(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016340
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】カツラ
(51)【国際特許分類】
A41G 3/00 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
A41G3/00 D
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-185997(P2011-185997)
(22)【出願日】2011年8月29日
(65)【公開番号】特開2013-47400(P2013-47400A)
(43)【公開日】2013年3月7日
【審査請求日】2014年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000126676
【氏名又は名称】株式会社アデランス
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(74)【代理人】
【識別番号】100138874
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴
【審査官】
青木 良憲
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭62−106923(JP,U)
【文献】
実開昭62−136524(JP,U)
【文献】
特開昭61−124615(JP,A)
【文献】
特開2008−106397(JP,A)
【文献】
特開2008−266877(JP,A)
【文献】
特開平08−199412(JP,A)
【文献】
実開昭62−114018(JP,U)
【文献】
再公表特許第2008/149555(JP,A1)
【文献】
実開平02−090618(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の頭部に装着されるベース(10)に、毛髪を植え込んで構成されるカツラであ
って、
上記ベースの前頭部端縁(11)を波打ち形状とし、当該端縁(11)を含む近傍領域
(15)を合成樹脂で硬化し、
上記ベース(10)がメッシュ材料で構成されており、合成樹脂は、当該メッシュ材料
の開口を塞ぐことのない量が上記近傍領域(15)に塗布され、硬化されており、
上記近傍領域(15)のベース内方側の端部の少なくとも一部が、上記波打ち形状の谷底(Y)を、5mmを超えてさらにベース内方へ延在していることを特徴とする、カツラ。
【請求項2】
上記ベース(10)の前頭部端縁(11)の近傍において、ベースの裏面にも毛髪が植
え込まれていることを特徴とする、請求項1記載のカツラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の頭部に装着されるベースに、人工または天然の毛髪を植え込んで構成されるカツラ(あるいは、ウィッグ)に関する。
【背景技術】
【0002】
カツラ(あるいは、ウィッグと呼ばれることもある)には、禿頭部を覆い隠すタイプのものと、自毛のボリューム不足をカバー、あるいは白髪隠しを目的とした補助的なタイプのものが知られている。
【0003】
禿頭部を覆い隠すタイプのものでは、特に、前頭部が脱毛したパターンの場合、カツラの装着が外部から視認できないようにして、自然な生え際を演出するよう、様々な改良が提案されている。
特許文献1では、カツラのベースの前頭部端縁が波打った凹凸形状とされている。生え際におけるカツラのベース端縁が直線的なラインにならないので、自然な外観を得ることができる。
【0004】
自毛のボリューム不足をカバー、あるいは白髪隠しを目的とした補助的なタイプのものでは、生え際の自然さにこだわる必要がないケースも多いが、その場合であっても、自毛を掻き上げたり、バックスタイルのようなヘアスタイルとしたときに、カツラのベース端縁が直線的であるが故に、自毛とカツラ毛髪との馴染み、あるいは絡みが良好でなく、そのため、自毛とカツラが分離しやすいという問題があった。
特許文献2では、生え際の迷彩効果(自然な外観)を目的として、カツラのベース端縁をジグザグの波打ち形状に構成し、当該端縁に、縁取り用テープを貼着、あるいはリボンを編み付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−224454号公報
【特許文献2】実願昭62−136524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記いずれのタイプのカツラにおいても、ベースの前頭部端縁が波打ったウェーブ状に構成されているが、その部分が頭皮から捲れ上がったり、反りや丸まりが生じて、不自然な外観となってしまうことがある。
そこで、本発明の目的は、カツラのベースの前頭部端縁を波打ち形状とした場合であっても、そのような不都合が生じないカツラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を有効に解決するために創案されたものであって、以下の特徴を備えたカツラを提供する。
本発明のカツラ(ウイッグ)は、使用者の頭部に装着されるベースに、(人工または天然の)毛髪を植え込んで構成される。上記ベースの前頭部端縁を波打ち形状とし、当該端縁を含む近傍領域を合成樹脂で硬化している。
【発明の効果】
【0008】
上記構成を備えた本発明のカツラにおいては、ベースの前頭部端縁の波打ち形状を構成する突出した山の部分が合成樹脂で固められているので、当該端縁の強度が高く、したがって、頭皮からの捲れ上がり、反り、丸まり等を有効に防止して、特に生え際部分における自然な外観を実現することができる。
【0009】
特に、上記近傍領域の少なくともその一部分を、上記波打ち形状の谷底を超えてさらにベース内方へ延在するように構成した場合に、その効果は著しい。
【0010】
また、上記ベースをメッシュ材料で構成する場合、合成樹脂は、当該メッシュ材料の開口を塞ぐことのない量を上記近傍領域に塗布し、硬化することが好ましい。このように構成した場合には、硬化した領域においても、メッシュ材料の開口による通気性が維持されるので装着感が良く、また、生え際を自然に見せる迷彩効果にも優れる。
【0011】
さらには、上記ベースの前頭部端縁の近傍において、ベースの裏面にも毛髪を植え込むことが好ましい。このように構成した場合には、生え際におけるベース端縁を隠すとともに、ボリューム感を増すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のカツラのベースを従来例と比較して説明する図。
【
図2】本発明のカツラのベースを模式的に示す平面図。
【
図3】カツラのベースの別例を模式的に示す平面図。
【
図5】本発明のカツラの製造工程の一例を示す概略図。
【
図6】本発明のカツラによる迷彩効果を説明する概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。
図1は、本願発明のカツラにおけるベース10を、従来のものと比較して示している。いずれの場合にも、このベースに対して、人工または天然の毛髪を植え込み、カツラが構成される。
【0014】
図1(a)は、従来例のベースを示しており、生え際に相当する前頭部端縁は、波打つことなく緩やかにカーブしている(装着時に外部から見ると直線的に見える)。これに対して、
図1(b)に示した本発明のベース10では、前頭部端縁11をウェーブ状の波打った形状としている。
図2は、これを模式的に示している。
【0015】
≪硬化領域15について≫
本発明では、
図2に示したように、前頭部端縁11を含む近傍領域15において、ベース10を合成樹脂で硬化している。本明細書において、この合成樹脂で硬化した領域を「近傍領域15」または「硬化領域15」と呼ぶ。
図において、ラインXは、本来の生え際に相当するラインを示し、ラインYは、波打ち形状の谷底に相当するラインを示している。
【0016】
硬化領域15ではベース10の強度が高まるので、波打ち形状の前頭部端縁11の捲れ上がり、反り、丸まりを防止することができる。また、その結果、波打ち形状のベース端縁が頭皮に良好に密接するので、自毛とカツラ毛髪との馴染み、あるいは絡まりが良くなり、生え際の自然な外観を提供できる。
【0017】
このような目的を達成するという観点では、前頭部端縁11から具体的にどのような範囲にまで、硬化領域15を延在させるかという事に関し、特に限定されるものではない。
しかし、例えば
図2、3に示すように、硬化領域15は、その少なくともその一部分において、波打ち形状の谷底ラインYを超えて、さらにベース内方の領域にまで(図中上方へ)延在していることが好ましい。
【0018】
≪硬化領域の好ましい例示≫
図2の例では、硬化領域15を、波打ち形状の谷底ラインYを5mm超えて、ベース内方の領域にまで(図中上方へ)延在させている。これは、次の理由による。すなわち、仮に硬化領域15がラインYよりも図中下方に存在すると、波打ち形状の山部分だけが折れ易くなって、頭皮から捲れ上がってしまうので、これを防止するためである。
なお、
図2中に各部の寸法を示したが、これは単なる例示であって、必要に応じて適宜寸法設定を変更することができる。
【0019】
図2では硬化領域15の全体が谷底ラインYを超えていた。これに対して、
図3の例では、硬化領域15の一部だけが谷底ラインYを超えている。すなわち、硬化領域15は、前頭部端縁11に沿って、ほぼ一定幅を保って波打ち状に延在しており、谷底においてのみラインYを超えて、ベース内方の領域にまで延在している。これによっても、
図2の場合と同様の効果が得られる。
折れ曲がりを確実に防止するという観点では、
図2の方が優れ、使用する合成樹脂量を抑えてコスト低減を図るという観点では、
図3の方が優れる。
【0020】
≪飾り植えを追加した例≫
図4は、カツラの側方断面図を模式的に示している。かつらのベース10に対する植毛は、当然にベース10の上面に行うが、前頭部端縁11の近傍において、ベース10の裏面にも植毛してもよい。本明細書では、これを「飾り植え」と呼ぶ。このような「飾り植え」を施すことで、生え際におけるベース端縁を隠す迷彩効果がさらに高まるとともに、ボリューム感を増すことが可能となる。
【0021】
≪カツラの製造工程≫
次に、本発明のカツラの製造工程の一例を、
図5を参照して簡単に説明する。
図5に示した頭部雄型30は、そのカツラを実際に着用する者の頭部の形状を採取した一種の模型であって、これは一般的に知られた方法で作成される。
(1)カツラ着用者の頭部雄型30を作成し、この雄型30に、前頭部端縁11に対応する波打ち形状のライン1を記入する。また、この波打ち形状のライン1から延在し、ベース10の全体形状(輪郭)を表すライン2も記入する。
(2)ライン記入済みの頭部雄型30に対して、メッシュ材料、あるいはフィルム状の薄膜樹脂材料から構成されるベース素材を被せて加熱処理し、雄型30の形状にフィットするベース10を構成する。そして、記入済みのライン1、2に沿ってカットし、最終的なベース10の形状とする。
(3)植毛を行う。
ベース10の上面、あるいは裏面(飾り植えの場合)に、所望の長さ、色、密度に応じた本数の毛髪を植え込む。
(4)硬化領域15を形成する。
ベース10の「近傍領域15」(
図2、3参照)に、合成樹脂溶液を塗布した後、乾燥して硬化させ(40℃、3時間)、当該領域を「硬化領域15」とする。なお、合成樹脂溶液は、ベース10の裏面または上面のいずれから塗布してもよい。
【0022】
≪合成樹脂の種類≫
使用する合成樹脂の種類は、特に限定されるものではなく、適宜の素材を使用することができる。熱可塑性または熱硬化性のいずれの樹脂を使用してもよいが、熱硬化性樹脂の方が、所望の硬さが得られ易く好ましい。
一例を挙げると、ウレタン樹脂(主剤)、イソシアネート(硬化剤)、MEK(希釈溶剤)を、1:2:7の割合で配合したものを、合成樹脂溶液として用いる。
【0023】
≪ベース10がメッシュ材料の場合≫
ベース10としては、メッシュ材料、またはフィルム状の薄膜樹脂材料を使用することが可能であるが、メッシュ材料を使用する場合、当該メッシュ材料の網目(開口)を塞ぐことのないように、合成樹脂の量を調整して、塗布することが好ましい。そのようにすると、硬化領域15においても、メッシュ材料の開口による通気性が維持されるので装着感が良く、また、生え際を自然に見せる迷彩効果にも優れる。
【0024】
図6は、本発明のカツラによる優れた迷彩効果を説明する概略図である。カツラのベース10の前頭部端縁11を含めた近傍領域に硬化領域15を設けて、強度を高めているので、波打ち形状(ウェーブライン)の山部分が確実に頭皮に沿って位置する。このため、ウェーブラインの隙間に残った自毛と、ウェーブラインの山部分に植えたカツラ毛髪とがよく絡んで馴染みやすく、特に生え際の自然な外観を提供できる。
なお、
図6に示した例は、ある程度の自毛が残っている使用者に対して、自毛のボリューム不足をカバー、あるいは白髪隠しを目的として、補助的にカツラを使用する場合である。
【符号の説明】
【0025】
10 ベース
11 前頭部端縁
15 硬化領域(近傍領域)
30 頭部雄型