特許第6016402号(P6016402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016402
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】保持器
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20161013BHJP
   F16C 33/56 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   F16C33/46
   F16C33/56
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-71335(P2012-71335)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-204621(P2013-204621A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】390024464
【氏名又は名称】株式会社KANZACC
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【弁理士】
【氏名又は名称】楠本 高義
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 勲
(72)【発明者】
【氏名】林 秀樹
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−002034(JP,A)
【文献】 特開昭63−028839(JP,A)
【文献】 特開2010−060116(JP,A)
【文献】 特開昭63−171894(JP,A)
【文献】 特開平11−131289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/46
F16C 33/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四輪車用や二輪車用及び汎用エンジンのクランクシャフト支持構造やコンロッド支持構造に使用される、高温の潤滑油で濡れた状態にあり、針状ころにより保持器表面が相手面と直接摺動しない針状ころ軸受の保持器であって、保持器の基体の最表面に下地めっき層を介してCoの成分比率が5〜95重量%のSn−Co合金めっき層が形成された針状ころ軸受用保持器
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば四輪車や二輪車及び汎用エンジン等のクランクシャフト用支持構造やコンロッド支持構造等に使用される軸受に使用される保持器に関する。
【0002】
軸受の保持器には、軸受の耐蝕性、潤滑性、耐摩耗性、などを向上させるために、金属めっきによる表面処理が行われており、特に、ころ軸受の保持器では、ころ軸受の保持器とコンロッド内壁との耐焼付き性の向上を目的として、摩擦係数が低く潤滑性に優れた銀めっきによる表面処理を行うことが知られている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
しかし、高温で長時間使用するという条件下では、銀めっき層は潤滑油中に含まれる硫化モリブデン等の硫黄含有成分の影響で硫化され劣化し、銀めっき皮膜が剥がれてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
[特許文献1]特開2002−195266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、硫化による劣化の少ない、軸受に使用される保持器を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、四輪車用や二輪車用及び汎用エンジンのクランクシャフト支持構造やコンロッド支持構造に使用される、高温の潤滑油で濡れた状態にあり、針状ころにより保持器表面が相手面と直接摺動しない針状ころ軸受の保持器であって、保持器の基体の最表面に下地めっき層を介してCoの成分比率が5〜95重量%のSn−Co合金めっき層が形成された針状ころ軸受用保持器であることにある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、硫化による劣化の少ない、軸受に使用される保持器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の軸受用保持器を備える軸受の態様の一例を示す斜視図。
図2】本発明の軸受用保持器の形態の一例を示す斜視投視図。
図3】本発明の軸受用保持器の形態の他の一例を示す斜視図。
図4】本発明の軸受用保持器のめっき層の態様を示す断面模式図。
図5】本発明の軸受用保持器を備える軸受が用いられるコンロッドの態様の一例を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の軸受用保持器の代表的な例は図1に例示されるような態様のころ軸受2に用いられる保持器4である。ころ軸受2は複数の針状ころ6と、針状ころ6を所定間隔で保持する保持器4とアウターレース8とで構成される。ころ軸受としてはアウターレースが設けられずに外側がハウジングであるコンロッド等の係合穴に嵌めこまれる図2に示す保持器4aを有するような態様もある。保持器の形状は図1図2に示すような円筒かご形状のほかに軸受の種類に応じて円錐台形かご形状や図3に示すようなボールベアリング用の保持器4bなど様々であり、軸受の種類に応じて選択された形状の保持器が用いられる。
【0011】
本願の発明者らは、軸受に銀めっきされた保持器を用いると、前述のように潤滑油に含まれる硫化モリブデン等の硫黄含有成分の影響で銀めっき層が硫化され劣化するという問題を解決しようとして鋭意検討し、めっき層の組成として考えられる膨大な種類の金属及び合金なかで、低摩擦性と耐硫化性を同時に満足して、銀めっきされた保持器より寿命の長い保持器を得ることのできるめっき層組成を見出し本願発明に至った。
【0012】
本発明の軸受用保持器は、図4に示すように、保持器形状の基体10の最表面に下地めっき層12を介してCoの成分比率が5〜95重量%のSn−Co合金めっき層14が形成されてなる。基体10の材料としては軸受鋼、浸炭鋼、機械構造用炭素鋼などが用いられる。
【0013】
Sn−Co合金めっき層14は、銅や銅合金などにより下地めっきされた基体10を錫塩とコバルト塩を含むめっき浴を用いて電解めっきして得られる。
めっき浴としてはピロリン酸塩浴、スタネート浴、有機酸塩浴などが好適に用いられる。代表的なめっき浴を以下に例示する。
【0014】
ピロリン酸塩浴
塩化コバルト 15〜50g/l
塩化錫(II) 15〜50g/l
ピロリン酸カリウム 200〜300g/l
助剤 適量
pH 8.5〜10.0
【0015】
スタネート浴
塩化コバルト 5〜15g/l
錫酸ナトリウム 30〜60g/l
アミノカルボン酸 15〜40g/l
助剤 適量
pH 12.5〜13.5
【0016】
有機酸塩浴
硫酸コバルト 2.4〜24g/l
硫酸錫(II) 0.9〜9g/l
混合安定剤(キレート剤)5〜50g/l
pH 7.8〜8.6
【0017】
本発明においては、Sn−Co合金におけるCoの成分比率は5〜95重量%であることが好ましい。Coの成分比率が95重量%を超えて大きいと、めっき皮膜表面にクラックが入る恐れがあり、Coの成分比率が5重量%未満であると摩擦係数が大きくなるからである。Coの成分比率が10〜70重量%であることがこの点でさらに好ましい。
【0018】
本発明の効果は以下の実験例で確認された。
実験例
試料:図2に示す、モーターサイクルのエンジンのコンロッドの回転部に使用されるベアリングを保持する保持器に用いられる、クロムモリブデン鋼からなる基体を用いた。
めっき方法
試料1:基体に下地めっき(厚み3μm)を施したのち、Sn−Co合金めっき(Coの比率:40重量%)を施した。
試料2:基体に銅の下地めっき(厚み3μm)を施したのち、常法により厚み20μmの銀めっきを施した。
Sn−Co合金めっきのめっき条件
めっき浴:スタネート浴を用いめっき層のCo比率が40重量%となるよう浴のコバルトの供給源を調整した。
浴温:60℃
めっき時間:皮膜厚さが20μmになるように調節
電流濃度:0.2A/L
電流密度:1A/cm
【0019】
評価
測定方法
・皮膜硬度(Hv):JIS Z 2244 「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠
;試験力 10gf
・摩耗性:JIS H 8503「めっきの耐摩耗性試験方法」に準拠;
試験方法 往復運動摩擦試験 200サイクル
荷重 1.48kgf
研磨紙粒度 #500
・摩擦係数:プローブを一定荷重のもとで試験体に対して往復運動させたときの摩擦
力を計測する往復摺動摩擦係数測定器にて計測;
プローブ 形状:1.5R 材質:測定皮膜と同一種
荷重:試料1・・・150g 試料2・・・300g
摺動回数:20回
シートショック試験:JIS H 8504「めっきの密着性」試験方法」
に準拠
スクラッチ試験:JIS H 8504「めっきの密着性試験」方法」に準

オイル浸漬硫化試験:オイルに試料を浸漬し、硫化の程度を判定する。
オイルは2種類(モービル10W−4、シェル10W−4MO)を使用
【0020】
評価結果を表1、表2に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
表1、表2より、試料1(Sn−Co合金めっきを施した基体)は、試料2(銀めっきを施した基体)より皮膜硬度が大きく、かつ耐摩耗性に優れていた。また、試料1は試料2よりも摩擦係数が低く、潤滑性に優れることがわかった。さらに、試料1は高温のオイルに浸漬後に変色やスクラッチが認められなかったのに対して、試料2は高温のオイルに浸漬後に硫化による変色やスクラッチが認められた。
【0024】
高い軸受け荷重を受けて高温で使用される軸受については、前述のように潤滑油として硫化モリブデン等の硫黄含有成分を含有させたものが使用されるが、本発明の軸受用保持器は表2に示すように高温下での耐硫化性に優れているので、従来保持器の銀めっき層が潤滑油の硫黄成分に起因する硫化により劣化するという問題を解消できる。さらに、本発明の軸受用保持器は、皮膜硬度、耐摩耗性、摩擦係数、のいずれについても従来の銀めっき製品より優れた特性を有していることがわかった。
【0025】
従って、本発明の軸受用保持器は図5で例示されるコンロッド30のような、エンジンのコンロッドに用いる軸受用の保持器として好適に用いることができる。コンロッド30は、コンロッド本体部32と、ピストンに接続される小端部34と、クランクシャフトに接続される大端部36とを含んで構成される。大端部36は、コンロッド本体部32の一端に連続するハウジング部40と、ハウジング部40に結合されるキャップ部42とに分割されている。ハウジング部40とキャップ部42とはボルト44によって締結される。ころ軸受が主にコンロッドの大端部に用いられ、本発明の軸受用保持器はこのころ軸受用に好適に使用される。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の軸受用保持器は、コンロッドに限らず、潤滑油の硫黄成分に起因するめっき層の劣化に関する耐硫化性を要求される軸受用に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
2:ころ軸受
4、4a、4b:保持器
6:針状ころ
8:アウターレース
10:基体
12:下地めっき層
14:合金めっき層
30:コンロッド
32:コンロッド本体部
34:小端部
36:大端部
図1
図2
図3
図4
図5