【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 江崎グリコ会社のウェブサイト(アドレス http://www.glico.co.jp/info/pwr_pro/index.htm)に発表(平成24年11月1日)
【文献】
村岡 修,シルクロードの長寿食カンカの機能について,ニューフードインダストリー,2006年 9月 1日,第48巻,第9号,p.7−11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
成長ホルモン(Growth Hormone)は、脳下垂体前葉の好酸性細胞で産生される成長促進ペプチドホルモンの総称である。成長ホルモンの分泌はレジスタンス運動により促進されるので(非特許文献1)、成長ホルモンの分泌を促進すれば、筋肉増量をもたらす。
【0003】
テストステロンは、筋肉増量をもたらすもう1つのホルモンである。
【0004】
特許文献1は、アルギニン、リジン、オルニチン、亜鉛、アシュワガンダを含む筋肉増量、テストステロン増加などの作用を有するサプリメントを開示している。非特許文献2はオルニチンの経口摂取による成長ホルモンの有意な上昇を開示し、非特許文献3は、アルギニンとリジンの混合物の摂取により、成長ホルモンの急性期分泌がみられたことを開示する。特許文献1のサプリメントは筋肉増量作用が弱く、非特許文献2,3のアミノ酸は、多量のアミノ酸摂取が必要になり、摂取者への負担を強いるものであった。
【0005】
特許文献2は、カンカニクジュヨウの肉質茎又はその抽出エキスが強壮剤、強精剤として有効であり、実施例で血管拡張作用があることを開示しているが、筋肉増量作用についての開示はない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のサプリメントは、アルギニン、リジンおよびオルニチンを含む。本明細書中では特に示さない限り、アミノ酸は天然に存在する形態(L体)である。
【0014】
本発明のサプリメントには、さらに、グルタミン、アスパラギン、メチオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、システイン、セリン、スレオニン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリンおよびヒスチジンから選択される1以上のアミノ酸を含み得る。
【0015】
本発明のサプリメント中の各アミノ酸の量は、当業者によって適切に設定され得る。本発明のサプリメント中の各アミノ酸の好ましい量の例を挙げると、例えば、1日あたりの摂取量として、アルギニンは好ましくは50mg以上約10g以下、より好ましくは約100mg以上約5g以下、さらに好ましくは約200mg以上約3g以下であり、リジンは好ましくは約50mg以上約1g以下、より好ましくは約70mg以上約700mg以下、さらに好ましくは約100mg以上500mg以下であり、オルニチンは好ましくは約20mg以上約800mg以下、より好ましくは約40mg以上約600mg以下、さらに好ましくは約60mg以上約400mg以下である。
【0016】
本発明のサプリメントに含まれ得る各アミノ酸は、当該分野で公知であり、市販品を容易に入手され得る。
【0017】
本発明のサプリメントは、アミノ酸に加えて亜鉛を必須成分として含む。亜鉛は、亜鉛を含む生物(例えば、動物、植物または微生物)から抽出されてもよく、化学的に製造してもよい。亜鉛は、塩の形態であることが好ましい。亜鉛塩の好ましい例としては、グルコン酸塩、硫酸亜鉛、ピコリン酸亜鉛、酸化亜鉛が挙げられる。亜鉛は、亜鉛含有酵母のような、亜鉛含有微生物またはその粉砕物であってもよい。亜鉛含有酵母は、例えば、JTフーズ、オリエンタル酵母、マリーンバイオなどから販売される。亜鉛塩は、例えば、富田製薬などから販売されている。
【0018】
亜鉛の1日摂取量は、好ましくは約1mg以上約50mg以下、より好ましくは約3mg以上約40mg以下、さらに好ましくは約5mg以上約30mg以下である。
【0019】
本発明のサプリメントには、亜鉛以外のミネラルをさらに配合することができる。このようなミネラルとしては、セレン、鉄、マンガン、モリブデン、マグネシウム、カリウム、クロム、カルシウムおよびリンが挙げられる。本発明のサプリメント中の亜鉛以外のミネラルの好ましい量の例を挙げると、1日あたりの摂取量として、セレンは好ましくは約1μg以上約100μg以下、より好ましくは約3μg以上約30μg以下、さらに好ましくは約5μg以上約20μg以下である。鉄は好ましくは約4mg以上約100mg以下、より好ましくは約12mg以上約40mg以下である。マンガンは好ましくは約1mg以上約30mg以下、より好ましくは約3mg以上約10mg以下である。モリブデンは好ましくは約6μg以上約250μg以下、より好ましくは約30μg以上約150μg以下である。マグネシウムは好ましくは約25mg以上約1000mg以下、より好ましくは約250mg以上約700mg以下である。カリウムは好ましくは約1.5g以上約5.0g以下、より好ましくは約2.0g以上約4.0g以下である。クロムは好ましくは約10μg以上約500μg以下、より好ましくは約30μg以上約250μg以下である。カルシウムは好ましくは約200mg以上約3000mg以下、より好ましくは約600mg以上約2500mg以下である。リンは好ましくは約100mg以上約5000mg以下、より好ましくは約700mg以上約4000mg以下である。亜鉛以外のミネラルについても、亜鉛と同様に、塩の形態であることが好ましい。このようなミネラルは、当該分野で公知であり、容易に入手され得る。
【0020】
本発明のサプリメントは、グリコーゲン、好ましくは酵素合成グリコーゲンを含むことが特徴であり、グリコーゲンとアミノ酸(アルギニン、リジン、オルニチン)を組み合わせ、さらには亜鉛、カンカ抽出物などを組み合わせることで相乗作用が期待でき、筋肉増量作用、成長因子分泌促進作用、テストステロン分泌促進作用を増強することができる。
【0021】
本発明で使用するグリコーゲンは、動物の肝臓や骨格筋で貯蔵されることが知られているものであり、その由来としては動物が挙げられるが、植物ないし微生物がグリコーゲンないしグリコーゲンと同様な構造を有する物質を産生することが知られており(例えば、WO2006/035848)、これらはすべて本発明のグリコーゲンとして使用することができる。グリコーゲンは、酵素を用いて合成することもできる。例えば、砂糖にスクロースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.7)とα-グルカンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.1)を作用させる方法(Ryoyama, K.; Kidachi, Y.; Yamaguchi, H.; Kajiura, H.; Takata, H. (2004) Biosci Biotechnol Biochem 68, 2332-2340)、および短鎖のアミロースにブランチングエンザイム(EC 2.4.1.18)を作用させる方法(WO2006/035848および梶浦、高田、空山、竹田、栗木(2006)日本応用糖質科学会2006年度大会講演要旨集:J.Appl.Glycosci., 53, Suppl., p27)がある。これらの方法で合成したグリコーゲンも、天然グリコーゲンと類似した化学的構造、および物理的構造を持つことが知られており(梶浦、高田、空山、竹田、栗木(2006)日本応用糖質科学会2006年度大会講演要旨集:J.Appl.Glycosci., 53, Suppl., p27;高田、梶浦、栗木、北村(2006)日本応用糖質科学会2006年度大会講演要旨集:J.Appl.Glycosci., 53, Suppl., p27)、これらの酵素合成グリコーゲンも本発明のグリコーゲンとして使用することができる。グリコーゲンの分子量は、1×10
6〜2×10
7程度のものが好ましく使用できるが、これよりも高分子量或いは低分子量のものも広く使用できる。
【0022】
本発明で使用するグリコーゲンとしては、酵素合成されたグリコーゲン(EnzymaticallySynthesized Glycogen; ESG)が好ましい。酵素合成されたグリコーゲンは、α-アミラーゼで分解された後、30万から800万の分子量を有するものが好ましく例示される。理論に拘束されることを望むわけではないが、α-アミラーゼで分解された酵素合成グリコーゲンが大きな分子量を有するのは、次の理由によると本発明者は考えている。つまり、グリコーゲンは球状の分子構造をとっており、α-アミラーゼはグリコーゲン分子外周から、α-1,4-グルコシド結合を切断することにより、分解していく。ところが、特にESGの場合、その分子内部にいくほど、分岐構造(α-1,6-グルコシド結合による枝分かれ)の密度が高くなる。α-アミラーゼは、分岐構造の密度がある一定以上になると分解できなくなる。ESGの場合には、そのα-アミラーゼによる分解が起こらなくなる程度に分岐密度が高まるのが、分子量約30万から約800万に達する部分であるために、その程度の大きさの分子が残ると考えている。一方、多くの天然のグリコーゲン、例えばムラサキイガイ(ムール貝)由来のグリコーゲンでは、α-アミラーゼにより非常に小さい分子量の断片まで分解される。これは、多くの天然グリコーゲンでは、分岐密度の高い部分と低い部分が混在しており(分岐密度が不均一となっており)、分子内部においても、比較的長いα-1,4-グルコシド結合の直鎖部分が存在しているためであると考えている。このような構造は、Brammer, G. L.; Rougvie, M. A,; French, D. (1972) CarbohydrRes 24, 343-354にも示されている。このBrammer, G. L.らの文献では、天然ではグリコーゲンは細胞内で合成と分解を繰り返し受けているために分岐密度が不均一となると考察されている。
【0023】
グリコーゲン(特に酵素合成グリコーゲン(ESG))の配合量は、1日あたりの摂取量として、好ましくは約5mg以上約500mg以下、より好ましくは約10mg以上約300mg以下、さらに好ましくは約20mg以上約150mg以下、特に30mg以上約120mg以下が挙げられる。
【0024】
3種のアミノ酸の合計量(分子)とグリコーゲンの配合量(分母)の比は、4〜100、好ましくは12〜30である。
【0025】
アルギニンの配合量(分子)とグリコーゲンの配合量(分母)の比は、1〜100、好ましくは5〜25である。
【0026】
リジンの配合量(分子)とグリコーゲンの配合量(分母)の比は、1〜15、好ましくは3〜10である。
【0027】
オルニチンの配合量(分子)とグリコーゲンの配合量(分母)の比は、0.1〜10、好ましくは2〜5である。
【0028】
亜鉛の配合量(分子)とグリコーゲンの配合量(分母)の比は、0.01〜1、好ましくは0.1〜0.5である。
【0029】
カンカ抽出物の配合量(分子)とグリコーゲンの配合量(分母)の比は、0.5〜10、好ましくは1〜5である。
【0030】
本発明のサプリメントは、さらにカンカ抽出物(カンカエキス)を含む。カンカ抽出物の1日摂取量は、乾燥重量で10〜1000mg、好ましくは50〜500mg、より好ましくは75〜200mg配合される。
【0031】
本発明で使用するカンカ抽出物は、カンカニクジュヨウ(Cistanche Tubulosa)を極性または非極性溶媒で抽出して得られる抽出液、その希釈液、濃縮液またはそれらの乾燥物を意味する。
【0032】
カンカニクジュヨウは、ウイグル自治区・タクラマカン砂漠の紅柳の木に寄生するハマウツボ科ニクジュヨウ属植物であり、シルクロード南路、ホータン地域の人たちが厳しい砂漠の環境で生き抜くために常食し体力を補ってきた食品で、滋養強壮作用があるといわれている。カンカニクジュヨウは、肉質茎または根の部位が好ましく、肉質茎がより好ましく用いられる。
【0033】
カンカニクジュヨウの抽出に用いる溶媒は特に制限されない。例えば、水;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールなどのアルコール類;エーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;酢酸エチルなどのエステル類;アセトンなどのケトン類;アセトニトニルなどのニトリル類;ヘプタン、ヘキサンなどの炭化水素類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類;および、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、あるいは2以上を組合せて用いてもよい。好ましくは水、アルコール類(特にエタノール)、および水とアルコール類との混合溶媒である。混合溶媒中の水とアルコール類との混合割合は、好ましくは容積比で0:100〜70:30、より好ましくは15:85〜50:50である。抽出方法は、特に制限されないが、使用における安全性および利便性の観点から、できるだけ緩やかな条件で行うことが好ましい。例えば、カンカニクジュヨウの肉質茎の乾燥粉末に1〜10倍量のエタノール水溶液を加え、0℃〜溶媒の還流温度の範囲で30分間〜48時間、振盪、撹拌あるいは還流などの条件下、抽出を行う。抽出後、濾過、遠心分離などの分離操作を行い、不溶物を除去して、必要に応じて希釈、濃縮操作を行うことにより、抽出物を得ることができる。カンカニクジュヨウの抽出物は、さらに必要に応じて乾燥してもよい。乾燥は、噴霧乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥、流動乾燥などの当業者が通常用いる方法によって行われる。必要に応じて賦形剤を用いてもよい。本発明に用いられるカンカ抽出物は、加工せずにそのまま用いてもよいし、好ましくは予め乾燥処理、粉末処理などを行って乾燥粉末加工品として用いる。
【0034】
本発明のサプリメントは、任意の剤形であり得る。本発明のサプリメントが採り得る剤形の例としては、錠剤、液剤、カプセル剤、粉末剤(散剤)、顆粒剤、細粒剤、乳剤および懸濁剤が挙げられる。本発明のサプリメントは好ましくは錠剤、カプセル剤、粉末剤または顆粒剤であり、より好ましくはカプセル剤である。これらの剤形のサプリメントは、常法に従い製造できる。
【0035】
本発明のサプリメントは、1回あたりの摂取量毎に個包装されていてもよく、1日あたりの摂取量毎に個包装されていてもよい。
【0036】
本発明のサプリメントは、箱、袋、缶などの容器に入れて包装され得る。本発明のサプリメントは、例えば、1週間を1単位として数週間分のセットであってもよく、1ヶ月を1単位として数か月分のセットであってもよい。
【0037】
サプリメントを入れた容器には、本発明のサプリメントの使用法を説明した説明書が入っていてもよいし、容器表面に使用法が記載されていてもよい。
【0038】
本発明のサプリメントは、筋量増量、テストステロン増加または成長ホルモンおよびテストステロンの増加を希望する人間によって摂取され得る。本発明のサプリメントを摂取することにより、筋量が増加する。テストステロンおよび成長ホルモンはそれぞれ、筋量の増加をもたらすことが周知である(例えば非特許文献1)。
【0039】
本発明のサプリメントは、1日に1回以上の頻度で摂取することが好ましいが、2日に1回、3日に1回、4日に1回などという頻度で摂取してもよい。2日に1回摂取する場合、1回に2日分を摂取してもよい。3日に1回摂取する場合、1回に2日分または3日分を摂取してもよい。4日に1回摂取する場合、1回に2日分、3日分または4日分を摂取してもよい。筋量を増加させる効率がより高くなるので、1日に2回以上(例えば1日2回〜4回)に分けて摂取することがより好ましい。
【0040】
本発明のサプリメントを摂取するタイミングは、特に限定されない。食前、食間、食後、起床後、就寝前のいずれであってもよい。好ましい実施形態において、本発明のサプリメントは、運動の前に摂取する。運動の前に摂取することで、運動後の血中に分泌する成長ホルモン量を増加させ、筋肉を増量することができる。
【0041】
本発明のサプリメントの効果は、例えば、投与後の血清中の成長ホルモン及び/又はテストステロンの増加量を測定することによって、あるいは、投与後の筋肉量の増加を測定することによって確認され得る。血液(血清または血漿)中の成長ホルモン、テストステロンの量は、ELISA、IRMA(Immunoradiometric assay;免疫放射定量法)、RIA(Radio immuno assay;放射性免疫測定法)などの免疫学的測定法により測定され得る。筋肉量は、例えば、株式会社バイオスペース社製のInBody 3.0によって測定され得る。In Body 3.0は、両腕、両脚、体幹の5セグメントの水分量を、多周波インピーダンス方式によって細胞内および細胞外の水分量を測定し、水分は主に筋肉中に存在し、かつ、筋肉の水分保持量が73.3%であることに基づいて、筋肉量を計算するという原理に基づいている。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明する。
【0043】
実施例1及び比較例1:サプリメントの製造
以下の表1に示される成分及び配合量で、酵素合成グリコーゲンを含む本発明のサプリメント(実施例1)及び酵素合成グリコーゲンに代えて同量のデキストリンを含む対照のサプリメント(比較例1)をカプセル剤として常法に従い調製した。
【0044】
なお、表1は8粒のカプセル剤当たりの配合量を示している。
【0045】
【表1】
【0046】
試験例1
実施例1と比較例1のサプリメントを以下の試験プロトコール(表2)に従い、6名の健常者でトレーニングを行った際の効果検証試験を行った。
【0047】
*試験プロトコール:
・試験は、クロスオーバー盲検法にて、2日間に分けて実施例1又は比較例1のサプリメント(カプセル、8粒)を摂取し、成長ホルモンの分泌を測定する。
・カプセル摂取15分後より約30分間の高強度間欠運動を行なう。
・カプセル摂取前、運動後15分、30分、1時間後に採血を行い成長ホルモン量を測定する。
【0048】
【表2】
【0049】
*結果
6名の男性の健常者の血清中の成長ホルモンの平均値を
図1に示す。
図1に示すように、酵素合成グリコーゲン(ESG)を含む実施例1のサプリメント(ESG+)は、トレーニング直後の成長ホルモンの分泌促進作用があることが分かった。
【0050】
また、酵素合成グリコーゲンを含む実施例1のサプリメント(ESG+)は、比較例1のサプリメントプラセボ品(ESG-)に比べて、トレーニング直後の成長ホルモンの分泌が有意に高く、酵素合成グリコーゲンの相乗効果が確認された。
【0051】
なお、
図1には成長ホルモンの測定結果のみを示したが、血中のテストステロン量についても同様に、運動後に上昇することを本発明者は確認した。ただし、テストステロンの血中濃度の増大(分泌量の増加)は、成長ホルモンよりも遅れて発現した。