(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例では、爆薬微粒子あるいは爆薬の添加物の微粒子が付着した被験者の持ち物を代表的な検査対象としているが、この他、爆発性の物質、覚醒剤等の薬剤、人体に悪影響を与える化学物質、細菌、ウイルス等の微生物、その他、一般に人体に悪影響を及ぼすと想定される物質が付着した郵便物や人体、輸出入される物品を検査対象とできる。
【0019】
[実施例1]
図1は、本発明の第1の実施例の付着物検査装置の主要構成を示すブロック図である。また、
図2は、本発明の第1の実施例の付着物検査装置の外観を示す斜視図である。
【0020】
本実施例の付着物検査装置1は、付着物検査部2、中央制御部3、検査対象物配送(搬送)部4、剥離捕集部5、電源部6、操作パネル7を有する。装置各部の動作に必要な電力を供給する電源部6は中央制御部3により制御される。中央制御部3は、また、検査部制御器8、配送部制御器9及び剥離捕集部制御器10と接続している。装置各部の動作条件は操作パネル7から入力され、中央制御部3は入力された動作条件に従い装置各部の動作を制御する。
【0021】
図2に示される付着物検査装置筐体11の内部には、
図1に示した付着物検査部2、中央制御部3、検査対象物配送部4、剥離捕集部5、電源部6が配置されている。操作パネル7は、操作し易い所望の位置に置かれる。
【0022】
検査対象物配送部4は、検査対象物を運搬する配送駆動部13と、配送駆動部13を制御する配送部制御器9を備えている。剥離捕集部5には、検査対象物の外形を認識する検査対象物認識部14、検査対象物認識部14で検知した検査対象物の外形に応じてエアノズル部34を制御するエアノズル制御器15、エアノズル部34から圧縮空気(エアジェット)を噴射するための圧縮空気発生部16、捕集部20、捕集部20に接続した分離部12を介して捕集器36の内部を吸気する吸気部21が配置されている。
【0023】
配送駆動部13による検査対象物搬送経路の一部の上方空間を囲むようにして、一対の側壁と上壁とによってサンプリング室18が画成されている。サンプリング室18には、配送駆動部13、検査対象物認識部14、エアノズル部34が備えられている。配送駆動部13の配送方向は、
図2のX軸方向に平行な方向である。エアノズル部34は、サンプリング室18の配送方向に対して左側壁内に配置されている。また捕集器36は、配送駆動部13を挟んでエアノズル部と反対側の側壁に、配送駆動部13の配送面より下方に配置されている。サンプリング室18の内面は、鋭敏な凹凸が無い滑らかなカバー19で覆われている。また、サンプリング室18の捕集器36が設けられた側の側壁には、上下方向に延びる凹部(溝部)が形成され、凹部の下端は捕集器開口部35に接続されている。
【0024】
剥離捕集部5の分離部12には、後述するように、検査対象物にエアジェットを照射して剥離した試料微粒子を捕集する捕集フィルタ部が、挿入及び取出し可能に設けられている。試料微粒子を捕集した捕集フィルタ部は、付着物検査部2の加熱部22によって一定の温度に加熱される。捕集フィルタ部に捕集された試料微粒子は加熱されて気化し、試料ガスが生成される。加熱部22はイオン源部23に接続されている。試料ガスは、吸引ポンプ24によりイオン源部23に導入され、イオン化される。イオン源部23で生成したイオンは、質量分析部25で質量分析される。イオン源部23と質量分析部25は排気部26により排気されている。
【0025】
データ処理部27の記憶手段には、複数の爆薬物質を同定するために必要な標準質量分析データ(質量電荷比(イオンの質量数/イオンの価数)の値と相対強度)を含むデータベースが記憶されている。質量分析部25の質量分析計の検出器の出力信号は、データ処理部27に送られ、記憶手段から読み出されたデータベースと爆薬成分由来のイオンの質量分析の結果とを照合する等のデータ処理が行われ、爆薬物質の特定がなされる。特定された爆薬物質及び/又は質量分析の結果は、操作パネル7に表示される。
【0026】
次に、
図3、
図4を参照して本実施例の付着物検査装置1の剥離捕集部5の構成について説明する。
図3は、
図2のAA’方向に見た断面模式図である。
図3において、付着物検査装置1の加熱部22以外の各部、操作パネル7、電源部6、圧縮空気発生部16は、図示を省略している。
図4は、サンプリング室18の側断面摸式図である。
図4において、付着物検査装置1のエアノズル部34、検査対象物認識部14、配送駆動部13以外の各部は図示を省略している。
【0027】
検査対象物は、網状の搬送トレー30に載せられ、配送駆動部13によってサンプリング室18内に搬送される。本実施例のサンプリング室18の検査対象物を通すサンプリング室入口29の大きさは、幅60cm、高さ64cmである。サンプリング室入口29には、検査対象物認識部14が設けられている。検査対象物認識部14は、
図3に示すように、サンプリング室18の対向する壁部にそれぞれ配置された複数の投光器31a〜31dと、投光器31a〜31dからの光を受光する複数の受光器32a〜32dを備える。検査対象物認識部14の受光器32a〜32dは、検査対象物が投光器からの光を遮断して受光器が受光しなかった条件で信号を出力するように設定されており、受光器32a〜32dの信号は剥離捕集部制御器10を介してエアノズル制御器15に伝達される。
【0028】
本実施例では、Z方向に間隔をあけて配置した4対の投光器31a〜31dと受光器32a〜32dからなる検査対象物認識部14を設けた。具体的には、検査対象物認識部14は、配送駆動部13の配送面から上方に2cmの位置、10cmの位置、26cmの位置、43cmの位置に投光器と受光器の対を配置した。
【0029】
サンプリング室18内には、検査対象物の表面に向けてエアジェットを吹き付けるエアノズル37a〜37cを、検査対象物の配送方向に向かって左側のサンプリング室の側面に、配送面から上方にそれぞれ12cmの位置、28cmの位置、45cmの位置に配置した。
図4において、検査対象物認識部14とエアノズル部34のエアノズル37a〜37cのエアジェット噴射孔の中心までの距離は5cmである。
【0030】
サンプリング室18の内面は、清掃が容易な4フッ化エチレン樹脂製のカバー19で覆った。エアノズル部34のエアジェット噴射孔、及び、検査対象物認識部14の投光器31a〜31dと受光器32a〜32dは、カバー19の表面から引っ込んだ位置に配している。またカバー19の後述する捕集器36側の壁面は、捕集器36の開口部35と同じ面積の空間を確保するために、
図2に示すように、Y軸方向に一部凹んだ凹部形状とした。この凹部形状とすることで、検査対象物から剥離した試料微粒子を、サンプリング室18内への拡散を少なくして、捕集器36の開口部35へ効率的に導入することができる。また開口部35には、配送中の検査対象物の引っ掛かりや小物類が捕集器内に落下しないように、3mmの開口幅を持つ網状のフィルタ33を固定している。
【0031】
次に捕集器36について説明する。捕集器36は、
図2のX軸方向に見て右側に位置するサンプリング室18の壁面の凹部の下端に、配送駆動部13の配送面より下側に位置するようにして配置した。
【0032】
発明者らは、これまでの知見から検査対象物から剥離した試料微粒子を捕集するためには、捕集器36内を吸引する機能が必須であることを見出している。この知見から、捕集器36の底部には、捕集器36の内部を吸気するためのL字型の吸気管38を接続した。L字型の吸気管38によって、吸引された気流の方向は垂直方向から水平方向に変換される。吸気管38と捕集器36が接続する部分には、コインや貴金属などの小物のほか、繊維状の塵埃などが分離部12に運搬されないように、挿入及び引き抜きが容易な引き出し型の粗フィルタ39を接続している。粗フィルタ39は、捕集器36の開口部35に設けた網状のフィルタ33より小さい、0.2mmの開口幅を有する粗フィルタ39を使用した。吸気管38の流出端は、分離部12の外筒40と接続している。
【0033】
まず発明者らは、
図3に示した捕集器36とエアノズル部34の配置が、検査対象物から試料微粒子を剥離、捕集する機能上有効であるかを検証した。エアノズル部34と捕集器36の、
図3のY軸に平行な距離は60cm、捕集器36の開口部35の大きさは、X軸方向の幅がノズルを中心として左右に30cm、合計60cm、Y軸方向の幅が15cm、捕集器36の高さが41.5cmである。実験に用いたエアノズル部34から照射するエアジェットの圧力は、0.25MPa、吸気部21の吸気量は1400リットル/分である。
【0034】
図5は、
図1に示した付着物検査装置1の構成を用いて、検査対象物からトリニトロトルエンの爆薬微粒子の検出実験を行った結果を示している。
図5の横軸は秒単位の時間、縦軸は任意単位のイオン強度である。
【0035】
図5の結果から、前述したエアノズル部34と捕集器36の配置の付着物検査装置1において、検査対象物からトリニトロトルエン爆薬微粒子を示す信号を十分な信号強度で検出できることを検証できた。すなわち本実施例の付着物検査装置1は、検査対象物に付着している試料微粒子を剥離、捕集し、検査する手段として有効であることを証明できた。
【0036】
次に、
図3を用いて本実施例の分離部12について説明する。分離部12は、サイクロン現象を利用している。分離部12は、吸気部21の吸気ファン41と、吸気ファン41と接続した内筒42と、円錐形状した外筒40からなる。外筒40には、外筒40の内周に内接するようにL字型吸気管38が接続している。
【0037】
吸気ファン41は、内筒42、外筒40を介して、L字型吸気管38を通して捕集器36の内部の空気を吸引している。外筒40の小径側には、加熱部22が接続している。加熱部22には、捕集フィルタ部17を挿入するヒートブロック43と、ヒートブロック43を一定の温度に加熱して保持するための熱源44、及び温度を計測する温度計45が配置されている。ヒートブロック43の温度計45と熱源44は検査部制御器8と接続しており、ヒートブロック43を室温から300℃の間の任意温度に加熱して保持することが出来る。
【0038】
次に、検査対象物から微粒子を剥離する工程について説明する。検査対象物から試料微粒子を剥離する工程は、以下の3つの工程に区分できる。第1の工程は、検査対象物がサンプリング室18内部に配送されて、検査対象物の前端面に相当する部位にエアジェットを照射する工程である。第2の工程は、検査対象物の上面に相当する部位にエアジェットを照射する工程である。第3の工程は、検査対象物の後端面に相当する部位にエアジェットを照射する工程である。
【0039】
発明者らは、検査対象物に付着している爆薬微粒子を効果的に剥離するには、検査対象物表面に、エアジェットを間欠的に照射することが有効であることを実験から見出している。この知見をもとに本実施例では、上述したエアジェットの照射は、連続した噴射ではなく、エアジェットを0.1秒間噴射した後、0.1秒間停止するサイクルを1サイクルとして、このサイクルを繰り返して行う動作を照射又は噴射と定義している。
【0040】
以下に、検査対象物がサンプリング室18内に搬送されて、上述した剥離工程を行うエアノズル部34の動作条件について、
図6及び
図7を用いて説明する。
【0041】
本実施例では、検査対象物認識部14によって検査対象物のサイズが判定されると、そのサイズに応じて割り当てられたエアノズルのみ動作させる。
図6は、上述した剥離工程において、第1の工程と第3の工程で動作させるエアノズルを示す。
図7は、第2の工程で動作させるエアノズルを示す。
【0042】
図7において、例えば受光器32cから信号が出力された場合、32cの行に「噴射」と記載している列のエアノズル37b,37cが動作する。すなわち検査対象物の上面にエアジェットを照射できる位置にある37b,37cを動作させ、検査対象物の上面にエアジェットを照射することができない位置にある37aは動作させない。
以下の剥離工程の説明では、受光器32cの信号が出力した条件で説明を行う。
【0043】
第1の工程では、
図6に示す検査対象物認識部14とエアノズル部34の動作表から、受光器32cの信号が出力されたので、前述したようにエアノズル37a〜37cの動作準備を行う。
【0044】
尚、
図4において、検査対象物認識部14の位置とエアノズル部34の噴射孔の中心間の距離は5cmである。また、配送駆動部13の配送速度は12m/minである。従って検査対象物が検査対象物認識部14を通過してからエアノズル部34の噴射孔の中心に到達するまでの時間は2.5秒である。
【0045】
第1の工程において、検査対象物認識部14が検査対象物を感知して2秒後から1秒間、エアノズル37a〜37cからエアジェットを照射する。このタイミングは、検知した検査対象物の前端面より1cm手前の位置から、エアジェットを噴射するタイミングであるので、検査対象物の前端面に相当する部位に確実にエアジェットを照射できる。
【0046】
第2の工程では、
図7に示す検査対象物認識部14とエアノズルの動作表から、エアノズル37b,37cの動作準備を行う。第1の工程に引き続いて、エアノズル37b,37cは、検査対象物が検査対象物認識部14を通過するまで噴射を繰り返す。
【0047】
第3の工程では、使用するエアノズルは第1の工程と同じエアノズル37a〜37cである。第2の工程に引き続いて検査対象物が検査対象物認識部14を通過した後、エアノズル37b,37cは継続してエアジェットの照射を行い、検査対象物が検査対象物認識部14を通過して2秒経過した後、エアノズル37a〜37cからエアジェットの照射を開始する。第3の工程は、検査対象物が検査対象物認識部14を通過してから3秒経過するまでエアノズル37a〜37cからエアジェットの照射を継続し、その後停止する。
【0048】
本実施例の剥離工程によれば、エアジェットを間欠的に噴射することで、少ない圧縮ガスの消費量で検査対象物から効率的に試料微粒子を剥離することができる。
【0049】
発明者らはまた、これまでの実験から、検査対象物から試料微粒子を剥離、捕集するには、検査対象物に噴射するエアジェットの空気量と捕集器36の体積以上の空気量を吸引する手段が有効であることを見出している。
【0050】
前述したように
図2に示した付着物検査装置1は、既存のX線透過型検査装置と装置のサイズ面(幅、高さ寸法、配送駆動面の高さ寸法)で整合性が得られるようにするためには、吸気部21に用いる吸気ファン41はできるだけ小型のものを使用することが望ましい。また、剥離した試料微粒子が捕集器36の内壁へ付着、堆積する量を抑制するために、捕集器36の内壁の表面積はできるだけ小さく、かつ、重力方向に対する傾斜角はできるだけ小さくするのが望ましい。この知見から発明者らは、まず実験によって検査対象物から剥離した試料微粒子を効率的に捕集できる捕集器36の開口部35の大きさを求めた。
【0051】
図8は、
図1に示した付着物検査装置1の構成を用いて、捕集器開口部35のX軸方向の幅を、エアノズル部34中心から左右対称に変えながら、検査対象物からトリニトロトルエン爆薬微粒子の剥離捕集実験を行った結果を示している。なお、捕集器開口部35のY軸方向の奥行き長さは、付着物検査装置1の幅を既存の一般的なX線透過型検査装置の幅と同等の100cmとし、この値から捕集器36に許容される奥行き長さを逆算して決定した。本実施例では、捕集器開口部35のY軸方向の奥行き長さを15cmとした。また同様の理由から、エアノズル部34の設置位置と捕集器開口部35までの距離は60cmとした。
【0052】
図8において、横軸は捕集器開口部35のX軸方向の幅をcm単位で示しており、縦軸は任意単位のイオン強度を示している。
図8の結果から、本実施例のエアノズル部34と捕集器36の配置では、捕集器開口部35のX軸方向の幅がおよそ20cm以上では、トリニトロトルエン爆薬の検出強度に大きな差異は見られなくなることが分かった。
【0053】
以上の結果から、発明者らは
図1に示した付着物検査装置1の構成を用いて、前述した捕集器開口部35のX軸方向の幅を20cm、Y軸方向の奥行き長さを15cmに決定した。次に発明者らは、実験によって検査対象物から剥離した試料微粒子を効率的に捕集できる捕集器36の高さを決定する目的で、捕集器36の体積を変えながら、検査対象物からトリニトロトルエン爆薬の剥離捕集実験を行った。
【0054】
図9に実験結果を示す。
図9において、横軸はリットル単位の捕集器36の体積を示しており、縦軸は任意単位のイオン強度を示している。
図9の結果から、捕集器36の体積が小さいほど高いトリニトロトルエン爆薬の検出強度が得られる傾向があることが分かった。
【0055】
これらの実験結果から、本実施例の付着物検査装置1の捕集器36は、捕集器開口部35のX軸方向の幅は20cm、Y軸方向の奥行き長さは15cm、Z軸方向の高さは13.5cm、捕集器36の底部に接続したL字型吸気管38の口径は3cmのすり鉢状の形状とした。また、捕集器36の内壁は、4フッ化エチレン製のカバーで滑らかに覆った。この捕集器36の体積は約1.3リットル、内壁の表面積は約467cm
2と、それぞれ特許文献1〜3の捕集器の約1/30あるいは1/9である。
【0056】
本発明の小型の捕集器36を用いる事で、捕集器36を構成する壁の表面積を小さくできるので、捕集器36内を運搬される試料微粒子が、捕集器36内の壁面に付着したり、堆積する確率を小さくする事ができる。また、捕集器開口部35に平行な面の面積も小さくする事ができるので、吸気ファン41によって吸気する際に生じる捕集器36内の気流の流速が早くなる。この結果、捕集器36内の気流に乗って運搬される試料微粒子の運搬速度も速くなるので、捕集器36を形成する壁面への試料微粒子の付着、堆積する確率をさらに小さくすることができる。従って、捕集器開口部35まで飛ばされた試料微粒子を、効率よく速やかにL字型吸気管38内部に吸い込む事ができる。
【0057】
吸気管38に引き込まれた試料微粒子は、分離部12の外筒40の内部に空気とともに運搬される。この時吸気される空気と一緒に、検査対象物から剥離された付着物質や塵埃なども吸い込まれる。爆発物質に比べて形状の大きい塵埃は、粗フィルタ39によって捕集されるので、付着物質のような小さい物質のみが分離部12に空気と一緒に輸送される。
【0058】
本実施例では、分離部12の外筒40と吸気管38の接続口の流速は、外筒40の内部にサイクロン現象が生じる約12m/sとなるように、吸気ファン41による外筒40の吸気量を剥離捕集部制御器10で制御している。吸気ファン41によって吸気された付着物質を含む空気は、円錐形状をした外筒40の内面の外周に沿って下降する渦流を形成する。渦の流れは、外筒40の下部付近へ達した後、内筒42に吸い込まれて吸気ファン41から外に塵埃飛散防止用のフィルタを通して排出される。この時、試料微粒子は、外筒40の内面に沿って外筒40の下部へ沈降し、外筒40下部に接続した加熱部22内の捕集フィルタ部17の表面に捕集される。
【0059】
発明者らは、実際の爆薬の粒径を観察したところ、最小の大きさは10〜20ミクロンの粒であることを見出している。この知見から本実施例では、捕集フィルタ部17は、耐熱性、耐久性に優れ、非透過性で12.7ミクロンの開口を持つ粗さのステンレス製のフィルタを使用した。非透過性のフィルタであるので、10〜20ミクロンの粒子を捕獲することができる。
【0060】
捕集フィルタ部17は、加熱されているヒートブロック43に挿入されているので、捕集フィルタ部17もヒートブロック43と同等の温度に加熱される。従って、捕集フィルタ部17に付着した試料微粒子も急速に加熱されるので、試料微粒子の気化が急速に促進され、試料ガスが生成される。
【0061】
図10は、付着物検査部2のイオン源部23の構成を説明する上面図である。
図10において、イオン源部23以外の付着物検査装置1の各部は図示を省略している。
【0062】
ヒートブロック43内で生成した試料ガスは、吸引ポンプ24により導入配管53を通り、イオン源部23の、第1の細孔付電極51と対向電極52との間の空間に運ばれる。イオン源部23と導入配管53には、熱源と温度計が設けられている。この熱源への電力の供給は、温度計の出力信号に基づき、検査部制御器8により制御され、気化した試料がイオン源部23の内部に吸着しないように、イオン源部23と導入配管53は、常時所望の温度に加熱、保持されている。
【0063】
イオン源部23には針電極54が配置され、針電極54と対向電極52との間に高電圧が印加されている。針電極54の先端付近にコロナ放電が発生し、まず窒素、酸素、水蒸気等がイオン化される。これらのイオンは一次イオンと呼ばれる。一次イオンは、電界により対向電極52の側に移動する。第1の細孔付電極51と対向電極52との間の空間に運ばれてきた気化した試料は、対向電極52に設けられた開口部55を介して、針電極54が配置される空間に流れ、一次イオンと反応してイオン化される。大気中のコロナ放電を利用して一次イオンを生成し、この一次イオンとガスとの化学反応を利用してガス中の化学物質をイオン化する方法は、大気圧化学イオン化法と呼ばれている。
【0064】
対向電極52と第1の細孔付電極51との間には1kV程度の電位差があり、イオンは第1の細孔付電極51の方向に移動して、第1のイオン導入細孔56を介して差動排気部57に取り込まれる。差動排気部57では断熱膨張が起こり、イオンに溶媒分子等が付着する、いわゆるクラスタリングが起きる。クラスタリングを軽減するため、第1の細孔付電極51、第2の細孔付電極58をヒーター等で加熱するのが望ましい。
【0065】
大気圧化学イオン化法により生成された試料のイオンは、第1の細孔付電極51の第1のイオン導入細孔56、図示しない排気系により排気された差動排気部57、第2の細孔付電極58の第2のイオン導入細孔59を介して、質量分析部25に導入される。質量分析部25は、排気部26により排気されている。イオン源部23と質量分析部25は、1つの容器を構成している。
【0066】
質量分析部25に導入された試料のイオンは、イオントラップ型質量分析計によって質量分析される。データ処理部27には、予め、検出しようとする単数又は複数の付着物質を同定するのに必要な質量電荷比の値が設定されている。この検出しようとする付着物質を同定するのに必要な質量電荷比に関する、質量分析計の検出器の出力信号は、試料のイオンの質量分析の結果として、所定の時間間隔で連続してデータ処理部27に送られ、データ処理される。データ処理部27の記憶手段には、複数の爆薬、薬物等の付着物質を同定する必要な質量分析データ(質量電荷比の値と相対強度)、及び付着物質の同定判断の基準となる信号強度の判定閾値が、データベースとして記憶されている。データ処理部27に送られてきた信号の質量電荷比が、記憶手段から読み出されたデータベースと照合され、ある付着物質の記憶されている質量電荷比と同定され、送られてきた信号の強度が、判定閾値よりも大きい時、付着物質の存在の可能性を操作パネル7に表示して操作者に知らせる。
【0067】
図11は、
図2に示した付着物検査装置の構成を用いて、トリニトロトルエン爆薬粒子が付着した検査対象物を検査した結果を示した図である。
図11において、縦軸は任意単位の信号強度であり、横軸は秒単位の時間である。
【0068】
図11に示すように、トリニトロトルエン爆薬成分が検出されたことを示す明瞭な信号が得られている。この結果から、小型の捕集器を備えた付着物検査装置1を用いることで、トリニトロトルエン爆薬粒子が付着した実際の検査対象物から、トリニトロトルエン爆薬粒子をエアジェットで剥離し、捕集フィルタ部17で捕集し、ヒートブロック43で気化し、質量分析部25でトリニトロトルエン爆薬成分を検知できることを証明した。
【0069】
以上述べてきた本実施例による付着物検査装置1は、検査対象物に付着した試料微粒子に爆薬などの付着物質が含まれているか否かの検査を、検査対象物に接触せずに、また、自動で、一定の条件で検査することができるので、検査対象物の破損や汚染などが生じることなく、また、トレーニングを受けた係員を必要とせずに、迅速に検査することができる。
【0070】
また、本実施例による付着物検査装置1のエアノズル部34と捕集器36の配置によれば、捕集器36の開口部35が小さく、容積の小さい小型の捕集器36でよいので、前述した理由から、検査対象物から剥離した試料微粒子が捕集器36の内壁に付着し、堆積する確率を小さくできる。さらに、試料微粒子を捕集するために必要な捕集器36内部の吸引手段として、小さい吸気能力の吸気ファン41を使用することができるので、付着物検査装置の小型化、消費電力の削減、静音化に効果がある。さらに、一般的なX線透過型検査装置で使用されているベルト式の配送手段を使用することができるので、検査対象物の引っかかりや小物類の捕集器36への落下事故が発生する危険性が極めて低くなるので、稼働率及び信頼性の高い付着物検査装置が実現できる。
【0071】
発明者らはまた、一旦検査対象物から剥離した試料微粒子は、風速が数m/sの弱いエアジェットを吹き付けることで容易に再剥離することができることを、実験から見出した。さらに、一旦爆薬微粒子を検出した後の捕集器36の内壁には、爆薬微粒子が残留することを見出している。
【0072】
捕集器36の内壁に爆薬微粒子などの付着物微粒子が残留した状態で次の検査対象物を検査すると、捕集器36の内壁に残留した付着物微粒子が再剥離して、捕集フィルタ部17に捕集されることが考えられる。この場合、実際には検査対象物には付着物微粒子は付着していないが、付着物を検知することになるので、誤検知の原因となる。従って付着物検査装置1において、捕集器36の自己クリーニング機能は、必要不可欠な機能であることがわかった。
【0073】
捕集器36の内壁のクリーニング手段として、トレーニングを受けた係員が清浄な拭取材で捕集器36内壁を丹念にふき取り清掃を行う方法も考えられるが、係員の安全性、清掃や交換に要する時間、捕集器36の内壁の人による汚染等が考えられ、現実的ではない。従って、付着物検査装置1には、捕集器36の内壁を自動でクリーニングする機能が必要である。
【0074】
自己クリーニング機能の課題として、1)自己クリーニングに要する時間は、検査を速やかに再開するために出来るだけ短い時間とする課題、2)誤検知を防ぐために、クリーニング効果を定量的に確認する課題がある。
【0075】
図3に示した付着物検査装置1には、自己クリーニングを目的としてライン送風機46を設けた。ライン送風機46は、前述したサンプリング室18内壁に設けた捕集器36側の凹部形状のカバー19部分と捕集器36の開口部35に、ライン状のエアジェットを送風する。
【0076】
実施例1の付着物検査装置1の自己クリーニングは、以下の手順で行う。
データ処理部27で検査結果から爆薬成分を検出したと判断した場合、操作パネル7に表示して係員に知らせる。その後、付着物検査装置1は自己クリーニングを開始する指示待ちの状態となる。係員によって操作パネル7から自己クリーニング実行の指示が選択されると、中央制御部3から剥離捕集部制御器10、検査部制御器8に自己クリーニング工程の指示が出される。
【0077】
剥離捕集部制御器10では、通常の検査工程を停止し、予め決められた自己クリーニング工程を始める。自己クリーニング工程は以下のように実行される。吸気ファン41を駆動し、捕集器36内を吸気するとともに、エアノズル部34とライン送風機46からライン状のエアジェットを、凹部形状のカバー19部分と捕集器開口部35に向けて照射する。凹部形状のカバー19部分と捕集器36内に残留した爆薬微粒子は、ライン状のエアジェットが照射される事で再び剥離し、吸気ファン41による吸引によって分離部12まで輸送され、捕集フィルタ部17に捕集される。このサイクルを1回の自己クリーニング工程とする。
【0078】
次に、付着物検査装置1が爆薬微粒子を検知する前と同等の清浄性に復帰したかを自己検査する工程を行う。
【0079】
一回の自己クリーニングの工程が終了した後、捕集フィルタ部17から検出した成分と予め記憶している爆薬微粒子の成分を比較する。比較の結果、付着物検査部2で爆薬の信号を検知していないレベルと判断すると、通常の検査工程が再開され、爆薬の信号を検知しているレベルと判断すると、再び自己クリーニング工程を開始する。
【0080】
以上説明した本実施例による自己クリーニング手段によれば、一旦検査対象物から爆薬などの付着物質を検知した場合でも、付着物検査装置1のクリーニングを、自動で、短時間で行うことができる。また、クリーニング後の捕集器36の清浄度を、付着物検査部2で検査することで、クリーニングの効果を定量的に確認することができるので、付着物を検知した後の検査でも誤検知することが無い。尚、自己クリーニングの効果の測定は、1回の自己クリーニング工程毎に実施しなくてもよい。予め決めた回数の自己クリーニングを終えた時に自己クリーニングの効果の測定を行うようにすることで、自己クリーニングの所要時間をより短くすることができる。
【0081】
以上説明してきた本実施例の付着物検査装置1は、エアノズル部34によるエアジェットを検査対象物の配送駆動面より上の面について照射する実施例であるが、検査対象物の下面にもエアジェットを照射するエアノズルを設けることで、より広い検査対象物の表面に対して付着物の検査が行えるようになる。
【0082】
図12は、新たに検査対象物の配送駆動面より下の面にエアジェットを照射する下部ノズル48を配した付着物検査装置1の実施例を示す模式図である。
【0083】
本実施例の付着物検査装置1では、検査対象物は、検査対象物と配送駆動面の間にエアジェットが通る空間ができるように脚付きのトレー49の上に乗せる。以下に、下部ノズル48を備えた付着物検査装置1における検査対象物から試料微粒子を剥離する工程について説明する。以下では、受光器32cの信号が出力した条件で剥離工程の説明を行う。
【0084】
第1の工程では、
図6に示す検査対象物認識部14とエアノズル部34の動作表から、受光器32cの信号が出力されたので、前述したようにノズル37a,37b,37cの動作準備を行う。第1の工程において、検査対象物認識部14が検査対象物を感知して2秒後からエアノズルからエアジェットの照射を1秒間行う。
【0085】
第2の工程では、
図7に示す検査対象物認識部14とノズルの動作表から、受光器32cの信号が出力されたので、前述したようにノズル37b,37cと、新たに下部ノズル48の動作準備を行う。第2の工程において、下部ノズル48は、検査対象物認識部14の受光器32の信号の出力条件に依存せず、常に動作させる。
【0086】
第1の工程に引き続いてノズル37b,37cと下部ノズル48は検査対象物が検査対象物認識部14を通過するまで噴射を繰り返す。
【0087】
第3の工程では、使用するエアノズルは第1の工程と同じノズル37a,37b,37cである。第2の工程に引き続いて検査対象物が検査対象物認識部14を通過した後、ノズル37b,37cは継続してエアジェットの照射を行い、検査対象物が検査対象物認識部14を通過して2秒経過してからノズル37aからエアジェットの照射を1秒間行った後、全てのエアジェットの噴射を終了する。
【0088】
以上の剥離工程とすることで、検査対象物の下面からも試料微粒子を剥離し、捕集し、検査することができる付着物検査装置1を実現できる。
【0089】
また以上説明してきた本実施例の付着物検査装置1では、エアノズル部34の噴射孔の向きは一定であるが、一つのエアノズルに複数の噴射孔を持ち、互いの噴射孔は異なる方向にエアジェットを噴射するエアノズルを用いてもよいし、エアノズルを可動式としてもよい。
【0090】
図13、
図14は、エアノズルに回転機能を付加したエアノズル部34の実施例を示す概略図である。エアノズル部34以外の各部は図示を省略している。
図13は
図2のX軸方向に見た正面図であり、
図14はZ軸方向から見た上面図である。
【0091】
エアノズル61a,61b,61cの回転軸63の一端には、回転するエアノズル61a,61b,61cにガスを供給できる回転継手64が接続している。またエアノズル61a,61b,61cは回転自在な軸受65を介して、保持部材62に保持される。エアノズル61a,61b,61cの回転軸63の他端には、プーリ67が保持されており、プーリ67にはベルト66を巻いている。さらにエアノズル61a,61b,61cにはベルト66回転用の回転駆動体68が結合している。回転駆動体68と軸受65は保持部材62に固定されており、保持部材62は、サンプリング室18内に固定されている。本実施では、エアノズル61a,61b,61cの回転方向を、
図13の紙面に垂直な軸(X軸)を回転中心として、反時計方向に回転する事としている。
【0092】
本実施例では、エアノズル61a,61b,61cからエアジェットを照射する時間を0.1秒に剥離捕集部制御器10で制御している。エアジェットを照射している0.1秒の間に回転させるエアノズルの回転角度は90°とし、残りの270°の回転角を回転中はエアジェットを照射しない。従って、回転駆動体68は常に一方向に毎分150回転で連続して回転すればよいので、特別な回転制御する制御手段は不要である。本実施例によれば、検査対象物にエアノズル61が回転しながらエアジェットを噴射するので、より検査対象物の広範囲面にエアジェットを照射することができる。従って、より詳しく検査対象物の付着物検査が行える付着物検査装置1を実現できる。
【0093】
[実施例2]
図15は、本発明の第2の実施例の付着物検査装置を示す概略図であり、
図2のAA’断面に相当する模式図である。本実施例の付着物検査装置は、エアノズル部34を、第1の実施例の配置に加えて捕集器36側のサンプリング室18壁面にも設けている。
【0094】
本実施例による検査対象物からの試料微粒子を剥離する工程は、以下の4つの工程に区分できる。
第1の工程は、検査対象物の前端面に相当する部位にエアジェットを照射する工程である。第2の工程は、検査対象物の搬送方向に平行で、配送駆動面に対して鉛直方向に相当する部位にエアジェットを照射する工程である。第3の工程は、検査対象物の上面に相当する部位にエアジェットを照射する工程である。第4の工程は、検査対象物の後端面に相当する部位にエアジェットを照射する工程である。
以下に、検査対象物がサンプリング室18内に搬送されて、上述した剥離工程を行う動作について説明する。
【0095】
本実施例では、前述したように検査対象物認識部14によって検査対象物のサイズが判定されると、予め判定された検査対象物のサイズに応じて割り当てられたエアノズルを動作させる。
図16から
図18は検査対象物認識部14の受光器32の信号の出力によって動作させるエアノズルを表している。
図16は第1の工程と第4の工程で動作させるエアノズルを、
図17は第2の工程で動作させるエアノズルを、
図18は第3の工程で動作させるエアノズルを表している。
以下では、受光器32cの信号が出力した条件で剥離工程の説明を行う。
【0096】
第1の工程では、
図16に示す検査対象物認識部14とエアノズルの動作表から、受光器32cの信号が出力されたので、エアノズル37a,37b,37cの動作準備を行う。第1の工程において、検査対象物認識部14が検査対象物を感知して2秒後からエアジェットを1秒間照射する。
【0097】
第2の工程では、エアノズル37a,37b,37cとエアノズル28a,28b,28cからエアジェットの噴射を行う。この時、エアジェットの噴射は1サイクルである。
【0098】
第3の工程では、第2の工程の後、エアノズル37b,37cからエアジェットの照射を行う。この時、エアジェットの噴射は1サイクルである。
【0099】
上述した第2の工程と第3の工程は、上記サイクルを検査対象物が検査対象物認識部14を通過するまで繰り返して行う。
【0100】
第4の工程では、エアノズル37b,37cからエアジェットの照射を継続して行い、検査対象物が検査対象物認識部14を通過して2秒経過してからエアノズル37aからエアジェットの照射を1秒間行った後、全てのエアジェットの噴射を終了する。
【0101】
第2の工程にて、エアジェットによって剥離された試料微粒子は、一部は直接捕集器36に捕集されるが、一部の試料微粒子は配送駆動面に堆積する。前述したように一旦剥離された試料微粒子は、流速が小さいエアジェットの照射によって容易に再剥離され運搬される。従って配送駆動面に堆積した試料微粒子は、次の第3の工程で捕集器36の方向へ向かって噴射されるエアジェットによって捕集器開口部35へ運搬され捕集される。
【0102】
本実施例の剥離工程とすることで、検査対象物のほぼ全ての表面に対して付着物の検査が可能となる。
【0103】
また本実施例において、
図19に示すように、配送駆動面を捕集器36側に傾斜させた形態とする事で、検査対象物からの試料微粒子の剥離捕集をより効率的に行う事ができる。配送駆動面を捕集器36側に傾斜させた事で、検査対象物は傾斜した重力方向に寄せられながらサンプリング室18内を搬送されるので、エアノズル28a,28b,28cと検査対象物との位置関係が常にほぼ一定の関係となる。従って検査対象物に照射されるエアジェットの条件もほぼ一定となるので、検査対象物から試料微粒子を剥離する条件が一定となり、検査対象物から試料微粒子を効果的に剥離できる。さらにエアジェット照射時の検査対象物と捕集器開口部35の位置関係は、常にほぼ一定の関係とする事ができるので、検査対象物から剥離した試料微粒子を効率的に捕集器36で取り込むことができる。
【0104】
従って、本実施例の付着物検査装置1では、検査対象物から効果的に試料微粒子を剥離し、効率的に捕集する事ができるので、検査対象物のより詳細な付着物検査が行える。
【0105】
[実施例3]
本発明の第3の実施例の付着物検査装置について説明する。
図20は本実施例の付着物検査装置の
図2に示すAA’断面に相当する模式図であり、サンプリング室18のサンプリング室入口29の内側を通り、検査対象物の配送方向に垂直な断面を示している。
図20において、付着物検査装置1の加熱部22以外の各部、操作パネル7、電源部6、圧縮空気発生部16は図示を省略している。
図21は、
図2のY軸方向にみた装置断面に相当する模式図であり、サンプリング室18の一部断面を含む側面図を示している。断面は、サンプリング室18のエアノズル部34の取付面を通り、検査対象物の配送方向に平行な断面を示している。
図21において、付着物検査装置1のエアノズル部34、検査対象物認識部14、配送駆動部13以外の各部は図示を省略している。
【0106】
第3の実施例では、検査対象物から微粒子を剥離するエアジェットとして、圧縮空気発生部16によるガスではなく、ターボファン60から送風される気流を用いた。本実施例の付着物検査装置1では、ターボファン60のエアジェット送風孔は、
図21に示すように、Z軸方向に2列並べて計26個設けた。また、送風孔出口付近におけるエアジェットの風速は、約80m/sである。
【0107】
図22は、
図20,21に示した付着物検査装置1の構成を用いて、検査対象物からトリニトロトルエンの爆薬微粒子の検出実験を行った結果を示す図である。
図22の横軸は秒単位の時間であり、縦軸は任意単位のイオン強度である。
【0108】
図22の結果から、検査対象物からトリニトロトルエン爆薬微粒子を示す信号が、十分な信号強度で検出できた。すなわち、本実施例で使用したターボファン60による剥離手段は、検査対象物に付着した試料微粒子の剥離手段として有効であることが証明された。
【0109】
また、剥離手段としてターボファン60を用いることで、圧縮空気発生部16が不要となる。ターボファン60の動力は電気であることから、付着物検査装置1を大型化することなく多数のエアジェット噴射孔を備えた付着物検査装置1を実現できる。さらに多数の送風孔から一斉にエアジェットを噴射する事ができるので、検査対象物認識部14の出力に応じてエアノズルを選択する制御も不要となる。従って、検査対象物認識部14は検査対象物がサンプリング室18に入った事を検知する一組の投光器と受光器を備えればよいので、より安価な付着物検査装置を実現できる。
【0110】
本実施例によれば、より小型でより広い検査対象物の表面に対して付着物の検査を行う付着物検査装置を実現することができる。
【0111】
[実施例4]
これまで説明してきた付着物検査装置は、剥離手段に圧縮ガス、又はターボファン60によるエアジェットを用いている。これらの手段によって検査対象物から剥離された試料微粒子は、前述のエアジェットの気流に乗って捕集器36へ運搬される。従ってサンプリング室18内に、剥離時に生じるサンプリング室18内の気流を捕集器開口部35へ誘導するように滑らかな曲面で構成される誘導壁50を備えることで、より効率的に検査対象物から剥離した試料微粒子を捕集器36へ運搬する事ができる。
【0112】
図23は、本発明の第4の実施例の付着物検査装置1の外観を示す斜視図である。
誘導壁50は、エアジェットの気流を取り込むため検査対象物の配送面に対向した面はZ軸に垂直な断面がコの字型のような形状となって開放しており、両側面は検査対象物の配送空間に干渉しない程度のつばを設けている。また誘導壁50はサンプリング室18の上部へ行くに従い緩やかにサンプリング室の中心に向けて傾斜した形状としている。誘導壁50の図に示すY軸方向の長さは捕集器と同じ20cmとしており、誘導壁50の下端は、捕集器開口部35と結合している。
【0113】
本実施例の付着物検査装置1によれば、剥離手段として用いたエアジェットの気流は、誘導壁50の壁面に沿って流れ、捕集器36へと誘導されるので、同様に気流によって運ばれる試料微粒子も、サンプリング室18内に飛散する量が少なく、より効率的に捕集器36へ誘導することができる。また誘導壁50を備えたことで、一旦爆薬を検出した際でも、爆薬微粒子が残留し付着している部分は誘導壁50の内壁に限定できる。従って本実施例の付着物検査装置1では、自己クリーニングのための特別な送風機を必要とせずに、検査対象物がない状態でエアノズル部34やターボファン60からエアジェットを照射するだけで、誘導壁50の内壁に気流が生じるので誘導壁50の内壁の自己クリーニングを行うことができる。
【0114】
以上説明してきた本発明の付着物検査装置1では、飛行機の機内に持ち込める大きさの検査対象物を検査対象としているが、サンプリング室18のサンプリング室入口29の形状を変えることで、検査対象を拡大することができる。例えば空港において、空港会社に委託する大型のスーツケースなどにも対応できるように、サンプリング室入口29を大きくしてもよい。またサンプリング室入口29をミリ波などを用いた人体スキャナーと同じ寸法とすることで、人体スキャナーと組み合わせた運用も可能である。さらに、サンプリング室入口29を郵便物ポストの郵便物の挿入口と同程度とすることで、郵便物や、搭乗券などのチケットの検査を行うことができる。
【0115】
[実施例5]
また以上説明してきた付着物検査装置1は、X線透過型検査装置と併用することで、さらに高い検査能力を得ることができる。
【0116】
図24は、従来のX線透過型検査装置47に、本発明の付着物検査装置1を直列に並べて配置した実施例を示している。
図24は側面図であり、
図2のY軸の正方向から見た一部抜粋した断面図である。70はX線検査領域を表している。
【0117】
図25は、本発明の付着物検査装置1をX線透過型検査装置47の入口に取り付けた実施例を示している。
図25は側面図であり、
図2のY軸の正方向から見た一部抜粋した断面図である。
【0118】
図25の実施例において、付着物検査部2の加熱部22を除く各部、中央制御部3、電源部6と、検査対象物認識部14、エアノズル部34、捕集部20、分離部12、吸気部21以外の各部は、X線透過型検査装置筺体69内に収納している。
【0119】
図26は、X線透過型検査装置47に、本発明の付着物検査の手段を組み込んで一体化した実施例を示している。
図26は側面図であり、
図2のY軸の正方向から見た一部抜粋した断面図である。
【0120】
X線透過型検査装置47において、X線を照射し撮影するX線検査領域70はごく限られた場所に限定されているのが一般的である。通常、X線透過型検査装置47のほぼ中央付近に、X線検査領域70がある場合が多い。従って、X線検査領域70を除く他の場所に、本実施例の付着物検査手段を組み込むことができる。本実施例では、エアノズル部34の後にX線検査領域70を配置している。
【0121】
以上、
図24、
図25、
図26を用いて説明した実施例によれば、検査対象物に付着している試料微粒子の検査と、X線による検査対象物の中身の検査が可能となるので、検査の信頼度をより一層向上することができる。また、
図26に示した実施例によれば、既存のX線透過型検査装置以上に占有床面積を大きくすることなく、X線によるバルク検査と付着物のトレース検査が同時に可能な複合型の検査装置が実現できる。
【0122】
尚、以上述べてきた本発明の付着物検査装置において、係員が手動でエアノズルを操作し検査対象物の表面にエアジェットを照射することでも、検査対象物からの試料微粒子を剥離し、捕集し、検査できる効果に何ら変化は無い。この場合、検査対象物認識部やサンプリング室が不要となるので、より安価で簡便な小型な付着物検査装置を提供できる。
【0123】
また以上述べてきた本発明の付着物検査装置では、試料微粒子と気流の分離手段としてサイクロン現象を利用しているが、例えば、周知の技術であるインパクタを分離手段として用いても、本発明と同様の効果が得られる。
【0124】
また、以上述べてきた本発明の付着物検査装置では、付着物検査部2に質量分析手段を用いているが、質量分析手段に限定されるものではなく、例えば、オーブンで気化した試料微粒子の蒸気をガスクロマトグラフで分離し、発光試薬と反応させて発光を検出することにより、付着物質の有無を検査する周知の化学発光方式の付着物検査装置にも、本発明を適用できる。また、この蒸気をイオン源部の内部の放射性同位体でイオン化した後、ドリフトチューブに導入してイオンの易動度を検出することにより、付着物質の有無を検査する周知のイオンモビリティ方式の付着物検査装置にも、本発明を適用できる。
【0125】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。