特許第6016458号(P6016458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016458
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】作業車両の懸架装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 1/02 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
   B60G1/02
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-123790(P2012-123790)
(22)【出願日】2012年5月30日
(65)【公開番号】特開2013-248929(P2013-248929A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 愼右
(72)【発明者】
【氏名】井手 健一
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−298227(JP,A)
【文献】 特開2009−078725(JP,A)
【文献】 特開平10−193939(JP,A)
【文献】 実開平04−132802(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両の前後方向に設けた機体フレームには、スイングアームの後端が回動自在に支持されており、
前記スイングアームの前側下方には、フロントアクスルケースが前後方向の軸心を有するセンターピンにより回動自在に支持されており、
前記スイングアームと機体フレームとの間には、弾性部材が介装されており、
前記弾性部材は、同一軸心上の内外に配置したショックアブソーバとコイルスプリングを備えており、
前記スイングアームの前後中途部には、弾性部材受部が形成されており、
前記弾性部材受部は、前記ショックアブソーバの下部を挿入可能とした貫通孔と、前記コイルスプリングを受けるバネ受面を備えている
ことを特徴とする作業車両の懸架装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右の車軸を懸架する作業車両の懸架装置に関し、特に、車軸固定式の作業車両の懸架装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業車両の乗り心地を向上したり、走行性能を向上するために、車軸(アクスルケース)と機体フレームとの間に懸架装置を配置した技術が公知となっている。例えば、特許文献1に示す技術である。従来の懸架装置は、フロントアクスルケースの左右中央位置に、前後方向の軸心を有するセンターピンを設け、該センターピンを介して支持部材を機体フレームに対して揺動自在に支持し、前記支持部材と機体フレームとの間には左右一対のリーフスプリングを介装していた。そして、機体フレームに対する前記支持部材の上下方向位置を選択的に規制、または、規制解除可能とする左右一対の縦油圧シリンダを前記支持部材と機体フレームとの間に介装し、更に、前記支持部材に対するフロントアクスルケースの回動角度を選択的に規制、または、規制解除可能とする左右一対の横油圧シリンダを支持部材とフロントアクスルケースとの間に介装していた。
【0003】
このように構成することで、不整地面を低速走行するときに、縦油圧シリンダを固定し、横油圧シリンダをダンパとして機能させ、センターピンを中心にフロントアクスルケースを揺動可能として走行性能を向上させていた。また、整地面を高速走行するときには、横油圧シリンダを固定し、縦油圧シリンダをダンパとして機能させ、フロントアクスルケースを上下変位可能として、乗り心地を向上させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4054725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献1における技術の場合、左右一対の油圧シリンダを二組必要とし、該油圧シリンダの切換制御手段もそれぞれ必要となるため、部品点数が多く複雑で、高価なものとなっていた。また、リーフスプリングを用いていたために、リーフスプリングはフロントアクスルケースの下方に配置しなければならず、最低地上高が低くなり、果樹園の棚の下を走行するスピードスプレーヤでは不利となっていた。さらにリーフスプリングであると、前後方向に長い構成となるため、操向輪を旋回時に左右回動するときに、干渉を避けようとすると切れ角を小さくしなければならなかった。
【0006】
本発明は、以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、構造が簡単で制御装置が不要で安価な作業車両の懸架装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
請求項1においては、作業車両の前後方向に設けた機体フレームには、スイングアームの後端が回動自在に支持されており、前記スイングアームの前側下方には、フロントアクスルケースが前後方向の軸心を有するセンターピンにより回動自在に支持されており、前記スイングアームと機体フレームとの間には、弾性部材が介装されており、前記弾性部材は、同一軸心上の内外に配置したショックアブソーバとコイルスプリングを備えており、前記スイングアームの前後中途部には、弾性部材受部が形成されており、前記弾性部材受部は、前記ショックアブソーバの下部を挿入可能とした貫通孔と、前記コイルスプリングを受けるバネ受面を備えているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、従来よりも簡単な構造の懸架装置により乗り心地性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る懸架装置を備えるスピードスプレーヤの全体側面図。
図2】本発明の実施形態に係る懸架装置の斜視図。
図3】同じく平面図。
図4】同じく正面図。
図5】同じく側面図。
図6】スイングアームの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
作業車両の一実施形態としてスピードスプレーヤについて、図1により全体構成から説明する。スピードスプレーヤ1は機体フレーム2の前部上に運転操作部3を配置して、操向ハンドルや変速レバーや作業レバー等を配設している。機体フレーム2の前後中央上に薬液タンク4が配設され、該薬液タンク4の後部にエンジンルーム5が配設されて、該エンジンルーム5内にエンジンと動力噴霧機を収納している。エンジンルーム5の後部には散布部6が配設され、該散布部6にファン7とノズルを配置している。
【0012】
こうして、エンジンからの動力により、動力噴霧機とファン7が駆動され、動力噴霧機の駆動により薬液タンク4から薬液を吸い込んでノズルより吐出し、この吐出された薬液はファン7による送風により拡散されて果樹等に散布される。
【0013】
前記機体フレーム2の前部には本発明の懸架装置10を介してフロントアクスルケース11が支持され、該フロントアクスルケース11の左右両側に操向輪となる前輪8・8が支持される。前記機体フレーム2の後部にリヤアクスルケースが固定され、該リヤアクスルケースの左右両側に後輪9・9が支持される。なお、本実施形態のスピードスプレーヤ1は4輪駆動としており、エンジンからの動力がミッションケースを介して前輪8・8及び後輪9・9に伝えられる構成としている。
【0014】
前記機体フレーム2は、図1図2図5に示すように、左右一対の角柱パイプが前後方向に延設され、左右の角柱パイプ間は適宜前後間隔をあけて配置される連結フレーム12により連結されて補強され、枠組み構成としている。また、前記機体フレーム2のフロントアクスルケース11を配置する前部には、フロントアクスルケース11を上方に迂回するように湾曲して側面視略略逆U字状に形成されるフロントアクスルケース配置部2a・2aが構成され、フロントアクスルケース11の左右両側との間に揺動空間を形成するとともに、機体は低くフロントアクスルケース11はできるだけ高い位置に取り付けて、走行機体の地上高が低くなるようにして、棚の下等を容易に走行できるようにしている。
【0015】
次に、本発明の懸架装置10の一実施形態を、図2乃至図5より説明する。懸架装置10は、機体フレーム2とフロントアクスルケース11との間に配置して、凹凸のある地表面を走行したときに、衝撃を緩和して乗り心地だけでなく、走行性能も向上させるものである。懸架装置10はスイングアーム13と弾性部材14とストッパー15・16と備える。さらに、弾性部材14はコイルスプリング141とショックアブソーバ142からなる。
【0016】
前記スイングアーム13は、機体フレーム2に対してフロントアクスルケース11を上下動、及び、左右傾倒揺動可能に連結するものである。スイングアーム13は、図2図3図5図6に示すように、平面視略V字状、側面視略略逆U字状に形成されて、フロントアクスルケース11の左右中央に配置されるデフケース11a近傍の上方に配置される。
【0017】
スイングアーム13の後部は、下方に「へ」字状に折り曲げられて左右二股に分かれて、後端に後支持部13a・13aが構成される。後支持部13a・13aには左右方向に貫通された軸受孔が開口され、支持軸20・20を機体フレーム2より突設して軸受孔に挿入して、スイングアーム13が機体フレーム2に枢支されて、支持軸20を回動支点としてスイングアーム13の前部が上下揺動自在に支持されている。
【0018】
スイングアーム13の前部は下方に延設されて、前端に前支持部13bが構成されている。前支持部13bの左右中央には前後方向に貫通された軸受孔が開口され、フロントアクスルケース11の左右中央前面より前方に突出したセンターピン21が軸受孔に挿入されて、フロントアクスルケース11はセンターピン21により左右傾倒揺動自在に支持されている。なお、フロントアクスルケース11の左右中央後面からもセンターピン21が後方に突出され、図5に示すように、スイングアーム13の前後中途部下面より下方に突設した支持体22により回動自在に支持され、支持剛性をアップしている。
【0019】
スイングアーム13の前後中途部の前寄りの左右両側に弾性部材受部13c・13cが形成されている。弾性部材受部13cは上面にバネ受面131と貫通孔132と軸孔133を備える。バネ受面131は後述するコイルスプリング141の下部を嵌合して受ける部分であり、貫通孔132は上下方向に貫通開口して、ショックアブソーバ142の下部(ピストンロッド142b)を挿入できるようにしている。軸孔133は左右方向に貫通して開口され、軸孔133に支持軸23を軸支してショックアブソーバ142(ピストンロッド142b)の下端を支持し、スイングアーム13に対してショックアブソーバ142下端を回動自在に支持している。
【0020】
前記弾性部材受部13c・13c近傍のスイングアーム13には、ストッパー取付部13d・13dが構成されている。ストッパー取付部13dは本実施形態では、前支持部13bと弾性部材受部13cとの間に構成されているが、弾性部材受部13cの後方や側方であってもよく限定するものではない。ストッパー取付部13dは上下方向に貫通孔が開口されボルト等によりストッパー15をスイングアーム13の下面に取り付けられるようにしている。
【0021】
前記弾性部材14は機体フレーム2とスイングアーム13の間に介装されて、衝撃を吸収するものである。詳細には、弾性部材14の下部は前記スイングアーム13の弾性部材受部13c・13cに支持され、弾性部材14の上部は機体フレーム2の左右のフロントアクスルケース配置部2a・2aの上部間に横設した受プレート24の弾性部材受部24a・24aに支持される。こうして、弾性部材14は機体左右中央に配置され、スイングアーム13の上方に配置されるため、フロントアクスルケース11の両側に配置される前輪8と旋回回動時に干渉することがなくコンパクトに配置される構成としている。
【0022】
該受プレート24の左右両側は、機体フレーム2のフロントアクスルケース配置部2a・2aの上部にボルト26・26・・・により固定される。該受プレート24の左右両側に弾性部材受部24a・24aが形成される。弾性部材受部24aは受プレート24の下面に形成されるバネ受24bと、受プレート24の上面に形成されるロッド支持部24cからなる。バネ受24bは皿状に構成してコイルスプリング141の上部が嵌合される。このバネ受24bとコイルスプリング141の間にはシムが介装され、該シムを増減させることでコイルスプリング141荷重の微調整を可能としている。この調整により乗り心地を変更することができる。前記ロッド支持部24cは弾性部材受部24aに開口された貫通孔の周囲上面から平面視コ字状に折り曲げられた板体が立設され、ショックアブソーバ142のシリンダ142a上部が貫通孔を貫通して板体の上部に支持軸25により枢支されて、ショックアブソーバ142の上部を弾性部材受部24aで揺動自在に支持している。
【0023】
前記コイルスプリング141は圧縮バネであり、薬液タンク4が満水時に所定長さ撓むコイルスプリング141が使用される。コイルスプリング141は着脱可能に構成される。つまり、コイルスプリング141の撓む長さを変更したい場合には、バネ定数が異なるコイルスプリング141に取り替え可能に構成している。この取り替えは、前記機体フレーム2のフロントアクスルケース配置部2aに受プレート24を固定しているボルト26・26・・・を外し、支持軸25を抜くことにより、容易に受プレート24を外すことができ、コイルスプリング141を上方に引きだすことができ交換できる。
【0024】
前記ショックアブソーバ142はシリンダ142aとピストンロッド142bとピストンからなり、前記コイルスプリング141の軸心側内部に貫通するように収納される。ショックアブソーバ142はシリンダ142a内にピストンロッド142bの一端に固設したピストンを収納して、該ピストンによりシリンダ142a内が二つの室に区画される。該ピストンまたはシリンダ142aには図示しない公知のバルブが設けられて、二つの室はバルブを介して流通可能としている。シリンダ142a内にはオイル(または気体)が充填されており、機体の振動や揺動動作の際にはシリンダ内のオイルが一方の室から他方の室にバルブを介して移動し、このバルブを通過するときの抵抗により衝撃を減衰させるようにしている。前記バルブは可変バルブにより構成され、該バルブの通過量を変更することにより減衰値を変更できるようにしている。
【0025】
前記ストッパー15はスイングアーム13の左右に取り付けられて、スイングアーム13の支持軸20を中心とした上下最大揺動時にフロントアクスルケース11に設けた当接体27・27と当接して揺動を規制するものである。ストッパー15・15はゴム等の弾性部材で構成し当接時のショックを吸収し、前記スイングアーム13のストッパー取付部13d・13dの下面に取り付けられる。ストッパー15下方のフロントアクスルケース11の中央のデフケース11aの左右両側には当接体27が固定され、ストッパー15が当接体27と当接可能に配設される。ストッパー15はスイングアーム13の前部、即ち、回動支点となる支持軸20から離れた位置に配置することで最大揺動幅をできるだけ大きくしている。
【0026】
ストッパー16は機体フレーム2の左右のフロントアクスルケース配置部2aに取り付けられて、センターピン21を中心としたフロントアクスルケース11の左右最大傾倒時にフロントアクスルケース11に設けた当接体28・28と当接して左右傾倒を規制するものである。ストッパー16・16はゴム等の弾性部材で構成し当接時のショックを吸収し、前記フロントアクスルケース配置部2aの前部左右外側下部に取り付けられる。ストッパー16はその下方のフロントアクスルケース11の左右両側に固定した当接体28と当接可能に配設される。ストッパー16はスイングアーム13の両左右外側でセンターピン21より離れた位置に配置して、揺動時にスイングアーム13や弾性部材14と干渉しない配置構成としている。
【0027】
以上のように、前後方向に設ける機体フレーム2の前部における左右中央に、スイングアーム13の後端を上下回動自在に支持し、該スイングアーム13の前側を、前輪8を支持するフロントアクスルケース11の上側を迂回して延設し、フロントアクスルケース11の左右中央に設けた前後方向の軸心を有するセンターピン21にスイングアーム13の前側を回動自在に支持するとともに、スイングアーム13の前側と、機体フレーム2の前部にフロントアクスルケース11を上方に迂回するように湾曲して形成したフロントアクスルケース配置部2aとの間に弾性部材14を介装したので、従来よりも簡単な構造の懸架装置10により乗り心地性能を向上できる。そして、弾性部材14は上下方向に配設されることになるので、リーフスプリングのように前後方向に長くならずコンパクトになり、また、スイングアーム13および弾性部材14は機体左右中央側に配置されるために、前輪8の左右旋回回動時に干渉するおそれもない。
【0028】
また、前記弾性部材14はコイルスプリング141とショックアブソーバ142とにより構成したので、コイルスプリング141で上下動のショックを低減できるだけでなく、ショックアブソーバ142により振動を減衰させることができるようになり、乗り心地をさらに向上することができる。また、コイルスプリング141の内側にショックアブソーバ142を配置することができるため、さらにコンパクトに構成できる。また、前記ショックアブソーバは減衰力を調整可能に構成したので、作業者の好みや運転技術や走行路面に合わせて減衰力を調節できるようになり、走行安定性を更に向上できる。なお、本実施形態の懸架装置10は後輪9を支持するリヤアクスルケースにも適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
2 機体フレーム
13 スイングアーム
11 フロントアクスルケース
21 センターピン
14 弾性部材
10 懸架装置
141 コイルスプリング
142 ショックアブソーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6