【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<表面被覆窒化硼素焼結体工具の製造>
図1は、実施例における表面被覆窒化硼素焼結体工具の構成の一例を示す断面図である。
図2は、実施例における表面被覆窒化硼素焼結体工具の要部の構成の一例を示す断面図である。
【0052】
<試料1の製造>
<cBN焼結体Aの形成>
まず、原子比でTi:N=1:0.6となるように、平均粒子径が1μmのTiN粉末と平均粒子径が3μmのTi粉末とを混合した。得られた混合物を真空中で1200℃で30分間、熱処理してから、粉砕した。これにより、TiN
0.6からなる金属間化合物粉末を得た。
【0053】
次に、質量比でTiN
0.6:Al=90:10となるように、TiN
0.6からなる金属間化合物粉末と平均粒子径が4μmのAl粉末とを混合した。得られた混合物を真空中で1000℃で30分間、熱処理した。熱処理により得られた化合物を、直径が6mmの超硬合金製ボールメディアを用いて、ボールミル粉砕法により均一に粉砕した。これにより、結合相の原料粉末を得た。
【0054】
続いて、cBN焼結体におけるcBNの含有率が30体積%となるように平均粒径が1.5μmのcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合し、直径が3mmの窒化硼素製ボールメディアを用いてボールミル混合法により均一に混合した。得られた混合粉末を超硬合金製支持板に積層してからMo製カプセルに充填した。そののち、超高圧装置を用いて、圧力5.5GPaで温度1300℃で30分間焼結した。これにより、cBN焼結体Aを得た。
【0055】
<基材の形成>
形状がISO規格のDNGA150408であり、超硬合金材料(K10相当)からなる基材本体を準備した。準備した基材本体の刃先(コーナ部分)に上記cBN焼結体A(形状:頂角が55°であり当該頂角を挟む両辺がそれぞれ2mmである二等辺三角形を底面とし、厚さが2mmの三角柱状のもの)を接合した。接合には、Ti−Zr−Cuからなる口ウ材を用いた。接合体の外周面、上面および下面を研削し、刃先にネガランド形状(ネガランド幅が150μmであり、ネガランド角が25°)を形成した。このようにして、切れ刃部分がcBN焼結体Aからなる基材3を得た。
【0056】
得られた基材3を成膜装置内に入れて真空引きを行なった。そののち、500℃に加熱してからArガスを導入し(圧力1Pa)、基材3にバイアス電圧(−500V)をかけて、Arイオンによりエッチングを行なった。そののち、成膜装置内からArガスを排気した。
【0057】
<被覆層の形成>
<D層の形成>
上記成膜装置内でD層20を基材3上に形成した。具体的には、以下に示す条件で、厚さが0.5μmであるD層を蒸着により形成した。
ターゲット:Alを66原子%、Crを34原子%含む
導入ガス:N
2
成膜圧力:5Pa
アーク放電電流:150A
基板バイアス電圧:−35V
テーブル回転速度:3rpm。
【0058】
<B層の形成>
上記成膜装置内でB層30をD層20上に形成した。具体的には、まず、以下に示す条件で、全体の厚さが35nmであるB1薄膜層31を蒸着により形成した。
ターゲットB1:Tiを90原子%、Siを10原子%含む
導入ガス:N
2
成膜圧力:3Pa
アーク放電電流:150A
基板バイアス電圧:−40V
テーブル回転速度:4rpm。
【0059】
次に、以下に示す条件で、全体の厚さが165nmであるB2薄膜層32を蒸着により形成した。このとき、B2a化合物層32Aの厚さが2.5nmとなるように、且つ、B2b化合物層32Bの厚さが3nmとなるように、ターゲットB2a、B2bのアーク電流と基材をセットした回転テーブルの回転速度とを調整した。
ターゲットB2a:Tiを90原子%、Siを10原子%含む
ターゲットB2b:Alを66原子%、Crを34原子%含む
導入ガス:N
2
成膜圧力:3Pa
基板バイアス電圧:−50V。
【0060】
そして、B1薄膜層31とB2薄膜層32とを交互に積層し、それぞれを5層ずつ形成した。このようにして、全体の厚さが1μmであるB層30を形成した。
【0061】
<A層の形成>
上記成膜装置内でA層50をC層40上に形成した。具体的には、以下に示す条件で、厚さが0.1μmであるA層を蒸着により形成した。
ターゲット:Ti
導入ガス:N
2、CH
4(形成する膜が原子比でC:N=1:4となるように流量を調整)
成膜圧力:1Pa
アーク放電電流:160A
基板バイアス電圧:−400V
テーブル回転速度:3rpm。
【0062】
このようにして、基材3の上には、D層20とB層30とA層50とが順に積層されてなる被覆層10が形成され、よって、試料1が製造された。
【0063】
<試料2〜7の製造>
A層の厚さを表1に示す数値となるように変更したことを除いては上記試料1の製造方法にしたがって、試料2〜7を製造した。
【0064】
<試料8の製造>
cBN焼結体におけるcBNの含有率が表3に示す数値となるようにcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Aの形成方法にしたがって、cBN焼結体Dを得た。得られたcBN焼結体Dを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料8の基材を形成した。
【0065】
次に、以下に示す条件で、厚さが0.02μmであるD層を蒸着により形成した。
ターゲット:Alを60原子%、Crを40原子%含む
導入ガス:N
2
成膜圧力:0.7Pa
アーク放電電流:130A
基板バイアス電圧:−35V
テーブル回転速度:3rpm。
【0066】
続いて、上記試料1の製造方法にしたがってB層を形成した。このとき、B2a化合物層およびB2b化合物層のそれぞれの厚さが1.5nmとなるようにターゲットB2a、B2bのアーク電流と基材をセットした回転テーブルの回転速度とを調整し、全体の厚さが12nmであるB2薄膜層を蒸着により形成した。
【0067】
続いて、以下に示す条件で、形成する膜の組成がTiC
0.4N
0.6となるようにN
2の流量とCH
4の流量とを調整し、厚さが0.1μmであるA層を蒸着により形成した。このようにして試料8を製造した。
ターゲット:Ti
導入ガス:N
2、CH
4
成膜圧力:2Pa
アーク放電電流:140A
基板バイアス電圧:−600V
テーブル回転速度:4rpm。
【0068】
<試料9〜10の製造>
B2a化合物層およびB2b化合物層のそれぞれの層数を変更し、且つ、B1薄膜層およびB2薄膜層のそれぞれの層数を変更して、B層の全体の厚さを変更したこと、および、A層の厚さを表1に示す厚さとしたことを除いては上記試料8の製造方法にしたがって、試料9〜10を製造した。
【0069】
<試料11〜14の製造>
B2a化合物層およびB2b化合物層のそれぞれの層数を変更し、且つ、B1薄膜層およびB2薄膜層のそれぞれの層数を変更して、B層の全体の厚さを変更したこと、および、以下に示す条件でA層を形成したことを除いては上記試料8の製造方法にしたがって、試料11を製造した。具体的には、A層の形成開始時からA層の厚さが1μmとなるまでの間は、N
2のみを導入して成膜圧力を2Paとした。そののち、CH
4を徐々に増やしながらN
2を徐々に減らして、A層をさらに0.6μm形成した。このとき、組成がTiC
0.4N
0.6となるまで、CH
4を徐々に増やしながらN
2を徐々に減らした。このようにして試料11を製造した。試料12〜14も同様に製造した。
ターゲット:Ti
導入ガス:N
2、CH
4
アーク放電電流:140A
基板バイアス電圧:−600V
テーブル回転速度:4rpm。
【0070】
なお、試料を製造するさい、表1〜表2に示す組成からなる層が得られるように、ターゲットを調製し、導入ガスの種類およびその供給量を調整した。導入ガスとしては、Ar、N
2またはCH
4などを適宜用いた。成膜圧力を0.1Pa〜7Paの範囲内で適宜、調整し、アーク放電電流を60A〜200Aの範囲内で適宜、調整し、基板バイアス電圧を−25V〜−700Vの範囲内で適宜、調整し、テーブル回転速度を0.5〜10rpmの範囲内で適宜、調整した。以下に示す試料15〜56においても同様とした。
【0071】
<試料15の製造>
cBN焼結体におけるcBNの含有率が表3に示す数値となるようにcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Aの形成方法にしたがって、cBN焼結体Bを得た。得られたcBN焼結体Bを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料15〜20の基材を形成した。
【0072】
次に、上記試料1、11の製造方法にしたがって、D層、B層およびA層を順に形成した。このようにして試料15を製造した。
【0073】
<試料16〜20の製造>
以下に示す方法にしたがってC層を形成したことを除いては上記試料15の製造方法にしたがって、試料16〜20を製造した。
ターゲット:Ti
導入ガス:Ar
成膜圧力:2Pa
アーク放電電流:150A
基板バイアス電圧:−70V
テーブル回転速度:3rpm。
【0074】
<試料21〜26の製造>
cBN焼結体におけるcBNの含有率が表3に示す数値となるようにcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Aの形成方法にしたがって、cBN焼結体Cを得た。得られたcBN焼結体Cを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料21〜26の基材を形成した。
【0075】
次に、上記試料1、11の製造方法にしたがって、D層、B層およびA層を順に形成した。これにより、試料21〜26を製造した。
【0076】
<試料27〜31の製造>
cBN焼結体におけるcBNの含有率が表3に示す数値となるようにcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Aの形成方法にしたがって、cBN焼結体Eを得た。得られたcBN焼結体Eを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料27の基材を形成した。
【0077】
次に、上記試料1、16の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。これにより、試料27〜31を製造した。
【0078】
<試料32〜36の製造>
平均粒径が0.5μmのcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Dの形成方法にしたがって、cBN焼結体Fを得た。得られたcBN焼結体Fを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料32〜36の基材を形成した。次に、上記試料1の製造方法にしたがって、D層、B層およびA層を順に形成した。これにより、試料32〜36を製造した。
【0079】
<試料37〜40の製造>
平均粒径が3μmのcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Dの形成方法にしたがって、cBN焼結体Gを得た。得られたcBN焼結体Gを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料37〜40の基材を形成した。
【0080】
次に、上記試料1、11、16の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。これにより、試料37〜40を製造した。
【0081】
<試料41〜45の製造>
まず、原子比でTi:C:N=1:0.3:0.3となるように、平均粒子径が1μmのTiCN粉末と平均粒子径が3μmのTi粉末とを混合した。得られた混合物を真空中で1200℃で30分間、熱処理してから、粉砕した。これにより、TiC
0.3N
0.3からなる金属間化合物粉末を得た。
【0082】
次に、質量比でTiC
0.3N
0.3:Al=90:10となるように、TiC
0.3N
0.3からなる金属間化合物粉末と平均粒子径が4μmのAl粉末とを混合した。得られた混合物を真空中で1000℃で30分間、熱処理した。熱処理により得られた化合物を、直径が6mmの超硬合金製ボールメディアを用いて、ボールミル粉砕法により均一に粉砕した。これにより、結合相の原料粉末を得た。そののちは、上記cBN焼結体Dの形成方法にしたがって、cBN焼結体Hを得た。得られたcBN焼結体Hを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料41〜45の基材を形成した。
【0083】
次に、上記試料1、16の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。これにより、試料41〜45を製造した。
【0084】
<試料46〜53の製造>
表1に示すcBN焼結体を用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料46〜53の基材を形成した。次に、上記試料1、11、16の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。これにより、試料46〜53を製造した。
【0085】
<試料54の製造>
まず、原子比でTi:C=1:0.6となるように、平均粒子径が1μmのTiC粉末と平均粒子径が3μmのTi粉末とを混合した。得られた混合物を真空中で1200℃で30分間、熱処理してから、粉砕した。これにより、TiC
0.6からなる金属間化合物粉末を得た。
【0086】
次に、質量比でTiC
0.6:Al=90:10となるように、TiC
0.6からなる金属間化合物粉末と平均粒子径が4μmのAl粉末とを混合した。得られた混合物を真空中で1000℃で30分間、熱処理した。熱処理により得られた化合物を、直径が6mmの超硬合金製ボールメディアを用いて、ボールミル粉砕法により均一に粉砕した。これにより、結合相の原料粉末を得た。そののちは、上記cBN焼結体Dの形成方法にしたがって、cBN焼結体Iを得た。得られたcBN焼結体Iを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料54の基材を形成した。
【0087】
続いて、試料46〜53の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。これにより、試料54を製造した。
【0088】
<試料55の製造>
B層、C層およびD層を形成しなかったことを除いては上記試料1の製造方法にしたがって、試料55を製造した。
【0089】
<試料56の製造>
A層およびC層を形成しなかったことを除いては上記試料1の製造方法にしたがって、試料56を製造した。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
表1におけるTiCN
*01〜TiCN
*08については、表4に示すとおりである。また、表2において、層数
*21は、B2a化合物層の層数とB2b化合物層の層数との合計であり、層数
*22は、B1薄膜層の層数とB2薄膜層の層数との合計である。
【0094】
【表4】
【0095】
<逃げ面摩耗量VBおよび面粗度Rzの測定>
製造された試料1〜56を用いて、以下に示す切削条件にしたがって切削加工(切削距離:4km)を行った。そののち、光学顕微鏡を用いて逃げ面摩耗量VBを測定し、JIS規格にしたがって被削材表面の面粗度Rzを測定した。逃げ面摩耗量VBの測定結果を表5の「VB(mm)」の欄に示し、被削材表面の面粗度Rzの測定結果を表5の「Rz(μm)」の欄に示す。VBが小さいほど、表面被覆窒化硼素焼結体工具は耐逃げ面摩耗性に優れる。Rzが小さいほど、表面被覆窒化硼素焼結体工具は耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れる。本実施例では、Rzが3μm以下であれば良好であるとしている。
【0096】
(切削条件)
被削材:高硬度鋼(SCM415H/HRC60)
切削速度:100m/min(低速)
送り:f=0.1mm/rev
切り込み:ap=0.1mm
切削油:エマルジョン(日本フルードシステム学会製造の商品名「システムカット96」)を20倍希釈したもの(wet状態)。
【0097】
<工具寿命の測定>
製造された試料1〜56を用いて、上記切削条件にしたがって切削加工を行った。具体的には、一定の切削間隔だけ切削加工を行った後に表面粗さ計を用いて被削材の面粗度Rzを測定するということを繰り返し行った。被削材の面粗度Rzが3.2μmを超えると、切削加工を停止し、そのときの切削距離{(一定の切削間隔)×(被削材の面粗度Rzが3.2μmを超えたときの切削回数n)}を求めた。また、被削材の面粗度Rzが3.2μmを超える直前の切削距離{(一定の切削間隔)×(n−1)}も求めた。そして、被削材の面粗度Rzが3.2μmを超えたときの被削材の面粗度Rzの具体的な数値およびそのときの切削距離と、被削材の面粗度Rzが3.2μmを超える直前の被削材の面粗度Rzの具体的な数値およびそのときの切削距離とを用い、切削距離と被削材の面粗度Rzとの関係を直線で近似して、被削材の面粗度Rzが3.2μmとなった時点の切削距離を測定した。その結果を表5の「切削距離」の欄に示す。切削距離が長いほど、表面被覆窒化硼素焼結体工具は耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れる。本実施例では、切削距離が7km以上であれば良好であるとしている。
【0098】
<結果と考察>
【0099】
【表5】
【0100】
試料2〜6、9〜13、15〜20、22〜25、28〜30、33〜35、38、39、42〜44および46〜54では、VBが小さく、Rzが3μm以下であり、切削距離は7km以上であった。よって、これらの試料は低速切削時において耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れることが分かった。
【0101】
一方、試料1、7、8、14、21、26、27、31、32、36、37、40、41、45、55および56では、Rzが3μmよりも大きく、切削距離は3〜4km程度であった。よって、これらの試料は低速切削時において耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れないことが分かった。
【0102】
<試料11、55、56>
まず、試料11と試料56とについて考察する。B層の組成、B層の厚さ、D層の組成およびD層の厚さは、試料11と試料56とで互いに酷似しているが、A層は、試料11では設けられているのに対して試料56では設けられていない。そして、試料11では、Rzは3μm以下であり切削距離は9km以上であるのに対し、試料56では、VBは試料11の2倍超でありRzは3μmよりも大きく切削距離は3km未満であった。
【0103】
次に、試料55について考察する。試料55では、A層は設けられているが、B層は設けられていない。そして、試料55では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3km程度であった。
【0104】
以上のことから、A層およびB層のどちらか一方を備えていない表面被覆窒化硼素焼結体工具は、低速切削時、耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れないことが分かった。しかしながら、A層およびB層の両方を備える表面被覆窒化硼素焼結体工具は、驚くべきことに、低速切削時、耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性のすべてに優れることが分かった。これは、本発明者らによって初めて見出されたことである。
【0105】
<試料1〜7>
試料1〜7では、A層の厚さが互いに異なる。試料1、7では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3km程度であった。一方、試料2〜6では、Rzは3μm以下であり、切削距離は7km以上であった。これらのことから、A層の厚さが0.2μm以上10μm以下であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。
【0106】
また、試料3〜5では、Rzは2.6μm以下であり、切削距離は7.5km以上であった。試料4、5では、切削距離は8km以上であった。これらのことから、A層の厚さは、0.5μm以上5μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましいことも分かった。
【0107】
<試料8〜14>
試料8〜14では、A層の厚さおよびB層全体の厚さのそれぞれが互いに異なるので、被覆層の厚さが互いに異なる。試料8、14では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3km程度であった。一方、試料9〜13では、Rzは3μm以下であり、切削距離は8km以上であった。これらのことから、被覆層の厚さが0.25μm以上15μm以下であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。
【0108】
また、試料9〜12では、Rzは2.5μm以下であり、切削距離は8.5km以上であった。試料9〜11では、切削距離は9km程度であった。よって、被覆層の厚さは、0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましいということも分かった。
【0109】
<試料15〜20>
試料15〜20では、C層の厚さが互いに異なるが、Rzは3μm以下であり、切削距離は8km以上であった。また、試料16〜19では、Rzは2.5μm以下であり、切削距離は8.5km以上であった。これらのことから、C層の厚さは、0.005μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.01μm以上0.5μm以下であることがより好ましく、0.01μm以上0.2μm以下であることがさらに好ましいということが分かった。
【0110】
<試料21〜26>
試料21〜26では、B1薄膜層およびB2a化合物層のそれぞれの組成が互いに異なる。試料21、26では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3〜4km程度であった。一方、試料22〜25では、Rzは2.7μm以下であり、切削距離は7.5km以上であった。これらのことから、B1薄膜層およびB2a化合物層のそれぞれでは、Si組成が0.01以上0.25以下であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。
【0111】
また、試料23〜25では、Rzは2.5μm程度であり、切削距離は8km程度であった。よって、B1薄膜層およびB2a化合物層のそれぞれでは、Si組成は、0.05以上0.25以下であることが好ましく、0.05以上0.2以下であることがより好ましいことも分かった。
【0112】
<試料27〜31>
試料27〜31では、B1薄膜層およびB2薄膜層のそれぞれの厚さが互いに異なる。試料27、31では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3〜3.5km程度であった。一方、試料28〜30では、Rzは3μm以下であり、切削距離は7.5km以上であった。これらのことから、B1薄膜層およびB2薄膜層のそれぞれの厚さが30nmよりも大きく200nm未満であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。
【0113】
また、試料28、29では、Rzは2.5μm程度であり、切削距離は8km程度であった。よって、B1薄膜層およびB2薄膜層のそれぞれの厚さは、40nm以上180nm以下であることが好ましく、40nm以上180nm以下であることがより好ましいということも分かった。
【0114】
<試料32〜36>
試料32〜36では、B2a化合物層の厚さが互いに異なる。試料32、36では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3.5kmであった。一方、試料33〜35では、Rzは3μm以下であり、切削距離は7.5km以上であった。これらのことから、B2a化合物層の厚さが0.5nm以上30nm未満であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。
【0115】
また、試料33、34では、Rzは2.7μm以下であり、切削距離は8km以上であった。よって、B2a化合物層は、1nm以上25nm以下であることが好ましく、1nm以上20nm以下であることがより好ましく、1nm以上10nm以下であることがさらに好ましいということも分かった。
【0116】
<試料37〜40>
試料37〜40では、B2b化合物層の組成が互いに異なる。試料37、40では、Rzは4μm程度であり、切削距離は3km程度であった。一方、試料38、39では、Rzは2.6μm以下であり、切削距離は8km以上であった。これらのことから、B2b化合物層のAl組成が0.23以上0.8以下であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。
【0117】
また、試料38では、切削距離は8.5kmであった。よって、B2b化合物層のAl組成は、0.5以上0.75以下であることが好ましく、0.6以上0.75以下であることがより好ましいことも分かった。
【0118】
<試料41〜45>
試料41〜45では、B2b化合物層の厚さが互いに異なる。試料41、45では、Rzは3.5μmよりも大きく、切削距離は3km程度であった。一方、試料42〜44では、Rzは2.5μm以下であり、切削距離は8km以上であった。これらのことから、B2b化合物層の厚さが0.5nm以上30nm未満であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。
【0119】
また、試料43では、切削距離は9km程度であった。よって、B2b化合物層の厚さは、1nm以上25nm以下であることが好ましく、3nm以上20nm以下であることがより好ましく、5nm以上20nm以下であることがさらに好ましいということも分かった。
【0120】
<試料46〜54>
試料46〜54では、cBN焼結体の組成が互いに異なるが、Rzは3μm以下であり、切削距離は7km以上であった。また、試料48〜54では、Rzは2.4μm以下であり、切削距離は9km程度であった。これらのことから、立方晶窒化硼素焼結体における立方晶窒化硼素の体積含有率は、30体積%以上85体積%以下であることが好ましく、50体積%以上65体積%以下であることがより好ましいということが分かった。
【0121】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。