは、再内層の第1層二極コイル51a(01)から、最外層の第22層二極コイル51a(22)まで、コイル中心から外側へ向かって配置されている。このように第k層コンダクタ63a(k)を多層に重ねることで、より強い磁場を得るようにしている。
【0030】
この補正前の二極コイル51aについて、二次元磁場計算を行うことができる。なお、この段階では、偏向させていない円筒面上に配置した二極コイル51aについて計算している。
【0031】
図3(A3)は、偏向していない二極コイル51aについての磁場計算で得られた垂直磁場(B
Z)分布を示すグラフである。計算において、ヨークなどはない無限長の空芯コイルを仮定し、コイル電流は100Aとしている。
【0032】
図3(A4)は、
図3(A3)の垂直磁場(B
Z)分布を垂直磁場の均一度分布(ΔB
z/B
z)に変換したグラフである。図示するように、10
−5台の非常に均一な二極磁場が発生していることがわかる。
【0033】
このような二次元磁場計算は、電磁石が直線形状且つ無限長のコイルである場合に良い近似となる。このような無限長直線コイルでは、三次元磁場を行っても均一な磁場を得ることができる。
【0034】
しかし、問題は、(a)一般的に磁石が有限な長さを持つこと、(b)一般的に磁石にコイルエンドが存在すること、(c)本発明で必要な磁石形状が直線でなく湾曲形状であることである。これらにより、二次元磁場計算の近似が破られ、結果として得られる磁場は不均一となる。
【0035】
ここまでの
図3(A1)から
図3(A4)では、偏向していない二極コイル51aについて説明したが、二極コイル51aおよびその電磁石の形状は、粒子の軌道に沿って偏向していることが好ましい。そこで、上述した二極コイル51aを、断面上のコンダクタ位置をそのままとして全体をビーム路30に沿って偏向させた偏向後の二極コイル51a(偏向コイル)について考える。この二極コイル51aを用いた電磁石は、偏向電磁石20(
図2(A)参照)のコイル51(
図2(A)参照)となる。
【0036】
このようにコイルを湾曲させると、湾曲させない二極コイル51aの二次元磁場計算では見られなかった磁場の不均一性が生じる。また、実際のコイル端部には、コイル巻き返しのためのコイルエンドが存在する。このコイルエンドも磁場不均一性を生む要因となる。これらの三次元的な構造から生じる磁場への影響を調べるため、三次元磁場計算を行う。
【0037】
三次元磁場計算は、「Opera3D」や「Ansys」等の市販の計算コードを用いて行うことができる。この実施形態では、Cobham社の3次元電磁場解析プログラム「Opera3D」を用いて計算する。「Opera3D」を用いた磁場計算は、コイル51やヨーク52の三次元形状を正確にモデル化して実行する。この三次元磁場計算によって、垂直磁場を得ることができる。
【0038】
偏向電磁石の場合、磁石により発生された二極磁場によりビーム粒子は偏向される。この際、粒子の偏向角は次の[数1]により計算される。
【0039】
【数1】
ここで、Bρはビームの磁気剛性であり、ビームの運動量に比例する。つまり、ビームの運動量(エネルギー)が一定であれば、電磁石による偏向角はB
zL積(磁場のZ軸成分のBL積)に比例する。このB
zL積は垂直磁場をビーム軌道に沿って積分することで、次の[数2]のように求めることが出来る。
【0040】
【数2】
つまり、三次元磁場計算で得られた垂直磁場をビーム軌道に沿って積分することで計算できる量である。
【0041】
ここで、粒子のビームは、必ずしも磁石の中心軌道状を通過する訳ではなく、様々な位置から入射される。よって、偏向電磁石には様々なビーム軌道に対してB
zL積が均一であることが求められる。
そこで、三次元磁場計算で得られた結果より、様々なビーム軌道に対するB
zL積を求めてみる。
【0042】
図3(B)は、偏向させた二極コイル51aについて、ビーム軌道を水平にΔX、垂直にΔZだけ平行移動した際のB
zL積の均一度を求めた図である。B
zL積は、Z軸方向の磁場の強さ(B
Z)と二極コイル51内で粒子が通過するビーム路距離(L)の積である。
【0043】
但し、水平方向に関して、ビーム軌道がΔXだけ平行移動した軌道については、軌道長LがΔL=ΔXθだけ長くなるため(θは磁石の偏向角)、この軌道長増加分を補正してプロットしている。つまり、
図3(B)は、理想としては全領域でゼロになって欲しいが、図から磁石端部では10
−3台の不均一性が生じていることがわかる。
【0044】
<多極展開手法により補正した二極コイル(参考)>
図3(C)は、上述した二極コイル51aについて、参考用の手法として、ある軸上の磁場を求め、それを多極展開することで多極磁場を見積もり、それを打ち消すよう補正を加えた結果を示す。このような補正の場合、補正前よりは均一度が向上しているものの、端部で不均一性が見られる。特に磁石が大口径で、且つ、コイル全長に対するコイルエンド長の割合が大きい場合、このような多極展開手法では、一般的に端部の補正が困難となる。
【0045】
<二次元計算手法による補正>
本発明者らは、鋭意研究の結果、主に二次元計算を用いて最適化計算を行うことで、端部も補正できて磁場均一度の高いコイル51を設計する二次元計算手法を発明した。
この最適化計算は、大まかに言うと、次[A]から[D]の4つの工程で行うものである。
【0046】
[A]最初に三次元磁場計算によってB
zL積均一度の分布を求めておく。
[B]二次元磁場計算による最小化計算によって均一度の計算結果が最小となる補正後の第k層二極コイルの超電導線(コンダクタ)の位置を決定する。
[C]最後に三次元磁場計算によってB
zL積均一度が向上したかを確認する。
[D]確認結果が求める均一度に達していなければ、前記[B]を繰り返すことで、さらに均一度の高いコンダクタ位置を求める。
【0047】
前記[A]と前記[D]の三次元磁場計算では、実際の偏向電磁石を想定して細かいパラメータを入力して計算を行う。
前記[B]の二次元磁場計算では、ビーム路30と垂直な断面でのコンダクタ位置のコンダクタが、ビーム路30の方向に無限長続くものとしたモデル化コイルを仮定し、簡略化して計算を行う。
【0048】
なお、前記[A]と[D]では、次のパラメータを入力する。二極コイルや四極コイルといった極数および層数で変化するコンダクタ(線)の配置に関するパラメータとしては、層番号毎(各層毎)に、ターン数、コンダクタ中心位置(mm)、層間での線中心間距離、コンダクタ中心位置(m)等を入力する。その他の極数や層数によって変動しないパラメータとしては、線材径、線材径(絶縁処理後)、コイル巻枠の外半径、絶縁厚(内側径)、絶縁厚(層間)、塗布線後の導体厚、参考半径、ビームパイプ径、最小導体中心間ピッチ、最小コンダクタ表面間距離、最小曲率半径、鉄ヨーク内半径、鉄ヨーク外半径、鉄ヨーク厚み、鉄ヨーク材質、真空容器内半径、真空容器外半径、真空容器厚み、真空容器材質、鉄予0区外側と真空容器内側の距離等を入力する。これらのパラメータの入力は、後述するパラメータ入力処理部74b(
図4参照)により受け付ける。
【0049】
図4(A)は、二次元計算手法を用いて最適化計算を行う偏向電磁石コイル設計装置7(偏向電磁石コイル設計手段)の構成を示すブロック図である。偏向電磁石コイル設計装置7は、適宜のコンピュータで構成されており、システムバス70に接続された入力装置71、表示装置72、記録媒体処理装置73、制御装置74、及び記憶装置75を備えている。
【0050】
この偏向電磁石コイル設計装置7は、記憶装置75に記憶されたプログラムに従って、制御装置74が、マウスやキーボード等の入力装置71からの入力を受け付け、計算処理や制御処理等の各種処理を実行し、記録媒体処理装置73によって記録媒体79に対する情報(プログラム及びデータ)の読み書きを行い、CDTや液晶ディスプレイ等で構成される表示装置72に画像や文字の表示を実行する。
【0051】
記憶装置75には、少なくともコイル配置最適化プログラム75aと、三次元磁場計算プログラム75bが記憶されている。
制御装置74は、CPUとROMとRAMで構成されており、RAM上にコイル配置最適化プログラム75aと三次元磁場計算プログラム75bを読み込んで、中央処理部74a、パラメータ入力処理部74b、コンダクタ位置パラメータ化部74c、三次元磁場計算部74d、および二次元磁場計算最小化部74eとして機能する。
【0052】
中央処理部74aは、パラメータ入力処理部74b、コンダクタ位置パラメータ化部74c、三次元磁場計算部74d、および二次元磁場計算最小化部74eに対するインプット/アウトプット、および実行/停止等の制御をつかさどり、補正の最適化計算を行う再に全体をコントロールする。
【0053】
パラメータ入力処理部74bは、偏向電磁石20やコイル51のパラメータ、具体的には線材径やコイル巻枠の外半径などのコイルパラメータの入力を受け付ける。
【0054】
コンダクタ位置パラメータ化部74cは、コンダクタ63の位置をビーム路垂直面上でのθによるパラメータにパラメータ化する処理を実行する。
【0055】
三次元磁場計算部74dは、市販の三次元磁場計算コードによる三次元磁場計算を実行する。
二次元磁場計算最小化部74eは、二次元磁場計算による最小化を実行する。
【0056】
記録媒体79は、適宜のプログラムを記録しており、コイル配置最適化プログラム75a、三次元磁場計算プログラム75b、またはこの両方のプログラムを記憶しておく構成としてもよい。このように記録しているプログラムは、記録媒体79から偏向電磁石コイル設計装置7にインストールされる。
【0057】
図4(B)は、二次元磁場計算最小化部74eの具体的な構成の一例であり、多次元最小化手法を行う場合の構成を示している。
この場合、二次元磁場計算最小化部74eは、コンダクタ初期位置設定部81、二次元磁場計算部82、B
zL積分布計算部83、B
zL積均一度分布変換部84、分布ズレ指標定義部85、多次元最小化アルゴリズム部86、及びコイル断面形状出力部87を、この順に備えている。各部の詳細な動作は後述の実施例1に示す。
【0058】
図4(C)は、二次元磁場計算最小化部74eの具体的な構成の他の一例であり、ランダムサーチ手法を行う場合の構成を示している。
この場合、二次元磁場計算最小化部74eは、初期二次元磁場分布計算部91、着目コンダクタ位置変化部92、変化後二次元磁場分布計算部93、変化率分布計算部94、改善量計算部95、着目コンダクタ再移動計算部96、着目コンダクタ計算繰返し部97、着目コンダクタ変更繰り返し部98、およびコイル断面形状出力部99を、この順に備えている。各部の詳細な動作は後述の実施例2に示す。
【0059】
図4(D)は、二次元磁場計算最小化部74eの具体的な構成の他の一例であり、多極成分加算手法を行う場合の構成を示している。
この場合、二次元磁場計算最小化部74eは、組み合わせ決定部101、コンダクタ配置決定部102、二次元磁場計算部103、繰り返し部104、およびコイル断面形状出力部105を、この順で備えている。各部の詳細な動作は後述の実施例3に示す。
【実施例1】
【0060】
<多次元最小化手法により補正した二極コイル>
実施例1として、上述した二次元磁場計算最小化部74eが
図4(B)とともに説明した多次元最小化手法により多次元最小化補正を行う構成の場合の動作について説明する。
【0061】
図5(A)は、多次元最小化補正による補正後の二極コイル51bの断面図を示す。この二極コイル51bは、上述した補正前の二極コイル51a(
図3(B)で説明したもの)について、補正を行う一部の層として最外層(22層目)の二極コイル51b(22)を選択し、この最外層(22層目)の二極コイル51b(22)における最外層コンダクタ63b(22)の配置を多次元最小化計算によって補正したものである。
【0062】
最内層である第1層コンダクタ63b(01)で構成される第1層コイル51b(01)から第21層コンダクタ63b(21)で構成される第21層コイル51b(21)は、補正前の位置から変更しない。
【0063】
なお、この実施例では、最外層(22層目)のコンダクタ位置で補正を行っているが、これに限らず他の層で補正しても良く、また複数層で補正しても構わない。
【0064】
B
zL積分布で見られる不均一性を打ち消すよう、次の手順に従って、第22層二極コイル51b(22)のコンダクタ位置(第22層コンダクタ63b(22)の配置)を最適化する。すなわち、次の手順で最適化したコイルが、
図5(A)に示す二極コイル51bである。
【0065】
[A]三次元磁場計算(事前計算)
(1)三次元磁場計算プログラム75b(
図4(A)参照)は、「Opera3D」や「Ansys」等の三次元磁場計算を行うプログラムであり、B
zL積均一度の分布(ΔB
zL/B
zL)を求める。この分布には
図3(B)に示したような不均一性が見られる。この三次元磁場計算は、三次元磁場計算プログラム75bに従って、制御装置74が三次元磁場計算部74dとして機能して実行する。この実施例では、三次元磁場計算プログラム75bとして「Opera3D」を用いている。
【0066】
(2)最外層コイル(第22層二極コイル51b(22))にnターン/ポールのコンダクタ(第22層二極コイル51b(22))があったとすると、コンダクタ位置パラメータ化部74cは、この最外層コイルに含まれるコンダクタの総数を、次の[数3]によって求める。
【0067】
【数3】
【0068】
最外層コイルに含まれる全コンダクタの位置は、半径Rが一定であるため、原点と各コンダクタを結ぶ線の角度θ
1、θ
2、θ
3、・・・、θ
4nでパラメタライズされる。従って、コンダクタ位置パラメータ化部74cは、コンダクタ位置をθによるパラメータとする。
【0069】
[B]二次元磁場計算による最小化計算(最適化の実行)
(3)コンダクタ初期位置設定部81は、前記(2)のパラメータのθ
1、θ
2、θ
3、・・・、θ
4nに初期位置を与える。これにより、全てのコンダクタ位置が定まる。
【0070】
(4)二次元磁場計算部82は、前記(3)で決めたコンダクタ位置で二次元磁場計算を行う。これにより、磁石断面のB
z分布が求まる。
【0071】
(5)前記(4)で求めたでB
z分布に中心軌道長L(ビーム路長)を乗じた分布が、予想される補正後のB
zL積分布となるため、B
zL積分布計算部83は、この補正後のB
zL積分布を求める。この分布から、B
zL積均一度分布変換部84は、更に予想されるB
zL積均一度分布に変換する。
【0072】
(6)ここで、前記(5)で求めた予想される補正後のB
zL積均一度分布と、前記(1)で得た補正前のB
zL積均一度分布の和がゼロになれば良い。従って、分布ズレ指標定義部85は、両分布がどれだけずれているかの指標として、次の[数4]を定義する。
【0073】
【数4】
【0074】
ここで、(ΔB
zL/B
zL)
orgは、前記(1)で求めたB
zL積を示す。(ΔB
zL/B
zL)
expectedは、前記(5)で求めたB
zL積を示す。上記χ
2を均一にしたいΔX及びΔZの範囲に対して和を取る。
【0075】
(7)多次元最小化アルゴリズム部86は、前記(6)のχ
2を最小化するようなパラメータθ
1、θ
2、θ
3、・・・、θ
4nを、多次元最小化のアルゴリズムを用いて決定する。多次元最小化のアルゴリズムとして、この実施例では、例えば滑降シンプレックス(downhill simplex)法を用いる。なお、多次元最小化のアルゴリズムは、これに限らず、最小二乗法等、導関数なしに最適化できる適宜のアルゴリズムを使用できる。
【0076】
[C]確認計算(均一度が向上しているか三次元磁場計算により確認)
(8)前記(7)で決定したパラメータθ
1、θ
2、θ
3、・・・、θ
4nから、補正対象である最外層コイルのコイル断面形状(第22層コンダクタ63b(22)の配置)が決定される。従って、コイル断面形状出力部87は、このコイル断面形状を出力する。
【0077】
中央処理部74aは、出力されたコイル断面形状を三次元磁場計算部74dにインプットし、三次元磁場計算部74dによる三次元磁場計算を実行させる。三次元磁場計算部74dは、インプットされたコイル断面形状に基づき、三次元磁場計算コード上で磁石をモデル化し、三次元磁場計算を実施する。そして、三次元磁場計算部74dは、B
zL積均一度が向上したかを確認する。
【0078】
[D]均一度向上のための繰り返し計算(繰り返し)
(9)中央処理部74aは、前記[8]の結果、更なる補正が必要な場合は、前記(1)で最初に得た補正前のB
zL積均一度分布と、前記(8)の計算で求めた補正後のB
zL積均一度分布の和を取り、その分布を均一にするよう、(3)〜(7)の計算、すなわちコンダクタ初期位置設定部81から多次元最小化アルゴリズム部86までの処理を繰り返す。これにより、更に均一な分布を得ることが可能となる。
【0079】
以上の計算をイタレーティブに繰り返すことで、
図5(A)に示したように最外層コイル(第22層二極コイル51b(22))が磁場を補正する均一なB
zL積分布のコイル51および偏向電磁石20を得ることができる。この偏向電磁石20のB
zL積均一度分布は、
図5(B)のB
zL積均一度分布図に示すように、高い均一度を得ることができる。
【0080】
この
図5(B)は、上記計算の実施例として、補正後のコイル51をモデル化し、三次元磁場計算を行った結果である。端部で若干の不均一性は見られるものの、10
−3オーダーの不均一が存在しておらず、補正前に比べて格段に均一度が高まっている。そして、前記(9)に記載したように、再度、補正を行えば端部の不均一性も補正することができる。
【0081】
このようにして、三次元磁場計算を最初(前記[A])と最後(前記[C])に用いながら、計算回数が多くなる最小値を求める最小化計算(前記[B])で三次元磁場計算を用いずに二次元磁場計算を用いることで、計算速度の向上と計算結果の精度向上という相反する課題を両立して解決している。
【0082】
詳述すると、三次元磁場計算は、計算時間がかかるために、最小化計算に直接利用すると膨大な計算時間を必要とする。しかし、計算回数の多い最小化計算部分を二次元磁場計算とすることで、計算時間を大幅に削減でき、最適解を素早く求めることができる。
【0083】
そして、最初と最後は三次元磁場計算を用いることで、偏向していることによる磁場不均一度やコイルエンドによる磁場不均一度を考慮した磁場計算を行うことができる。
【0084】
特に、本実施例の方法によれば、コイルエンドによるB
zL積の不均一を均一にしようとして、磁石中心の比較的磁場が均一な部分をかえって不均一にしてしまうということを防止できる。従って、本実施例の方法により、所望領域となる磁場空間56(
図2(A)参照)の全領域(もしくは一部の領域)にわたって磁場均一度の高いコイル51および偏向電磁石20を作成することができる。
【0085】
またこれにより、加速器4の性能向上や小型化等に資することができ、加速器4の要求仕様に合った大きさ、偏向度、仕様電力等の偏向電磁石20を容易かつ短時間に設計することができる。
【0086】
また、このように計算して補正することで、偏向電磁石20が大口径超伝導電磁石である場合に生じる磁場上下非対称性を補正することもできる。
【0087】
また、最外層コイル等の一部のコイルを用いて補正することができるため、仮に実際に作成した後に良い結果が得られなくても(例えば搬送する荷電粒子のビームが拡散または収束する、あるいはずれるなど)、補正に用いている一部のコイルを交換して再調整することができる。特に外層側のコイル、中でも最外層コイルを用いて補正している場合は、補正している外層側(若しくは最外層)のコイルを交換すればよいため、その内側のコイルを操作する必要がなく、安価かつ勘弁に設計変更と改良を行うことができる。
【0088】
なお、上述した最適化計算ではB
zL積のみの均一化に着目したが、その他の条件を付加することもできる。例えば、B
zL積を均一にすると同時に、B
xL積(磁場のX軸成分のBL積)についても条件を加えることもできる。
この場合、前記(6)で定義したχ
2の式(数4)に、最小化したい条件を付加すればよい。
【0089】
また、上述した計算例では、B
zL積分布の均一化を行ったが、磁石断面のB
zを均一にすることもできる。
【0090】
また、その他の応用例として、四極磁場、六極磁場、またそれ以上の偶数極である多極磁場、あるいは二極磁場と四極磁場の組み合わせ等の偶数極の組み合わせ磁場も、同様な最適化計算を実施できる。
【0091】
例えば四極磁場を最適化したい場合、次の[数5]および[数6]に示す理想的な四極磁場からのずれ量の二乗和を、前記(6)で定義したχ
2とすれば良い。
【0092】
【数5】
【数6】
【0093】
また、偏向電磁石20は、シンクロトロンやFFAG等の加速器や、加速器に接続される回転ガントリ等、適宜のビーム輸送系に利用することができる。
【実施例2】
【0094】
実施例2として、ランダムサーチ手法によってB
zL積均一度の高いコイル配置を求める方法を説明する。この方法は、
図4(C)に示した構成を有する二次元磁場計算最小化部74eによって実行する。
【0095】
この実施例2では、二極コイルはダブルパンケーキ構造としているが、22層のうち最後の2層(外側の2層)についてはシングルパンケーキ構造としている。また、タブルパンケーキコイル構造とすることで生じる磁場の上下非対称性の補正のため、後半の一部のコイル層(第19層、第20層、第22層)のターン数を調整している。また、コイル51を四極コイルとした場合、四極コイルは2層のみとして、シングルパンケーキ構造としている。
【0096】
この実施例の三次元計算において、コイルエンド部の最小曲げRはR=10mm(四極)、R=16mm(二極)とし、標準部は何れもR=40mmとしている。具体的には、次のとおりである。
二極:R=16,18,20,22,24,…,38,40,40,40,…
四極:R=10,12,14,16,18,…,38,40,40,40,…
【0097】
まず、二極コイルについて説明する。
図6(A)〜
図6(C)は、補正前の二極コイル51cを示している。
図6(A)は、二極コイル51cの断面図であり、二極コイル51cのコンダクタ位置を示している。
図6(B)は、二極コイル51cの電流I=210AでのB
zL均一度分布を示している。
図6(C)は、二極コイル51cの電流I=210AでのB
xL均一度分布を示している。
【0098】
この補正前の二極コイル51aには、次の特徴がある。
(1)励磁電流I=231Aで定格中心磁場B
z=2.3704Tを得る。
(2)磁場均一度は2×10
−3程度であり、求める仕様を満足していない。
(3)磁場均一度はコイル電流I=210Aまで変化しないが、それ以上の励磁電流で飽和の影響から均一度が僅かに(〜1.3×10
−4程度)変化する。
(4)ヨーク内半径を230mmと大きくしたことから、磁場均一度の変化量は抑えられている。
【0099】
コイル電流I≦210Aで磁場均一度が余り変化しないことから、I=210A時を基本に補正計算を行うこととする。
【0100】
図6(D)〜
図6(F)は、参考用の多極展開手法による補正後の二極コイル51dを示している。この多極展開手法は、実施例1で参考用に説明したものと同じ手法である。
図6(D)は、二極コイル51dの断面図であり、二極コイル51dと補正された最外層の第22層二極コイル51d(22)の配置を示している。
図6(E)は、二極コイル51dの電流I=231AでのB
zL均一度分布を示している。
図6(F)は、二極コイル51dの電流I=231AでのB
xL均一度分布を示している。
【0101】
多極展開補正した最外層(22層目)の二極コイル51b(22)のコンダクタ位置分布は、主に六極成分を打ち消すため、左右非対称なコイル形状となっていることが分かる。
【0102】
この補正した二極コイル51dを用いて、三次元磁場計算を行った。励磁電流I=231A,220A,210A,200A,190A,180A,160Aの7通りについて計算を行ったところ、有効磁場領域の端部で磁場均一度が低下しており、求める仕様を満たすことができていなかった。I=231Aの計算結果を
図6(E)および
図6(F)に示し、他の励磁電流の計算結果については図示省略する。
なお、この有効磁場領域の端部で見られる磁場の不均一性は、多極展開による補正を繰り返しても改善しないと思われる。
【0103】
<ランダムサーチ手法により補正した二極コイル>
そこで、B
zL積の二次元分布に見られる不均一性を打ち消すよう、一部のコイル(この実施例では最外層コイル)のコンダクタ位置の最適化を行う。補正対象の磁場分布は、コイル電流I=210A時のデータを用いている。この実施例2では、乱数を用いたランダムサーチ手法により補正する最適化手法について説明する。この手法では、最初の三次元磁場計算で見られる磁場不均一性の二次元分布ΔB(x,y)L/B(x,y)L
を補正する。なお、「y」は垂直成分を示し、「z」と同義である。これ以降の計算式でも「y」は「z」と同義である。
【0104】
[A]三次元磁場計算(事前計算)
実施例1と同様に、三次元磁場計算プログラム75b(
図4(A)参照)は、B
zL積均一度の分布(ΔB
zL/B
zL)を求める。
【0105】
[B]二次元磁場計算による最小化計算(最適化の実行)
(I)初期二次元磁場分布計算部91(
図4(C)参照)は、全コンダクタの二次元磁場計算を行い、このコンダクタが発生する二次元平面上の磁場分布を求め、これを初期磁場分布B
0(x,y)とする。
【0106】
(II)着目コンダクタ位置変化部92は、1つのコンダクタ位置に着目する(コンダクタID=kとする)。着目コンダクタ位置変化部92は、コンダクタの半径を変えずに、コンダクタの円周方向の位置(同径方向の位置)を変化させる。すなわち、着目コンダクタ位置変化部92は、初期角度をθとすると、θ+Δθの位置にコンダクタを動かす。このΔθを決めるとき、着目コンダクタ位置変化部92は、隣接する左右のコンダクタを飛び越さない範囲で、乱数で適当に決める。
【0107】
(III)変化後二次元磁場分布計算部93は、前記(II)のように1つのコンダクタ位置を変化させた状態で、再度、全コンダクタの二次元磁場計算を行い、二次元磁場分布B
k(x,y)を求める。
【0108】
(IV)変化率分布計算部94は、(I)で求めた初期磁場分布と(III)で求めた新しい磁場分布の変化率分布[数7]を二次元平面上で求める。
【0109】
【数7】
【0110】
(V)改善量計算部95は、様々なx及びy位置において、(IV)で求めた[数8]と、均一にしたい元々の不均一分布ΔBL/BLの二乗和を取る。具体的には、次の[数9]を計算する。
【0111】
【数8】
【0112】
【数9】
【0113】
(VI)着目コンダクタ再移動計算部96は、コンダクタを動かす前後でχ
2を求め、動かした後にχ
2が小さくなっている場合には、このコンダクタを新しい位置に移動させる。
【0114】
(VII)着目コンダクタ計算繰返し部97は、χ
2が改善するまで(II)〜(IV)を適当な回数(例えば10回など)繰り返す。結局、改善しない場合は、もとの位置θのままとする。
【0115】
(VIII)着目コンダクタ変更繰り返し部98、次のコンダクタ(コンダクタID=k+1)について、(II)〜(VII)の計算を繰り返す。
【0116】
上記計算を何度も繰り返し、χ
2が収束するまで計算を継続する。そして、収束後、コイル断面形状出力部99は、新しいコンダクタ配置となるコイル断面形状を出力する。
【0117】
[C]確認計算(均一度が向上しているか三次元磁場計算により確認)
中央処理部74aは、出力されたコイル断面形状を三次元磁場計算部74dにインプットし、三次元磁場計算部74dによる2度目の三次元磁場計算を行い、磁場均一度を確認する。
[D]均一度向上のための繰り返し計算(繰り返し)
2度目の計算で未だ不均一性が残っている場合、中央処理部74aは、再度、(I)〜(VIII)の計算を行う。これにより、更に均一な磁場分布を得ることができる。
【0118】
このようにして求めた二極コイル51eについて、
図7とともに説明する。
図7(A)は、ランダムサーチ補正による二極コイル51eのコイル断面形状を示す。図示するように、最外層コイルが他の層のコイルと異なる位置(角度)に配置されていることがわかる。この二極コイル51eのコイル断面形状を用いて、I=231.2A,220A,210A,200A,190A,180A,160Aの7通りに対して、それぞれ三次元磁場計算を行ったところ、いずれの計算でも磁場均一度が改善し、有効磁場範囲(±100mm)でほぼ仕様(±1×10
−4)を満足する結果となった。
一例として、I=231.2AのB
zL均一度分布を
図7(B)に示し、I=231.2AのB
xL分布を
図7(C)に示す。
計算の結果、コイル電流I=231.2A時の中心磁場は、B
z=2.3707Tであった。
【0119】
図7(D)は、ランダムサーチ補正による二極コイル51eを用いた偏向電磁石20について、「Opera3D」を用いて三次元磁場計算を行った結果を示す。この結果は、コイル電流I=231.2A時のヨーク磁場の分布を示しており、中心磁場はB
z=2.3707Tである。
【0120】
各コイル電流に対する磁場均一度分布から、磁場分布はコイル電流によって殆ど変化しないことがわかる。これはヨーク内半径をR230にした効果と思われる。
【0121】
図7(E)は、コイル電流とビーム中心軌道のB
zL積の関係を表すグラフであり、
図7(F)は、コイル電流とビーム中心軌道の有効磁場長の関係を表すグラフである。
有効磁場長は、デザイン値L
design=1.09956mより0.3〜0.6mm程短い結果となった。
【0122】
<補正前の四極コイル>
ヨーク内半径の変更に伴い、四極コイルについても再計算を行う必要が生じたため、四極コイルについてもランダムサーチ補正による最適化を行う。
【0123】
図8(A)は、補正前の四極コイル51fのコイル断面形状を示す断面図である。この四極コイル51fは、全2層により構成されている。
コイル長は、二極にあわせ、22.5度のヨーク端部から四極コイルエンド最端部のコンダクタ中心までの距離をL
END=116mmとしている。
【0124】
四極コイル51fのみモデル化し、三次元磁場計算を行った。
得られた磁場分布を
図8(B1)から
図8(F)に示す。
図8(B1)はB
zL積を示すグラフであり、
図8(B2)はB
xL積を示すグラフであり、
図8(B3)はG
zL積を示すグラフであり、
図8(B4)はG
xL積を示すグラフであり、
図8(B5)はG
zL積均一度を示すグラフであり、
図8(B6)はG
xL積均一度を示すグラフである。
図8(C)は、G
xL分布を示すグラフであり、
図8(D)は、G
zL分布を示すグラフであり、
図8(E)は、ΔG
xL/G
xL分布を示すグラフであり、
図8(C)は、ΔG
zL/G
zL分布を示すグラフである。
【0125】
コイル電流I=200Aとした際、ビーム中心軌道のGL積はGL=1.5112 Tであった。有効磁場長はL
eff=1.15986mと計算され、デザイン値(L
design=1.09956m)より約60.3mm長い。
計算結果から、磁場分布には主に六極成分が見られ、GL積均一度としては1%程度に至るため、補正の必要がある。
【0126】
<多極展開手法による四極コイル(参考)>
図9は、参考用の多極展開手法による補正後の四極コイル51gを示している。この多極展開手法による補正(多極展開補正)は、実施例1で参考用に説明したものと同様の補正である。補正を行わない場合に見られた主に六極成分からなる多極成分(六極以上の多極成分)を、2層目(最外層)のコイルで補正している。
【0127】
図9(A)は、参考用の多極展開補正後の四極コイル51gのコイル断面形状を示す断面図である。この四極コイル51gは、全2層により構成されている。
この四極コイル51gのみモデル化し、三次元磁場計算を行い、得られた磁場分布を
図9(B1)から
図9(F)に示す。
【0128】
図9(B1)はB
zL積を示すグラフであり、
図9(B2)はB
xL積を示すグラフであり、
図9(B3)はG
zL積を示すグラフであり、
図9(B4)はG
xL積を示すグラフであり、
図9(B5)はG
zL積均一度を示すグラフであり、
図9(B6)はG
xL積均一度を示すグラフである。
図9(C)は、G
xL分布を示すグラフであり、
図9(D)は、G
zL分布を示すグラフであり、
図9(E)は、ΔG
xL/G
xL分布を示すグラフであり、
図9(C)は、ΔG
zL/G
zL分布を示すグラフである。
【0129】
この参考用の補正によりGL積の均一度は1桁ほど改善したが、有効磁場領域端部では依然10
−3台前半の不均一性が見られ、要求する仕様を満たしていない。一方、磁場勾配は補正前と変わらず、GL=1.5117Tであった。有効磁場長もL
eff=1.15987mと大きな変化はない。
【0130】
<ランダムサーチ手法により補正した四極コイル>
図10は、ランダムサーチ手法による補正後の四極コイル51hを示している。このランダムサーチ補正は、二極コイルの例で上述したものと同様の補正であり、GL積の二次元分布上の全領域で均一になるように最外層コイルで補正を行う。
【0131】
図10(A)は、ランダムサーチ手法による多極展開補正後の四極コイル51hのコイル断面形状を示す断面図である。この四極コイル51hは、全2層により構成されている。
この四極コイル51hのみモデル化し、三次元磁場計算を行い、得られた磁場分布を
図10(B1)から
図10(F)に示す。
【0132】
図10(B1)はB
zL積を示すグラフであり、
図10(B2)はB
xL積を示すグラフであり、
図10(B3)はG
zL積を示すグラフであり、
図10(B4)はG
xL積を示すグラフであり、
図10(B5)はG
zL積均一度を示すグラフであり、
図10(B6)はG
xL積均一度を示すグラフである。
図10(C)は、G
xL分布を示すグラフであり、
図10(D)は、G
zL分布を示すグラフであり、
図10(E)は、ΔG
xL/G
xL分布を示すグラフであり、
図10(C)は、ΔG
zL/G
zL分布を示すグラフである。
【0133】
補正前と比較して有効磁場領域端部のGL積均一度が改善しており、参考用の多極展開補正と比較しても有効磁場領域端部のGL積均一度が若干改善していることがわかる。
【0134】
磁場勾配は変化せず、GL=1.51107Tであった。有効磁場長についてはL
eff=1.15992mと僅かに変化した。
【0135】
また、コイル電流をI=100Aとした計算も実施したが、この場合の磁場均一度は、I=200A時の磁場均一度と変化がなかった。よって、飽和の影響は考えなくて良い。
【0136】
以上に説明したように、ランダムサーチ手法による実施例2も、上述した実施例1と同様の効果を得ることができる。また、二極コイルだけでなく、四極コイル等も含め、多極コイルで同様の効果を得ることができる。
【0137】
なお、この実施例では、コンダクタ63を1つずつ移動させて計算したが、1つに限らず所定個数ずつ移動させて計算してもよい。
【実施例3】
【0138】
<多極成分加算手法によるコイル>
実施例3として、多極加算補正によってB
zL積均一度の高いコイル配置を求める多極成分加算手法を説明する。この方法は、
図4(D)に示した構成を有する二次元磁場計算最小化部74eによって実行する。
【0139】
まず、あらゆる磁場分布は多極成分の和で表現できる。つまり、次の[数10]の電流分布を持つコンダクタ配置で、A
nを最適化することにより、観測された不均一性を打ち消すことが出来る。
【0140】
【数10】
【0141】
具体的な手法は、上述した実施例2で示した考えとほぼ等しくA
nを最適化することができる。この手法の主な手順を説明する。
【0142】
[B]二次元磁場計算による最小化計算(最適化の実行)
(i)組み合わせ決定部101は、A
nの組み合わせを乱数で適当に決定する。この決定には、モンテカルロ法等を使用してもよい。
(ii)コンダクタ配置決定部102は、前記(i)で決めたA
nを用いて、前記[数10]の電流分布を再現するよう、コンダクタ配置を決める。
(iii)二次元磁場計算部103は、前記(ii)で得たコンダクタ配置で二次元磁場計算を行い、磁場分布を求める。
(iv)繰り返し部104は、前記(iii)で求めた磁場分布が、丁度、打ち消したい磁場不均一性と符号が逆で大きさが一致するように、(i)〜(iii)を繰り返す。
【0143】
以上の計算方法を用いることで、実施例1,2と同様の効果を得ることができる。
なお、上述した多極成分加算手法では乱数を用いているが、A
nの最適化は、これに限らず滑降シンプレックス法等の多次元最小化法を用いても良い。この場合も同様の効果を得ることができる。
【0144】
また、この多極成分加算手法についても、[A]最初に三次元磁場計算によってB
zL積均一度の分布を求めておき、[B]多極成分加算手法によって補正後のコンダクタ位置を決定し、[C]最後に三次元磁場計算によってB
zL積均一度が向上したか確認し、[D]確認結果が求める均一度に達していなければ、前記[B]を繰り返すことで、さらに均一度の高いコンダクタ位置を求めるようにしてもよい。
【0145】
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。