特許第6016492号(P6016492)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016492
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】箱型成形品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20161013BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20161013BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
   B29C45/14
   B29C45/26
   B29L9:00
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-155672(P2012-155672)
(22)【出願日】2012年7月11日
(65)【公開番号】特開2014-15028(P2014-15028A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】田原 久志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克則
(72)【発明者】
【氏名】大久保 昭郎
【審査官】 井上 由美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−214601(JP,A)
【文献】 特開2003−320548(JP,A)
【文献】 特開2012−000943(JP,A)
【文献】 特開2010−066744(JP,A)
【文献】 特開2009−196158(JP,A)
【文献】 特開2005−144986(JP,A)
【文献】 特開2003−245943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂シートからなる平面表示部と、射出成形樹脂からなる周囲枠部とを有し、前記周囲枠部が、前記平面表示部の周囲にて前記平面表示部と融着一体化されていて、
前記射出成形樹脂の熱膨張率が 1.5×10−5〜6.5×10−5(/K)であり、前記透明樹脂シートの平面方向の熱膨張率が6.3×10−5〜6.7×10−5(/K)であり、
前記周囲枠部が、前記平面表示部の裏面の融着領域および前記平面表示部の側面と接する立ち上がり部を有する箱型成形品。
【請求項2】
前記平面表示部が、片面或いは両面に硬質樹脂層を有する多層シートである請求項1記載の箱型成形品。
【請求項3】
前記硬質樹脂層が、アクリル系樹脂と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーとを共重合して得られる共重合体の芳香環を水添してなる樹脂とから選択されたものである請求項2記載の箱型成形品。
【請求項4】
前記平面表示部の厚みが 0.3mm〜1.2mm である請求項1記載の箱型成形品。
【請求項5】
前記平面表示部が、スチールウール硬度2以上のハードコート層を少なくとも片面に有する請求項1記載の箱型成形品。
【請求項6】
前記平面表示部が、前記ハードコート層を両面に有し、前記周囲枠部との融着領域を含む裏面側の全周囲のハードコート層上に印刷層を有する請求項5記載の箱型成形品。
【請求項7】
前記周囲枠部が、前記射出成形樹脂100重量部に対して15〜50重量部の無機充填材を配合してなるものである請求項1記載の箱型成形品。
【請求項8】
前記平面表示部に対する、温度85℃、相対湿度85%120時間の熱処理、および23℃、相対湿度50%にて4時間の環境下に静置した後に発生する変形量が、120mm×65mmの大きさの前記平面表示部の端部において、0.3mm以下である請求項1記載の箱型成形品。
【請求項9】
箱型成形品の平面表示部を構成する透明樹脂シートを金型の透明樹脂シート装着部に装着し、前記箱型成形品の周囲枠部を構成する射出成形樹脂を前記金型の周囲枠部キャビテー部に充填して、前記透明樹脂シートの周囲にて前記射出成形樹脂を前記透明樹脂シートに融着一体化させる工程を備え、
前記射出成形樹脂の熱膨張率が 1.5×10−5〜6.5×10−5(/K)であり、前記透明樹脂シートの平面方向の熱膨張率が6.3×10−5〜6.7×10−5(/K)であり、
前記金型の透明樹脂シート装着部の温度を前記周囲枠部キャビテー部の温度より高く設定するように、前記金型において、透明樹脂シート装着部と周囲枠部キャビテー部とが独立して温度制御可能である、箱型成形品の製造方法。
【請求項10】
前記金型の透明樹脂シート装着部の温度を、前記周囲枠部キャビテー部の温度より10℃〜50℃高く設定する請求項記載の箱型成形品の製造方法。
【請求項11】
前記透明樹脂シートが、スチールウール硬度2以上のハードコート層を少なくとも片面に有する請求項記載の箱型成形品の製造方法。
【請求項12】
前記透明樹脂シートが、前記ハードコート層を両面に有し、前記射出成形樹脂との融着領域を含む裏面側の全周囲のハードコート層上に印刷層を有する請求項11記載の箱型成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話端末などに用いられるタッチパネル型表示面の構成部品などに好適な成形品であり、タッチパネル面と射出成形樹脂による周囲枠部とが融着一体化してなる箱型成形品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話端末などに用いられるタッチパネル型表示面の構成部品には、射出成形樹脂からなる枠部品に、ガラス板を両面粘着テープなどで接着したものが用いられている。
この理由としては、応答速度の点などからタッチパネル面の板厚みは薄いものほど好ましいこと、強度の点からはある程度以上の厚さが必要であり、高弾性率の材料が選択されること、および、耐擦り傷性や指紋ふき取り性なども必須となることによる。
【0003】
一方、計器カバーなどの自動車内装品や家電、OA機器、パーソナルコンピュータ、タブレット型PC、小型携帯機器などの筐体には、樹脂製の成形体が用いられている。これらの成形体は、適宜、金属調、木目調などの意匠が形成された加飾シートと一体化された加飾成形体として、用いられている。
【0004】
成形体と加飾シートなどの特定の機能を付与したシートとを一体化させる方法としては、(1)特定の機能として、ハードコート層などをもつシートを、特に予備成形することなく射出成形金型に装着し、溶融樹脂を射出して射出成形体を形成すると同時にその成形体にシートを貼り合わせる方法、
(2)熱成形(真空成形、圧空成形、真空圧空成形等)などを可能とした加飾シートを予備成形にて特定形状に加工し、これを射出成形金型にセットし、溶融樹脂を射出して、射出成形体を形成すると同時に予備成形加飾シートと一体化させる方法、
などが用いられている。また、
(3)成形体表面に被覆を施す方法(三次元表面加飾成形)も提案されている。
【0005】
加飾シートとしては、たとえばアクリル系、PET樹脂などを用い、適宜、三次元に曲げられる擦傷性の劣る(軟らかい)ハードコートした基材の裏面に意匠層を設け、さらに該意匠層上に熱可塑性樹脂シートや接着層などの保護層を積層したものなどが用いられている。
たとえば、特許文献1には、表面側から順に、透明アクリル系樹脂シート層、絵柄印刷インキ層、ABS樹脂シート層及びABS樹脂バッカー層が積層された化粧シートが開示されている。特許文献2には、ポリカーボネート樹脂層の表面にメタクリル樹脂およびアクリルゴム粒子からなる層が積層されてなる多層フィルムの一方の面に加飾を施し、その加飾面に熱可塑性樹脂シートを積層した加飾シート、または、その加飾面に熱可塑性樹脂を射出成形した加飾成形品が開示されている。
【0006】
前記の加飾シートに代えて、特許文献3には、熱硬化型もしくは紫外線硬化型のハードコート層を設けたシートを用いる射出成形品が開示されている。また、特許文献4には、基材シート或いはフィルムの片面に特定組成のハードコート塗料を用いて形成した層を有し、熱成形がある程度まで可能で、適宜、裏面に意匠を付与したハードコートシート或いは加飾シートが開示されている。
このような加飾シート或いはハードコートシートは、保護層側(熱可塑性樹脂シート側)にて射出成形体と一体化され、加飾或いはハードコート成形体とされる。該加飾成形体においては、透明樹脂シートが表面に配置され、該透明樹脂シートを通して意匠層を視認できるようになっている。尚、一般的に加飾シートに用いられるハードコートは、三次元に賦形できる要素が必要なために傷付きやすい問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−334609号公報
【特許文献2】特開2009−234184号公報
【特許文献3】特公平4−40183号公報
【特許文献4】特開2010−284910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、携帯電話端末などに用いられるタッチパネル型表示面の構成部品などに好適な成形品を提供することを課題とする。
具体的には、前記のタッチパネル型表示面の構成部品としてガラス板に代えて、透明樹脂板、例えば、ハードコート層を両面に持つ芳香族ポリカーボネートシートの使用を考える。この場合、耐擦り傷性などの点では、やや劣るものの実使用範囲では採用可能と思われる。しかしながら、表面硬度の高い、ハードコート層を両面に持つポリメチルメタクリレート/芳香族ポリカーボネート多層シートの場合、例えば85℃85%RH試験にて許容範囲内の反り発生に収めることが出来ないことから、従来のガラス板と同様の使用法は採用できないという問題があった。
【0009】
そこで、反りを和らげ、薄くとも環境試験後の変形の少ないものを得るとの点から、射出成形樹脂による周囲枠部と融着一体化して、枠による張力にて強化する方法が考えられる。
しかしながら、従来、ハードコートされた透明樹脂シートのみからなる部材の周囲全体に射出成形樹脂を一体化させた成形品は存在しない。通常のインサート成形法で、同じ樹脂製のシートと射出成形樹脂とを用いて成形品を製造した場合、歪みのない成形品は得られていないからである。
そこで、同じ樹脂製のシートと射出成形樹脂とを用いる場合においては、シートの平面方向の熱膨張率がより小さい値となっている点に着目し、この値を調整すべく、射出成形樹脂に無機充填剤を配合した組成物を用いて射出成形品の製造を試みたが、やはり同様の歪みが発生し、良好なものは得られ無かった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、さらに、インサートシートと成形材料との関係、射出成形条件の検討等に関して検討を進めた結果、シート装着部と、射出成形樹脂を充填する周囲枠部キャビテー部との間に温度差をつけても使用可能な金型を用いて、シート装着部とキャビティー部とに温度差をつけた状態で成形することにより、歪みの見られない良好な成形品を得ることに成功し、これに基づいて本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の箱型成形品を含む。
(1)透明樹脂シートからなる平面表示部と、射出成形樹脂からなる周囲枠部とを有し、周囲枠部が、平面表示部の周囲にて平面表示部と融着一体化されている箱型成形品である。
(2)平面表示部が、片面或いは両面に硬質樹脂層を有する多層シートである、上記(1)に記載の箱型成形品である。
(3)硬質樹脂層が、アクリル系樹脂と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーとを共重合して得られる共重合体の芳香環を水添してなる樹脂(以下、核水添MS樹脂と記す)とから選択されたものである、上記(2)に記載の箱型成形品である。
(4)平面表示部の厚みが0.3mm〜1.2mmである、上記(2)に記載の箱型成形品である。
(5)平面表示部が、スチールウール硬度2以上のハードコート層を少なくとも片面に有する、上記(1)に記載の箱型成形品である。
(6)平面表示部が、ハードコート層を両面に有し、周囲枠部との融着領域を含む裏面側の全周囲のハードコート層上に印刷層を有する、上記(5)に記載の箱型成形品である。
(7)周囲枠部が、射出成形樹脂100重量部に対して15〜50重量部の無機充填材を配合してなるものである、上記(1)に記載の箱型成形品である。
(8)射出成形樹脂の熱膨張率が 1.5×10−5〜6.5×10−5(/K)である、上記(1)に記載の箱型成形品である。
(9)平面表示部に対する、温度85℃、湿度85%RH(相対湿度)、120時間の熱処理、および23℃、相対湿度50%にて4時間の環境下に静置した後に発生する変形量(反り量)が、120mm×65mmの大きさの平面表示部の端部において、0.3mm以下である、上記(1)に記載の箱型成形品である。
(10)周囲枠部が、立ち上がり部を有する、上記(1)に記載の箱型成形品である。
【0012】
また、本発明は、以下の製造方法を含む。
(11)箱型成形品の平面表示部を構成する透明樹脂シートを金型の透明樹脂シート装着部に装着し、箱型成形品の周囲枠部を構成する射出成形樹脂を金型の周囲枠部キャビテー部に充填して、透明樹脂シートの周囲にて射出成形樹脂を透明樹脂シートに融着一体化させる、箱型成形品の製造方法である。
(12)金型において、透明樹脂シート装着部と周囲枠部キャビテー部とが、独立して温度制御可能である、上記(11)に記載の箱型成形品の製造方法である。
(13)金型の透明樹脂シート装着部の温度を、周囲枠部キャビテー部の温度より10℃〜50℃高く設定する、上記(12)に記載の箱型成形品の製造方法である。
(14)透明樹脂シートが、スチールウール硬度2以上のハードコート層を少なくとも片面に有する、上記(11)に記載の箱型成形品の製造方法である。
(15)透明樹脂シートが、ハードコート層を両面に有し、射出成形樹脂との融着領域を含む裏面側の全周囲のハードコート層上に印刷層を有する、上記(14)に記載の箱型成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、透明樹脂シートからなる平面表示部と、射出成形樹脂からなる周囲枠部とからなり、周囲枠部が、平面表示部の周囲にて平面表示部と融着一体化してなる箱型成形品が提供できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本願発明における箱型成形品を製造するための金型を示す断面図である。
図2】金型の間隙を拡大して示す断面図である
図3】本願発明における箱型成形品を示す全体斜視図である。
図4図3のA−A’線で切断した箱型成形品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に関して構成などに関して説明する。
1.箱型成形品
本発明は、タッチパネル型表示面の構成部品に好適に用いられる箱型成形品等に関する。箱型成形品は、透明樹脂シートからなる平面表示部と、射出成形樹脂からなる周囲枠部とを有する。そして周囲枠部は、平面表示部の周囲にて平面表示部と融着一体化されている。このように、平面表示部の周辺の領域のみにおいて周囲枠部が一体化されているため、成形品は箱型を有する(後述する図4参照)。
2.透明樹脂シート
まず、平面表示部(主にタッチパネル型表示面など)を構成する透明樹脂シートとしては、(1)透明なプラスチック材料を用いたシート、(2)耐衝撃性や適度の耐熱性を持つ樹脂を基材層とし、その片面あるいは両面に硬質樹脂層を形成した多層シート、さらに(3)前記(1)又は(2)のシートの片面或いは両面にハードコート層を形成したものが挙げられる。
また、透明樹脂シート(平面表示部)において、タッチパネル型表示面の周囲に相当する部分には、通常、意匠性などを有する印刷層が形成される。
そして透明樹脂シートは、所望のインサートシートの形状に、通常、打ち抜きやNCカット、レーザーカットなどにて加工されて用いられる。
【0016】
ここで、本発明において用いられる透明樹脂シートの透明なプラスチック材料(上述の(1))としては、芳香族ポリカーボネート、非晶性ポリオレフィン(脂環式ポリオレフィン)、ポリアクリレート、ポリスルフォン、アセチルセルロース、ポリスチレン、ポリエステル、透明ポリアミドなどからなる透明樹脂が挙げられる。これらの中でレンズ用として用いられている樹脂が好ましく、芳香族ポリカーボネート、(メタ)アクリル樹脂、スチレン−アクリル共重合樹脂、水添スチレン−アクリル共重合樹脂、透明ポリアミドなどが例示される。
【0017】
芳香族ポリカーボネートシート(PC)としては、フィルム強度、耐熱性、耐久性あるいは曲げ加工性の点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンや2,2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジハロゲノフェニル)アルカンで代表されるビスフェノール化合物から周知の方法で製造された重合体が好ましく、その重合体骨格に脂肪酸ジオールに由来する構造単位やエステル結合を持つ構造単位が含まれても良い。特に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネートが好ましい。
【0018】
芳香族ポリカーボネート(PC)との組成物として用いる脂環式ポリエステル樹脂は、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸で代表されるジカルボン酸成分と1,4−シクロヘキサンジメタノールで代表されるジオール成分と、必要に応じて他の少量の成分とを、エステル化またはエステル交換反応させ、次いで、適宜、重合触媒を添加し徐々に反応槽内を減圧にし、重縮合反応させる公知方法により得られるもの(PCC)である。
脂環式ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体として、具体的には、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,7−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、およびそのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0019】
本発明において用いられる透明樹脂シートのポリアミド樹脂としては、レンズ用透明ポリアミド樹脂として公知のもの、例えば、耐熱性の一指標である熱変形温度100〜170℃の範囲であり、芳香族ポリアミド樹脂、脂環族ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、並びに、これらの共重合体が挙げられる。機械的強度、耐薬品性、透明性等のバランスから脂環式ポリアミド樹脂は好ましいものであるが、2種以上のポリアミド樹脂を組み合わせてもよい。このようなポリアミド樹脂の例として、GLILAMIDTR FE5577、XE 3805(EMS製)、NOVAMID X21(三菱エンジニアリングプラスチックス製)、東洋紡ナイロンT−714E(東洋紡製)があるが、これらに限定されない。
【0020】
(メタ)アクリル樹脂は、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メチルメタクリレート(MMA)に代表される各種(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、またはPMMAやMMAと他の1種以上の単量体との共重合体であり、さらにそれらの樹脂の複数種が混合されたものでもよい。これらのなかでも、低複屈折性、低吸湿性、耐熱性に優れた環状アルキル構造を含む(メタ)アクリレートが好ましい。以上のような(メタ)アクリル樹脂の例として、アクリペット(三菱レイヨン製)、デルペット(旭化成ケミカルズ製)、パラペット(クラレ製)があるが、これらに限定されない。
【0021】
これらの中で、上述の(2)の基材層として使用する樹脂としては、芳香族ポリカーボネートなどが代表例として挙げられ、この片面或いは両面に形成する硬質樹脂層としては、アクリル系樹脂、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーとを共重合して得られる共重合体の芳香環を水添してなる樹脂(核水添MS樹脂)、または、2,2−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)アルカンを共重合した芳香族ポリカーボネート樹脂(芳香環を含むアクリルモノマーを共重合した芳香族ポリカーボネート樹脂に対して相溶性を有するアクリル樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂との組成物)などが例示され、これらは耐候性の改良から通常、紫外線吸収剤を配合した組成物として用いる。
【0022】
本発明において用いられるシート及び多層シートは、通常、(共)押出法により製造され、それらのシート、すなわち平面表示部の厚みは、例えば、0.3mm〜1.2mmの範囲から適宜選択される。
多層シートの場合、片面或いは両面に形成する硬質樹脂層の厚みは、好ましくは0.03mm〜0.1mmから選択する。薄すぎると鉛筆硬度などが低くなり好ましくなく、厚すぎても硬度を高める効果がなくなり、基材シートの特性低下が大きくなり好ましくない。
そして、押し出し工程において、或いは、押し出しされた後に、適宜、シートに対してハードコート加工を施す。本発明の用途においては、耐磨耗性や耐指紋性(指紋ふき取り性)に優れたものが好ましい。また、通常、ハードコート層は曲げ加工などの必要が無いものであり、インサートシート形状に加工できれば使用できるものであるが、生産性の点から、打ち抜き出来るものが特に好ましい。
【0023】
本発明において用いられるハードコート層の材料としては、アクリル系、シリコン系、メラミン系、ウレタン系、エポキシ系等公知の架橋皮膜を形成する化合物が使用できる。これらの中で、好ましくは、形成されたハードコート層の鉛筆硬度を4H以上、スチールウール硬度を2以上と出来るものが良い。具体的には、アクリル系、シリコン系が好ましいものとして例示され、特に、加工性と硬さとのバランスからアクリル系が好ましい。
ハードコート層は、通常の方法で形成されても良く、ロールコート法などの塗布法、ディプ法、転写法などで形成する。また、硬化方法も紫外線硬化、熱硬化、電子線硬化等公知の方法を用いることができる。
【0024】
アクリル系のハードコート層は、例えば、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基(アクリロイルオキシ基及び/またはメタクリロイルオキシ基の意、以下同じ)を有する架橋重合性化合物であって、各(メタ)アクリロイルオキシ基を結合する残基が炭化水素またはその誘導体で形成され、その分子内にはエーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合等を含むことができる。
シリコン系のハードコート層としては、適宜、紫外線吸収剤などを配合した熱硬化性のポリオルガノシロキサンの組成物等があげられる。ポリオルガノシロキサンは、一般式RnSi(OR)(4−n)で表される通常のオルガノシランを加水分解、縮合して得られる加水分解物及び/又は部分縮合物としてなるものである。
【0025】
透明樹脂シートをインサートシートとして用いる場合、通常、平面表示部の周囲には印刷層が形成される。例えば、ハードコート層を両面に有する透明樹脂シートは、射出成形樹脂により形成される周囲枠部との融着領域を含む裏面側において、全周囲のハードコート層上に少なくとも2mm、好ましくは20mm程度の幅の印刷層を有する。
インサートシートは、ポリエステル系、ポリカーボネート系、アクリル系、ウレタン系の印刷インクを用いて印刷可能であり、特にハードコートとの密着性に問題がある場合は、プラズマやイオンエッチング、コロナ放電等の表面処理によって表面改質して密着力を高めることも可能である。また射出成形材料の熱によって溶融されないためにはポリエステル系インクを使用する事が好ましい。
【0026】
また、透明樹脂シート(インサートシート)の平面方向の熱膨張率(線膨張率)は、例えば、6.3×10−5〜6.7×10−5(/K)である。
【0027】
3.平面表示部
平面表示部は、上述の透明樹脂シートにより形成される。平面表示部は、例えば、箱型成形品が携帯電話端末などに組み込まれた際に、タッチパネル型表示面として機能する。平面表示部は、上述の透明樹脂シートの他に、タッチパネルセンサー(ITO配線を施したOCA付きPETフィルム、透明樹脂シート裏面へITO配線処理したシート)等を含んでいても良い。
【0028】
平面表示部においては、後述するように、応力および歪の発生を抑制することが好ましい。このため、例えば、120mm×65mm×(厚さ0.7〜1.0)mmの平らな透明樹脂シートを用いた場合において、製造された箱型成形品における平面表示部の端部における反り量が、0.3mm以下、好ましくは0.2mm以下、より好ましくは0.1mm以下である。なお平面表示部の大きさは、例えば、120mm×65mm×(厚さ0.3〜1.2)mm程度である。なお、平面表示部の端部における反り量の測定は、例えば、平面表示部を室温で24時間放置した後に測定し、あるいは、平面表示部を85℃、相対湿度85%の条件下で120時間処理後、23℃、相対湿度50%にて4時間の環境下に静置した後において、測定する。また、平面表示部を構成する樹脂中の最も低いガラス転位温度を有する樹脂は、上記熱処理時の温度である85℃よりも10℃以上高い、すなわち95℃以上のガラス転位温度を有することが好ましい。
【0029】
4.射出成形樹脂
射出成形樹脂は、前記透明樹脂シートで構成される平面表示部の周囲にて、射出成形により透明樹脂シートに融着一体化される。そして射出成形樹脂は、周囲枠部を形成する。ここで用いる射出成形樹脂は、
(i)前記透明樹脂シートにより形成されたインサートシートと熱融着可能であること、
(ii)前記インサートシートの平面方向の熱膨張率(線膨張率)の値に対して、射出成形樹脂の線膨張率、特に射出成形樹脂の流れ方向(MD)の線膨張率の値が最適な範囲内にあること、
が、当然に必要である。(i)の条件を満たさなければ一体化成形品が得られず、(ii) の条件を満たさなければ、温度変化による寸法差による応力発生が大きく、成形品に歪みが発生することとなる。すなわち、インサートシートの線膨張率と、射出成形樹脂の線膨張率とのバランスを良好に保ち、インサートシートと射出成形樹脂とを一体化させたときに生じる成形品の反りを抑制することが必要である。
【0030】
まず、射出成形樹脂は、下記のように適宜、無機充填剤を配合してなるものであるが、通常、インサートシートの樹脂と同じ或いは以下の耐熱性の成形材料が選択される。そして、(i)の条件から少なくとも透明樹脂シートの切断面と熱融着可能であることが好ましく、通常、この条件により、射出成形樹脂としては、上述の透明樹脂シートの樹脂材料と同じ、或いは同じ樹脂を含む樹脂組成物が選択される。
また、熱融着可能なもので予備処理すること、プライマー処理することで、異種樹脂を選択することも可能である。
例えば、前記インサートシートとして、両面ハードコート層を有する透明樹脂シートを用いる場合に、射出成形樹脂がこのハードコート層に熱融着出来ないものの場合、通常、周囲に設ける意匠を兼ねた印刷に用いるインク成分としてプライマーとなる成分を有するものを選択することにより、融着一体化させる。
【0031】
次に、(ii)の条件から、通常、射出成形樹脂として、無機充填剤を配合したものを用いることが好ましい。無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、タルク、ウォラストナイト、炭酸カルシウムウィスカ―、チタン酸カリウムウィスカ―、炭素繊維、マイカ等が使用でき、好ましくはガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、あるいはこれらの混合充填剤等である。
無機充填剤の熱膨張率は樹脂の約1/10程度であり、無機充填剤を配合した射出成形樹脂の熱膨張率は、添加量が少ない場合には添加量の略容量%相当分、小さくなる。
透明樹脂シートによるインサートシートの平面方向の熱膨張率は、通常、特定の形状を持たない樹脂の値よりも小さいので、この値に相当するように、射出成形樹脂についても熱膨張率の値が小さいものを選択する。
例えば、芳香族ポリカーボネートを基材とする多層シートをインサートシートとし、無機充填剤を配合した芳香族ポリカーボネート射出成形用樹脂組成物を用いる場合、無機充填剤を容量で10%前後の範囲で混合したものが妥当な充填量となる。このように、無機充填剤の含有量は、透明樹脂シートおよび射出成形樹脂の熱膨張率等に応じて調整されるものの、射出成形樹脂100重量部に対して15〜50重量部、好ましくは、20〜40重量部である。
【0032】
射出成形樹脂の熱膨張率(線膨張率)は、透明樹脂シート(インサートシート)の平面方向の熱膨張率(線膨張率)に応じて調整され、透明樹脂シートの平面方向の熱膨張率の値が大きければ、射出成形樹脂の熱膨張率の値も大きくなるように調整されるが、1.5×10−5〜6.5×10−5(/K)の範囲、好ましくは、1.8×10−5〜6.3×10−5(/K)である。
【0033】
また、射出成形樹脂は、無機充填剤の他にも、顔料、染料等の着色剤及び酸化防止剤、安定剤、離型剤等を含んでいても良い。
【0034】
5.周囲枠部
周囲枠部は、上述の射出成形用樹脂、および必要に応じて無機充填剤等により形成される。周囲枠部は、例えば、箱型成形品が携帯電話端末などに組み込まれた際に、タッチパネル型表示面(平面表示部)を支持する。このため、周囲枠部においては、平面表示部側に向かって伸び、平面表示部と接する立ち上がり部が形成されていることが好ましい。このような立ち上がり部を周囲枠部に形成することにより、平面表示部をより強固に保持することができる。
【0035】
6.箱型成形品の製造方法
本発明は、また、箱型成形品の製造方法に関する。本発明の製造方法は、まず、透明樹脂シート装着部(例えば可動側金型及び入れ駒)と周囲枠部キャビテー部(例えば固定側金型及び入れ駒)とを独立して温度制御可能な金型を用いることを特長とする。そして本発明の箱型成形品の製造方法においては、最初に、透明樹脂シート装着部側の温度を周囲枠部キャビテー部側の温度よりも高くなるように調整する。そして、透明樹脂シート装着部に透明樹脂シートを装着し、周囲枠部キャビテー部に、加熱した射出成形樹脂を注入、充填する。
【0036】
周囲枠部キャビテー部、すなわち周囲枠部を構成するための金型キャビテーに射出充填された樹脂は、金型表面にて冷却され、融点で固化し、金型密着状態にてガラス転移温度以下まで冷却される。こうして、射出成形樹脂により、透明樹脂シート装着に融着する周囲枠部が形成される。その後は、周囲枠部の外周部は収縮しつつ、内周部は金型密着状態で、金型温度まで冷却され、金型から取り出されて室温まで冷却されて、箱型成形品が製造される。そして、この射出成形樹脂および周囲枠部の寸法変化は、後述する成形収縮率として規定される。
【0037】
一方、インサートシート(透明樹脂シート)は、金型への装着と同時に加熱され膨張するが、装着した金型温度までは上昇しない状態で、金型を閉鎖する。この金型閉鎖により、インサートシートは、周囲枠部キャビテー部側にも接することとなり、透明樹脂シート装着部側ほど高温には加熱されていない周囲枠部キャビテー部側による冷却が始まる。ここで、インサートシートが完全に冷却される、すなわち、透明樹脂シート装着部側の温度と周囲枠部キャビテー部側の温度との間の一定温度となる前に、周囲枠部は、高温の射出充填樹脂により加熱される。そしてインサートシートは、射出充填樹脂と共に金型温度まで冷却され、金型から取り出されて室温まで冷却される。
すなわち、インサートシートは、周囲枠部キャビテー部側の金型温度よりも高温まで加熱され、より膨張した状態にて、射出充填樹脂と融着一体化される。この結果、周囲枠部キャビテー部の金型温度での取り出し時に、周囲枠部からインサートシートに過剰の収縮応力が負荷されることはない。
ゆえに、歪み発生につながる収縮応力が発生しない、良好な成形品が製造できたものといえる。すなわち、上述の4.射出成形樹脂の欄で説明した歪みの発生は、インサートシート(透明樹脂シート)の平面方向の熱膨張率の値(線膨張率)と、射出成形樹脂の熱膨張率の値(線膨張率)との差をある程度の範囲に抑制し、かつ、射出成形時の両者の温度をそれぞれ個別に制御することにより、抑制される。
【0038】
以上のように、本発明で用いる金型は、透明樹脂シート装着部と周囲枠部キャビテー部とを別々に温度制御可能としてなるものである。
そして、設定すべき温度差は、上記したように、周囲枠部キャビテーの温度よりも高い温度にインサートシートを短時間で加熱できる温度差であり、成形収縮率の小さい材料ほど温度差を小さく取ることができる。この点から、射出樹脂は、非晶性のものが、より小さい温度差にて良好な成形品を製造できるので、制御範囲が広がり、より好ましいといえる。
また、インサートシートを予備加熱して熱膨張させた状態で装着することにより、より短時間の成形サイクルの製造が可能となる。
上記の温度差は、射出成形樹脂とシートの膨張率、予備加熱の有無等により異なるが、前記金型の透明樹脂シート装着部の温度を、周囲枠部キャビテー部を含むその他の部分の温度より10℃以上、例えば、15℃〜50℃高くなるように、好ましくは20℃〜40℃高くなるように、設定する。
【実施例】
【0039】
射出成形機として、日本製鋼所製 AD-110を用い、金型10(図1参照)を使用して、以下のように箱型成形品を製造した。
金型10は、互いに独立した部材である、樹脂注入側ブロック12、シート側ブロック14、および中間ブロック16を有する。樹脂注入側ブロック12においては、樹脂を注入するための樹脂注入口12Mと、樹脂の通過する流路12Fとが形成されている。一方、シート側ブロック14においては、透明樹脂シート(インサートシート)20が装着されるシート装着部14S(透明樹脂シート装着部)が形成されている。
【0040】
そして、シート側ブロック14と中間ブロック16とが組み合わせられた状態(図1参照)において、両部材間には、隙間14Aが形成される。すなわち、組み合わせられた状態のシート側ブロック14と中間ブロック16の中心部材16Cとの間には、外形120mm×75mmの間隙14Aが形成され、間隙14Aの最大高さ14Hは4mmである。この間隙14Aの中央にはシート装着部14Sが設けられ、シート装着部14Sのサイズは118mm×73mm×1mmである。
【0041】
また、シート装着部14Sの周囲、すなわち間隙14Aの最外周部分には、金型キャビテー部14C(周囲枠部キャビテー部)が設けられる。金型キャビテー部14Cにおいては、図2に示されるように、図2の紙面奥行き方向の長さ約120mm×幅2mm×高さ4mmの樹脂を溜めるための空孔部141Cが形成され、さらにシート装着部14Sと重なる領域である、約120mm×幅2mm×厚み0.5mmの突出空孔部142Cが形成される。
【0042】
金型10においては、個々のブロックごとに独立して温度調整が可能である。このため、シート側ブロック14の温度と、中間ブロック16の温度をそれぞれ調整することにより、シート装着部14Sの温度と、中間ブロック16に近接する金型キャビテー部14Cの温度とを、独立して制御することが可能である。
【0043】
透明樹脂シート20は、以下のように作成した。すなわち、表面側の鉛筆硬度4H、裏面側の鉛筆硬度Fのハードコートを持つ厚み1mmの多層シート(層構成:ハードコート/ポリメチルメタクリレート/ポリカーボネート/ハードコート:HC/PMMA/PC/HC、商品名;ユーピロンシートMR58、三菱ガス化学株式会社製)を用いて、サイズ118mm×73mmで外周118mm辺の裏面淵に幅4mm、外周73mm辺の裏面淵に幅12mmの印刷模様をもつシートを打ち抜き、透明樹脂シート20を得た。
【0044】
透明樹脂シート20の熱膨張率(線膨張率)を、ISO−11359−2に準拠して測定した。こうして測定された透明樹脂シート20の熱膨張率の値は、6.5×10−5(/K)であった。
【0045】
なお、印刷模様は、ポリエステル系のインキ(商品名;IPX-HF、帝国インキ製造株式会社)を用い、シルクスクリーン印刷にて形成した。またその印刷上にプライマーコート(商品名;IMBバインダー、帝国インキ製造株式会社製)を形成した。剥離強度は、碁盤目テストで25/25であった。
また、鉛筆硬度は、JIS K 5600−5−4 による。
スチールウール硬度4以上の評価は、#0000番のスチールウールを用いて、下記のように行った。
スチールウール硬度1 :1000gの荷重にて15往復にて、傷なし。
スチールウール硬度2 :1000gの荷重にて、傷3本以下。
スチールウール硬度3 :1000gの荷重にて、傷10本以下。
【0046】
下記表1に記載の樹脂組成を有する射出成形材料(樹脂)と、上述の透明樹脂シート20とを用いて、以下のように箱型成形品30(図3参照)を製造した。
【表1】
【0047】
箱型成形品30は、透明樹脂シート20により形成される平面表示部32と、射出成形樹脂により形成される周囲枠部34を含む。周囲枠部34は、ほぼ矩形状の平面表示部32の裏面32Bおよび側面32Sにおいて、平面表示部32と融着一体化されている(図3のA−A’線で切断した箱型成形品30の断面図である図4参照)。周囲枠部34は、平面表示部32の裏面32Bの全周に渡る周辺領域32Rおよび側面32Sに融着されている。このような箱型形状を有する成形品30は、例えば、タッチパネル型表示面の構成部品としての使用に適している。
【0048】
なお、平面表示部32の裏面32B側、すなわち、周囲枠部34が融着されている融着領域32Rを含む側においては、平面表示部32の全周囲のハードコート層上に幅5mmの印刷層32Pが形成されている。図3においては、平面表示部32が透明であるため、裏側32B側に形成された印刷層32Pが、表面32A側から視認できる状態が示されている。また、図4において示されるように、周囲枠部34においては、平面表示部32側に向かって伸び、平面表示部32の融着領域32Rおよび側面32Sと接する立ち上がり部34Pが形成されている。立ち上がり部34Pを形成することにより、平面表示部32は、周囲枠部34によって強固に保持される。
【0049】
次に、上記表1を参照して、射出成形材料について説明する。実施例1ではPC(ポリカーボネート)とABSとの重量比7:3の材料(ユーピロンTMB1615)、実施例2ではPC80重量%とガラス繊維(GF・無機充填剤)を20重量%含む材料(ユーピロンGS2020MKR)、比較例1ではPCのみの材料(ユーピロンH3000)、および比較例2ではPC90重量%とガラス繊維(GF)を10重量%含む材料(ユーピロンGS2010MKR・上記いずれも三菱エンジニアリング プラスチックス株式会社製)をそれぞれ用いた。また、比較例3〜5では、実施例1と同じ射出成形材料を用いた。
【0050】
箱型成形品30の製造において、金型10の温度をそれぞれ表2に示す所定の値に設定した。すなわち、実施例1、2、および比較例1では、シート側ブロック14の温度を85℃に、中間ブロック16の温度を50℃に設定した。さらに、比較例2では、シート側ブロック14の温度を85℃に、中間ブロック16の温度を80℃に設定し、比較例3〜5では、シート側ブロック14と中間ブロック16の温度を等しいか、もしくはシート側ブロック14の方が中間ブロック16よりもより低い温度となるように、それぞれ設定した。なお、表2における樹脂温度とは、金型10の樹脂注入口12Mより樹脂注入側ブロック12に注入される直前の射出成形材料(樹脂)の温度を示す。
【表2】
【0051】
こうして製造した実施例1、2、および比較例1〜5の箱型成形品30の平面表示部32について形状測定を行い、結果を表2に示した。ここで、平面表示部32の大きさは、120mm×65mm×1.0mmであり、平面表示部32の変形前の平面(インサートシート20の平面)を基準として、変形後の端部における反り量(mm)を測定した。表2における反り量の初期値は、各実施例および比較例の平面表示部32を室温で24時間放置した後に測定し、湿熱後の値は、各実施例および比較例の平面表示部32を85℃、相対湿度85%の条件下で120時間加熱し、さらに、23℃、相対湿度50%の条件下で4時間、静置した後に測定した。
【0052】
表2に示されているように、実施例1および2においては、初期および湿熱後のいずれの反り量も0.30mm以下であり、良好な結果が得られた。このため、実施例1および2の箱型成形品30の平面表示部32においては、生じた応力、および歪みが抑制されたといえる。一方、比較例1においては、初期および湿熱後のいずれの反り量も3mm以上と大きな値であったため、平面表示部において大きな応力および歪みが発生したといえる。
【0053】
実施例1および2と、比較例1との間では、成形品製造時の金型温度が等しく、また同一の透明樹脂シート20が用いられたことから、上述の反り量の差は、射出成形材料(樹脂)の組成および熱膨張率の差異(表1参照)に起因するといえる。すなわち、実施例1および2では、射出成形樹脂の流れ方向(MD)の線膨張率が2.7または2.8×10−5(/K)であるのに対し、比較例1では、流れ方向(MD)の線膨張率が6.5×10−5(/K)であることが主な原因で、後者の反り量が大きくなったといえる。このため、線膨張率の値が6.5×10−5(/K)である透明樹脂シート20を用いて箱型成形品30を形成する場合、概ね、2.7〜2.8×10−5(/K)ほどの流れ方向(MD)の線膨張率を有する射出成形材料(樹脂、もしくは樹脂および充填剤等)の使用が好ましいといえる。なお、実施例2と比較例1では、直角方向(TD)の線膨張率の値は近似している(6.2×10−5(/K)と6.6×10−5(/K))ものの、流れ方向(MD)の線膨張率の値は大きく異なり(2.7×10−5(/K)と6.5×10−5(/K))、そして比較例1に比べて実施例2が明らかに良好な結果を示していることから、直角方向(TD)の線膨張率よりも流れ方向(MD)の線膨張率が重要であることが確認された。
【0054】
また、比較例2においては、流れ方向(MD)の線膨張率の値(4.0×10−5(/K))が、比較例1の値よりも実施例1および2に近いものの、反り量は2.5(mm)、および2.6(mm)であり、0.3(mm)未満の実施例1および2に比べて明らかに大きい値であった。このことは、実施例1および2において、シート側ブロック14(図1参照)側の金型温度を、中間ブロック16側(キャビティー側)の金型温度よりも35℃ほど高く設定したのに対し、比較例2では、両者の温度をほぼ同レベルに設定したことに起因すると考えられる。
【0055】
このように、金型温度が平面表示部32の反り量に影響を及ぼすことは、実施例1および2の結果と、比較例3〜5の結果とを比べると、より明確である。これらの実施例および比較例においては、上述の表2から明らかであるように、同一組成の射出成形材料が用いられたにも関わらず、反り量には大きな差が認められる。すなわち、実施例1および2では0.3(mm)未満であったのに対し、比較例3〜5では、2.0(mm)前後から5.5(mm)の大きな反りが生じた。
【0056】
そして、実施例1および2では、シート側(ブロック14側)の金型温度(85℃)をキャビティー側(中間ブロック16側)の金型温度(50℃)よりも高く設定したのに対し、比較例3では、両者の温度は同一(85℃)であった。比較例4では、むしろ、シート側の金型温度(60℃)をキャビティー側の金型温度(85℃)よりも低く設定し、比較例5では、この傾向が顕著であった(シート側(40℃)およびキャビティー側(80℃))。そして、シート側をキャビティー側よりも高温に設定すると平面表示部32の反り量を抑制でき(実施例1および2)、シート側をキャビティー側よりも低温に設定する傾向の大きい比較例ほど、すなわち、比較例5、比較例4、比較例3の順に、平面表示部32の反り量が大きかったといえる。
【0057】
以上のことから明らかであるように、実施例1および2においては、透明樹脂シート20を装着するシート装着部14Sを含むシート側(ブロック14側)の金型温度を高く設定し、装着された透明樹脂シート20を高温まで加熱して膨張させた状態において、シート側よりも低温に設定したキャビティー側(中間ブロック16側)の金型により低い温度まで十分に冷却させた射出成形材料と融着一体化させることにより、反り量を抑制できた。
【0058】
これに対し、比較例3〜5では、透明樹脂シート20の膨張と、射出成形材料(樹脂)の冷却が実施例ほど十分になされていない状態で両者が融着、一体化されたため、平面表示部32の反り量が大きくなったといえる。
【0059】
以上のように、金型10のシート側の温度を、射出成形材料(樹脂)の注入されるキャビティー側の温度よりも高くなるように調整することにより、射出成形材料により形成される周囲枠部34から透明樹脂シート20に大きな収縮応力が負荷されることを防止でき、箱型成形品30における収縮応力の発生を抑えられることが確認された。さらに、上述の実施例と比較例1との結果等により明らかであるように、射出成形材料の膨張率、特に、流れ方向(MD)の線膨張率を、透明樹脂シート20の膨張率に応じて調整することによっても、平面表示部32の反り量を抑制することが明らかになった。
【符号の説明】
【0060】
10 金型
14C 金型キャビテー(周囲枠部キャビテー部)
14S シート装着部(透明樹脂シート装着部)
20 インサートシート(透明樹脂シート)
30 箱型成形品
32 平面表示部
34 周囲枠部
図1
図2
図3
図4