特許第6016367号(P6016367)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6016367熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法及び熱分解ガス化システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016367
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法及び熱分解ガス化システム
(51)【国際特許分類】
   F23G 5/027 20060101AFI20161013BHJP
   F23G 5/16 20060101ALI20161013BHJP
   C10J 3/00 20060101ALI20161013BHJP
   C10K 3/00 20060101ALI20161013BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20161013BHJP
   C02F 11/10 20060101ALI20161013BHJP
   C10B 53/02 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
   F23G5/027 Z
   F23G5/16 E
   C10J3/00 ZZAB
   C10K3/00
   B09B3/00 302Z
   C02F11/10 Z
   !C10B53/02
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-17249(P2012-17249)
(22)【出願日】2012年1月30日
(65)【公開番号】特開2013-155302(P2013-155302A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2015年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】501370370
【氏名又は名称】三菱重工環境・化学エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】橘田 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】加倉田 一晃
(72)【発明者】
【氏名】阿部 順一郎
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−196337(JP,A)
【文献】 特開2001−334242(JP,A)
【文献】 特開平09−079542(JP,A)
【文献】 特開平08−170817(JP,A)
【文献】 特開2011−068859(JP,A)
【文献】 特開2005−247992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23G,C10J,C10K,B09B,C02F,C10B
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解ガス化炉でバイオマスを熱分解してガス化し、
前記バイオマスが熱分解することによって連続的に生成される熱分解ガスと炭化物を耐熱性に優れた固気分離部で分離し、
前記熱分解ガス化炉の運転中に、分離後の前記熱分解ガスに酸素を含む酸素含有ガスを前記固気分離部において供給し、前記酸素含有ガスとともに前記熱分解ガスを熱分解ガスラインの配管を通じて燃焼炉に導入するようにしたことを特徴とする熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法。
【請求項2】
請求項1記載の熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法において、
前記酸素含有ガスが、酸素濃度が15体積%以上のガスであることを特徴とする熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法において、
前記熱分解ガスに前記酸素含有ガスを混合した後の混合ガスの温度が500〜650℃となるように、前記酸素含有ガスを前記熱分解ガスに供給することを特徴とする熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法において、
前記熱分解ガスの完全燃焼に要する前記酸素含有ガスの理論供給量に対する前記酸素含有ガスの実供給量の比が0.1以下となるように、前記酸素含有ガスを前記熱分解ガスに供給することを特徴とする熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法において、
酸素濃度が異なる前記酸素含有ガスを用意し、酸素濃度が低い酸素含有ガスと酸素濃度が高い酸素含有ガスを選択的に前記熱分解ガスに供給することを特徴とする熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法。
【請求項6】
バイオマスを熱分解してガス化する熱分解ガス化炉と、
前記バイオマスが熱分解することによって連続的に生成される熱分解ガスと炭化物を分離する耐熱性に優れた固気分離部と、
前記熱分解ガス化炉の運転中に稼働して、分離後の前記熱分解ガスに酸素を含む酸素含有ガスを前記固気分離部において供給する酸素含有ガス供給手段と、
熱分解ガスラインの配管を通じて前記酸素含有ガスとともに前記熱分解ガスが導入され、前記熱分解ガスを燃焼処理する燃焼炉とを備えることを特徴とする熱分解ガス化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥や木質バイオマスなどのバイオマスをガス化する熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法及び熱分解ガス化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥や木質バイオマスなどのバイオマスを熱分解ガス化システムでガス化し、従来、廃棄物として扱われていたバイオマスを資源化して有効利用することが求められている。例えば、下水汚泥を熱分解ガス化システムでガス化するとともに炭化して炭化物を製造し、この炭化物を発電用の炭化燃料として利用することが提案、実用化されている。
【0003】
そして、この下水汚泥から炭化燃料を製造する炭化システムには、下水汚泥(脱水汚泥)を乾燥処理する乾燥処理設備と、熱分解ガス化炉を用いて乾燥汚泥を低酸素雰囲気で加熱・熱分解してガス化するとともに炭化物を生成し、さらに燃焼炉を用いて熱分解ガスを高温でクリーン燃焼・燃焼脱臭処理する熱分解ガス化システム(熱分解ガス化設備)と、燃焼排ガスから廃熱を回収したり、排ガスに対し、脱硫、脱塩、冷却・減湿などの処理を行なうための排ガス処理設備とを備えて構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、この種の炭化システムでは、排ガス処理設備で回収した廃熱や熱分解ガス化システムの燃焼炉からの廃熱を乾燥処理設備や熱分解ガス化システムの熱分解ガス化炉に送り、下水汚泥の乾燥や炭化の熱源として利用するようにしている。さらに、乾燥処理設備から排出される排ガスを熱分解ガス化システムの燃焼炉に送り、熱分解ガスとともに高温でクリーン燃焼・燃焼脱臭処理するようにしている。
【0005】
また、熱分解ガス化システムは、熱分解ガス化炉によって、温度300〜600℃、酸素を遮断した雰囲気下で下水汚泥(バイオマス)を熱分解し、この熱分解ガス化炉に並設された固気分離部によって炭化物と熱分解ガスを分離し、分離した熱分解ガスを、熱分解ガスラインの配管を通じて燃焼炉に送って燃焼処理するように構成されている。
【0006】
一方、このように構成した熱分解ガス化システムでは、熱分解ガス化炉から燃焼炉に送られる熱分解ガス中のタール等の熱分解成分が重縮合で高分子化して気相析出し(凝縮し)、熱分解ガスラインの配管の内壁や配管の途中に設置したファンのインペラなどに熱分解付着物として付着堆積してしまう。なお、熱分解付着物の発生量は、熱分解ガスの熱分解成分濃度と反応時間の一次関数で表すことができる。そして、連続運転によって、熱分解付着物の付着堆積量が増大してゆくと、配管の閉塞、また、インペラのバランスの悪化に伴うファン出力の増大、振動の増加などが発生する。このため、従来、熱分解ガス化システムを定期的に停止させ、熱分解ガスラインの配管内部を清掃して熱分解付着物を除去する必要があった。
【0007】
これに対し、本願の発明者らは、ファンの出力が基準値を超えた場合、あるいは熱分解ガス化システムを一定期間運転した段階で、熱分解ガス化システムの運転を停止し、熱分解ガス化炉と燃焼炉との間に設けられる熱分解ガスラインの配管に、不活性ガスと酸素の混合ガスを流通させることによって、付着堆積した熱分解付着物を燃焼させて除去する熱分解付着物除去方法の出願を既に行っている(特許文献1参照)。
【0008】
また、この熱分解ガス化システムの運転を停止して行なう熱分解付着物除去方法(オフラインデコーキングによる熱分解付着物除去方法)においては、ガス温度500℃以上、酸素濃度が5体積%以上13体積%以下の混合ガスを熱分解ガスラインに流通させる。これにより、部分燃焼で熱分解付着物が酸化され、固体から気体への相変化が促進され、効率的に熱分解付着物を燃焼させて除去することが可能になる。また、この熱分解付着物除去方法においては、熱分解ガス化システムの運転を停止した熱分解ガスラインに供給する混合ガスの酸素濃度を13体積%以下にすることで、熱分解付着物が暴走的に燃焼したり、熱分解付着物の燃焼によって生じた一酸化炭素、水素、メタンなどによって爆発が発生することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−68859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の特許文献1の熱分解付着物除去方法は、設備の連続運転中に付着した熱分解付着物を、5体積%以上13体積%以下の低酸素濃度、500〜650℃の温度範囲で、効率よく燃焼除去することができ、従来と比較し、設備の清掃頻度を大幅に低減することが可能であるが、やはり、熱分解付着物除去中は設備を停止する必要がある。
【0011】
特に下水汚泥を対象とした炭化システムの場合、設備停止期間中でも下水汚泥の発生を制限することができないため、熱分解付着物除去中に発生する汚泥を貯留する設備が別途必要になるなど、維持管理上改善すべき課題が生じる。このため、設備を停止することなく、連続運転中に熱分解付着物を除去できる手法、また、熱分解付着物の発生そのものを抑止できる手法が強く望まれていた。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、設備を停止することなく、連続運転中に熱分解付着物の発生を抑止することを可能にした熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法及び熱分解ガス化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法は、熱分解ガス化炉でバイオマスを熱分解してガス化し、前記バイオマスが熱分解することによって連続的に生成される熱分解ガスと炭化物を耐熱性に優れた固気分離部で分離し、前記熱分解ガス化炉の運転中に、分離後の前記熱分解ガスに酸素を含む酸素含有ガスを前記固気分離部において供給し、前記酸素含有ガスとともに前記熱分解ガスを熱分解ガスラインの配管を通じて燃焼炉に導入するようにしたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の熱分解ガス化システムは、バイオマスを熱分解してガス化する熱分解ガス化炉と、前記バイオマスが熱分解することによって連続的に生成される熱分解ガスと炭化物を分離する耐熱性に優れた固気分離部と、前記熱分解ガス化炉の運転中に稼働して、分離後の前記熱分解ガスに酸素を含む酸素含有ガスを前記固気分離部において供給する酸素含有ガス供給手段と、熱分解ガスラインの配管を通じて前記酸素含有ガスとともに前記熱分解ガスが導入され、前記熱分解ガスを燃焼処理する燃焼炉とを備えることを特徴とする。
【0015】
上記の発明においては、熱分解ガス化システムの運転中に、耐熱性に優れた固気分離部で炭化物と分離した後の熱分解ガスに酸素含有ガスを供給すると、この酸素含有ガス中の酸素によって1000〜1400℃程度の高温の火炎(フレーム)を形成することができ、この火炎によって熱分解ガス中のタール等の熱分解成分を熱分解(吸熱反応)させることができる。これにより、熱分解ガスの熱分解成分濃度を低減することができ、この熱分解ガスを燃焼炉に導入するための熱分解ガスラインで熱分解付着物が発生することを抑止することが可能になる。
この発明においては、熱分解ガスに酸素含有ガスを供給し、1000〜1400℃程度の高温の火炎を形成して、熱分解ガス中の熱分解成分を熱分解させるため、例えば、熱分解ガスラインの配管に酸素含有ガスを供給し、この配管内で火炎を形成してしまうと、配管に焼損、溶損が発生するおそれがあるのに対し、耐熱性に優れた固気分離部で酸素含有ガスを供給して熱分解成分を熱分解させることで、熱分解ガスラインに損傷が生じることを確実に防止できる。
【0016】
また、本発明の熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法においては、前記酸素含有ガスが、酸素濃度が15体積%以上のガスであることが望ましい。
【0017】
ここで、例えば、乾燥処理後の下水汚泥で15体積%程度、木材チップなどの木質バイオマスで20体積%程度の水分(HO)が含まれている。このため、これら下水汚泥や木質バイオマスなどのバイオマスを熱分解ガス化炉でガス化したとき、30体積%以上の水分を含んだ熱分解ガスが生成される。
【0018】
そして、この発明においては、熱分化ガス化システムを運転中に、酸素含有ガスを熱分解ガスに供給するようにしている。このため、上記のようなバイオマスをガス化し、水分を多量に含んだ熱分解ガスに酸素含有ガスを供給することになる。これにより、熱分解ガス中の水分によって爆発を引き起こす限界酸素濃度が高くなり、15体積%以上の高酸素濃度の酸素含有ガスを供給しても暴走的燃焼や爆発が発生することがなく、好適に火炎を形成させて熱分解ガス中の熱分解成分を熱分解させることが可能になる。
【0019】
さらに、本発明の熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法においては、前記熱分解ガスに前記酸素含有ガスを混合した後の混合ガスの温度が500〜650℃となるように、前記酸素含有ガスを前記熱分解ガスに供給することがより望ましい。
【0020】
この発明においては、例えば熱分解ガスラインの配管やファンなどのステンレス製の構成部材の耐熱温度が700〜800℃程度であるのに対し、熱分解ガスに酸素含有ガスを混合した後の混合ガスの温度が500〜650℃となるように酸素含有ガスを熱分解ガスに供給するようにしているため、熱分解ガスラインの構成部材の耐熱温度を上回ることがないようにしながら、熱分解ガスラインで熱分解付着物が発生することを抑止することが可能になる。
【0021】
また、本発明の熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法においては、前記熱分解ガスの完全燃焼に要する前記酸素含有ガスの理論供給量に対する前記酸素含有ガスの実供給量の比が0.1以下となるように、前記酸素含有ガスを前記熱分解ガスに供給することがさらに望ましい。
【0022】
この発明においては、熱分解ガスの完全燃焼に要する酸素含有ガスの理論供給量に対する酸素含有ガスの実供給量の比(いわゆる空気比と同義)が著しく低い0.1以下となるように、熱分解ガスに酸素含有ガスを供給するようにしても、火炎を形成することができ、確実に熱分解ガスの熱分解成分濃度を低減することができる。
【0025】
また、本発明の熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法においては、酸素濃度が異なる前記酸素含有ガスを用意し、酸素濃度が低い酸素含有ガスと酸素濃度が高い酸素含有ガスを選択的に前記熱分解ガスに供給することがより望ましい。
【0026】
ここで、酸素含有ガスを熱分解ガスに供給して形成した火炎による熱分解ガス中の熱分解成分の熱分解は、部分燃焼による熱分解であり、熱分解ガス中の全ての熱分解成分を分解することは困難である。このため、熱分解ガスラインを燃焼炉に向けて流通し、熱分解ガスが低温化すると、残った熱分解成分が析出し、配管などに付着、堆積するおそれがある。
【0027】
これに対し、酸素濃度が高い酸素含有ガスを、例えば定期的または必要に応じ、適宜選択的に熱分解ガスに供給すると、火炎の形成で消費されずに残った酸素が熱分解ガスラインの下流側に送られ、この残った酸素と反応して、熱分解ガスラインの下流側に付着堆積した熱分解付着物を分解除去することが可能になる。すなわち、酸素濃度が高い酸素含有ガスを適宜選択的に熱分解ガスに供給すると、この酸素含有ガス中の酸素によってオフラインデコーキングのような作用効果が得られ、設備を停止することなく、連続運転中に熱分解ガスラインに付着堆積した熱分解付着物を除去することが可能になる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法及び熱分解ガス化システムにおいては、熱分解ガス化システムの運転中に、固気分離部で炭化物と分離した後の熱分解ガスに酸素含有ガスを供給すると、この酸素含有ガス中の酸素によって高温の火炎(フレーム)を発生させることができ、この火炎によって熱分解ガス中のタール等の熱分解成分を燃焼分解することができる。これにより、熱分解ガスを燃焼炉に導入するための熱分解ガスラインで熱分解付着物が発生することを抑止することが可能になる。
【0029】
よって、本発明の熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法及び熱分解ガス化システムによれば、設備を停止することなく、連続運転中に熱分解付着物の発生そのものを抑止することができる。そして、このように熱分解付着物の発生を抑止できることにより、配管の閉塞、インペラのバランスの悪化に伴うファン出力の増大、振動の増加などの発生を防止でき、メンテナンス頻度を大幅に低減し、高効率で熱分解ガス化システムを運転することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態に係る炭化システム(熱分解ガス化システム)を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法を用いた実証実験の条件、結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図1及び図2を参照し、本発明の一実施形態に係る熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法及び熱分解ガス化システムについて説明する。ここで、本実施形態では、本発明に係る熱分解ガス化システムが、下水汚泥から発電用の炭化燃料(炭化物)を製造する炭化システムの熱分解ガス化設備であるものとして説明を行う。なお、本発明は、勿論、下水汚泥に限らず、木質バイオマスなどの他のバイオマスをガス化するための熱分解ガス化システムなど、あらゆる熱分解ガス化システムに適用可能である。
【0032】
本実施形態の炭化システム1は、図1に示すように、下水汚泥(脱水汚泥、バイオマス)S1を乾燥処理する乾燥処理設備2と、乾燥処理した後の乾燥汚泥(バイオマス)S2をガス化する熱分解ガス化システム(熱分解ガス化設備)Aと、熱分解ガスG1の燃焼排ガスG2から廃熱を回収するとともに、この燃焼排ガスG2を処理するための排ガス処理設備3とを備えて構成されている。
【0033】
乾燥処理設備2は、例えば撹拌機付熱風乾燥機など、直接下水汚泥S1を乾燥処理する直接乾燥方式の乾燥機4を備えて構成されている。この乾燥処理設備2では、例えば、下水汚泥S1を含水率15%程度に乾燥処理する。ちなみに、木材チップなどの木質バイオマスS1は、含水率20%程度に乾燥処理される。すなわち、この乾燥処理設備2で乾燥処理しても、処理後の乾燥汚泥(バイオマス)S2には水分がある程度含まれている。
【0034】
次に、本実施形態の熱分解ガス化システムAは、例えば間接加熱式ロータリーキルンなど、乾燥処理設備2で乾燥処理した後の乾燥汚泥S2を低酸素雰囲気で加熱・熱分解してガス化するとともに炭化物Cを生成する熱分解ガス化炉5と、熱分解ガス化炉5で生成した熱分解ガス(PG)G1を高温でクリーン燃焼・燃焼脱臭処理する燃焼炉6とを備えて構成されている。
【0035】
さらに、この熱分解ガス化システムAは、熱分解ガス化炉5に一体に並設され、熱分解ガスG1と炭化物Cを分離する固気分離部7を備えるとともに、固気分離部5から燃焼炉6に熱分解ガスG1を導入するための熱分解ガスライン8を備えて構成されている。また、熱分解ガスライン8は、固気分離部7の上端部側に一端を接続し、他端を燃焼炉6の上端部側の導入口(バーナ部)に接続して配設される配管9と、配管9の途中に配設されたファン10とを備えて構成されている。なお、ファン10は、下水汚泥などカロリーが低いバイオマスS2をガス化する際に生じやすいプラントリークエアーを防止するように、圧力調整用として設けられている。
【0036】
さらに、本実施形態の熱分解ガス化システムAにおいては、固気分離部7の上端部側に、例えば酸素含有ガス供給ノズルなどの酸素含有ガス供給手段11が接続して設けられ、この酸素含有ガス供給手段11によって、固気分離部7で分離した後の熱分解ガスG1に酸素を含む酸素含有ガス(改質剤)G3を供給するように構成されている。これにより、酸素含有ガスG3と熱分解ガスG1を混合した状態の混合ガスG4が固気分離部7から熱分解ガスライン8を流通する形になり、燃焼炉6に導入される。
【0037】
次に、排ガス処理設備3は、燃焼炉6から排出された燃焼排ガスG2から廃熱を回収するための熱交換器15と、排ガスG2に対して脱硫、脱塩、冷却・減湿などの処理を行ない、さらに必要に応じ、湿式電気集塵機を用いて煤塵除去処理を行なう排ガス処理塔16と、処理後の排ガスG5を外部に排出する煙突17とを備えて構成されている。
【0038】
また、本実施形態の炭化システム1では、排ガス処理設備3で回収した廃熱T1や熱分解ガス化システムAの燃焼炉6からの廃熱T2を、乾燥処理設備2の乾燥機4や熱分解ガス化システムAの熱分解ガス化炉5に送り、下水汚泥S1、S2の乾燥や炭化の熱源として利用できるように構成されている。さらに、乾燥処理設備2から排出される排ガスG6を熱分解ガス化システムAの燃焼炉6に送り、熱分解ガスG1とともに高温でクリーン燃焼・燃焼脱臭処理できるように構成されている。
【0039】
次に、上記構成からなる本実施形態の炭化システム1の熱分解ガス化システムAにおいて、熱分解付着物発生を抑止する方法について説明するとともに、本実施形態の熱分解付着物発生抑止方法及び熱分解ガス化システムAの作用効果について説明する。
【0040】
まず、本実施形態の熱分解ガス化システムAの運転時には、熱分解ガス化炉5で下水汚泥S2を熱分解してガス化し、この熱分解によって連続的に生成される熱分解ガスG1と炭化物Cが固気分離部7で分離され、固気分離部7で分離した後の熱分解ガスG1が熱分解ガスライン8の配管9を通じて燃焼炉6に導入される。
【0041】
そして、本実施形態の熱分解ガス化システムAにおける熱分解付着物発生抑制方法では、上記のように熱分解ガス化システムAを運転している状態で、酸素含有ガス供給手段11によって固気分離部7で分離した後の熱分解ガスG1に酸素を含む酸素含有ガスG3を供給し、酸素含有ガスG3を熱分解ガスG1に混合した混合ガスG4が熱分解ガスライン8の配管9を通じて燃焼炉6に導入されるようにする。
【0042】
また、このとき、本実施形態では、酸素含有ガスG3として、酸素濃度が15体積%以上のガスを使用する。そして、熱分解ガス化システムAの運転中に、この酸素含有ガスG3を固気分離部7で熱分解ガスG1に供給すると、この酸素含有ガスG3中の酸素によって1000〜1400℃程度の高温の火炎(フレーム)が形成され、この火炎によって熱分解ガスG1中のタール等の熱分解成分が熱分解(吸熱反応)する。これにより、熱分解ガスG1の熱分解成分濃度が減少し、熱分解成分濃度が低い熱分解ガスG1(混合ガスG4)が固気分離部7から熱分解ガスライン8を流通して燃焼炉6に導入されることになり、熱分解ガスライン8で熱分解付着物が発生することが抑止される。
【0043】
また、例えば、熱分解ガスライン8の配管9に酸素含有ガスG3を供給し、この配管9内で火炎を形成して熱分解ガスG1中の熱分解成分を分解するようにした場合には、配管9に焼損、溶損が発生するおそれがあるのに対し、本実施形態では、固気分離部7で酸素含有ガスG3を熱分解ガスG1に供給し、耐熱性に優れた固気分離部7で火炎を形成して熱分解ガスG1中の熱分解成分を熱分解させるようにしているため、熱分解ガスライン8に損傷が生じることがない。
【0044】
さらに、本実施形態では、運転中に、酸素含有ガスG3をラインに供給するようにしている。そして、このとき、乾燥処理設備2で乾燥処理した後の乾燥汚泥(バイオマス)S2には水分が含まれているため、この乾燥汚泥S2を熱分解ガス化炉5でガス化したとき、30体積%以上の水分を含んだ熱分解ガスG1が生成され、この水分を多量に含んだ熱分解ガスG1に酸素含有ガスG3を供給することになる。これにより、熱分解ガスG1中の水分によって爆発を引き起こす限界酸素濃度を高くすることができ、本実施形態のように15体積%以上の高酸素濃度の酸素含有ガスG3を供給しても暴走的燃焼や爆発が発生することがない。
【0045】
また、本実施形態では、酸素含有ガスG3の酸素濃度、供給量は、熱分解ガスG1に酸素含有ガスG3を混合した後の混合ガスG4(熱分解ガスG1)の温度が500〜650℃となるように調整する。例えば熱分解ガスライン8の配管9やファン10などのステンレス製の構成部材の耐熱温度は700〜800℃程度である。このため、熱分解ガスG1に酸素含有ガスG3を混合した後の混合ガスG4の温度が500〜650℃となるように酸素含有ガスG3を熱分解ガスG1に供給し、熱分解ガスライン8の構成部材の耐熱温度を上回ることがないようにする。
【0046】
そして、例えば、本実施形態のように下水汚泥S2をガス化して生成した熱分解ガスG1に、15体積%以上の高酸素濃度の酸素含有ガスG3を供給する場合に、熱分解ガスG1の完全燃焼に必要な酸素含有ガスG3の理論供給量に対する酸素含有ガスG3の実供給量の比(空気比)が0.1以下となるように、酸素含有ガスG3を熱分解ガスG1に供給すると、確実に、火炎が形成され、且つ混合ガスG4の温度が500〜650℃となる。
【0047】
言い換えると、本実施形態の熱分解ガス化システムAにおける熱分解付着物発生抑止方法及び熱分解ガス化システムAにおいては、熱分解ガス化システムAの運転中に、0.1以下の非常に低い空気比となるように少量の酸素含有ガスG3を熱分解ガスG1に供給するだけで、熱分解ガスG1の熱分解成分濃度が減少し、構成部材に損傷を防止しつつ、熱分解ガスライン8で熱分解付着物が発生することを抑止することができるのである。
【0048】
ここで、実際の炭化システム1を使用し、熱分解ガス化システムAの固気分離部7から熱分解ガスG1に酸素含有ガスG3を供給して、熱分解ガスG1(混合ガスG4)の温度、火炎(フレーム)の形成状態、熱分解ガス中の熱分解成分濃度(タール濃度)を確認した試験結果について説明する。
【0049】
この試験では、図2(a)、(b)、(c)に示すように、酸素含有ガスG3の供給量を50mN/hの状態で、酸素濃度を5体積%ずつ20体積%まで段階的に増加させ、熱分解ガスG1の温度の変化を確認するとともに火炎の形成状態を確認した。また、酸素濃度20%(≒21%:空気)の酸素含有ガスG3の供給量を50mN/h〜100mN/hまで段階的に増加させ、熱分解ガスG1の温度の変化を確認した。さらに、酸素濃度20%の酸素含有ガスG3を100mN/hで熱分解ガスG1に供給した場合と、酸素含有ガスG3を供給していない場合の両ケースに対し、固気分離部7の熱分解ガスライン8への出口、ファン10の入口、燃焼炉6の入口でそれぞれ、熱分解成分濃度を確認した。
【0050】
この結果、図2(a)、(b)、(c)に示すように、まず、酸素濃度を0体積%〜10体積%まで5体積%ずつ増加させて酸素含有ガスG3を供給すると、酸素の冷却作用によって熱分解ガスG1の温度が徐々に低下してしまうことが確認された。一方、酸素濃度を15体積%〜20体積%まで5体積%ずつ増加させ、酸素濃度が15体積%以上の酸素含有ガスG3を供給すると、熱分解ガスG1の温度が上昇し、20%の酸素含有ガスG3の供給量を50mN/h〜100mN/hまで段階的に増加させると、熱分解ガスG1の温度が約560℃から600℃に上昇することが確認された。
【0051】
また、このように酸素濃度が15体積%以上の酸素含有ガスG3を供給すると、酸素含有ガス供給手段(酸素含有ガス供給ノズル)11に設置した覗き窓から火炎が形成されることが確認された。
【0052】
そして、表1に示すように、酸素含有ガスG3を供給していない場合には、熱分解成分濃度が、固気分離部7の熱分解ガスライン8への出口で780g/mであった。これに対し、酸素濃度21%の酸素含有ガスG3を熱分解ガスG1に供給した場合には、固気分離部7の熱分解ガスライン8への出口で380g/mとなり、設備の運転中に酸素含有ガスG3を熱分解ガスG1に供給することで、熱分解ガスG1中の熱分解成分が熱分解し、大幅に熱分解成分濃度が低減することが確認、実証された。
【0053】
【表1】
【0054】
したがって、本実施形態の熱分解ガス化システムAにおける熱分解付着物発生抑止方法及び熱分解ガス化システムAにおいては、熱分解ガス化システムAの運転中に、固気分離部7で炭化物Cと分離した後の熱分解ガスG1に酸素含有ガスG3を供給すると、この酸素含有ガスG3中の酸素によって1000〜1400℃程度の高温の火炎を形成することができ、この火炎によって熱分解ガスG1中のタール等の熱分解成分を熱分解させることができる。これにより、熱分解ガスG1の熱分解成分濃度を低減することができ、この熱分解ガスG1を燃焼炉6に導入するための熱分解ガスライン8で熱分解付着物が発生することを抑止することが可能になる。
【0055】
よって、本実施形態の熱分解付着物発生抑止方法及び熱分解ガス化システムAによれば、設備を停止することなく、連続運転中に熱分解付着物の発生そのものを抑止することができる。そして、このように熱分解付着物の発生を抑止できることにより、配管9の閉塞、インペラのバランスの悪化に伴うファン10の出力の増大、振動の増加などの発生を防止でき、メンテナンス頻度を大幅に低減し、高効率で熱分解ガス化システムAを運転することが可能になる。
【0056】
また、本実施形態の熱分解付着物発生抑止方法においては、熱分化ガス化システムAを運転中に、酸素含有ガスG3を熱分解ガスG1に供給するようにしているため、水分を多量に含んだ熱分解ガスG1に酸素含有ガスG3を供給することになり、熱分解ガスG1中の水分によって爆発を引き起こす限界酸素濃度が高くなる。これにより、15体積%以上の高酸素濃度の酸素含有ガスG3を供給しても暴走的燃焼や爆発が発生することがなく、好適に火炎を形成させて熱分解ガスG1中の熱分解成分を熱分解させることが可能になる。
【0057】
さらに、本実施形態の熱分解付着物発生抑止方法においては、熱分解ガスG1に酸素含有ガスG3を混合した後の混合ガスG4の温度が500〜650℃となるように酸素含有ガスG3を熱分解ガスG1に供給するようにしているため、熱分解ガスライン8の構成部材の耐熱温度を上回ることがないようにしながら、熱分解ガスライン8で熱分解付着物が発生することを抑止することが可能になる。
【0058】
また、本実施形態の熱分解付着物発生抑止方法においては、熱分解ガスG1の完全燃焼に要する酸素含有ガスG3の理論供給量に対する酸素含有ガスG3の実供給量の比(空気比)が著しく低い0.1以下となるように、熱分解ガスG1に酸素含有ガスG3を供給するようにしても、火炎を形成することができ、確実に熱分解ガスG1の熱分解成分濃度を低減することができる。
【0059】
さらに、本実施形態の熱分解付着物発生抑止方法においては、例えば、熱分解ガスライン8の配管9に酸素含有ガスG3を供給し、この配管9内で火炎を形成してしまうと、配管9に焼損、溶損が発生するおそれがあるのに対し、固気分離部7で酸素含有ガスG3を供給して熱分解成分を熱分解させることで、熱分解ガスライン8に損傷が生じることを確実に防止できる。
【0060】
以上、本発明に係る熱分解ガス化システムにおける熱分解付着物発生抑止方法及び熱分解ガス化システムの一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0061】
例えば、本実施形態では、熱分解ガス化炉5に固気分離部7が一体に設けられているものとしたが、固気分離部7は熱分解ガス化炉5と分離して設けられていてもよく、この場合においても、勿論、本実施形態と同様に固気分離部7で酸素含有ガスG3を熱分解ガスG1に供給することで、本実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0062】
また、複数個所で熱分解ガスG1に酸素含有ガスG3を供給するようにしてもよい。この場合には、効率的且つ効果的に熱分解ガスG1中の熱分解成分を分解することができ、熱分解付着物の発生をより確実に抑止することが可能になる。
【0063】
さらに、酸素濃度が異なる酸素含有ガスG3を用意し、酸素濃度が低い酸素含有ガスG3と酸素濃度が高い酸素含有ガスG3を選択的に熱分解ガスG1に供給するようにしてもよい。
【0064】
ここで、酸素含有ガスG3を熱分解ガスG1に供給して形成した火炎による熱分解ガスG1中の熱分解成分の熱分解は、部分燃焼による熱分解であり、熱分解ガスG1中の全ての熱分解成分を完全に分解することは難しい。このため、熱分解ガスライン8を燃焼炉6に向けて流通し、熱分解ガスG1(混合ガスG4)が低温化すると、残った熱分解成分が析出し、配管9などに付着、堆積するおそれがある。
【0065】
これに対し、酸素濃度が高い酸素含有ガスG3を、例えば定期的または必要に応じ、適宜選択的に熱分解ガスG1に供給すると、火炎の形成で消費されずに残った酸素が熱分解ガスライン8の下流側に送られ、この残った酸素と反応して、熱分解ガスライン8の下流側に付着堆積した熱分解付着物を分解除去することが可能になる。すなわち、酸素濃度が高い酸素含有ガスG3を適宜選択的に熱分解ガスG1に供給すると、この酸素含有ガスG3中の酸素によってオフラインデコーキングのような作用効果が得られ、設備を停止することなく、連続運転中に熱分解ガスライン8に付着堆積した熱分解付着物を除去することが可能になる。
【符号の説明】
【0066】
1 炭化システム
2 乾燥処理設備
3 排ガス処理設備
4 乾燥機
5 熱分解ガス化炉
6 燃焼炉
7 固気分離部
8 熱分解ガスライン
9 配管
10 ファン
11 酸素含有ガス供給手段
15 熱交換器
16 排ガス処理塔
17 煙突
A 熱分解ガス化システム(熱分解ガス化設備)
C 炭化物
G1 熱分解ガス
G2 燃焼排ガス
G3 酸素含有ガス
G4 混合ガス
G5 排ガス
G6 排ガス
S1 脱水汚泥(下水汚泥、バイオマス)
S2 乾燥汚泥(下水汚泥、バイオマス)
T1 廃熱
T2 廃熱
図1
図2