【実施例】
【0066】
[試験1]
[アスファルト材料の製造]
非イオン性界面活性剤と水とアスファルトと安定剤を含有するアスファルト乳剤(ニチレキ製「アスゾルA」、ストレートアスファルト57重量%、水40重量%、微量の界面活性剤、B型粘度39mPas、pH7.0)及びカチオン系界面活性剤(陽イオン性界面活性剤)と水とアスファルトと安定剤を含むアスファルト乳剤(ニチレキ製「PK−4」)に対して、メタン直接改質法によって製造されたカーボンナノチューブを90重量%含むナノカーボン(H)を、各乳剤に対して1重量%となるよう添加し、マグネットスターラーを用いて撹拌した。
【0067】
図1に添加・撹拌直後の写真を示す。非イオン性界面活性剤を含むアスファルト乳剤にナノカーボン(H)を添加したもの(符号1)は、目視上はよく分散されている。一方、カチオン性界面活性剤を含むアスファルト乳剤に添加したものはナノカーボン(H)が表面層に偏在する傾向が見られる。
【0068】
[アスファルト材料の針入度試験]
上記で製造した2種類のサンプルをドライオーブン(70℃)に入れ、水分を抜いた状態を
図2に示す。重量計測結果から含水比を算出した結果、非イオン性界面活性剤を用いたものの含水比は41.3%、カチオン性は同46.1%であった。2種類のサンプルは、表面性状に差異があり、目視上、カチオン性(符号2)は凹凸が多く、非イオン性(符号1)は滑らかな表面をしている。
【0069】
これらのサンプル(No.2、4)及び、ナノカーボン(H)を無添加にした以外は同様に製造したサンプル(No.1、3)に対してJIS K 2207に規定する針入度を測定した。結果を表1及び
図3に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤に対して、ナノカーボン(H)を添加することでいずれも針入度が小さくなる(硬化する)傾向がある。非イオン性にナノカーボン(H)を添加したものはいずれも針入度が48〜50と、カチオン性に比べばらつきが少なくなっている。これはカーボンナノチューブが非イオン性の方に比較的に均一分散していることを示している。
【0072】
以上の実験結果から、カーボンナノチューブの均一分散には、非イオン性界面活性剤を含むアスファルト乳剤が比較的に優れていると考えられる。
【0073】
[アスファルト材料の電磁波吸収性試験]
上記針入度試験で使用したサンプルに対してマイクロ波を照射し、直後の表面温度を計測することで、各サンプルの電磁波の吸収性を測定した。各サンプルを70〜80℃のドライオーブンによってアスファルト乳剤の水分を乾燥させ、各サンプルの実験開始時の表面温度を25.0〜25.5℃の範囲に調整したあと、500Wの電子レンジへ投入してマイクロ波を10秒間照射し、直後の表面温度を放射温度計で計測した。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
カチオン性界面活性剤を含むアスファルト乳剤にナノカーボン(H)を1重量%添加したサンプルについては、照射3回目以降は投入直後にレンジ内で発火するようになったため、実験を中止せざるを得なかった。カチオン性の場合、水分を蒸発させた後、表面層にナノカーボン(H)が偏在する傾向が見られた。このことが発火を招いた要因と考えられる。ナノカーボン(H)を添加した非イオン性界面活性剤を含むアスファルト乳剤無添加の場合に比べて適度に温度が上昇し、安定した電磁波吸収性を示した。
【0076】
[試験2]
[アスファルト材料の粘度測定]
アスファルト材料を土木材料、建築材料、橋梁、車両・船舶用構造材料等の用途に応用するには、施工のしやすさの関係から粘度は高すぎないものである必要がある。その見地から、上記アスファルト材料の粘度をナノカーボン(H)の添加量ごとに測定した。非イオン性界面活性剤を含むアスファルト乳剤(ニチレキ製「アスゾルA」)30gに対し、ナノカーボン(H)を0.5重量%刻みで各0〜2.5重量%添加した6種類のサンプル(No.1〜6)を作製し、粘度計(計測範囲:1〜100Pa・s)で粘度を計測した。温度条件は24〜26℃であった。
【0077】
0〜1.5重量%添加までは計測範囲外、すなわち1Pa・s未満で流動性の高い液体であったが、2.0重量%以上添加した場合は粘りが強い半塑性状となった。計測された粘度は、No.6(添加量2.0重量%)では10.3Pa・s、No.7(添加量2.5重量%)では24.4Pa・sであった。このNo.6とNo.7のサンプルは粘度が高いため、例えば常温アスファルト合材に混入する場合、均一分散を妨げる可能性がある。そのため、作業性からは添加量は2.0重量%までとする必要があると思われた。
【0078】
[カーボンナノチューブ添加量ごとの針入度試験]
上記のナノカーボン(H)の各添加量のサンプル(No.1〜6)、比較例としてカーボンナノチューブの含有量が5重量%未満のナノカーボン(L)を1.0重量%添加したサンプル(No.7)、ナノカーボン(H)にかえて導電性カーボンブラックを添加したサンプル(No.8)に対してJIS K 2207に規定する針入度を測定した結果を表3及び
図4に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
ナノカーボン(H)の添加による針入度の低下は1.0重量%で導電性カーボンブラック添加サンプルとほぼ同じであり、ナノカーボン(H)の添加量に応じてさらに低下が見られた。ナノカーボン(L)1.0重量%添加サンプルの針入度はナノカーボン(H)添加サンプルとほぼ同じであった。この結果により、従来アスファルトへの混合が困難であったカーボンナノチューブを用いて、導電性カーボンブラックと同等以上にアスファルトの機械的強度を高めることができることが示された。
【0081】
[カーボンナノチューブ添加量ごとの電磁波吸収性試験]
上記針入度試験で使用したサンプルに対してマイクロ波を照射し、直後の表面温度を計測することで、各サンプルの電磁波の吸収性を評価した。各サンプルの実験開始時の表面温度を約24.5℃に調整したあと、500Wの電子レンジへ投入してマイクロ波を10秒間照射し、直後の表面温度を放射温度計で計測した。結果を表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
ナノカーボン(H)を添加しない比較サンプルでも、試験前(24.5℃)より温度が上昇した。サンプル2〜6を考察すると、1.0重量%で108.0℃に達したが、添加量をそれ以上増やしてもあまり変化がない。この結果と、先般の作業性(粘度)の結果から、1.0〜2.0重量%の範囲内がナノカーボン(H)の添加効果を発揮できる範囲と考えられる。
【0084】
また、サンプル7及びサンプル8と比較すると、カーボンナノチューブの割合の少ないナノカーボン(L)、導電性カーボンブラックのいずれも、それらを添加しないサンプルとほぼ同じ結果であるため、添加による電磁波吸収効果は小さいと考えられる。以上の結果は、カーボンナノチューブは導電性カーボンブラックよりも電磁波吸収効果を発現しやすいことを示している。
【0085】
[試験3]
[有機溶媒・アスファルト混合溶液の分散性能の評価]
カーボンナノチューブを90重量%含むカーボン素材と、有機溶媒としてトルエン、アスファルト、比較用の液体として不純物を含まない蒸留水及び不純物の成分を多く含む緑茶飲料を以下の条件で混合した。ナノカーボン添加後、超音波で5分間処理を行い、その後の様子を観察した。
設定条件:
(1)ナノカーボン(H)(0.263g)+トルエン(30ml)
(2)ナノカーボン(H)(0.263g)+トルエン(30ml)+アスファルト(0.263g)
(3)ナノカーボン(H)(0.263g)+蒸留水(30ml)
(4)ナノカーボン(H)(0.263g)+緑茶飲料(30ml)
【0086】
観察した写真を
図5〜14に示し、各写真の超音波処理後の経過時間との対応を表5に示す。
【表5】
【0087】
図6に示すように、処理直後の時点で(3)には分離が見られた。24時間の経過後は(1)にも分離が見られた。一方で、(2)及び(4)は24時間後も分散状態を保った。この結果から、トルエンに微量のアスファルトを加えた混合溶液を用いることにより、分散状態を保つことができると思われた。
【0088】
[試験4]
試験1〜3までは金属元素除去処理を行っていないカーボンナノチューブについて試験を行ってきたが、本試験では金属元素除去処理を行っていないカーボンナノチューブを用いた場合の各乳剤への分散の影響を調べた。未処理ナノカーボンのサンプルB)と、1.0mol/L塩酸C)及び硝酸溶液D)にカーボンナノチューブを浸漬し、アスピレータ装置で塩酸溶液を吸引ろ過によって除去し、このカーボンナノチューブを純水に加えて10分間スターラーで攪拌、水を除去する操作を3回繰り返したサンプルC)及びD)と、比較例としてのカーボンブラックのサンプルF)について、陽イオン性界面活性剤(カチオン系乳剤)、非イオン性界面活性剤(ノニオン系乳剤)、陰イオン性界面活性剤(アニオン系乳剤)との分散状態を調査した。
【0089】
結果を表6に示す。なお、塩酸(HCl)、硝酸(HNO
3)を用いた結果は同様であったため、表6ではサンプルC)とD)を同欄とした。表中に特に記載がない場合、サンプルB)〜F)の添加量は1重量%とした。
【0090】
【表6】
【0091】
この結果より、ノニオン系乳剤では未処理のナノカーボン、金属元素除去処理を行ったナノカーボン、カーボンブラックのいずれに対しても特に良好に分散することが示された。アニオン系乳剤では、これらのいずれに対しても問題なく分散した。カチオン系乳剤では、金属元素除去操作を行ったナノカーボンとは問題なく分散したが、その際に添加を一括で行った場合、やや分散が悪くなり、表面処理用改質アスファルト乳剤に対しては一括添加では分散しなかった。カチオン系乳剤は、未処理ナノカーボンに対しては、タックコート用アスファルト乳剤及びMK−2乳剤は分割添加では分散したが、表面処理用改質アスファルト乳剤では分散せず、一括添加ではいずれも分散しなかった。表面処理用改質アスファルト乳剤では、少量に分けて分割添加しても、0.3重量%付近が限界であり、これ以上の添加量では凝集塊を生じた。これらの結果から、金属元素除去操作を行ったナノカーボンを添加することで分散が良好となり、陽イオン性界面活性剤への分散が一括添加、分割添加にかかわらず可能となることが示された。また、分割添加によって、金属元素除去操作を行わないナノカーボンが陽イオン性界面活性剤に対してある程度分散が可能なことが示された。
【0092】
[試験5]
カーボンナノチューブのミル処理及び塩酸、硝酸の処理を行ったSEM画像比較を
図15(20000倍)、
図16(5000倍)に示す。サンプルA)は処理前、サンプルB)は吸引ろ過を行い、その後ボールミルによる処理を加えたもの、サンプルC)及びD)は1.0mol/L塩酸C)及び硝酸溶液D)によって実験4と同様に処理したもの、比較例としてE)は非繊維型のナノサイズのカーボン、F)は工業用カーボンブラックを示す。
【0093】
図15及び
図16に示すように、未処理のサンプルA)はカーボンナノチューブ同士に絡まりが生じて立体的に空隙を多く形成していると考えられるが、この絡まりがカーボンナノチューブの凝集を招き、試験4に示すように分散が充分でないものにしていると考えられる。これに対して、ミル処理を行ったサンプルB)は空隙が少なく、嵩密度が高まっているが、カーボンナノチューブ同士には絡まりが見られる。これは触媒金属が残存しているためと考えられる。これに対して、塩酸及び硝酸処理を行ったサンプルC)及びD)は、サンプルA)及びB)に比べて黒色の空隙部分がさらに小さく、カーボンナノチューブの嵩密度が小さくなり、絡まりが解消されているので、凝集せずに乳剤に分散ができると考えられる。
【0094】
サンプルA)〜F)を1gずつ容器に取り分けて目視したものを
図17に示す。サンプルA)〜F)の嵩密度を実験的に求めた結果を表7に示す。
【0095】
【表7】
【0096】
未処理のサンプルA)に比べて、ミル処理を行ったB)、塩酸及び硝酸で吸引ろ過処理を行ったサンプルC)及びD)が嵩密度が増大している。ミル処理又は金属元素除去処理によってかさ密度が0.1g/cm
3以上、望ましくは
0.15g/cm
3以上となったカーボンナノチューブであれば有効に分散すると考えられる。
【0097】
[試験6]
試験5と同様に製造したアスファルト材料について、添加混合後、70℃に設定したドライオーブン中に投入し、質量が変化しなくなるまで水分を蒸発させてから、JIS K 2208に基づき針入度試験を行った。結果を
図18に示す。図中の1)は表面処理用の改質アスファルト乳剤、2)はタックコート用の改質アスファルト乳剤、3)はMK−2(JIS K 2208)のカチオン乳剤を指す。
【0098】
いずれの場合も、添加量が同量であればカーボンナノチューブはカーボンブラックよりも硬化する結果を示し、カーボンブラックより少ない量で同等の針入度をアスファルトに付与できることを示す。カーボンナノチューブは添加量が少ないことからアスファルト本来の性能を阻害することがない効果も期待することができる。
【0099】
[試験7]
試験5と同様に製造したアスファルト材料について、電磁波吸収能を検証するため、マイクロ波吸収の試験を行った。各アスファルト材料のサンプルに、高周波出力500Wの家庭用電子レンジを用いて10秒間マイクロ波を照射し、表面温度の変化を放射温度計によって測定した。結果を
図19に示す。図中の1)は表面処理用の改質アスファルト乳剤、2)はタックコート用の改質アスファルト乳剤、3)はMK−2(JIS K 2208)のカチオン乳剤を指す。
【0100】
いずれの場合も、添加量が同量であればカーボンナノチューブはカーボンブラックよりも硬化する結果を示し、カーボンブラックより少ない量で同等の針入度をアスファルトに付与できることを示す。カーボンナノチューブは添加量が少ないことからアスファルト本来の性能を阻害することがない効果も期待することができる。
【0101】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。