特許第6016448号(P6016448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016448
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】ゴム成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/24 20060101AFI20161013BHJP
   C08K 5/37 20060101ALI20161013BHJP
   C08L 9/02 20060101ALI20161013BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20161013BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   C08J3/24CEQ
   C08K5/37
   C08L9/02
   C08K5/3492
   B29C35/02
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-108913(P2012-108913)
(22)【出願日】2012年5月10日
(65)【公開番号】特開2013-234296(P2013-234296A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智和
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 菜穂子
(72)【発明者】
【氏名】清水 智也
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−320545(JP,A)
【文献】 特開平08−157646(JP,A)
【文献】 特開2008−168522(JP,A)
【文献】 特開2000−212330(JP,A)
【文献】 特開2004−155845(JP,A)
【文献】 特開2000−313769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/24
B29C 35/02
C08K 5/3492
C08K 5/37
C08L 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)で示されるニトリル構造と下記式(II)で示されるオレフィン構造とを有するゴム化合物と、分子中に少なくとも2つのチオール基を有するチオール化合物と、を含むゴム組成物において、100℃以下の温度にて前記ゴム化合物の架橋を行う架橋工程を含み、
前記チオール化合物がトリアジン環を構造中に含む場合、前記チオール基は前記トリアジン環と隣接することなく存在する、ことを特徴とするゴム成形体の製造方法。
【化1】
【化2】
(但し、式(II)のRは、炭素数4以上の二価の有機基であり、構造中に−C=C−にて示される不飽和結合を有する。)
【請求項2】
下記の式(I)で示されるニトリル構造と下記式(II)で示されるオレフィン構造とを有するゴム化合物と、分子中に少なくとも2つのチオール基を有するチオール化合物と、を含むゴム組成物において、100℃以下の温度にて前記ゴム化合物の架橋を行う架橋工程を含み、
前記チオール化合物は、プロパントリス(3−メルカプトプロピオン酸)トリメチロール、テトラキス(3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトール、ビス(3−メルカプトプロピオン酸)1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジチオール、テトラキス(メルカプト酢酸)ペンタエリスリトール、ビス(メルカプト酢酸)1,4−ブタンジオール、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、下記式(A−8)にて示される化合物及びその組み合わせからなる群から選択される化合物である、ことを特徴とするゴム成形体の製造方法。
【化3】
【化4】
(但し、式(II)のRは、炭素数4以上の二価の有機基であり、構造中に−C=C−にて示される不飽和結合を有する。)
【化5】
(但し、式(A−8)のXは二価の有機基であり、Xは水素原子又は一価の有機基である。)
【請求項3】
前記ゴム化合物における、前記ニトリル構造の含有比率は、5〜60wt%である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のゴム成形体の製造方法。
【請求項4】
下記の式(I)で示されるニトリル構造と下記式(II)で示されるオレフィン構造とを有するゴム化合物と、分子中に少なくとも2つのチオール基を有するチオール化合物と、を含み、
前記チオール化合物は、プロパントリス(3−メルカプトプロピオン酸)トリメチロール、テトラキス(3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトール、ビス(3−メルカプトプロピオン酸)1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジチオール、テトラキス(メルカプト酢酸)ペンタエリスリトール、ビス(メルカプト酢酸)1,4−ブタンジオール、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、下記式(A−8)にて示される化合物及びその組み合わせからなる群から選択される化合物である、前記ゴム化合物の100℃以下の温度における架橋用ゴム組成物。
【化6】
【化7】
(但し、式(II)のRは、炭素数4以上の二価の有機基であり、構造中に−C=C−にて示される不飽和結合を有する。)
【化8】
(但し、式(A−8)のXは二価の有機基であり、Xは水素原子又は一価の有機基である。)
【請求項5】
前記ゴム化合物における、前記ニトリル構造の含有比率は、5〜60wt%である、
ことを特徴とする請求項4に記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、(A)一般式(1):RaXbHcSi(1)(式中、Rは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基またはトリオルガノシロキシ基であり、aが2以上の場合Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Xはハロゲン、アルコキシ基、アシロキシ基または水酸基であり、bが2以上の場合Xはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。a、bは0〜3の整数、cは1〜3の整数で、a+b+c=4となる。)で表される珪素化合物と、(B)アルケニル基を含有する重合体とのヒドロシリル化反応を、(C)第8族金属を含む触媒、および(D)キノン化合物の存在下で行なうことを特徴とするヒドロシリル化反応方法について開示がされている。
【0003】
また、特許文献2には、常温硬化性ゴム組成物について記載がされており、当該常温硬化性ゴム組成物は、非共役ポリエンである特定の末端ビニル基含有ノルボルネン化合物から導かれる構成単位を有し、かつ分子中に特定の加水分解性シリル基を含有するシリル基含有エチレン・α- オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体ゴム(A)と、特定のシラン化合物の単独あるいは複数からなる部分加水分解縮合物で、加水分解性メトキシシリル基を有する、数平均分子量が250〜2,500のシラン化合物の部分加水分解縮合物(B)と、硬化触媒(C)とからなることが開示されている。
【0004】
上記特許文献1、2には、共にヒドロシリル化反応を利用する技術について開示がされている。特許文献1によれば、キノン化合物の存在下であれば、比較的低い温度条件においてヒドロシリル化反応を促進させることが可能であり、当該反応を利用してゴム状硬化物を得る技術について開示がされている。また、特許文献2によれば、硬化触媒の存在下において、常温硬化することが可能な常温硬化性ゴム組成物について開示がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−206908号公報
【特許文献2】特開2002−37955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、ゴム成形体の製造においては、当該製造におけるエネルギーを低減させる方法について検討がされている。ゴム成形体の製造において、大きなエネルギーが必要とされる工程の一つはゴム組成物に含まれるゴム化合物同士を架橋させる工程である。ゴム化合物同士を架橋させる工程において、使用するエネルギーを低減することができれば、ゴム成形体の製造において二酸化炭素の排出を低減できるという大きなメリットを得ることとなる。
【0007】
例えば、上記特許文献1、2に記載されているように、ケイ素を含有する被架橋物に対しては、ヒドロシリル化反応を用いて常温にて架橋反応を進める技術について開示がされているものの、ケイ素を含有せず、EPDM、NR、あるいは、NBR等のように分子内に炭素−炭素二重結合を有する被架橋物の架橋反応は、150℃以上の架橋温度が必要であるとされている。
【0008】
発明者らは、分子内に炭素−炭素二重結合を有するゴム化合物の中でも、当該ゴム化合物中に、ニトリル基(―CN)を有するニトリル構造と、−C=C−にて示される不飽和結合を有するオレフィン構造と、を有するゴム化合物を、従来の架橋温度(150℃以上)と比較して低温で当該ゴム化合物を架橋する、ゴム成形体の製造方法について鋭利研究を行った。
【0009】
本発明は、ニトリル基(―CN)を有するニトリル構造と、−C=C−にて示される不飽和結合を有するオレフィン構造と、を有するゴム化合物を、従来の架橋温度(150℃以上)と比較して低温で当該ゴム化合物を架橋する、ゴム成形体の製造方法を提供することを目的の一つとする。また、本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係るゴム成形体の製造方法は、下記の式(I)で示されるニトリル構造と下記式(II)で示されるオレフィン構造とを有するゴム化合物と、分子中に少なくとも2つのチオール基を有するチオール化合物と、を含むゴム組成物において、100℃以下の温度にて前記ゴム化合物の架橋を行う架橋工程を含む、ことを特徴とする。
【0011】
【化1】
【0012】
【化2】
【0013】
但し、式(II)のRは、炭素数4以上の二価の有機基であり、構造中に−C=C−にて示される不飽和結合を有する。
【0014】
また、前記チオール化合物は、プロパントリス(3−メルカプトプロピオン酸)トリメチロール、テトラキス(3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトール、ビス(3−メルカプトプロピオン酸)1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジチオール、テトラキス(メルカプト酢酸)ペンタエリスリトール、ビス(メルカプト酢酸)1,4−ブタンジオール、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、下記式(A−8)にて示される化合物及びその組み合わせからなる群から選択される化合物であることとしてもよい。
【0015】
【化3】
【0016】
但し、式(A−8)のXは二価の有機基であり、Xは水素原子又は一価の有機基である。
【0017】
また、前記ゴム化合物における、前記ニトリル構造の含有比率は、5〜60wt%であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ニトリル基(―CN)を有するニトリル構造と、−C=C−にて示される不飽和結合を有するオレフィン構造と、を有するゴム化合物を、従来の架橋温度(150℃以上)と比較して低温で当該ゴム化合物を架橋する、ゴム成形体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、下記の式(I)で示されるニトリル構造と下記式(II)で示されるオレフィン構造とを有するゴム化合物と、分子中に少なくとも2つのチオール基を有するチオール化合物と、を含むゴム組成物において、100℃以下の温度にて前記ゴム化合物の架橋を行う架橋工程を含む、ことを特徴とするゴム成形体の製造方法である。
【0020】
【化4】
【0021】
【化5】
【0022】
但し、上記式(II)のRは、炭素数4以上の二価の有機基であり、構造中に−C=C−にて示される不飽和結合を有する。
【0023】
本発明のゴム成形体の製造方法においては、分子中に少なくとも2つのチオール基を有するチオール化合物を、ゴム組成物の架橋剤として使用する。ここで、架橋剤とは、ゴム組成物に含有される高分子であるゴム化合物同士を連結(架橋)し、物理的、化学的性質を変化させる反応を引き起こす化合物である。
【0024】
はじめに、本発明のゴム成形体の製造方法に用いられる、チオール化合物について説明を行う。本発明のゴム成形体の製造方法に用いられる、本発明のゴム成形体の製造方法に用いられるチオール化合物は、分子中に少なくとも2つのチオール基を有するチオール化合物であり、例えば、プロパントリス(3−メルカプトプロピオン酸)トリメチロール、テトラキス(3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトール、ビス(3−メルカプトプロピオン酸)1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジチオール、テトラキス(メルカプト酢酸)ペンタエリスリトール、ビス(メルカプト酢酸)1,4−ブタンジオール、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、下記式(A−8)にて示される化合物及びその組み合わせからなる群から選択される化合物である。
【0025】
【化6】
【0026】
但し、式(A−8)のXは二価の有機基であり、Xは水素原子又は一価の有機基である。また、Xは、炭素数が1乃至10いずれかの二価の有機基であることとしてもよい。また、Xは、炭素数が1乃至10いずれかの二価の有機基であることとしてもよい。また、Xは、少なくとも1つのチオール基を有する一価の有機基であることとしてもよい。この場合、式(A−8)にて示されるチオール化合物は、3官能チオール化合物である。
【0027】
ゴム化合物同士を架橋する反応において、チオール基は、ゴム化合物が有するニトリル構造中のニトリル基(―CN)を触媒として活性化されチイルラジカル(S・)を発生させるものと想定される。そしてこのチイルラジカルが、ゴム化合物が有するオレフィン構造中の−C=C−にて示される不飽和結合の開裂反応を誘発し、架橋反応が進行するものと推定される。したがって、当該架橋反応が速やかに行われるためには、速やかにチイルラジカルを発生させることが重要であると考えられる。このため、式(A−8)中に含まれるトリアジン環のような、チオール基の電子密度に影響を及ぼす官能基が、当該チオール基に隣接して存在しないことが好ましい。したがって、式(A−8)におけるX構造の存在は、本発明の架橋工程において重要な意味をもつものである。
【0028】
また、プロパントリス(3−メルカプトプロピオン酸)トリメチロール、テトラキス(3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトール、ビス(3−メルカプトプロピオン酸)1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジチオール、テトラキス(メルカプト酢酸)ペンタエリスリトール、ビス(メルカプト酢酸)1,4−ブタンジオール、及び、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)の具体的な化学式は、それぞれ下記(A−1)乃至(A−7)にて示される。
【0029】
【化7】
【0030】
【化8】
【0031】
【化9】
【0032】
【化10】
【0033】
【化11】
【0034】
【化12】
【0035】
【化13】
【0036】
上記(A−1)乃至(A−8)にて示されるように、本発明のゴム成形体の製造方法に用いられるチオール化合物は、当該チオール化合物の末端の炭素、もしくは、末端の炭素と直接結合する炭素に、少なくとも2つのチオール基が置換されていることとしてもよい。チオール化合物の末端の炭素、もしくは、末端の炭素と直接結合する炭素に、少なくとも2つのチオール基が置換されていることは、ゴム化合物の架橋反応において立体構造の障害が少なく好ましい。
【0037】
また、本発明のゴム成形体の製造方法に用いられるチオール化合物は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、もしくは、少なくとも4つのチオール基を有することとしてもよい。チオール基の数が多いほど、ゴム化合物の架橋反応が進行しやすく好ましい。
【0038】
次に、本発明に係るゴム成形体の製造方法に用いられるゴム化合物について下記に詳細に説明を行う。ゴム化合物は、上述のように下記の式(I)で示されるニトリル構造と下記式(II)で示されるオレフィン構造とを有する。
【0039】
【化14】
【0040】
【化15】
【0041】
但し、上記式(II)のRは、炭素数4以上の二価の有機基であり、構造中に−C=C−にて示される不飽和結合を有するものである。また、上記式(II)のRは、炭素数4以上、100以下の二価の有機基であり、構造中に−C=C−にて示される不飽和結合を有するものであることとしてもよいし、炭素数4以上、60以下の二価の有機基であり、構造中に−C=C−にて示される不飽和結合を有するものであることとしてもよい。また、上記式(II)のRは、炭素数4の二価の有機基であり、構造中に−C=C−にて示される不飽和結合を有するものであることとしてもよい。
【0042】
本発明のゴム成形体の製造方法は、ゴム化合物の構造中における、上記式(I)にて示されるニトリル構造と、上記式(II)にて示されるオレフィン構造中に含まれる不飽和結合(−C=C−)と、の物理的な距離が近いほうが、反応が速やかに進み好ましい。上記式(II)におけるRの炭素数が少ないほうが、上記式(II)に含まれる不飽和結合(−C=C−)と、上記式(I)にて示されるニトリル構造と、の物理的距離が短いこととなるため好ましい。
【0043】
また、ゴム化合物は、上記式(I)で示されるニトリル構造と上記式(II)で示されるオレフィン構造からなるものであることとしてもよい。そして、この場合、ゴム化合物は、上記式(I)で示されるニトリル構造と上記式(II)で示されるオレフィン構造からなり、上記式(I)で示されるニトリル構造と上記式(II)で示されるオレフィン構造とが、ランダムに配置した構造を有する、ものであることとしてもよい。上記式(I)で示されるニトリル構造と上記式(II)で示されるオレフィン構造とが、ランダムに配置することによって、上記式(II)に含まれる不飽和結合(−C=C−)と、上記式(I)にて示されるニトリル構造との物理的距離が、近い配置となる組み合わせを数多く含むこととなるからである。
【0044】
さらに、ゴム化合物は、上記式(I)で示されるニトリル構造と上記式(II)で示されるオレフィン構造からなるものである場合、上記式(II)のRは、炭素数4以上、100以下の二価の有機基であり、構造中に−C=C−にて示される不飽和結合を有するものであることとしてもよいし、炭素数4以上、60以下の二価の有機基であり、構造中に−C=C−にて示される不飽和結合を有するものであることとしてもよい。また、上記式(II)のRは、炭素数4の二価の有機基であり、構造中に−C=C−にて示される不飽和結合を有するものであることとしてもよい。
【0045】
また、ゴム化合物における、ニトリル構造の含有比率は、5〜60wt%であることとしてもよい。上述のように本発明の架橋剤であるチオール化合物は、ゴム化合物におけるニトリル構造に引き付けられた後、ラジカルを発生して、ゴム化合物におけるオレフィン構造と反応すると想定される。このように、ゴム成形体の製造方法における架橋を速やかに進めるために、架橋剤と直接反応するオレフィン構造とともに、ゴム化合物におけるニトリル構造の含有比率も極めて重要な意味を有するものである。また、ゴム化合物における、ニトリル構造の含有比率は、5〜45wt%であることはより好ましく、15〜45wt%であることは特に好ましい。
【0046】
また、ゴム化合物における、オレフィン構造の含有比率は、5〜95wt%であることとしてもよい。ゴム化合物における、オレフィン構造の含有比率が、1wt%程度と低いものであると架橋反応自体は進行するものの、ゴム弾性が発現する架橋密度までは到達しない。このように、ゴム化合物におけるオレフィン構造の含有比率が低いものであると、ゴム弾性を発現する架橋密度まで到達しないおそれがあり好ましくない。よって、ゴム化合物における、オレフィン構造の含有比率が5wt%以上であることが好ましい。また、ゴム化合物における、オレフィン構造の含有比率は、55〜95wt%であることとはより好ましく、55〜85wt%であることは特に好ましい。
【0047】
また、ゴム化合物は、ニトリルゴム(ニトリルブタジエンラバー:NBR)、水素添加ニトリルゴム(水素添加ニトリルブタジエンラバー:HNBR)いずれかを含むものである。また、ゴム化合物は、ニトリルゴム(ニトリルブタジエンラバー:NBR)であることとしてもよい。また、ゴム化合物は、ニトリルゴム(ニトリルブタジエンラバー:NBR)、水素添加ニトリルゴム(水素添加ニトリルブタジエンラバー:HNBR)いずれかと、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ウレタンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、及び熱可塑性エラストマーからなる群から選択される化合物と、を含むこととしてもよい。なお、熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0048】
また、本発明におけるゴム組成物に含まれるゴム化合物は、重量平均分子量が、1000〜1000000であることとしてもよいし、1500〜800000であることとしてもよいし、2000〜700000であることとしてもよい。ゴム組成物に含まれるゴム化合物の重量平均分子量が、1000以下である場合、架橋反応の進行は抑制される。すなわち、ゴム組成物に含有される高分子であるゴム化合物同士を連結(架橋)し、物理的、化学的性質を変化させる反応が抑制され好ましくない。
【0049】
本発明に係るゴム成形体の製造方法に用いられるゴム組成物においては、上述のゴム化合物100重量部に対し、チオール化合物を0.1重量部〜20重量部含有されることとしてもよい。また、式(I)にて示される構造を有する化合物は、上述のゴム化合物100重量部に対し、0.1量部〜20重量部含有されることとしてもよい。
【0050】
また、ゴム組成物は、金属触媒(例えばPt等の貴金属触媒)等の架橋反応を促進させる物質を含まないこととしてもよい。すなわち、本発明は、上記式(I)で示されるニトリル構造と上記式(II)で示されるオレフィン構造とを有するゴム化合物と、分子中に少なくとも2つのチオール基を有するチオール化合物と、を含むゴム組成物において、100℃以下の温度にて前記ゴム化合物の架橋を行う架橋工程を含み、前記架橋工程は前記架橋の反応を促進させる触媒を使用することなく行われる、ことを特徴とするゴム成形体の製造方法であることとしてもよい。
【0051】
また、本発明に用いられるゴム組成物は、上記式(I)で示されるニトリル構造と上記式(II)で示されるオレフィン構造とを有するゴム化合物と、分子中に少なくとも2つのチオール基を有するチオール化合物と、を含み、前記ゴム化合物の架橋の反応を促進させる触媒を含まない、こととしてもよい。本発明における、架橋の反応を促進させる触媒としては、例えば、金属触媒(Fe、Cu、Pb、Co、Mn等)、貴金属触媒(Pt、Pd、Ru等)、セラミック触媒(金属担持ゼオライト触媒等)が例示される。
【0052】
本発明に係るゴム成形体の製造方法における、架橋工程は、100℃以下の温度にてゴム化合物の架橋を行うものである。上記式(I)で示されるニトリル構造と上記式(II)で示されるオレフィン構造とを有するゴム化合物と、分子中に少なくとも2つのチオール基を有するチオール化合物と、は反応性が優れている。そのため、架橋工程は、100℃以下の温度にて行うこととしてよく、架橋工程を100℃以下で行うことによって、ゴム成形体の製造において二酸化炭素の排出は低減されることとなる。
【0053】
また、本発明における架橋工程における温度の下限値は、用いられるゴム化合物のガラス転移点以上であれば特に制限はない。すなわち、本発明は、上記式(I)で示されるニトリル構造と上記式(II)で示されるオレフィン構造とを有するゴム化合物と、分子中に少なくとも2つのチオール基を有するチオール化合物と、を含むゴム組成物において、当該ゴム化合物のガラス転移点以上、100℃以下の温度にて前記ゴム化合物の架橋を行う架橋工程を含む、こととしてもよい。あるいは、本発明における架橋工程は、0℃以上、100℃以下の温度にて前記ゴム化合物の架橋を行うこととしてもよいし、5℃以上、100℃以下の温度にて前記ゴム化合物の架橋を行うこととしてもよい。
【0054】
また、本発明における架橋工程は、80℃以下の温度にてゴム化合物の架橋を行うこととしてもよいし、60℃以下の温度にて前記ゴム化合物の架橋を行うこととしてもよいし、50℃以下の温度にて前記ゴム化合物の架橋を行うこととしてもよいし、40℃以下の温度にて前記ゴム化合物の架橋を行うこととしてもよい。
【0055】
さらに、本発明における架橋工程は、ゴム組成物に外部からエネルギーを与えることなくゴム化合物の架橋を行うこととしてもよい。ここで、外部からのエネルギーとは、エネルギー線の照射によって与えられるエネルギーであることとしてもよいし、加熱によって与えられるエネルギーであることとしてもよい。また、上記エネルギー線とは、例えば、電磁波、放射線、電子線である。すなわち、本発明に係るゴム成形体の製造方法における架橋工程は、ゴム組成物を加熱することなくゴム化合物の架橋を行うこととしてもよい。
【0056】
また、本発明のゴム成形体の製造方法における架橋工程では、ゴム化合物と、チオール化合物と、が混合されるとともに速やかに架橋反応が行われる。すなわち、本発明のゴム成形体の製造方法における架橋反応は、ゴム化合物と、チオール化合物と、を含むゴム組成物において、100℃以下の温度にて当該ゴム化合物と当該チオール化合物とを混合することにより前記ゴム化合物の架橋を行う架橋工程を含むこととしてもよい。
【0057】
また、本発明のゴム成形体の製造方法に用いられるチオール化合物と、ゴム化合物との架橋反応の反応スピードを遅くしたい場合には、当該チオール化合物及び/又は当該ゴム化合物を溶解する有機溶媒に溶解した、当該チオール化合物及び/又は当該ゴム化合物をゴム組成物中に含有し架橋工程を行うことで、架橋反応の反応スピードをコントロールすることができる。
【0058】
すなわち、本発明のゴム成形体の製造方法における架橋工程は、チオール化合物と、ゴム化合物を溶解する有機溶媒に溶解された当該ゴム化合物と、を含むゴム組成物において、100℃以下の温度にて前記有機溶媒を取り除くとともに前記ゴム化合物の架橋を行う架橋工程であるとしてもよい。または、本発明のゴム成形体の製造方法における架橋工程は、ゴム化合物と、チオール化合物を溶解する有機溶媒に溶解された当該チオール化合物と、を含むゴム組成物において、100℃以下の温度にて前記有機溶媒を取り除くとともに前記ゴム化合物の架橋を行う架橋工程であるとしてもよい。
【0059】
また、チオール化合物に上記(A−1)乃至(A−8)にて示される化合物が用いられる場合についてより具体的に説明を行う。上記(A−1)乃至(A−7)にて示される化合物の分子量は、それぞれ、398.57、488.66、266.38、150.31、432.55、238.32、544.80である。また、(A−8)にて示される化合物の分子量は、XがCH、XがHの場合、177.27であるので、177.27以上である。例えば、チオール化合物を溶解する有機溶媒に溶解された当該チオール化合物は当該チオール化合物の分子量が小さいと、有機溶剤を揮発させることによって取り除く場合、当該有機溶剤とともに共沸してしまうことが考えられる。
【0060】
したがって、本発明のゴム成形体の製造方法に用いられるチオール化合物は、分子量が150以上のチオール化合物であることとしてもよい。また、本発明のゴム成形体の製造方法に用いられるチオール化合物は、分子量が200以上のチオール化合物であることとしてもよいし、300以上のチオール化合物であることとしてもよい。また、本発明のゴム成形体の製造方法に用いられるチオール化合物の分子量の上限は特に規定はないが、分子量が600以下のチオール化合物であることとしてもよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明の実施形態を具体的に説明するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0062】
はじめに、本実施例において準備したチオール化合物を表1に示す。また、本実施例において準備したゴム化合物を表2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
はじめに、300mlガラスビーカーに、表2に示されるゴム化合物10gと、当該ゴム化合物を溶解する有機溶媒を100mlとを入れ、23℃で24時間保持し、ゴム化合物を溶解(膨潤)させた。なお、有機溶媒は特に規定はなく、例えばトルエンを用いることとしてもよい。次に、有機溶解されたゴム化合物と、チオール化合物とを混合し、500rpm/5min撹拌した。その後、ゴム化合物と、チオール化合物との混合液を、所定の型に流し込み、23℃のドラフト内にて乾燥させ、有機溶剤を揮発させた。そして、乾燥後のゴム成形体を型から外しゴム成形体の試料を得た。
【0066】
上記試料の作成は、チオール化合物α1乃至α7、β8、及びβ9のそれぞれと、ゴム化合物r1乃至r15すべての組み合わせについて作成した。そして、それぞれの組み合わせによって形成されたゴム成形体の試料の全てについて架橋の有無を確認した。
【0067】
それぞれのゴム成形体の試料の架橋の有無は、各試料をφ13mm×2mmに切りだし、ゴム成分の良溶媒中、23℃、24時間浸漬し、ゴム成形体の良溶媒への溶解有無を目視で確認した。仮にゴム成形体の試料において架橋が行われている場合、当該試料は、良溶媒(例えば、トルエン)に溶解しないこととなる。
【0068】
結果、チオール化合物α1乃至7を用いて形成されたゴム成形体の試料の全ては、良溶媒に溶解せず、架橋が進行したことが確認された。一方、チオール化合物β8、9を用いて形成されたゴム成形体の試料の全ては、良溶媒に溶解し架橋が進行しなかったことが確認された。