特許第6016572号(P6016572)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016572
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】排ガス処理触媒および排ガス処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/053 20060101AFI20161013BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   B01J27/053 AZAB
   B01D53/86 222
   B01D53/86 275
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-230384(P2012-230384)
(22)【出願日】2012年10月18日
(65)【公開番号】特開2014-79716(P2014-79716A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】森田 敦
(72)【発明者】
【氏名】樋口 泰弘
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−320803(JP,A)
【文献】 特開2004−081994(JP,A)
【文献】 特開2004−081995(JP,A)
【文献】 特開2001−286729(JP,A)
【文献】 特開昭59−035028(JP,A)
【文献】 特開2001−321667(JP,A)
【文献】 特開平01−111443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 27/053
B01D 53/86
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素酸化物および/または有機ハロゲン化合物を含有する排ガスを処理するための触媒であって、触媒A成分としてチタン、モリブデンおよびケイ素の三元系複合酸化物または混合酸化物、触媒B成分としてバナジウム、ニオブまたはタンタルの少なくとも1種の元素の化合物ならびに触媒C成分としてマンガン、鉄、コバルトまたは亜鉛の少なくとも1種の元素の硫酸塩を含有し、かつその含有量が、触媒A成分と触媒B成分と触媒C成分の合計に対して4〜8質量%であり、かつ触媒A成分中のモリブデン含有量が酸化物換算で10〜30質量%であることを特徴とする排ガス処理触媒。
【請求項2】
請求項に記載の触媒を用いて、窒素酸化物および/または有機ハロゲン化合物を含有する排ガスを処理することを特徴とする排ガス処理方法。
【請求項3】
当該排ガスが更に硫黄酸化物を含有していることを特徴とする請求項に記載の排ガス処
理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素酸化物や有機ハロゲン化合物が含まれる排ガスの処理に関するものであり、特に硫黄酸化物が含まれる排ガスの処理に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
窒素酸化物は人体にとって有害な物質である他、酸性雨や光化学スモッグの原因物質であり、その対策技術として、アンモニアまたは尿素などの還元剤を用いて排ガス中の窒素酸化物を触媒上で接触還元して窒素と水に分解する選択的触媒還元法(SCR法)が一般的に用いられている。また、ダイオキシン類に代表される有機ハロゲン化合物も人体に深刻な影響を及ぼす有害物質であるが、その処理においても触媒による分解除去が広く用いられている。特に都市ごみ焼却炉など廃棄物処理施設から排出される排ガスでは、窒素酸化物と有機ハロゲン化合物の両方を除去することが必要になる場合も多い。
【0003】
このような用途に用いられる排ガス処理触媒としては、例えば、チタン酸化物、バナジウム酸化物およびタングステン酸化物を含有する触媒(特許文献1、2)、またはチタン酸化物、バナジウム酸化物およびモリブデン酸化物を含有する触媒(特許文献3、4)について開示されている。
【0004】
一方、近年では排ガス再加熱にかかるCO排出の低減などの観点から、排ガス処理温度の低温化が望まれており、例えば都市ごみ焼却炉排ガスの処理では200℃未満の低温度域においても優れた除去性能および耐久性を有する触媒が求められている。これに関しては、性能および耐久性をより向上させた触媒として、チタン系酸化物、バナジウム酸化物、および銅、コバルトなどの金属の硫酸塩を含有する触媒について提案されているが(特許文献5)、排ガスの処理温度が200℃未満になると硫黄酸化物による性能低下が顕著となるため、従来の触媒は必ずしも充分な耐久性を有しているとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3312870号公報
【特許文献2】特許第3337634号公報
【特許文献3】特許第3648125号公報
【特許文献4】特許第3749078号公報
【特許文献5】特許第4822740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来の触媒に比べて硫黄酸化物などによる性能低下が少なく、より長時間にわたって排ガス中の窒素酸化物や有機ハロゲン化合物を除去する事ができる排ガス処理触媒、およびこの触媒を用いた排ガス処理方法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意検討を行った結果、以下に示す組成の触媒が有効である事を見出した。すなわち本発明の排ガス処理触媒は、触媒A成分としてチタン、モリブデンおよびケイ素の三元系複合酸化物または混合酸化物、触媒B成分としてバナジウム、ニオブまたはタンタルの少なくとも1種の元素の化合物ならびに触媒C成分としてマンガン、鉄、コバルトまたは亜鉛の少なくとも1種の元素の化合物を含有し、かつ触媒A成分中のモリブデン含有量が酸化物換算で10〜30質量%であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明を用いる事で、低温度域においても硫黄酸化物による性能低下を抑制する事が可能になり、排ガス中に含まれるNOxや有機ハロゲン化合物を長時間にわたって安定的に処理する事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の排ガス処理触媒は、触媒A成分としてチタン、モリブデンおよびケイ素の三元系複合酸化物または混合酸化物、触媒B成分としてバナジウム、ニオブまたはタンタルの少なくとも1種の元素の化合物ならびに触媒C成分としてマンガン、鉄、コバルトまたは亜鉛の少なくとも1種の元素の化合物を含むものである。
【0010】
(触媒成分)
触媒A成分の組成は除去性能および耐久性に大きく影響し、具体的には触媒A成分中のモリブデン含有量が酸化物換算で10〜30質量%であるのがよく、好ましくは15〜25質量%、更に好ましくは15〜20質量%であるのがよい。触媒A成分中のモリブデン含有量が酸化物換算で10質量%未満では充分な耐久性が得られず、30質量%を超えて多くするとNOxや有機ハロゲン化合物の除去性能が低くなるからである。触媒中に占める触媒A成分の含有量としては、触媒A成分と触媒B成分と触媒C成分の合計に対して70〜96質量%であるのが好ましく、より好ましくは80〜95質量%、更に好ましくは85〜94質量%であるのがよい。触媒A成分の含有量が70質量%未満あるいは96質量%を超えると除去性能が低下するからである。
【0011】
また、触媒A成分を調製する際の出発原料としては、各元素の酸化物、水酸化物、無機塩、有機塩などが用いられる。例えばチタン供給源としては、硫酸チタニル、四塩化チタン、テトライソプロピルチタネートなどが用いられ、ケイ素供給源としてはシリカゾル、水ガラス、四塩化ケイ素などが用いられ、モリブデン源としてはパラモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸などを用いる事ができる。触媒A成分の調製方法としてはゾル−ゲル法、水熱合成、共沈法などを用いる事ができるが、特に好ましい方法としてモリブデン源とケイ素源を混合した塩基性溶液にチタン源の酸性溶液を添加する事によって触媒A成分の前駆体を得る共沈法が挙げられる。この方法を用いる場合、共沈反応後のpHは好ましくは2〜6、より好ましくは3〜5に制御するのがよく、このように制御する事によって性能および耐久性に優れた触媒を得る事ができる。
【0012】
触媒B成分はバナジウム、ニオブまたはタンタルの少なくとも1種の元素の化合物であるが、酸化物の形態で触媒に含有されているのが除去性能の点から好ましい。またその含有量も除去性能に大きく影響し、触媒A成分と触媒B成分と触媒C成分の合計に対して酸化物換算で1〜20質量%であるのが好ましく、より好ましくは3〜15質量%、更に好ましくは5〜10質量%であるのがよい。触媒B成分の含有量が1質量%未満では充分な除去性能が得られず、20質量%を超えて多くすると金属種のシンタリングによって却って性能低下を引き起こす恐れがあるからである。なお、触媒B成分としてバナジウム、ニオブ、タンタルのうちから複数の元素の化合物を用いる場合には、各化合物の酸化物換算での合計量が上記範囲にあるのがよい。また、触媒B成分を調製する際の出発原料としては、各元素の酸化物、水酸化物、無機塩、有機塩などが用いられ、例えばバナジウム源としてはメタバナジン酸アンモニウムが好適に用いられ、ニオブ源としてはシュウ酸ニオブやそのアンモニウム塩を用いる事ができる。
【0013】
触媒C成分はマンガン、鉄、コバルトまたは亜鉛の少なくとも1種の元素の化合物であるが、硫酸塩の形態で触媒に含有されているのが好ましい。触媒C成分としてマンガン、鉄、コバルトまたは亜鉛の少なくとも1種の元素の硫酸塩を用いる場合、その含有量は触媒A成分と触媒B成分と触媒C成分の合計に対して3〜10質量%であるのが好ましく、より好ましくは4〜8質量%、更に好ましくは5〜7質量%であるのがよい。含有量が3質量%未満では充分な耐久性が得られず、10質量%を超えて多くすると除去性能が低下する場合があるからである。なお、触媒C成分としてマンガン、鉄、コバルト、亜鉛の複数の元素の硫酸塩を用いる場合には、各化合物の合計量が上記範囲にあるのがよい。
【0014】
さらに、本発明の実施形態としては、触媒B成分としてバナジウム酸化物、触媒C成分として硫酸亜鉛を用いるのが特に好ましく、これらを必須成分として含有する事によって除去性能および耐久性に優れた触媒を得る事ができる。
【0015】
なお、本発明にかかる触媒の性能を損なわないものであれは更に他の化合物を添加することもできる。
【0016】
本発明の排ガス処理触媒の比表面積は、50〜200m/gの範囲にあるのがよく、より好ましくは70〜150m/g、更に好ましくは80〜120m/gの範囲にあるのがよい。触媒の比表面積が低すぎると充分な触媒性能が得られない他、活性成分のシンタリングが起こりやすくなり、高すぎても触媒性能はそれほど向上しないが、被毒物質の蓄積量が多くなって性能低下が大きくなる場合があるからである。
【0017】
また、本発明で用いる脱硝触媒の細孔容積は、全細孔容積が0.20〜0.70mL/gの範囲にあるのがよく、より好ましくは0.25〜0.60mL/g、更に好ましくは0.28〜0.50mL/gの範囲にあるのがよい。触媒の細孔容積が小さすぎると十分な触媒性能が得られず、大きすぎても触媒性能はそれほど向上しないが、触媒の機械的強度が低下してハンドリングに支障をきすことや耐磨耗性が低くなるなどの弊害が生じるおそれがあるので好ましくない。
【0018】
(触媒製造方法)
本発明にかかる触媒調製方法としては、(1)触媒A成分にかかる三元系複合酸化物または混合酸化物を上記手順で得た後、触媒B成分および触媒C成分の水性液を加えニーダーなどで十分混合し所定の形状成形し乾燥、焼成する方法、(2)触媒A成分、触媒B成分および触媒C成分の原料を一度に混合し、乾燥、焼成し、更に水性媒体を加えスラリーとした後に所定形状に成形する方法、(3)触媒A成分、触媒B成分および触媒C成分の原料を一度に混合し、場合によってはpH調整することで沈殿物を得た後、当該沈殿物を乾燥、焼成し、更に水性媒体を加えスラリーとした後に所定形状に成形する方法、(4)(2)または(3)で得られたスラリーを通常触媒用担体として用いられる担体に被覆することもできる。(5)なお、(1)、(2)または(3)で成形する場合、ハニカム、ペレット、粒体に成形し乾燥、焼成し触媒とすることもできる。
【0019】
本発明にかかる触媒は、押し出し成形、打錠成形、転動造粒などにより、サドル状、ペレット、球体、ハニカム状に成形して用いることができる。またサドル状、ペレット、球体、ハニカム状の担体に脱硝触媒の成分を被覆して用いる事もできる。排ガス処理装置の圧力損失を少なくするにはハニカム状が好ましい。また、その調製においては各種金属化合物を用いた一般的な調製方法を用いる事ができ、例えば、触媒A成分の成形体に触媒B成分および触媒C成分の溶液を含浸する方法や、触媒A成分の粉体に触媒B成分および触媒C成分の溶液または粉体を混合した後に混練する方法などが挙げられるが、細孔容積の制御などの点から混練法が好適に用いられる。
【0020】
本発明の排ガス処理方法は、前記本発明の触媒を用いて排ガス中のNOxおよび/または有機ハロゲン化合物を除去する排ガス処理方法であるが、このときの排ガスの処理温度は、150〜400℃、好ましくは150〜300℃、より好ましくは160〜250℃、さらに好ましくは160〜190℃の範囲にあるのがよい。排ガスの処理温度が150℃未満ではNOxや有機ハロゲン化合物の充分な除去効率が得られず、400℃を超えるとモリブデンの飛散による触媒性能の低下や後流機器への悪影響を引き起こす場合があるからである。
【0021】
(排ガス処理方法)
本発明にかかる触媒が処理対象とする排ガスは窒素酸化物(NOx)および/または有機ハロゲン化合物を含むものであり、排ガス中のNOx濃度は5〜1000ppm(容量基準)であるのが好ましく、より好ましくは10〜500ppm、更に好ましくは20〜300ppmの範囲にあるのがよい。排ガス中のNOx濃度が5ppm未満では充分なNOx除去性能が発揮されず、一方、1000ppmを超えると排ガス中に硫黄化合物が含まれている場合、硫安化合物の蓄積量が増加して性能低下が大きくなるため好ましくはないからである。
【0022】
排ガス中の有機ハロゲン化合物の濃度は0.1ppt〜3000ppm(容量基準)であるのが好ましく、より好ましくは0.5ppt〜1000ppm、更に好ましくは1ppt〜500ppmの範囲にあるのがよい。排ガス中の有機ハロゲン化合物の濃度が0.1ppt未満では充分な分解性能が発揮されず、一方、3000ppmを超えると反応による発熱が大きくなり、触媒が熱的ダメージを受ける場合があるためである。
【0023】
排ガスを処理する場合には排ガス中にアンモニアまたは尿素(アンモニア等とも称する)を添加することができる。特に排ガス中に窒素酸化物が含まれていることには効果的である。アンモニア等添加量は、窒素酸化物(NO換算)1モルに対して、アンモニア換算(尿素の場合は1/2モル)で0.2〜2.0モル、好ましくは0.5〜1.0モルである。
【0024】
なお、有機ハロゲン化合物が排ガス中に含まれる場合はアンモニア等を加える必要はないが、アンモニア等が排ガス中に加えられても本発明にかかる触媒の効果は損なわれるものではない。
【0025】
更に排ガス中に含まれる成分として酸素、水、SOxなどがある。例えば、排ガス中に酸素が存在する条件下で好適に用いられるが、この場合の酸素濃度は、0.1〜50容量%の範囲にあるのが好ましく、より好ましくは0.3〜20容量%、更に好ましくは0.5〜16容量%の範囲にあるのがよい。酸素濃度が0.1容量%未満では除去効率が低下し、50容量%を超えると副反応であるSO酸化が促進されるため、好ましくない。また、排ガス中に水分を含む場合には、その濃度は50容量%以下であるのが好ましく、より好ましくは40容量%以下、更に好ましくは30容量%以下であるのがよい。排ガス中の水分濃度が50容量%を超えると除去効率が低下する他、場合によっては性能低下が大きくなるからである。
【0026】
排ガス中に硫黄酸化物(SOx)を含有している場合にあっても本発明にかかる触媒は好適に用いられるが、そのときのSOx濃度は0.1〜2000ppm(容量基準)、好ましくは0.2〜500ppm、より好ましくは0.5〜100ppm、更に好ましくは1〜50ppmの範囲にあるのがよい。SOx濃度が0.1ppm以上である排ガスの処理において本発明の効果が発揮される。一方、排ガス中のSOx濃度が2000ppmを超えるとSOxによる性能低下が大きくなるため、好ましくない。
【0027】
また、本発明の排ガス処理に際しての空間速度は、100〜50,000h−1(STP)、好ましくは200〜10,000h−1(STP)、より好ましくは500〜5,000h−1(STP)の範囲にあるのがよい。空間速度が50,000h−1(STP)を超えるとNOxや有機ハロゲン化合物の充分な除去効率が得られず、100h−1(STP)未満では除去効率は大きく変わらないが排ガス処理装置の圧力損失が高くなり、また装置自体も大きくなって非効率だからである。更に、本発明の排ガス処理に際しての触媒層を通過するガスの線速度は、0.1〜10m/s(Normal)、好ましくは0.5〜7m/s(Normal)、より好ましくは0.7〜4m/s(Normal)の範囲にあるのがよい。線速度が0.1m/s(Normal)未満では充分な除去効率が得られず、10m/s(Normal)を超えると除去効率は大きく変わらないが、排ガス処理装置の圧力損失が高くなるからである。
【実施例】
【0028】
以下に実施例により発明を詳細に説明するが、本発明の効果を奏するものであれば以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
<Ti−Si−Mo複合酸化物(MoO含有量:20質量%)の調製>
パラモリブデン酸アンモニウム4.9kgと、シリカゾル(スノーテックス−30(製品名、「スノーテックス」は登録商標)、日産化学社製、SiO2換算30質量%含有)6.0kgと、工業用アンモニア水(25質量%NH3含有)109kgと、水186リットル(以下、Lと表記)との混合溶液に、硫酸チタニルの硫酸溶液(テイカ社製、TiOとして70g/L、HSOとして287g/L含有)203Lを、攪拌しながら徐々に滴下し、沈殿を生成させ後、適量のアンモニア水を加えてpHを5に調整した。この共沈スラリーを約20時間静置し、水で充分洗浄した後、濾過し、100℃で1時間乾燥させた。さらに、空気雰囲気下、550℃で5時間焼成し、さらにハンマーミルを用いて粉砕し、分級機で分級してTi−Si−Mo複合酸化物の粉体を得た。このようにして調製したTi−Si−Mo複合酸化物粉体の組成は、TiO:SiO:MoO=71:9:20(質量比)であった。
<バナジウム酸化物および硫酸マンガンの添加>
8Lの水にメタバナジン酸アンモニウム1.54kgとシュウ酸1.85kg、さらにモノエタノールアミン0.4kgを混合し、溶解させ、均一溶液を調製した。先に調製したTi−Si−Mo複合酸化物粉体(MoO含有量:20質量%)17.6kgと、硫酸マンガン5水和物(MnSO・5HO)1.92kgをニーダーに投入後、有機バインダーなどの成形助剤とともにバナジウム含有溶液を加え、よく攪拌した。さらに適量の水を加えつつブレンダーでよく混合した後、連続ニーダーで充分混練りし、外形80mm角、長さ500mm、目開き3.2mm、肉厚0.5mmのハニカム状に押し出し成形した。得られた成形物を60℃で乾燥後、500℃で5時間焼成して触媒Aを得た。この触媒Aの組成は、TiO:SiO:MoO:V:MnSO=62:8:18:6:6(質量比)であり、BET比表面積は100m/g、全細孔容積は0.32mL/gであった。
【0030】
(実施例2)
実施例1において、硫酸マンガン5水和物1.92kgの代わりに硫酸鉄7水和物(FeSO・7HO)2.20kgを使用した以外は実施例1と同様にして、触媒Bを得た。この触媒Bの組成は、TiO:SiO:MoO:V:FeSO=62:8:18:6:6(質量比)であり、BET比表面積は104m/g、全細孔容積は0.33mL/gであった。
【0031】
(実施例3)
実施例1において、硫酸マンガン5水和物1.92kgの代わりに硫酸コバルト7水和物(CoSO・7HO)2.18kgを使用した以外は実施例1と同様にして、触媒Cを得た。この触媒Cの組成は、TiO:SiO:MoO:V:CoSO=62:8:18:6:6(質量比)であり、BET比表面積は99m/g、全細孔容積は0.32mL/gであった。
【0032】
(実施例4)
実施例1において、硫酸マンガン5水和物1.92kgの代わりに硫酸亜鉛7水和物(ZnSO・7HO)2.14kgを使用した以外は実施例1と同様にして、触媒Dを得た。この触媒Dの組成は、TiO:SiO:MoO:V:ZnSO=62:8:18:6:6(質量比)であり、BET比表面積は102m/g、全細孔容積は0.31mL/gであった。
【0033】
参考例5)
実施例4において、Ti−Si−Mo複合酸化物粉体(MoO含有量:20質量%)の量を17.6kgから18.2kgに変更し、硫酸亜鉛7水和物の量を2.14kgから1.07kgに変更した以外は実施例4と同様にして、触媒Eを得た。この触媒Eの組成は、TiO:SiO:MoO:V:ZnSO=65:8:18:6:3(質量比)であり、BET比表面積は110m/g、全細孔容積は0.32mL/gであった。
【0034】
参考例6)
実施例4において、Ti−Si−Mo複合酸化物粉体(MoO含有量:20質量%)の量を17.6kgから16.8kgに変更し、硫酸亜鉛7水和物の量を2.14kgから3.56kgに変更した以外は実施例4と同様にして、触媒Fを得た。この触媒Fの組成は、TiO:SiO:MoO:V:ZnSO=59:8:17:6:10(質量比)であり、BET比表面積は95m/g、全細孔容積は0.29mL/gであった。
【0035】
参考例7)
実施例4において、硫酸亜鉛7水和物2.14kgの代わりに硝酸亜鉛6水和物(Zn(NO)2・6HO)4.33kgを使用した以外は実施例4と同様にして、触媒Gを得た。この触媒Gの組成は、TiO:SiO:MoO:V:ZnO=62:8:18:6:6(質量比)であり、BET比表面積は92m/g、全細孔容積は0.34mL/gであった。
【0036】
(比較例1)
<Ti−Si−Mo複合酸化物(MoO含有量:9質量%)の調製>
パラモリブデン酸アンモニウム2.2kgと、シリカゾル(スノーテックス−30(製品名))6.0kgと、工業用アンモニア水(25質量%NH含有)126kgと、水138Lとの混合溶液に、実施例1で用いた硫酸チタニルの硫酸溶液234Lを、攪拌しながら徐々に滴下し、沈殿を生成させ後、適量のアンモニア水を加えてpHを5に調整した。この共沈スラリーを約20時間静置し、水で充分洗浄した後、濾過し、100℃で1時間乾燥させた。さらに、空気雰囲気下、550℃で5時間焼成し、さらにハンマーミルを用いて粉砕し、分級機で分級してTi−Si−Mo複合酸化物の粉体を得た。このようにして調製したTi−Si−Mo複合酸化物粉体の組成は、TiO:SiO:MoO=82:9:9(質量比)であった。
【0037】
<バナジウム酸化物および硫酸亜鉛の添加>
実施例4において、Ti−Si−Mo複合酸化物粉体(MoO含有量:20質量%)17.6kgの代わりに上記Ti−Si−Mo複合酸化物粉体(MoO含有量:9質量%)17.6kgを使用した以外は実施例4と同様にして、触媒Hを得た。この触媒Hの組成は、TiO:SiO:MoO:V:ZnSO=72:8:8:6:6(質量比)であり、BET比表面積は98m/g、全細孔容積は0.34mL/gであった。
【0038】
(比較例2)
<Ti−Si−Mo複合酸化物(MoO含有量:35質量%)の調製>
パラモリブデン酸アンモニウム8.6kgと、シリカゾル(スノーテックス−30(製品名))6.0kgと、工業用アンモニア水(25質量%NH含有)86kgと、水252Lとの混合溶液に、実施例1で用いた硫酸チタニルの硫酸溶液160Lを、攪拌しながら徐々に滴下し、沈殿を生成させ後、適量のアンモニア水を加えてpHを5に調整した。この共沈スラリーを約20時間静置し、水で充分洗浄した後、濾過し、100℃で1時間乾燥させた。さらに、空気雰囲気下、550℃で5時間焼成し、さらにハンマーミルを用いて粉砕し、分級機で分級してTi−Si−Mo複合酸化物の粉体を得た。このようにして調製したTi−Si−Mo複合酸化物粉体の組成は、TiO:SiO:MoO=56:9:35(質量比)であった。
【0039】
<バナジウム酸化物および硫酸亜鉛の添加>
実施例4において、Ti−Si−Mo複合酸化物粉体(MoO含有量:20質量%)17.6kgの代わりに上記Ti−Si−Mo複合酸化物粉体(MoO含有量:35質量%)17.6kgを使用した以外は実施例4と同様にして、触媒Iを得た。この触媒Iの組成は、TiO:SiO:MoO:V:ZnSO=49:8:31:6:6(質量比)であり、BET比表面積は105m/g、全細孔容積は0.27mL/gであった。
【0040】
(比較例3)
実施例4において、Ti−Si−Mo複合酸化物粉体(MoO含有量:20質量%)の量を17.6kgから18.8kgに変更し、硫酸亜鉛7水和物を用いなかった以外は実施例4と同様にして、触媒Jを得た。この触媒Jの組成は、TiO:SiO:MoO:V=67:8:19:6(質量比)であり、BET比表面積は124m/g、全細孔容積は0.32mL/gであった。
【0041】
(NOx除去試験)
実施例1〜7および比較例1〜3で得た触媒A〜Jを用い、下記条件でNOx除去性能の評価を行なった。
【0042】
[供給ガス組成]
NOx:100ppm,NH:100ppm,SO:50ppm,O:10容量%,HO:15容量%,N:balance
[処理条件]
ガス温度:160℃,空間速度:3,000h−1(STP),ガス線速度:1.0m/s(Normal)
次に、触媒入口および触媒出口のNOx濃度を測定し、次式に従ってNOx除去率を算出した。なお、測定は反応開始10時間後と1000時間後に行なった。結果を表1に示す。
【0043】
【数1】
【0044】
(クロロフェノール分解試験)
実施例4および比較例1、2で得た触媒D、H、Iを用い、下記条件でクロロフェノール分解性能の評価を行なった。
【0045】
[供給ガス組成]
クロロフェノール:30ppm,SO:50ppm,O:10容量%,HO:15容量%,N:balance
[処理条件]
ガス温度:160℃,空間速度:5,000h−1(STP),ガス線速度:1.0m/s(Normal)
次に、触媒入口および触媒出口のクロロフェノール濃度を測定し、次式に従ってクロロフェノール分解率を算出した。なお、測定は反応開始10時間後と1000時間後に行なった。結果を表2に示す。
【0046】
【数2】
【0047】


【0048】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は排ガス処理に関する技術であり、各種産業排ガスの処理、特に窒素酸化物や有機ハロゲン化合物を含む排ガスの処理に用いることができる。更に詳しくは、都市ごみや産業廃棄物を処理する焼却施設、重油焚きボイラや石炭焚きボイラ、ディーゼルエンジン、火力発電所および各種工業プロセスから排出される排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)および/または有機ハロゲン化合物を接触還元または分解除去する為の排ガス処理触媒、およびこの触媒を用いた排ガス処理方法に応用することができる。