【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
<表面被覆窒化硼素焼結体工具の製造>
図1は、実施例における表面被覆窒化硼素焼結体工具の構成の一例を示す断面図である。
図2は、実施例における表面被覆窒化硼素焼結体工具の要部の構成の一例を示す断面図である。
【0050】
<試料1の製造>
<cBN焼結体Aの形成>
まず、原子比でTi:N=1:0.6となるように、平均粒子径が1μmのTiN粉末と平均粒子径が3μmのTi粉末とを混合した。得られた混合物を真空中で1200℃で30分間、熱処理してから、粉砕した。これにより、TiN
0.6からなる金属間化合物粉末を得た。
【0051】
次に、質量比でTiN
0.6:Al=90:10となるように、TiN
0.6からなる金属間化合物粉末と平均粒子径が4μmのAl粉末とを混合した。得られた混合物を真空中で1000℃で30分間、熱処理した。熱処理により得られた化合物を、直径が6mmの超硬合金製ボールメディアを用いて、ボールミル粉砕法により均一に粉砕した。これにより、結合相の原料粉末を得た。
【0052】
続いて、cBN焼結体におけるcBNの含有率が30体積%となるように平均粒径が1.5μmのcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合し、直径が3mmの窒化硼素製ボールメディアを用いてボールミル混合法により均一に混合した。得られた混合粉末を超硬合金製支持板に積層してからMo製カプセルに充填した。そののち、超高圧装置を用いて、圧力5.5GPaで温度1300℃で30分間焼結した。これにより、cBN焼結体Aを得た。
【0053】
<基材の形成>
形状がISO規格のDNGA150408であり、超硬合金材料(K10相当)からなる基材本体を準備した。準備した基材本体の刃先(コーナ部分)に上記cBN焼結体A(形状:頂角が55°であり当該頂角を挟む両辺がそれぞれ2mmである二等辺三角形を底面とし、厚さが2mmの三角柱状のもの)を接合した。接合には、Ti−Zr−Cuからなる口ウ材を用いた。接合体の外周面、上面および下面を研削し、刃先にネガランド形状(ネガランド幅が150μmであり、ネガランド角が25°)を形成した。このようにして、切れ刃部分がcBN焼結体Aからなる基材3を得た。
【0054】
得られた基材3を成膜装置内に入れて真空引きを行ない、500℃に加熱してからArイオンによりエッチングを行なった。そののち、成膜装置内からArガスを排気した。
【0055】
<被覆層の形成>
<D層の形成>
上記成膜装置内でD層20を基材3上に形成した。具体的には、以下に示す条件で、厚さが0.5μmであるD層を蒸着により形成した。
ターゲット:Alを70原子%、Crを30原子%含む
導入ガス:N
2
成膜圧力:4Pa
アーク放電電流:120A
基板バイアス電圧:−50V
テーブル回転速度:5rpm。
【0056】
<B層の形成>
上記成膜装置内でB層30をD層20上に形成した。具体的には、以下に示す条件で、全体の厚さが0.03μmであるB層30を蒸着により形成した。このとき、B1化合物層31の厚さが7nmとなるように、且つ、B2化合物層32の厚さが10nmとなるように、ターゲットB1、B2のアーク電流と基材をセットした回転テーブルの回転速度とを調整した。
ターゲットB1:Tiを75原子%、Siを15原子%、Crを10原子%含む
ターゲットB2:Alを60原子%、Crを10原子%、Tiを30原子%含む
導入ガス:N
2
成膜圧力:1Pa
基板バイアス電圧:−50V。
【0057】
<C層の形成>
上記成膜装置内でC層40をB層30上に形成した。具体的には、以下に示す条件で、厚さが0.1μmであるC層40を蒸着により形成した。
ターゲット:Tiを50原子%、Alを50原子%含む
導入ガス:N
2
成膜圧力:0.1Pa
アーク放電電流:150A
基板バイアス電圧:−100V
テーブル回転速度:5rpm。
【0058】
<A層の形成>
上記成膜装置内でA層50をC層40上に形成した。具体的には、以下に示す条件で、厚さが2μmであるA層を蒸着により形成した。
ターゲット:Tiを50原子%、Alを50原子%含む
導入ガス:N
2
成膜圧力:4Pa
アーク放電電流:120A
基板バイアス電圧:−600V
テーブル回転速度:5rpm。
【0059】
このようにして、基材3の上には、D層20とB層30とC層40とA層50とが順に積層されてなる被覆層10が形成され、よって、試料1が製造された。
【0060】
<試料2〜6の製造>
B1化合物層およびB2化合物層の層数を表2に示す数値に変更してB層の全体の厚さを変更したことを除いては上記試料1の製造方法にしたがって、試料2〜6を製造した。なお、表2における層数には、B1化合物層の層数とB2化合物層の層数との合計を記している。
【0061】
<試料7の製造>
cBN焼結体におけるcBNの含有率が表3に示す数値となるようにcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Aの形成方法にしたがって、cBN焼結体Dを得た。得られたcBN焼結体Dを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料7の基材を形成した。
【0062】
次に、上記試料1の製造方法にしたがって、D層およびB層を順に形成した。そののち、成膜圧力を以下に示すように変更したことを除いては上記試料1のC層の形成方法にしたがって、C層を形成した。つまり、成膜圧力を、C層の形成開始時にはN
2を導入して3Paとし、その後、徐々に下げ0.1Paまで下げてから、再び3Paまで徐々に上げた。
【0063】
続いて、成膜圧力と導入ガスとを以下に示すように変更したことを除いては上記試料1のA層の形成方法にしたがって、A層を形成した。つまり、A層の形成開始時からA層の厚さが0.9μmとなるまでの間は、N
2のみを導入して成膜圧力を3Paとした。そののち、CH
4を徐々に増やしながらN
2を徐々に減らして、A層をさらに0.3μm形成した。このとき、組成がTiC
0.5N
0.5となるまで、CH
4を徐々に増やしながらN
2を徐々に減らした。そののち、CH
4およびN
2のそれぞれの供給量を変更することなくA層をさらに0.3μm形成した。このようにして試料7を製造した。
【0064】
なお、試料7を製造するさい、表1〜表2に示す組成からなる層が得られるように、ターゲットを調製し、導入ガスの種類およびその供給量を調整した。導入ガスとしては、Ar、N
2またはCH
4などを適宜用いた。成膜圧力を0.1Pa〜7Paの範囲内で適宜、調整し、アーク放電電流を60A〜200Aの範囲内で適宜、調整し、基板バイアス電圧を−25V〜−700Vの範囲内で適宜、調整した。以下に示す試料8〜55においても同様とした。
【0065】
<試料8〜13の製造>
B1化合物層の厚さおよびB2化合物層の厚さがそれぞれ表2に示す数値であるB層を形成したことを除いては上記試料7の製造方法にしたがって、試料8〜13を製造した。
【0066】
<試料14の製造>
cBN焼結体におけるcBNの含有率が表3に示す数値となるようにcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Aの形成方法にしたがって、cBN焼結体Bを得た。得られたcBN焼結体Bを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料14の基材を形成した。
【0067】
次に、上記試料1の製造方法にしたがってD層を形成した。そののち、表2に示すB1化合物層の厚さとB2化合物層の厚さとの比となるように、ターゲットB1のアーク電流とターゲットB2のアーク電流とを変化させてB層を形成した。具体的には、ターゲットB1のアーク電流を一定の割合で徐々に増加させ、ターゲットB2のアーク電流を一定の割合で徐々に減少させた。そののち、C層を形成することなくB層上にA層を形成した。具体的には、導入ガスとしてN
2だけでなくCH
4も用いたことを除いては上記試料1のA層の形成方法にしたがって、A層を形成した。このとき、CH
4およびN
2のそれぞれの供給量を調整して、TiC
0.3N
0.7からなるA層を形成した。このようにして試料14を製造した。
【0068】
<試料15〜19の製造>
A層の形成時の導入ガスを変更したことを除いては上記試料14の製造方法にしたがって、試料15〜19を製造した。たとえば試料15のA層は以下のようにして形成された。つまり、A層の形成開始時からA層の厚さが1.6μmとなるまでの間は、N
2のみを導入して成膜圧力を3Paとした。そののち、CH
4を徐々に増やしながらN
2を徐々に減らして、A層をさらに0.3μm形成した。このとき、組成がTiC
0.3N
0.7となるまで、CH
4を徐々に増やしながらN
2を徐々に減らした。そののち、CH
4およびN
2のそれぞれの供給量を変更することなくA層をさらに0.1μm形成した。そののち、CH
4の供給を停止し、N
2の供給量を増加して、A層をさらに0.5μm形成した。
【0069】
<試料20〜25の製造>
cBN焼結体におけるcBNの含有率が表3に示す数値となるようにcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Aの形成方法にしたがって、cBN焼結体Cを得た。得られたcBN焼結体Cを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料20〜25の基材を形成した。
【0070】
次に、上記試料1、14の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。これにより、試料20〜25を製造した。
【0071】
<試料26の製造>
cBN焼結体におけるcBNの含有率が表3に示す数値となるようにcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Aの形成方法にしたがって、cBN焼結体Eを得た。得られたcBN焼結体Eを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料26の基材を形成した。
【0072】
次に、上記試料1の製造方法にしたがって、D層およびB層を順に形成した。そののち、以下に示す条件でC層を蒸着により形成してから、上記試料14の製造方法にしたがってA層を形成した。これにより、試料26を製造した。
ターゲット:Tiを80原子%、Crを10原子%、Wを10原子%含む。
導入ガス:Ar
成膜圧力:4Pa
アーク放電電流:150A
基板バイアス電圧:−30V。
【0073】
<試料27〜32の製造>
ArとN
2とを導入して表1に示す組成からなるC層を形成したことを除いては上記試料26の製造方法にしたがって、試料27〜32を製造した。
【0074】
<試料33〜38の製造>
平均粒径が0.5μmのcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Dの形成方法にしたがって、cBN焼結体Fを得た。得られたcBN焼結体Fを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料33〜38の基材を形成した。
【0075】
次に、上記試料1、7の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。これにより、試料33〜38を製造した。
【0076】
<試料39〜44の製造>
平均粒径が3μmのcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Dの形成方法にしたがって、cBN焼結体Gを得た。得られたcBN焼結体Gを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料39〜44の基材を形成した。
【0077】
次に、上記試料1、7の製造方法にしたがって、D層、B層およびA層を順に形成した。これにより、試料39〜44を製造した。
【0078】
<試料45〜51の製造>
表1に示すcBN焼結体を用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料45〜51の基材を形成した。次に、上記試料1、7の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。これにより、試料45〜51を製造した。
【0079】
<試料52の製造>
まず、原子比でTi:C:N=1:0.3:0.3となるように、平均粒子径が1μmのTiCN粉末と平均粒子径が3μmのTi粉末とを混合した。得られた混合物を真空中で1200℃で30分間、熱処理してから、粉砕した。これにより、TiC
0.3N
0.3からなる金属間化合物粉末を得た。
【0080】
次に、質量比でTiC
0.3N
0.3:Al=90:10となるように、TiC
0.3N
0.3からなる金属間化合物粉末と平均粒子径が4μmのAl粉末とを混合した。得られた混合物を真空中で1000℃で30分間、熱処理した。熱処理により得られた化合物を、直径が6mmの超硬合金製ボールメディアを用いて、ボールミル粉砕法により均一に粉砕した。これにより、結合相の原料粉末を得た。そののちは、上記cBN焼結体Dの形成方法にしたがって、cBN焼結体Hを得た。得られたcBN焼結体Hを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料52の基材を形成した。
【0081】
続いて、試料45〜51の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。これにより、試料52を製造した。
【0082】
<試料53の製造>
まず、原子比でTi:C=1:0.6となるように、平均粒子径が1μmのTiC粉末と平均粒子径が3μmのTi粉末とを混合した。得られた混合物を真空中で1200℃で30分間、熱処理してから、粉砕した。これにより、TiC
0.6からなる金属間化合物粉末を得た。
【0083】
次に、質量比でTiC
0.6:Al=90:10となるように、TiC
0.6からなる金属間化合物粉末と平均粒子径が4μmのAl粉末とを混合した。得られた混合物を真空中で1000℃で30分間、熱処理した。熱処理により得られた化合物を、直径が6mmの超硬合金製ボールメディアを用いて、ボールミル粉砕法により均一に粉砕した。これにより、結合相の原料粉末を得た。そののちは、上記cBN焼結体Dの形成方法にしたがって、cBN焼結体Iを得た。得られたcBN焼結体Iを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料53の基材を形成した。
【0084】
続いて、試料45〜51の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。これにより、試料53を製造した。
【0085】
<試料54の製造>
B層、C層およびD層を形成しなかったことを除いては上記試料1の製造方法にしたがって、試料54を製造した。
【0086】
<試料55の製造>
A層およびC層を形成しなかったことを除いては上記試料1の製造方法にしたがって、試料55を製造した。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
表1におけるTiCN
*01〜TiCN
*08については、表4に示すとおりである。表1におけるTiN
*11については、表5に示すとおりである。
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
<逃げ面摩耗量VBおよび面粗度Rzの測定>
製造された試料1〜55を用いて、以下に示す切削条件にしたがって切削加工(切削距離:4km)を行った。そののち、光学顕微鏡を用いて逃げ面摩耗量VBを測定し、JIS規格にしたがって被削材表面の面粗度Rzを測定した。逃げ面摩耗量VBの測定結果を表6の「VB(mm)」の欄に示し、被削材表面の面粗度Rzの測定結果を表6の「Rz(μm)」の欄に示す。VBが小さいほど、表面被覆窒化硼素焼結体工具は耐逃げ面摩耗性に優れる。Rzが小さいほど、表面被覆窒化硼素焼結体工具は耐境界摩耗性に優れる。本実施例では、Rzが3μm以下であれば良好であるとしている。
【0094】
(切削条件)
被削材:高硬度鋼(SCM415H/HRC60)
切削速度:200m/min
送り:f=0.1mm/rev
切り込み:ap=0.1mm
切削油:エマルジョン(日本フルードシステム学会製造の商品名「システムカット96」)を20倍希釈したもの(wet状態)。
【0095】
<工具寿命の測定>
製造された試料1〜55を用いて、上記切削条件にしたがって切削加工を行った。具体的には、一定の切削間隔だけ切削加工を行った後に表面粗さ計を用いて被削材の面粗度Rzを測定するということを繰り返し行った。被削材の面粗度Rzが3.2μmを超えると、切削加工を停止し、そのときの切削距離{(一定の切削間隔)×(被削材の面粗度Rzが3.2μmを超えたときの切削回数n)}を求めた。また、被削材の面粗度Rzが3.2μmを超える直前の切削距離{(一定の切削間隔)×(n−1)}も求めた。そして、被削材の面粗度Rzが3.2μmを超えたときの被削材の面粗度Rzの具体的な数値およびそのときの切削距離と、被削材の面粗度Rzが3.2μmを超える直前の被削材の面粗度Rzの具体的な数値およびそのときの切削距離とを用い、切削距離と被削材の面粗度Rzとの関係を直線で近似して、被削材の面粗度Rzが3.2μmとなった時点の切削距離を求めた。その結果を表6の「切削距離」の欄に示す。切削距離が長いほど、表面被覆窒化硼素焼結体工具は耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れる。本実施例では、切削距離が8km以上であれば良好であるとしている。
【0096】
<結果と考察>
【0097】
【表6】
【0098】
試料2〜5、8〜12、14〜19、21〜24、26〜38、40〜43および45〜53では、VBが小さく、Rzが3μm以下であり、切削距離は8km以上であった。よって、これらの試料は耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れることが分かった。
【0099】
一方、試料1、6、7、13、20、25、39、44、54および55では、Rzが3μmよりも大きく、切削距離は3〜4km程度であった。よって、これらの試料は耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れないことが分かった。
【0100】
<試料3、10、54、55>
まず、試料10と試料55とについて考察する。B層の組成、D層の組成、D層の厚さおよび被覆層の厚さは、試料10と試料55とで互いに酷似しているが、A層は、試料10では設けられているのに対して試料55では設けられていない。そして、試料10では、Rzは2.5μm以下であり切削距離は12km以上であったのに対して、試料55では、VBは試料10の2倍程度でありRzは3μmよりも大きく切削距離は4km程度であった。
【0101】
次に、試料3と試料54とについて考察する。A層の組成およびA層の厚さは、試料3と試料54とで互いに酷似しているが、B層は、試料3では設けられているのに対して試料54では設けられていない。そして、試料3では、Rzは2.5μm程度であり切削距離は10km以上であったのに対して、試料55では、Rzは3μmよりも大きく切削距離は4km程度であった。
【0102】
以上のことから、A層およびB層のどちらか一方を備えていない表面被覆窒化硼素焼結体工具は、耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れないことがわかった。しかしながら、A層およびB層の両方を備える表面被覆窒化硼素焼結体工具は、驚くべきことに、耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性のすべてに優れることがわかった。これは、本発明者らによって初めて見出されたことである。
【0103】
<試料1〜6>
試料1〜6では、B1化合物層およびB2化合物層のそれぞれの層数が互いに異なるので、B層の厚さが互いに異なる。試料1、6では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は4km程度であった。一方、試料2〜5では、Rzは2.5μm程度であり、切削距離は8km以上であった。B層全体の厚さが0.05μm以上5μm以下であれば、被削材の面粗度を表面被覆窒化硼素焼結体工具の寿命判定基準とする高精度加工において工具性能が高まることが分かった。
【0104】
また、試料3、4では、Rzは2.5μm程度であり、切削距離は9.5km以上であった。よって、B層全体の厚さは、0.1μm以上5μm以下であることが好ましく、0.5μm以上2μm以下であることがより好ましいということも分かった。
【0105】
<試料7〜13>
試料7〜13では、B1化合物層の厚さおよびB2化合物層の厚さのそれぞれが互いに異なる。試料7では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3.5km程度であった。試料8〜12では、B1化合物層の厚さおよびB2化合物層の厚さのそれぞれが大きくなるにつれて、Rzは小さくなり、切削距離は長くなった。しかし、B1化合物層の厚さおよびB2化合物層の厚さのそれぞれがさらに大きくなると、Rzは徐々に大きくなり、切削距離は徐々に短くなった。具体的には、Rzは試料10において最低であり、切削距離は試料10において最長であった。これらのことから、B1化合物層の厚さおよびB2化合物層の厚さには好ましい上限値があることが分かった。そして、試料13では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3.5kmであった。以上より、B1化合物層の厚さおよびB2化合物層の厚さのそれぞれが0.5nm以上30nm未満であれば、被削材の面粗度を表面被覆窒化硼素焼結体工具の寿命判定基準とする高精度加工において工具性能が高まることが分かった。
【0106】
また、試料9〜12では、Rzは2.5μm以下であり、切削距離は10km以上であった。また、試料9〜11では、Rzはさらに小さく、切削距離は11km以上であった。これらのことから、B1化合物層の厚さおよびB2化合物層の厚さのそれぞれは、1nm以上28nm以下であることが好ましく、1nm以上15nm以下であることがより好ましく、3nm以上10nm以下であることがさらに好ましいということも分かった。
【0107】
<試料14〜19>
試料14〜19では、A層の組成が互いに異なるが、Rzは3μm以下であり、切削距離は9km以上であった。これらのことから、試料14〜19は、耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れていることが分かった。
【0108】
<試料20〜25>
試料20〜25では、B1化合物層の組成が互いに異なる。試料20、25では、Rzは3.5μm以上であり、切削距離は3km程度であった。一方、試料21〜24では、Rzは3μm以下であり、切削距離は8km以上であった。これらのことから、B1化合物層のSi組成が0.01以上0.25以下であれば、被削材の面粗度を表面被覆窒化硼素焼結体工具の寿命判定基準とする高精度加工において工具性能が高まることがわかった。
【0109】
また、試料21〜23では、Rzは2.5μm以下であり、切削距離は10km以上であった。試料22、23では、Rzはさらに小さく、切削距離は12km以上であった。よって、Si組成は、0.01以上0.2以下であることが好ましく、0.05以上0.15以下であることがより好ましいことも分かった。
【0110】
<試料26〜32>
試料26〜32では、C層のNの組成が互いに異なるが、Rzは3μm以下であり、切削距離は8km以上であった。また、試料28〜31では、Rzは2.5μm以下であり、切削距離は10km以上であった。これらのことから、C層のNの組成は0以上0.85以下であることが好ましく、0よりも大きく0.7よりも小さいことがより好ましく、0.2以上0.5以下であることがさらに好ましいということが分かった。
【0111】
<試料33〜38>
試料33〜38では、C層の厚さが互いに異なるが、Rzは3μm以下であり、切削距離は8km以上であった。また、試料34〜36では、Rzは2.5μm以下であり、切削距離は11km以上であった。これらのことから、C層の厚さは、0μm以上1μm以下であることが好ましく、0.005μm以上0.5μm以下であることがより好ましく、0.01μm以上0.2μm以下であることがさらに好ましいということが分かった。
【0112】
<試料39〜44>
試料39〜44では、B2化合物層のAl組成が互いに異なる。試料39、44では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3〜4km程度であった。一方、試料40〜43では、Rzは2.6μm以下であり、切削距離は9km以上であった。これらのことから、B2化合物層のAl組成が0.23以上0.8以下であれば、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まるということが分かった。
【0113】
また、試料41〜43では、Rzは2.4μm以下であり、切削距離は11km以上であった。よって、B2化合物層のAl組成は、0.5以上0.75以下であることが好ましく、0.6以上0.75以下であることがより好ましいことも分かった。
【0114】
<試料45〜53>
試料45〜53では、cBN焼結体の組成が互いに異なるが、VBはそれほど大きくなく、Rzは3μm以下であり、切削距離は8km以上であった。また、試料47〜53では、Rzは2.5μm以下であり、切削距離は10km以上であった。これらのことから、cBN焼結体におけるcBNの体積含有率は、30体積%以上85体積%以下であることが好ましく、50体積%以上65体積%以下であることがより好ましいことがわかった。
【0115】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。