(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
素材板を押し込んで多角形容器の内面形状を成形するパンチと、前記パンチに押し込まれた素材板を流入させる多角形の穴を有するダイスと、前記パンチを挿入する多角形の穴を有し、前記ダイスの穴との周囲において素材板を抑えるブランクホルダーとを備える絞り加工用金型であって、
前記素材板は金属箔の両面に熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせたラミネート材であり、
前記ダイスの多角形の穴の直線部において、挟み付け面と穴の周壁との肩部の曲率半径がコーナー部における肩部の曲率半径よりも大きく形成された曲率半径拡大部を有し、
前記曲率半径拡大部において、曲率半径が最大となる曲率半径最大部の曲率半径が0.5〜4mmであることを特徴とする絞り加工用金型。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記第一外装材(53)は、四角形容器(41)の内部容積を確保するために、側壁部(46a)(46b)が高く、かつ2つの側壁部(46a)(46b)と底壁部(47)とが合わさった三面コーナー部(48)が直角に近い角度で曲がっていることが求められる。
【0008】
しかしながら、従来の絞り加工においては上記形状に成形しようとすると三面コーナー部(48)が破断するため、所期する形状への成形が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した従来の絞り加工における素材板の変形挙動を解明し、これにより高い側壁部と可及的に直角に近い三面コーナー部を成形できる絞り加工用金型を提供するものである。
【0010】
即ち、本発明は下記[1]〜[3]に記載の構成を有する。
【0011】
[1]素材板を押し込んで多角形容器の内面形状を成形するパンチと、前記パンチに押し込まれた素材板を流入させる多角形の穴を有するダイスと、前記パンチを挿入する多角形の穴を有し、前記ダイスの穴との周囲において素材板を抑えるブランクホルダーとを備える絞り加工用金型であって、
前記ダイスの多角形の穴の直線部において、挟み付け面と穴の周壁との肩部の曲率半径がコーナー部における肩部の曲率半径よりも大きく形成された曲率半径拡大部を有することを特徴とする絞り加工用金型。
【0012】
[2]前記曲率半径拡大部において、曲率半径が最大となる曲率半径最大部の曲率半径が0.5〜4mmである前項1に記載の絞り加工用金型。
【0013】
[3]前記素材板は金属箔と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合わせたラミネート材である前項1または2に記載の絞り加工用金型。
【発明の効果】
【0014】
上記[1]に記載の発明によれば、ダイスの多角形穴の肩部の形状に関し、直線部において、曲率半径がコーナー部よりも大きく形成された曲率半径拡大部を有しているので、直線部のフランジ部がダイスの穴に引き込まれ易く、従来の金型よりも引き込み量が大きくなる。
【0015】
多角形容器の絞り加工においては、コーナー部では材料が圧縮されて引き込まれ難いために、側壁部を立ち上げる際には開口縁と底部とを結ぶ方向の引張力(F1)が生じる。一方、直線部においては、パンチの中心から放射方向に引張力が生じる。放射方向の引張力は材料を放射方向に伸ばす力であり、材料が放射方向に伸びると周方向には縮もうとするので、周方向においては材料をコーナー部から直線部に引き寄せる引張力(F3)が生じている。従って、多角形容器の三面コーナー部には(F1、F3)の二軸方向に引張力が生じているので、三面コーナー部が最も破断が発生し易い箇所である。
【0016】
ところが、本発明の金型では直線部の引き込み量が大きくなるので、放射方向の引張力が小さくなり、それに伴って周方向の引張力(F3)も小さくなる。三面コーナー部に発生する二軸方向に引張力(F1、F3)のうち、一方の引張力(F3)が小さくなることによって、三面コーナー部の破断の発生が抑制される。ひいては、絞り加工において、多角形容器の側壁部をより高く、三面コーナー部の角度を可及的に直角に近づけることができる。
【0017】
上記[2]に記載の各発明によれば、直線部における引き込み量を大きくして三面コーナー部における破断の発生を抑制する効果が特に大きい。
【0018】
上記[3]に記載の発明によれば、ラミネート材を成形することによって、側壁部が高くかつ三面コーナー部が可及的に直角に近い電池用外装材を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[本発明にかかる絞り加工用金型]
図1は本発明にかかる絞り加工用金型の一実施形態を示す分解斜視図であり、
図2は絞り加工用金型を構成するダイスの平面図である。
図3は
図1の絞り加工用金型(1)を用いた素材板の加工状態を示す断面図であり、
図4A〜
図4Cは絞り加工品(40)である。
図5は電池用外装材(50)であり、前記絞り加工品(40)は立体形状の第二外装材(51)を作製するための中間素材である。
【0021】
絞り加工用金型(1)は、素材板(2)を押し込んで四角形容器(41)の内面形状を成形するパンチ(10)と、前記パンチ(10)に押し込まれた素材板(2)を流入させる四角形の穴(21)をするダイス(20)と、前記ダイス(20)の穴(21)と同寸の四角形の穴(31)を有し、穴(21)(31)の周りで素材板(2)を抑えるブランクホルダー(30)とを備えている。
【0022】
図1および
図2に示すように、前記ダイス(20)の穴(21)およびブランクホルダー(30)の穴(31)の開口縁は挟み付け面(27)(37)と穴(21)(31)の周壁(21a)(31a)との肩部の頂点であり、4つのコーナー部(22)(32)と2対の平行な直線部(23)(24)(33)(34)とで形成されている。また、
図2に示すダイス(20)の挟み付け面(27)において、点線は直線部(23)(24)に面する直線部領域(A1)(A2)とコーナー部(22)に面するコーナー部領域(A3)との境界である。以下において、開口縁を示す符号(22)(23)(24)を肩部を示す場合にも共通して用いる。
【0023】
前記ダイス(20)の肩部は素材板(2)の引き込みを助長するために曲面で形成されているが、その曲率半径は周方向において一定ではなく、直線部(23)(24)とコーナー部(22)とで異なっている。コーナー部(22)における曲率半径(R
C)が最も小さく曲率半径最小部(70)を形成し、直線部(23)(24)の周方向の中央部の曲率半径(R
S)が最も大きく曲率半径最大部(71)を形成している。また、直線部(23)(24)においてコーナー部(22)に隣接している部分は最大曲率半径(R
S)から最小曲率半径(R
C)に曲率半径が漸次縮小する曲率半径変化部(72)であり、曲率半径変化部(72)によって肩部(22)(23)(24)を形成する曲面は周方向において段差が生じることなく滑らかに形成されている。ひいては、加工品(40)における開口縁の丸みも滑らかなものとなる。前記曲率半径最大部(71)および曲率半径変化部(72)はいずれもコーナー部(22)の曲率半径(R
C)よりも大きいので、これらが本発明における曲率半径拡大部に対応している。従って、前記曲率半径拡大部の曲率半径(R)はR
C<R≦R
Sの関係である。前記曲率半径拡大部における曲率半径(R)の最大値、即ち曲率半径最大部(71)の曲率半径(R
S)の好適範囲については後に詳述する。
【0024】
[絞り加工における変形挙動]
絞り加工は、ダイス(20)の穴(21)に素材板(2)をパンチ(10)で押し込み、パンチ(10)からの引張力によって素材板(2)のフランジ部(45a)(45b)を穴(21)内に引き込むことによって側壁部(46a)(46b)を形成する加工方法である。
図4A〜4Cに示す絞り加工品(40)において、四角形容器(41)の開口縁(42)は1/4円のコーナー部(43)と一対の長辺および一対の短辺からなる直線部(44a)(44b)とによって形成され、絞り加工における変形挙動はコーナー部(43)と直線部(44a)(44b)とで異なっている。即ち、コーナー部(43)ではフランジ部(45a)に対してパンチ(10)からの半径方向の引張力によって円周方向に圧縮力が生じることによって材料が集中し、集中した材料が絞り抵抗になるために殆ど引き込まれない。一方、直線部(44a)(44b)はパンチ(10)の肩部とダイス(20)の肩部とによる曲げ変形であるから、パンチ(10)からの引張力に対して絞り抵抗が小さくフランジ部(45b)が引き込まれやすい。従って、四角形の素材板(2)から四角形容器(41)を絞り成形した加工品(40)は、材料が多く引き込まれる直線部(44a)(44b)の中央部でフランジ部(45b)の幅が狭くなっている。なお、
図5の第一外装材(51)は前記絞り加工品(40)のフランジ部(45a)(45b)を切り整えて封止用周縁部(52)を成形したものである。
【0025】
発明者は、上述した四角形容器の絞り加工における変形挙動を分析し、2つの側壁部(46a)(46b)と底壁部(47)との三面コーナー部(48)で破断が生じる原因を解明するとともに、この原因を緩和することによって三面コーナー部(48)を可及的に直角に近づけ、かつ高い側壁部(46a)(46b)を形成することに成功した。以下の説明において
図6を参照する。
【0026】
図6は絞り加工品(40)の要部拡大図であり、点線で囲まれた(60)は開口縁(42)の丸み、(61)は側壁部(46a)(46b)と底壁部(47)との境界部の丸み、(62)は側壁部(46a)と側壁部(46b)との境界部の丸みを示している。コーナー部(43)ではフランジ部(45a)が殆ど引き込まれないので、コーナー部(43)から立ち上がる側壁部(62)は底壁部(47)からの材料移動(矢印M1)および側壁部(46a)(46b)の境界近傍からの材料移動(矢印M2、M3)によって形成されると考えられる。このとき、容器底部の三面コーナー部(48)においては開口縁(42)のコーナー部(43)および底壁部(47)に向かう歪みが生じ、矢印F1で表される引張力が生じる。一方、直線部(44a)(44b)のフランジ部(45b)および側壁部(46a)(46b)においては、底壁部(47)の中心から放射方向(径方向)の引張力(F2)が生じるが、この引張力(F2)によって材料が放射方向に伸びようとすると周方向には縮もうとするので、周方向においては材料をコーナー部(43)の側壁部(62)から直線部(44a)(44b)の側壁部(46a)(46b)側に引き寄せる引張力(F3)が生じる。放射方向の引張力(F2)が大きくなって放射方向の材料の伸びが大きくなるほど、周方向の縮みが大きくなって周方向の引張力(F3)が大きくなり、コーナー部(43)の側壁部(62)の材料を直線部(44a)(44b)側に引っ張る力が大きくなる。従って、容器底部の三面コーナー部(48)では、上述した方向の歪みによる引張力(F1)力に加えて周方向の引張力(F3)が加わり、二軸方向の引張力(F1)(F3)によって応力が増大するので破断し易くなる。また、前記引張力(F1)(F3)は側壁部(46a)(46b)が高くなるほど大きくなり、また三面コーナー部(48)の角度が鈍角から直角に近くなるほど大きくなるから、このような形状に成形しようとすれば破断が起きやすくなる。なお、三面コーナー部(48)における歪み量は側壁部(62)と底壁部の丸み(61)との境界部(63)で最大となるので、破断は三面コーナー部(48)の頂点ではなくこの境界部(63)から発生しやすい。
【0027】
[本発明の絞り加工用金型による変形挙動]
三面コーナー部(48)に発生する二軸方向の引張力(F1)(F3)のうちの少なくとも一方を小さくすれば、三面コーナー部(48)における破断の発生を抑制することができ、ひいては、四多角形容器(41)の側壁部(46a)(46b)をより高く、三面コーナー部(48)の角度を可及的に直角に近づけることができる。本発明の金型(1)においては、周方向の引張力(F3)が小さくなるような変形を実現することによって三面コーナー部(48)の破断の発生を抑制する。
【0028】
上述したように、周方向の引張力(F3)は直線部(44a)(44b)における放射方向の引張力(F2)に伴って生じるものであり、直線部(44a)(44b)における放射方向の引張力(F2)が小さくなるようにすれば周方向の引張力(F3)も小さくなる。放射方向の引張力(F2)は直線部(44a)(44b)における材料の伸びによるものであり、側壁部(46a)(46b)の高さが一定であれば、直線部(44a)(44b)においてより多くの材料をダイス(20)の穴(21)に送り込むようにすれば放射方向の引張力(F2)を小さくすることができる。
【0029】
本発明においては、ダイス(20)の穴(21)の肩部の形状について直線部(23)(24)における曲率半径をコーナー部(22)よりも大きくすることにより、直線部のフランジ部(45b)が穴(21)に送り込まれ易くなるようにしている。また、
図7に示すように、肩部の曲率半径の拡大によって絞り加工品(40)の開口縁の丸み(60)が大きくなるので、開口縁の丸み(60)の成形に必要な材料が少なくなる。そして、少ない引き込み量で足りれば放射方向に発生する引張力(F2)も小さくなるという作用効果も得られる。
【0030】
本発明においては、曲率半径拡大部において、曲率半径が最大となる曲率半径最大部(71)の曲率半径(R
S)として0.5〜4mmの範囲を推奨する。前記曲率半径(R
S)が0.5mm未満ではフランジ部(45b)の送り込みを助長する効果が少ない。一方、前記曲率半径(R
S)が大きくなるほど引き込み助長効果は大きくなるが、曲率半径(R
S)が4mmであれば十分にその効果が得られるので、それ以上に曲率半径(R
S)を大きくする意義が少ない。また、ダイス(20)の肩部形状は加工品形状に反映されるので、所期する加工品形状によっては曲率半径(R
S)の上限値が制限されることがある。例えば、
図5に示した電池外装材(50)の第二外装材(53)は加工品(40)のフランジ部(45a)(45b)を封止用周縁部(52)として利用しているので、曲率半径(R
S)を拡大して加工品(40)の開口縁の丸み部分が拡大すると封止用周縁部(52)の寸法に影響を及ぼすことになる。第二外装材(52)の全体寸法を考慮すると、上述した曲率半径最大部(71)の曲率半径(R
S)は4mm以下が好ましい。特に好ましい曲率半径(R
S)は0.5〜3mmである。なお、コーナー部(22)における曲率半径(R
c)はR
c<R
Sの関係を満たしている限り制限はない。
【0031】
本発明は、素材板(2)の材質や厚みを限定するものではなく、アルミニウムやステンレス等の金属の薄板または箔、金属薄板または金属箔と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合わせたラミネート材の絞り加工に好適に広く利用できる。また、素材板(2)の厚みにも制限はないが、絞り加工に適した厚み(t)として50〜300μmの範囲を推奨できる。また、アルミニウム箔と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合わせたラミネート材は電池用外装材として好適に用いられる材料であり、本発明の絞り加工用金型で成形することによって側壁部が高くかつ三面コーナー部が可及的に直角に近い電池用外装材を作製することができる。
【0032】
[曲率半径の変化パターン]
図1および
図2のダイス(20)は、直線部(23)(24)の全域に、曲率半径拡大部を曲率半径最大部(71)および曲率半径変化部(72)として設けている。しかし、本発明は曲率半径拡大部を直線部(23)(24)のみに形成することに限定するものでも、直線部(23)(24)の全域が曲率半径拡大部であることに限定するものでもない。「直線部はコーナー部の曲率半径よりも大きく形成された曲率半径拡大部を有する」という本発明の条件が満たされる限り、曲率半径最大部(71)がコーナー部(22)に跨がっている場合、逆に曲率半径最小部(70)が直線部(23)(24)も跨がっている場合も本発明に含まれる。以下は、肩部の曲率半径の他の変化パターンである。ダイスの他の態様の例である。
(1)曲率半径最大部が直線部からコーナー部に跨がっていて、コーナー部に曲率半径最大部、曲率半径変化部および曲率半径最小部が存在するダイス(
図8B参照)
(2)曲率半径最小部がコーナー部から直線部に跨がっていて、直線部に曲率半径最大部、曲率半径変化部および曲率半径最小部が存在するダイス(
図8C参照)
(3)直線部の全域が曲率半径最大部であり、コーナー部に曲率半径変化部および曲率半径最小部が存在するダイス(
図8D参照)
また、直線部において曲率半径拡大部が占める割合は、引張力(F2)を小さくして十分に材料を送り込むために直線部の長さの90%以上とすることが好ましい。また、曲率半径拡大部における最大部と変化部との割合も任意であり、直線部の長さや最大部と最小部の曲率半径の差に応じて適宜設定することができる。また、図示例のダイス(20)のように直線部(23)(24)の大部分を曲率半径最大部(71)とする(
図8A参照)他、
図8Eに示すように、変化方向の異なる2つの曲率半径変化部の合流点を曲率半径最大部とすることもできる。逆に、曲率半径最小部を変化方向の異なる2つの曲率半径変化部の合流点とすることもできる。
【0033】
また、
図1および
図2のダイス(20)のように全ての直線部に曲率半径拡大部を形成することにも限定されず、四角形容器であれば、対向する2辺にのみ曲率半径拡大部を形成しても良い。対向する2辺に曲率半径拡大部を形成してこれらの辺における引張力(F2)を小さくすればその辺において生じる周方向の引張力(F3)も小さくなるからである。また、多角形容器が長方形である場合は、フランジ部が引き込まれ易い2つの長辺に曲率半径拡大部を設けることが好ましい。
【0034】
また、パンチの形状、即ち成形する多角形容器は四角形に限定されるものではなく、三角形や五角形以上の容器を成形する金型も本発明に含まれる。
【0035】
[絞り加工のシミュレーション]
本発明例として、
図1および
図2に示した絞り加工用金型(1)を用いて絞り加工のシミュレーションを行った。使用したダイス(20)は多角形の穴(21)の肩部の曲率半径を周方向で変化させたものである。また、比較例として、多角形の穴の肩部の曲率半径を一定値に形成したダイスを組み合わせた絞り加工用金型を用いた絞り加工のシミュレーションを行った。
【0036】
全てのダイスおよびブランクホルダーの外寸は、長辺120mm×短辺80mmの長方形であり、それぞれの穴は、長辺側直線部が50.4mm、短辺側直線部が29.8mm、コーナー部が半径2.25mmの1/4円で形成されている。また、成形する四角形容器の側壁部の高さ(成形深さ)は8mmとした。
【0037】
本発明例のダイス(20)における曲率半径の変化パターンは
図8Aに示したとおりである。即ち、コーナー部(22)の全域が曲率半径最小部(70)であり、曲率半径(R
C)は1mmである。また、直線部(23)(24)の全域が曲率半径拡大部であり、コーナー部(22)に隣接する両側各長さ6mmの部分が曲率半径変化部(72)であり、残りの部分が曲率半径(R
S)=4mmの曲率半径最大部(71)である。従って、長辺側直線部(23)における曲率半径最大部(71)の長さは38.4mmであり、短辺側直線部(24)における曲率半径最大部(71)の長さは17.8mmである。比較例のダイスは肩部の曲率半径は全周において1mmである。
【0038】
素材板(2)は厚さ40μmのアルミニウム箔の両面に熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせた総厚(t):105μmのラミネート材とした。ラミネート材(2)の寸法はダイスおよびブランクホルダーの外寸と同じ長辺120mm×短辺80mmの長方形である。
【0039】
図9〜
図11は材料の移動状態を解析するためにメッシュ切りを行ったラミネート材(2)の1/4図であり、四角形容器の開口縁近傍は変形量が大きいと予測されるのでメッシュを細かくした。各メッシュ図の長辺はラミネート材(2)の長辺:120mmの1/2の60mmである。
【0040】
図9は加工前の状態であり、「○」は材料移動を検証するためのマーカーである。
【0041】
図10は直線部に曲率半径拡大部を形成したダイス(20)を用いて絞り加工した時のシミュレーション図(以下、「本発明例」または「本発明例のシミュレーション図」という)である。「●」は加工前の「○」が加工後に移動した位置を示すマーカーであり、○−●間の距離は移動量を示している。また、フランジ部では○−●間の距離が材料の移動量を示しているが、容器内側では材料が固定されているために○−●間の距離は伸び量を示している。
【0042】
図11は曲率半径を一定にしたダイスを用いて絞り加工した時のシミュレーション図(以下、「比較例」または「比較例のシミュレーション図」という)である。「▲」は加工前の「○」が加工後に移動した位置を示すマーカーであり、○−▲間の距離が移動量を示している。また、フランジ部では○−▲間の距離が材料の移動量を示しているが、容器内側では材料が固定されているために○−▲間の距離は伸び量を示している。
【0043】
図10および
図11において、メッシュが近接して太線として表されている部分が四角形容器の開口縁に対応する。また、移動量を比較するために、
図10の本発明例のシミュレーション図にも比較例の移動位置を示す「▲」を記載した。
【0044】
以下に、本発明例および比較例のシミュレーション図を比較する。
【0045】
2つのシミュレーション図は、直線部は材料の移動量が大きく、コーナー部では材料の移動が少なく、コーナー部の側壁は底壁部および直線部の側壁部からの材料移動によって形成されている、という共通の特徴を示している。また、直線部における移動量は直線部の中央で最大となることも共通している。
【0046】
一方、直線部における移動量を比較すると、本発明例は比較例よりも移動量が小さく、フランジ部の引き込み量が小さいことを示している。直線部の中央における引き込み量(S)は、本発明例の2.64mmに対して比較例では3.34mmである。引き込み量(S)のみを比較すると比較例の方が引き込み量が大きく見えるが、曲率半径の差による加工品における寸法差を勘案すると本発明例の引き込み量の方が大きいことが分かる。
【0047】
図12を参照する。本発明例において、加工品における開口縁の丸みの長さ(L1)は半径R=4mmの1/4円の弧(80)の長さであるから、L1=2×π×R/4=6.28mmである。一方、比較例の加工品における対応部分(81)の長さ(L2)は長さ3mmの2つの直線(82)と半径R=1の1/4円の弧(83)の合計であるから、L2=3+3+2×π×R/4=7.57mmである。その差ΔL=L2−L1=1.29mmは、同じ高さの側壁部を形成するに際して、曲率半径の拡大によっては減らすことができた材料の長さである。本発明例は、実際の引き込み量(S)=2.64mmにΔLを加えた3.93mmを引き込んだのと同等の効果を奏し得たものであり、比較例の引き込み量(S):3.34mmを上回っている。従って、本発明例は放射方向の引張力(F2)を小さくする効果を奏し得ることを示している。
【0048】
また、コーナー部においては、比較例が殆ど移動していないのに対し、本発明例では材料移動が認められる。これは、本発明例がコーナー部においてもフランジ部が引き込まれて側壁部の形成に寄与していることを示している。
【0049】
なお、2つのシミュレーション図において、短辺側の外周部の位置に変化がなく短辺側ではフランジ部が引き込まれていないように見える。これは、素材板(2)においてダイスの肩部に対応する位置から外周(輪郭)までの距離で表されるフランジ幅が長辺側よりも短辺側の方が長いために、ダイスの肩部の近くの材料が引き込まれても外周近くの材料は殆ど移動しないためである。フランジ部はその幅方向において均一に伸びるのではなく、肩部に近い部分の伸び(歪み)が大きいので、フランジ幅が大きい場合は輪郭が変化しない。本シミュレーションはそのようなケースであり、長辺側および短辺側のフランジ幅は以下に計算されるとおり、短辺側のフランジ幅の方が約10mm大きく、短辺側の外周近くの材料は殆ど移動せず輪郭は殆ど変化しない。
【0050】
長辺側のフランジ幅(mm)={素材板の短辺(80)−穴の短辺側直線部(29.8)−コーナー部の半径(2.25)×2}/2=22.85mm
短辺側のフランジ幅(mm)={素材板の長辺(120)−穴の長辺側直線部(50.4)−コーナー部の半径(2.25)×2}/2=32.55mm
このように、長辺と短辺とでフランジ幅が異なる場合は引き込み量に差が生じるが、長辺または短辺のどちらかにおいて歪み低減の効果を得れば三面コーナー部の引張力を低下させることができる。
【0051】
図13は容器内のA点からフランジ部のB点を結ぶ直線上において、A点からの距離とシミュレーションによって計算した歪み値との関係を示すグラフである。本発明例の最大歪み値は比較例よりも低く、破断が生じにくいことを示している。また、本発明例の歪み値は比較例に対してB点側にシフトしている。これは比較例よりも移動量が少ないことを示すものであり、換言すると発生する歪み値が小さく破断しにくいことを示している。歪み値がB点側にシフトすることで見かけ上比較例を上回っている部分もあるが、これは本発明例と比較例とでは移動量(フランジ部の引き込み量)が異なるので、A点からの距離が同じでも加工前の素材板に対応する位置が異なり、歪み値が異なるためであると考えられる。なお、破断が発生するのは歪み値が最大となる点であるから、歪み値の低い位置で本発明例が比較例を上回っても破断が生じることにはならない。
【0052】
以上より、本発明例では直線部における材料の引き込み量が大きく、
図6に示した放射向の引張力(F2)が低減し、ひいては周方向の引張力(F3)を低減させることができる。また、コーナー部でもフランジ部が引き込まれていることから、三面コーナー部(48)を通る引張力(F1)も低減すると考えられる。従って、三面コーナー部(48)の破断原因となる引張力(F1)(F2)が低減し、より高い側壁部と可及的に直角に近い三面コーナー部を形成することができる。
【0053】
図14は、容器の成形深さを変化させた場合において、成形深さ(側壁部の高さ)とシミュレーションによって計算した最大歪み値との関係を示すグラフである。本図に示すように、本発明例の最大歪み値は成形深さの大きい領域で比較例よりも低く、破断が発生しやすい深い成形における本発明の優位性を裏付けている。なお、成形深さが約5.5mm以下の領域で本発明例の最大歪み値が比較例を上回っているが、破断が発生するのは最大歪み値が大きくなる成形深さの大きい深さ7mm以上の領域であるから、最大歪み値の小さい領域における逆転は本発明例が破断しやすいことを示すものではない。破断防止の観点からは、成形深さの深い領域における最大歪み値が重要である。