特許第6016199号(P6016199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6016199-複合金属酸化物粒子およびその製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016199
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】複合金属酸化物粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20161013BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20161013BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20161013BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20161013BHJP
   B01J 23/10 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   C01G23/00 C
   B01J35/02 J
   B01J37/08
   C01B3/04 A
   B01J23/10 M
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-63152(P2014-63152)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-208580(P2014-208580A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2015年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-63919(P2013-63919)
(32)【優先日】2013年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】徳留 弘優
(72)【発明者】
【氏名】奥中 さゆり
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−146406(JP,A)
【文献】 特開2012−188325(JP,A)
【文献】 特開2005−001988(JP,A)
【文献】 米国特許第04734390(US,A)
【文献】 特開2012−187520(JP,A)
【文献】 特開平03−252313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
B01J 21/00−38/74
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子径が70nm以下であり、
拡散反射スペクトルにより測定される波長800nmにおける光吸収率が、0.18以下であることを特徴とする、
LaTi粒子。
【請求項2】
請求項1記載のLaTi粒子からなる、水分解用光触媒。
【請求項3】
請求項1記載のLaTi粒子からなる、誘電体材料。
【請求項4】
請求項1に記載のLaTi粒子の製造方法であって、
チタン前駆体と、ランタン前駆体と、疎水性錯化剤を水に溶解させた金属含有前駆体を含む水溶液に、水分散型有機ポリマー粒子を添加し、乾燥および焼成することを特徴とする、LaTi粒子の製造方法。
【請求項5】
前記水溶液が、親水性錯化剤を含むことを特徴とする、
請求項4に記載のLaTi粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のLaTi粒子の製造方法において、
焼成温度が、700℃以上1100℃以下であることを特徴とする、
LaTi粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のLaTi粒子を、窒化処理することにより得られることを特徴とする、LaTiON粒子の製造方法
【請求項8】
請求項7に記載のLaTiON粒子からなる、水分解用光触媒。
【請求項9】
請求項7に記載のLaTiON粒子からなる、誘電体材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属酸化物の粒子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属を含む複数の金属からなる複合金属酸化物は、紫外光応答型光触媒あるいは誘電体材料として機能する半導体物性を有することが良く知られている。この複合金属酸化物として、LaTiが紫外光応答型光触媒として高い水分解活性を示すことが知られている(非特許文献1)。)
【0003】
また、近年、可視光応答型の光触媒が注目を集めており、この可視光応答型光触媒として、例えば、少なくとも1つの遷移金属を含むオキシナイトライドが知られており、このオキシナイトライドとして、LaTiONが知られている。(特許文献1)。また、このLaTiONはLaTiをアンモニアガス流通下で焼成することで得られることが知られている。(非特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−66333号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Abeら、J.Phys.Chem.B 2219〜2226ページ、2006年
【非特許文献2】Paven−Thievetら、J.Phys.Chem.C 6156〜6162ページ、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のLaTiからなる粒子を、紫外光応答型光触媒として用いる場合、及び部分窒化させてLaTiONに変換させた上で可視光応答型光触媒として用いる場合のいずれの場合においても、光触媒活性の向上には、光触媒の光励起により生じる電子−正孔対の再結合中心となる結晶欠陥を低減するために、LaTi粒子の結晶性向上が必要とされている。ただし、従来のLaTi粒子は、高温での焼成による高結晶化処理の際に粒成長し、100nm以上の一次粒子径となることが知られている。この高結晶化に伴うLaTiの粗大粒子化は、紫外光応答型光触媒として用いる場合や、部分窒化によりLaTiO2Nとして可視光応答型光触媒として用いる場合のいずれにも、比表面積が小さいことから、反応物質との接触面積の低下を引き起こす恐れがあり、水の光分解反応におけるエネルギー変換効率の向上を妨げている可能性がある。
【0007】
また、通常、酸化物粒子において、100nm以下の微細な一次粒子径を有する微粒子の形状を有する場合、高い表面エネルギーを安定化するために、一次粒子同士が数十個単位で集合した、凝集構造を有する二次粒子を形成することとなる。このような凝集構造を有するLaTiあるいはLaTiONを水分解用光触媒として用いる場合、実効的な水と粒子表面の接触面積が小さくなるため、効率的な水分解反応が起こりにくいことが容易に想起されるため、より実効的な水と粒子表面の接触面積が大きい、多孔質構造を有する二次粒子形態が望ましい。
【0008】
そこで、本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高結晶性と一次粒子の微細化を両立させた上、さらに多孔質構造を有する二次粒子形態を有するLaTi粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一次粒子径が70nm以下であり、拡散反射スペクトルにより測定される波長800nmにおける光吸収率が、0.18以下であることを特徴とする、LaTi粒子である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるLaTi粒子によれば、紫外線照射下で高活性な光触媒を提供することができる。さらに、このLaTi粒子を窒化処理することにより、可視光照射下での高い光触媒活性の発現が可能な高結晶性かつ微細なLaTiON粒子への変換が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のLaTi粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
LaTi粒子の結晶性
本発明におけるLaTi粒子は、高い結晶性、かつ微細な一次粒子径を両立するという特徴を有する。
【0013】
本発明のLaTi粒子における「高い結晶性」とは、結晶中における酸素欠陥量が、従来のLaTi粒子に比べて、著しく少ないことを表す。通常、金属酸化物における結晶性が低下する要因の一つとして、酸素欠陥の生成が考えられている。つまり、酸素サイトの欠損部位が多い、すなわち酸素欠陥が多いほど、結晶としての周期性が乱れることで、結晶化度が低下する、つまり結晶性が低下する、ことに至る。
【0014】
本発明における結晶性の評価指標としては、LaTi粒子からなる粉末の紫外光、可視光、近赤外光領域における拡散反射スペクトル測定により定量評価できる光吸収率A(=1−分光反射率R)によって評価可能となる。金属酸化物、例えば、酸化チタンの中に存在する酸素欠陥は、酸化チタンのバンド構造において、Ti−3d軌道からなる伝導帯の下端から0.75〜1.18eV程度低い電子エネルギーの領域に、酸素欠陥により生成するTi3+からなるドナー準位を生じ、その吸収スペクトルの形状として、可視光域から近赤外域に渡る幅広い領域でブロードな光吸収帯を持つことが知られている(Cronemeyerら、Phys.Rev.113号、1222〜1225ページ、1959年)。
【0015】
今般、本発明者らは、酸化チタンと同様な遷移金属酸化物であるLaTi粒子の拡散反射スペクトルを測定することで、酸化チタンと同様に、可視光から近赤外光領域に渡って、ブロードな光吸収帯が生じることを確認し、この近赤外領域の光吸収率の減少に伴って、焼成温度上昇に伴う結晶性向上を定量化できることを見出した。
【0016】
本発明のLaTi粒子の走査型顕微鏡写真を図1に示す。
【0017】
本発明におけるLaTi粒子の光吸収率Aは、以下の方法で測定できる。
本発明のLaTi粒子の結晶性の測定方法としては、例えば、積分球ユニットを装着した、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製、“V−670”)を用いて、測定することが可能となる。具体的には、紫外可視近赤外分光光度計に、積分球ユニット(日本分光株式会社製、“ISV−722”)を装着し、ベースライン測定には、アルミナ焼結ペレットを用いる。その上で、微量粉末セル(日本分光株式会社製、“PSH−003”)の窓部(φ5mm)に、充填率が50%以上となるように粉末30mgを詰めた際の拡散反射スペクトルを測定することで、分光反射率Rの測定が可能となる。そして、本発明のLaTi粒子は、波長250nmにおける光吸収率A250(=1−R250[波長250nmにおける分光反射率])が、0.85〜0.87の範囲になるような条件で、波長800nmにおける光吸収率A1800(=1−R1800[波長1800nmにおける分光反射率])が、0.18以下であることを特徴とする。よって、本発明のLaTi粒子は、この光吸収率の範囲であることで、高い結晶性を示し、優れた光触媒活性の発現や、窒化処理により、高活性な可視光応答性LaTiON光触媒への変換が可能となる。
【0018】
LaTi粒子の一次粒子径
さらに、上述のように、本発明のLaTi粒子は、微細な一次粒子径を有し、好ましくは、一次粒子径が70nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。また、好ましくは30nm以上、さらに好ましくは35nm以上である。である。これにより、高い比表面積となることで、分解対象物質との接触面積が増加することで、光触媒活性の向上が期待できる。LaTi粒子における一次粒子径の評価手法としては、例えば、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、“S−4100” 、以下、SEM)により、倍率40000倍で観察した際の結晶粒子50個の円形近似による平均値で定義することが可能である。
【0019】
以上のように、本発明のLaTi粒子は、上記の近赤外域での低い光吸収率と、SEMによる微細な一次粒子形状を両立することで、高活性な光触媒粒子、さらには、窒化処理により、高活性な可視光応答性LaTiON粒子への変換が可能となる。
【0020】
LaTi粒子の構造
さらに、本発明のLaTi粒子は、比表面積が大きいものであることが好ましい。
【0021】
本発明においては、LaTi粒子のRSP値を指標として用いることで、表面積の大きいLaTi粒子又はこれが集合した多孔質度の高い粉体(二次粒子)を示すことが可能となった。
【0022】
SP値は粒子表面に吸着した水分子の吸着量に相関する指標であり、水中に分散する粒子が水と接触している表面積に依存する指標である。本発明のLaTi粒子は後述するように窒化処理することにより水分解用光触媒として利用することができるため、この粒子は水と接触させて利用されるものである。この場合、水は一次粒子間の間隙あるいは二次粒子内の細孔に拡散し、粒子の表面に水が接触する状態となる。従って、本発明によるLaTi粒子を窒化処理し、水分解用光触媒として利用する場合、水が吸着している粒子の表面積をRSP値を指標として正確に測定可能であることは、比表面積の大きい粒子を得る上で有効である。なお、粒子の比表面積を測定する方法として、従来主流である窒素吸脱着測定を元にしたBET解析が挙げられるが、このBET解析では、プローブとして窒素用いており、窒素の分子直径は小さいため、水が拡散できない細孔表面に窒素が吸着してしまう。従って、BET解析による比表面積測定方法は水が吸着している粒子を対象とする場合有効性に欠ける。
【0023】
SP値は以下の式で表される。また、RSP値は、パルスNMR粒子界面評価装置(例えば、“Acorn area”、日本ルフト製)により測定することが可能である。
SP=(R−Rav)/R
ここで、Ravは、平均緩和時定数である。緩和時定数は、粒子が水に分散している際に表面に接触あるいは吸着している水の緩和時間の逆数である。平均緩和時定数は得られた緩和時定数を平均した値である。
は、粒子が含まれていないブランクの水の緩和時定数である。
【0024】
sp値が大きいほど、粒子表面と水の相互作用が大きいことを示す。すなわち、粒子と水が接触している面積が大きく、粒子の比表面積が大きいことを示す。
【0025】
本発明による製造方法により得られるLaTi粒子のRSP値は、0.4以上であることが好ましい。また、RSP値は、5以下であることが好ましい。
【0026】
LaTi粒子の製造方法
本発明におけるLaTi粒子の製造方法としては、固相反応法、ゾル-ゲル法、錯体重合法、水熱反応法等、各種乾式あるいは湿式反応法が利用可能である。例えば、湿式反応法の1つであるゾルーゲル法による作製方法としては、チタン源として、アルコキシド(チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド)や塩化物(四塩化チタン、三塩化チタン)等を原料とし、ランタン源として、酢酸ランタン、硝酸ランタン、乳酸ランタン、塩化ランタン、ランタンアルコキシド等を原料として、水との加水分解反応によりランタン、チタンを含む水酸化物を生成し、600℃以上の焼成により、LaTiに結晶化させる方法がある。本発明のLaTi粒子の製造方法としては、以下の方法が好ましく利用できる。
【0027】
本発明におけるLaTi粒子の製造方法として、ランタンおよびチタンを含む水溶液を用いた熱分解法(水溶液熱分解法)を好ましく用いることが可能である。水溶液熱分解法とは、金属含有前駆体を原料として用い、この金属含有前駆体を含む水溶液を加熱することで、溶媒である水の蒸発に伴い、金属含有前駆体同士の脱水重縮合反応を起こす方法である。水との加水分解反応が速やかに起こるチタン等の金属前駆体(例えば、アルコキシドや塩化物等)を用いるゾル‐ゲル法では、金属含有前駆体同士の加水分解による金属水酸化物の生成と、これらの脱水重縮合が速やかに起こることで、結晶核が粗大化しやすい。これに対して、この水溶液熱分解法では、加水分解反応が緩やかな金属含有前駆体を原料として用いることで、水への安定な溶解が可能となり、この金属含有前駆体を含む水溶液を加熱することで、溶媒である水の蒸発に伴い、金属含有前駆体同士の脱水重縮合反応が緩やかに起こることで、熱分解時の結晶核の生成速度が遅くなり、結果的に結晶核の微細化が可能となる。
【0028】
金属含有前駆体を含む水溶液の調製
本発明における金属含有前駆体を含む水溶液は、ランタン化合物と疎水性錯化剤とチタン化合物を混合し、水に溶解させることで調製することができる。なお、本願の金属含有前駆体とは、ランタン化合物とチタン化合物と疎水性錯化剤とを混合することで形成される錯体のことである。具体的には、チタン化合物が解離して生成するチタンイオンに疎水性錯化剤が配位したチタン含有錯体と、ランタン化合物が水に溶解して形成される水溶性ランタン塩からなる混合物である。以下に、それぞれの錯体の構造に関して、説明する。
【0029】
本発明において、原料としてチタン化合物に、疎水性錯化剤を添加することで、チタンに錯化させることで、加水分解を抑制させることが好ましい。
【0030】
ここで、チタン化合物としては、アルコキシド(チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn‐ブトキシド等)や、塩化物(三塩化チタン、四塩化チタン等)等のTi4+を含むチタン化合物を好ましく用いることができる。さらに好ましいのは、これらの前駆体の中で最も加水分解速度が遅い、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn‐ブトキシドから選ばれる一つである。
【0031】
また、本発明に用いる疎水性錯化剤としては、チタンイオンに配位でき、さらに好ましくは、チタンイオンに配位した際に溶媒相側に疎水部が露出した構造をもつチタン含有錯体を形成するものが好適に用いられる。例えば、ジケトン類(アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸ブチル)や、カテコール類(アスコルビン酸、ピロカテコール、tert−ブチルカテコール等)を好ましく用いることができる。より好ましくは、チタンイオンへの水溶液中での錯化能が極めて高いアセチルアセトンを用いることができる。これにより、親水部である水酸基が溶媒相側に露出した場合に起こる分子間での脱水重縮合による分子間重合を抑制できるので、熱分解時の結晶核の微細化が達成でき、最終的なLaTiの粒子微細化が可能となる。また、チタン化合物の加水分解反応の抑制や水への溶解性を向上させるために、別途、疎水性錯化剤の他に、乳酸、クエン酸、酪酸、リンゴ酸等の水溶性カルボン酸等の親水性錯化剤を添加しても良い。また、チタン化合物の溶解性を向上させるために、水溶性有機溶剤(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、セロソルブ系溶媒、カルビトール系溶剤)を添加しても良い。
【0032】
また、本発明に用いるランタン化合物としては、水に溶解する化合物が好ましい。好ましく用いられるものとして、硝酸ランタン、塩化ランタン、臭化ランタン、酢酸ランタン、乳酸ランタン、クエン酸ランタン、ランタン−酒石酸錯体、ランタン−EDTA錯体等の水溶性ランタン塩あるいはそれらに水和物を含むLa3+を含むランタン化合物を好ましく用いることができる。
【0033】
本発明のLaTi粒子の製造方法において、金属含有前駆体を含む水溶液中に含まれるランタン化合物およびチタン化合物の好ましい量は、金属含有前駆体を含む水溶液100g中にランタン化合物中のランタンのモル量が0.001モル以上0.1モル以下、さらに好ましくは0.001モル以上0.02モル以下である。また、チタン化合物中のチタンのモル量が0.001モル以上0.1モル以下、さらに好ましくは0.001モル以上0.02モル以下である。また、本発明のチタン化合物に錯化のために添加する疎水性錯化剤の添加量としては、チタン化合物に含まれるチタン1モルあたりに、0.5〜2モルを添加することが好ましい。また、疎水性錯化剤とともにチタンに錯化する親水性錯化剤を用いる場合、チタン化合物に含まれるチタン1モルあたりに、0.5〜2モルであることが好ましい。この比率で混合することで、チタンが良好に水溶化し、熱分解後の高結晶性化及び微細化が可能となる。この範囲以外で、疎水性錯化剤および親水性錯化剤を添加した場合、加水分解反応の進行や、分子の疎水性向上による水溶性の低下が起こる恐れがある。
【0034】
金属含有前駆体を含む水溶液への水分散型有機ポリマー粒子の添加
また、本発明のLaTi粒子の製造方法においては、得られるLaTi粒子同士の凝集度を低減させ、LaTi粒子からなる粉体における多孔質度や空隙率を向上させるために、ランタンおよびチタンを含む水溶液に、有機ポリマー粒子を添加することが好ましい。これにより得られる金属含有前駆体を含む水溶液に有機ポリマー粒子を添加したものを、以下、分散体とする。この水分散型有機ポリマー粒子としては、球状ラテックス粒子や、水中油滴分散型(O/W型)エマルジョンを用いることが可能である。
【0035】
この水分散型有機ポリマー粒子の添加による、LaTi粒子からなる粉体における多孔質度の向上のメカニズムは、以下のように予想される。有機ポリマー粒子を添加することで、水中で極性を持つポリマー粒子表面に、同じく極性分子であるチタンイオン(Ti4+)やランタンイオン(La3+)に錯化剤が配位した錯体が吸着する。よって、水分散型ポリマーを添加した金属含有前駆体を含む水溶液を乾燥および焼成し結晶化する際、ポリマー表面でのLaTiの結晶核が生成することで、LaTiの結晶核同士の物理的距離が大きくなる。さらに有機ポリマー粒子の熱分解による消失により、加熱結晶化後のLaTi粒子の一次粒子径が微細になる。
【0036】
この有機ポリマー粒子の水中での分散粒子径としては、10〜1000nmであり、より好ましくは、30〜300nmであり、この範囲の分散粒子径とすることで、LaTiの結晶核同士の物理的距離を大きくすることで、加熱結晶化後に、LaTi粒子を微細化することが可能となる。また、水分散型有機ポリマー粒子の材質としては、LaTi粒子の可視光の吸収を阻害するのを防ぐために乾燥及び焼成後に残渣が残らないものが好ましい。例えば、スチレン、アクリル、ウレタン、エポキシ等のモノマーユニットが重合されたもの、もしくは複数種類のモノマーユニットを含むものが好適に用いられる。
【0037】
本発明のLaTi粒子の製造方法において、前記分散体を含む水溶液から、LaTi粒子を製造する方法としては、以下の方法が好ましく用いられる。この分散体を200℃以下の低温で乾燥することで、まず乾燥粉体を回収し、これを結晶化する為に焼成することで、LaTi粒子を製造することが可能である。この乾燥工程の際、溶媒である水の蒸発を速やかに行うため、前駆体水溶液と大気との接触面積が極力大きくなるように、例えば、板状の基材表面に分散体を展開し、そのまま加熱することにより、効率的に乾燥させることができる。この際の展開時の分散体の乾燥時の初期厚みとしては、5mm以下が好ましく、この厚みで展開し、分散体を乾燥させることにより、水分の蒸発を促進し、大きな結晶核が成長せずに、チタンおよびランタンを含む乾燥体を回収することが可能となる。また、この分散体の焼成工程は、乾燥工程と連続的に行っても、乾燥後の固体を焼成することによって行っても良い。LaTiにおける結晶化の際の焼成温度は、好ましくは、700℃以上1100℃以下であり、さらに好ましくは700℃以上1000℃以下である。この温度範囲とすることで、有機ポリマー粒子を熱分解しつつ、高純度なLaTi粒子を高度に結晶化することが可能となる。
【0038】
LaTiONへの変換方法
本発明における窒化処理によるLaTi粒子のLaTiON粒子への変換方法としては、LaTi粒子からなる粉末をアンモニア気流下で、焼成する方法が好適に用いられる。この際の焼成温度としては、好ましくは、400〜900℃であり、焼成温度をこの範囲とすることで、チタンおよびランタンの還元等が起こらず、結晶構造中に窒素原子を導入することで、良好な結晶性を有するLaTiONを製造することが可能となる。窒化処理後のLaTiON粒子は、可視光を吸収可能となり、太陽光を広く利用可能な光触媒として機能することが可能となる。
【0039】
光触媒としての利用方法
本発明のLaTi粒子、あるいはLaTi粒子を窒化処理して得られるLaTiON粒子を光触媒として水の光分解反応に用いる場合、水素及び酸素の発生が速やかに起こるように、助触媒を粒子表面に担持することが好ましい。助触媒としては、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム等の金属粒子や、酸化クロム、酸化ロジウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム等の酸化物粒子や、およびそれを混合させたものを用いることができ、この助触媒の担持により、水の酸化及び還元反応における活性化エネルギーを減少させることが可能となるため、速やかな水素及び酸素の発生が可能となる。
【0040】
誘電体としての利用方法
本発明のLaTi粒子、あるいはLaTi粒子を窒化処理して得られるLaTiO2N粒子は、高屈折率を有することから、多層膜等の誘電体材料としても利用可能である。
【実施例】
【0041】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例)
LaTi粒子の作製
20mLサンプル瓶に、疎水性錯化剤であるアセチルアセトン(和光純薬製)0.02mol(2.003g)を添加し、室温で撹拌しながら、チタンテトライソプロポキシド(和光純薬製)0.02mol(5.684g)を添加して、チタン‐アセチルアセトン錯体を含む黄色溶液を作製した。このチタン‐アセチルアセトン錯体を含む黄色溶液を10g分取した溶液に、この溶液中に含まれるチタンと等モルとなるようにランタンを含む、硝酸ランタン・6水和物(和光純薬)0.0034mol(1.477g)と乳酸(和光純薬)0.704gを蒸留水2.523gに溶解させたランタン水溶液のpHをアンモニア水の添加によりpHを3.5に調整後、撹拌させながら徐々に添加することで、チタン及びランタンを溶解させた水溶液を作製した。
さらに、高温結晶化処理後の凝集を抑制するため、前記水溶液に、有機エマルジョンとして、焼成後に得られるLaTiに対して、重量比で5倍の固形分となるように、アクリルースチレン系O/W型エマルジョン(DIC製、“EC−905EF”,分散粒子径100〜150nm、pH:7〜9、固形分濃度49〜51%)を添加し、分散体を作製した。
以上のように作製した、分散体10gを、1cm厚のホウケイ酸ガラス板(14cm角)上に平らに展開した後、80℃で1時間乾燥させた。得られた乾燥粉末を乳鉢で解砕した後、600〜1000℃の温度で2時間あるいは10時間焼成し、結晶化させることで、LaTi粒子からなる粉末を得た。作製した粉末の作製条件については、表1にまとめる。
【0043】
(比較例)
比較例サンプルとして、固相反応法により、水酸化ランタン粉末(信越化学株式会社製)と、ルチル型酸化チタン粉末(添川理化学株式会社製)を、モル比でLa:Ti=1:1となるように秤量後、メノウ製乳鉢で10分手動混練した後、1000℃、10時間焼成して得たLa2Ti2O7粉末を用いた。
【0044】
LaTi粒子の結晶構造と微細構造
実施例および比較例で作製した粉末のX線回折測定を行った結果、すべてのサンプルが、単相のLaTiであることを確認した。次いで、走査型電子顕微鏡による観察から分かった、LaTi粒子の一次粒子径を表1に示す。具体的には、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、“S−4100” )により、倍率40000倍で観察した際の結晶粒子50個の円形近似による平均値を一次粒子径とした。実施例の一例として、図1に1000℃で2時間焼成した後の粉末のSEM像を示す。一次粒子径は、50nm以下であり、高温結晶化処理後も、微細化な粒子形状を維持することが分かる。
【0045】
LaTi粒子の光学特性
実施例および比較例で作製したLaTi粒子について、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製、“V−670”)に、積分球ユニット(日本分光株式会社製、“ISV−722”)を装着し、その上で、微量粉末セル(日本分光株式会社製、“PSH−003”)の窓部(φ5mm)に、充填率が50%以上となるように粉末30mgを詰めた際の拡散反射スペクトルを測定し、分光反射率Rおよび光吸収率Aを評価した。ベースライン測定には、アルミナ焼結ペレットを用いた。この際、波長250nmにおける光吸収率A(=1−分光反射率R)は、0.85〜0.87となるように粉末量を合わせた。表1に、800nmにおける光吸収率Aを示す。
実施例1および2では、酸素欠陥量に由来する800nmにおける光吸収率Aは、0.18以下であり、酸素欠陥量が少ないことを示し、かつ一次粒子径で50nm以下の微細な形状を両立することが分かる。
【0046】
LaTi粒子の構造測定
LaTi粒子のRsp値を、パルスNMR粒子界面評価装置(“Acorn area”、日本ルフト製)を用いて室温で測定した。具体的にはまず、実施例4および比較例2で作製したLaTi粒子50mgを、0.2%アクリル酸アンモニウムオリゴマー水溶液1gに添加して、20W超音波バスを用いて、2分間超音波照射を行うことで、パルスNMR試料を作製した。次いで、超音波照射直後に、NMRチューブに投入した試料を2つの永久磁石の間のコイル中に配置し、約13MHzの電磁波(RF)パルスでコイルを励起することで生じる磁場によって発生する試料中のプロトンの磁場配向に一時的なシフトが誘導された。この誘導を停止すると、試料中のプロトンは再び静磁場Bと整列し、この再編成によって、自由誘導減衰(FID)と呼ばれるコイルの電圧低下が生じ、特定のパルス1シーケンス(RFパルスの回数及び間隔の組み合わせ)から、試料のT1(縦緩和時間)とT2(横緩和時間)を測定した。ここで、T2の逆数である緩和時定数を連続5回測定した際の平均値をRavとした。同様に、バルク水のRを別途測定し、以下の式より、Rsp値を求めた。
SP=(R−Rav)/R
得られたRsp値を表1に示す。
【0047】
【表1】


図1