(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016442
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】鱗取り具
(51)【国際特許分類】
A22C 25/02 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
A22C25/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-104660(P2012-104660)
(22)【出願日】2012年5月1日
(65)【公開番号】特開2013-230128(P2013-230128A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】512113939
【氏名又は名称】舟津 浩晃
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100078916
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 由充
(74)【代理人】
【識別番号】100142114
【弁理士】
【氏名又は名称】小石川 由紀乃
(72)【発明者】
【氏名】舟津 浩晃
【審査官】
土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3081069(JP,U)
【文献】
特開2006−175085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A22C 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の鱗取り部の基端に手持ちが可能な長手状の柄部が連設された鱗取り具において、前記鱗取り部は、周辺部の厚みが外周縁に向けて次第に薄くなる薄肉部を有し、前記薄肉部は、一方の側縁沿いに形成された直線状をなす第1の薄肉部と、先端縁沿いに形成された直線状をなす第2の薄肉部と、一方の側縁沿いの第1の薄肉部と第2の薄肉部との間に第1の薄肉部と連続して湾曲する形状に形成された第3の薄肉部とで構成され、前記第3の薄肉部は、第1の薄肉部の長さより大きな周長さに形成されており、他方の側縁沿いには、周辺部の厚みが外周縁に向けて次第に薄くなる山形形状をなす第4,第5の各薄肉部が谷部を挟んで連続して形成されている鱗取り具。
【請求項2】
前記鱗取り部と柄部とは、合成樹脂により一体成形されている請求項1に記載された鱗取り具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、魚体表面の鱗を手作業で除去するための鱗取り具に関し、特にこの発明は、鱗を飛散させることなく魚体表面から鱗を剥ぎ取るようにして除去することが可能な鱗取り具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、魚体表面の鱗を除去するのに、一般に包丁が用いられている。包丁により鱗取りを行う場合、包丁の刃を魚体表面に対して斜めに当てて鱗を除去しようとすると、刃によって魚体が傷つけられるおそれがある。包丁の刃を魚体表面に対してほぼ直角に当てて鱗を除去しようとすると、鱗が飛散して周辺が汚されるだけでなく、飛散した鱗が作業者の手先や顔面などに当たって怪我するおそれがある。
【0003】
包丁による鱗取り作業に伴う上記の問題を解消するために、先般、
図10に示すような、平板状の鱗取り片aと柄bとを一体に備えた鱗取り具が提案された。この鱗取り具の鱗取り片aは、その周辺部の厚みが外周縁に向けて薄くなっており、この薄肉部を魚体表面に対して斜めに当て、尾部から頭部に向けて押し進めることにより鱗をその付け根より剥ぎ取る。前記薄肉部は尖っているものの刃として機能しないので、魚体が傷つけられることがなく、また、鱗は付け根より剥ぎ取られかつその上に次の鱗が被さっているので、飛散することもない(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3081069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、魚の鱗は、部位によって密集度合いや魚体との付着状態が異なっており、特に、頭部附近の鱗は緻密であって魚体に強固に付着している。このため、上記した鱗取り具によっては、薄肉部を魚体表面に対して斜めに当てて押し進めるだけでは、頭部附近の鱗をその付け根より剥ぎ取るのが困難であり、鱗を円滑かつ確実に剥ぎ取ることができない。
【0006】
この発明は、上記の問題に着目してなされたもので、鱗が緻密であっても対応可能な構成とすることにより、鱗の飛散や魚体の損傷のおそれがなく、魚体の部位にかかわらず、容易かつ確実に鱗を除去することが可能な鱗取り具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による鱗取り具は、板状の鱗取り部の基端に手持ちが可能な長手状の柄部が連設されたものである。前記鱗取り部は、周辺部の厚みが外周縁に向けて次第に薄くなる薄肉部を有している。前記薄肉部は、
一方の側縁沿いに形成された直線状をなす第1の薄肉部と、先端縁沿いに形成された直線状をなす第2の薄肉部と、
一方の側縁沿いの第1の薄肉部と第2の薄肉部との
間に第1の薄肉部と連続して湾曲する形状に形成された第3の薄肉部とで構成
され、前記第3の薄肉部は、第1の薄肉部の長さより大きな周長さに形成されて
おり、他方の側縁沿いには、周辺部の厚みが外周縁に向けて次第に薄くなる山形形状をなす第4,第5の各薄肉部が谷部を挟んで連続して形成されている。
【0008】
上記の鱗取り具により鱗を除去するには、柄部を手で握り、鱗取り部の第1の薄肉部を魚体表面に対して斜めに当て、鱗の先端より付け根に向けて押し進める。この押圧力によって鱗はその付け根より魚体表面より剥ぎ取られるが、その際、剥ぎ取られた鱗は、その上に次の鱗が被さっているので、飛散することはない。第1の薄肉部は厚みが薄いので、鱗の付け根に押圧力が集中して鱗が剥ぎ取られるが、刃として機能しないので、魚体が傷つくことはない。なお、第2の薄肉部は魚体の大きさや部位に応じて適宜選択して使用する。
頭部附近の鱗は緻密であって魚体に強固に付着しているので、第1の薄肉部を魚体表面に対して斜めに当てて真っ直ぐ押し進めるだけでは、線接触の状態による抵抗が大きく、鱗をその付け根より剥ぎ取るのが容易でない。しかし、鱗取り部を押圧状態で回動させてゆくと、鱗の付け根に湾曲形状の第3の薄肉部が点接触に近い状態で当たって大きな押圧力と摺擦力とを作用させるので、鱗をその付け根から剥ぎ取ることが可能である。第3の薄肉部はその周長さが第1の薄肉部の長さより大きいので、第1の薄肉部が押し当たった鱗の付け根に対し第3の薄肉部による押圧力と摺擦力とが順次作用し、魚体表面より鱗が剥ぎ取られる。
魚体の腹部などの鱗を除去するときは、鱗取り部の谷部に腹部が嵌るようにして第4,第5の各薄肉部を斜めに当て、鱗の先端より付け根に向けて押し進めることにより、第4、第5の各薄肉部により腹部とその周辺の鱗をその付け根より魚体表面より剥ぎ取ることができる。
【0015】
この発明の好ましい実施態様においては、前記鱗取り部と柄部とは、合成樹脂により一体成形されたものであるが、両者を異なる材料で製作して連結してもよい。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、鱗をその付け根より魚体表面より剥ぎ取るので、鱗の飛散や魚体の損傷のおそれはない。また、鱗が緻密な部分にも対応できるので、魚体の部位にかかわらず、容易かつ確実に鱗を除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の一実施例である鱗取り具の構成を示す正面図である。
【
図6】
図5の実施例のB−B線に沿う断面図である。
【
図7】
図5に一点鎖線で示した実施例のB−B線に沿う断面図である。
【
図8】
図1の実施例による鱗除去作業を示す説明図である。
【
図9】
図1の実施例による魚体腹部の鱗除去作業を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜
図3は、この発明の一実施例である鱗取り具1の構成を示すもので、板状の鱗取り部2の基端部に手持ち作業が可能な長手状の柄部3が連設されている。この実施例は、鱗取り部2と柄部3とがポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂など、抗菌剤を混入した合成樹脂により一体成形されたものであるが、両者を別個の材料で形成して連結するなど、種々の設計変更が可能である。なお、図中、30は柄部3に形成された凹凸面による滑り止めである。また、図示例の鱗取り具1は、平均的な大きさの複数種の魚を対象としたものであり、全長を200mm、鱗取り部2の長さを80mmに設定しているが、特に大きな魚を対象とする場合は、さらに大きな寸法に設定してもよい。
【0019】
前記鱗取り部2は、中央部分の厚肉部20と周辺部の薄肉部21とから成るものである。薄肉部21は、厚みが外周縁に向けて次第に薄くなり、その先端縁は魚体に切り込まれない程度に尖っている。この実施例の薄肉部21は、
図4に示すように、表裏両面が外周縁に向けて傾斜する両刃状のものであるが、これに限らず、一方の表面のみが外周縁に向けて傾斜する片刃状のものであってもよい。
【0020】
薄肉部21は、一方の側縁沿いに形成された直線状をなす第1の薄肉部4と、側縁と直角をなす先端縁沿いに形成された直線状をなす第2の薄肉部5と、第1、第2の各薄肉部4,5との間に各薄肉部4,5と連続して形成された湾曲する形状の第3の薄肉部6と、他方の側縁沿いに第2の薄肉部5と連続して形成された山形形状の第4の薄肉部7および第5の薄肉部8とで構成されている。
【0021】
第1,第2の各薄肉部4,5は、平均的な大きさの魚の鱗を除去するのに使用される部分であり、第2の薄肉部5は第1の薄肉部4に対して直角をなし、その長さd2は第1の薄肉部4の長さd1より短い(d2<d1)。第1の薄肉部4は、面積が比較的大きな部位の鱗を除去するときに専ら使用し、第2の薄肉部5は、面積が比較的小さな部位の鱗を除去するときに専ら使用する。
【0022】
第3の薄肉部6は、第1の薄肉部4との間に角が生じないように外方へ膨らむように湾曲する形状に形成されたものであり、その周長さd3が第1の薄肉部4の長さd1より大きな湾曲形状に形成されている(d3>d1)。この実施例では、半径が55mmの大きな円弧をもって第3の薄肉部6の湾曲形状を形成しているが、連続して湾曲していれば、必ずしも一定曲率の円弧をもって形成する必要はない。第3の薄肉部6は、主として、頭部近辺の鱗のように緻密な鱗を除去するときに使用する。
【0023】
第4の薄肉部7および第5の薄肉部8は、外法へ膨らむように湾曲する山形形状に形成されたものであり、各薄肉部7,8と同じ厚みの谷部9を挟んで連続して形成されている。この実施例では、半径が36mmの円弧をもって第4、第5の各薄肉部7,8の湾曲形状を形成しているが、連続して湾曲していれば、いずれの薄肉部7,8についても必ずしも一定曲率の円弧をもって形成する必要はない。第4,第5の各薄肉部7,8は、魚の腹部や背部の鱗を除去するのに使用する他、小さな魚の鱗を除去するときにも使用し得る。
【0024】
同図において、22,23は中央部分の厚肉部20と同じ厚みを有する厚肉部であり、一方の厚肉部22と第1の薄肉部4との間、および他方の厚肉部23と第5の薄肉部8との間は、魚体に触れても魚体が傷つかないように丸くしてある。
【0025】
図5および
図6は、この発明の他の実施例を示している。図示例の鱗取り具1は、鱗取り部2の一方の側縁沿いに第1、第3の各薄肉部4,6が形成されており、他方の側縁沿いは、中央部分の厚肉部20と同じ厚みの厚肉部24になっている。この実施例によれば、親指や人差し指を厚肉部24に当てることができ、鱗取り部2に親指や人差し指による大きな加圧力を作用させることが可能である。なお、
図5の一点鎖線で示すように、鱗取り部2の他方の側縁沿いにも、一方の側縁沿いの第1,第3の各薄肉部4,6と左右対称に第1、第3の各薄肉部4,6を形成することができる(
図7参照)。この実施例によれば、両側縁沿いのいずれの薄肉部4,6も使用できて便利であり、利き腕が左右いずれであっても使用可能である。
【0026】
図1〜
図3に示した鱗取り具1により魚体f(
図8に示す)の表面の鱗pを除去するには、柄部3を手で握り、鱗取り部2の第1の薄肉部4を魚体fの表面に対して斜めに当て、鱗pの先端より付け根に向けて押し進める。この押圧力によって鱗pはその付け根より魚体fの表面より剥ぎ取られるが、その際、剥ぎ取られた鱗pは、その上に次の鱗が被さっているので、飛散することはない。第1の薄肉部4は厚みが薄いので、鱗pの付け根に押圧力が集中して鱗pが剥ぎ取られるが、刃として機能しないので、魚体fが傷つくことはない。第2の薄肉部5は魚体fの大きさや部位に応じて適宜選択して使用する。
【0027】
頭部附近の鱗pは緻密であって魚体fに強固に付着しているので、第1の薄肉部4を魚体fの表面に対して斜めに当てて真っ直ぐ押し進めるだけでは、線接触の状態による抵抗が大きく、鱗pをその付け根より剥ぎ取るのが容易でない。しかし、
図8の一点鎖線で示すように、鱗取り部2を押圧状態で回動させてゆくと、鱗pの付け根に湾曲形状の第3の薄肉部6が点接触に近い状態で当たって大きな押圧力と摺擦力とを作用させるので、鱗pをその付け根から剥ぎ取ることが可能である。第3の薄肉部6はその周長さが第1の薄肉部4の長さより大きいので、第1の薄肉部4が押し当たった鱗の付け根に対し第3の薄肉部6による押圧力と摺擦力とが順次作用し、魚体fの表面より鱗pが剥ぎ取られる。
【0028】
魚体fの腹部などの鱗pを除去するときは、
図9に示すように、腹部が鱗取り部2の谷部9に嵌るようにして第4,第5の各薄肉部7,8を腹部に斜めに当て、鱗pの先端より付け根に向けて押し進めることにより、各薄肉部7,8により腹部とその周辺の鱗pをその付け根より魚体fの表面より剥ぎ取ることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 鱗取り具
2 鱗取り部
3 柄部
4 第1の薄肉部
5 第2の薄肉部
6 第3の薄肉部
7 第4の薄肉部
8 第5の薄肉部
9 谷部
24 厚肉部