特許第6016095号(P6016095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016095
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】接合方法及び接合部品
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/00 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
   B23K20/00 310M
   B23K20/00 310H
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-204295(P2012-204295)
(22)【出願日】2012年9月18日
(65)【公開番号】特開2013-78795(P2013-78795A)
(43)【公開日】2013年5月2日
【審査請求日】2015年7月29日
(31)【優先権主張番号】特願2011-206714(P2011-206714)
(32)【優先日】2011年9月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】中川 成幸
(72)【発明者】
【氏名】上原 義貴
(72)【発明者】
【氏名】山本 千花
(72)【発明者】
【氏名】宮本 健二
(72)【発明者】
【氏名】南部 俊和
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−130686(JP,A)
【文献】 特開昭55−057388(JP,A)
【文献】 特開2006−175502(JP,A)
【文献】 特開昭63−010084(JP,A)
【文献】 特開昭55−100882(JP,A)
【文献】 特開2005−103556(JP,A)
【文献】 特開2009−113050(JP,A)
【文献】 特開2007−105776(JP,A)
【文献】 特開2009−256701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合材の間にインサート材を介在させ、被接合を相対的に加圧しつつ加熱して、被接合材とインサート材の間で共晶反応を発生させ、生じた共晶反応溶融物を被接合材の酸化皮膜と共に接合面から排出して上記被接合材を接合するに際して、
上記インサート材が、Zn−Al−Cu系合金、Zn−Al−Ag系合金、Sn−Zn−Al系合金のいずれかの合金から成り、
上記酸化皮膜を破壊するための応力集中手段を上記インサート材に設けることを特徴とする接合方法。
【請求項2】
上記インサート材が、4〜15質量%のAlと0.5〜6質量%のCuを含有し、残部が実質的にZnである合金、2〜7質量%のAlと0.2〜5質量%のAgを含有し、残部が実質的にZnである合金、4〜15質量%のZnと0.1〜2質量%のAlを含有し、残部が実質的にSnである合金のいずれかの合金から成ることを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
被接合材の間に介在させ、この状態で被接合を相対的に加圧しつつ加熱して、被接合材との間で共晶反応を発生させ、生じた共晶反応溶融物を被接合材の酸化皮膜と共に接合面から排出して上記被接合材を接合するのに用いるインサート材であって、
Zn−Al−Cu系合金、Zn−Al−Ag系合金、Sn−Zn−Al系合金のいずれかの合金から成り、少なくとも一方の面の一部又は全部に、上記被接合材の酸化皮膜を破壊するための応力集中手段としての凹凸を備えていることを特徴とするインサート材。
【請求項4】
4〜15質量%のAlと0.5〜6質量%のCuを含有し、残部が実質的にZnである合金、2〜7質量%のAlと0.2〜5質量%のAgを含有し、残部が実質的にZnである合金、4〜15質量%のZnと0.1〜2質量%のAlを含有し、残部が実質的にSnである合金のいずれかの合金から成ることを特徴とする請求項3に記載のインサート材。
【請求項5】
4〜15質量%のAlと0.5〜6質量%のCuを含有し、残部が実質的にZnである合金、2〜7質量%のAlと0.2〜5質量%のAgを含有し、残部が実質的にZnである合金のいずれかの合金から成ることを特徴とする請求項3に記載のインサート材。
【請求項6】
20μm以上200μm以下の厚さを備えていることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1つの項に記載のインサート材。
【請求項7】
高さが10μm以上100μm以下、ピッチが10μm以上100μm以下の凹凸を備えていることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1つの項に記載のインサート材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアルミニウム系やマグネシウム系金属材料のように、表面に酸化皮膜が存在する金属材料の接合方法に係り、このような金属材料を大気中、低温度、低加圧で接合することができ、母材や周辺への熱影響を最小限に抑えることができる低コストの接合方法と、これに用いるインサート材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム系やマグネシウム系金属から成る材料の表面には、緻密で強固な酸化皮膜が生成されており、この酸化皮膜の存在が障害となるため、これらの金属材料については、冶金的な接合が難しい。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミニウム同士、あるいはアルミニウムとアルミナを接合するに際して、被接合面間に母材と共晶反応を生ずる元素を含むインサート材を介在させ、酸素雰囲気中で接触させた後、上記被接合面を共晶反応が生じる温度範囲に加熱し、接触面に共晶反応による融液相と、母材成分と接触面の空隙に存在する酸素との反応による酸化物相を生成させることが記載されている。これによって、母材表面の酸化皮膜が破壊され、融液中の成分と酸素の反応による酸化物と共に、融液相中に混入されるとされている。
【0004】
なお、アルミニウム系金属の接合技術としては、Al−Si系合金から成るろう材を用いたろう付けも知られているが、この場合には、例えばフッ化物系のフラックスを用いることによって、酸化皮膜を除去する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−66072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法においては、インサート材と母材が接触して共晶反応を生じさせるためには、インサート材と母材の接触部において、接合面の酸化皮膜を機械的に破壊する必要があり、そのための荷重(みかけの圧力)が非常に大きくなる。 したがって、この大きな荷重によって、被接合材が変形し、被接合材へのダメージが大きくなるという問題がある。
【0007】
特に、被接合材が半導体等の場合には、高い荷重を付与することによって、半導体の機能が損なわれることから、このような材料には、上記の接合方法は適用できないという問題があった。
また、接合が酸素雰囲気内で行われるため、特殊なチャンバーが必要となって、設備コストが増加する点にも問題があった。
【0008】
本発明は、アルミニウム系金属材料のように、接合面に常温で安定な酸化膜を有する部材を含む接合における上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、このような接合を大気中で、しかもフラックスを用いることなく、低加圧で接合することができる接合方法を提供することにある。
また、本発明のさらなる目的は、このような接合方法に適用するためのインサート材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、種々検討を重ねた。その結果、被接合材の間にインサート材を介在させ、母材とインサート材の間に生じた共晶反応溶融物を酸化皮膜と共に排出して被接合材を接合するに際して、被接合材の酸化皮膜を破壊するための応力集中手段を所定のインサート材に設けておくことによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の接合方法においては、重ね合わせた被接合材の間にインサート材を介在させ、該被接合材を相対的に加圧しつつ加熱して、被接合材とインサート材の間で共晶反応を生じさせ、生じた共晶反応溶融物を被接合材の酸化皮膜と共に接合面から排出して上記被接合材を接合するに際して、上記インサート材をZn−Al−Cu系合金、Zn−Al−Ag系合金、Sn−Zn−Al系合金のいずれかの合金から成るものとし、上記酸化皮膜を破壊するための応力集中手段を上記インサート材に設けるようにしている。
【0011】
また、本発明のインサート材は、上記方法に好適に用いられるものであって、Zn−Al−Cu系合金、Zn−Al−Ag系合金、Sn−Zn−Al系合金のいずれかの合金から成り、少なくとも一方の面の一部又は全部に、上記被接合材の酸化皮膜を破壊するための応力集中手段としての凹凸を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Zn−Al−Cu系合金、Zn−Al−Ag系合金、Sn−Zn−Al系合金のいずれかの合金から成るインサート材の側に応力集中手段を設けるようにしたため、被接合材に較べて応力集中手段を比較的容易に形成することができ、母材表面の酸化皮膜を破壊して共晶反応の起点を形成するための荷重(加圧力)を低減することができ、被接合材の加圧によるダメージを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態として半導体部品の接合要領を示す概略断面図である。
図2】(a)本発明の参考形態としてアルミニウム系金属材料同士の接合要領を示す概略断面図である。(b)本発明の他の参考形態として半導体部品の接合要領を示す概略断面図である。(c)本発明の他の実施形態として半導体部品の接合要領を示す概略断面図である。
図3】本発明のさらに他の実施形態として半導体部品の接合要領を示す概略断面図である。
図4】本発明のインサート材の製造要領を示す製造工程図である。
図5】(a)〜(c)は応力集中手段としての凹凸形状の成形方法の一例を示す示す説明図である。
図6】本発明のインサート材の表面に形成する凹凸形状の好適形状例を示す断面図である。
図7】(a)及び(b)は本発明の実施例における丸棒の突き合わせ接合の要領を示す説明図である。
図8】接合試験2により得られた突き合わせ継手の強度を比較して示すグラフである。
図9】精密切削加工(a)とラップ加工(b)による接合端面の凹凸形状を比較して示すグラフである。
図10】接合試験3により得られた突き合わせ継手の強度を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の接合方法について、これに用いるインサート材やその製造方法などと共に、さらに詳細、かつ具体的に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り、質量百分率を意味するものとする。
【0016】
本発明の接合方法においては、被接合材とその間に介在させたインサート材との間で共晶反応を生じさせ、生成した共晶反応溶融物を被接合材表面の酸化皮膜と共に接合面から排出するようにしている。したがって、接合面に強固な酸化皮膜が生じていたとしても、共晶反応が生じることによって、接合面から排出することができ、新生面による強固な接合が可能になる。
【0017】
このとき、上記インサート材の被接合材との接触面に、応力集中手段が設けてあることから、母材(被接合材)表面の酸化皮膜を低荷重で破壊して、共晶反応の起点とすることができ、被接合材や周辺への荷重の影響を最小限に抑えながら、共晶反応溶融物を酸化皮膜と共に接合面から円滑に排出することができる。
本発明の接合方法においては、上記応力集中手段を板状や箔状をなすインサート材の側に設ける要にしているので、形状や板厚、特性上などの制約が多い被接合材に較べて応力集中手段を容易に形成することができ、被接合材や周辺への加圧の影響を最小限に抑えることができる。
【0018】
すなわち、本発明の接合方法においては、被接合材と共晶反応を生じる元素を含む後述するような材料から成り、例えば、凹凸構造のような応力集中手段を表面に備えたインサート材を用意しておく。
次いで、被接合材を重ね合わせ、上記のような応力集中手段を備えたインサート材をその間に介在させる。
【0019】
そして、接合に際しては、両被接合材に相対的な荷重を付与し、インサート材に形成された応力集中手段によって局所的な応力を増加させ、被接合材の酸化皮膜を局所的に破壊する。
その後、インサート材が溶融する温度に加熱されることによって、酸化皮膜が破壊された部位にインサート材の溶融物が侵入し、母材中の元素と共晶反応をおこし、両材料の接合界面に母材中の元素とインサート材に含まれる元素との共晶反応による溶融物を生成させる。
【0020】
被接合材のさらなる加圧によって、生じた共晶反応溶融物と共に母材表面の酸化皮膜が接合界面から排出され、被接合材の接合面が直接接合される。
このとき、インサート材の表面には応力集中手段(凹凸構造)が形成されており、その凸部先端が選択的に被接合材に接触し、局所的に応力を増大させるため、低い荷重で酸化皮膜を局所破壊して、共晶反応を引き起こすことができ、低い荷重のもとに、新生面による強固な接合が可能となる。
【0021】
図1は本発明の一実施形態として、半導体チップを本発明の方法によって接合する要領を示す半導体部品の概略断面図である。
すなわち、図に示す半導体部品はヒートシンク11上に固定された絶縁基板12を備え、当該基板12の表面上に配置された配線金属13にシリコンチップ14が接合された構造を備えている。
【0022】
上記配線金属13はアルミニウム合金から成るものであり、シリコンチップ14の接合面には、予めアルミニウムによるコーティングが施してあり、これらアルミニウム系金属同士が本発明方法によって接合されることになる。
これら配線金属13とシリコンチップ14の接合に際しては、これらの間に厚さ100μmのZn−Al−Cu合金であって、圧延により製造され、表面に応力集中手段としての微細な凹凸形状が加工されたインサート材15を配置し、治具を用いて5MPa程度の加圧力が掛かるように固定される。
【0023】
そして、例えばろう付け炉内にこの状態で収納し、420℃に1分間保持することによって、配線金属13とシリコンチップ14を接合することができる。
この方法によれば、低温、短時間で接合が完了することから、半導体チップへの熱影響を最小限のものとすることができ、部品の歪みや性能劣化を防止することができる。
【0024】
このような方法によれば、半導体チップの金属と、配線金属との接合面を共晶反応と凹凸形状を利用して互いに接合し、少なくとも一部領域で被接合材同士のダイレクト接合部を有することで、凹凸形状による応力集中効果により、接合面に応力集中させ、接合面の酸化皮膜破壊が促進される。その結果、接合時のプロセスの低加圧化をはかり、加圧によるチップへのダメージを防止することができる。
さらに低融点共晶反応により、低温にて共晶融液を生じさせ、酸化皮膜を除去することができる。また、生成された接合部が被接合材同士のダイレクト接合領域を有することで、電気抵抗が低く、熱伝達性が良好で、かつ脆い金属間化合物層といった反応層を生成せず、カーケンダルボイドも生じず、高温保持、熱サイクルといった高温耐久信頼性を実現できる。このような構成とすることで、Pbフリー、低コスト、電気的特性や放熱性、耐久信頼性に優れた半導体を製造することが可能となる。
【0025】
図2は、本発明の他の実施形態として、アルミニウム系金属材料同士の接合プロセスを参考例と共に示す概略図であって、図2(a)及び(b)は、応力集中手段である凹凸形状をインサート材ではなく、被接合材の側に設けた参考例、図2(c)は、凹凸形状をインサート材の片面に形成した実施形態例を示す。
【0026】
図2(a)は、アルミニウム合金材21,21の間に、Zn−Al−Cu合金箔から成り、凹凸形状のないインサート材20を挟んだ状態に重ねたものであって、両材料21,21の表面には、微細凹凸形状21cが形成されている。なお、その表面にはAlを主成分とする酸化皮膜21aが生成している。
【0027】
図2(b)は、この接合方法を半導体の実装接合に適用し、アルミニウム合金21にチップ23を接合する例を示す。チップ23の接合面には金属膜として、ここではアルミニウム24が形成されており、その表面には酸化皮膜24cが生成している。ここで、微細凹凸形状21cは、被接合材の一方であるアルミニウム合金21に形成されており、他方のチップ23には、その厚さが薄いため形成されていない。そして、Zn−Al−Cu合金箔から成り、凹凸形状が形成されていないインサート材20を挟んだ状態に重ねられている。
【0028】
図2(c)は、圧延により製造され、応力集中手段としての微細凹凸形状を有するインサート材を半導体実装接合に適用した本発明の実施形態例を示す。
微細凹凸形状21cは、接合されるアルミニウム合金21に形成され、チップ23の側には形成されていない。チップ23の接合面には金属膜として、同様にアルミニウム24が被覆されており、その表面には酸化皮膜24cが生成している。インサート材25は、Zn−Al−Cu合金箔から成り、チップ側の面に微細凹凸形状25cが形成されている。
【0029】
図3は、さらに他の実施形態例として、その両面に微細凹凸形状を加工したインサート材の例を示す半導体部品の概略断面図である。
図において、両側にアルミニウムなどの金属42が貼られた絶縁基板41の表面には酸化皮膜42aが形成されている。一方、半導体チップ45の接合面側にはアルミニウムなどの金属46が被覆されており、その表面にも酸化皮膜46aが形成されている。また、インサート材43は、上記実施形態例と同様の材料から成り、その両面に同様の微細凹凸形状43cが加工されている。
【0030】
そして、例えば、先に示したように、治具により5MPa程度の加圧力が掛かるように固定した状態で、ろう付け炉内に420℃に1分間保持することによって、インサート材43に形成した微細凹凸形状43cにより応力が集中し、絶縁基板41及びアルミニウム46の表面の酸化皮膜42a及び46aが破壊される。
また、共晶反応の拡大により、被接合材表面の酸化皮膜42a、46aの破壊が促進され、周囲に除去される結果、被接合材の新生面が露出し、両金属間の相互拡散によるダイレクト接合により、良好な接合継手が得られる。
【0031】
なお、接合部の加熱方法として、上記ではろう付け炉内に保持する方法を示したが、本発明の接合方法において、接合部を上記温度範囲に加熱し、維持するための手段としては、特に限定されるものではなく、抵抗加熱や高周波加熱、遠赤外線加熱、ヒータ加熱、あるいはこれらを組み合わせた方法を採用することができる。
【0032】
本発明の上記接合方法に用いるインサート材としては、Zn及びAlを含有する合金から成り、少なくとも一方の面の一部又は全部に、上記被接合材の酸化皮膜を破壊するための応力集中手段としての凹凸構造を備えたものを好適に用いることができる。
【0033】
また、本発明に用いる上記インサート材としては、後述するように、圧延とそれに続く転写加工とによって、安価に製造できることから、Zn及びAlを含有する合金のうちでも、特にZn−Al系合金、Zn−Al−Cu系合金、Zn−Al−Ag系合金、Sn−Zn−Al系合金のいずれかの合金から成るものであることが望ましい。
なお、本発明に用いるZn−Al系合金とは、5〜18%のAlを含有し、残部が実質的にZnである合金を意味する。また、Zn−Al−Cu系合金とは、4〜15%のAlと0.5〜6%のCuを含有し、残部が実質的にZnである合金、Zn−Al−Ag系合金とは、2〜7%のAlと0.2〜5%のAgを含有し、残部が実質的にZnである合金、Sn−Zn−Al系合金とは、4〜15%のZnと0.1〜2%のAlを含有し、残部が実質的にSnである合金をそれぞれ意味するものとする。
【0034】
このとき、インサート材の厚さとしては、20μm以上、200μm以下とすることが望ましい。なお、インサート材の厚さとは、凹凸部分を含めた厚さ寸法、つまり凸部の頂点から頂点の距離を言うものとする。
すなわち、厚さが20μmに満たないと、接合時の酸化皮膜の排出が不十分となったり、接合部のシール性が低下して、接合中に酸化が進み接合部の強度特性を低下させたりすることがある。また、圧延により製造する場合の圧延の手間が掛かる要になることもある。逆に、厚さが200μmを超えた場合には、余剰部分の排出のために高い加圧力が必要となったり、界面への残存が多くなって継ぎ手性能を低下させたりすることがある。
【0035】
また、インサート材に形成する応力集中手段としての凹凸形状については、その高さが1μm以上、ピッチが1μm以上の場合にその効果が認められるが、10μm以上100μm以下の高さ、10μm以上100μm以下のピッチの場合に、最も好ましい結果が得られることが確認されている。
【0036】
上記インサート材を製造するに際しては、上記したようなZn−Al系合金、Zn−Al−Cu系合金、Zn−Al−Ag系合金、Sn−Zn−Al系合金のいずれかの合金から成る素材を圧延した後、得られた圧延材の片面又は両面の少なくとも一部に転写加工を施し、凹凸を形成するようになすことができる。
【0037】
これまで、Zn−Al合金箔や、Zn−Al−Mg合金箔は、一般的には単ロール急冷凝固法などにより製造されていたため、インサート材として用いるには、板厚や表面性状が不均一、量産が難しい等の問題があった。また、このような製造法ため、その表面に、応力集中手段として、意図した微細凹凸形状を加工することが困難であった。
これに対して、上記した合金を用いることによって、圧延とそれに続く転写加工とによって、微細凹凸を備えたインサート材を安価に製造することができるようになる。
【0038】
すなわち、図4は、このようなインサート材の製造工程を示すものであって、まず、目的の組成となるように成分調整した合金をるつぼで溶解し、スラブを製造する。
これに溶体化熱処理を施した後、面削により表面層を除去する。その後適宜、熱間や冷間で圧延を行い、その後、例えばロール成形による転写加工によって、片面、又は両面に微細凹凸形状を加工し、最後に切断することにより、目的の厚さ、凹凸形状を備えたインサート材が得られる。
【0039】
ここでは、微細凹凸形状を加工するためのロール成形を、板の圧延工程と同一工程内で行なうことによって、生産性の向上や製造コストの低減を図ることができるが、必ずしも同一工程としなくても、微細形状加工は、板の圧延工程と別工程で行なうことも可能である。
このとき、板材の圧延工程、特に熱間圧延工程では、高温に長時間さらされるため、板の表面に厚い酸化皮膜が形成される。このような厚い酸化皮膜が形成されたインサート材を接合に使用した場合、接合条件によっては反応性が低下する場合があるため、熱間圧延工程の後工程において、これら厚い酸化皮膜を、例えば酸洗浄などによって一旦除去する洗浄工程を組み入れることが有効である。
【0040】
図5は、転写による微細凹凸形状の加工方法例を示すものであって、図5(a)は、ロール成形により圧延材の両面に微細凹凸形状を加工する例を示す。
表面に微細形状52が加工された1対のローラ51を相対的に加圧しながら回転させ、その間に圧延された板材53を、冷間または熱間で通し、ローラ51の表面に加工された微細形状52が転写されて成る微細凹凸形状54を、連続的に備えた合金箔から成るインサート材の製造法である。
【0041】
これによって、均一な板厚と形状を有した微細凹凸形状付きインサート材を極めて高い生産性のもとに製造することができる。
なお、1対のローラのうちの一方だけに微細形状を加工したものを用いることによって、インサート材の片面だけに微細凹凸形状を形成することをできる。また、ローラ側に断続的に微細形状を加工しておくことによって、断続的な微細凹凸形状を加工することもできる。
【0042】
図5(b)は、1対の平滑ローラ55の間に、微細形状57が加工された押型56と共に、圧延された板材53を通すことによって、微細形状57が転写されて、片側のみに微細凹凸形状58を形成したインサート材が得られる。この方法によれば、必要な部分のみに、断続的に微細凹凸形状を加工することができる。
上記図5(a)及び(b)に示した凹凸の形成方法は、図4に示した圧延工程内で実施してもよいが、圧延工程後に、別途で加工することもできる。
【0043】
図5(c)は、ロール成形に代えて、プレス加工により微細凹凸形状を加工する方法を示すものである。
すなわち、下型60の上に、圧延された板材61が供給される一方、微細形状63が加工された上型62をプレス(図示せず)などの加圧手段により加圧することにより、微細形状63が転写されて、板材61の側に微細凹凸形状64が加工される。次に、上型62を上方に逃がし、板材61を矢印の方向に送り、上型を再度加圧することを繰り返すことで、連続的または断続的に微細凹凸形状64が加工されたインサート材を得ることができる。
【0044】
なお、上記した方法のみならず、この他、板材を上記した工程によって圧延した後、一般的な機械加工や、レーザ加工、エッチングなどの手段を利用して微細凹凸形状を加工することも可能である。
【0045】
図6は、インサート材に形成する好ましい微細凹凸形状の一例を示す詳細図であって、ロール成形による転写により加工された形状例を示しており、板厚100μmの圧延板の片面に、高さH:30μm、幅W:30μm、アスペクト比(H/W):1、ピッチ:100μmの微細凹凸形状が加工されている。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0047】
〔インサート材の作製〕
材料となる合金種を5種類選定し、図4に示した製造工程により、圧延と微細凹凸形状加工を実施し、インサート材を作製した。
インサート材の材料合金としては、Zn−Al合金(10.8%Al−Zn、融点:385℃)、Zn−Al−Cu合金(7.0%Al−3.7%Cu−Zn、融点:381℃)、Zn−Al−Mg合金(4.1%Al−2.5%Mg−Zn、融点:352℃)、Zn−Al−Ag合金(4.2%Al−3.3%Ag−Zn、融点:389℃)、Sn−Zn−Al合金(7.7%Zn−0.6%Al−Sn、融点:204℃)を用いた。
【0048】
これらの材料合金のうち、Zn−Al−Mg合金は延性性が低く、板厚30μmまでの圧延が困難であった。
これに対し、上記以外の合金、すなわちZn−Al合金、Zn−Al−Cu合金、Zn−Al−Ag合金及びSn−Zn−Al合金については、いずれも板厚30μmの圧延箔が得られた。続いて、図5(a)に示したロール転写加工を施すことによって、上記4種類の圧延箔の両面に、図6に示したような高さ30μm、幅30μm、ピッチ100μmの微細凹凸形状を加工した後、それぞれ径8mmに打ち抜いて、インサート材とした。
【0049】
〔接合試験1〕
図7(a)に示すように、アルミニウム合金A6061(Al−Mg−Si系)から成る長さ15mm、径5mmの丸棒3と長さ25mm、径10mmの丸棒4を用意した。
そして、図7(b)に示すように、丸棒3、4の接合端面間に、上記組成、サイズのインサート材5をそれぞれ配置し、大気中においてアンヴィルA、Aにより加圧した状態で、接合部の周囲に配置した高周波加熱コイルSによって420℃に加熱し、接合温度に到達後1分間保持して丸棒3、4の接合を行った。なお、このときの昇温速度は10℃/秒とした。また、接合温度は、丸棒4の接合端面近傍の側面に溶接したR式熱電対Tによって測定した。なお、アンヴィルA、Aによる加圧力は10MPaとした。
【0050】
得られた突き合わせ継手の接合強度を万能試験機による引張試験によって評価した。このときの試験速度は1mm/分とした。この結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
〔接合試験2〕
(1)試験6(参考例)
図7(a)に示したようなアルミニウム合金A6061(Al−Mg−Si系)から成る丸棒3と丸棒4を用意し、図2(a)に示した接合形態に準じて、丸棒3と丸棒4の接合両端面に、高さ100μmの三角形断面から成る凹凸をピッチ100μmにそれぞれ加工し、応力集中手段とした。
そして、丸棒3、4の間に、上記Zn−Al−Cu合金から成り、厚さ100μm、径8mmのインサート材(微細凹凸なし)を介在させた後、図7(b)に示した同様の要領により、丸棒3、4を接合した。そして、同様の引張試験により評価した。この結果を図8に示す。
【0053】
(2)試験7(参考例)
同様の丸棒3及び4を用意し、図2(b)に示した接合形態に準じて、丸棒4の接合端面にのみ、応力集中手段として、同様の三角形断面から成る凹凸を加工した。
そして、丸棒3、4の間に、微細凹凸のない上記同様のインサート材を介在させた後、図7(b)に示した同様の要領により、丸棒3、4を接合した後、同様の引張試験により評価した。この結果を図8に併せて示す。
【0054】
(3)試験8(実施例)
同様のアルミニウム合金から成る丸棒3及び4を用意し、図2(c)に示した接合形態に準じて、丸棒4の接合端面に、同様の三角形断面から成る凹凸を応力集中手段として加工した。
そして、丸棒3、4の間に、同じくZn−Al−Cu合金から成り、丸棒3の側のみに微細凹凸を備え、厚さ100μm、径8mmのインサート材を介在させた後、図7(b)に示した同様の要領により、丸棒3、4を接合した後、同様の引張試験により評価した。この結果を図8に併せて示す。なお、インサート材に形成した微細凹凸は、図6に記載したような、高さ30μm、幅30μm、ピッチ100μmのものとした。
【0055】
(4)試験9(実施例)
同様のアルミニウム合金から成る丸棒3及び4を用意し、図3に示した接合形態に準じて、丸棒3、4の間に、同じくZn−Al−Cu合金から成り、その両面に、高さ30μm、幅30μm、ピッチ100μmの微細凹凸を応力集中手段として備えた厚さ100μm、径8mmのインサート材を介在させた。
そして、同様の要領により、丸棒3、4を接合した後、同様の引張試験により同様に評価した。その結果、上記試験6と同様の接合強度が得られることが確認された。
【0056】
〔接合試験3〕
(1)試験10(比較例)
図7(a)に示したようなアルミニウム合金A6061(Al−Mg−Si系)から成る丸棒3と丸棒4を用意し、丸棒3と丸棒4の接合両端面をラップ加工によって、図9(b)に示すような平坦な接合面にそれぞれ加工した。
そして、丸棒3、4の間に、インサート材として、径8mmのZn−Al−Cu合金から成る厚さ100μmの急冷箔帯を介在させた。そして、図7(b)に示すように、大気中においてアンヴィルA、Aにより加圧した状態で、接合部の周囲に配置した高周波加熱コイルSによって400〜500℃に加熱し、目的の接合温度に到達後1分間保持して接合を行った。このときの昇温速度は10℃/秒とした。また、接合温度は、丸棒4の接合端面近傍の側面に溶接したR式熱電対Tによって測定した。なお、アンヴィルA、Aによる加圧力は35MPaとし、加圧は常温から開始し、接合終了後に除荷することとした。
得られた突き合わせ継手の接合強度を万能試験機による引張試験によって同様に評価した。この結果を図10に示す.
【0057】
(2)試験11(参考例)
同様の丸棒3及び4を用意し、その接合両端面に、精密切削加工によって、図9(a)に示すような凹凸形状の応力集中手段4cをそれぞれ形成した。
そして、丸棒3、4の間に、Zn−Al−Cu合金から成る同様のインサート材を介在させ、同様の要領により、丸棒3、4を接合した後、同様の引張試験により評価した。この結果を図10に併せて示す。
【符号の説明】
【0058】
3、4、13、14、21、24、42、46 被接合材
24c、21c、42a、46a 酸化皮膜
5、15、25、43 インサート材
25c、43c 凹凸(応力集中手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10