【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第27回JSCRS(日本白内障屈折矯正手術学会)学術総会/第51回日本白内障学会総会 プログラム・講演抄録集(平成24年5月15日掲載、平成24年6月16日発表)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水晶体嚢に挿入される眼内レンズであり、レンズ機能を有するレンズ本体と、水晶体嚢内にて前記レンズ本体を支える支持部と、前記レンズ本体を後嚢から離すべく後嚢と接触するよう設けられた突出部とを備える眼内レンズであって、
水晶体嚢外と水晶体嚢内との間で、前記レンズ本体に設けられた嚢内外連通部を介して房水が循環自在な第1の循環機構が設けられ、且つ、
水晶体嚢内であって、前記レンズ本体と後嚢との間の領域とそれ以外の領域との間で、前記突出部に設けられた嚢内連通部を介して房水が循環自在な第2の循環機構が設けられていることを特徴とする眼内レンズ。
水晶体嚢に前記眼内レンズが挿入される際に孔が形成された前嚢と前記レンズ本体とが被着することによって水晶体嚢外と水晶体嚢内との間が前記レンズ本体により区分けされ、且つ、水晶体嚢内における前記レンズ本体と後嚢との間の領域とそれ以外の領域との間が前記突出部により区分けされることを特徴とする請求項1に記載の眼内レンズ。
前記第1の循環機構は、前記レンズ本体に設けられた第1の貫通孔を有しており、少なくとも水晶体嚢内における前記レンズ本体と後嚢との間の領域と水晶体嚢外との間で、房水が循環自在となっており、
前記第2の循環機構は、前記突出部に設けられた切欠き及び第2の貫通孔のうちのいずれか一方を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の眼内レンズ。
眼内レンズを挿入した後、前記レンズ本体の主表面に前嚢が被着する際に前記第1の貫通孔が前嚢により塞がれない位置に前記第1の貫通孔が配置されていることを特徴とする請求項3に記載の眼内レンズ。
前記突出部は、前記レンズ本体の外周に沿って設けられており、且つ、後嚢が前記レンズ本体に接触しない程度に突出していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の眼内レンズ。
前記突出部は、水晶体嚢内に挿入する前の状態において、前記レンズ本体と前記突出部との境界から0.5mm以上3mm以下、前記レンズ本体の厚さ方向に突出していることを特徴とする請求項5に記載の眼内レンズ。
水晶体嚢に挿入される眼内レンズであり、レンズ機能を有するレンズ本体と、水晶体嚢内にて前記レンズ本体を支える支持部と、前記レンズ本体を後嚢から離すべく前記レンズ本体の外周に沿って設けられた突出部とを備える眼内レンズであって、
水晶体嚢に前記眼内レンズが挿入される際に孔が形成された前嚢と前記レンズ本体とが被着することによって水晶体嚢外と水晶体嚢内との間が前記レンズ本体により区分けされ、且つ、水晶体嚢内における前記レンズ本体と後嚢との間の領域とそれ以外の領域との間が前記突出部により区分けされており、
水晶体嚢外と水晶体嚢内との間で、前記レンズ本体を介して房水が循環自在な第1の循環機構が設けられ、且つ、
水晶体嚢内であって、前記レンズ本体と後嚢との間の領域とそれ以外の領域との間で、前記突出部を介して房水が循環自在な第2の循環機構が設けられており、
前記第1の循環機構は、前記レンズ本体に設けられた第1の貫通孔を有しており、眼内レンズを挿入した後、前記レンズ本体の主表面と前嚢とが接触する際に前記第1の貫通孔が前嚢により塞がれない程度に、前記レンズ本体の外周から中央側寄りに前記第1の貫通孔が配置されることにより、少なくとも水晶体嚢内における前記レンズ本体と後嚢との間の領域と水晶体嚢外との間で、房水が循環自在となっており、
前記第2の循環機構は、前記突出部に設けられた切欠き及び第2の貫通孔のうちのいずれか一方を有しており、
前記突出部は、水晶体嚢内に挿入する前の状態において、前記レンズ本体と前記突出部との境界から0.5mm以上3mm以下、前記レンズ本体の厚さ方向に突出していることを特徴とする眼内レンズ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術においては、未だ改善すべき点が多く残されている。
例えば特許文献1に記載の技術では、光学部の周縁部の全周にわたって突条が形成されている。そのため、光学部と後嚢との間の房水の循環が十分行われていない。
また、特許文献2に記載の技術は、そもそも眼内レンズと人工水晶体キットとが別体に形成されている。更に、房水が水晶体嚢内にて循環することは記載されているが、それはあくまで水晶体嚢内における循環である。
また、特許文献3に記載の技術は、後発白内障が発症した後のことを前提としている。このような技術も必要ではあるが、そもそも後発白内障を予防する技術についての要請が高まっている。
【0009】
そこで本発明は、水晶体嚢外と水晶体嚢内との間及び水晶体嚢内において房水を十分に循環させることにより後発白内障の発症リスクを抑制する眼内レンズを提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の通り、後発白内障に関し、様々な眼内レンズが開発されている。本発明者らは、まず、後発白内障がそもそも発症しないようにする技術について検討を加えた。そしてその具体的なメカニズムとして、房水を水晶体嚢内にて循環させ、水晶体上皮細胞が再生されないようにするというメカニズムに着目した。ただ、特許文献2のように、水晶体嚢内にて完結した房水の循環だと、後発白内障の発症の抑制を十分に行うことができないのではないかと推測した。
【0011】
その結果、本発明者らは、これまでに全く無かった発想である「水晶体嚢外と水晶体嚢内との間の循環機構」及び「水晶体嚢内における循環機構」という2つの循環機構を眼内レンズに設けるという知見を得た。
【0012】
なお、特許文献3は、先ほども述べたように、後発白内障が発症した後のことを前提とした技術である。そのため、上記のような知見は全く開示されていない。
また、特許文献3に記載の眼内レンズには、外周に接近した位置に位置決め用穴が形成されている。この位置決め用穴は、水晶体嚢に眼内レンズを挿入する際、そこにIOLフック等を差し込み、回転させながら眼内レンズの位置決めをするために使用されるので、眼内レンズを回転させることが容易になる様、可能な限りレンズ本体の最外周近傍に位置させなければならない。ただ、そうなると、眼内レンズの挿入後、水晶体嚢が眼内レンズの形状に倣って収縮し、レンズ本体が前嚢により覆われた場合、位置決め用穴が閉じてしまう可能性が高い。
【0013】
以上の通り、特許文献3に記載の技術は「水晶体嚢外と水晶体嚢内との間の循環機構」及び「水晶体嚢内における循環機構」という2つの循環機構とは、技術的思想という意味でも具体的な構成という意味でも全く異なる。
【0014】
以上の知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
水晶体嚢に挿入される眼内レンズであり、レンズ機能を有するレンズ本体と、水晶体嚢内にて前記レンズ本体を支える支持部と、前記レンズ本体を後嚢から離すべく後嚢と接触するよう設けられた突出部とを備える眼内レンズであって、
水晶体嚢外と水晶体嚢内との間で、前記レンズ本体に設けられた嚢内外連通部を介して房水が循環自在な第1の循環機構が設けられ、且つ、
水晶体嚢内であって、前記レンズ本体と後嚢との間の領域とそれ以外の領域との間で、前記突出部に設けられた嚢内連通部を介して房水が循環自在な第2の循環機構が設けられていることを特徴とする眼内レンズである。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
水晶体嚢に前記眼内レンズが挿入される際に孔が形成された前嚢と前記レンズ本体とが被着することによって水晶体嚢外と水晶体嚢内との間が前記レンズ本体により区分けされ、且つ、水晶体嚢内における前記レンズ本体と後嚢との間の領域とそれ以外の領域との間が前記突出部により区分けされることを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の発明において、
前記第1の循環機構は、前記レンズ本体に設けられた第1の貫通孔を有しており、少なくとも水晶体嚢内における前記レンズ本体と後嚢との間の領域と水晶体嚢外との間で、房水が循環自在となっており、
前記第2の循環機構は、前記突出部に設けられた切欠き及び第2の貫通孔のうちのいずれか一方を有していることを特徴とする。
本発明の第4の態様は、第1から第3の態様のいずれか1態様に記載の発明において、
眼内レンズを挿入した後、前記レンズ本体の主表面に前嚢が被着する際に前記第1の貫通孔が前嚢により塞がれない位置に前記第1の貫通孔が配置されていることを特徴とする。
本発明の第5の態様は、第1から第4の態様のいずれか1態様に記載の発明において、
前記突出部は、前記レンズ本体の外周に沿って設けられており、且つ、後嚢が前記レンズ本体に接触しない程度に突出していることを特徴とする。
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載の発明において、
前記突出部は、水晶体嚢内に挿入する前の状態において、前記レンズ本体と前記突出部との境界から0.5mm以上3mm以下、前記レンズ本体の厚さ方向に突出していることを特徴とする
本発明の第7の態様は、
水晶体嚢に挿入される眼内レンズであり、レンズ機能を有するレンズ本体と、水晶体嚢内にて前記レンズ本体を支える支持部と、前記レンズ本体を後嚢から離すべく前記レンズ本体の外周に沿って設けられた突出部とを備える眼内レンズであって、
水晶体嚢に前記眼内レンズが挿入される際に孔が形成された前嚢と前記レンズ本体とが被着することによって水晶体嚢外と水晶体嚢内との間が前記レンズ本体により区分けされ、且つ、水晶体嚢内における前記レンズ本体と後嚢との間の領域とそれ以外の領域との間が前記突出部により区分けされており、
水晶体嚢外と水晶体嚢内との間で、前記レンズ本体を介して房水が循環自在な第1の循環機構が設けられ、且つ、
水晶体嚢内であって、前記レンズ本体と後嚢との間の領域とそれ以外の領域との間で、前記突出部を介して房水が循環自在な第2の循環機構が設けられており、
前記第1の循環機構は、前記レンズ本体に設けられた第1の貫通孔を有しており、眼内レンズを挿入した後、前記レンズ本体の主表面と前嚢とが接触する際に前記第1の貫通孔が前嚢により塞がれない程度に、前記レンズ本体の外周から中央側寄りに前記第1の貫通孔が配置されることにより、少なくとも水晶体嚢内における前記レンズ本体と後嚢との間の領域と水晶体嚢外との間で、房水が循環自在となっており、
前記第2の循環機構は、前記突出部に設けられた切欠き及び第2の貫通孔のうちのいずれか一方を有しており、
前記突出部は、水晶体嚢内に挿入する前の状態において、前記レンズ本体と前記突出部との境界から0.5mm以上3mm以下、前記レンズ本体の厚さ方向に突出していることを特徴とする眼内レンズである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水晶体嚢外と水晶体嚢内との間及び水晶体嚢内において房水を十分に循環させることにより後発白内障の発症リスクを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本実施形態においては、次の順序で説明を行う。
1.眼球の構造
A)眼球の全体構造
B)水晶体
C)水晶体嚢
D)房水の循環
2.眼内レンズ
A)眼内レンズの全体構造
B)レンズ本体
a)光学部
b)嚢内外連通部
c)嚢被着予定部
C)突出部
D)支持部
3.眼内レンズの使用方法(メカニズム)
4.実施の形態による効果
5.その他
【0018】
<1.眼球の構造>
ここで、本発明に係る眼内レンズの説明に先立ち、当該眼内レンズが用いられる眼球の構造について、
図1を用いて説明する。
図1(a)は、眼球の断面構造を示す概略図である。
図1(b)は、眼内において房水が循環する様子を説明するための断面概略図である。
【0019】
A)眼球の全体構造
図1(a)に示すように、眼球101は、全体に球状をなし、前方の角膜102の部分を除いて強膜103により被覆保護されている。角膜102から虹彩106表面までの空間は前房105と呼ばれ、虹彩106裏面から水晶体までの間は後房と呼ばれる。これらの空間は房水と呼ばれる体液で満たされている。
【0020】
虹彩106によって形成される正円形の孔は瞳孔107と呼ばれ、この大きさを調節することにより、眼球101の内部に入射する光の量を調整する機能を果たす。虹彩106の後方には水晶体111が存在する。水晶体の後方には硝子体113が存在し、その後方には眼内に入射された光を信号に変え、脳に伝える網膜112が存在する。
【0021】
B)水晶体
水晶体111は無色透明で凸レンズ形状を有しており、水晶体嚢108と呼ばれる薄い膜で覆われている。水晶体は水晶体嚢108と毛様小帯109(チン氏帯)を介して、毛様体110に繋がっている。毛様体110には毛様体筋が存在し、水晶体111の厚さを制御して焦点(ピント)合わせを行う。すなわち、近くを見るときは毛様体110が収縮し、毛様小帯109が弛緩することで水晶体111は厚くなり、水晶体111の屈折力が増すことにより近方が見えるようになる。一方、遠くを見るときには毛様体110が弛緩し、毛様小帯109が引っ張られることにより水晶体111が薄くなり、水晶体111の屈折力が低下することにより遠方が見えるようになると考えられている。
【0022】
C)水晶体嚢
水晶体嚢108は、弾性に富む膜様の構造物である。以降、水晶体嚢108における水晶体赤道線Eから見て眼外側(即ち角膜102側)の部分を「前嚢」と呼び、水晶体赤道線Eから見て眼内側(即ち網膜112側)の部分を「後嚢」と呼ぶ。
【0023】
D)房水の循環
図1(b)に示すように、房水は、毛様体110における毛様体突起110aから分泌される。そして、水晶体嚢108と虹彩106との間を通って前房に至り、線維柱帯118aを経てシュレム管118bから房水が排出される。
【0024】
<2.眼内レンズ>
次いで、眼内レンズについて説明する。本実施形態における眼内レンズは、眼球の白内障手術で水晶体111を摘出した後に装着されるものとする。
【0025】
A)眼内レンズの全体構造
図2は、本実施形態における眼内レンズを示す概略図である。(a)は平面図、(b)は(a)の矢印Aから見たときの側面図である。また、
図3も同様の概略図である。(a)は
図2(a)のB−B’における断面図、(b)はC−C’における断面図である。
【0026】
図2(a)に示すように、眼内レンズ1は、平面視にて略円形状をなすレンズ本体2と、レンズ本体2を後嚢から離すべくレンズ本体2の外周に沿って設けられた突出部3と、レンズ本体2の外周部から延びる2本の腕状且つワイヤ状の支持部4とを有している。
【0027】
なお、
図2(b)に示すように、突出部3は、レンズ本体2(特に光学部21)を後嚢から離すために設けられている。更に言うと、突出部3は、レンズ本体2の身代わりとなって後嚢と接触するために設けられている。また、水晶体嚢108内におけるレンズ本体2と後嚢との間の領域は、突出部3の存在により他の領域から区分けされることになる。レンズ本体2と後嚢との間の領域のことを「レンズ下部領域」とも言う。また、水晶体嚢108内における「レンズ下部領域」以外の領域のことを、「レンズ下部領域以外の領域」又は単に「それ以外の領域」とも言う。
【0028】
本実施形態においては、レンズ本体2、突出部3及び支持部4はいずれも軟質材料(ソフトアクリル)によって形成されている。そして、各々は一体に形成されている。
【0029】
B)レンズ本体
本実施形態におけるレンズ本体2は、眼内レンズ1全体における略中心Oに位置し、その形状は平面視で円状ないし楕円状の部分である。そして本実施形態におけるレンズ本体2には、円状の中心から外周に向かって光学部21及び嚢内外連通部22が形成されている。光学部21はレンズ機能を有する部分である。そして、嚢被着予定部23がレンズ本体2の最外周部分に形成されている。なお、眼内レンズ1が水晶体嚢108に挿入された際に、対向する主表面を有するレンズ本体2において、角膜102側となる面を「前面」、網膜112側となる面を「後面」と言う。
【0030】
a)光学部
光学部21は、所定の屈折力を有している。この屈折力は、白内障水晶体を取り除いた後、水晶体の代わりとなって装用者が希望する焦点距離を与えるためのものである。つまり、眼内レンズ1が水晶体嚢108内に挿入され、眼外からの光が光学部21を通ることにより、眼内レンズ1の装用者は、希望する焦点距離を得ることができる。これがいわゆるレンズ機能である。なお、
図3には、眼内レンズ1(特に光学部21)の前面及び後面が両方とも凸形状を有している場合を示す。
【0031】
b)嚢内外連通部
本実施形態においては、光学部21の外周部に嚢内外連通部22を設けている。レンズ本体2に設けられた嚢内外連通部22を介し、水晶体嚢108外と水晶体嚢108内との間で、房水が循環自在となっている。
【0032】
本明細書においては、この嚢内外連通部22のことを第1の循環機構と呼んでいる。嚢内外連通部22は、具体的には貫通孔22bが挙げられる。この貫通孔22bは、本実施形態においては、レンズ本体2の前面及び後面に開口を有し、レンズ本体2の厚さ方向(光軸方向)に対して貫通している孔である。この貫通孔22bにより、少なくとも水晶体嚢108内におけるレンズ下部領域と水晶体嚢108外との間で、房水を循環自在とすることが可能となる。
【0033】
また、
図2及び
図3(a)に示すように、貫通孔22bと共に、開口22aからレンズ本体2の最外周にまで延在する溝22cを形成しても構わない。貫通孔22bによって水晶体嚢108外とレンズ下部領域との間にて房水が循環自在となる上、溝22cによって水晶体嚢108外とレンズ下部領域以外の領域との間においても房水が循環自在となる。
【0034】
なお、本明細書における「貫通孔22b」とは、レンズ本体2の前面に「開口22a」が形成されたものであり、その開口22aからレンズ本体2が貫通されることにより形成された孔のことを指す。
また、「溝22c」とは、レンズ本体2の前面において開放されている一方、レンズ本体2を貫通していない構造のことを指す。そのため、溝22cを設けた場合、水晶体嚢108外の房水はこの溝22cを伝って、水晶体嚢108内におけるレンズ本体2の側面近傍領域(即ちレンズ下部領域以外の領域の一部)へと流れ込む。又はその逆に、房水がこの溝22cを伝って水晶体嚢108内から水晶体嚢108外へと流れ出る。
「貫通孔22b」にしても「溝22c」にしても、水晶体嚢108外と水晶体嚢108内とを連通する構造を有している。
【0035】
なお、貫通孔22bや溝22cは、単数であっても構わないし複数であっても構わないが、水晶体嚢108内外の房水の入れ替えを積極的に行うためには、複数設けるのが好ましい。本実施形態においては、レンズ本体2の中心を挟んで貫通孔22b及び溝22cが対向するように配置されている。そして、円周方向において等間隔に貫通孔22b及び溝22cを8か所配置している。
【0036】
c)嚢被着予定部
本実施形態においては、
図2(a)に示すように、嚢内外連通部22の最外周部分に、円環状の嚢被着予定部23を設けている。
この嚢被着予定部23は、上述の白内障手術及び眼内レンズ1移植術が行われた後、前嚢がレンズ本体2と被着する部分として確保されるスペースである。なお、「被着する」ことを「癒着する」とも言う。それに伴い、「嚢被着予定部」は「嚢癒着予定部」と言い換えても構わない。
上記手術が行われた後、上記手術によって、前嚢の一部(前嚢においてレンズ本体2と対向する部分)が切除されている。また、水晶体嚢108内からは水晶体111が取り除かれており、眼内レンズ1が存在することになる。そして、水晶体嚢108は眼内レンズ1を覆うように収縮していく。その結果、水晶体嚢108に眼内レンズ1が挿入される際に孔が形成された前嚢とレンズ本体2とが癒着することによって水晶体嚢108外と水晶体嚢108内との間がレンズ本体2により区分けされる。更に言うと、前嚢において切除された部分(孔)にレンズ本体2が蓋をすることになる。つまり、上記手術により水晶体嚢108に形成された孔をレンズ本体2が蓋をすることにより、水晶体嚢108外と水晶体嚢108内との間が仕切られる。
【0037】
ところで、本明細書において「区分け」とは、ある領域とある領域との間を仕切りにて完全に仕切っている状態から両方の領域を連通させたものを含むし、不完全な仕切りも含まれる。この不完全な仕切りとしては、例えば後述のC)突出部における切欠き31bが存在する突出部3が挙げられる。
【0038】
水晶体嚢108外と水晶体嚢108内との間が仕切られる際、嚢内外連通部22となる貫通孔22bがレンズ本体2に設けられていたとしても、前嚢によって嚢内外連通部22が塞がれてしまう可能性もある。そこで、本実施形態のように、レンズ本体2の最外周部に嚢被着予定部23を設けておく。そうすることにより、上記手術後に前嚢がレンズ本体2と癒着したとしても、第1の循環機構を保持することが可能となる。
【0039】
なお、嚢被着予定部23として確保しておくスペース(本実施形態で言うところの円環の幅)の大きさとしては、第1の循環機構を保持することが可能な大きさであれば良い。更に言うと、複数ある貫通孔22bや溝22cのいくつかが一部ないし完全に塞がった場合でも、他の貫通孔22bや溝22cにて房水の入れ替えが可能な程度の大きさを有する嚢被着予定部23を採用しても構わない。また、本明細書における「貫通孔22bが前嚢により塞がれない」とは、全ての貫通孔22bが完全には塞がれていない場合のことを言う。貫通孔22bの一部が前嚢により覆われていたり、複数ある貫通孔22bのいくつかが前嚢により完全に塞がれていたりしても、第1の循環機構を保持することが可能であれば、嚢被着予定部23を小さくしても構わないし、嚢内外連通部22を外周寄りに設けても構わない。
【0040】
なお、
図2(a)に示すように、嚢被着予定部23が嚢内外連通部22と一部重なっていても構わない。本実施形態の場合、レンズ本体2に貫通孔22bと溝22cと両方設けている。溝22cはレンズ本体2の最外周まで延在している。そのため、嚢被着予定部23が少なくとも溝22cの一部と重複することになる。つまり、手術後、前嚢が眼内レンズ1と癒着する際、前嚢が溝22cの一部を覆ってしまうことになる。しかしながら、レンズ本体2の開口22aが前嚢により完全に塞がれていなければ、貫通孔22bによって水晶体嚢108の内外を連通させることができる。更に、水晶体嚢108外に対して開放されている開口22aが溝22cと連通していれば、開口22aから入り込んだ房水が溝22cを伝って流れることが可能となる。そうなると、水晶体嚢108外の房水が、覆いかぶさった前嚢の下をくぐって、水晶体嚢108内におけるレンズ本体2の側面近傍領域へと到達することが可能となる。そのため、水晶体嚢108外と水晶体嚢108内とを連通させた状態を維持することができる。
【0041】
なお、本実施形態においては、嚢内外連通部22は、光学部21よりも外周側に形成されている。これは、光学部21が発揮する光学的機能を嚢内外連通部22が阻害しないための処置である。仮に嚢内外連通部22が光学部21に存在する場合、眼内レンズ1の装用者にとっては嚢内外連通部22の領域分の光量が減少するおそれも考えられる。その一方、嚢内外連通部22がレンズ本体2の最外周近傍に存在すると、上述の通り、前嚢によって嚢内外連通部22が完全に塞がれてしまうことになりかねない。そこで、本実施形態においては、レンズ本体2の最外周の部分に嚢被着予定部23を設け、ある程度のスペースを確保しつつ、レンズ本体2の中心に光学部21を設け、所望の光学特性が滞りなく発揮できるような構成となっている。
【0042】
また、本実施形態のように、手術の際に前嚢に形成された孔に対してレンズ本体2が蓋をするためには、前嚢の孔の径よりもレンズ本体2の径の方が大きい方が好ましい。もちろん前嚢の孔の径の方が大きい場合であっても水晶体嚢108の収縮によりレンズ本体2が蓋代わりになるが、前嚢切開部のすべての縁がレンズ本体2に癒着するとは限らず、一部はレンズ本体2に付着し、別の一部は後嚢と癒着するといったように、不均質な癒着が生じる可能性がある。そのような場合では、水晶体嚢108の収縮によってレンズ本体2に加わる力が不均質になるため、レンズ本体2の固定位置が傾いたり、場合によっては水晶体嚢から脱出したりしてしまうリスクもあり、装用者の視機能が損なわれる恐れがある。また、前嚢の孔を大きく作製する場合は、水晶体嚢108そのものを破壊してしまうリスクがあり、手術の難易度が高くなる。そのため、前嚢の孔を大きく作製することは、一般的には避けられている。以上のことを考慮すると、眼内レンズ1の挿入直後の段階でも、レンズ本体2がある程度蓋代わりになるように径を設定した方が良い。
【0043】
C)突出部
本実施形態においては、
図2(b)に示すように、レンズ本体2の外周に沿って突出部3が設けられている。具体的に言うと、突出部3は、レンズ本体2の後面を起点として突出している。この突出部3は、レンズ本体2を後嚢から離すべく後嚢と接触するよう設けられたものである。そして、この突出部3は、例え、眼内レンズ1の形状に倣って水晶体嚢108が収縮したとしても、後嚢がレンズ本体2に接触しない程度の長さで突出している。この突出部3は、レンズ本体2の後面と後嚢との間の距離を稼ぐものである。
【0044】
この突出部3はもちろん、レンズ本体2と後嚢との接触機会を減少させるという意味合いも有する。その一方、水晶体嚢108外の房水を水晶体嚢108内にて循環させるという意味合いを有する。そのため、突出部3は、房水を水晶体嚢108内にて循環させる程度の長さで突出している。仮に、突出部3の長さが足りないと、レンズ下部領域即ちレンズ本体2の後面と後嚢との間にて十分なスペースを確保できなくなり、レンズ下部領域において房水の循環があまり行われなくなってしまう。それを防ぐべく、突出部3は上記の程度の長さを有している。
【0045】
更に本実施形態の突出部3の特徴の一つとして、水晶体嚢108内であって、レンズ下部領域とそれ以外の領域との間で、突出部3を介して房水が循環自在な第2の循環機構が設けられていることが挙げられる。
【0046】
この第2の循環機構としては、突出部3に設けられた嚢内連通部31により構成される。この嚢内連通部31としては、貫通孔31aや切欠き31bが挙げられる。なお以降、レンズ本体2における第1の循環機構の貫通孔22bを「第1の貫通孔」と言い、上記の突出部3に設けられた貫通孔31aを「第2の貫通孔」と言う。
【0047】
レンズ本体2の外周に沿って単に突出部3を設けようとすると、突出部3によってレンズ下部領域が閉鎖領域となってしまうことになる。そうなると、突出部3のおかげでレンズ本体2が後嚢と接触しないようになったとしても、眼内レンズ1の設置時に、レンズ下部領域に水晶体上皮細胞が残存していた場合、この閉鎖領域内で水晶体上皮細胞が増殖してしまうおそれがある。しかしながら、本実施形態においては、突出部3に対して第2の循環機構(第2の貫通孔31aや切欠き31b)を設けている。これにより、レンズ下部領域とそれ以外の領域との間にて、突出部3に設けられた嚢内連通部31を介して、房水を循環させることが可能となる。
【0048】
第2の貫通孔31aを設けることにより、水晶体嚢108内であって、レンズ下部領域とそれ以外の領域の間で房水を循環させることが可能となる。切欠き31bについても同様の効果が期待できる。また、切欠き31bを設けることによって、水晶体嚢内で効果的に房水を循環させることができるようになり、更には突出部3と後嚢との接触面積を減少させることができるという効果がある。
【0049】
第2の貫通孔31aのみを突出部3に設け、突出部3をリング状の突条とした場合であっても、水晶体嚢108内における循環、更には第1の循環機構による水晶体嚢108の内外における循環を行うことは、確かに可能となる。ただ、突出部3と後嚢との接触部の近傍は、他の部分に比べて房水の流れが滞りがちになると推測される。また、突出部3と後嚢が接触することにより、接触部分の周辺に存在する水晶体上皮細胞が異物反応を起こし、後発白内障を引き起こすような水晶体上皮細胞の変性や異常増殖が促進される。
【0050】
そこで、
図2(b)や
図3(b)に示すように、突出部3に切欠き31bを設けることにより、後嚢と突出部3の接触部近傍の房水循環を促進することが可能となり、突出部3と後嚢との接触面積を減少させることで、水晶体上皮細胞の異物反応を軽減する効果が期待できる。
また、切欠き31bを設けることにより、水晶体嚢108内に眼内レンズ1を挿入する際の眼内レンズ1の折り畳みが容易となる。折り畳みについては<3.眼内レンズの使用方法(メカニズム)>にて後述するが、切欠き31bの部分にて折り畳むことが可能となる。こうすることにより、切欠き31bが無い場合に比べ、手術中の術者の作業の負担が軽減されるし、折り畳みの際の眼内レンズ1の破損のおそれも低減する。
【0051】
ところで、この切欠き31bにより、切欠き31bの輪郭に沿った端部32が突出部3に形成されることになる。その際、この端部32は丸みを帯びているのが好ましい。丸みを帯びている方が、眼内レンズ1の挿入の際に、水晶体嚢108やその他の眼内組織に傷が付きにくくなるためである。特に、突出部3において後嚢と接触する部分の近傍の端部は丸みを帯びているのが好ましい。
【0052】
水晶体嚢108に眼内レンズ1を挿入した後は、水晶体嚢108が収縮し、眼内レンズ1を覆うことになる。その際に、上記端部32が丸みを帯びていると、端部32により後嚢が裂けてしまうおそれを低減できる。しかも、上述の通り、水晶体嚢108が収縮した状態であっても房水をレンズ下部領域とそれ以外の領域にて十分に循環させることが可能となる。ひいては、水晶体嚢108の内外にて房水を十分に循環させることが可能となる。
また、端部32に丸みを帯びさせる分、突出部3と後嚢との接触面積を減少させることもできるし、房水が循環できるスペースを、特に後嚢近傍において大きく確保できることができる。そうすることにより、上述のように切欠き31bにより得られる効果を増幅させることも可能となる。
【0053】
なお、第2の貫通孔31aや切欠き31bは、単数であっても構わないし複数であっても構わないが、水晶体嚢108内外の房水の入れ替えを積極的に行うためには、複数設けるのが好ましい。本実施形態においては、レンズ本体2を挟んで切欠き31bが対向するようにしている。そして、円周方向において等間隔に切欠き31bを4か所配置している。また、第2の貫通孔31aについては、切欠き31b同士の中間に位置する部分に設けている。また、可能な限り後嚢近傍の房水の循環を促進すべく、第2の貫通孔31aは突出部3において後嚢寄りに形成されている。
【0054】
なお、レンズ本体2の厚さ方向に突出部3が真っ直ぐに突出していなくとも構わない。つまり、レンズ本体2の厚さ方向からある程度の傾きを有する方向に突出部3が突出しても構わない。結局のところ、レンズ本体2が後嚢と接触しないような寸法であれば良いし、レンズ本体2と突出部3との境界から後嚢までの最短距離が上記の条件を満たすものだと好ましい。上記の範囲分だけレンズ本体2と後嚢との間の距離を有する突出部3であれば、レンズ下部領域として房水の循環に適した広さのスペースを確保することができる。
【0055】
ちなみに再掲するが、特許文献3に記載の技術は、後発白内障が発症した後のことを前提とした技術である。本発明のような、水晶体嚢108内にて房水を循環させる思想については全く開示が無い。そのため、特許文献3に記載の眼内レンズ1だと、例え光学部21に対し後嚢に向けて突条(タブ)を形成していたとしても、後嚢のしわを伸ばすことができさえすれば構わない。つまり、特許文献3に記載の眼内レンズ1の突条(タブ)は、水晶体嚢108内にて房水を循環させる程度の高さを有していないと考えられる。同様に、水晶体嚢108の内外において房水を循環させる思想についての開示も無いことは、本発明の知見として述べたとおりである。
【0056】
なお、突出部3の長さは、水晶体嚢108が収縮したとしても、後嚢がレンズ本体2に接触しない程度の長さにしている。そうすると、自ずとレンズ下部領域には十分なスペースが生じることになる。そうなると、水晶体嚢108内において、レンズ下部領域とそれ以外の領域との間で、房水が自ずと十分循環可能になる。つまり、本実施形態において第2の循環機構を機能させるためには、突出部3の長さは、水晶体嚢108の収縮時、後嚢がレンズ本体2に接触しないようにできる長さであれば良い、とも言える。
【0057】
D)支持部
図2(a)に示すように、本実施形態において、支持部4は眼内レンズ1の一部であって、当該レンズ本体2から開ループ形状且つ2本の腕状に外方へと延出している部分である。素材としては、レンズ本体2と同様、軟質材料(ソフトアクリル)を用いた場合について述べる。なお、本実施形態の支持部4は、付け根部41、支持部本体42及び先端部43を有している。
【0058】
眼内レンズ1を平面視したとき、支持部4は、レンズ本体2と支持部4との境界近傍の部分から先端部43にかけて滑らかに連続した輪郭を有している。また、当該レンズ本体2と支持部4とは、一体成型されている。そして、眼内レンズ1が水晶体嚢108内に挿入されたとき、水晶体嚢108と支持部4とが接触することにより、支持部4を介して水晶体嚢108内にレンズ本体2が保持されることになる。つまり、支持部4は、水晶体嚢108内においてレンズ本体2を支える役割を担う。
【0059】
支持部4における付け根部41は、平面視したとき、レンズ本体2の中心Oに向けて山裾状に幅広に形成され、最も幅広の部分でレンズ本体2につながっている。こうすることにより、レンズ本体2と支持部4との境界部分が破損してしまうおそれを抑制できる。
【0060】
なお、この付け根部41に対し、支持部本体42は、上記付け根部41から外方へと、斜め外向きに円弧を描くように細長く延出している。そして、先端部43分は、支持部本体42に比べて少し幅広に形成されている。
【0061】
支持部本体42は、付け根部41と先端部43とを繋ぐ部分である。上述の通り、支持部本体42は、滑らかに連続した円弧を描いた輪郭を有している。支持部本体42の寸法は任意のもので構わないが、本実施形態においては同じ太さの腕状の部分としている。
【0062】
先端部43は、その名の通り腕状の支持部4の先端に位置する部分である。先端部43の断面視形状及び最先端部分は、水晶体嚢108に接触してもこれにダメージを与えないように、丸みを帯びている。また、付け根部41や支持部本体42の断面視形状も、丸みを帯びていても良い。
【0063】
<3.眼内レンズの使用方法(メカニズム)>
以下、本実施形態における眼内レンズ1の使用方法について、そのメカニズムを中心として
図4を用いて説明する。
図4は、本実施形態における眼内レンズ1の使用方法を示す概略図である。(a)は眼内レンズ1の挿入直後の様子を示す断面図である。(b)は(a)の後しばらくして前嚢がレンズ本体2の前面と癒着した様子を示す平面図である。(c)は前嚢がレンズ本体2の前面と癒着した後の様子を示す断面図である。但し、説明の都合上、眼内レンズ1の一部は側面視している。
【0064】
まず、眼内レンズ1を眼内に挿入するに際し、
図4(a)に示すように、それに先立って眼球101の表面に創口を作製し、水晶体嚢108に円形の孔を形成する。この孔を通して、水晶体嚢108内の白濁した水晶体111(水晶体皮質、水晶体核)を摘出しておく。
【0065】
なお、白内障を発症した水晶体111を水晶体嚢108内から摘出する際に、公知の方法を用いても構わない。一例を挙げれば、水晶体嚢108の前嚢に6mm程度の小さな孔(CCC:Continuous Curvilinear CapsulorhexisまたはContinuous Circular Capsulorhexis)を形成し、超音波乳化吸引術(PEA)を利用して行う。
【0066】
なお、眼内レンズ1は予め小さく折り畳んでおく。このとき、2本の支持部4が互いに重ならないように、レンズ本体2を二つ折りするかたちで、眼内レンズ1を折り畳む。これをインジェクターに挿入する。そして、眼内レンズ1が装着されたインジェクターの先端部43を眼球101の表面(例えば、角膜102と強膜103の境界部)に作製した創口に挿入し、前嚢に形成された孔に臨ませ、その状態でインジェクターから眼内レンズ1を押し出す。そして、前嚢の孔を通して眼内レンズ1を水晶体嚢108内に挿入する。
【0067】
次に、折り畳まれた状態の眼内レンズ1を元の形状に展開させる。なお、眼内レンズ1に形状記憶性を付与しても良い。そうすることにより、鑷子等を用いずとも、自然に眼内レンズ1が展開し、術者の負担を軽減することができる。術後経過に伴い水晶体嚢108は収縮し、
図4(b)に示すように、レンズ本体2の前面における嚢被着予定部23にて前嚢が癒着する。
【0068】
図4(c)に示すように、水晶体嚢108の収縮後であっても、レンズ本体2の前面における第1の貫通孔22b及び溝22cは、嚢被着予定部23にてスペースを確保していたおかげで、完全に塞がれることがない。そして、水晶体嚢108の内外の連通状態を維持できている。そのため、毛様体110から分泌された房水が、レンズ本体2を介して水晶体嚢108内のレンズ下部領域へと流入する。具体的に言うと、水晶体嚢108外の房水が、第1の貫通孔22bを伝って、水晶体嚢108内のレンズ下部領域へと流入する。また、同じく水晶体嚢108外の房水が、溝22cを伝って、水晶体嚢108内のレンズ本体2の側面近傍領域(レンズ下部領域以外の領域)へと流入する(第1の循環機構)。
【0069】
このように水晶体嚢108内に流入した房水は、今度は、突出部3を介して水晶体嚢108内のレンズ下部領域とそれ以外の領域との間で循環する。具体的に言うと、突出部3の第2の貫通孔31aや切欠き31bを介して、水晶体嚢108内において房水が循環する(第2の循環機構)。
【0070】
こうして水晶体嚢108内にて循環した房水は、第1の貫通孔22b及び溝22cを伝って、水晶体嚢108内から水晶体嚢108外へと流出する。そして、水晶体嚢108と虹彩106との間を通って前房105に至り、線維柱帯118aを経てシュレム管118bから房水が排出される(第1の循環機構)。
【0071】
なお、本実施形態において、第1の循環機構においては、水晶体嚢108外とレンズ下部領域とを連通させている。同時に、第2の循環機構においては、水晶体嚢108内であってレンズ下部領域とそれ以外の領域とを連通させている。つまり、房水が循環する際に、レンズ下部領域が房水の合流地点、即ち房水の流入出の交差点となっている。本実施形態において、レンズ下部領域を房水の流入出の交差点とすることには大きな意味を有している。
【0072】
先程も述べたとおり、突出部3と後嚢との接触部の近傍は、他の部分に比べて房水の流れが滞りがちになる。特にレンズ下部領域における突出部3と後嚢との接触部の近傍は、ただでさえレンズ本体2と後嚢との間のスペースが狭い上に、突出部3によって区分けされている。そのため、レンズ下部領域においては、特に房水の流れが滞りやすくなると考えられる。そうなると、この部分において水晶体上皮細胞が増殖しやすくなってしまうと考えられる。
【0073】
そこで、突出部3と後嚢との接触部の近傍を含めたレンズ下部領域を、房水の流入出の交差点とすることにより、房水の流れが比較的乱流となるように眼内レンズ1を構成している。そうすると、水晶体上皮細胞が後嚢に付着して増殖するような安定状態が生まれにくくなる。本実施形態における突出部3は「レンズ本体2と後嚢との間に十分なスペースを設ける」「房水が十分に循環する」ことに加え「房水の循環に際しレンズ下部領域にて十分な乱流を発生させる」という役割も担っている。こうすることにより、水晶体上皮細胞が増殖しやすい環境を生み出さないことが可能となり、ひいては白内障の発症のおそれを著しく低減することが可能となる。
【0074】
<4.実施の形態による効果>
本実施形態においては、房水を、水晶体嚢108の内外にて循環させることが可能となる。しかもそれは、「水晶体嚢108外と水晶体嚢108内との間の循環機構(第1の循環機構)」及び「水晶体嚢108内における循環機構(第2の循環機構)」という2つの循環機構を、眼内レンズ1に設けるだけで、達成可能である。このような2パターンの循環により、水晶体嚢108の内外で房水を効率良く入れ替えることが可能となる。
【0075】
以上のように、本実施形態においては、水晶体嚢108外と水晶体嚢108内との間及び水晶体嚢108内において房水を十分に循環させることにより後発白内障の発症リスクを抑制できる。
【0076】
<5.その他>
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0077】
(第1の循環機構)
上記の実施形態においては、第1の循環機構として第1の貫通孔22bと溝22cとの両方が設けられた場合について述べた。一方、第1の循環機構として第1の貫通孔22bと溝22cとのうち一方が設けられる場合であっても本発明の思想は適用し得る。
【0078】
第1の貫通孔22bのみを設ける場合だと、前嚢が眼内レンズ1と癒着する際に第1の貫通孔22bを完全に塞がない程度に、嚢被着予定部23をレンズ本体2に設けておけば良い。また、レンズ本体2の前面に開口22aを有する第1の貫通孔22bは、上記の実施形態のようにレンズ本体2の後面に開口を有しても良い。更に、レンズ本体2の後面に加え、レンズ本体2の側面に開口を有するような第1の貫通孔22bを設けても構わない。こうすることにより、水晶体嚢108外の房水を、水晶体嚢108内のレンズ下部領域のみならずそれ以外の領域(特にレンズ本体2の側面近傍領域)へと導くことができる。これは、水晶体嚢108内の両領域の房水を水晶体嚢108外へと導くことができることも指す。なお、開口22aとレンズ本体2の側面に形成された開口とを有し、水晶体嚢108外とレンズ本体2の側面近傍領域との間のみを連通するような第1の貫通孔22bを設けてももちろん構わない。
【0079】
それとは対照的に、第1の循環機構として溝22cのみを設けても構わない。但しその場合は、溝22cの少なくとも一部が水晶体嚢108外に露出している状況である必要がある。この状況を満たしていれば、上述の通り、溝22cによって前嚢の下を房水がくぐり、水晶体嚢108の内外を連通させることができる。なお、レンズ本体2の前面に設けられた溝22cと、レンズ本体2の後面に開口を有する孔と連通させても構わない。こうすることにより、前嚢の下にて溝22cを流れる房水が、レンズ下部領域にも導かれることになる。これは、水晶体嚢108内のレンズ下部領域及びそれ以外の領域の房水を水晶体嚢108外へと導くことができることも指す。
【0080】
なお、第1の貫通孔22bと溝22c以外の嚢内外連通部22の例としては、嚢内外連通部22を多孔質なものとして浸透自在とすることが挙げられる。こうすることにより、嚢内外連通部22において房水が浸透する。それにより、水晶体嚢108の内外で房水の入れ替えが行われることが期待できる。また、前嚢とレンズ本体2との間に、房水が循環可能な隙間ができるような構成を嚢内外連通部22として採用しても良い。
【0081】
(第2の循環機構)
上記の実施形態においては、第2の循環機構における嚢内連通部31として第2の貫通孔31aと切欠き31bとの両方が突出部3に設けられた場合について述べた。一方、第2の循環機構として第2の貫通孔31aと切欠き31bとのうち一方が設けられる場合であっても本発明の思想は適用し得る。
【0082】
なお、第2の貫通孔31aと切欠き31b以外の嚢内連通部31の例としては、突出部3自体の構造を、レンズ本体2を支えるための支柱とすることも挙げられる。こうすることにより、レンズ下部領域とそれ以外の領域との間を区分けする突出部3の仕切りが極めて小さくなり、房水の循環を極めてスムーズに行うことができる。それに加え、水晶体上皮細胞が増殖しやすいと考えられる後嚢と突出部3との接触部の接触面積を最小限に減らすことができ、後発白内障の発症を効果的に抑制し得る。なお、第1の循環機構と同様、嚢内連通部31を多孔質なものとして浸透自在とすることも挙げられる。
【0083】
(突出部を設ける場所)
上記の実施形態においては、レンズ本体2の外周に沿って突出部3を設けた。一方、突出部3を支持部4に設けても構わない。その際、突出部3は付け根部41に設けるのが好ましい。こうすることにより、レンズ本体2の外周に沿った場合ほどではないが、レンズ本体2と後嚢とを離すことが可能となる。
【0084】
また、レンズ本体2の嚢被着予定部23と支持部4の付け根部41との間に、別体として突出部3を挿入した構造を採用しても構わない。また、嚢内外連通部22は、光学部21の光学機能を阻害しなければ良い。そうであるならば、嚢内外連通部22となる第1の貫通孔22bや溝22cの近傍の部分においても光学機能を有するような形状を有していても構わない。
なお、本明細書における「突出部3はレンズ本体2の外周に沿って設けられる」とは、上記の実施形態のようにレンズ本体2の後面を起点として突出する突出部3も含むし、上記のようにレンズ本体2の側面に形成された突出部3も含む。
【0085】
(眼内レンズの構成)
上記の実施形態においては、中間部材の段階からレンズ本体2と支持部4とが一体となった一体型眼内レンズについて説明した。一方、本発明の適用範囲は、一体型ではないマルチピース型の眼内レンズ1にも及ぶ。
【0086】
(レンズ本体における他の部分)
また、上記の実施形態においては、光学部21、嚢内外連通部22及び嚢被着予定部23を有するレンズ本体2について述べたが、それ以外の機能を有する部分を有していても構わない。例えば、光学部21と嚢内外連通部22とをスムーズに移行するための遷移領域を設けても構わない。また、嚢被着予定部23から見て更に外周部分にエッジ部を別途設けても構わない。
【0087】
(レンズ本体(光学部)の形状)
光学部21の形状としては、特に制限はない。つまり、眼内レンズ1として効果を奏するものならば、凸レンズでも凹レンズでも構わないし、プリズムを有していても構わない。
【0088】
(レンズ本体と支持部の素材)
また、レンズ本体2、支持部4及び突出部3の構成材料として軟質材料を挙げたが、実際のところ特に制限はない。ただ、レンズ本体2は、当該レンズ本体2を折り畳み可能とする軟質材料によって構成されているのが好ましい。ここで記述する「折り畳み可能」という用語は、レンズ本体2を含めて眼内レンズ1を少なくとも二つ折りにできるという意味で使用している。従って、レンズ本体2を構成する軟質材料は、レンズ本体2を折り畳める程度の高い柔軟性を有する材料であれば良い。ソフトアクリル以外で具体例を挙げるとすれば、シリコーン樹脂、ハイドロゲル、ウレタン系樹脂などの軟質材料を用いることができる。また、硬質材料としては、ポリプロピレン(PP)やポリメチルメタクリレート(PMMA)、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン)、ポリイミド樹脂等から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0089】
(折り畳みの可否)
その一方で、もちろん、折り畳みを要しない眼内レンズ1に本発明を適用しても構わない。その場合、先に挙げた硬質材料を眼内レンズ1に用いても構わない。ただし、その場合、手術の際、眼球101の表面や水晶体嚢108に対して形成される孔が大きくなってしまう。そのため、折り畳み可能な眼内レンズ1に本発明を適用するのが好ましい。
【0090】
(支持部)
また、上記の実施形態においては、支持部4を、付け根部41、支持部本体42及び先端部43にて構成していたが、本発明はその構成にとらわれるものではない。つまり、付け根部41や先端部43のような区別がない、支持部本体42のみからなる支持部4を採用しても構わない。また、支持部4の数も2つ以外のものであっても構わない。例えば3つ以上の支持部を設けても構わないし、レンズ本体2から外周方向に延在するように形成された1つの支持部を設けても構わない。結局のところ、レンズ本体2を水晶体嚢108内にて支持することができれば、公知の支持部4を用いても構わない。
【0091】
(眼内レンズの寸法)
本実施形態におけるレンズ本体2の直径は、眼内レンズ1を眼内の水晶体嚢108に挿入するのに適した寸法であれば、どのような寸法に設定してもかまわない。同様に、レンズ本体2における諸部分(光学部21、嚢内外連通部22、嚢被着予定部23等々)についても、上記の実施形態で述べた条件を満たすならば、どのような寸法に設定しても構わない。
【0092】
具体的な寸法設定例を記述すると、眼内レンズ1の直径は10mm〜13mm程度、レンズ本体2の直径は、好ましくは、5mm〜7mm前後に設定すれば良く、より好ましくは6mmに設定すれば良い。また、光学部21の直径は4mm〜5mm前後に設定すれば良い。また、嚢被着予定部23の幅(半径方向の長さ)は、1mm前後に設定すれば良い。
【0093】
また、第1の循環機構について言うと、第1の貫通孔22bの直径は0.3mm〜0.55mm程度であれば良い。0.3mm以上であれば、水晶体嚢108の内外において房水を十分循環させることが可能となる。0.55mm以下であれば、光学部21に必要なスペースを十分に確保することができるし、レンズ本体2の前面において貫通孔22bが占めるスペースを適度な範囲とすることができ、眼内レンズ1の機械的強度を適度に維持することが可能となる。溝22cの幅についても同様の0.3mm〜0.55mm程度であれば良い。0.3mm以上であれば、水晶体嚢108の内外において房水を十分循環させることが可能となる。0.55mm以下であれば、レンズ本体2の前面において溝22cが占めるスペースを適度な範囲とすることができ、眼内レンズ1の機械的強度を適度に維持することが可能となる。また、溝22cの深さは0.2mm程度であれば良い。これも同様に、眼内レンズ1の機械的強度を適度に維持することが可能となる。
【0094】
また、第2の循環機構について言うと、第2の貫通孔31aの直径は0.3mm〜0.55mm程度であれば良い。0.3mm以上であれば、水晶体嚢108の内外において房水を十分循環させることが可能となる。0.55mm以下であれば、突出部3において貫通孔31aが占めるスペースを適度な範囲とすることができ、眼内レンズ1の機械的強度を適度に維持することが可能となる。また、切欠き31bの幅については1mm程度、切欠き31bの深さについては0.5mm〜2.5mm程度であれば良い。これも同様に、眼内レンズ1の機械的強度を適度に維持することが可能となる。
【0095】
なお、突出部3の具体的な寸法であるが、水晶体嚢108内に挿入する前の状態において、レンズ本体2と突出部3との境界から0.5mm〜3mm、レンズ本体2の厚さ方向に突出しているのが好ましい。0.5mm以上ならば、レンズ下部領域とそれ以外の領域の間で房水を十分に循環させることが可能となる。3mm以下ならば、レンズ本体2が前嚢側に配置されることがなくなる。そうなると、眼内レンズ1又はそれを覆った水晶体嚢108が虹彩106と接触することにより房水の循環が妨げられるおそれを抑制できる。