(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
La2Ti2O7粒子の結晶性
本発明におけるLa
2Ti
2O
7粒子は、高い結晶性、かつ微細な一次粒子径を両立するという特徴を有する。
【0013】
本発明のLa
2Ti
2O
7粒子における「高い結晶性」とは、結晶中における酸素欠陥量が、従来のLa
2Ti
2O
7粒子に比べて、著しく少ないことを表す。通常、金属酸化物における結晶性が低下する要因の一つとして、酸素欠陥の生成が考えられている。つまり、酸素サイトの欠損部位が多い、すなわち酸素欠陥が多いほど、結晶としての周期性が乱れることで、結晶化度が低下する、つまり結晶性が低下する、ことに至る。
【0014】
本発明における結晶性の評価指標としては、La
2Ti
2O
7粒子からなる粉末の紫外光、可視光、近赤外光領域における拡散反射スペクトル測定により定量評価できる光吸収率A(=1−分光反射率R)によって評価可能となる。金属酸化物、例えば、酸化チタンの中に存在する酸素欠陥は、酸化チタンのバンド構造において、Ti−3d軌道からなる伝導帯の下端から0.75〜1.18eV程度低い電子エネルギーの領域に、酸素欠陥により生成するTi
3+からなるドナー準位を生じ、その吸収スペクトルの形状として、可視光域から近赤外域に渡る幅広い領域でブロードな光吸収帯を持つことが知られている(Cronemeyerら、Phys.Rev.113号、1222〜1225ページ、1959年)。
【0015】
今般、本発明者らは、酸化チタンと同様な遷移金属酸化物であるLa
2Ti
2O
7粒子の拡散反射スペクトルを測定することで、酸化チタンと同様に、可視光から近赤外光領域に渡って、ブロードな光吸収帯が生じることを確認し、この近赤外領域の光吸収率の減少に伴って、焼成温度上昇に伴う結晶性向上を定量化できることを見出した。
【0016】
本発明のLa
2Ti
2O
7粒子の走査型顕微鏡写真を
図1に示す。
【0017】
本発明におけるLa
2Ti
2O
7粒子の光吸収率Aは、以下の方法で測定できる。
本発明のLa
2Ti
2O
7粒子の結晶性の測定方法としては、例えば、積分球ユニットを装着した、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製、“V−670”)を用いて、測定することが可能となる。具体的には、紫外可視近赤外分光光度計に、積分球ユニット(日本分光株式会社製、“ISV−722”)を装着し、ベースライン測定には、アルミナ焼結ペレットを用いる。その上で、微量粉末セル(日本分光株式会社製、“PSH−003”)の窓部(φ5mm)に、充填率が50%以上となるように粉末30mgを詰めた際の拡散反射スペクトルを測定することで、分光反射率Rの測定が可能となる。そして、本発明のLa
2Ti
2O
7粒子は、波長250nmにおける光吸収率A
250(=1−R
250[波長250nmにおける分光反射率])が、0.85〜0.87の範囲になるような条件で、波長800nmにおける光吸収率A
1800(=1−R
1800[波長1800nmにおける分光反射率])が、0.18以下であることを特徴とする。よって、本発明のLa
2Ti
2O
7粒子は、この光吸収率の範囲であることで、高い結晶性を示し、優れた光触媒活性の発現や、窒化処理により、高活性な可視光応答性LaTiO
2N光触媒への変換が可能となる。
【0018】
La2Ti2O7粒子の一次粒子径
さらに、上述のように、本発明のLa
2Ti
2O
7粒子は、微細な一次粒子径を有し、好ましくは、一次粒子径が70nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。また、好ましくは30nm以上、さらに好ましくは35nm以上である。である。これにより、高い比表面積となることで、分解対象物質との接触面積が増加することで、光触媒活性の向上が期待できる。La
2Ti
2O
7粒子における一次粒子径の評価手法としては、例えば、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、“S−4100” 、以下、SEM)により、倍率40000倍で観察した際の結晶粒子50個の円形近似による平均値で定義することが可能である。
【0019】
以上のように、本発明のLa
2Ti
2O
7粒子は、上記の近赤外域での低い光吸収率と、SEMによる微細な一次粒子形状を両立することで、高活性な光触媒粒子、さらには、窒化処理により、高活性な可視光応答性LaTiO
2N粒子への変換が可能となる。
【0020】
La2Ti2O7粒子の構造
さらに、本発明のLa
2Ti
2O
7粒子は、比表面積が大きいものであることが好ましい。
【0021】
本発明においては、La
2Ti
2O
7粒子のR
SP値を指標として用いることで、表面積の大きいLa
2Ti
2O
7粒子又はこれが集合した多孔質度の高い粉体(二次粒子)を示すことが可能となった。
【0022】
R
SP値は粒子表面に吸着した水分子の吸着量に相関する指標であり、水中に分散する粒子が水と接触している表面積に依存する指標である。本発明のLa
2Ti
2O
7粒子は後述するように窒化処理することにより水分解用光触媒として利用することができるため、この粒子は水と接触させて利用されるものである。この場合、水は一次粒子間の間隙あるいは二次粒子内の細孔に拡散し、粒子の表面に水が接触する状態となる。従って、本発明によるLa
2Ti
2O
7粒子を窒化処理し、水分解用光触媒として利用する場合、水が吸着している粒子の表面積をR
SP値を指標として正確に測定可能であることは、比表面積の大きい粒子を得る上で有効である。なお、粒子の比表面積を測定する方法として、従来主流である窒素吸脱着測定を元にしたBET解析が挙げられるが、このBET解析では、プローブとして窒素用いており、窒素の分子直径は小さいため、水が拡散できない細孔表面に窒素が吸着してしまう。従って、BET解析による比表面積測定方法は水が吸着している粒子を対象とする場合有効性に欠ける。
【0023】
R
SP値は以下の式で表される。また、R
SP値は、パルスNMR粒子界面評価装置(例えば、“Acorn area”、日本ルフト製)により測定することが可能である。
R
SP=(R
b−R
av)/R
b
ここで、R
avは、平均緩和時定数である。緩和時定数は、粒子が水に分散している際に表面に接触あるいは吸着している水の緩和時間の逆数である。平均緩和時定数は得られた緩和時定数を平均した値である。
R
bは、粒子が含まれていないブランクの水の緩和時定数である。
【0024】
R
sp値が大きいほど、粒子表面と水の相互作用が大きいことを示す。すなわち、粒子と水が接触している面積が大きく、粒子の比表面積が大きいことを示す。
【0025】
本発明による製造方法により得られるLa
2Ti
2O
7粒子のR
SP値は、0.4以上であることが好ましい。また、R
SP値は、5以下であることが好ましい。
【0026】
La2Ti2O7粒子の製造方法
本発明におけるLa
2Ti
2O
7粒子の製造方法としては、固相反応法、ゾル-ゲル法、錯体重合法、水熱反応法等、各種乾式あるいは湿式反応法が利用可能である。例えば、湿式反応法の1つであるゾルーゲル法による作製方法としては、チタン源として、アルコキシド(チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド)や塩化物(四塩化チタン、三塩化チタン)等を原料とし、ランタン源として、酢酸ランタン、硝酸ランタン、乳酸ランタン、塩化ランタン、ランタンアルコキシド等を原料として、水との加水分解反応によりランタン、チタンを含む水酸化物を生成し、600℃以上の焼成により、La
2Ti
2O
7に結晶化させる方法がある。本発明のLa
2Ti
2O
7粒子の製造方法としては、以下の方法が好ましく利用できる。
【0027】
本発明におけるLa
2Ti
2O
7粒子の製造方法として、ランタンおよびチタンを含む水溶液を用いた熱分解法(水溶液熱分解法)を好ましく用いることが可能である。水溶液熱分解法とは、金属含有前駆体を原料として用い、この金属含有前駆体を含む水溶液を加熱することで、溶媒である水の蒸発に伴い、金属含有前駆体同士の脱水重縮合反応を起こす方法である。水との加水分解反応が速やかに起こるチタン等の金属前駆体(例えば、アルコキシドや塩化物等)を用いるゾル‐ゲル法では、金属含有前駆体同士の加水分解による金属水酸化物の生成と、これらの脱水重縮合が速やかに起こることで、結晶核が粗大化しやすい。これに対して、この水溶液熱分解法では、加水分解反応が緩やかな金属含有前駆体を原料として用いることで、水への安定な溶解が可能となり、この金属含有前駆体を含む水溶液を加熱することで、溶媒である水の蒸発に伴い、金属含有前駆体同士の脱水重縮合反応が緩やかに起こることで、熱分解時の結晶核の生成速度が遅くなり、結果的に結晶核の微細化が可能となる。
【0028】
金属含有前駆体を含む水溶液の調製
本発明における金属含有前駆体を含む水溶液は、ランタン化合物と疎水性錯化剤とチタン化合物を混合し、水に溶解させることで調製することができる。なお、本願の金属含有前駆体とは、ランタン化合物とチタン化合物と疎水性錯化剤とを混合することで形成される錯体のことである。具体的には、チタン化合物が解離して生成するチタンイオンに疎水性錯化剤が配位したチタン含有錯体と、ランタン化合物が水に溶解して形成される水溶性ランタン塩からなる混合物である。以下に、それぞれの錯体の構造に関して、説明する。
【0029】
本発明において、原料としてチタン化合物に、疎水性錯化剤を添加することで、チタンに錯化させることで、加水分解を抑制させることが好ましい。
【0030】
ここで、チタン化合物としては、アルコキシド(チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn‐ブトキシド等)や、塩化物(三塩化チタン、四塩化チタン等)等のTi
4+を含むチタン化合物を好ましく用いることができる。さらに好ましいのは、これらの前駆体の中で最も加水分解速度が遅い、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn‐ブトキシドから選ばれる一つである。
【0031】
また、本発明に用いる疎水性錯化剤としては、チタンイオンに配位でき、さらに好ましくは、チタンイオンに配位した際に溶媒相側に疎水部が露出した構造をもつチタン含有錯体を形成するものが好適に用いられる。例えば、ジケトン類(アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸ブチル)や、カテコール類(アスコルビン酸、ピロカテコール、tert−ブチルカテコール等)を好ましく用いることができる。より好ましくは、チタンイオンへの水溶液中での錯化能が極めて高いアセチルアセトンを用いることができる。これにより、親水部である水酸基が溶媒相側に露出した場合に起こる分子間での脱水重縮合による分子間重合を抑制できるので、熱分解時の結晶核の微細化が達成でき、最終的なLa
2Ti
2O
7の粒子微細化が可能となる。また、チタン化合物の加水分解反応の抑制や水への溶解性を向上させるために、別途、疎水性錯化剤の他に、乳酸、クエン酸、酪酸、リンゴ酸等の水溶性カルボン酸等の親水性錯化剤を添加しても良い。また、チタン化合物の溶解性を向上させるために、水溶性有機溶剤(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、セロソルブ系溶媒、カルビトール系溶剤)を添加しても良い。
【0032】
また、本発明に用いるランタン化合物としては、水に溶解する化合物が好ましい。好ましく用いられるものとして、硝酸ランタン、塩化ランタン、臭化ランタン、酢酸ランタン、乳酸ランタン、クエン酸ランタン、ランタン−酒石酸錯体、ランタン−EDTA錯体等の水溶性ランタン塩あるいはそれらに水和物を含むLa
3+を含むランタン化合物を好ましく用いることができる。
【0033】
本発明のLa
2Ti
2O
7粒子の製造方法において、金属含有前駆体を含む水溶液中に含まれるランタン化合物およびチタン化合物の好ましい量は、金属含有前駆体を含む水溶液100g中にランタン化合物中のランタンのモル量が0.001モル以上0.1モル以下、さらに好ましくは0.001モル以上0.02モル以下である。また、チタン化合物中のチタンのモル量が0.001モル以上0.1モル以下、さらに好ましくは0.001モル以上0.02モル以下である。また、本発明のチタン化合物に錯化のために添加する疎水性錯化剤の添加量としては、チタン化合物に含まれるチタン1モルあたりに、0.5〜2モルを添加することが好ましい。また、疎水性錯化剤とともにチタンに錯化する親水性錯化剤を用いる場合、チタン化合物に含まれるチタン1モルあたりに、0.5〜2モルであることが好ましい。この比率で混合することで、チタンが良好に水溶化し、熱分解後の高結晶性化及び微細化が可能となる。この範囲以外で、疎水性錯化剤および親水性錯化剤を添加した場合、加水分解反応の進行や、分子の疎水性向上による水溶性の低下が起こる恐れがある。
【0034】
金属含有前駆体を含む水溶液への水分散型有機ポリマー粒子の添加
また、本発明のLa
2Ti
2O
7粒子の製造方法においては、得られるLa
2Ti
2O
7粒子同士の凝集度を低減させ、La
2Ti
2O
7粒子からなる粉体における多孔質度や空隙率を向上させるために、ランタンおよびチタンを含む水溶液に、有機ポリマー粒子を添加することが好ましい。これにより得られる金属含有前駆体を含む水溶液に有機ポリマー粒子を添加したものを、以下、分散体とする。この水分散型有機ポリマー粒子としては、球状ラテックス粒子や、水中油滴分散型(O/W型)エマルジョンを用いることが可能である。
【0035】
この水分散型有機ポリマー粒子の添加による、La
2Ti
2O
7粒子からなる粉体における多孔質度の向上のメカニズムは、以下のように予想される。有機ポリマー粒子を添加することで、水中で極性を持つポリマー粒子表面に、同じく極性分子であるチタンイオン(Ti
4+)やランタンイオン(La
3+)に錯化剤が配位した錯体が吸着する。よって、水分散型ポリマーを添加した金属含有前駆体を含む水溶液を乾燥および焼成し結晶化する際、ポリマー表面でのLa
2Ti
2O
7の結晶核が生成することで、La
2Ti
2O
7の結晶核同士の物理的距離が大きくなる。さらに有機ポリマー粒子の熱分解による消失により、加熱結晶化後のLa
2Ti
2O
7粒子の一次粒子径が微細になる。
【0036】
この有機ポリマー粒子の水中での分散粒子径としては、10〜1000nmであり、より好ましくは、30〜300nmであり、この範囲の分散粒子径とすることで、La
2Ti
2O
7の結晶核同士の物理的距離を大きくすることで、加熱結晶化後に、La
2Ti
2O
7粒子を微細化することが可能となる。また、水分散型有機ポリマー粒子の材質としては、La
2Ti
2O
7粒子の可視光の吸収を阻害するのを防ぐために乾燥及び焼成後に残渣が残らないものが好ましい。例えば、スチレン、アクリル、ウレタン、エポキシ等のモノマーユニットが重合されたもの、もしくは複数種類のモノマーユニットを含むものが好適に用いられる。
【0037】
本発明のLa
2Ti
2O
7粒子の製造方法において、前記分散体を含む水溶液から、La
2Ti
2O
7粒子を製造する方法としては、以下の方法が好ましく用いられる。この分散体を200℃以下の低温で乾燥することで、まず乾燥粉体を回収し、これを結晶化する為に焼成することで、La
2Ti
2O
7粒子を製造することが可能である。この乾燥工程の際、溶媒である水の蒸発を速やかに行うため、前駆体水溶液と大気との接触面積が極力大きくなるように、例えば、板状の基材表面に分散体を展開し、そのまま加熱することにより、効率的に乾燥させることができる。この際の展開時の分散体の乾燥時の初期厚みとしては、5mm以下が好ましく、この厚みで展開し、分散体を乾燥させることにより、水分の蒸発を促進し、大きな結晶核が成長せずに、チタンおよびランタンを含む乾燥体を回収することが可能となる。また、この分散体の焼成工程は、乾燥工程と連続的に行っても、乾燥後の固体を焼成することによって行っても良い。La
2Ti
2O
7における結晶化の際の焼成温度は、好ましくは、700℃以上1100℃以下であり、さらに好ましくは700℃以上1000℃以下である。この温度範囲とすることで、有機ポリマー粒子を熱分解しつつ、高純度なLa
2Ti
2O
7粒子を高度に結晶化することが可能となる。
【0038】
LaTiO2Nへの変換方法
本発明における窒化処理によるLa
2Ti
2O
7粒子のLaTiO
2N粒子への変換方法としては、La
2Ti
2O
7粒子からなる粉末をアンモニア気流下で、焼成する方法が好適に用いられる。この際の焼成温度としては、好ましくは、400〜900℃であり、焼成温度をこの範囲とすることで、チタンおよびランタンの還元等が起こらず、結晶構造中に窒素原子を導入することで、良好な結晶性を有するLaTiO
2Nを製造することが可能となる。窒化処理後のLaTiO
2N粒子は、可視光を吸収可能となり、太陽光を広く利用可能な光触媒として機能することが可能となる。
【0039】
光触媒としての利用方法
本発明のLa
2Ti
2O
7粒子、あるいはLa
2Ti
2O
7粒子を窒化処理して得られるLaTiO
2N粒子を光触媒として水の光分解反応に用いる場合、水素及び酸素の発生が速やかに起こるように、助触媒を粒子表面に担持することが好ましい。助触媒としては、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム等の金属粒子や、酸化クロム、酸化ロジウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム等の酸化物粒子や、およびそれを混合させたものを用いることができ、この助触媒の担持により、水の酸化及び還元反応における活性化エネルギーを減少させることが可能となるため、速やかな水素及び酸素の発生が可能となる。
【0040】
誘電体としての利用方法
本発明のLa
2Ti
2O
7粒子、あるいはLa
2Ti
2O
7粒子を窒化処理して得られるLaTiO2N粒子は、高屈折率を有することから、多層膜等の誘電体材料としても利用可能である。
【実施例】
【0041】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例)
La2Ti2O7粒子の作製
20mLサンプル瓶に、疎水性錯化剤であるアセチルアセトン(和光純薬製)0.02mol(2.003g)を添加し、室温で撹拌しながら、チタンテトライソプロポキシド(和光純薬製)0.02mol(5.684g)を添加して、チタン‐アセチルアセトン錯体を含む黄色溶液を作製した。このチタン‐アセチルアセトン錯体を含む黄色溶液を10g分取した溶液に、この溶液中に含まれるチタンと等モルとなるようにランタンを含む、硝酸ランタン・6水和物(和光純薬)0.0034mol(1.477g)と乳酸(和光純薬)0.704gを蒸留水2.523gに溶解させたランタン水溶液のpHをアンモニア水の添加によりpHを3.5に調整後、撹拌させながら徐々に添加することで、チタン及びランタンを溶解させた水溶液を作製した。
さらに、高温結晶化処理後の凝集を抑制するため、前記水溶液に、有機エマルジョンとして、焼成後に得られるLa
2Ti
2O
7に対して、重量比で5倍の固形分となるように、アクリルースチレン系O/W型エマルジョン(DIC製、“EC−905EF”,分散粒子径100〜150nm、pH:7〜9、固形分濃度49〜51%)を添加し、分散体を作製した。
以上のように作製した、分散体10gを、1cm厚のホウケイ酸ガラス板(14cm角)上に平らに展開した後、80℃で1時間乾燥させた。得られた乾燥粉末を乳鉢で解砕した後、600〜1000℃の温度で2時間あるいは10時間焼成し、結晶化させることで、La
2Ti
2O
7粒子からなる粉末を得た。作製した粉末の作製条件については、表1にまとめる。
【0043】
(比較例)
比較例サンプルとして、固相反応法により、水酸化ランタン粉末(信越化学株式会社製)と、ルチル型酸化チタン粉末(添川理化学株式会社製)を、モル比でLa:Ti=1:1となるように秤量後、メノウ製乳鉢で10分手動混練した後、1000℃、10時間焼成して得たLa2Ti2O7粉末を用いた。
【0044】
La2Ti2O7粒子の結晶構造と微細構造
実施例および比較例で作製した粉末のX線回折測定を行った結果、すべてのサンプルが、単相のLa
2Ti
2O
7であることを確認した。次いで、走査型電子顕微鏡による観察から分かった、La
2Ti
2O
7粒子の一次粒子径を表1に示す。具体的には、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、“S−4100” )により、倍率40000倍で観察した際の結晶粒子50個の円形近似による平均値を一次粒子径とした。実施例の一例として、
図1に1000℃で2時間焼成した後の粉末のSEM像を示す。一次粒子径は、50nm以下であり、高温結晶化処理後も、微細化な粒子形状を維持することが分かる。
【0045】
La2Ti2O7粒子の光学特性
実施例および比較例で作製したLa
2Ti
2O
7粒子について、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製、“V−670”)に、積分球ユニット(日本分光株式会社製、“ISV−722”)を装着し、その上で、微量粉末セル(日本分光株式会社製、“PSH−003”)の窓部(φ5mm)に、充填率が50%以上となるように粉末30mgを詰めた際の拡散反射スペクトルを測定し、分光反射率Rおよび光吸収率Aを評価した。ベースライン測定には、アルミナ焼結ペレットを用いた。この際、波長250nmにおける光吸収率A(=1−分光反射率R)は、0.85〜0.87となるように粉末量を合わせた。表1に、800nmにおける光吸収率Aを示す。
実施例1および2では、酸素欠陥量に由来する800nmにおける光吸収率Aは、0.18以下であり、酸素欠陥量が少ないことを示し、かつ一次粒子径で50nm以下の微細な形状を両立することが分かる。
【0046】
La2Ti2O7粒子の構造測定
La
2Ti
2O
7粒子のR
sp値を、パルスNMR粒子界面評価装置(“Acorn area”、日本ルフト製)を用いて室温で測定した。具体的にはまず、実施例4および比較例2で作製したLa
2Ti
2O
7粒子50mgを、0.2%アクリル酸アンモニウムオリゴマー水溶液1gに添加して、20W超音波バスを用いて、2分間超音波照射を行うことで、パルスNMR試料を作製した。次いで、超音波照射直後に、NMRチューブに投入した試料を2つの永久磁石の間のコイル中に配置し、約13MHzの電磁波(RF)パルスでコイルを励起することで生じる磁場によって発生する試料中のプロトンの磁場配向に一時的なシフトが誘導された。この誘導を停止すると、試料中のプロトンは再び静磁場B
0と整列し、この再編成によって、自由誘導減衰(FID)と呼ばれるコイルの電圧低下が生じ、特定のパルス1シーケンス(RFパルスの回数及び間隔の組み合わせ)から、試料のT1(縦緩和時間)とT2(横緩和時間)を測定した。ここで、T2の逆数である緩和時定数を連続5回測定した際の平均値をR
avとした。同様に、バルク水のR
bを別途測定し、以下の式より、R
sp値を求めた。
R
SP=(R
b−R
av)/R
b
得られたR
sp値を表1に示す。
【0047】
【表1】