(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フォトクロミック層を、アクリル系硬化性成分とフォトクロミック色素とを含む組成物を塗布し、次いで硬化処理を施すことにより形成する請求項1に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フォトクロミックレンズでは通常、所望の機能付与のためにフォトクロミック膜上に各種機能性膜が形成される。例えばフォトクロミック膜上に高硬度な硬化被膜(ハードコート層)を設けることは、レンズの耐久性を高める上で有効である。しかし本発明者の検討の結果、硬化被膜を形成したフォトクロミックレンズにおいては、硬化被膜やフォトクロミック膜にクラックが生じることで光学特性が低下する場合があることが明らかとなった。
【0005】
そこで本発明の目的は、クラックの発生が抑制された、優れた光学特性を有するフォトクロミックレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記目的を達成するために検討を重ね、眼鏡レンズ用のレンズ基材として汎用されているCR39基材等のジエチレングリコールビスアリルカーボネート系レンズ基材を含むフォトクロミックレンズに熱硬化被膜を形成した際に、上記クラックが顕著に発生することを新たに見出し、その対策を講じるべく更なる検討を重ねた。その結果、レンズ基材上にフォトクロミック層を形成した積層体(フォトクロミックレンズ前駆体)に、熱硬化型の硬化被膜を形成する前に吸水率低減工程を施し、その表面吸水量を所定値以下に制御することにより、クラックの発生を防止することが可能となることが判明した。この点について本発明者は、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートは吸水しやすい素材であり、何ら処理を施さない状態では、硬化被膜形成のための加熱処理において多量の水分を吸収することで大きく変形するかまたは応力変化を示すことが、その上層に位置するフォトクロミック層や硬化被膜におけるクラック発生の原因であると推察しており、硬化被膜の形成前に吸水率を所定値以下に低減しておくことで吸水によるレンズ基材の変形や応力変化を抑制できることが、クラック発生の防止に寄与していると考えている。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0007】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]ジエチレングリコールビスアリルカーボネート系レンズ基材上に直接または間接的にフォトクロミック層を有する積層体を形成すること、
上記積層体を吸水率低減工程に付すことにより該積層体表面の吸水量を5×10
-6g/cm
2以下に低減すること、および、
上記吸水率低減工程後の積層体表面上に直接コーティング組成物を塗布し、次いで加熱処理を施すことにより硬化被膜を形成すること、
を含むことを特徴とするフォトクロミックレンズの製造方法。
[2]前記フォトクロミック層を、アクリル系硬化性成分とフォトクロミック色素とを含む組成物を塗布し、次いで硬化処理を施すことにより形成する[1]に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
[3]前記コーティング組成物として、有機ケイ素化合物および金属酸化物粒子を含む熱硬化性組成物を用いる[1]または[2]に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
[4]前記吸水率低減工程を、加熱処理および湿度制御された環境下での保管からなる群から選ばれる手段によって行う[1]〜[3]のいずれか1項に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フォトクロミックレンズのフォトクロミック層や熱硬化型の硬化被膜におけるクラックの発生を防ぐことができ、これにより眼鏡レンズとして好適な、優れた光学特性を有するフォトクロミックレンズを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のフォトクロミックレンズの製造方法は、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート系レンズ基材上に直接または間接的にフォトクロミック層を有する積層体を形成すること、上記積層体を吸水率低減工程に付すことにより該積層体表面の吸水量を5×10
-6g/cm
2以下に低減すること、および、上記吸水率低減工程後の積層体表面上に直接コーティング組成物を塗布し、次いで加熱処理を施すことにより硬化被膜を形成すること、を含む。上記の本発明のフォトクロミックレンズの製造方法によれば、熱硬化型の硬化被膜の形成前に吸水率低減工程を行い、その上に加熱処理により硬化被膜が形成される積層体の表面吸水量を5×10
-6g/cm
2以下に低減することで、レンズ基材の上層に位置するフォトクロミック層や硬化被膜におけるクラックの発生を防ぐことができる。
以下、本発明のフォトクロミックレンズの製造方法について、更に詳細に説明する。
【0010】
本発明において使用されるレンズ基材は、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート系レンズ基材である。上記レンズ基材は、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体またはジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとの共重合体であって、市販品として入手可能であり、または公知の方法で作製することができる。CR39基材をはじめとするジエチレングリコールビスアリルカーボネート系レンズ基材は、軽量であり高い透明性を有するため眼鏡レンズ用のレンズ基材として汎用されているが、先に説明したように、この上にフォトクロミック層と熱硬化型の硬化被膜を有するフォトクロミックレンズには、クラックの発生という課題があった。これに対し本発明によれば、上記の通り吸水率低減工程を行うことによりクラックの発生を防ぐことができる。
【0011】
レンズ基材の厚さは、特に限定されるものではないが、通常1〜30mm程度である。また、その上にフォトクロミック層が形成される基材の表面形状は特に限定されず、平面、凸面、凹面等の任意の形状であることができる。
【0012】
上記のレンズ基材の表面上に直接形成することができ、または一層以上の機能性膜を介して間接的に形成することもできる。フォトクロミック層とレンズ基材との間に形成され得る層の一例としては、ハードコート層やプライマー層を挙げることができる。ここで形成されるハードコート層の一態様の詳細は、フォトクロミック層上に形成するハードコート層について後述する通りである。または、レンズ基材上に耐摩耗性を付与するために、特表2001−520699号公報に記載されている組成物から形成されたハードコート層を設けることも可能である。また、レンズ基材とフォトクロミック層との間に形成されるプライマー層としては、接着層として機能し得る、ポリウレタン等の公知の樹脂を用いることができる。
ここで形成されるハードコート層、プライマー層の厚さはいずれも、例えば0.5〜10μm程度である。なお、レンズ基材としてはハードコート付きで市販されているものもあり、本発明ではそのようなレンズ基材上にフォトクロミック層を形成することもできる。
【0013】
フォトクロミック層は、レンズ基材表面またはレンズ基材上の機能性膜表面に、硬化性成分とフォトクロミック色素とを含む組成物(フォトクロミック液)を塗布した後に硬化処理を施すことによって、硬化体(樹脂成分)中にフォトクロミック色素を含むフォトクロミック層を形成することができる。より詳しくは、上記フォトクロミック液は、硬化性成分、フォトクロミック色素、重合開始剤、および任意に添加される添加剤から形成することができる。以下に、各成分について説明する。
【0014】
(i)硬化性成分
フォトクロミック層形成のために使用可能な硬化性成分は、特に限定されず、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、スチリル基等のラジカル重合性基を有する公知の重合性モノマーやオリゴマー、それらのプレポリマーを用いることができる。これらのなかでも、入手のし易さ、硬化性の良さから(メタ)アクリロイル基または(メタ)アクリロイルオキシ基をラジカル重合性基として有する化合物が好ましい。即ち、フォトクロミック層に含まれる樹脂成分は、アクリル系モノマーの重合反応により形成される樹脂(アクリル系樹脂)であることが好ましい。なお、前記(メタ)アクリロイルは、アクリロイルとメタクリロイルの両方を示し、(メタ)アクリロイルオキシとは、アクリロイルオキシとメタクリロイルオキシの両方を示す。その詳細については、WO2008/001578A1段落[0050]〜[0075]を参照できる。
【0015】
(ii)フォトクロミック色素
フォトクロミック液に添加し得るフォトクロミック色素としては、公知のものを使用することができ、例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック化合物が挙げられ、本発明においては、これらのフォトクロミック化合物を特に制限なく使用することができる。その詳細については、WO2008/001578A1段落[0076]〜[0088]を参照できる。フォトクロミック液中のフォトクロミック色素の濃度は、前記硬化性成分100質量部に対して、0.01〜20質量部とすることが好ましく、0.1〜10質量部とすることが更に好ましい。
【0016】
(iii)重合開始剤
フォトクロミック液に添加する重合開始剤は、重合方法に応じて、公知の熱重合開始剤および光重合開始剤から適宜選択することができる。それらの詳細については、WO2008/001578A1段落[0089]〜[0090]を参照できる。
【0017】
(iv)添加剤
フォトクロミック液には、フォトクロミック色素の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、さらに界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加してもよい。これら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。その詳細については、WO2008/001578A1段落[0092]〜[0097]を参照できる。
【0018】
以上説明した成分を含むフォトクロミック液を塗布および硬化することにより、レンズ基材上にフォトクロミック層を形成することができる。本発明において、フォトクロミック液の調製方法は特に限定されず、所定量の各成分を秤取り混合することにより行うことができる。なお、各成分の添加順序は特に限定されず全ての成分を同時に添加してもよいし、モノマー成分のみを予め混合し、重合させる直前にフォトクロミック色素や他の添加剤を添加・混合してもよい。前記フォトクロミック液は、25℃での粘度が20〜500cpsであることが好ましく、50〜300cpsであることがより好ましく、60〜200cpsであることが特に好ましい。この粘度範囲とすることにより、フォトクロミック液の塗布が容易となり、所望の厚さのフォトクロミック膜を容易に得ることができる。フォトクロミック液の塗布は、スピンコート法等の公知の塗布方法によって行うことができる。
【0019】
上記フォトクロミック液を基材上に塗布した後、フォトクロミック液に含まれる硬化性成分の種類に応じた硬化処理(加熱、光照射等)を施すことにより、フォトクロミック層を形成することができる。前記硬化処理は、公知の方法で行うことができる。形成されるフォトクロミック層の性能および短時間で硬化処理が終了する点からは、光硬化処理によりフォトクロミック層を形成することが好ましい。フォトクロミック層の厚さは、フォトクロミック特性を良好に発現させる観点から、10μm以上であることが好ましく、20〜60μmであることが更に好ましい。
【0020】
以上の工程によりフォトクロミック層を形成した後、必要に応じてプライマー層の形成等を行い、得られた積層体の表面上に硬化被膜を形成する。ここで本発明では、硬化被膜形成前の積層体を吸水率低減工程に付すことで、該積層体表面の吸水量を5×10
-6g/cm
2以下に低減する。上記吸水量は、硬化被膜形成のためのコーティング組成物塗布前1時間以内の値をいうものとする。硬化被膜形成前に吸水を抑制するための処理を行うことで、フォトクロミック層や硬化被膜におけるクラック発生を抑制することができる。上記吸水量が5×10
-6g/cm
2を超えるとクラック発生を防ぐことは困難となるが、先に説明したように本発明者はこの理由を、吸水により積層体、特にレンズ基材が変形するか応力変化を起こすことがクラック発生の原因と考えている。上記吸水量はクラック発生の抑制のためには少ないほど好ましく、最も望ましくは0g/cm
2であるが、例えば1×10
-6g/cm
2程度が下限となり得る。また、上記吸水量は、温度23±1℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に1分間放置した後、該雰囲気から取り出して1分以内に測定される質量の放置前の質量からの増加分を上記積層体の表面積で除することにより求めた値とする。
【0021】
吸水率低減工程は、例えば上記積層体を加熱炉内に放置することで行うことができ、または、上記積層体を湿度制御した環境下に保管することで行うこともでき、更にはこれらを組み合わせて行うこともできる。上記の湿度制御した環境とは、例えば温度20〜25℃程度、相対湿度40〜70%程度の雰囲気であることができる。なお吸水率低減工程とは、ある程度の水分を含ませることで吸水を抑制することができる場合もあるため、必ずしも積層体から水分を除去する処理に限られない。また上記環境はチャンバー内やクリーンルーム内であることができるが、これらに限られるものではなく、包装容器または包装袋内であってもよい。例えば脱水剤を封入した包装容器または包装袋、水分の透過の少ないアルミパック等を用いることもできる。保管期間は、例えば1週間程度であるが、これに限られるものではなく、所望の吸水量が実現できる期間に設定すればよい。所定の環境下に、例えば1〜2年程度保管することも可能である。
【0022】
上記吸水率低減工程を経た積層体には、その表面に熱硬化型の硬化被膜が形成される。フォトクロミック層上に形成する硬化被膜としては、レンズ耐久性向上の観点からはハードコート層が好ましく、本発明では前記硬化被膜として、一般にハードコート層として使用される各種有機層を適用可能である。レンズの耐久性向上と光学特性を両立する観点からは、その厚さは0.5〜10μmの範囲であることが好ましい。
【0023】
前記ハードコート層としては、レンズの耐久性向上の点からは、有機ケイ素化合物および金属酸化物粒子を含むものが好ましい。そのようなハードコート層を形成可能なコーティング組成物の一例としては、特開昭63−10640号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0024】
また、上記有機ケイ素化合物の好ましい態様としては、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物を挙げることもできる。
(R
1)
a(R
3)
bSi(OR
2)
4-(a+b) ・・・(I)
【0025】
一般式(I)中、R
1は、グリシドキシ基、エポキシ基、ビニル基、メタアクリルオキシ基、アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、フェニル基等を有する有機基を表し、R
2は炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、R
3は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、aおよびbはそれぞれ0または1を示す。
【0026】
R
2で表される炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
R
2で表される炭素数1〜4のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
R
2で表される炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
R
3で表される炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
R
3で表される炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
上記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、特開2007−077327号公報段落[0073]に記載されているものを挙げることができる。一般式(I)で表される有機ケイ素化合物は硬化性基を有するため、塗布後に硬化処理を施すことにより、硬化膜としてハードコート層を形成することができる。
【0027】
前記ハードコート層に含まれる金属酸化物粒子は、ハードコート層の屈折率の調整および硬度向上に寄与し得る。具体例としては、酸化タングステン(WO
3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化チタニウム(TiO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化スズ(SnO
2)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化アンチモン(Sb
2O
5)等の粒子が挙げられ、単独または2種以上の金属酸化物粒子を併用することができる。金属酸化物粒子の粒径は、耐擦傷性と光学特性とを両立する観点から、5〜30nmの範囲であることが好ましい。同様の理由から、ハードコート層における金属酸化物粒子の含有量は、屈折率および硬度を考慮して適宜設定可能であるが、通常、ハードコート組成物の固形分あたり5〜80質量%程度である。また、上記金属酸化物粒子は、ハードコート層中での分散性の点から、コロイド粒子であることが好ましい。
【0028】
上記ハードコート層は、上記成分および必要に応じて有機溶媒、界面活性剤(レベリング剤)等の任意成分を混合して調製したハードコート組成物を前記積層体表面に塗布し、加熱処理(熱硬化)を施すことにより形成することができる。コーティング組成物の塗布手段としては、ディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法等の通常行われる方法を適用することができるが、面精度の面からディッピング法、スピンコーティング法が好ましい。
【0029】
本発明では、以上説明した各種の層に加えて、公知の反射防止膜等の機能性膜を任意の位置に形成することができる。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例により本発明を更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
(1)プライマー層の形成
プラスチックレンズ基材として、メニスカス形状のジエチレングリコールビスアリルカーボネート(HOYA(株)製 商品名ハイルックス、中心肉厚2.0mm厚、直径75mm、凸面の表面カーブ(平均値)約+0.8)を使用し、レンズ基材の凸面上に、プライマー液としてポリウレタン骨格にアクリル基を導入したポリウレタンの水分散液(ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョン、粘度100CPS、固形分濃度38質量%)をスピンコート法により塗布した後、温度25℃湿度50%RHの雰囲気下で15分風乾処理し、厚さ約7μmのプライマー層を形成した。
【0032】
(2)フォトクロミックコーティング液の調製
プラスチック製容器にトリメチロールプロパントリメタクリレート20質量部、BPEオリゴマー(2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン)35質量部、EB6A(ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート)10質量部、平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート10質量部からなるラジカル重合性組成物を調製した。このラジカル重合性組成物100質量部に対し、フォトクロミック色素として下記クロメン1を3質量部、ヒンダートアミン系酸化防止剤(BASF社Chimassorb2020)を5質量部、紫外線重合開始剤としてCGI−1870(BASF社製)0.6質量部を添加して十分に攪拌混合を行った組成物に、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM503)を攪拌しながら6質量部滴下した。その後、自転公転方式攪拌脱泡装置にて2分間脱泡することで、フォトクロミック性を有する硬化性組成物を得た。
【0033】
【化1】
【0034】
(3)フォトクロミック層の形成
上記(1)で形成したプライマー層上に、(2)で調製した硬化性組成物をスピンコート法でコーティングした。その後、このレンズを窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)にて、UVランプ(Dバルブ)で波長405nmの紫外線を積算光量で1800mJ/cm
2(100mW/cm
2、3分)照射し、さらに、100℃、60分間硬化処理を行い、厚さ40μmのフォトクロミック層を形成した。
【0035】
(4)吸水率低減工程
上記(3)の後に得られた積層体を、炉内温度80℃の加熱炉内に2時間放置することで吸水率低減工程を行った。
【0036】
(5)ハードコート組成物の調製
マグネティックスターラーを備えたガラス製の容器にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン17質量部、メタノール30質量部、および、水分散コロイダルシリカ(固形分40質量%、平均粒子径15nm)28質量部を加え充分に混合し、5℃で24時間攪拌を行った。次に、プロピレングリコールモノメチルエーテル15質量部、シリコ−ン系界面活性剤0.05質量部、および、硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネ−トを1.5質量部加え、充分に撹拌した後、濾過を行ってハードコーティング液(コーティング組成物)を調製した。
【0037】
(6)ハードコート層の形成
上記(4)の後、加熱炉から取り出して1時間以内に、積層体のフォトクロミック層表面上に、上記(5)で調製したハードコーティング液を用いて、ディッピング法(引き上げ速度20cm/分)でコーティングを行い、100℃、60分加熱硬化することで、厚さ3μmのハードコート層を形成した。
【0038】
以上の工程により、レンズ基材上に、プライマー層、フォトクロミック層、およびハードコート層をこの順に有するフォトクロミックレンズを得た。
【0039】
[実施例2]
実施例1の(4)に代えて、積層体を温度23℃、相対湿度70%のクリーンルーム内に1週間放置することで吸水率低減工程を行い、クリーンルームから取り出して1時間以内にハードコート層の形成を行った点以外、実施例1と同様としてフォトクロミックレンズを得た。
【0040】
[実施例3]
実施例1の(4)に代えて、積層体をアルミパック包装袋内に1週間保管することで吸水率低減工程を行い、アルミパックから取り出して1時間以内にハードコート層の形成を行った点以外、実施例1と同様としてフォトクロミックレンズを得た。
【0041】
[比較例1]
実施例1の(4)の吸水率低減工程を行わず、積層体を2時間、温湿度制御なしの環境下に放置した点以外、実施例1と同様としてフォトクロミックレンズを得た。
【0042】
[比較例2]
実施例1の(4)の吸水率低減工程を行わず、積層体を1週間、温湿度制御なしの環境下に放置した点以外、実施例1と同様としてフォトクロミックレンズを得た。
【0043】
吸水量の測定
実施例1〜3については、各実施例と同様の方法で作製した積層体について、吸水率低下工程の実施前の質量を測定した。その後、積層体に対して吸水率低減工程を行った後、1時間以内に該積層体を温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中に1分間放置した後、該雰囲気から取り出して1分以内に積層体の質量を測定した。吸水率低減工程による質量増加分を積層体の表面積で除することにより単位面積あたりの吸水量を求めた。
比較例1、2については、各比較例と同様の方法で作製した積層体について、温湿度制御なしの環境に放置する前に質量測定を行い、その後、放置後にも質量を測定し、放置後の質量増加分を積層体の表面積で除することで、単位面積あたりの吸水量を求めた。
算出された吸水量を、表1に示す。
【0044】
クラック有無の評価
作製したフォトクロミックレンズについて、三波長型蛍光灯の反射光および透過光による外観検査によって、凸面に目視で確認されるクラック(長さ数cm程度)が存在するか否かを評価した。目視でクラックが確認されたレンズは、眼鏡レンズとしての外観特性を満たさないものとして不良品と判定し、確認されないレンズはレンズとしての外観特性を満たすものとして良品と判定した。各実施例、比較例について30枚のレンズを上記検査に付し、クラック発生率=(不良品数/レンズ総数(30枚))×100としてクラック発生率を求めた。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
上記検査によりクラックが確認された比較例1、2のレンズを走査型電子顕微鏡(SEM)により断面観察したところ、ハードコート層およびフォトクロミック層にクラックが発生していることが確認された。比較例1、2のレンズの中でクラックが確認されたレンズは、凸面の外周部からクラックが発生したレンズ、凸面の面内にクラックが発生したレンズが主であったが、このようなクラックが発生したレンズは、眼鏡レンズに求められる外観特性を有さないものである。
以上の結果から、比較例1、2のレンズにおけるクラックはハードコート層およびフォトクロミック層において発生しており、実施例1〜3ではハードコート層形成前に吸水率低減工程により吸水量を5×10
-6g/cm
2以下に低減したことで、クラックのない優れた外観を有するフォトクロミックレンズが得られたことが確認できる。