(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
このセクションは、本発明の例示的な実施形態に関連する技術のさまざまな態様を紹介する。この議論は、本発明の特定の態様をより良く理解することを容易にする構成を提供することに役立つであろう。このセクションは、この観点から読まれるべきであって、必ずしも従来技術を認めるものではない。以下の明細書では、本発明がパイプラインのひずみベース設計と関連して記載される。しかしながら、これに限定されるわけではないが、1つまたは複数の鋼材料の非パイプ溶接物を含む、高強度、高靱性の溶接物が望ましい、すべての状況に対する広い用途に、本発明は明らかに適用できる。以下の明細書で、さまざまな用語が定義される。便宜のために、用語の用語集が、特許請求の範囲の直前に記載される。
適用される負荷、設計標準、および材料性能要件に関して、伝統的なパイプラインでは、パイプライン材料は大きな塑性ひずみを受けないものとして設計される。このタイプの設計は、許容応力設計または応力ベースの設計と呼ばれる。応力ベースの設計では、材料に適用される負荷は、概して建造物の降伏強度の数分の一に制限される。場合によっては、溶接止端部(すなわち、数ミリメートルの寸法を超えて)などに小さな応力が集中して、応力ベースの設計パイプラインに局部塑性が発生するが、一般に、応力ベースの設計では、パイプラインの大きな領域(多インチまたはフィート)が塑性ひずみを受ける状況は想定されていない。
【0003】
今日、パイプラインは、ますます過酷になるサービス環境に対して設計されている。不連続永久凍土、地震、氷山洗掘等の使用温度が、−20℃以下の低温範囲になる要求がある環境に対しては、ある程度の塑性変形に耐えられるパイプラインを設計および建設する需要がある。該場合には、パイプ軸に平行な方向に大きく変形し(すなわち、縦方向塑性ひずみ)、および、適用される負荷は、パイプライン材料の多インチまたは可能性としてフィートを超えて加えられる広範囲ひずみの観点から記載される。ひずみベース設計(SBD)は、縦方向塑性ひずみを受けることができるパイプラインを設計/建設することを記載するために使用される用語である。ひずみベース設計の典型的なひずみの大きさは、一般に、0.05%を超える広範囲塑性ひずみとして定義される。パイプの長さ方向で、および、局所ではなく多インチまたはフィートの距離を超えて広がる、問題になっている溶接部分をまたぐ方向で測定されるひずみとして、広範囲塑性ひずみは定義される。他の同様の定義が広範囲塑性ひずみを定義するために使用される場合があるが、石油パイプラインまたはガスパイプラインの場合には、たとえば、ひずみベース設計目的の広範囲塑性ひずみは、長さが約2パイプ直径であるパイプラインの一部に関する。この定義を使用すると、30インチ直径パイプラインの1パーセントの広範囲塑性ひずみによって、2直径の長さ;すなわち、60インチ長で、約0.6インチのひずみを生成する。
【0004】
エンジニアリング臨界評価(ECA)と呼ばれる破壊力学技術は、応力ベースの設計パイプラインでは、ガース溶接の欠陥の構造的重要性を判断するために使用される。材料の試験、溶接の適正化、および、応力ベースの設計での溶接欠陥の重要性の評価のために認められた実施方法を、ECAは含む。ひずみベース設計(SBD)は、伝統的な応力ベースの設計のような成熟した分野ではなく、および、2010年時点で、SBDのための十分に確認されたECA実施方法は、パイプライン産業に広く認められていない。しかしながら、ECA原理は、SBDに適用される。SBDパイプラインエンジニアリングの多くの態様が、最近の国際会議で発表されてきた。いくつかの著名な会議には、Conference of Pipeline Technology in Belgium、国際パイプライン会議(International Pipeline Conference in Canada)、並びに、国際海洋と極地工学会(International Society of OffshoreおよびPolar Engineers(ISOPE))および海洋工学および極地工学に関する学会(Offshore MechanicsおよびArctic Engineering Society)(OMAE)の年次大会が挙げられる。エクソンモービルは、これらの会議で多くの論文を発生してきた。それらの論文には、SBD負荷条件でのガース溶接欠陥許容度予測方法、SBDエンジニアリングのためのフルスケールパイプ試験、破壊力学試験方法、および、SBD用途に有用なガース溶接技術などが挙げられる。これらの発表は、特許出願番号PCT/US2008/001753(WIPO特許出願WO/2008/115323、 Framework To Determine Capacity Of A Structure)およびPCT/US2008/001676,(WIPO特許出願WO/2008/115320、Method To Measure Tearing Resistance)と組み合わされて実施され、当業者に、ひずみベース設計エンジニアリング臨界評価(SBECA)技術に対する必要な背景技術を提供する。
【0005】
使用温度および適用される負荷によるが、一般的な構造用鋼および溶接は、脆性破壊または延性破壊のいずれかを被ることがある。延性破壊は高温で発生し、および脆性(または「ヘキ開」)破壊は、低温で発生する。中間の温度範囲では、延性破壊および脆性破壊の遷移が発生する。この遷移は、延性脆性遷移温度(DBTT)と呼ばれる単一温度によってしばしば特徴付けられる。用途によるが、DBTTは、シャルピーV−ノッチ試験またはCTOD試験の使用によって決定できる。
応力ベースの設計用途材料エンジニアリング、および、パイプライン設計の実施には、適切な耐脆性破壊特性を確実にすることに焦点が当てられるが、ガース溶接の延性破壊には注意が向けられない。脆性破壊は、最低設計温度(想定される最低使用温度と一致する)を特定すること、および、材料を適性にするための、シャルピーV−ノッチ試験または亀裂先端開口変位量(CTOD)試験などの試験方法を使用することによって、軽減される。
【0006】
しかしながら、SBDパイプラインの新しい用途では、簡単な脆性破壊の検討を超えることが必要になり、ガース溶接の延性破壊が検討されなければならない。溶接によって生じる劣化した微細構造および欠陥が共通して存在するために、ガース溶接は、通常、潜在的に最も弱い結合と見なされている。ひずみベース設計では、設計者は、材料、溶接、および検査技術の選択を通じて、脆性破壊を軽減し、または、少なくとも、塑性荷重領域に入ってしばらく、および、設計されたひずみ要求量を超えるまで脆性破壊を遅らせる。パイプラインに塑性荷重がかかっている間は、延性引き裂きはガース溶接欠陥で開始してもよい。溶接の強度特性および延性引き裂き強度、欠陥サイズ、並びにパイプラインベース鋼などの要因によるが、引き裂き量を最小として安定化できる。安定化すれば、欠陥成長量は、典型的には、数マイクロから1または2ミリメートルまでの範囲になる。ひずみベースのパイプラインエンジニアリングプラックティス、および特にSBECA手順で、この程度の成長が確実に説明できれば、パイプラインの完全性を、定量化および管理できる。これらの理由のために、良好な延性引き裂き強度を持つ強力なガース溶接がSBDパイプラインにとって重要である。
【0007】
当然、構造用鋼および溶接物には、強度と靱性との間に固有のトレードオフがある。強度が強くなると、一般に靱性は弱くなる。SBDは、高強度と高靱性の両方を要求する。SBDパイプラインに対する主な課題は、ガース溶接で、どのように高強度と高靱性の両方を得るかである。パイプラインガース溶接の特性は、微細構造によって主に制御され、該微細構造は溶接中の化学的性質および熱サイクルによって制御される。パイプの母材、および、溶接消耗品(ワイヤー、シールドガス、および/またはフラックス)の選択によって、化学的性質が主に制御される。溶接熱サイクルは主に、溶接手順および母材厚さの生成物である。
ニッケル含有量を増加させると一般に靱性が改良されるので、適切な靱性を得るための1つの可能性がある検討は、高合金(たとえば、Ni−ベース合金)溶接フィラーワイヤーの使用である。このアプローチは、9%Ni鋼の溶接などの低温用途で使用された。このアプローチには2つの問題がある。第1に、該溶接の溶接金属は、オーステナイト微細構造を持ち、本質的に脆い。9%Ni鋼を溶接する場合、オーステナイト溶接は母材よりも著しく脆く、および、9%Ni鋼の完全強度よりもNi−ベース溶接によって達成される強度のために、設計では、典型的にレベルが低くなる。これらのNi−ベースワイヤーは、石油パイプラインおよびガスパイプラインには現在使用されていないが、それらの良好な靱性特性のために使用が検討されれば、約X60までのパイプグレードに有用な強度を生成できるであろう。第2に、高Ni溶接金属は溶融すると粘性があって溶接が難しいので、Ni−ベースフィラーワイヤーは、構造用鋼を溶接するには問題がある。一旦、ニッケル含有量が約5wt%を超えると、溶接金属の粘度は著しく高くなり得る。粘性溶接金属の低流動性のために、溶接欠陥を生成する機会が増加する。これは、絶えず溶接位置を変化させる、機械化5Gパイプラインガース溶接にとって特に問題であり、および、狭い開先は、良好な濡れ性、滑らかな操作、溶接方法を要求する困難な状況を発生させる。
【0008】
US特許第3,218,432号およびUS特許第3,902,039号は上記のアプローチを記載し、典型的なオーステナイト(Ni−ベース)溶接と比較して、高強度低温溶接を達成した。これらの特許は、約9−12wt%Niを含むフェライトフィラーワイヤーを開示する。これらのフェライトワイヤーは、これ以降Fe−Niワイヤーと称し、関連する溶接を、Fe−Ni溶接と称する。9%ニッケル鋼を溶接に使用すると、該溶接は、Ni−ベースの合金を使用した9%Ni鋼の溶接よりも強くなる。これらの2つの特許の教示に基づくフィラー金属は市販されているが、しかしながらそれらはほとんど使用されていない。良好な低温靱性を達成するためには、低入熱で厳しい溶接制御を維持しなければならない、ガスタングステンアーク溶接(GTAW)プロセスを使用してFe−Ni溶接が実施されなければならず、および、これらの溶接は粘性溶接金属のために位置を設定することが困難である。溶接金属酸素含有量(靱性に関する)、および、ポロシティ、高温亀裂、および溶融欠けなどの溶接欠陥を最小にする制御が必要である。信頼性が管理しづらく、および、生産性が悪いであろうと信じられているので、低温構造体の多くの加工業者は、これらの制限のもとで作業することを好まない。Fe−Ni溶接の使用によって、理論上は、低温用途に適切な靱性を達成できるが、Ni−ベースのオーステナイトワイヤーは、低強度という欠点にもかかわらず、低温用途で消費できる最も一般に使われた溶接であり続けている。
【0009】
低温溶接と本発明との間で覚えておくべき重要な差異は、低温溶接設計は、明確に応力ベースであり、および、材料は脆性破壊を防止するために設計されることである。工業用合金の降伏強度より十分下の応力で低温設計は機能する。低温設計では、延性破壊および引き裂き強度は考慮されておらず、および、前述のFe−Ni溶接技術は、良好な耐延性破壊特性を生成するように意図的には設計されていない。
ひずみベースのパイプライン設計のために、パイプの溶接にオーステナイトフィラーワイヤーを使用することを開示する、2010年4月15日に公開された米国特許出願公開第2010/0089463号(国際特許出願PCT/US2008/001409)に、ひずみベース設計に有用な鋼パイプ溶接を生成する1つのアプローチが開示されている。公報は、Ni−ベースの合金、ステンレス鋼、または二相ステンレス鋼溶接の消耗品を使用して、高靱性溶接を生成することを教示する。この発明は、以降、「オーステナイトSBD溶接」と呼ばれる。従来のフェライト溶接には、構造設計に適応できるひずみ量を制限する、靱性および引き裂き強度に限界があるという点で、この公報はフェライト溶接金属を離れることを教示する。SBD用途に適切な靱性を達成するが、オーステナイトSBD溶接よりも著しく強度がある溶接が以下の本出願で開示される。
【0010】
オーステナイト溶接がフェライト鋼に適用されると、溶接金属と溶接熱影響領域(HAZ)との境界に、異種の原子構造溶接界面が形成される。オーステナイトは面心立方(fcc)構造であり、および、フェライトは体心立方(bcc)構造である。この界面は、誤解され得る音波反射を生成するので、溶融の欠けなどの欠陥のための異種界面の超音波試験/検査用途が困難になる。Fccおよびbcc材料は異なる音波伝搬特性を持ち、および、超音波検査に異なる反応をする。SBDのような困難な用途には、1ミリメートル程度のサイズ正確度が許容される、小さな欠陥を検査することが望まれる。小さな欠陥によって形成される信号と競合、または、少なくともサイズ精度を不確実にする信号を、異種溶接界面はUT検査中に生成する。これは特に異種の溶接部からあらわれる信号の場合であり、異種の溶接部には、隣接溶接ビード間の会合部(cusps)またはスカラップのような他の幾何学的複雑さを持つ熱影響領域部分、または、溶接開先の幾何学構造が変化した領域がある。上述の理由によって、異種の溶接界面を避け、および、UT検査を使用して正確な検査ができるように、フェライト鋼パイプラインがフェライト溶接と結合することが望ましい。
高強度、高耐延性破壊特性、および、良好な耐脆性破壊特性(すなわち、良好な延性および脆性破壊靱性)を同時に生成する溶接金属に対する需要があり、並びに、「溶接性」に関して過度の懸念をすること無くパイプライン工事現場で適用できる、すなわち、溶接池制御および欠陥率の観点から使用が容易である溶接金属に対する需要がある。
本発明は、低温であっても高靱性および高引き裂き強度を達成する、フェライト溶接消耗品によって生成されるフェライト溶接を含む。本発明は、非常に優れた歪み硬化能力、優れた欠陥許容度、およびSBD用途での高ひずみ能力、および、優れた溶接性、高強度、および正確な超音波検査を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の詳細な説明部分では、本発明の特定の実施形態を好ましい実施形態と関連させて説明する。しかしながら、以下の記載は本発明の特定の実施形態または特定の使用の範囲内において、もっぱら例示を目的とすることを意図しており、単に例示的な実施形態の説明を記載したものである。本発明は以下に記載された特定の実施形態に限定されるものではなく、むしろ、添付の特許請求の範囲の精神および範囲に含まれる、すべての代替実施形態、変形形態、および均等形態を含む。
本発明の溶接金属は、Fe−NiまたはFe−Niマルテンサイト溶接金属と称されてもよい。結果的に得られる溶接は、高ひずみ溶接またはHSWと称されてもよい。
シールドガスにCO
2または酸素が存在しない状態で、滑らかな、制御された溶接アークおよび溶接池を適切に生成できるように、電源電流波形が十分に制御された、現代的ガスメタルアーク溶接(GMAW)プロセスを使用して、適用されるフェライトFe−Ni溶接金属を、本発明の実施形態は含む。これによって、同時に、良好な低温靱性、優れた延性引き裂き抵抗、および高強度を達成できる、SBDパイプラインガース溶接にとって有用なフェライト微細構造を生成できる。
【0014】
本発明の溶接金属は、ひずみベース設計パイプラインのガース溶接にとって適切な強度および靱性を生成できる。これらの新規な溶接は、X120までのパイプグレードのSBDパイプラインに適切であり、および、これらの溶接は工事現場で容認可能な溶接性で使用できる。特定の用途に望まれる溶接金属は、溶接金属の化学的性質および溶接方法(プロセスおよび手順)の選択によって設計され、および、厳しい環境条件でのパイプライン建設でも使用でき、適切な溶接微細構造および機械特性を形成する。
【0015】
溶接金属は、
−0.02wt%から0.12wt%の炭素、
−7.5wt%から14.5wt%のNi、
−約1.0wt%以下のMn、
−約0.30wt%以下のSi、
−約150ppm以下の酸素、
−約100ppm以下の硫黄、
−約75ppm以下のリン、および
−残余のFeを含む。
残余の溶接金属組成物は鉄であるが、溶接金属は、リストに載っていない他の要素、たとえば不純物などを含んでもよい。
以下に概略が説明される他の元素が添加されてもよい:約0.40wt%以下のMo、約0.30wt%以下のCu、約0.30wt%以下のCr、約0.04wt%以下のV、約0.04wt%以下のNb、約0.02wt%以下のTi、約0.02wt%以下のZr、約20ppm以下のB。溶接金属の組成物に関して、明細書のすべてのパーセンテージは、wt%(重量パーセント)で表される。
【0016】
主な強度制御要素として炭素が化学的性質に添加される。Mnは、脱酸素剤として添加され、さらに固溶体強化および全体の硬化性にも貢献する。Niは、靱性に好ましい影響を与えるために添加される。Niは、また、固溶体強化および硬化性に貢献する。Mo、Cu、およびCrは、硬化性によって固溶体の強度を上げるために添加できる。用途によるが、Siは、ごく少量が添加される。その機能は主に脱酸素剤としてであり、溶接池流動性を改善し、溶接欠陥の発生の抑制を補助する。しかしながら、Siは酸化物含有物の形成によって靱性を低下させる。したがって、靱性と溶接性とのトレードオフによるが、Siはユーザによって最適化できる。約0℃で靱性要件が緩やかであって、良好な靱性だけが必要であるが、位置外溶接性が望まれる場合には、約0.3wt%まで添加できる。一方、−100℃で靱性要件が要求され、および良好な靱性が要求されるが、位置外溶接が主な動機とならない場合には、Siはゼロから0.1wt%などの少量を添加できる。
V、Nb、およびTiは、析出強化添加剤として添加できる。これらは炭素および/または窒素と結合し、マルチパス溶接の結果、小さなカーバイド、窒化物、または炭窒化物を溶接に形成する。VおよびNbも、硬化性および強度に対してわずかに寄与できる。TiおよびZrは、主に溶融溶接池で酸素と結合し、小さな酸化物を形成し、この酸化物は先に形成されたオーステナイト粒界を固定し、および、高溶接温度からの冷却中に粒サイズを低減する。TiおよびZrは、酸素に対して親和性が高く、高温で酸素と結合し、含有物の極小な核を形成することを促進する。これによって、溶接金属中に、小さな、微細分散した酸化物の形成を促進する。ホウ素は強力な補強剤である。これは、格子間強化および硬化によって強度を増すために添加できる。
【0017】
酸素、硫黄、およびリンは不純物であって、意図的に添加されない。溶接では、これらの元素を制限することに努力が払われる。HSWがガスシールドプロセスに適用される場合には、酸素は、溶接シールドガス組成物によってかなりの程度まで制限される。たとえば、HeおよびArの完全な不活性シールドガス混合物で、HSWを溶接する場合が典型的である。溶接装置によるが、良好なガス被覆を可能にする大きなガスカップ、ディフューザー、またはトレールシールド(trail shield)を使用する場合にも有利である。酸素を低減させる努力には、溶接開先を清掃すること(さび、または、油状汚染物質が無いこと)、および、水分、または、さびがワイヤーに付着することを防ぐために、溶接ワイヤーを貯蔵及び被覆し続けることも含む。一般に、溶接池の酸素を最小化するために、溶接環境の酸素を制御する溶接プロセスを使用して、HSWが適用される。
用途および要求される溶接強度によるが、溶接金属組成物は、X52からXl20のパイプライングレードに適合するように、よく知られた範囲内で調節できる。約50ksiから約140ksiで、さまざまな母材降伏強度に適応できる。他の合金もある程度強度を調節することができるが、炭素含有量は、強度を調節するために最も影響力が大きい。炭素含有量が約0.02wt%では低強度であるが、炭素含有量が約0.12wt%で、最も高い強度が得られる。炭素および他の合金を調節することによって、約150ksiまでの降伏強度、および、約160ksiまでの引っ張り強度が可能である。
図1は、新規な溶接金属の組成範囲に対して、降伏強度(YS)および最大引っ張り強度(UTS)に対する、Pcm対溶接強度のグラフを示す。Pcmは、強度を予測するために使用できる硬化性評価基準であり、および、ユーザは、特定の用途に対するHSWを選択するために、このPcmデータに従って化学的性質を調節できる。
【0018】
最も高い強度がHSWによって達成されるとしても、高靱性も達成できる。液体窒素温度まで下げても上部棚シャルピーエネルギーが達成でき、並びに、−60℃まで下げても、および、溶接手順および溶接金属酸素含有量によるが、−120℃まで下げても優れたCTOD(亀裂先端開口変位量)靱性が達成できる。
鋼溶接の低酸素溶解性のために、非金属含有物は、冶金設計に対して重要な面を持つ。従来のパイプライン溶接は、しばしば設計によって、典型的に多くの溶接金属含有物を用いて製造されていたが、HSWは含有物を制限するように設計される。一般に、溶接金属含有物は、形成されるFe−Ni微細構造の脆性および延性破壊靱性の両方を劣化させる。
図2に示すように、低延性破壊引き裂き抵抗のメカニズムは、セル壁部での含有物の分布によることが明確になっている。セル形成中の化学的な偏析および化学反応速度によって、非金属含有物は、セル壁部でFe−Ni微細構造を形成する傾向がある。これらの含有物は、セル壁部に沿って並ぶ傾向があるので、延性引き裂きの選択的経路が不可避であり、および、最も強い微細構造(大部分はマルテンサイト)が形成される場所に位置する。微細構造内で特定の経路に沿って含有物が形成される傾向のために、Fe−Ni微細構造の延性引き裂き抵抗は、含有物に非常に敏感である。酸素は該含有物を促進するので、溶接金属から酸素を低減または除去することが重要である。
【0019】
望まれる高ひずみ溶接金属化学的性質を、母材の化学的性質と組み合わせて、必要な消耗溶接ワイヤー組成を演算するために使用できる。溶接ワイヤーの化学的性質の改質、および、溶込み量および母材希釈を制御する溶接プロセスの知識によって、HSWの化学的性質はさまざまな母材に簡単に適用できる。溶接エンジニアリングの当業者にはよく知られているように、2つの化学的性質が既知となり、または、特定されれば、3つの化学的性質の1つを決定するために希釈演算を使用できる。溶接構造鋼の場合には、3つの金属が含まれる;母材、溶接金属、およびフィラーワイヤー。5G機械化パイプラインガース溶接の用途では、多くの溶接パスで希釈率は典型的には10%から20%である。希釈演算は当該技術分野において公知であり、および、「Welding Metallurgy、Volume 2、Third Edition、by George E. Linnert アメリカ溶接協会(American Welding Society)発行」を含む多くの溶接エンジニアリング教科書に説明されている。
【0020】
本発明の高ひずみ溶接を生成するための二つの主な課題は、(1)溶接金属酸素含有量を制限すること、および(2)溶接金属を高粘度にすることによって溶接欠陥を制限することである。上述したように、Fe−Ni溶接金属は、非金属含有物の存在に敏感であるので、酸素含有量を制限することは重要な目的である。非金属含有物含有量が低い限りは、Fe−Ni溶接金属は、優れた耐延性破壊特性および低温靱性を提供できる。あまり要求が無い用途では、HSWは、約150ppmまでの酸素で生成できる。さらに要求がある用途に対して、酸素含有量は、100ppm未満に制御できる。さらに一層要求がある用途に対して、酸素含有量は、約75ppm未満に制御できる。さらに一層高レベルの靱性が必要な場合には、酸素含有量は、50ppm未満に制限できる。最も要求がある用途に対して、酸素は、25ppm未満に制御できる。典型的に、該酸素レベルは、タングステン不活性ガス(TIG)溶接プロセスを使用することによって達成され、シールドガスは、主にアルゴンまたはアルゴン−ヘリウム(Ar−He)混合物から構成される。TIG溶接技術は、望まれる冶金特性および優れた特性を提供できるが、厳しい環境での溶接条件では、遅く、非効率で、および、不適当である。TIG溶接は、大規模な構造鋼製造に対しては良好な候補ではなく、パイプライン製造に対しては明白に候補ではない。
【0021】
溶接欠陥を制限することは、他の主な課題である。典型的なC−Mnパイプライン溶接と比較して、高Ni含有量であるFe−Ni溶接金属のために、典型的なパイプライン溶接金属よりも溶融すると粘性があるので、伝統的な溶接技術を使用することは難しい。溶接金属の流動性が乏しいので、溶接端と母材との間に滑らかな遷移部を生成することが困難である。これは高表面張力(高粘度)としばしば関連するので、溶接金属と母材との間の接合部は再入角と呼ばれることもある鋭角で特徴づけられる。これらの領域(溶接止端部とも呼ばれる)は、溶融の欠け欠陥位置にできる。
図3は、溶融欠陥を示す溶接断面である:溶接外形欠陥31および溶接欠陥32。
図3の溶接は、古い(約2000年)パルスガスメタルアーク溶接機械技術を使用して、本発明の溶接金属を生成しようとしたものである。溶接は1G(フラット)位置だけで実施されたという事実にもかかわらず、溶接溶込みが不十分であり、および、溶融不足および表面外形欠陥などの溶接欠陥の存在によって、この溶接がSBDまたはHSW目的には受け入れられないことを図は示している。典型的な溶接の解は、低粘度溶接金属でCO
2または酸素を含む溶接シールドガスを使用することであった。これらのガスは、溶接金属の表面張力を低減し、および溶融溶接池を滑らかにする。これらのガスは、アークの安定性も改善し、これによって滑らかな溶接池および良好な溶接性を形成するという効果を有する。大量の溶接金属酸素が発生し、非金属含有物の含有量を多くし、靱性を低下させるので、CO
2および酸素は、一般にFe−Ni溶接プロセスのオプションではない。
【0022】
Fe−Ni溶接金属を使用する上での二つの主な課題は、最近改良された溶接技術で解決できる。本発明の一実施形態は、ガスメタルアーク溶接(GMAW)機械の電子制御に最近の改良を使用することによって、Fe−Ni溶接金属の効果的な応用を可能にする。GMAWプロセスは、厳しい環境で効率的なので、現場パイプライン溶接のための典型的な選択肢である。しかしながら、伝統的なGMAW装置は、非常に大量のCO
2または酸素を含むシールドガスを要求して、良好な溶接性、すなわち、良好なアークの安定性、溶接池流動性、および低欠陥率を達成する。
シールドガス中にCO
2または酸素を含まないで、粘性Fe−Ni溶接金属で滑らかな溶接を可能にする、GMAW溶接機械が最近利用可能となってきた。洗練された固体電子装置を使用して、GMAW電源のいくつかの製造業者が、改良されたパルス波形制御を取り入れて、溶接性を改良した。このタイプの溶接は、パルスGMAWまたはPGMAWと一般に称される。アメリカ溶接協会(American Welding Society)は、このプロセスをGMAW−Pとして指定した。PGMAW機械は何年もの間存在してきたが、最近になってこれらの機械に波形制御を使用することによって、Fe−Niタイプの高ひずみ溶接を十分に可能にするほど発達した。Fe−Ni溶接のNi含有量にもかかわらず、新しいパルス波形溶接機械が低酸素含有量を可能にし、および、潜在的欠陥を低減することができると本発明者らは結論づけた。
【0023】
パイプの円周部溶接ヘッド軌道が結合される機械化パイプラインガース溶接では、構造またはパイプライン溶接の当業者に知られた溶接設計で、HSWによって準備された狭開先に溶接できる。狭開先は単一または複合開先設計であってもよく、主な開先は典型的には約0゜から約20゜の開先角を持っている。CRC Evans Automatic Weldingによって開発された設計である、CRC開先ともしばしば称される、1つの一般的なパイプライン開先設計が
図4に示され、開先角度41および主な開先表面42が示される。
新規なHSW微細構造が、構造またはパイプライン溶接の当業者に知られた「オープン(open)」溶接開先に堆積できる。開き開先は約20゜から約60゜までの開先角度を持つことができる。開き開先は管段間溶接、修復溶接、および交換パイプ部分の挿入にしばしば使用される。HSW微細構造は、用途によるが、スミ肉溶接またはその他の溶接構成でも堆積できる。
【0024】
図5は、51から57の7パスを使用して形成されたHSWの実施形態の概略断面である。用途によるが、HSW技術は、すべての溶接パス、または、いくつかだけの溶接パスに使用することができる;結果としての溶接が、望まれる高ひずみ能力を達成できる場合には、HSWと呼ぶことができる。たとえば、内部溶接機械を使用してパイプの内部から堆積されるルートパス(
図5のパス番号51)で、機械化パイプライン溶接がしばしば実施される。この内部溶接ビードは、典型的には非常に小さい。HSWの一実施形態では、内部ルートパスは従来の溶接ワイヤーおよび手順を使用して実施できる一方、パスの残部はFe−Ni消耗ワイヤーおよび化学的性質を使用して実施される。最初の2パス(ルートおよびホットパス)で従来技術を使用してルート欠陥の危険を低減し、次に残部パスにHSWを適用してFe−Niの化学的性質を形成することは有利であり得る。HSWが有利な点は、強度特性と靱性特性との組み合わせであって、それらは特定の構造用途および経済的な建設シナリオに関する制約事項によるが、HSWがさまざまな方法で使用されて、本来の目的を満たすことができるようにする。
【0025】
GMAWを使用する溶接プロセスおよび手順
本発明の一実施形態は、所定の設計条件でHSWを生成する方法を含む。
図6を参照すると、方法は、本明細書に開示された効果的な範囲内で、望ましいHSW溶接金属化学的性質を決定する工程61を含む。方法は、母材の化学的性質、および、溶接金属の望ましい化学的性質が与えられれば、溶接消耗ワイヤーの化学的性質を決定する工程62も含む。この工程は、既に論じたように希釈率を演算することを含んでもよい。方法は、溶接消耗ワイヤーを使用して母材を溶接する工程63をさらに含み、溶接中に溶接池の酸素含有量を制御するための手段を提供する工程であって、目標の溶接金属酸素含有量を達成する工程64、および、溶接中にアークの安定性および溶接池流動特性を制御する工程であって、満足できる溶接溶融を提供する工程65を含む。溶接池の酸素含有量を制御する工程は、清掃、または溶接を他の酸素含有化合物ばかりではなく元素酸素から遮蔽することを含んでもよく、および、低酸素または実質的に酸素の無い溶接シールドガス、またはフラックスを提供することを含んでもよい。実質的に酸素フリーとは無酸素を意味し、または、酸素を含有するガスまたは材料が、シールドガスまたは他の材料に意図的に添加される。不純物に自然に含まれる少量の酸素を含んだとしても、該シールドガスは実質的に酸素フリーである。アークの安定性および粘度などの溶接池の流動特性を制御する工程は、HSWに容認可能な溶接性を提供するように電流波形を調節制御する、現代的パルス電源GMAW溶接機械の使用を含むことができる。この工程は、以下に記述されるような他の溶接装置および技術を含んでもよい。
【0026】
現場パイプライン建設では、HSWは、好ましくはGMAW−ベースのプロセス、特にPGMAWを使用して実施されるが、該用途で特定の化学的性質および微細構造が達成され、および、溶接性が満足できるのであれば、他のプロセスを使用できる。溶接金属の酸素含有量および非金属含有物に対するHSWの感度のために、最高レベルの靱性をHSWで達成するための好ましい溶接技術は、アルゴン(Ar)およびヘリウム(He)の混合物からなるシールドガス組成物を使用することである。典型的なガス組成範囲は約25%Heおよび75%Arから約90%Heおよび10%Arである。高パーセンテージのHeは、位置外溶接および改良された溶接性のためには有用である。屋外での溶接中に、風の流れでHe(軽量ガスである)が容易に吹き流され易いことと、これはバランスが取られなければならない。これには、必要であれば、保護溶接囲いを使用して制御できる。
【0027】
工事現場でHSW微細構造を達成し、および、良好な溶接性を達成するためには、改良されたパルス溶接電源が重要である。これらの電源のいくつかの例は、Fronius TransPulse Synergic5000、Lincoln Power Wave455、およびMiller PipePro 450である。
HSWを本発明の実施形態の1つの5Gガース溶接に適用するシステムは、約100アンペアから175アンペアのバックグランド電流、および、約475アンペアから約575アンペアのパルス電流値を使用することを含む。アーク電圧は、典型的には約16Vから約25Vの範囲である。ワイヤー送り速度範囲は、0.9mm直径ワイヤーで、約275ipmから約575ipmである。シールドガス流量は約50cfhから約80cfhの範囲である。ルートパスおよびホットパス溶接で、移動速度範囲は約25ipmから約50ipmである。フィラーパスの移動速度範囲は約10ipmから約25ipmであり、および、キャップパスは約8ipmから約15ipmである。フィラーワイヤー直径の範囲は0.8mmから約1.4mmにできる。ルートパスおよびホットパスで、入熱範囲は、約0.2KJ/mmから約0.5KJ/mmであり、および、フィラーおよびキャップパスで約0.4KJ/mmから約1.4KJ/mmである。PGMAWの当業者であれば、パルスパラメータを調節して、Niに起因する溶接問題を抑制する望まれる溶接アークおよび溶接池を得ることができる。パイプラインガース溶接に典型的に実施されている、CO
2をシールドガスに添加することなく、この調節が達成される。
【0028】
新しい、または困難なワイヤーが含まれる溶接手順開発のすべての状況と同様に、溶接性を最適化し、および欠陥率を制限するために、ある程度の実験が必要である。溶接変数の組み合わせには、多くの置き換えが可能であるので、および、各溶接シナリオには異なる条件の母材厚さ、開先幾何学構造、および溶接位置が含まれるので、HSWのすべての用途に適切な一組の溶接パラメータを規定することは実用的ではない。ワイヤー供給速度、移動速度、シールドガス組成、トーチ振動、およびバックグランド電流などの一般的なアークパラメータの操作によって、溶接性の定常的な改良が実施できる。現代的電源を用いたパルスパラメータの調節によって、追加的な改良が可能になる。これには、これに限定されるわけではないが、以下の変数の調節が含まれる:パルス周波数、パルス値、パルス幅、およびパルス形状。波形を制御する電源のために使用される現代的な電子機器は応答時間が早いので、パルス増加(電流立ち上がり)の形状、ピークパルス電流、パルス電流時間、オーバーシュート、下降時の形状、トレイルアウト(tail−out)速度、液滴脱離時間、ステップオフ(step−off)電流、液滴脱離電流、およびパルス間隔(周波数)を含むパルス形状の微細な調節ができる。一連の異なるパルスの組み合わせなどの変形形態を生成することも可能である。
【0029】
現代的波形制御電源を伴う製品文献は、特定のアーク特性および溶接池制御を可能にする、パルス調節方法の案内を含む。パルス調節によって、遷移モード、液滴サイズ、液滴周波数を調節でき、並びに、溶接池、溶接外形、溶接溶込み、および、母材に滑らかに溶接池を濡れさせる能力の乱れとして該要因を調節できる。言い換えれば、パルス調節は、溶接性を改良するために使用できる。パルス調節は、溶接スパッターを低減するために使用できる。溶接手順開発中に、これらのパラメータを調節して溶接性を改良することは、期待される自然なステップである。Fe−Ni溶接金属の実施形態に適用するには有用である、本発明者らによって生成されたパルス波形を
図7は図示する。この波形は、溶接機械電源供給者がステンレス鋼を溶接するために推奨したものから発展したものである。
最高レベルの靱性が要求される、HSWの最も要求がある用途では、酸素が含まれる可能性がないシールドガスを使用するが、要求があまり無い用途では、シールドガスに少量のCO
2または酸素を使用することができる。溶接性が改良されるが、靱性とのトレードオフが発生する。本発明者らは、HSWのシールドガスに少量のCO
2を使用する実験を実施した結果、これらの用途での実用的な限界は約3%CO
2または2%酸素に存在すると考えられる。
【0030】
高靱性のために溶接金属の酸素含有量が低いことが望まれる、非常に要求がある用途の場合には、酸素の存在可能性を低減するために、特別な技術を使用して、溶接プロセスを改変できる。これらの技術は、アルゴンなどの不活性ガスで、溶接トーチのワイヤー供給システムをパージする工程を含み、そうしなければアーク中に供給されるかもしれない空気を低減する。ワイヤースプールおよび/またはドライブロールからコンタクトチップに、全ワイヤー供給メカニズムのアルゴンをフラッディングすることをこれは含むことができる。コンセプトは、ワイヤー供給システムおよび溶接トーチからすべての空気を除去することである。溶接ワイヤーの前述の清掃、または、実際のワイヤー供給中のその場清掃の何れかを実施するために、別の技術を使用できる。清掃は、超音波振動の使用を含む、摩耗(機械的)または化学的方法によって実施できる。溶接環境から酸素汚染を低減するさらに別の技術は、アルゴンまたは他の不活性ガスで、溶接アーク領域をフラッディングすることを含む。溶接プロセスの当業者に知られた、ディフューザー、プリシールドまたはトレイルシールド(trail shields)などの何れかのガスシールド装置を使用することによってこれは達成できる。溶接トーチ領域は、アルゴンが裏込めされた収容器構造によって全体を覆うことができる。
【0031】
溶接池攪拌
Fe−Ni溶接金属に関連する、溶接池流動特性および粘度を軽減または制御するために使用できる別の技術が溶接池攪拌である。消耗ワイヤーに直接、または、溶融溶接池に接触する独立したセラミック棒を介して、機械式または超音波振動を適用できる。溶接池攪拌によって、良好な溶接性が可能になり、溶接池の表面張力の低減と類似効果を持つ。ユーザの能力、溶接装置、および製造シナリオによるが、改良された波形電源の使用に加えて、または、その代わりに、攪拌技術を使用できる。
【0032】
ハイブリッドレーザアーク溶接
ハイブリッドレーザアーク溶接(HLAW)プロセスを使用してHSWは適用できる。実際、構造および/またはパイプライン工具に使用されると、HLAWプロセスの不備を解消するためにHSW冶金は特に有用である。ルートに近い溶接金属の下方部分で、HLAW溶接は高希釈率である。この領域では、溶接金属は主に再溶融された母材である。また、この領域の溶接の冷却速度は早い。通常の構造用鋼またはパイプライン溶接消耗がHLAWに使用されると、高希釈率の化学的性質は、マルテンサイトに変態しやすい傾向がある。この結果、硬い、脆性溶着物となる。この問題に対する解決手段として、HSW冶金はマルテンサイト条件で良好に機能し、および、HLAWプロセスの制約事項にもかかわらず、必要な靱性が得られる。前述したように、いずれかの用途の適切なHSWフィラーワイヤーを作成するために、希釈率演算を使用でき、および、これは、構造用鋼のHLAWを含む。好ましい溶接金属の化学的性質を生成するために、適切なフィラーワイヤーを作成できる。強度および靱性の優れた組み合わせを達成するHLAWのために、適切な冶金を生成する場合には、低炭素組成物溶接ワイヤー(約0.05%以下、一層好ましくは0.03%以下、およびさらに一層好ましくは0.02%以下)が特に有用である。
【0033】
サブマージアーク溶接
サブマージアーク溶接(SAW)プロセスを使用するHW冶金を採用することが可能である。パイプライン建設の1つの有用な用途は、最終的な敷設作業に先立つ二重接合(double−joining)パイプである。SAWプロセスを用いて望まれる冶金を実現するように、溶接の酸素含有量を最小化するために、特別なフラックスが要求される。該フラックス技術は、特許出願公開公報US2008/0057341に記載される。本出願は低温用途、特に9%Ni鋼を溶接するために使用される溶接技術について記載される。前述したように、9%Ni設計の重要な課題は、極低温(−196℃)での耐脆性破壊特性である。高引き裂き抵抗は関心事ではない。一方で、高引き裂き抵抗はSBDパイプラインにとっては重要である。このために、HSW冶金のSAW溶接は、US2008/0057341よりも低い酸素レベルに制限されなければならない。SAWがHSW冶金を溶接する場合には、US2008/0057341では300ppmに制限されるが、酸素含有量は200ppm未満に維持されなければならない。設計条件によるが、SBD用途では、酸素を150ppm未満、またはさらに100ppm未満に制限する必要があるかもしれない。溶接エンジニアリングの当業者には知られた用語である、フラックスの塩基度(BI)を上げることで、これは実施でき、該指数はフラックスの塩基性対酸性の特性を示し、および、その酸素を除去できる可能性を示す。既知のTuliani数式などの多くのBI数式が入手可能である。
二重接合(double−joining)用途は1G(フラット)溶接位置で実施されるので、本出願では位置外溶接の溶接金属粘度の問題は無い。したがって、5G位置のガース溶接に対するほどは、改良された電源が必要では無い。SAWの限定された位置能力と溶接融着速度との間にトレードオフが存在する。融着速度は比較的高くできるが、位置外溶接は可能ではない。
【0034】
高ひずみ溶接に対するひずみベース設計の工学的臨海評価(SBECA)
SBD用途での延性引き裂きによる破損は、パイプライン産業にとって比較的新しい設計シナリオであり、および、ガース溶接は、高レベルの引き裂き抵抗を生成するようには従来設計されてこなかった。本出願で上述されたひずみベース設計の工学的臨海評価(SBECA)技術によって、高レベルの延性引き裂き抵抗が有用であるSBDパイプラインにとって、溶接靱性が重要であるという認識を強めた。このトピックを以下の参考文献で説明する:D.P. Fairchild,et al,「Girth Weids for Strain Based Design Pipelines」,ISOPE Symposium on Strain Based Design, 18th International Offshore and Polar Eng. Conf,(ISOPE−2008),Vancouver,Canada,July 6−11,2008,pp. 48−56。
【0035】
特定の用途のHSWを最適化するために、適切な溶接特性の設計または選択の手段が望まれる。SBDパイプラインでは、以下の参考文献に、SBECAが基づく技術であって、および、適用される負荷および材料特性等の要因に対して許容できる溶接欠陥サイズに関して使用できる技術が記載されている:国際特許出願PCT/US2008/001753;K. Minnaar,et al,「Predictive FEA Modeling of Pressurized Full−Scale Tests」、Proceedings of 17th International Offshore and Polar Engineering Conference,Lisbon、Portugal,2007,pp. 3114−3120;S. Kibey,et al,「Development of Physics−Based Approach for Prediction of Strain Capacity of Welded Pipelines」,Proceedings of 19th International Offshore and Polar Engineering Conference,Osaka,Japan,2009;Kibey,S.,et al,「Tensile Strain Capacity Equations for Strain Based Design of Welded Pipelines」,Proceedings of 8th International Pipeline Conference,Calgary,Canada(2010)。適用される負荷またはひずみ、母材および溶接物の強度特性、欠陥が存在する(典型的には溶接金属または熱影響領域)材料の靱性特性、および構造体形状などの入力パラメータに基づいて、これらの参考文献は、SBECA技術を使用して、どのように溶接の臨海欠陥サイズ(安全に許容できる最も大きい欠陥)を演算できるかを説明する。あるいは、適用される負荷、強度特性、および幾何学的詳細など他の入力パラメータが与えられると、所定のサイズの溶接欠陥を支えるために要求される靱性を予測するためにBECA技術を使用できる。
【0036】
SBDエンジニアリングには、シャルピーV−ノッチ試験、亀裂先端開口変位量(CTOD)試験、J積分方法、およびcurved wide plate試験を含む材料靱性を測定するためのいくつかの候補方法が存在する。使用SBDシナリオの構造性能を予測する、欠陥サイズ、適用される負荷、および靱性に関する信頼できる予測パラメータを提供するために、これらの方法を使用することが困難であることが研究から示された。一方で、上述のSBECA技術は、構造性能を定量化および予測でき、および、R曲線と呼ばれる靱性パラメータを使用することでそのようにできる。この靱性パラメータは、機械材料の当業者には知られた、シングルエッジノッチテンション(single edge notch tension)(SENT)試験を使用して測定される。R曲線試験に関する参考文献には:G. W. Shen,et al,「Measurement of J−R Curves Using Single Specimen Technique on Clamped SE(T)Specimens」,Proceedings of 19th International Offshore and Polar Engineering Conference,Osaka,Japan,pp, 92−99,2009;W. Cheng,et al,「Test Methods for Characterization of Strain Capacity Comparison of R−curves from SENT/CWP/FS Tests」,Proceedings of 5th Pipeline Technology Conference,Ostend,Belgium,2009;H. Tang,et al,「Development of SENT Test for Strain Based Design of Welded Pipelines」,Proceedings of 8th International Pipeline Conference,Calgary,Canada,2010がある。
【0037】
図8は、R曲線を測定するために使用できるSENT試験片の概略を示す。他の形状を使用することもできる。SENT試験の試験片形状は、欠陥(亀裂または切り欠き83)が中間範囲に存在する以外は通常の引っ張り試験と同様である。試験片は、保持領域81および82で保持される。試験手順は、試験片が負荷の更なる増加を支持できなくなるまで、欠陥成長の進行を監視および測定しながら試験片を引っ張ることを含む。R曲線を生成させるための1つの方法には、試験片の繰り返しローディングおよびアンローディングが含まれ、ここで各連続する荷重サイクルは、荷重を増加させ、および(最終的に)亀裂拡大が増加する。試験片を順守することで、亀裂拡大の進行を演算でき、技術はASTM E1820に記載された技術に一致する。この技術は除荷コンプライアンス方法と称し、および、亀裂成長を適用される負荷(例えば、駆動力)に関連付けさせるために使用できる。R曲線グラフをプロットするためにデータ収集ができ、これによって靱性のグラフ表示、または、さらに詳しくは、延性引き裂きに対する材料耐性を示す。言い換えれば、グラフは、材料の延性破壊靱性をあらわす。
本明細書で言及したSBECA技術はSENT試験、および靱性を特徴付けるR曲線を使用するが、構造体形状、欠陥形状、適用される負荷並びに強度特性および靱性特性などの材料特性などの重要なパラメータを結びつける、定量化された、予測能力があれば、他の方法を、耐延性破壊特性を定量化するために使用できる。1つの方法は、一連のフルスケールパイプひずみ能力試験を実施することであるが、このアプローチは非常に高価である。
【0038】
R曲線グラフは、亀裂拡大と亀裂駆動力との関係を示す。R曲線の例が
図9に示される。亀裂が延びるにしたがって、材料の亀裂成長(延性引き裂き)に対する耐性は、一般に上昇する。高靱性材料では、曲線の初期部分で急勾配があり、その後初期上昇するR曲線を生成し、該R曲線は上昇を続ける。R曲線(大きなY軸値)が大きくなるほど、靱性が大きくなる。R曲線は、「delta a」(a)曲線、またはJ積分対 a曲線、またはCTOD対 a曲線ともしばしば呼ばれ、ここで亀裂駆動力はCTODまたはJ積分であらわされ、および、y−軸にプロットされる。亀裂伸長 a(mm)はx−軸にプロットされる。曲線は
【数1】
等の数学的関係で示すことができ、ここで (デルタ(delta))および□(エータ(eta))は、CTOD(mm)対 a(mm)プロットの指数則に適合する係数である。R曲線および耐延性破壊特性のこの表記によれば、亀裂拡大1mmでのCTODを考慮することによって、異なる溶接金属に対するR曲線は靱性を判断するために比較できる。該比較で亀裂拡大1mmを選択するには2つの理由がある。第1に、指数式でx=1の場合には、指数項が1に低減し、エータは無視できる。この場合、CTODはデルタに等しく、および、デルタ値だけを用いて比較できる。第2に、1mmの亀裂成長は、靱性を比較するには亀裂成長として適度な程度である。SBECAの知識によると、亀裂拡大が1mm程度で、パイプガース溶接のひずみ限界がしばしば発生する。多くの形状および材料特性係数によるが、臨海亀裂拡大は1mmまたは2mmまでのとても小さい値で変化するが、一般的な靱性の比較をするには、1mm仕様が適切である。
【0039】
新規なHSW溶接金属のR曲線では、160ksiもの高い引っ張り強度で1.0を超えるデルタ値を生成できる。酸素含有量の良好な制御によって、すなわちHSWの低強度版では、デルタ値は1.5を超えることができる。用途によるが、本明細書に開示されたように最適溶接条件に注意を集中でき、および、デルタ値を2.0以上、好ましくは2.25よりも大きく、一層好ましくは2.5よりも大きく、および、なお一層好ましくは2.75よりも大きい値に達成できる。強度レベルおよび酸素含有量によるが、3.0という高いデルタを生成できる。HSW溶接金属でこれらの高靱性を生成できると同時に、SBDパイプラインのX70を上回る、またはより強いパイプグレードに適切な高強度を提供できる。
【0040】
R曲線データおよびSBECA技術に基づく、構造性能を正確に予測する能力は、フルスケールパイプひずみ能力試験を使用する技術の検証性に依存する。これは以下の参考文献で議論される:国際特許出願PCT/US2008/001676;P. Gioielli,et al,「Large−Scale Testing Methodology to Measure Influence of Pressure on Tensile Strain Capacity of Pipeline,Proceedings of 17th International Offshore and Polar Engineering Conference,Lisbon,Portugal,2007,pp. 3023−3027;P.C. Gioielli,et al,「Characterization of Stable Tearing During Strain Capacity Tests」,ISOPE Symposium on Strain Based Design, 18th International Offshore and Polar Eng. Conference,(ISOPE−2008),Vancouver,Canada,July 6−11,2008,pp. 86−89;X. Wang,et al,「Validation of Strain Capacity Prediction Method − Comparison of Full−Scale Test Results to Predictions from Tearing Analysis Based on FEA」,Proceedings of 5th Pipeline Technology Conference,Ostend,Belgium,2009。検証によって、R曲線データをフルスケール性能に関連付けることを可能にし、および、この関係によって、SBECAの予測数式のパラメータ開発のための校正ベースを提供する。
【0041】
本発明者らはSBECA技術を使用して、R曲線の観点から耐延性破壊特性の効果を定量化した。SBDシナリオには、さまざまなパイプグレード、欠陥サイズ、溶接特性、および母材特性が含まれ、内部パイプ圧力およびガース溶接でのパイプミスアライメントを考慮に入れた。X70ガース溶接に対するこの研究結果の仮説例が
図10に示される。この例は、42インチ、20mm壁部パイプで以下の縦方向引っ張り特性を持つ:降伏強度75ksi、最大引っ張り強度85.2ksi、および均一伸び8%。目標ひずみ限界は2.5%である。3つの仮説溶接が考慮され、すべてが20%UTS(最大引っ張り強度)を超え、ゼロミリメートルのミスアライメントである。これらの3つの溶接では、グラフは3つの異なるR曲線を表示し、延性引き裂き抵抗は異なるレベル(すべての他の残りの特性は等しい)を示す。1mm亀裂拡大でのR曲線値を考慮すると、3つの曲線のデルタ値は、0.6、1.3、および2.0である。これらのレベルの引き裂き抵抗は、比較的、靱性溶接が低く、および2つのHSWはHSW♯1およびHSW♯2と称する。開示されたSBECA技術を使用することで、これらの3つのR曲線に対する臨海欠陥を演算できる。ミリメートル単位での欠陥深さ、および欠陥長さであらわすと、3つのR曲線に対応する3つの臨海欠陥サイズは、それぞれ3.3×20mm、4.3×48mm、および6.4×50mmである。図からわかるように、引き裂き強度レベルが高いと欠陥許容値が大きくなる。SBECA技術は、HSWの機械特性の最適セットを選択する設計補助として使用できる。
HSWは、強度範囲を生成するように設計できる。構造用鋼では強度と靱性は逆相関するので、一般に強度が高くなると靱性が低くなる。このため、低靱性とのトレードオフになるので、用途で要求されるよりも高い溶接強度を生成することが一般に望ましい。SBECA技術は、HSWを設計するために使用でき、および、強度と靱性とのトレードオフを最適化する。
【0042】
溶接金属の微細構造
HSW微細構造を記述する冶金用語の定義は、用語集に見出されるが、追加の詳細は以下の3つの参照文献に記載される:(1)N.V. Bangaru,et al,「Microstructural Aspects of High Strength Pipeline Girth Weids,」Proceedings of 4
th International Pipeline Technology Conference,Ostend,Belgium,May 9−13,2004,pp. 789−808,(2)J.Y. Koo,et al,「Metallurgical Design of Ultra−High Strength Steels for Gas Pipelines,」ISOPE Symposium on High−Performance Materials in Offshore Industry, 13th International Offshore and Polar Eng. Conference,(ISOPE−2003),Honolulu,Hawaii,USA,May 25−30,2003,pp.10−18,および(3)米国特許第6,565,678号。本明細書で使用する場合、主要または大部分とは少なくとも約50体積パーセントを意味する。
【0043】
応力ベースのパイプライン設計では、ガース溶接のために選択される微細構造は、一般にアシキュラーフェライトである。米国特許第3,218,432号に記載された低温用途に対しては、該微細構造が「low carbon martensite with traces of ferrite、bainite and austenite」として記載されている。本発明の溶接金属の微細構造は、これらの実施例の両方とも異なる。本発明の微細構造は、マルテンサイトおよびベイナイト、微量を著しく超えるオーステナイト、および無フェライトの均衡した体積分率から構成され
る。本発明者らは本発明のFe−Ni微細構造の多くの変形形態を詳細に研究し、および、かなりの体積分率の残留オーステナイトと共に、主にラスマルテンサイトといくらかのベイナイトの均衡した割合によって、対象とするSBD用途に対して特性の最も良い組み合わせが達成されることを発見した。溶接金属は、主にオーステナイトとして、凝固によるセルのサブ構造を持つ。この微細構造の概略が
図11に示される。溶接部の冷却中に、オーステナイトの変態が発生し、およびセル壁部111およびセル内部112に異なる構成物質が形成される。溶接金属微細構造の総体積分率のうち、セル壁部の体積分率は一般に約20%から約40%の範囲であり、セル内部の体積分率は一般に約60%から約80%の範囲である。
【0044】
凝固中の化学的な偏析のために、セル壁部は硬化性であり、および、セル内部よりも硬い。適度の強度のHSWに対しては、セル壁部は、主にマルテンサイトを含むが、内部は、主にベイナイト、特に、変質上部ベイナイト(DUB)および粒状ベイナイト(GB)を含む。主要なマルテンサイト構成物質は、ラスマルテンサイトであって、ラスマルテンサイトは冷却されると(インターラスカーバイド無し)、次の溶接パスで焼き戻されると、または、自己冷却で自動的に焼き戻されるとあらわれる。焼き戻しは、ラス中のカーバイドによって分かる。微細構造中にランダムに分散しているのは、残留オーステナイトの小さな独立した粒である。溶接金属化学的性質および溶接中の冷却速度によるが、他の小さな構成物質は、焼き戻しマルテンサイト組織、双晶マルテンサイト、および下部ベイナイトも含んで生成される。双晶マルテンサイトは、典型的にセル壁部に見られ、および、下部ベイナイトは典型的にセル内部に見られる。
【0045】
新規な溶接設計に従って、表1は、多様なHSW微細構造構成の体積分率範囲を示す。HSWの強いバージョンは、高合金含有量および低溶接熱入力によって生成される。強いバージョンは、高体積分率のマルテンサイト構成物質と低体積分率のベイナイトを含む。微細構造の強度変化はセル内部で最も顕著である。X60からX70などの低グレードパイプに好適なHSWでは、セル内部の大部分はDUBおよびGBである。X80以上の高パイプグレードに対するHSWでは、セル内部のマルテンサイトの割合を増加させる工程を含むように設計される。強度が増加するにつれて、生成される焼き戻しマルテンサイトおよび双晶マルテンサイトの割合も大きくなる。残留オーステナイトは靱性を増すように設計された相である。残留オーステナイトは所定のNi含有量のHSWによって生成される。
【表1】
【0046】
図12は、HSWの提供された実施形態の光学マクロ画像を示す。この溶接は、最初にルートパスに従来の内部パイプライン溶接技術を適用し、および、次にHSWパスが外部から適用されて溶接を終了した。粗い拡大図ではあるが、
図12は、従来のルートパス121と高ひずみ溶接金属122微細構造との間の微細構造に明確な違いを示す。
図13は、セルのサブ構造を示すHSWの光学顕微鏡写真を示す。
図14は、Fe−Ni溶接のセル壁部での微細構造141を示す、走査型電子顕微鏡写真である。
図15Aおよび
図15B、
図16、
図17、および
図18Aおよび
図18Bは、それぞれ、高ひずみ溶接からのDUB、GB、LM、およびRAの例を示す。マルテンサイト−オーステナイト(MA)構成物質は、
図15Aおよび
図15Bおよび
図16によっても特定される。
【0047】
溶接検査
本明細書に記載のFe−Ni溶接は、溶接検査に関して利点を持つ。これらの溶接は、オーステナイト(Ni−ベースの)溶接に似た延性および靱性を持つことができる;しかしながら、Fe−Ni溶接はフェライトである。Ni−ベースの溶接消耗品は面心立方(FCC)原子構造を持つオーステナイト溶接を生成する。フェライトFe−Ni溶接は、フェライトパイプライン鋼(BCC構造である)の溶接に有用な体心立方(BCC)原子構造である。体心立方(BCC)原子構造によって、高Ni溶接消耗品を、溶接フェライトパイプライン鋼に使用する場合に発生する、異種溶接界面の問題を防ぐ。これらの界面は不必要な修理を引き起こす誤信号を生成するので、異種溶接界面によって超音波検査が難しくなる。
【0048】
実施例
表2に挙げられる溶接ワイヤーは、Fe−Ni溶接の実験のために本発明者らが作成した。
【表2】
【0049】
ワイヤー2、4、および12を使用していくつかの5Gガース溶接が、本明細書に開示されたFe−Ni技術を使用して作成された。これらの溶接は、30インチ直径、15.6mm壁API5LX80パイプに形成された。このパイプは、重量%(wt%)で以下の組成を持つ:炭素:0.06、Mn:1.88、Si:0.25、P:0.006、S:0.002、Ni:0.17、Cu:0.18、Mo:0.22、Cr:無し、Nb:0.03、V:無し、およびTi:0.01。Fronius TransPulse Synergic 5000電源の使用を含む、CRC Evans自動溶接装置を使用して溶接が形成された。パルスパラメータは本明細書で開示されたように調節され、および、優れた機械特性と共に良好な溶接性が達成された。これらの溶接に関する追加の詳細が表3および表4に記載される。
【表3】
(CVNシャルピーVノッチ)
【表4】
【0050】
溶接番号4は、CO
2をシールドガスに添加した影響を示す。この溶接は、HSW(240ppm)に望まれるよりも多くの酸素を含有し、および、シールドガスにCO
2無しで実施されたHSWほどは、良好な靱性特性を持たなかった。
X80パイプ、および、表1のワイヤー12を使用して形成されたガース溶接を使用して、2つのフルスケールパイプひずみ試験が実施された。第1のフルスケール試験片には、4×50mm溶接金属欠陥があらかじめ用意された。第2のフルスケール試験片には、3×50mm欠陥があらかじめ用意された。第1の試験片は意図的な高低ミスアライメントが無く生成され、および、第2の試験片は、3mmの高低ミスアライメントによって生成された。両方の試験とも特定の最小降伏強度の72%で加圧され、および、壊れる張力で引っ張った。これらの試験は、フルスケールパイプひずみ試験に関する、前述された引用参考文献で説明されたように実施された。第1の試験は、試験前から6%のひずみを超過して、試験装置を保護するために停止された。パイプ材料が塑性崩壊によって壊れる前に、第2の試験は3%のひずみ限界を達成した。
【0051】
これらの実施例で示されたように、一般的な溶接欠陥を含んだとしても、高靱性および高レベルの適用ひずみを達成できる、パイプラインガース溶接を生成することに、HSWは有用である。160ksiほどの高い引っ張り強度を持つHSWは、温度−20℃で0.10mmを超える溶接金属CTOD値によって明らかなように、良好な耐脆性破壊特性を生成できる。化学的性質、酸素含有量、および微細構造に注意を払うと、−10℃、−15℃、−20℃、またはさらに−30℃または−40℃以下約−100℃までの低い温度で、HSWはこの強度および靱性を生成できる。引っ張り強度が約120ksiのHSWでは、0.2mmまたは0.3mmを超えるCTOD値を達成できる。引っ張り強度が約110ksiのHSWでは、0.3mmから0.5mmを超えるCTOD値を達成できる。
シャルピーV−ノッチ試験で測定されたように、HSWの遷移温度は、延性から脆性への遷移温度を−20℃、−30℃、または−40℃に形成できる。化学的性質、酸素含有量、および微細構造に注意を払うと、−60℃、−80℃、またはさらに−100℃の低温で遷移温度を達成できる。
【0052】
耐延性破壊特性に関しては、亀裂拡大が1mmでデルタ値が少なくとも1.0の曲線で説明された以上のR曲線を、HSWは生成できる。化学的性質、酸素含有量および微細構造に注意を払うと、デルタ値が1.5、好ましくは2.0、一層好ましくは2.25を超え、さらに一層好ましくは2.5を超え、およびさらに2.75を超えるデルタ値を持つ曲線以上のR曲線を、HSWは生成できる。強度レベルおよび酸素含有量によるが、3.0という高いデルタ値を生成できる。
上述の機械特性とともに、壁部厚さにもよるが、2×25mm、3×50mm、4×50mm、または5×50mm、または6×50mmなどの典型的な溶接欠陥のサイズを含んでも、HSWガース溶接は0.5%を超える全体塑性ひずみを達成できる。第1の寸法は、これらの欠陥のパイプ表面に対して垂直方向の欠陥高さを示し、および第2の寸法(大きい寸法)は、ガース溶接のフープ方向に沿った欠陥長さである。達成塑性ひずみが0.5%を超えても、2×100mmまたは1×200mmなどの長い欠陥を支えられる。欠陥サイズおよびパイプ壁部厚さによるが、全体塑性ひずみ1%、1.5%、2%、2.5%、3%またはさらに4%または5%を達成できる。約X120までのパイプグレードで、高ひずみ限界が達成できる。
本発明は多様な変形形態および代替形態が可能であり、上記で論じた例示的な実施形態は一実施例として示したものである。そして、本発明は、本明細書に開示された特定の実施形態に限定されることが意図されないことが理解されるべきである。実際、本発明は、添付の特許請求の範囲の真の精神および範囲内のすべての代替形態、変形形態、および均等形態を含む。
【0053】
用語集
オーステナイト合金:面心立方(fcc)原子配列によって特徴付けられるオーステナイト微細構造を持つ、ステンレス鋼、Ni−ベースの合金、および二相ステンレス鋼などの工業用合金の群のいずれか。
フェライト合金:主に体心立方(bcc)原子配列によって特徴付けられるフェライト微細構造を持つ、Ni含有量が約15%までのFe−Ni合金、または構造用鋼などの工業用合金の群のいずれか。これは、大部分がマルテンサイトであるさまざまな鋼微細構造を含む。
降伏強度:荷重支持が永久変形を伴わずに達成される線形弾性挙動から離れる強度、および、荷重支持が測定可能な永久変形をもたらす塑性挙動に対応する。
引っ張り強度:故障メカニズムが線形弾性破壊でない場合の、応力を単位にした材料の最大荷重負担能力に対応する強度。
HAZ:熱影響領域。
【0054】
Pcm:鋼に使用される一般的な合金元素のwt%に基づく、硬化性を数値化するために使用される数式。硬化性は、高温から冷却される場合に、鋼からマルテンサイト(硬い微細構造)に変態する程度である。
Pcm=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Ni/60+Mo/15+V/10+5B。
wt%の合金含有量を式に入れて、Pcm数を演算する。
熱影響領域:溶接溶融ラインに隣接する母材であって、溶接実施中に溶融しないが、溶接の熱に影響を受けた母材である。
靱性:破壊に対する耐性。
溶接物:溶接によって結合された構成要素の集合体。
溶接性:特定の金属または合金溶接の実現可能性。溶接性とは、溶接中に水素誘起割れの受けやすさをいうこともあるが、しかしこの開示内では、溶融の欠け、溶込みの欠け、またはアンダーカットなどの欠陥を生成すること無く、溶接できる容易さを溶接性という。高表面張力の溶融溶接池、および異常または不安定な溶接アークを含む低溶接性に、多くの要因が関与する。これらの要因によって、溶接池から隣接母材への低濡れ性、溶接止端部での鋭い(すなわち小さい)再入角、好ましくない溶接スパッターを含む、溶接機で観察される症状が引き起こされる。
【0055】
ガスメタルアーク溶接(GMAW):トーチを使用する溶接プロセスであって、ここでフィラーワイヤーは溶接棒として機能し、コンタクトチップを介して自動的に供給され、および、溶接プロセスで消費される。コンタクトチップは典型的には、シールドガスを溶接アーク領域に導くガスカップによって囲まれる。一般的なシールドガスはアルゴン、CO
2、ヘリウム、および酸素である。機械(自動または機械式)、または人間(半自動)によってトーチは移動できる。プロセス名のGMAWは、アメリカ溶接協会(American Welding Society)によって指定される標準である。
パルスガスメタルアーク溶接(PGMAW):電流パルス能力を備える電源を利用するGMAWプロセスの変形形態である。これらは、改良電流波形電源と呼ばれることもある。アメリカ溶接協会は、PGMAWをGMAW−Pと称する。
GMAW−ベースのプロセス:PGMAW、金属コアアーク溶接(MCAW)、およびフラックスコアアーク溶接(FCAW)などGMAWに類似する、多くの関連するプロセスである。MCAWとの主な相異点は、コアワイヤーが使用され、および、コア中に金属粉が存在することである。FCAWプロセスも、コアワイヤー、および、典型的にはフラックス粉からなるコアを使用する。FCAWは、シールドガス有り、または無しで使用できる。
【0056】
ガスタングステンアーク溶接(GTAW):トーチを使用する溶接プロセスであって、溶接棒は非−消耗タングステン棒である。フィラーワイヤー有り、または無しでプロセスを実施できる。フィラーワイヤーが無い場合には、プロセスは自溶と称する。フィラーワイヤーが使用される場合には、それは側面から(GMAWなどの多くの他のプロセスでのトーチ中心線を介することとは対照的に)溶接池/アーク領域に供給される。フィラーワイヤーは機械または人間によって供給できる。溶接トーチは機械または人間によって移動できる。タングステン溶接棒は、シールドガスを溶接池/アーク領域に導くガスカップに囲まれる。典型的なシールドガスは、アルゴンおよびヘリウムを含む。
ハイブリッド−レーザアーク溶接(HLAW):レーザ溶接とGMAWとの混合プロセスである。典型的にレーザは、深い溶込みを提供するGMAWアークに先行する。HLAWのGMAW構成要素は、レーザ溶接単独と比較して、突き合わせ結合部の大きな変形形態に適応できる能力を生成する。レーザはとても狭い幅(約1mm)のギャップだけを埋めることができるが、GMAW溶接では数ミリメートルのギャップを埋めることができる。
サブマージアーク溶接(SAW):連続的に供給される消耗固体または管状(フラックス入り)溶接棒が要求される溶接プロセスである。溶融溶接およびアークゾーンは、粒状溶融フラックスの覆いで「サブマージ」されることで、大気汚染から保護される。
低酸素溶接環境:溶融溶接池に提供される保護によって、溶接金属の酸素含有量が約200ppm酸素未満に達っする溶接プロセス。シールドガスまたはフラックスの使用によって、保護が達成できる。
【0057】
初析フェライト(PF):鋼溶接微細構造に関し、この相はポリゴナルフェライトおよび粒界フェライトとも呼ばれる。溶接金属が高温から冷却される場合のオーステナイトから変態する最初の相がなければ、PFは最初の1つになりやすい。前のオーステナイト粒界で核が生成されるので、PF粒は、これらの境界に位置する。該粒は多角形を形成し、時にはサイドプレートがウイドマンステッテン(Widmanstatten)フェライトと呼ばれる関連相を規定するアロトリオモルフを形成する。
アシキュラーフェライト(AF):初析フェライト(ポリゴナルフェライト)が最初に形成される場合があるが、AFは、鋼溶接の冷却中にオーステナイトから変態する最初の分解生成物である。AFは小さな、非金属含有物で核となり、次にベイナイトタイプの変態機構によって急成長する。冷却速度および化学的性質によるが、AF粒は、典型的には、アスペクト比の範囲が約2:1から約20:1である針状形態を示す。この変態では、剪断要素および拡散要素の両方を伴う。変態温度によって、拡散および剪断要素の相互作用が制御され、AF形態が決定される。
粒状ベイナイト(GB):中心に配置された、マルテンサイト−オーステナイト(MA)の小さい「島」を囲む、3つ〜5つの相対等軸ベイニティックフェライト結晶粒からなる集合体を指す。典型的な「粒」直径は約1μm〜2μmである。
上部ベイナイト(UB):糸状またはフィルム状の、セメンタイトなどの炭化物相が散在した、アシキュラーまたはラスベイナイトフェライトの混合物を指す。炭素含有率が約0.15wt%を超える鋼に最もよく見られる。
【0058】
変質上部ベイナイト(DUB):各コロニーが剪断応力によって一組(パケット)の平行ラスに成長するベイナイト生成物。ラス成長時およびその直後に、一部の炭素がインタラスオーステナイト内に排斥される。炭素含有率が比較的低いために、封入オーステナイトの炭素濃縮は、板状セメンタイトの核生成を誘発するのに十分ではない。そのような核生成は、標準的な上部ベイナイト(UB)の形成をもたらす中炭素鋼およびそれ以上の高炭素鋼で起こる。DUB内のインタラスオーステナイトにおける低い炭素濃縮により、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト(MA)構成成分が形成されるか、あるいは、残留オーステナイト(RA)として保持されることがある。DUBは、標準上部ベイナイト(UB)と混同されることがある。何十年も前に中炭素鋼で最初に特定されたこの種のUBには、(1)パケット内で成長する平行ラスセット、(2)ラス境界でのフィルム状セメンタイトという2つの基本的な特徴がある。UBは、共に平行ラスからなるパケットを含む点でDUBと類似しているが、基本的な相違はインタラス材料にある。炭素含有率が約0.15〜0.4であると、セメンタイト(Fe3C)がラス間にできることがある。これらの「フィルム」は、DUB内の断続的なMAと比べて比較的連続的であり得る。低炭素鋼の場合、インタラスセメンタイトはできず、残りのオーステナイトが、MA、マルテンサイト、またはRAとなって終わる。
【0059】
下部ベイナイト(LB):LBは、DUBと同様な平行ラスからなるパケットを有する。LBはまた、小さいイントララス炭化物析出物を含む。これらの板状粒子は、主ラス成長方向(ラスの長手方向)から約55°で配向された単結晶バリアント上に常に析出する。
ラスマルテンサイト(LM):LMは薄い平行ラスからなるパケットとして出現する。ラス幅は、通常約0.5μm未満である。焼戻しされていないマルテンサイトラスコロニーは炭化物がないことを特徴とし、それに対して、自己焼戻しLMは、イントララス炭化物の析出物を見せる。自己焼戻しLM内のイントララス炭化物は、マルテンサイトの(110)面などの2つ以上の結晶バリアント上にできる。多くの場合、セメンタイトは1方向に沿って整列せず、むしろ、多平面上に析出する。
焼き戻しマルテンサイト(TM):TMとは、鋼のマルテンサイトの熱処理された形態を指し、熱処理は炉内で行われるか、または加熱ラップを使用するなど、局部手段を用いて行われる。焼戻しのこの形態は、溶接組み立て後に行われる。セメンタイトの析出は可能であるが、オーステナイトの形成に対しては低すぎる温度範囲での逸脱時に、準安定構造のマルテンサイトにセメンタイトが析出すると、微細構造および機械特性が変化する。
【0060】
自己焼戻しラスマルテンサイト:溶接などの工程からの冷却中に自己焼戻しを受けるマルテンサイト。冷却時に、通常の焼戻しに対して行われるような再加熱なしに、セメンタイトの析出が現場で起こる。
双晶マルテンサイト(TwM):主にラスマルテンサイトを含む化学的性質に比較して、高炭素含有量のために、このバージョンのマルテンサイトが形成される。炭素含有量が約0.35%から0.44%を超えるとTwMが形成される。炭素レベルがこれ未満だと、ラスマルテンサイトが支配的になる。内部双晶を含むTwMは、変態歪みおよび応力に適応するために形成される。典型的な構造用鋼は、高炭素含有量ではない;したがって、構造用鋼(特に溶接)のTwMは、化学的な偏析領域に主に見られる。偏析は高炭素濃度の局所領域を形成できるので、TwMに至る。これは、溶接領域および熱影響領域のMA領域でよく発生する。
マルテンサイトオーステナイト構成物質(MA):冷却中にマルテンサイトおよび残留オーステナイトの混合物に変態する、フェライト鋼または溶接部内の微細構造の残存領域。これらの領域は、多くの場合、冷却中に変態する最後の領域である。MA領域は、より高い温度ですでに変態した周囲領域からの排斥炭素のために安定化する。安定化により、オーステナイトのMAへの変態は、周囲領域よりも低い温度で起こる。MAの領域は通常、マルテンサイトが大部分を占め、一方、はるかに少量(10%未満)の残留オーステナイトが含まれるにすぎない。MAは、熱サイクルに2回かかった溶接部またはHAZの先に形成されたオーステナイト粒界にしばしば見られる。MAはまた、変質上部ベイナイトおよび下部ベイナイトからなるラスベースの微細構造内のラス境界でも見つけることができる。MAは通常、構造用鋼に存在するいくつものラス境界、パケット境界、または粒界上に認められる。
【0061】
残留オーステナイト:室温に冷却後に鋼微細構造に残るオーステナイト。オーステナイトは高温で安定であるが、一旦微細構造がA3およびA1温度未満に冷却されると、低温変態によって、安定し、および、オーステナイトから形成されるフェライト、ベイナイトおよびマルテンサイトなどを生成する。冷却速度および化学的性質によるが、微細構造のいくつかの小さな領域は合金(主に炭素)リッチになり、および、安定した状態を保ち、室温で存在する。
工学的臨海評価(ECA):亀裂または溶接欠陥などの材料欠陥の重要な構造を、設計、認定、または評価する方法である。1つの目標は、構造上の欠陥を防止することである。別の目標は、欠陥が良性であると分析される場合に、不必要な修理を防止することである。ECA方法は、多くは破壊力学技術に基づく。ECA方法によって、一般に、3つの入力:材料特性、適用される負荷、および欠陥サイズ、に基づく破壊に対する臨界条件を決定することができる。ECAは、他の2つの入力に基づいて、1つのパラメータの臨界値を予測するためにしばしば使用される。ECA方法の他の名称には、欠陥評価手順、および、目的に対する適合性の分析が挙げられる。
ひずみベースの工学的臨海評価(SBECA):引っ張りひずみに適用されるパイプラインガース溶接の欠陥許容度を決定するための方法。これは、実験によって耐延性破壊特性を特徴付け、次に目標ひずみ要求に基いて容認可能な欠陥サイズ演算することを意味してもよい。あるいは、目標ひずみ要求および欠陥サイズは、要求される耐延性破壊特性を演算するために使用できる。SBECAには、降伏強度および引っ張り強度を含む、いくつかの材料特性に関する知識または仮定が要求される。しばしば、仮定は非破壊検査技術の正確性に関して必要になる。
【0062】
臨界欠陥サイズ:エンジニアリング構造中の亀裂または溶接欠陥などの材料欠陥に関し、パイプの仕様および溶接機械特性、欠陥形状、構造体形状、および適用される負荷によるが、この欠陥は破壊を引き起こす最も小さい欠陥である。エンジニアリング臨界評価(ECA)を議論する場合に、この用語はよく使用される。
高低ミスアライメント:ガース溶接時の隣接パイプ部分間の幾何学的オフセットの程度。ミスアライメントは、パイプ円周部の周囲で変化する。ミスアライメントを最小化するために最大限の努力が払われるが、高低差の大きさは、1ミリメートルから数ミリメートルまでの端数で発生する。1mmの高低差は大直径パイプ(約、>24インチ直径パイプ)では小さいと判断されるであろうが、>3mmの高低差は大きいと判断されるであろう。高低ミスアライメントは、約5mmを超えることはほとんど無い。