(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016617
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】スクラムジェットエンジン及び推力制御方法
(51)【国際特許分類】
F02C 9/26 20060101AFI20161013BHJP
F02K 7/14 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
F02C9/26
F02K7/14
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-279714(P2012-279714)
(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2014-122598(P2014-122598A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102864
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】上野 祥彦
(72)【発明者】
【氏名】古谷 正二郎
【審査官】
瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−144984(JP,A)
【文献】
米国特許第5280705(US,A)
【文献】
米国特許第5660040(US,A)
【文献】
特開2012−13007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 7/10, 9/26
F02K 7/10
F23R 3/28
DWPI(Thomson Innovation)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主流空気の方向に直交する第1方向において分布するように配置された複数の燃料噴射孔と、
前記複数の燃料噴射孔のそれぞれからの燃料噴射を独立にON/OFF制御する推力制御部と
を備える
スクラムジェットエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載のスクラムジェットエンジンであって、
前記複数の燃料噴射孔は、前記第1方向に沿って一直線に配置されている
スクラムジェットエンジン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスクラムジェットエンジンであって、
前記複数の燃料噴射孔のうち第1燃料噴射孔は第2燃料噴射孔よりも燃焼室の側壁に近く、
前記推力制御部は、前記第2燃料噴射孔よりも前記第1燃料噴射孔からの燃料噴射を優先的にOFFする
スクラムジェットエンジン。
【請求項4】
スクラムジェットエンジンにおける推力制御方法であって、
前記スクラムジェットエンジンは、主流空気の方向に直交する第1方向において分布するように配置された複数の燃料噴射孔を備え、
前記推力制御方法は、前記複数の燃料噴射孔のそれぞれからの燃料噴射を独立にON/OFF制御するステップを含む
推力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクラムジェットエンジンに関する。特に、本発明は、スクラムジェットエンジンにおける推力制御に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェットエンジンの一種として、ラムジェットエンジン(ramjet engine)が知られている。ラムジェットエンジンは、機械的な圧縮機の代わりに、高速飛行に伴うラム圧による空気の圧縮を利用する。より詳細には、インレットにおいて、ラム圧により空気の圧縮が行われ、超音速空気流は亜音速まで減速させられる。燃焼室では、その亜音速空気流に対して燃料が噴射され、燃焼(亜音速燃焼)が発生する。このようなラムジェットエンジンは、動作領域が超音速領域などの高速領域(マッハ3〜5が最も効率が良い)に限られるが、機械的な圧縮機を使用しないため、機体の軽量化の観点から好適である。
【0003】
その一方で、飛行速度がマッハ5を超えると、吸入した超音速空気流を亜音速まで減速する場合、吸入した空気流の圧力損失や機体に係る空気抵抗が増大し、非効率に(最悪の場合はエンジンの作動が困難に)なってくる。そこで、吸入した超音速空気流を超音速のまま燃焼室に導き、超音速燃焼を行う技術も提案されている。これは、スクラムジェット(スーパーソニック・コンバスチョン・ラムジェット(supersonic combustion ramjet))エンジンと呼ばれている。
【0004】
図1は、典型的なスクラムジェットエンジンの構成を概略的に示している。インレット110に吸入される超音速空気流は、超音速のまま、燃焼室120に導かれる。燃焼室120では、その超音速空気流に対して燃料が噴射され、燃焼(超音速燃焼)が発生する。そして、その燃焼により発生した燃焼ガスがノズル130から噴出し、その反動で推進力が得られる。このようなスクラムジェットエンジンでは、吸入から排気までのエンジン全域にわたって、空気流が音速以下に減速されることがないため、広いマッハ数域で高いエンジン性能が維持される。
【0005】
但し、超音速燃焼の場合、超音速の空気流が燃焼室120を通過する時間は、数ミリ秒と非常に短い。そのため、燃焼室120における「保炎」が重要な課題の1つとなる。例えば、燃料噴射孔から噴射される燃料の量が少な過ぎる場合、希薄燃焼の状態となり、保炎が困難となる。逆に、燃料噴射孔から噴射される燃料の量が多過ぎる場合、燃焼圧力が過剰に上昇し、境界層の剥離が発生する。その場合、超音速燃焼を維持することができなくなる。
【0006】
このように、スクラムジェットエンジンの場合、適切な保炎を実現するためには、燃料噴射量は少な過ぎても多過ぎてもいけない。このことは、スクラムジェットエンジンの推力の上限値及び下限値に関する制約が大きいことを意味する。
【0007】
特許文献1(特開2004−84516号公報)は、スクラムジェットエンジンにおける境界層剥離域の遡上を抑制する技術を開示している。具体的には、エンジン内壁面に後部(下流)に向く鋭角の突起物体が設けられる。この突起物体により、後部からの再循環流(逆流)を後方に向け、再循環流と主流境界層との干渉を低減し、剥離域の拡大を抑止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−84516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の通り、従来のスクラムジェットエンジンでは、推力の上限値及び下限値に関する制約が大きかった。
【0010】
本発明の1つの目的は、広い推力調整範囲を有するスクラムジェットエンジンを実現することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号・符号を用いて、[課題を解決するための手段]を説明する。これらの番号・符号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]との対応関係を明らかにするために括弧付きで付加されたものである。ただし、それらの番号・符号を、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0012】
本発明の1つの観点において、スクラムジェットエンジンが提供される。そのスクラムジェットエンジンは、複数の燃料噴射孔(10)と推力制御部(20)とを備える。複数の燃料噴射孔(10)は、主流空気の方向に直交する第1方向において分布するように配置されている。推力制御部(20)は、複数の燃料噴射孔(10)のそれぞれからの燃料噴射を独立にON/OFF制御する。
【0013】
本発明の他の観点において、スクラムジェットエンジンにおける推力制御方法が提供される。スクラムジェットエンジンは、主流空気の方向に直交する第1方向において分布するように配置された複数の燃料噴射孔(10)を備える。推力制御方法は、複数の燃料噴射孔(10)のそれぞれからの燃料噴射を独立にON/OFF制御するステップを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、広い推力調整範囲を有するスクラムジェットエンジンを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、典型的なスクラムジェットエンジンの構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係るスクラムジェットエンジンにおける推力制御を説明するための概念図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態に係るスクラムジェットエンジンにおける推力制御の一例を示す概念図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態に係るスクラムジェットエンジンにおける推力制御の一例を示す概念図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態に係るスクラムジェットエンジンにおける推力制御の一例を示す概念図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態に係るスクラムジェットエンジンにおける推力制御の一例を示すテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付図面を参照して、本発明の実施の形態に係るスクラムジェットエンジンを説明する。
【0017】
図2は、本実施の形態に係るスクラムジェットエンジンにおける推力制御を説明するための概念図である。本実施の形態によれば、スクラムジェットエンジンの燃焼室内に、複数の燃料噴射孔10が設けられる。各々の燃料噴射孔10からは、燃焼室に向かって燃料が噴射される。
図2で示される例では、5個の燃料噴射孔10−1〜10−5が設けられている。但し、燃料噴射孔10の数は5個に限られない。
【0018】
ここで、燃焼室における主流空気の方向はX方向であるとする。このとき、複数の燃料噴射孔10は、X方向に直交するY方向において分布するように配置される。
図2で示される例では、複数の燃料噴射孔10は、Y方向に沿って一直線に配置されている。但し、複数の燃料噴射孔10は、必ずしも一直線に配置されている必要はなく、Y方向に分散配置されていればよい。
【0019】
スクラムジェットエンジンの場合、燃焼は超音速燃焼である。そのため、ある1つの燃料噴射孔10から噴射される燃料によって影響を受ける領域は、
図2に示されるように、当該燃料噴射孔10から下流に拡がるコーン状の領域に限定される。このことは、Y方向に分散配置された燃料噴射孔10の“独立性”が高いことを意味する。
【0020】
例えば、
図2中の領域Aを考える。この領域Aは、1つの燃料噴射孔10−3からだけ影響を受ける領域である。燃料噴射孔10−3から適量の燃料を噴射することにより、本領域Aにおいて適切な保炎を実現することができる。このとき、その保炎は、他の燃料噴射孔10−1、10−2、10−4、10−5の影響は受けない。すなわち、燃料噴射孔10−3から適量の燃料を噴射しさえすれば、他の燃料噴射孔10からの燃料噴射のON/OFFに拘わらず、領域Aにおける保炎は維持され続ける。
【0021】
また、
図2中の領域Bを考える。この領域Bは、隣接する2つの燃料噴射孔10−2、10−3から影響を受ける領域である。この領域Bで保炎された場合であっても、燃料噴射孔10−2、10−3の相互作用は、亜音速燃焼の場合と比較してはるかに小さい。
【0022】
このように、スクラムジェットエンジンの場合、Y方向に分散配置された複数の燃料噴射孔10の“独立性”は高い。そのため、ある燃料噴射孔10からの適量の燃料噴射によって保炎がなされていれば、他の燃料噴射孔10からの燃料噴射をOFFしたとしても、その保炎は維持され得る。
【0023】
本実施の形態は、以上に説明された本願発明者による知見に立脚している。すなわち、本実施の形態によれば、複数の燃料噴射孔10のそれぞれからの燃料噴射が独立にON/OFF制御される。言い換えれば、個々の燃料噴射孔10からの燃料噴射量はあまり変えることなく適量に維持する一方で、燃料噴射を行う燃料噴射孔10の“数”を増減させる。これにより、適切な保炎を維持しつつ、全体としての推力を任意に制御することが可能となる。
【0024】
図3に示されるように、本実施の形態に係るスクラムジェットエンジンは、推力制御部20を備えている。この推力制御部20は、外部からの指令に応じて、複数の燃料噴射孔10のそれぞれからの燃料噴射を独立にON/OFF制御する。
【0025】
図3に示される例において、推力制御部20は、3個の燃料噴射孔10−2〜10−4からの燃料噴射をONし、その他の燃料噴射孔10−1、10−5からの燃料噴射をOFFしている。ONされた燃料噴射孔10−2〜10−4の各々からは、適量の燃料が噴射される。一方、OFFされた燃料噴射孔10−1、10−5からの燃料噴射は停止する。
【0026】
図4に示される例において、推力制御部20は、1個の燃料噴射孔10−3からの燃料噴射をONし、その他の燃料噴射孔10−1、10−2、10−4、10−5からの燃料噴射をOFFしている。このとき、全体としての推力は、
図3で示された場合よりも減少する。例えば、推力制御部20は、減速指令を受けた際に、燃料噴射状態を
図3で示された状態から
図4で示された状態に切り替える。これにより、適切な保炎を維持しつつ、全体としての推力を低下させることが可能となる。
【0027】
図5に示される例において、推力制御部20は、全ての燃料噴射孔10−1〜10−5からの燃料噴射をONしている。このとき、全体としての推力は、
図3で示された場合よりも増加する。例えば、推力制御部20は、加速指令を受けた際に、燃料噴射状態を
図3で示された状態から
図5で示された状態に切り替える。これにより、適切な保炎を維持しつつ、全体としての推力を増加させることが可能となる。
【0028】
尚、
図3〜
図5で示された例において、最も外側に配置された燃料噴射孔10−1、10−5が燃焼室の側壁に最も近く、中央に配置された燃料噴射孔10−3が燃焼室の側壁から最も遠い。このとき、推力制御部20は、
図3〜
図5で示されたように、燃焼室の側壁により近い燃料噴射孔10からの燃料噴射を優先的にOFFし、燃焼室の側壁からより遠い燃料噴射孔10からの燃料噴射を優先的にONしてもよい。この場合、燃焼室の側壁に印加される熱負荷が低減され、好適である。
【0029】
図6は、
図3〜
図5で示された推力制御の例を要約的に示している。推力制御部20は、
図6に示されるようなテーブルを保持していてもよい。この場合、推力制御部20は、当該テーブルを参照することによって外部指令に適したモードを選択し、当該選択モードに従って燃料噴射孔10のON/OFF制御を実施する。
【0030】
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、個々の燃料噴射孔10からの燃料噴射量はあまり変えることなく適量に維持する一方で、燃料噴射を行う燃料噴射孔10の“数”を増減させる。これにより、適切な保炎を維持しつつ、全体としての推力を任意に制御することが可能となる。このことは、エンジン推力の調整可能範囲が大幅に拡大することを意味する。すなわち、本実施の形態によれば、広い推力調整範囲を有するスクラムジェットエンジンが実現される。
【0031】
また、本実施の形態によれば、最大推力と巡航推力の比を大きくとることができるようになるため、機体の加速性能が増大する。短時間で加速できるようになるため、飛しょうの高速化/飛しょう時間の短縮が図れる。また、エンジンの加速性能が増大することにより、初期加速に用いるブースターを小型化することができ、結果として、機体全体を小型・軽量化することが可能となる。
【0032】
本発明に係るスクラムジェットエンジンは、飛しょう体、航空機、ロケット等に適用可能である。
【0033】
以上、本発明の実施の形態が添付の図面を参照することにより説明された。但し、本発明は、上述の実施の形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で当業者により適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0034】
10 燃料噴射孔
20 推力制御部