特許第6016565号(P6016565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016565
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20161013BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20161013BHJP
   C22F 1/05 20060101ALN20161013BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
   C22C21/00 C
   B23K20/12 360
   !C22F1/05
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 631Z
   !C22F1/00 671
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-221884(P2012-221884)
(22)【出願日】2012年10月4日
(65)【公開番号】特開2014-74200(P2014-74200A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年9月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(72)【発明者】
【氏名】浅野 峰生
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕介
(72)【発明者】
【氏名】福田 敏彦
【審査官】 松本 要
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−219381(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/046352(WO,A1)
【文献】 特開2012−149319(JP,A)
【文献】 特開2011−26657(JP,A)
【文献】 特開2012−148335(JP,A)
【文献】 特開2011−25275(JP,A)
【文献】 特開平4−247842(JP,A)
【文献】 特表2005−525697(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第1267235(GB,A)
【文献】 米国特許第4659396(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00
B23K 20/12
C22F 1/00−1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のアルミニウム合金部材の端部同士を摩擦攪拌接合により接合し、接合表面または接合裏面に陽極酸化皮膜を形成するために用いられるアルミニウム合金部材であって、Mg:0.3〜1.5%(質量%、以下同じ)、Si:0.2〜1.2%、Cu:0.5%以下、Fe:0.2%以下、残部Alおよび不可避的不純物からなる組成を有し、マトリックス中に分散する第二相粒子のうち、粒径(粒径とは円相当直径をいう、以下同じ)が1μmを超えるFe含有第二相粒子の平均粒径が5μm以下であることを特徴とするアルミニウム合金部材。
【請求項2】
前記1μmを超える粒径のFe含有第二相粒子が10000個/mm以下で分散することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状のアルミニウム合金部材の端部同士を摩擦攪拌接合により接合し、接合表面または接合裏面に陽極酸化皮膜を形成するために用いられるアルミニウム合金部材、とくに車両用ホイールや筺体の製造に供されるアルミニウム合金部材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ホイールや筺体の多くは、その軽量性からアルミニウム合金部材により形成されている。例えば車両用ホイールの製造は、板状のアルミニウム合金部材を円筒状に曲成して、その端部同士を突き合わせて摩擦撹拌接合により一体に接合して円筒状とし、さらに、両端をフレア加工によって成形することによって行われ、接合部の反対の面を意匠面とし、意匠面の耐食性や耐摩耗性を向上させるために陽極酸化処理による皮膜を形成する。
【0003】
また、筺体の製造は、アルミニウム合金部材からなる側材と蓋材とを摩擦撹拌接合により一体に接合し、一体に接合した側材と蓋材とを接合部も含めて接合部側の表面を平滑に面削することにより行われ、耐食性や耐摩耗性を向上させるために陽極酸化処理による皮膜を形成し意匠面とする。
【0004】
上記のように製造された車両用ホイールや筺体においては、陽極酸化処理による皮膜を形成した意匠面で、摩擦撹拌接合による接合部に対応する部分(接合部とその近傍部を含む部分)とその他の部分(母材部)との間で結晶粒径の相違に起因して陽極酸化皮膜に色調差が発生することがあり、この問題を解決すために、熱処理を施して結晶粒径の均一化を図ることが提案されているが、熱処理によって結晶粒径の均一化を図っても、アルミニウム合金部材の上記陽極酸化皮膜の色調差は必ずしも十分に改善されない場合が少なくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−225780号公報
【特許文献2】特開2003−230970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、アルミニウム合金部材の上記陽極酸化皮膜の色調差の問題を解明するために、アルミニウム合金部材の摩擦撹拌接合による接合部と接合部以外の部分とにおける断面ミクロ組織を詳細に比較検討した結果、接合部においては、回転ピンによる撹拌によって粗大なAl−Fe系およびAl−Fe−Si系からなる第二相粒子は微細に粉砕されるので、粒径(粒径とは円相当直径という、以下同じ)が1μmを超える第二相粒子は減少し、平均粒径5μm以上の第二相粒子もほとんど見出すことができない。
【0007】
しかしながら、表面を平滑に面削しあるいは成形した前記意匠面においては、接合部とその近傍部を含む部分(以下、接合部相当部分)とそれ以外の部分とを比較検討すると、接合部相当部分では粗大な第二相粒子も含めた第二相粒子が偏って分散していることが見出された。このような接合部相当部分における偏って分散する第二相粒子は、エッチングによるピット形成の変化が大きくなるので、陽極酸化皮膜の色調差として認識されるものと認められ、該色調差を解消するためには、アルミニウム合金部材中の第二相粒子の分散を適切に制御する必要があることが見出された。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、その目的は、板状のアルミニウム合金部材の端部同士を摩擦攪拌接合により接合し、接合表面または接合裏面に陽極酸化皮膜を形成するために用いられるアルミニウム合金部材において、接合部相当部分での第二相粒子の偏った分散に起因する陽極酸化皮膜の色調差を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための請求項1によるアルミニウム合金部材は、板状のアルミニウム合金部材の端部同士を摩擦攪拌接合により接合し、接合表面または接合裏面に陽極酸化皮膜を形成するために用いられるアルミニウム合金部材であって、Mg:0.3〜1.5%(質量%、以下同じ)、Si:0.2〜1.2%、Cu:0.5%以下、Fe:0.2%以下、残部Alおよび不可避的不純物からなる組成を有し、マトリックス中に分散する第二相粒子のうち、粒径が1μmを超えるFe含有第二相粒子の平均粒径が5μm以下であることを特徴とする。なお、接合表面とは、摩擦攪拌接合において回転ピンが挿入される接合面側をいい、接合裏面とは、接合面側と反対面側をいう。
【0010】
請求項2によるアルミニウム合金部材は、請求項1において、前記1μmを超える粒径のFe含有第二相粒子が10000個/mm以下で分散することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるアルミニウム合金部材においては、摩擦攪拌接合による接合後、接合面側あるいはその反対面側に陽極酸化皮膜を形成した場合、Fe含有第二相粒子の偏った分散が抑制されるため、接合部相当部分とそれ以外の部分との間でのエッチングによるピット形成の変化が小さくなり、Fe含有第二相粒子の偏った分散に起因する陽極酸化皮膜の色調差が解消されて均一な陽極酸化皮膜を形成することができ、アルミニウム合金部材による車両用ホイールや筺体などの製品の品質向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアルミニウム合金部材における合金成分の意義および限定理由について説明すると、Mgは、Mg−Si系化合物による析出硬化により、車両用ホイールや筺体の強度の調整に寄与する。好ましい含有量は0.3〜1.5%の範囲であり、0.3%未満では強度が十分でなく、1.5%を超えると強度が高すぎて成形が難しくなる。より好ましくは、強度の確保と成形の容易性との兼ね合いを考慮して0.4〜1.2%、さらに好ましくは0.5〜1.2%とする。
【0013】
Siは、Mg−Si系化合物の析出硬化により、強度の調整に寄与する。好ましい含有量は0.2〜1.2%の範囲であり、0.2%未満では強度が十分でなく、1.2%を超えると強度が高すぎて成形が難しくなる。より好ましくは、強度の確保と成形の容易性との兼ね合いを考慮して0.3〜1.0%、さらに好ましくは0.4〜0.9%とする。
【0014】
Cuは、陽極酸化処理後の皮膜全体の色調を均質にするために寄与する。好ましい含有量は0.5%以下の範囲であり、0.5%を超えると陽極酸化処理後の皮膜がAl−Mg−Si−Cu系の微細析出物の影響により混濁し易くなる。より好ましくは0.4%以下とする。
【0015】
Feは、Al−Fe系およびAl−Fe−Si系からなる第二相粒子を形成するもので、Feの含有量が0.2%を超えると、平均粒径が5μmを超える粗大なAl−Fe系およびAl−Fe−Si系の第二相粒子が形成され易くなる。摩擦撹拌接合において、接合部では攪拌により粗大なFe含有第二相粒子は優先的に粉砕されるが、接合部の近傍部を含む前記接合部相当部分においては、摩擦撹拌接合の撹拌により粗大なものも含めたFe含有第二相粒子は偏って分散することとなり、陽極酸化皮膜の色調差の原因となる。従って、好ましいFeの含有量は0.2%以下とする。Feのより好ましい含有量は0.15%以下とする。
【0016】
また、本発明のアルミニウム合金部材においては、粒径が1μmを超えるFe含有第二相粒子が10000個/mm以下で分散するのが好ましい。
【0017】
本発明においては、アルミニウム合金部材中に分散する粒径が1μmを超えるFe含有第二相粒子を少なくすることにより、摩擦撹拌接合の接合部相当部分においてもFe含有第二相粒子の分散を最小限にすることができる。その結果、エッチングによるピット形成の変化は小さくなり、陽極酸化皮膜の色調差を確実に解消することができる。粒径1μm以下のFe含有第二相粒子は陽極酸化皮膜の色調差には影響しないので、本発明においてはマトリックス中に分散していても構わない。
【0018】
粒径が1μmを超えるFe含有第二相粒子の分散密度が10000個/mmを超えると、摩擦撹拌接合の接合部相当部分におけるFe含有第二相粒子の分散はその他の部分と比較して多く偏ったものとなり、そのため、エッチングによるピット形成の変化は大きくなって皮膜に色調差が発生する。本発明においては、接合部相当部分におけるFe含有第二相粒子の偏った分散を防止するために、粒径が1μmを超えるFe含有第二相粒子の分散密度を10000個/mm以下とし、Fe含有第二相粒子自体の存在を少なくする。
【0019】
本発明においては、Fe含有第二相粒子を形成するFeの含有量を特定するとともに、Fe含有第二相粒子の粒径を制御し、またその分散密度を制御することを特徴とする。Fe含有第二相粒子の粒径およびその分散密度を制御する方法としては、鋳造時の冷却速度を0.1℃/秒以上、好ましくは1℃/秒以上、均質化処理温度を450℃以上、好ましくは500℃以上で融点以下、均質化処理時間を1時間以上、好ましくは5時間以上、熱間加工時の加工度を90%以上(押出比10以上)、好ましくは95%以上(押出比20以上)に制御するのが好ましい。なお、ここで加工度は、{(加工前断面積−加工後断面積)/(加工前断面積)}×100、圧延であれば{(加工前板厚−加工後板厚)/(加工前板厚)}×100で計算される値であり、押出比は、加工前断面積/加工後断面積で計算される値である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を実証する。なお、これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0021】
実施例1、比較例1
表1に示す組成を有するアルミニウム合金(A〜C)を半連続鋳造により200mmφのビレットに造塊した。鋳造時の冷却速度はビレット中央部と表層部でバラツキはあるが、概ね1〜3℃/秒であった。得られた200mmφのビレットを550℃の温度で12時間の保持時間による均質化処理を行った後、そのままの温度で熱間押出を行って、厚さ10mm、幅100mmのフラットバー状に成形し(加工度96.8%、押出比31.4)、自然時効によりT4調質とした。さらに、切削により厚さ3mm、幅90mm、長さ150mmの板を2枚作製し、長手方向を突合わせて、突合せ部を摩擦撹拌接合した。ツールの回転数は500rpm、接合速度は800mm/分、ツールの直径は7mm、回転ピンの直径は3mmとした。なお、合金CはFeの含有量が本発明の上限値を僅かに外れる6063材である。
【0022】
【表1】
【0023】
得られた接合材について、接合部を含めた接合面をフライス盤による面削を行って表層を0.5mm削除した後、ショットブラストにより粗面化仕上げを行って試験材とし、各試験材について、接合表面に硫酸による陽極酸化処理により10μm厚さの陽極酸化皮膜を形成した。
【0024】
陽極酸化皮膜形成後、本発明に従う試験材1(合金A)、試験材2(合金B)においては、接合部相当部分とそれ以外の部分との間で陽極酸化皮膜の色調差は認められず、本願発明の効果が確認された。これに対して、試験材3(合金C)においては、接合部相当部分とそれ以外の部分との間で色調差が認められた。
【0025】
試験材1(合金A)、試験材2(合金B)、試験材3(合金C)について、接合部相当部分とそれ以外の部分とにおける0.5mm面削後の表面ミクロ組織を観察した。ミクロ組織はバフ研磨および5%フッ酸でエッチングした後、光学顕微鏡で400倍に拡大し、画像解析により、1μmピッチで1μm超えの各粒径での1mm当りの分布数を測定した。
【0026】
測定結果によれば、本発明に従う試験材1(合金A)、試験材2(合金B)については、Fe含有第二相粒子が、接合部相当部分においてそれ以外の部分と比較しても偏ることなく均一に分散しており、試験材1(合金A)では、Fe含有第二相粒子の最大平均粒径が2μm、粒径が1μmを超えるFe含有第二相粒子の分散密度が3260個/mmであり、試験材2(合金B)では、Fe含有第二相粒子の最大平均粒径が4μm、粒径が1μmを超えるFe含有第二相粒子の分散密度が5780個/mmであった。
【0027】
これに対して、試験材3(合金C)については、Fe含有第二相粒子が、接合部相当部分においてそれ以外の部分と比較して偏って分散しており、Fe含有第二相粒子の最大平均粒径は7μm、粒径が1μmを超えるFe含有第二相粒子の分散密度は8360個/mmであることが確認された。
【0028】
実施例2、比較例2
表2に示す組成を有するアルミニウム合金(D〜E)を半連続鋳造により造塊し、実施例1と同じ方法により、T4調質材とし、切削により厚さ3mm、幅90mm、長さ150mmの板を2枚作製し、長手方向を突合わせて、突合せ部を摩擦撹拌接合した。
【0029】
【表2】
【0030】
得られた接合材について、実施例1と同様、接合部を含めた接合面をフライス盤による面削を行って表層を0.5mm削除した後、ショットブラストにより粗面化仕上げを行って試験材とし、各試験材について、接合表面に硫酸による陽極酸化処理により10μm厚さの陽極酸化皮膜を形成した。
【0031】
陽極酸化皮膜形成後、本発明に従う試験材4(合金D)においては、接合部相当部分とそれ以外の部分との間で陽極酸化皮膜の色調差は認められず、筋模様も観察されなかった。また、Fe含有第二相粒子の最大平均粒径は3μm、粒径が1μmを超えるFe含有第二相粒子の分散密度は4190個/mmであった。
【0032】
これに対して、試験材5(合金E)においては、陽極酸化処理後に接合部相当部分に色調差が認められ、接合部相当部分ではそれ以外の部分と比較してFe含有第二相粒子は偏って分散しており、Fe含有第二相粒子の最大平均粒径は8μm、粒径が1μmを超えるFe含有第二相粒子の分散密度は14320個/mmであった。