特許第6016097号(P6016097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

特許6016097車両のトーションビーム式サスペンション
<>
  • 特許6016097-車両のトーションビーム式サスペンション 図000002
  • 特許6016097-車両のトーションビーム式サスペンション 図000003
  • 特許6016097-車両のトーションビーム式サスペンション 図000004
  • 特許6016097-車両のトーションビーム式サスペンション 図000005
  • 特許6016097-車両のトーションビーム式サスペンション 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016097
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】車両のトーションビーム式サスペンション
(51)【国際特許分類】
   B60G 9/04 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
   B60G9/04
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-228193(P2012-228193)
(22)【出願日】2012年10月15日
(65)【公開番号】特開2014-80070(P2014-80070A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 康治
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−132278(JP,A)
【文献】 特開2006−151089(JP,A)
【文献】 特開2000−203467(JP,A)
【文献】 実開平01−109411(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に配された左右一対のトレーリングアーム同士を車幅方向に配されたトーションビームによって連結し、左右の前記トレーリングアームの各前端を車体に上下揺動可能に軸支し、同トレーリングアームの各後端部にハブキャリアを介して車輪を回転可能に支持して成る車両のトーションビーム式サスペンションにおいて、
前記ハブキャリアの下端を前記トレーリングアームに車両前後方向の軸を中心として回動可能に支持し、同ハブキャリアの上端をコントロールロッドの長手方向の一端に連結し、かつ前記コントロールロッドの長手方向の他端を前記トーションビームの車幅方向中央部に連結したことを特徴とする車両のトーションビーム式サスペンション。
【請求項2】
前記コントロールロッドのトーションビーム側の連結点を上下方向においてハブキャリア側の連結点よりも下方であって、且つ、前記ハブキャリアの下端と同等の高さ位置に配置したことを特徴とする請求項1記載の車両のトーションビーム式サスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対のトレーリングアームを車幅方向に配されたトーションビームによって連結して成る車両のトーションビーム式サスペンションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、前輪駆動車用のリヤサスペンションとしてトーションビーム式サスペンションが採用されているが、このトーションビーム式サスペンションは、車両前後方向に配された左右一対のトレーリングアーム同士を車幅方向に配されたトーションビームによって連結し、左右の前記トレーリングアームの各前端を車体に上下揺動可能に軸支するとともに、同トレーリングアームの各後端部にハブキャリアを介して車輪を回転可能に支持して構成されている。
【0003】
斯かるトーションビーム式サスペンションにおいては、ハブキャリアがトレーリングアームに剛結合されているため、機構上、車輪の上下ストロークに対する対車体キャンバー変化がトーションビームの捩り分となるために小さく、キャンバーコントロールを積極的に行うことができない。このため、車両の旋回時にロールが増えるほど、車輪の対地キャンバーがポジティブ(車輪の外側への倒れ込み)となり、不適切な運転による過度なロール状態ではタイヤの接地面全域を有効に使用することができず、タイヤのグリップが低下するという問題が発生する。
【0004】
そこで、車体側に揺動軸、ナックル側にピボットを有するアッパアームとロアアームを上下に配置し、トー方向を規制する1本のロッドを設定してナックルを左右独立して懸架するダブルウィッシュボーン式サスペンションや、アームを分割したピボットとしてリンクの本数を増やしたマルチリンク式サスペンションが採用されることがある。斯かるサスペンションにおいては、アッパアームとロアアームの傾斜角度と長さを変えることによって車輪の上下ストローク時のキャンバー変化を比較的自由に設定することが可能となるため、高い操縦安定性を確保することができる。
【0005】
又、特許文献1には、ハブキャリアの下端をトレーリングアームに対して前後方向の軸線回りに相対揺動可能に取り付けるとともに、同ハブキャリアの上端をコントロールロッドによって車体に連結して成るトレーリング式サスペンションが提案されている。これによれば、クッションスプリングを圧縮する方向のトレーリングアームの揺動時には、コントロールロッドがハブキャリアとの連結点を車幅方向内方に変位させながら揺動し、クッションスプリングを伸長させる方向のトレーリングアームの揺動時には、コントロールロッドがハブキャリアとの連結点を車幅方向外方に変位させながら揺動するため、不整地走行時の車両の直線走行性を悪化させることなく、ローリング発生時における車輪の対地キャンバー変化を抑制して旋回走行時の操縦安定性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−224810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、高い操縦安定性が求められる車両に採用されるダブルウィッシュボーン式サスペンションやマルチリンク式サスペンションにおいては、旋回性能を優先してロール時のネガティブキャンバー変化を大きく設定すると、左右両輪のバンプ時のスカッフ変化が大きくなり、不整地走行時の直進性が低下する他、積載によって車高が下がった場合にも常に車輪にネガティブキャンバーがつくためにタイヤが偏摩耗し易いという問題がある。
【0008】
又、特許文献1において提案されたトレーリング式サスペンションにおいては、コントロールロッドの一端が車体に連結されているため、左右両輪の同相ストローク時においてもコントロールロッドの両連結点(ハブキャリア側連結点と車体側連結点)の位置関係が変化してハブキャリアが回動し、両輪のキャンバー変化が大きくなって不整地走行時の直進性の低下やタイヤの偏摩耗の問題が発生するという問題がある。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、車両の操縦安定性の向上を図りつつ、不整地走行時の車両の直進性の低下やタイヤの偏摩耗を防ぐことができる車両のトーションビーム式サスペンションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、車両前後方向に配された左右一対のトレーリングアーム同士を車幅方向に配されたトーションビームによって連結し、左右の前記トレーリングアームの各前端を車体に上下揺動可能に軸支し、同トレーリングアームの各後端部にハブキャリアを介して車輪を回転可能に支持して成る車両のトーションビーム式サスペンションにおいて、前記ハブキャリアの下端を前記トレーリングアームに車両前後方向の軸を中心として回動可能に支持し、同ハブキャリアの上端をコントロールロッドの長手方向の一端に連結し、かつ前記コントロールロッドの長手方向の他端を前記トーションビームの車幅方向中央部に連結したことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記コントロールロッドのトーションビーム側の連結点を上下方向においてハブキャリア側の連結点よりも下方であって、且つ、前記ハブキャリアの下端と同等の高さ位置に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、左右の車輪が互いに逆方向に上下動する逆相ストローク時には、トレーリングアームの揺動に伴ってトーションビームが捩れるが、同時にコントロールロッドのハブキャリア側連結点がトレーリングアームの揺動に伴って車体に対して上下に変位する。これに対して、コントロールロッドのトーションビーム側連結点は、トーションビームの捩れ中心(剪断中心)である幅方向中央部に連結されているため、車体に対して殆ど変位しない。
【0013】
以上の結果、コントロールロッドのハブキャリア側連結点とトーションビーム側連結点との間で上下方向の変位を生じてコントロールロッドが揺動し、車両の旋回時には旋回外側の車輪については、ハブキャリアの上端連結点がコントロールロッドによって車幅方向内側に引き込まれ、外側の車輪にネガティブキャンバーを生じるために車両の操縦安定性が高められる。
【0014】
又、左右の車輪が同方向に上下動する同相ストローク時には、トーションビームはトレーリングアームと相対的な変位を生じないで一体的に揺動するため、コントロールロッドのハブキャリア側連結点とトーションビーム側連結点との位置関係は変化せず、ハブキャリアの回動が生じないために左右両輪のキャンバー変化は生じない。このため、車両の不整地走行時の直進性の低下とタイヤの偏摩耗が防がれる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、コントロールロッドのトーションビーム側の連結点を上下方向においてハブキャリア側の連結点よりも下方であって、且つ、ハブキャリアの下端と同等の高さ位置に配置したため、左右の車輪の位相差を効果的に車輪のキャンバー変化に反映させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る車両のトーションビーム式サスペンションを示す斜視図である。
図2】本発明に係る車両のトーションビーム式サスペンション要部の斜視図である。
図3図1のA部を斜め下方から見た斜視図である。
図4】本発明に係る車両のトーションビーム式サスペンションの逆相ストローク時の作用を説明する背面図である。
図5】本発明に係る車両のトーションビーム式サスペンションの同相ストローク時の作用を説明する背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は本発明に係る車両のトーションビーム式サスペンションを示す斜視図、図2は同トーションビーム式サスペンション要部の斜視図、図3図1のA部を斜め下方から見た斜視図である。
【0019】
本発明に係るトーションビーム式サスペンション1は、車両の左右の後輪50(図1には一方のみ図示)を車体に対して上下に揺動可能に支持するものであって、図1に示すように、車両前後方向に延びる左右一対のトレーリングアーム2同士を車幅方向に配されたトーションビーム3によって連結して構成されている。具体的には、トーションビーム3は、前後方向でトレーリングアーム2の中央部のやや前端寄りに結合されて、左右一対のトレーリングアーム2同士を連結している。
【0020】
上記左右一対のトレーリングアーム2の各先端には円筒状のボス4がそれぞれ結着されており、各トレーリングアーム2の前端は、ボス4に圧入されたブッシュ5を介して車体にボルト6によって取り付けられており、トレーリングアーム2(トーションビーム式サスペンション1)は、その前端が車体に対してボルト6を中心として上下に揺動可能に軸支されている。
【0021】
又、左右の各トレーリングアーム2の後端部には、図2に詳細に示すように支持ブラケット7が溶接されており、該支持ブラケット7には、ハブキャリア8の下端が円筒状の前後2つのボス9とその内部に圧入されたブッシュ10を介して車両前後方向の軸を中心として左右方向に回動可能に支持されている。具体的には、前後2つのボス9は、その軸方向が車両前後方向となる向きに取り付けられており、ハブキャリア8は、その下端がブッシュ10を介してボルト11によってトレーリングアーム2の後端部に車両前後方向の軸を中心として左右に回動可能に支持されている。ここで、左右の各ハブキャリア8の外端面には、図1に示すように外側方に向かって水平に延びるスピンドル12(図1には一方のみ図示)がそれぞれ取り付けられており、各スピンドル12には左右の各後輪50が不図示のベアリングを介して回転可能に支持されている。
【0022】
ところで、本実施の形態においては、図1及び図3に示すように、トーションビーム3の幅方向中央上面には前後方向でハブキャリア8側となる車両後方に向かって水平に延びるステー13が結着されており、このステー13の後端部には、車幅方向に配されたブラケット14が結着されている。
【0023】
而して、本実施の形態では、下端が左右のトレーリングアーム2の後端部に回動可能に支持された左右のハブキャリア8の各上端は、パイプ状のコントロールロッド15によってトーションビーム3の車幅方向中央部に連結されている。具体的には、左右のコントロールロッド15の各一端(外端)は、図2に詳細に示すように、ボールジョイント16を介して左右の各ハブキャリア8の上端に連結され、同コントロールロッド15の他端(内端)は、図3に詳細に示すように、これに結着されたボス17とその内部に圧入されたブッシュ18を介してボルト19によって前記ブラケット14の左右の端部にそれぞれ連結されている。ここで、コントロールロッド15のトーションビーム3側の連結点(ブラケット14との連結点)は、上下方向においてハブキャリア8側の連結点よりも下方であって、且つ、ハブキャリア8の下端と同等の高さ位置近傍に配置されている。また、このトーションビーム3側の連結点(ブラケット14との連結点)は、車両の前後方向において、コントロールロッド15のハブキャリア8側の連結点とトーションビーム3の間に配置されている。
【0024】
以上のように構成されたトーションビーム式サスペンション1は、左右のショックアブソーバ20とクッションスプリング21によって前端のボルト6を中心として車体に上下に揺動可能に懸架されており、左右の後輪50が路面から受ける衝撃はショックアブソーバ20において発生する減衰力によって吸収され、車体への衝撃の伝播が抑制される。
【0025】
次に、本発明に係るトーションビーム式サスペンション1の作用を図4及び図5に基づいて以下に説明する。
【0026】
図4はトーションビーム式サスペンションの逆相ストローク時の作用を説明する背面図、図5は同トーションビーム式サスペンションの同相ストローク時の作用を説明する背面図である。
【0027】
左右の後輪50が互いに逆方向に上下動する逆相ストローク時(車両が旋回する時のロール状態)には、図4に示すように、旋回内側となる車体(本実施の形態では、車両は右に旋回中であって車体の右側)が上方に持ち上がり、右側のトレーリングアーム2の前端が上方に移動するトレーリングアーム2の揺動が発生し、このトレーリングアーム2の揺動に伴ってトーションビーム3が捩れるとともに、トーションビーム3の右側が上方に移動する。それと同時に右側のコントロールロッド15のハブキャリア8側の連結点がトレーリングアーム2の揺動に伴って車体100に対して下方(離れる方向)に変位する。逆に、旋回外側となる車体(本実施の形態では、車両は右に旋回中であって車体の左側)が下方に沈み込み、左側のトレーリングアーム2の前端が下方に移動する揺動がトレーリングアーム2に発生し、このトレーリングアーム2の揺動に伴ってトーションビーム3が捩れるとともに、トーションビーム3の左側が下方に移動する。それと同時に左側のコントロールロッド15のハブキャリア8側の連結点がトレーリングアーム2の揺動に伴って車体100に対して上方(接近する方向)に変位する。これに対して、コントロールロッド15のトーションビーム3側の連結点は、トーションビーム3の捩れ中心(剪断中心)である幅方向中央部に連結されているため、車体100に対して殆ど変位しない。
【0028】
以上の結果、コントロールロッド15のハブキャリア8側の連結点とトーションビーム3側の連結点との間で上下方向の変位を生じてコントロールロッド15が図4の矢印方向(時計方向)に揺動し、車両の旋回時には旋回外側(図4の左側)の後輪50については、ハブキャリア8の上端連結点がコントロールロッド15によって車幅方向内側(図4の矢印方向)に引き込まれ、外側の後輪50にネガティブキャンバーを生じるために車両の操縦安定性が高められる。
【0029】
又、左右の後輪50が同方向に上下動する同相ストローク時には、図5に示すように、トーションビーム3はトレーリングアーム2と相対的な変位を生じないで一体的に揺動するため、コントロールロッド15のハブキャリア8側の連結点とトーションビーム3側の連結点との位置関係は変化せず、ハブキャリア8の回動が生じないために左右の後輪50のキャンバー変化は生じない。このため、不整地走行時の車両の直進性の低下とタイヤの偏摩耗が防がれる。
【0030】
そして、本実施の形態では、前述のようにコントロールロッド15のトーションビーム8側の連結点を上下方向においてハブキャリア8側の連結点よりも下方であって、且つ、ハブキャリア8の下端と同等の高さ位置に配置したため、左右の後輪50の位相差を効果的に後輪50のキャンバー変化に反映させることができるという効果が得られる。
【符号の説明】
【0031】
1 トーションビーム式サスペンション
2 トレーリングアーム
3 トーションビーム
8 ハブキャリア
14 ブラケット
15 コントロールロッド
50 後輪(車輪)
100 車体
図1
図2
図3
図4
図5