(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、有機発光素子の屈折率ndは1.8〜1.9であり、透明導電膜の屈折率ndは1.9〜2.0である。これに対して、ガラス板の屈折率ndは、通常、1.5程度である。このため、従来の有機ELデバイスは、ガラス板−透明導電膜の界面の屈折率差に起因して反射率が高いため、有機発光素子から発生した光を外部に効率良く取り出せないという問題があった。
【0004】
ガラス板として高屈折率ガラスを用いると、ガラス板−透明導電膜の界面の屈折率差を小さくすることができる。
【0005】
高屈折率ガラスとして、光学レンズ等で使用される光学ガラスが知られている。光学レンズ等には、液滴成形法等で球状に成形した液滴ガラスに再度熱処理を加えて、所定形状にプレス成型した光学ガラスが使用されている。この光学ガラスは、屈折率ndが高いものの、液相粘度が低いため、冷却速度が速い液滴成形法等で成形しないと、成形時にガラスが失透してしまう。よって、上記問題を解消するためには、高屈折率ガラスの耐失透性を高める必要がある。
【0006】
ところで、有機ELディスプレイ等の薄型化、大型化に伴い、板厚が小さく、大面積のガラス板が要求されている。このようなガラス板を得るためには、フロート法又はダウンドロー法(オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法)で成形する必要がある。しかし、従来の高屈折率ガラスは、液相粘度が低いため、フロート法又はダウンドロー法で成形することができず、薄板化、大型化が困難であった。なお、有機EL照明でも、大型化、薄型化の要請がある。
【0007】
一方、ガラス組成中に酸化物、特にLa
2O
3、Nb
2O
5、Gd
2O
3を添加すると、液相粘度の低下をある程度抑制しつつ、ガラス板の屈折率ndを高めることができる。しかし、このようなレアメタル酸化物は、原料コストが高いという問題がある。なお、ガラス組成中にレアメタル酸化物を多量に添加すると、耐失透性が低下し、ガラス板を成形し難くなること加えて、耐酸性が低下する。
【0008】
更に、有機ELディスプレイ等の製造工程には、酸によるエッチング工程が存在する。ガラス板の耐酸性が低いと、このエッチング工程でガラス板が浸食されて、白濁する。ガラス板が白濁すると、ガラス板の透過率が低下して、ディスプレイの高精細化が困難になる。
【0009】
そこで、本発明は、レアメタル酸化物(特にLa
2O
3、Nb
2O
5、Gd
2O
3)の含有量が少ないにもかかわらず、有機発光素子や透明導電膜の屈折率ndに整合し、しかも耐失透性、耐酸性が良好な高屈折率ガラスを創案することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意検討を行った結果、ガラス組成範囲を所定範囲に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の高屈折率ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 35〜60%、B
2O
3 1〜15%、Al
2O
3 0〜15%、Li
2O 0〜
1%、Na
2O 0〜
1%、K
2O 0〜
1%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0〜
1%、CaO 0〜11%、SrO 2〜25%、
BaO 0.1〜3.5%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 20〜
50%、TiO
2 0.0001〜20%、ZrO
2 0.0001〜20%、
La2O3 0〜2.5%、La
2O
3+Nb
2O
5 0〜
8%を含有し、屈折率ndが1.55〜2.3であることを特徴とする。ここで、「MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO」は、MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOの合量を指す。「La
2O
3+Nb
2O
5」は、La
2O
3とNb
2O
5の合量を指す。「屈折率nd」は、屈折率測定器で測定可能であり、例えば25mm×25mm×約3mmの直方体試料を作製した後、(徐冷点Ta+30℃)から(歪点Ps−50℃)までの温度域を0.1℃/minの冷却速度でアニール処理し、続いて屈折率ndが整合する浸液をガラス間に浸透させながら、カルニュー社製の屈折率測定器KPR−200を用いることにより測定可能である。「徐冷点Ta」は、ASTM C338−93に記載の方法で測定した値を指す。「歪点Ps」は、ASTM C336−71に記載の方法で測定した値を指す。
【0011】
本発明の高屈折率ガラスは、SiO
2 35〜60%、B
2O
3 1〜15%、Al
2O
3 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 20〜
50%、TiO
2 0.0001〜20%、ZrO
2 0.0001〜20%を含有する。このようにすれば、屈折率ndを高めつつ、耐失透性を高めることができる。
【0012】
本発明の高屈折率ガラスは、La
2O
3+Nb
2O
5 0〜
8%を含有する。このようにすれば、原料コストを低廉化し得る共に、耐失透性や耐酸性を高め易くなる。
【0013】
本発明の高屈折率ガラスは、Li
2O 0〜
1%、Na
2O 0〜
1%、K
2O 0〜
1%を含有する。このようにすれば、耐酸性が向上して、酸によるエッチング工程においてアルカリ成分の溶出によりガラスが白濁し難くなる。
【0014】
本発明の高屈折率ガラスは、屈折率ndが1.55〜2.3である。このようにすれば、有機発光素子や透明導電膜の屈折率ndに整合し易くなり、有機発光素子から発生した光を外部に効率良く取り出すことができる。
【0015】
ここで、「Li
2O+Na
2O+K
2O」は、Li
2O、Na
2O、及びK
2Oの合量を指す。
【0016】
本発明の高屈折率ガラスは、板状であることが好ましい。このようにすれば、有機ELディスプレイ、有機EL照明、有機薄膜太陽電池等の各種デバイスの基板に適用し易くなる。ここで、「板状」は、限定的に解釈されず、板厚が小さいフィルム形状等、例えば円柱に沿って設置されたフィルム形状のガラスを含み、また一方の面に凹凸形状が形成されたものも含む。
【0017】
本発明の高屈折率ガラスは、液相粘度が10
3.0dPa・s以上であることが好ましい。有機EL照明等には、ガラス板の表面平滑性の僅かな違いによって、電流印加時の電流密度が変化し、照度のムラを引き起こすという問題がある。また、ガラス板の表面平滑性を高めるために、ガラス表面を研磨すると、加工コストが高騰するという問題が生じる。そこで、液相粘度を上記範囲とすれば、オーバーフローダウンドロー法等でガラス板を成形し易くなり、結果として、未研磨でも表面平滑性が良好なガラス板を作製し易くなる。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値を指す。「オーバーフローダウンドロー法」は、溶融ガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス板を成形する方法である。
【0018】
本発明の高屈折率ガラスは、フロート法又はダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。ここで、「ダウンドロー法」には、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法等がある。
【0019】
本発明の高屈折率ガラスは、少なくとも一方の面に未研磨の表面を有し、その表面の表面粗さRaが10Å以下であることが好ましい。ここで、「表面粗さRa」は、JIS B0601:2001に準拠した方法で測定した値を指す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の高屈折率ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 35〜60%、B
2O
3 1〜15%、Al
2O
3 0〜15%、Li
2O 0〜
1%、Na
2O 0〜
1%、K
2O 0〜
1%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0〜
1%、CaO 0〜11%、SrO 2〜25%、
BaO 0.1〜3.5%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 20〜
50%、TiO
2 0.0001〜20%、ZrO
2 0.0001〜20%、
La2O3 0〜2.5%、La
2O
3+Nb
2O
5 0〜
8%を含有する。上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を以下に説明する。なお、各成分の含有範囲の説明において、特に断りがある場合を除き、%は質量%を表す。
【0021】
SiO
2の含有量は
35〜60%である。SiO
2の含有量が多くなると、溶融性、成形性が低下し易くなり、また屈折率ndが低下し易くなる。よって、SiO
2の含有量の上限は60%以下であり、好ましくは50%以下、48%以下、45%以下、特に43%以下である。一方、SiO
2の含有量が少なくなると、ガラス網目構造を形成し難くなり、ガラス化が困難になる。またガラスの粘性が低下し過ぎて、高い液相粘度を確保し難くなることに加えて、耐酸性が低下し易くなる。よって、SiO
2の含有量の下限は
35%以上であり、好ましく
は38%以上、特に40%以上である。
【0022】
B
2O
3の含有量は1〜15%である。B
2O
3の含有量が多くなると、ヤング率が低下し易くなり、また歪点が低下し易くなる。更にガラス組成の成分バランスが損なわれて、耐失透性が低下し易くなることに加えて、耐酸性が低下し易くなる。よって、B
2O
3の含有量の上限は15%以下であり、好ましくは10%以下、8%以下、特に6%以下である。一方、B
2O
3の含有量が少なくなると、ガラス液相粘度が低下し易くなる。よって、B
2O
3の好適な下限含有量は1%以上、1.5%以上、2%以上、3%以上、特に4%以上である。
【0023】
質量比B
2O
3/SiO
2は0〜1が好ましい。質量比B
2O
3/SiO
2が大きくなると、高い液相粘度を確保し難くなり、また耐薬品性が低下し易くなる。よって、質量比B
2O
3/SiO
2の好適な上限範囲は1以下、0.5以下、0.2以下、0.15以下、特に0.13以下である。一方、質量比B
2O
3/SiO
2が小さくなると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、耐失透性が低下し易くなる。よって、質量比B
2O
3/SiO
2の好適な下限範囲は0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、特に0.10以上である。
【0024】
Al
2O
3の含有量は0〜15%である。Al
2O
3の含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、耐失透性が低下し易くなる。また耐酸性が低下し易くなる。よって、Al
2O
3の含有量の上限は15%以下であり、好ましくは10%以下、8%以下、特に6%以下である。一方、Al
2O
3の含有量が少なくなると、ガラスの粘性が低下し過ぎて、高い液相粘度を確保し難くなる。よって、Al
2O
3の好適な下限含有量は0.5%以上、1%以上、2%以上、特に4%以上である。
【0025】
Li
2Oの含有量は0〜
1%である。Li
2Oの含有量が多くなると、液相粘度が低下し易くなり、また歪点が低下し易くなる。また、酸によるエッチング工程においてアルカリ成分の溶出によりガラスが白濁し易くなる。よって、Li
2Oの含有量の上限は
1%以下であり、好ましく
は1%未満であり、実質的に含有しないことが望ましい。ここで、「実質的にLi
2Oを含有しない」とは、ガラス組成中のLi
2Oの含有量が1000ppm(質量)未満の場合を指す。
【0026】
Na
2Oの含有量は0〜
1%である。Na
2Oの含有量が多くなると、液相粘度が低下し易くなり、また歪点が低下し易くなる。また、酸によるエッチング工程においてアルカリ成分の溶出によりガラスが白濁し易くなる。よって、Na
2Oの含有量の上限は
1%以下であり、好ましく
は1%未満であり、実質的に含有しないことが望ましい。ここで、「実質的にNa
2Oを含有しない」とは、ガラス組成中のNa
2Oの含有量が1000ppm(質量)未満の場合を指す。
【0027】
K
2Oの含有量は0〜
1%である。K
2Oの含有量が多くなると、液相粘度が低下し易くなり、また歪点が低下し易くなる。また、酸によるエッチング工程においてアルカリ成分の溶出によりガラスが白濁し易くなる。よって、K
2Oの含有量の上限は
1%以下であり、好ましく
は1%未満であり、実質的に含有しないことが望ましい。ここで、「実質的にK
2Oを含有しない」とは、ガラス組成中のK
2Oの含有量が1000ppm(質量)未満の場合を指す。
【0028】
Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量は0〜
1%が好ましい。Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量が多くなると、液相粘度が低下し易くなり、また歪点が低下し易くなる。また、酸によるエッチング工程においてアルカリ成分の溶出によりガラスが白濁し易くなる。よって、Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量の上限
は1%以下
であり、好ましくは1%未満であり、実質的に含有しないことが望ましい。ここで、「実質的にLi
2O+Na
2O+K
2Oを含有しない」とは、ガラス組成中のLi
2O+Na
2O+K
2Oの含有量が1000ppm(質量)未満の場合を指す。
【0029】
MgOの含有量は0〜20%が好ましい。MgOは、屈折率nd、ヤング率、歪点を高める成分であると共に、高温粘度を低下させる成分であるが、MgOを多量に含有させると、液相温度が上昇して、耐失透性が低下したり、密度や熱膨張係数が高くなり過ぎる虞がある。よって、MgOの好適な上限含有量は20%以下、10%以下、特に6%以下である。一方、MgOの含有量が少なくなると、溶融性が低下したり、ヤング率が低下したり、屈折率ndが低下し易くなる。よって、MgOの好適な下限含有量は0.1%以上、0.5%以上、1%以上、1.5%以上、2%以上、特に3%以上である。
【0030】
CaOの含有量は0〜11%が好ましい。CaOの含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなり易く、またガラス組成の成分バランスが損なわれて、耐失透性が低下し易くなる。よって、CaOの好適な上限含有量は11%以下、9.5%以下、特に8%以下である。一方、CaOの含有量が少なくなると、溶融性が低下したり、ヤング率が低下したり、屈折率ndが低下し易くなる。よって、CaOの好適な下限含有量は0.5%以上、1%以上、特に2%以上である。
【0031】
SrOの含有量は2〜25%が好ましい。SrOの含有量が多くなると、屈折率nd、密度、熱膨張係数が高くなり易く、またガラス組成の成分バランスが損なわれて、耐失透性が低下し易くなる。よって、SrOの好適な上限含有量は25%以下、18%以下、14%以下、特に12%以下である。一方、SrOの含有量が少なくなると、溶融性が低下し易くなり、また屈折率ndが低下し易くなる。よって、SrOの好適な下限含有量は2%以上、5%以上、7%以上、特に9%以上である。
【0032】
BaOは、アルカリ土類金属酸化物の中ではガラスの粘性を極端に低下させずに、屈折率ndを高める成分であり、その含有量は0.1〜
35%が好ましい。BaOの含有量が多くなると、屈折率nd、密度、熱膨張係数が高くなり易く、またガラス組成の成分バランスが損なわれて、耐失透性が低下し易くなる。よって、BaOの好適な上限含有量
は35%以下、34%以下、特に33%以下である。一方、BaOの含有量が少なくなると、所望の屈折率ndを得難くなる上、高い液相粘度を確保し難くなる。よって、BaOの好適な上限含有量は0.1%以上、1%以上、2%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、23%以上、特に25%以上である。
【0033】
ZnOの含有量は0〜20%が好ましい。ZnOは、屈折率nd、歪点を高める成分であると共に、高温粘度を低下させる成分であるが、ZnOを多量に添加すると、液相温度が上昇して、耐失透性が低下したり、密度や熱膨張係数が高くなり過ぎる虞がある。よって、ZnOの好適な上限含有量は20%以下、10%以下、5%以下、3%以下、特に1%以下である。
【0034】
MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの含有量は20〜
50%である。MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなり易く、またガラス組成の成分バランスが損なわれて、耐失透性が低下し易くなる。よって、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの含有量の上限は
50%以下であり、好ましく
は48%以下、特に45%以下である。一方、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの含有量が少なくなると、ガラスが不安定になる。よって、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの含有量の下限は20%以上であり、好ましくは30%以上、35%以上、特に40%以上である。
【0035】
TiO
2は、屈折率ndを高める成分であり、その含有量は0.0001〜20%である。しかし、TiO
2の含有量が多くなると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、耐失透性が低下し易くなる。また透過率が減少し、有機ELディスプレイに適用する場合、発光効率が低下する虞がある。よって、TiO
2の含有量の上限は20%以下であり、好ましくは10%以下、7%以下、特に5%以下である。一方、TiO
2の含有量が少なくなると、所望の屈折率ndを得難くなる。よって、TiO
2の含有量の下限は0.0001%以上であり、好ましくは0.001%以上、0.01%以上、0.02%以上、0.05%以上、0.1%以上、1%以上、特に2%以上である。
【0036】
ZrO
2は、屈折率ndを高める成分であり、その含有量は
0.0001〜20%である。しかし、ZrO
2の含有量が多くなると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、耐失透性が低下し易くなる。よって、ZrO
2の含有量の上限は20%以下であり、好ましくは10%以下、7%以下、特に5%以下である。一方、ZrO
2の含有量が少なくなると、所望の屈折率ndを得難くなる。よって、ZrO
2の好適な下限含有量は0.001%以上、0.01%以上、0.02%以上、0.05%以上、0.1%以上、1%以上、特に2%以上である。
【0037】
La
2O
3は、屈折率ndを高める成分であり、その含有量は0〜
2.5%が好ましい。La
2O
3の含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなり易く、また耐失透性や耐酸性が低下し易くなる。また、原料コストが上昇して、ガラス板の製造コストが高騰し易くなる。よって、La
2O
3の好適な上限含有量
は2.5%以下、特に1%以下である。
【0038】
Nb
2O
5は、屈折率ndを高める成分であり、その含有量は0〜10%が好ましい。Nb
2O
5の含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなり易く、また耐失透性が低下し易くなる。また、原料コストが上昇して、ガラス板の製造コストが高騰し易くなる。よって、Nb
2O
5の好適な上限含有量は10%以下、5%以下、3%以下、特に1%以下である。
【0039】
Gd
2O
3の含有量は0〜10%が好ましい。Gd
2O
3は屈折率nd高める成分であるが、Gd
2O
3の含有量が多くなると、密度や熱膨張係数が高くなり過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下したり、高温粘性が低下し過ぎて、高い液相粘度を確保し難くなる。よって、Gd
2O
3の好適な上限含有量は10%以下、5%以下、3%以下、特に1%以下である。
【0040】
La
2O
3+Nb
2O
5の含有量は0〜
8%である。La
2O
3+Nb
2O
5の含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなり易く、また耐失透性が低下し易くなり、更には高い液相粘度を確保し難くなる。また、原料コストが上昇して、ガラス板の製造コストが高騰し易くなる。よって、La
2O
3+Nb
2O
5の含有量の上限は
8%以下であり、好ましく
は5%以下、3%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下である。
【0041】
レアメタル酸化物の含有量は合量で0〜10%が好ましい。レアメタル酸化物の含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなり易く、また耐失透性や耐酸性が低下し易くなり、高い液相粘度を確保し難くなる。また、原料コストが上昇して、ガラス板の製造コストが高騰し易くなる。よって、レアメタル酸化物の好適な上限含有量は10%以下、5%以下、3%以下、特に1%以下である。
【0042】
上記成分以外にも、以下の成分を添加してもよい。
【0043】
清澄剤として、As
2O
3、Sb
2O
3、CeO
2、SnO
2、F、Cl、SO
3の群から選択された一種又は二種以上を0〜3%添加することができる。但し、As
2O
3、Sb
2O
3、及びFは、環境的観点から、その使用を極力控えることが好ましく、各々の含有量は0.1%未満が好ましい。以上の点を考慮すると、清澄剤として、SnO
2、SO
3、Cl、及びCeO
2が好ましい。
【0044】
SnO
2の含有量は、好ましくは0〜1%、0.001〜1%、特に0.01〜0.5%である。
【0045】
SO
3の含有量は、好ましくは0〜1%、0〜0.5%、0.001〜0.1%、0.005〜0.1%、0.01〜0.1%、特に0.01〜0.05%である。SO
3の導入原料として、芒硝を用いてもよい。また、硫酸を含む原料を用いてもよい。
【0046】
Clの含有量は、好ましくは0〜1%、0.001〜0.5%、特に0.01〜0.4%である。
【0047】
SnO
2+SO
3+Clの含有量は、好ましくは0〜1%、0.001〜1%、0.01〜0.5%、特に0.01〜0.3%である。ここで、「SnO
2+SO
3+Cl」は、SnO
2、SO
3、及びClの合量を指す。
【0048】
CeO
2の含有量は0〜6%が好ましい。CeO
2の含有量が多くなると、耐失透性が低下し易くなる。よって、CeO
2の好適な上限含有量は6%以下、5%以下、3%以下、2%以下、特に1%以下である。一方、CeO
2が少なくなると、清澄剤として効果が乏しくなる。よって、CeO
2の好適な下限含有量は0.001%以上、0.005%以上、0.01%以上、0.05%以上、特に0.1%以上である。
【0049】
PbOは、高温粘性を低下させる成分であるが、環境的観点から、その使用を極力控えることが好ましい。PbOの含有量は0.5%以下が好ましく、実質的に含有しないことが望ましい。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm(質量)未満の場合を指す。
【0050】
なお、各成分の好適な含有範囲を組み合わせて、好適なガラス組成範囲を構築することが可能である。
【0051】
本発明の高屈折率ガラスにおいて、屈折率ndは1.55以上であり、好ましくは1.58以上、1.60以上、特に1.63以上である。屈折率ndが1.55未満になると、透明導電膜−ガラス板界面の反射によって光を効率良く取り出せなくなる。一方、屈折率ndが2.3より高くなると、空気−ガラス板界面での反射率が高くなり、ガラス表面に粗面化処理を施しても、光を外部に取り出し難くなる。よって、屈折率ndは2.3以下であり、好ましくは2.2以下、2.1以下、2.0以下、1.9以下、特に1.75以下である。
【0052】
本発明の高屈折率ガラスにおいて、密度は、好ましくは5.0g/cm
3以下、4.8g/cm
3以下、4.5g/cm
3以下、4.3g/cm
3以下、3.7g/cm
3以下、3.5g/cm
3以下、特に3.4g/cm
3以下である。このようにすれば、デバイスを軽量化することができる。
【0053】
本発明の高屈折率ガラスにおいて、30〜380℃における熱膨張係数は、好ましくは45×10
−7〜110×10
−7/℃、50×10
−7〜100×10
−7/℃、60×10
−7〜95×10
−7/℃、65×10
−7〜90×10
−7/℃、65×10
−7〜85×10
−7/℃、特に67×10
−7〜80×10
−7/℃である。近年、有機ELデバイス等において、デザイン的要素を高める観点から、ガラス板に可撓性を付与する場合がある。ガラス板の可撓性を高めるためには、ガラス板の厚みを小さくする必要があるが、この場合に、ガラス板と透明導電膜の熱膨張係数が不整合であると、ガラス板が反り易くなる。そこで、30〜380℃における熱膨張係数を上記範囲とすれば、このような事態を防止し易くなる。
【0054】
本発明の高屈折率ガラスにおいて、歪点は、好ましくは600℃以上、特に630℃以上である。有機薄膜太陽電池等のデバイスにおいて、透明導電膜を形成する際、高温で処理する程、透明性が高く、且つ低電気抵抗の膜を形成することができる。しかし、従来の高屈折率ガラスは、耐熱性が不十分であるため、透明性と低電気抵抗を両立させることが困難であった。そこで、歪点を上記範囲とすれば、有機薄膜太陽電池等のデバイスにおいて、透明性と低電気抵抗の両立が可能になると共に、デバイスの製造工程における熱処理によりガラスが熱収縮し難くなる。
【0055】
本発明の高屈折率ガラスにおいて、10
2.5dPa・sにおける温度は、好ましくは1450℃以下、1400℃以下、1350℃以下、1300℃以下、1250℃以下、特に1200℃以下である。このようにすれば、溶融性が向上するため、ガラスの製造効率が向上する。
【0056】
本発明の高屈折率ガラスにおいて、液相温度は、好ましくは1200℃以下、1150℃以下、1130℃以下、1110℃以下、1090℃以下、1070℃以下、1050℃以下、1040℃以下、1000℃以下、特に980℃以下である。また、液相粘度は、好ましくは10
3.5dPa・s以上、10
3.8dPa・s以上、10
4.0dPa・s以上、10
4.2dPa・s以上、10
4.4dPa・s以上、10
4.6dPa・s以上、10
4.8dPa・s以上、特に10
5.0dPa・s以上である。このようにすれば、成形時にガラスが失透し難くなり、フロート法又はオーバーフローダウンドロー法でガラス板を成形し易くなる。
【0057】
本発明の高屈折率ガラスは、板状であることが好ましい。また、厚み(板状の場合は板厚)は、好ましくは1.5mm以下、1.3mm以下、1.1mm以下、0.8mm以下、0.6mm以下、0.5mm以下、0.3mm以下、0.2mm以下、特に0.1mm以下である。厚みが小さい程、可撓性が高まり、デザイン性に優れた照明デバイスを作製し易くなるが、厚みが極端に小さくなると、ガラスが破損し易くなる。よって、厚みは、好ましくは10μm以上、特に30μm以上である。
【0058】
本発明の高屈折率ガラスは、板状の場合、少なくとも一方の面に未研磨の表面を有すること(特に、少なくとも一方の面の有効面全体が未研磨であること)が好ましい。ガラスの理論強度は、本来非常に高いが、理論強度よりも遥かに低い応力でも破壊に至ることが多い。これは、ガラス表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥が成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。よって、ガラス表面を未研磨とすれば、本来のガラスの機械的強度を損ない難くなるため、ガラスが破壊し難くなる。また、研磨工程を簡略化又は省略し得るため、ガラス板の製造コストを低廉化することができる。
【0059】
本発明の高屈折率ガラスにおいて、未研磨の表面の表面粗さRaは、好ましくは10Å以下、5Å以下、3Å以下、特に2Å以下である。表面粗さRaが10Åより大きいと、その面に形成される透明導電膜の品位が低下して、均一な発光を得難くなる。
【0060】
本発明の高屈折率ガラスは、ダウンドロー法、特にオーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。このようにすれば、未研磨で表面品位が良好なガラス板を製造することができる。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、表面になるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されるからである。樋状構造物の構造や材質は、所望の寸法や表面精度を実現できる限り、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うために、溶融ガラスに対して、力を印加する方法も特に限定されない。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールを溶融ガラスに接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールを溶融ガラスの端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。なお、オーバーフローダウンドロー法以外にも、ダウンドロー法として、スロットダウンドロー法を採用することができる。このようにすれば、板厚が小さいガラス板を作製し易くなる。ここで、「スロットダウンドロー法」は、略矩形形状の隙間から溶融ガラスを流し出しながら、下方に延伸成形して、ガラス板を成形する方法である。
【0061】
本発明の高屈折率ガラスは、フロート法で成形されてなることが好ましい。このようにすれば、大型のガラス板を安価、且つ大量に作製することができる。
【0062】
上記成形方法以外にも、例えば、リドロー法、フロート法、ロールアウト法等を採用することができる。
【0063】
本発明の高屈折率ガラスは、HFエッチング、サンドブラスト等によって、一方の面に粗面化処理を行うことが好ましい。粗面化処理面の表面粗さRaは、好ましくは10Å以上、20Å以上、30Å以上、特に50Å以上である。粗面化処理面を有機EL照明等の空気と接する側にすれば、粗面化処理面が無反射構造になるため、有機発光層で発生した光が有機発光層内に戻り難くなり、結果として、光の取り出し効率を高めることができる。またガラス表面に凹凸形状を付与(例えばリプレス等の熱加工)してもよい。このようにすれば、ガラス表面に正確な反射構造を形成することができる。凹凸形状は、屈折率ndを考慮しながら、その間隔と深さを調整すればよい。さらに、凹凸形状を有する樹脂フィルムをガラス表面に貼り付けてもよい。
【0064】
また、大気圧プラズマプロセスにより粗面化処理すれば、一方の面の表面状態を維持した上で、他方の面に対して、均一に粗面化処理を行うことができる。また、大気圧プラズマプロセスのソースとして、Fを含有するガス(例えば、SF
6、CF
4)を用いることが好ましい。このようにすれば、HF系ガスを含有したプラズマが発生するため、粗面化処理の効率が向上する。
【0065】
更に、成形時に一方の面に凹凸形状を形成する方法も好ましい。この場合、別途独立した粗面化処理が不要になり、粗面化処理の効率が向上する。
【0066】
次に、本発明の高屈折率ガラスを製造する方法を例示する。まず所望のガラス組成になるように、ガラス原料を調合して、ガラスバッチを作製する。次いでこのガラスバッチを溶融、清澄した後、所望の形状に成形する。その後、所望の形状に加工する。
【実施例】
【0067】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0068】
表1〜8は、試料No.1〜37を示している。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
まず、表中に記載のガラス組成になるように、ガラス原料を調合した後、得られたガラスバッチをガラス溶融炉に供給して1500℃で4時間溶融した。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板の上に流し出し、板状に成形した後、所定のアニール処理を行った。最後に、得られたガラス板について、種々の特性を評価した。
【0078】
屈折率ndは、まず25mm×25mm×約3mmの直方体試料を作製した後、(徐冷点Ta+30℃)から(歪点Ps−50℃)までの温度域を0.1℃/minの冷却速度でアニール処理し、続いて屈折率ndが整合する浸液をガラス間に浸透させながら、島津製作所製の屈折率測定器KPR−2000により測定した値である。
【0079】
密度は、周知のアルキメデス法で測定した値である。
【0080】
熱膨張係数は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃における平均熱膨張係数を測定した値である。測定試料として、φ5mm×20mmの円柱状試料(端面はR加工されている)を用いた。
【0081】
歪点Psは、ASTM C336−71に記載の方法で測定した値である。なお、歪点Psが高い程、耐熱性が高くなる。
【0082】
徐冷点Ta、軟化点Tsは ASTM C338−93に記載の方法で測定した値である。
【0083】
高温粘度10
4.0dPa・s、10
3.0dPa・s、10
2.5dPa・s、及び10
2.0dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。なお、これらの温度が低い程、溶融性に優れる。
【0084】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。また、液相粘度log
10ηTLは、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。なお、液相粘度が高く、液相温度が低い程、耐失透性、成形性に優れる。
【0085】
耐HCl性について、以下の方法で評価した。まず各ガラス試料の両面を光学研磨した後、一部をマスキングしてから以下の条件で薬液処理を行った。薬液処理後、マスクを外し、マスク部分と浸食部分の段差を表面粗さ計で測定し、その値を浸食量とした。耐HCl性(侵食量)は、浸食量が20μm超であれば「×」、20μm以下であれば「○」として評価したものである。耐HCl性(外観)は、各ガラス試料の両面を光学研磨した後、以下の条件で薬液処理した後、ガラス試料の表面を目視で観察し、白濁したり、荒れたり、クラックが入ったものを「×」、変化のないものを「○」として評価したものである。
【0086】
耐HCl性(浸食量)の処理条件は、80℃の10質量%HCl水溶液中に24時間浸漬、耐HCl性(外観)の処理条件は、80℃の10質量%HCl水溶液中に24時間浸漬である。
【0087】
表から明らかなように、試料No.1〜36は、実質的にアルカリ成分及びレアメタル酸化物を含有せず、屈折率ndが1.623以上であり、耐酸性が良好であった。また、試料No.1、5、8〜18、20、24〜26、28〜36は、液相粘度が10
3.4dPa・s以上であった。更に、試料No.1〜12は、屈折率ndが高いにもかかわらず、密度が低いため、デバイスの軽量化を図ることができる。また透明導電膜の熱膨張係数に近似しているため、ガラス板の反りを抑制し得るものと期待される。また、試料No.1〜6、8〜36は、歪点が高いため、デバイスの製造工程におけるガラスの熱収縮を抑制し得るものと考えられる。一方、試料No.37は、ガラス組成中にレアメタル酸化物を多量に含むため、密度が高く、耐酸性が低かった。