特許第6016173号(P6016173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6016173水平井及び生石灰を用いたメタンハイドレート採取法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016173
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】水平井及び生石灰を用いたメタンハイドレート採取法
(51)【国際特許分類】
   E21B 43/24 20060101AFI20161013BHJP
   E21B 43/295 20060101ALI20161013BHJP
   E21C 50/00 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   E21B43/24
   E21B43/295
   E21C50/00
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-228415(P2014-228415)
(22)【出願日】2014年10月23日
(65)【公開番号】特開2016-84683(P2016-84683A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2014年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】514287100
【氏名又は名称】結城 百代
(72)【発明者】
【氏名】結城 百代
【審査官】 石井 哲
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0114026(US,A1)
【文献】 特開2013−170374(JP,A)
【文献】 特許第5538269(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 43/24
E21B 43/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底のメタンハイドレート層に、起点を同一とし同方向へ向かう上下一対の水平井を掘削する工程と、
上位の水平井の中に土砂を通さない特殊管を配置する工程と、下位の水平井の中に管を配置する工程と、
前記下位の水平井の中に配置された管に対して洋上の位置から水または海水と生石灰を混ぜた生石灰スラリを圧入する工程と、生石灰と水または海水の化学反応により生石灰スラリが発熱し、生石灰スラリを圧入した管から放熱することにより管の周囲のメタンハイドレートを溶解し、溶解によって発生したガスを前記上位の水平井の中に配置された特殊管から回収する工程により、ガス回収の効率と経済性の向上を図ることを特徴とする、メタンハイドレートからのガス回収方法。
【請求項2】
前記下位の水平井に配置された管に海水ではなく水と生石灰と混ぜた生石灰スラリを圧入した場合、管が海底に達する直前の位置から生石灰スラリに海水を混入しスラリの発熱温度を上げる工程を特徴とした、請求項1に記載のメタンハイドレートからのガス回収方法。
【請求項3】
メタンハイドレート回収に伴い生じた空洞中を、前記同一の起点より同方向へ向かう上位の水平井に配置された特殊管と前記下位の水平井に配置された管との上下配置を保持したまま移動させることを特徴とした、請求項1に記載のメタンハイドレートからのガス回収方法。
【請求項4】
前記同一の起点より同方向へ向かう上下水平井の対及び、その上位水平井の中に設置される特殊管及び下位水平井の中に設置される管を複数設けて分岐させることを特徴とした、請求項1に記載のメタンハイドレートからのガス回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平井及び生石灰を用いてメタンハイドレートをより効率的に採取し、同時に地球温暖化防止、海洋酸性化抑止に資することを目的とするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、海底からのメタンハイドレートの採取法には、減圧法、加熱法等によりメタンハイドレートを分解して採取する様々な方法が提案されている。加熱法では蒸気や温水やその他の熱した液体により、メタンハイドレートに熱を加えて分解させてガスを回収する等の方法が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2002−375298
【特許文献2】特開2013−170374
【特許文献2】特開2014−502322
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】L.D.D.Harvey,”Mitigating the atmospheric CO2 increase and ocean acidification by adding limestone powder to upwelling regions”.JOURNAL OF GROPHYSICAL RESEARCH,VOL. 113,April 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の加熱法では温水或いは蒸気などを用いてメタンハイドレートを加熱し分解させる方法が提案されているが、温水を作るためのエネルギーが大量に必要となり、コスト高となりエネルギー効率も悪かった。また、減圧法では土砂などの混入による装置停止が問題となっていた。
【0006】
従来の加熱法では温水を作るためにガスで加熱したり、ガス発電の温排水を使用したりするため、温水生成に伴ってCO2が発生していた。
【0007】
管が設置された部分のハイドレートが分解しきって回収率が低下した場合、管の設置場所を変更する必要があった。
【0008】
本発明は、比較的安価かつ化学的に安定している生石灰を水や海水と混ぜて発熱反応を起こさせることにより、温水発生装置やそのためのエネルギーを不要とし、エネルギー効率とコストを大幅に改善することを目的とする。また土砂が入らない特殊管でガスを採集することにより、土砂の混入を防止する。管の移設も容易である。
【0009】
また、生石灰は海水中では精製時の2倍のCO2を吸着できるため、地球温暖化防止に役立ち、かつ水溶化した生石灰は強アルカリ性を示すため、昨今問題視されている海洋酸性化問題の抑止に資する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は海底のメタンハイドレート層に上下一対の水平井を掘削し、
上位の水平井の中に土砂を通さない特殊管を配置し、下位の水平井の中には管を配置する。
下位の水平井の中に配置された管に対して、洋上の位置(船)から水または海水と生石灰を混ぜた生石灰スラリを圧入し、生石灰と水または海水の化学反応により生石灰スラリが発熱し、生石灰スラリを圧入した管から放熱することにより管の周囲のメタンハイドレートを溶解し、溶解によって発生したガスを前記上位の水平井の中に配置された特殊管から回収する工程により、ガス回収の効率と経済性の向上を図ることを特徴とする、メタンハイドレートからのガス回収方法である。上位の水平井に配置する特殊管にはSAGD法(Steam Assisted Gravity Drainage)で使われる、土砂を通さない特殊管を使う。
【0011】
温水や蒸気の代わりに発熱反応を起こす生石灰を使用するため、水または海水と混ぜるだけで80°−100℃以上の熱を持つ流体を生成することができ、コストとエネルギーを大幅に節約できる。
【0012】
溶解したメタンハイドレート内には空洞ができるため、管の角度を少し変えるだけで掘削せずに管を移動でき、新しいハイドレート層を溶解できる。
【0013】
生石灰の発熱反応により無駄なCO2の発生を防ぎ、かつ海中に石灰スラリを放出することでCO2をむしろ吸着し、海洋酸性化の防止にも資する。
【発明の効果】
【0014】
上述したように、本発明はメタンハイドレートを従来の加熱法より大幅に安価にかつエネルギー効率よく採取でき、同時に地球温暖化抑止、海洋酸性化抑止の目的も果たすものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1洋上設備(船)、同一な起点より同方向に向かう2本の一対の水平井中に配置されるガス回収用特殊管及び生石灰スラリ圧入用管、放出口の位置等の側面図
図2ガス回収用特殊管及び生石灰スラリ圧入管とメタンハイドレート層の断面図
図3ガス回収用特殊管及び生石灰スラリ圧入管を移動させる場合の断面図
図4同一な起点より同方向に向かう上下一対の水平井(とその中に配置するガス回収用特殊管及び生石灰スラリ圧入管)を複数設けて分岐させる場合、移動させる場合の俯瞰図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図1図4に基づいて説明する。
【0017】
図1のごとく、船上にミキシングタンクとガス回収装置を設け、水平井を二本上下に設置する。下位管に生石灰スラリを流してハイドレート層を熱交換により加熱し、上位管にSAGD法で使われる特殊管を配して分離したガスを回収する。
【0018】
ミキシングタンクで水と生石灰を混ぜ、タンク内のブースターポンプでスラリ管に圧入する。海底に達する直前に海水を混入させることにより、海水中のマグネシウムと反応させてスラリの温度を更に上げてからメタンハイドレート層に注入する。(水が送水管などで簡単に入手できない場合はミキシングタンクで海水と反応させる。前述の海底直前で海水と混ぜるのと比べると、スラリがタンクから海底に達するまでの放熱ロスを最小化するためスラリの速度を上げる必要があるのと、ミキシングタンク及び配管の耐熱温度を上げ、海水による防蝕措置を取る必要がある。)
【0019】
分解されたガスはハイドレートの状態と比べて体積が大幅に膨張し、また分解された水は溶解した空洞中の容積を奪うため、空洞中の圧力が高まりガスは回収管を通して自噴する。(図2
【0020】
当初設置した部分のハイドレートが溶解しきって回収率が下がった場合は、周辺は既に空洞になっているので、管の方角をわずかに変え空洞中を移動させることにより、新たなハイドレートを分解する。(図3図4
【0021】
面的に広がりのあるハイドレートを掘削する場合は、水平井(上下管とも)を複数設けて分岐させる。前述の管の移動も俯瞰図に点線で示す。(図4
【0022】
下位管の生石灰スラリがハイドレート層との熱交換により完全に冷えた後、スラリを海底に放出することにより、スラリに含まれる石灰が海水中のCO2を吸着する。スラリのアルカリ性は酸性化した海水を中和するが、アルカリ度によっては生態系への配慮として、放出口を海流の強い場所に設置するか、或いはブースターを付けて拡散させるなど、放出口付近の海水のPHを調整する。
【符号の説明】
【0023】
1.ガス回収装置
2.生石灰スラリミキシングタンク及びブースターポンプ
3.ガス回収用特殊
4.生石灰スラリ圧入管
5.海水ミキシングポンプ(オプション)
6.メタンハイドレート層
7.スラリブースターポンプ(オプション)
8.スラリ放出口
9.溶解空洞
10.水、土砂
11.新規溶解可能ハイドレート
12.洋上設備(船)
13.海面
14.海中
15.海底
図1
図2
図3
図4