特許第6016303号(P6016303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6016303フルオレン骨格を有するキサンテン化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016303
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】フルオレン骨格を有するキサンテン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/96 20060101AFI20161013BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
   C07D311/96
   !C07B61/00 300
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-120294(P2013-120294)
(22)【出願日】2013年6月7日
(65)【公開番号】特開2014-237605(P2014-237605A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000216243
【氏名又は名称】田岡化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松原 正晃
(72)【発明者】
【氏名】松浦 隆
(72)【発明者】
【氏名】平林 俊一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 克宏
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−36648(JP,A)
【文献】 米国特許第5447960(US,A)
【文献】 ZHANG, Shunjiang, et al.,Polymer Chemistry,2010年,1,485-493
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶媒下、硫酸および/または塩酸から選択される少なくとも1種の酸並びにチオール類の存在下、フルオレノン類と多価フェノール類とを65℃以下で反応させ、下記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するキサンテン化合物を製造する方法。
【化1】

(式中、X〜Xは同一又は異なって、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、X〜X12は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。)
【請求項2】
反応系中の水溶媒量がフルオレノン類1重量部に対して1〜15重量部であることを特徴とする請求項1記載のキサンテン化合物の製造方法。
【請求項3】
フルオレノン類がフルオレノンであり、且つ多価フェノール類がレゾルシンであって、式(1)におけるX〜X12が水素原子である請求項1または2記載のキサンテン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、変性アクリル樹脂等の原料として有用なフルオレン骨格を有するキサンテン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フルオレン誘導体は、耐熱性、透明性に優れ、高屈折率を備えたポリマー(例えばエポキシ樹脂、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等)を製造するための原料として有望であり、光学レンズ、フィルム、プラスチック光ファイバー、光ディスク基盤、耐熱性樹脂やエンジニヤリングプラスチックなどの素材原料として期待されている。 なかでもフルオレン骨格を有するキサンテン化合物はエーテル結合を介して縮合環を形成しているため、種々の特性(高屈折率、光学特性、耐熱性、耐水性、耐薬品性、電気特性、機械特性、寸法安定性など)を向上するのに有用である。
【0003】
フルオレン骨格を有するキサンテン化合物の製造方法としては、特開2006−36648号公報(特許文献1)に、フルオレノン類と多価フェノール類とを、酸触媒及びチオール類の存在下で、かつ溶媒の非存在下、又は有機溶媒(エーテル系溶媒、ハロゲン系溶媒、芳香族系溶媒)の存在下に縮合反応を行う反応工程と、反応工程後、水、アルコール類又はこれらの混合溶媒存在下にヒドロキシル基の脱水反応を行いキサンテン構造とする脱水反応工程の2工程で製造する方法が開示されている。しかしこの製造法では、2工程を要することに加え、1工程目のフルオレノン類と多価フェノール類との反応工程において、原料である多価フェノール類の溶解性や反応生成物の析出により、溶媒の非存在下では反応系が固化状態となり工業的な製造は難しい。固化状態を回避し反応を円滑に進めるため、高温で反応させると、フルオレン類と多価フェノール類の複数分子が反応した多量体や、多価フェノール類が重合したオリゴマー体が生成し、製品の純度、収率の低下や色相が悪化する、また、分液性など操作性も悪化する。固化状態や高温反応を回避するため有機溶媒を用いた場合、反応時間が著しく延長し、また副反応物生成により純度、収率が低下する。
【0004】
特開昭61−57308号公報(特許文献2)には、脂肪族ケトン類とレゾルシンとを塩酸触媒下で、かつ水溶媒存在下で反応を行なう例が記載されているが、この場合生成物はレゾルシン2分子と脂肪族ケトン類2分子が反応したオキシフラバン化合物である。
【0005】
前述したようにフルオレン骨格を有するキサンテン化合物は、種々の特性(高屈折率、光学特性、耐熱性、耐水性、耐薬品性、電気特性、機械特性、寸法安定性など)を持つことから、新規な電子材料や光学材料の原料として期待されており、従来にもまして、反応副生成物などの不純物が少なく、着色のない高純度製品を高収率で、安価に製造することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−36648号公報
【特許文献2】特開昭61−57308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、電子材料や光学材料に用いられるポリマー原料として有用なフルオレン骨格を有するキサンテン化合物を工業的優位に製造する方法、即ち、反応副生成物などの不純物が少なく、着色の少ない高純度製品を高収率で、安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、反応溶媒として水を使用することで、フルオレン類と多価フェノール類の縮合反応とヒドロキシル基の脱水環化反応を同時に実施できること、65℃以下の比較的低い温度で反応が実施可能であること、その結果、フルオレン類と多価フェノール類の複数分子が反応した多量体や、多価フェノール類が重合したオリゴマー体の生成を抑制し、色相が良好で純度が高いフルオレン骨格を有するキサンテン化合物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記〔1〕〜〔3〕を提供するものである。
〔1〕
水溶媒下、硫酸および/または塩酸から選択される少なくとも1種の酸並びにチオール類の存在下、フルオレノン類と多価フェノール類とを65℃以下で反応させ、下記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するキサンテン化合物を製造する方法。
【0010】
【化1】

(式中、X1〜X4は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、X5〜X12は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。)
〔2〕
反応系中の水溶媒量がフルオレノン類1重量部に対して1〜15重量部であることを特徴とする〔1〕記載のキサンテン化合物の製造方法。
〔3〕
フルオレノン類がフルオレノンであり、且つ多価フェノール類がレゾルシンであって、式(1)におけるX1〜X12が水素原子である〔1〕または〔2〕記載のキサンテン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フルオレノン類と多価フェノール類からフルオレン骨格を有するキサンテン化合物を製造するに際し、反応副生成物などの不純物が少なく、着色の少ない高純度製品を高収率で、安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をその実施の形態とともに記載する。
【0013】
本発明におけるフルオレン構造を有するキサンテン化合物(以下「キサンテン化合物」ともいう)は以下式(1)
【0014】
【化2】
(式中、X〜Xは同一又は異なって、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、X〜X12は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。)
で表される。
【0015】
上記式(1)中、X〜Xにおけるアルキル基としては例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基を挙げることができる。アルキル基は、好ましくは炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基である。シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アルキル(例えば、炭素数1〜4のアルキル)置換シクロペンチル基、アルキル(例えば、炭素数1〜4のアルキル)置換シクロヘキシル基等の炭素数4〜16(好ましくは炭素数5〜8)のシクロアルキル基又はアルキル置換シクロアルキル基を挙げることができる。シクロアルキル基は、好ましくはシクロペンチル基又はシクロヘキシル基である。アルコキシ基としては、例えば。メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基を挙げることができる。アルコキシ基は、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキル(例えば、炭素数1〜4のアルキル)置換フェニル基、ナフチル基を挙げることができる。アリール基は、好ましくはフェニル基又はアルキル置換フェニル基(例えば、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基等)であり、より好ましくはフェニル基である。原料の入手性やコストの面から上記式(1)においてX〜Xは各々独立して水素原子またはアルキル基であることが好ましく、特にその全てが水素原子であることが好ましい。
【0016】
上記式(1)中、X〜X12におけるアルキル基としては例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基を挙げることができる。アルキル基は、好ましくは炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基である。シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アルキル(例えば、炭素数1〜4のアルキル)置換シクロペンチル基、アルキル(例えば、炭素数1〜4のアルキル)置換シクロヘキシル基等の炭素数4〜16(好ましくは炭素数5〜8)のシクロアルキル基又はアルキル置換シクロアルキル基を挙げることができる。シクロアルキル基は、好ましくはシクロペンチル基又はシクロヘキシル基である。アルコキシ基としては、例えば。メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基を挙げることができる。アルコキシ基は、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキル(例えば、炭素数1〜4のアルキル)置換フェニル基、ナフチル基を挙げることができる。アリール基は、好ましくはフェニル基又はアルキル置換フェニル基(例えば、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基等)であり、より好ましくはフェニル基である。アシル基としては、例えば、アセチル基などの炭素数1〜4のアシル基を挙げることができる。アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基などの炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基を挙げることができる。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、臭素原子、塩素原子を挙げることができる。原料の入手性やコストの面から上記式(1)においてX〜X12は各々独立して水素原子またはアルキル基であることが好ましく、特にその全てが水素原子であることが好ましい。
【0017】
本発明においては、水溶媒下、硫酸および/または塩酸から選択される少なくとも1種の酸並びにチオール類の存在下、フルオレノン類と多価フェノール類とを65℃以下で反応させ、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有するキサンテン化合物を得る。本発明におけるフルオレノン類とは以下式(2)
【0018】
【化3】

(式中のX〜X12の意味は前記式(1)のとおりである。)
で表される構造を有するフルオレン類が使用される。式(2)のフルオレン類は式(1)のキサンテン化合物のフルオレン骨格に対応している。これらフルオレン類の中でも、入手性やコストの面から上記式(2)においてX〜X12は各々独立して水素原子またはアルキル基であることが好ましく、特にその全てが水素原子であることが好ましい。
【0019】
本発明における多価フェノール類とは以下式(3)
【0020】
【化4】
(式中Y、Yは同一又は異なって、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示す。)
で表される構造を有する多価フェノール類が使用される。式(3)の多価フェノール類は式(1)のキサンテン化合物のキサンテン骨格に対応している。アルキル基としては例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基を挙げることができる。アルキル基は、好ましくは炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基である。シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アルキル(例えば、炭素数1〜4のアルキル)置換シクロペンチル基、アルキル(例えば、炭素数1〜4のアルキル)置換シクロヘキシル基等の炭素数4〜16(好ましくは炭素数5〜8)のシクロアルキル基又はアルキル置換シクロアルキル基を挙げることができる。シクロアルキル基は、好ましくはシクロペンチル基又はシクロヘキシル基である。アルコキシ基としては、例えば。メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基を挙げることができる。アルコキシ基は、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキル(例えば、炭素数1〜4のアルキル)置換フェニル基、ナフチル基を挙げることができる。アリール基は、好ましくはフェニル基又はアルキル置換フェニル基(例えば、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基等)であり、より好ましくはフェニル基である。これら多価フェノール類の内、入手性やコストの面から上記式(3)においてY、Yは各々独立して水素原子またはアルキル基であることが好ましく、特にその全てが水素原子であることが好ましい。また、本発明において、多価フェノール類の使用量は特に限定されるものではないが、フルオレノン類1モルに対して、例えば、2〜20モル、好ましくは4〜15モル、更に好ましくは5〜13モルである。
【0021】
本発明にて使用する水溶媒量は特に限定されるものではないが、酸に含まれる水の量と溶媒として加える水の量を合わせて、フルオレノン類1重量部に対して通常1〜15重量部、好ましくは1.5〜10重量部、更に好ましくは1.5〜8重量部とする。反応系中の水溶媒量が、フルオレノン類1重量部に対して1重量部より少ないと、多価フェノール類の溶解性や反応生成物の析出により、反応系が固化状態となり工業的な製造は難しい。また、フルオレノン類1重量部に対して15重量部より多いと、反応時間が著しく延長し、副生成物の増加による収率低下や色相悪化を伴い、経済性、生産性が悪くなる。また、反応が有効に進行しない場合がある。本発明に用いられる水は、特に限定されるものではないが、工業用水、水道水、イオン交換水、蒸留水などを使用することができる。また、本発明において水と混和する溶媒でかつ本発明の進行を阻害しない溶媒、例えば炭素数1〜3のアルコール類、テトラヒドロフラン等のエーテル類が併用可能であるが、好ましくは水単独で本発明を実施する。
【0022】
本発明において、反応温度は65℃以下、好ましくは35〜65℃、更に好ましくは50〜60℃である。反応温度が65℃より高いとフルオレン類と多価フェノール類の複数分子が反応した多量体や、多価フェノール類が重合したオリゴマー体の生成による収率低下や色相悪化の原因となる。反応温度が35℃より低いと反応が有効に進行しない場合がある。
【0023】
本発明に用いられる酸は、硫酸および塩酸から選択される少なくとも1種であり、好ましくは塩酸である。塩酸を使用する場合、塩酸は、通常、5〜36重量%、好ましくは20〜36重量%の塩化水素水溶液であるが、溶媒として水を用いることから、これらの濃度は特に限定されるものではない。塩酸の使用量は特に限定されるものではないが、通常、フルオレノン類1モルに対して塩酸中の塩化水素が0.01〜10モル、好ましくは0.1〜7モル、更に好ましくは0.5〜5モルである。使用量が10モルより多いと純度低下や着色の原因となる場合があり、また、使用量が0.01モルより少ないと反応が有効に進行しない場合がある。また、硫酸を使用する場合、硫酸の種類は特に制限されず、例えば、希硫酸(例えば、30〜90重量%程度の硫酸)、濃硫酸(例えば、90重量%以上の硫酸)、発煙硫酸などが使用できる。硫酸の使用量は特に限定されるものではないが、通常、フルオレノン類1モルに対して0.01〜10モル、好ましくは0.1〜7モル、更に好ましくは0.5〜5モルである。使用量が10モルより多いと純度低下や着色の原因となる、また、使用量が0.01モルより少ないと反応が有効に進行しない場合がある。
【0024】
本発明で用いられるチオール類は、公知のチオール類を使用することができる。例えば、チオ酢酸、β−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸などのメルカプトカルボン酸、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプルピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、デシルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン、ベンジルメルカプタンなどのアラルキルメルカプタンやそれらのアルカリ金属塩が挙げられる。チオール類は単独または二種類以上の組み合わせで使用できる。これらの中でもアルキルメルカプタンが好ましく、更には、臭気が少なく取り扱いが容易なことから、アルキル基の炭素数が6以上のアルキルメルカプタンが好ましい、特にドデシルメルカプタンである。チオール類の使用量は特に限定されるものではないが、例えば、フルオレノン類1モルに対して0.01〜0.3モル、好ましくは0.01〜0.1モルである。
【0025】
フルオレノン類と多価フェノール類との反応を実施する方法は、特に限定されるものではないが、例えば空気中又は窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、水を反応容器に仕込み多価フェノール類を溶解させてから、フルオレノン類とチオール類を仕込み完溶後、酸を滴下し65℃以下に加熱攪拌することにより行うことができる。反応は液体クロマトグラフィーなどの分析手段で追跡することができる。
【0026】
前記一般式(1)で表されるキサンテン化合物は、フルオレノン類と多価フェノール類から、フルオレン骨格の9位にフェニル基が置換する縮合反応工程とフルオレン骨格の9位に置換したフェニル基の2位に位置するヒドロキシル基間の脱水反応によりキサンテン構造とする工程を経て得られるが、本発明の方法では縮合反応と脱水反応は同一反応系内で同時に進行する。これらの反応は特にフルオレノンとレゾルシンの反応において有効である。
【0027】
反応後、得られた反応液は、そのままフルオレン骨格を有するキサンテン化合物の結晶を析出させてもよいが、通常、溶媒希釈後、洗浄、濃縮等の後処理を施した後に、晶析溶媒を加えて、フルオレン骨格を有するキサンテン化合物の結晶を析出させる。析出した結晶は濾過等により回収される。得られた結晶は晶析に用いた溶媒等を用いて洗浄されてもよいし、乾燥されてもよい。これらの操作のうち1以上の操作を省略してもよいし、他の操作を付加してもよい。また必要に応じて、単離された結晶を精製してもよい。晶析溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル溶媒、アセトニトリルなどのニトリル溶媒、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール溶媒が用いられる。好ましくは芳香族炭化水素溶媒、エステル溶媒、ニトリル溶媒、エーテル溶媒等、更に好ましくは芳香族炭化水素溶媒またはニトリル溶媒、特にトルエンまたはアセトニトリルである。晶析溶媒は単独または二種類以上の組み合わせで使用できる。
【0028】
(実施例)
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例中、純度、多量体の生成量およびフルオレノン残存量は液体クロマトグラフィーを用い下記条件で測定した面積百分率値である。
液体クロマトグラフィー測定条件:
装置:島津製作所(株)製LC−2010C
カラム:ODS(5μm、4.6mmφ×150mm)
移動相:水/メタノール、流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃、検出波長:UV254nm
【実施例1】
【0029】
攪拌器、冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、イオン交換水23.0g、レゾルシン138.0g(1.26モル)、フルオレノン23.0g(0.13モル)およびドデシルメルカプタン1.26g(0.006モル)を仕込み、内温55℃まで昇温し、溶解した。次に、35%塩酸40.0gを30分間かけて滴下した。反応系内の水溶媒の量は合計2.1重量部(対フルオレン1重量部)となった。その後、内温55℃で12時間反応した結果、フルオレノン残存量が1.0%以下、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,7’―ジヒドロキシキサンテン)]が82.2%、多量体7.6%であった。得られた反応混合液に水172.5g、29%水酸化ナトリウム水を加えて中和した後、濾過し粗結晶を得た。得られた粗結晶をシクロペンチルメチルエーテルで溶解し、その後水23gで3回洗浄した。洗浄後、シクロペンチルメチルエーテルを濃縮し、イソプロピルアルコールと水に置換し、内温10℃まで徐々に冷却し、晶析を行った。析出した結晶を濾過、乾燥することにより、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,7’―ジヒドロキシキサンテン)]の白色結晶35.2g(収率75.6%、純度95.0%)を得た。
【実施例2】
【0030】
実施例1のイオン交換水量を50.0g、レゾルシン量を105.0g(0.96モル)、35%塩酸量を67.8gに変更し、実施例1と同様に塩酸を滴下した。反応系内の水溶媒の量は合計3.9重量部(対フルオレン1重量部)となった。その後、内温55℃で12時間反応した結果、フルオレノン残存量が1.0%以下、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,7’―ジヒドロキシキサンテン)]が82.1%、多量体8.4%であった。実施例1と同様に精製した結果、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,7’―ジヒドロキシキサンテン)]の白色結晶30.0g(収率64.5%、純度94.9%)を得た。
【実施例3】
【0031】
実施例1のイオン交換水量を35.0g、酸を35%塩酸から98%硫酸12.8gに変更し、実施例1と同様に硫酸を滴下した。反応系内の水溶媒の量は合計1.5重量部(対フルオレン1重量部)となった。その後、内温60℃で9時間反応した結果、フルオレノン残存量が1.0%以下、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,7’―ジヒドロキシキサンテン)]が80.4%、多量体8.9%であった。実施例1と同様に精製した結果、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,7’―ジヒドロキシキサンテン)]の類白色結晶28.2g(収率60.6%、純度94.1%)を得た。
【実施例4】
【0032】
攪拌器、冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、イオン交換水26.0g、5−メチルレゾルシン1水和物181.4g(1.28モル)、フルオレノン23.0g(0.13モル)およびメルカプトプロピオン酸0.66g(0.006モル)を仕込み、内温55℃まで昇温し、溶解した。次に、35%塩酸26.4gを30分間かけて滴下した。反応系内の水溶媒の量は合計2.9重量部(対フルオレン1重量部)となった。その後、内温55℃で28時間反応した結果、フルオレノン残存量が1.0%以下、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,7’―ジヒドロキシ4’,5’―ジメチルキサンテン)]が70.9%、多量体4.2%であった。
【0033】
(比較例1)
攪拌器、冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、レゾルシン48.6g(0.44モル)、フルオレノン23.0g(0.13モル)およびβ−メルカプトプロピオン酸2.25g(0.021モル)を仕込み、内温85℃まで昇温し、98%硫酸29.9gを30分間かけて滴下したところ、タール状物がフラスコの内壁に多量に付着し、不均一な状態となった。そのまま、内温85℃で12時間反応した結果、フルオレノン残存量が8.0%、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,7’―ジヒドロキシキサンテン)]が45.2%、多量体16.5%であった。
【0034】
(比較例2)
攪拌器、冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、レゾルシン56.2g(0.51モル)、フルオレノン23.0g(0.13モル)およびチオ酢酸0.1ml、36%塩酸24.1gを仕込み、内温85℃で1時間反応した。反応中は、タール状物がフラスコの内壁に多量に付着し、不均一な状態であった。
その後、反応液にイソプロピルアルコール92.0gを加えて内温60℃で1時間撹拌を継続した。反応マスをLC分析した結果、フルオレノン残存量が13.6%、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,7’―ジヒドロキシキサンテン)]が49.8%、多量体17.7%であった。次に純水230gを加えて反応生成物(スピロ[フルオレン−9,9’−(3’,6’−ジヒドロキシキサンテン)])を析出させ、室温まで冷却した後、濾過、乾燥することにより、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,7’―ジヒドロキシキサンテン)]の橙色結晶32.1g(収率69.0%、純度60.1%)を得た。
【0035】
(比較例3)
攪拌器、冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、トルエン23.0g(0.25モル)、レゾルシン138.0g(1.26モル)、フルオレノン23.0g(0.13モル)およびドデシルメルカプタン1.26g(0.006モル)を仕込み、内温85℃まで昇温し、溶解した。次に、35%塩酸40.0gを30分間かけて滴下した。その後、内温85℃で12時間反応した結果、フルオレノン残存量が2.4%、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,7’―ジヒドロキシキサンテン)]が50.2%、多量体15.1%であった。
【0036】
(比較例4)
攪拌器、冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、トルエン69.0g(0.75モル)、レゾルシン138.0g(1.26モル)、フルオレノン23.0g(0.13モルおよびドデシルメルカプタン1.26g(0.006モル)を仕込み、内温55℃まで昇温し、溶解した。次に、98%硫酸38.7gを30分間かけて滴下した。その後、内温55℃で20時間反応しても、フルオレノンが23%程度残存していることを確認した。この段階で反応マスを分析したところ、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,7’―ジヒドロキシキサンテン)]が30.3%、多量体8.9%であった。