(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
大豆は、畑の肉とも呼ばれており、動物性蛋白質と類似するアミノ酸組成の蛋白質が豊富で、肉や卵に匹敵する良質の蛋白質を含んでいる。また、大豆には、油分(脂質)も豊富に含まれ、その50%以上が、血液中のコレステロールを下げる働きをするリノール酸であり、成人病、特に高血圧の予防に有効であることも分かっている。更に、大豆は、レシチンも含有しており、脳細胞に作用してボケ防止に効果のあることも知られている。
【0003】
更に、大豆には、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンE、ビタミンK等のビタミン類、カルシウム、カリウム、食物繊維等の栄養素も含有している。これらの栄養素は、老化防止、疲労回復、便秘予防等にも有効であることが知られている。
【0004】
また、大豆は、緩和な女性ホルモン様作用がある各種イソフラボンを含んでおり、更年期障害、骨粗鬆症等の予防乃至改善にも有効であることが報告されている。
【0005】
このように大豆は、様々な有用栄養素を含んでおり、栄養価が高く、しかも栄養バランスのよい非食肉食品素材として注目されている。そして、近年では、優れた食感を備え且つ大豆に含まれる全栄養成分を実質的に含む大豆粉末の製造技術が開発されており(例えば、特許文献1及び2参照)、当該大豆粉末を利用した各種食品や飲料が、消費者の健康志向と相まって脚光を浴びている。
【0006】
一方、大豆には、尿素を加水分解してアンモニアを産生する酵素であるウレアーゼも含まれている。ウレアーゼを摂取すると、腸管内に存在する尿素と接触してアンモニアが生成される。その後、生成されたアンモニアは生体内に吸収され、その大部分は肝臓にて尿素に変換される。しかしながら、肝硬変等の肝疾患を罹患している患者では、肝臓での尿素生成能が低下しており、その結果として生体内でのアンモニアが蓄積し、血中アンモニア濃度の上昇を招いてしまう。このような血中アンモニア濃度の上昇は、肝性脳症や肝性昏睡等の脳障害の主因と考えられている。また、ウレアーゼは、胃炎や胃潰瘍の原因菌であるヘリコバクター・ピロリの定着を助長することが分かっている。更に、ウレアーゼによって産生されるアンモニアは腸内細菌に対して毒性を示し、腸内菌叢の悪化を引き起こすことも知られている。
【0007】
また、中国では、大豆に含まれるトリプシンインヒビターが原因となった死亡事故が発生しており、これを受けて、大豆粉末や豆乳の国家標準規格が定められている。トリプシンインヒビターは、酵素失活温度域がウレアーゼと類似しているため、大豆粉末や豆乳の安全性に関する中国の国家標準規格では、ウレアーゼ活性値が指標とされている。
【0008】
このように、健康維持、疾患予防の観点から、トリプシンインヒビターやウレアーゼの過剰摂取を抑制することが重要であり、大豆のように日常的に摂取される食品素材は、ウレアーゼ活性を低減されていることが望ましいと考えられている。
【0009】
前述する特許文献1の大豆粉末は、栄養価、食感、風味等の点で、極めて優れており、その安全性についても何ら問題ないものであるが、今日の消費者の健康意識の高まりは止まることを知らず、より一層付加価値の高い大豆素材を提供が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、食感や風味が良好で、しかもウレアーゼ含量が低減されている加工大豆を提供することである。好ましくは、本発明は、ウレアーゼ含量がムラ無く低減された加工大豆を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、大豆を大気圧下で蒸煮等により加熱処理をした場合には、大豆のウレアーゼ含量を十分に低減できないか、大豆毎に残存ウレアーゼ含量に顕著なムラが生じるという問題が存在することを見出した。そこで、この問題を解決すべく、本発明者等は日夜研究を重ね、大豆を減圧処理した後に、蒸煮処理することによって、大豆毎にムラを生じさせることなくウレアーゼ含量を十分に低減することが可能であることを見出した。本発明者等は、更なる検討を重ねた結果、そのような処理を施すことにより、大豆の青臭みも低減することが可能であり、更に大豆の甘みを引き出すことも可能であることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることによって完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 以下の工程(A)及び(B)を含む、加工大豆の製造方法:
(A) 大豆を減圧処理する工程、及び
(B) 工程(A)で得られた大豆を蒸煮する工程。
項2. 減圧処理が、大豆を30kPa以下の減圧雰囲気に晒すことにより行われる、請求項1に記載の方法。
項3. 蒸煮処理が、80〜150℃で1〜60分間の条件で行われる、項1又は2に記載の方法。
項4. 更に、蒸煮処理後の加工大豆を、乾燥処理及び/又は粉末化処理に供する、項1〜3のいずれかに記載の方法。
項5. 請求項1〜4のいずれかに記載の方法により得られる、加工大豆。
項6. 中国国家標準GB/T5413.31-1997に従って測定されるウレアーゼ活性が偽陽性(+1)以下である、請求項5に記載の加工大豆。
項7. 大豆に対して、減圧処理した後に蒸煮処理することを特徴とする、加工大豆の製造方法。
項8. 減圧処理が、大豆を10kPa以下の減圧雰囲気に晒すことにより行われる、項7に記載の加工大豆の製造方法。
項9. 減圧処理後且つ蒸煮処理前に、減圧処理された大豆に対して30〜100℃で1分間以上加熱処理を行う、項1又は2に記載の加工大豆の製造方法。
項10. 蒸煮処理が、80〜150℃で1〜60分間の条件で行われる、項7〜9のいずれかに記載の加工大豆の製造方法。
項11. 更に、蒸煮処理後の加工大豆を、乾燥処理及び/又は粉末化処理に供する、項7〜10のいずれかに記載の加工大豆の製造方法。
項12. 中国国家標準GB/T5413.31-1997に従って測定されるウレアーゼ活性が偽陽性(+1)以下であることを特徴とする、加工大豆。
項13. 項7〜11のいずれかに記載の製造方法により得られる、加工大豆。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大豆の種類、粒の大きさ、形状、固さ等の違いによるムラや大豆の部位(例えば、子葉や胚軸)によるムラを生じさせることなく、均一にウレアーゼ含量が低減された加工大豆を提供することが可能である。当該加工大豆は、均一にウレアーゼ含量が低減されているため、安全性に優れる。また、当該加工大豆は、青臭みが低減され、良好な甘みを有し、これらの性質に関してもムラが低減されている。よって、本発明によって、安全性に優れ、良好な風味を備えた品質の一定した加工大豆を提供することが可能である。当該加工大豆は、飲食品の材料として有用であり、様々な食品や飲料に配合することによって、ウレアーゼが低減された加工大豆含有食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.加工大豆の製造方法
本発明の加工大豆の製造方法は、大豆を、減圧処理した後に蒸煮処理することによって、加工大豆を得ることを特徴とする。以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0016】
本発明に使用される原料大豆(大豆)は、その品種や産地については特に制限されるものではない。当該原料大豆は、予め、割豆、破砕豆、虫食豆、他の種子類、異物等を取り除くための精選処理に供されたものであってもよい。また、当該原料大豆は、豆の表面に付着している土埃等を除去するために、水洗等の洗浄処理に供したものであってもよい。
【0017】
また、本発明において、原料大豆としては、常法に従って、適当な脱皮機、補助脱皮機等を用いて脱皮処理したものが通常使用される。脱皮処理は特に制限されず、例えば、大豆の皮を加熱して皮を剥いだ大豆を原料大豆とすることもできる。よって、原料大豆は、生大豆でもよく、大豆の中まで火が通らない程度に加熱処理がされた大豆であってもよい。一実施形態において、原料大豆は、完全には火が通っていない大豆が好ましく、生大豆が好ましい。なお、葉の細胞が物理的に損傷されると酵素類が大豆油に作用して青臭みを発現するため、当該脱皮処理では、割れ、破壊等の子葉に対する機械的な損傷を最小限にして皮を分離することが望ましい。
【0018】
本発明は、上記原料大豆を減圧処理する工程を含む。大豆の減圧処理は、大豆を減圧雰囲気に晒すことによって実施することができる。減圧処理をすることによって、大豆の熱伝導性が向上し、次の蒸煮処理工程において、均一に大豆を蒸煮することができ、大豆の粒毎の蒸煮ムラや大豆の部位毎の蒸煮ムラをなくして、均質にウレアーゼ活性が低減し、風味が改善された加工大豆を得ることが可能になる。
【0019】
当該減圧処理の減圧条件は、大豆のウレアーゼ含量をムラ無く低減することが可能である限り特に限定されるものではないが、通常30kPa以下、好ましくは10kPa以下、より好ましくは1〜10kPa、更に好ましくは3〜7kPaである。
【0020】
減圧処理時間は、大豆のウレアーゼ含量をムラ無く低減することが可能である限り特に制限されないが、通常1分間以上であり、好ましくは1〜10分間、更に好ましくは3〜7分間である。減圧処理時の温度条件は、特に制限されないが、例えば、−20〜45℃、好ましくは常温が挙げられる。
【0021】
斯くして減圧処理された大豆は、圧力雰囲気を常圧に戻した後に、後述する蒸煮処理に供されるが、減圧処理後から蒸煮処理を行う過程において、減圧処理された大豆の雰囲気にできるだけ空気を導入しないことが好ましい。そのため、本発明では、減圧処理された大豆の雰囲気に水蒸気を導入することによって、減圧雰囲気から常圧に戻すことが好ましい。
【0022】
また、当該蒸煮処理に先立って、減圧処理された大豆を予備的な加熱処理に供してもよい。このように予備的な加熱処理を行うことによって、後述する蒸煮処理において、より均一でムラのない蒸煮を行うことが可能になる。当該予備的加熱処理は、減圧処理後に大豆の圧力雰囲気を常圧に戻した後に開始してもよく、また減圧処理後に大豆の圧力雰囲気を常圧に戻している段階で加熱水蒸気を導入することによって開始してもよい。
【0023】
当該予備的加熱処理の温度条件は、良好な官能、食感に悪影響を及ぼさない範囲であればよく、例えば30〜100℃、好ましくは70〜90℃、更に好ましくは75〜85℃が挙げられる。当該予備的加熱処理の加熱時間は、大豆全体に温度が均一に行き渡るように設定されていればよく、例えば1分間以上、好ましくは1〜20分間、更に好ましくは5〜15分間が挙げられる。一般的に、予備的加熱処理を比較的低い温度で行う場合は、相対的に長い時間予備的加熱を行うことが適切である。同様に、比較的高い温度で予備的加熱処理を行う場合は、相対的に短い時間予備的加熱を行うことが適切である。
【0024】
また、当該加熱処理方法は、好ましくは加熱蒸気を導入することによって行われる。
【0025】
次いで、本発明では、大豆を蒸煮処理する。このように蒸煮処理を行うことにより、青臭み等がなく良好な食感や風味を備えながら、ウレアーゼ含量を低減させることができる。当該蒸煮処理は、大豆と水蒸気を所定の温度の温度条件で接触させればよく、公知の方法に従って行うことができる。当該蒸煮処理条件の条件として、例えば、80〜150℃で1〜60分間、好ましくは90〜130℃で5〜50分間、更に好ましくは100〜130℃で5〜35分間が挙げられる。蒸煮温度が低過ぎると、十分にウレアーゼを失活させることができず、また大豆に青臭みが残り、甘みを十分に引き出すことができない。一方で、高い温度での蒸煮は、ウレアーゼ活性を失活させ、大豆の青臭みを除くという観点では好ましい。しかし、大豆の甘みも併せて引き出すという観点では、上記蒸煮温度の範囲内の温度で蒸煮することが好ましい。
【0026】
また、一般的に、比較的低い温度で蒸煮処理を行う場合は、相対的に長時間蒸煮処理を行うことが好ましく、比較的高い温度で蒸煮処理を行う場合は、相対的に短時間蒸煮処理を行うことが好ましい。このように、蒸煮温度と時間とにおいてバランスを取ることにより、ウレアーゼ含量及び青臭みを十分に低減しつつ、大豆の甘みを引き出すことが可能となる。例えば、80〜100℃で蒸煮する場合は、20〜60分蒸煮処理を行うことが好ましく、より好ましくは25〜55分、更に30〜50分蒸煮処理を行うことが好ましい。130〜150度で蒸煮処理を行う場合は、1〜30分蒸煮処理を行うことが好ましく、より好ましくは2〜20分、更に好ましくは3〜15分蒸煮処理を行うことが好ましい。
【0027】
蒸気処理後に自然放冷等によって加工大豆の品温を下げてもよく、また、蒸煮処理後に1〜10kPa程度に減圧することにより加工大豆の品温を下げてもよい。蒸煮処理後に1〜10kPa程度に減圧すると、蒸煮処理後の加工大豆の品温を下げるだけでなく、当該加工大豆表面の水分を蒸散させて当該加工大豆の含水率を2〜3重量%減少させることも可能になり、全体の製造工程を簡略化できるという利点も得られるため好ましい。
【0028】
上記の減圧処理、必要に応じてなされる予備的加熱処理、及び蒸煮処理は、圧力制御及び温度制御が可能な蒸煮機を使用することによって一つの装置で一連の処理を行うことが望ましい。
【0029】
斯くして蒸煮処理することによって得られる加工大豆は、乾燥処理に供することにより、加工大豆に含まれる水分を除去して、保存安定性を高め、食品素材としての汎用性を高めることができる。当該乾燥処理における乾燥方法は、減圧乾燥、風乾、温風、加熱乾燥等の公知の方法を採用できるが、良好な食感や風味を維持させるという観点からは、温風乾燥が好適である。当該乾燥処理は、加工大豆の含水率が6重量%以下程度の範囲となるように行われることが好ましい。
【0030】
更に、加工大豆は、細切化、粉末化等の形状加工処理によって、所望の形状に加工してもよい。とりわけ、粉末状の加工大豆は、様々な食品や飲料に配合し易く、食品素材として汎用性が高いことから、好適である。加工大豆の粉末化は、当該技術分野において粉末化に使用されている各種粉砕装置を用いて行うことができる。当該粉砕装置の具体例としては、気流粉砕機(エアーグラインダー)、ピンミル、ロールミル、ハンマーミル、臼式粉砕機等が挙げられる。加工大豆を粉末状にする場合、その平均粒子径は、10〜100μm程度、好ましくは10〜50μm程度とすることが望ましい。当該平均粒子径は、レーザー回析散乱式粒度分布測定によって測定される。
【0031】
また、加工大豆を細切化や粉末化等の形状加工処理を行う場合、上記乾燥処理の前及び後のいずれで実施してもよく、また乾燥処理の前後に形状加工処理を実施してもよい。形状加工工程の簡易化の観点からは、蒸気乾燥処理の後に形状加工処理を行うことが望ましい。乾燥処理の前後に形状加工処理を実施する方法としては、例えば、先ずロールがけにより圧偏してフレーク状とし、次いで乾燥処理に供し、最終的に気流粉砕機等を用いて粉末化する方法が挙げられる。
【0032】
2.加工大豆
上記の製造方法で得られた加工大豆は、青臭み等がなく、食感や風味が良好であって、ウレアーゼ含量が低減されている。本書において、ウレアーゼ含量が低減されているとは、加工大豆に残存するウレアーゼ活性が低減されていることを意味する。特に、上記の製造方法で得られた加工大豆は、ウレアーゼ含量が偽陽性(+1)以下であることが好ましく、より好ましくは陰性になっており、従来の加工大豆に比べて有利な物性を有している。ここで、ウレアーゼ含量の判定基準である陽性、擬陽性、及び陰性については、中国国家標準基準GB/T5413.31-1997に従って判定されるものであり、具体的には後記する試
験1に記載の方法で判定される。
【0033】
本発明の加工大豆は、その性質(特に、ウレアーゼ含量)に関して、加工大豆毎のムラが低減されている。ここで、「ムラが低減されている」とは、通常、質量換算で上記蒸煮処理に供した大豆全体を100%とした場合に、ウレアーゼ含量が陽性(+2)以上である大豆の割合が30%以下であり、好ましくは20%未満、更に好ましくは15%未満、より更に好ましくは10%未満、特に好ましくは5%未満であることを意味する。別の好適な実施形態においては、加工大豆は、質量換算で上記蒸煮処理に供した大豆全体を100%とした場合に、ウレアーゼ含量が擬陽性(+1)以上である大豆の割合が、30%以下であり、好ましくは20%未満、更に好ましくは15%未満、より更に好ましくは10%未満、特に好ましくは5%未満である。
【0034】
尚、ウレアーゼ含量に関して加工大豆が均質であることは、大豆が均一に蒸煮処理されたことを示すため、同時に、青臭みや甘みといった風味に関しても加工大豆が均質であることを意味する。このように、本発明はウレアーゼ含量が低減された新規加工大豆をも提供する。
【0035】
上記加工大豆は、食感や風味の側面から優れており、食品素材として、様々な食品や飲料に配合して使用される。上記加工大豆は、配合される食品や飲料の形態に応じて、その形状は適宜設定される。例えば、食品に配合する場合、上記加工大豆は、粉末状及び粒状のいずれであってもよく、食品の種類に応じて適宜使い分ければよい。また、飲料に配合する場合、上記加工大豆は、飲料中での良好な分散性を確保するために、粉末状であることが好ましい。
【0036】
上記加工大豆が配合される食品としては、例えば、豆腐様食品、パン、焼き菓子、飲料、ゼリー状食品、冷菓等が挙げられる。具体的には、上記加工大豆を配合した焼き菓子は、上記加工大豆の粉末を配合した生地を適当な形状に賦形乃至成型した後に、加熱焼成することにより製造される。また、上記加工大豆を配合した豆腐様食品は、従来の豆腐の製造において、豆乳に代えて、上記加工大豆の粉末を水に溶解、分散させて調製した大豆液を使用することにより製造される。当該豆腐様食品は、外観は豆腐そのものであるが、オカラの成分を含むものである(繊維質を除去していない)ため、当該豆腐様食品は、農林水産省食品流通局長通達による「豆腐」には該当しないため、本明細書では豆腐様食品と称する。
【0037】
上記加工大豆を食品に配合する場合、加工大豆の配合割合については、食品の形態等に応じて適宜設定されるが、例えば1〜75重量%、好ましくは5〜35重量%が例示される。
【0038】
また、上記加工大豆を飲料に配合する場合、加工大豆の配合割合については、飲料の種類等に応じて適宜設定されるが、例えば1〜40重量%、好ましくは5〜35重量%が例示される。このように上記加工大豆が配合された飲料は、大豆飲料として提供される。
【0039】
上記飲料には、上記加工大豆以外に、必要に応じて、pH調整剤、緩衝剤(炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸、硫酸等)を適宜配合してもよい。また、一般的な飲料と同様に、各種の着香料、風味物質、甘味料等を配合することもできる。
【0040】
上記飲料の調製において、上記加工大豆、及び必要に応じて他の成分を水に配合したものを、均質化処理に供することが望ましい。このように均質化処理を行うことによって、一層優れた食感、特に滑らかさを有する大豆飲料を得ることができる。均質化処理は、一般的なホモジナイザーを利用することにより行うことができるが、具体的には、ガウリン(GAULIN)社製高圧ホモジナイザー(LAB40)を用いて、約200-1000kgf/cm
2、好ましくは約300-800kgf/cm
2の条件で実施する方法が例示される。
【0041】
かくして得られる大豆飲料は、常法に従いこれを適当な殺菌または滅菌処理後、適当な容器に無菌的に充填して、製品とすることができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
A.加工大豆の製造
以下に示す手順で、粉末状の加工大豆を製造した。
【0044】
1.原料大豆(生大豆)の脱皮処理
原料大豆として、選別により小石や夾雑物を除いた大豆を用いた。次いで、脱皮機及び補助脱皮機(原田産業株式会社製)を用いて、大豆の皮を剥いで脱皮大豆を得、これを半割して半割大豆を得た。
【0045】
2.減圧処理
上記で得られた半割大豆5kgを、圧力制御が可能な蒸煮機(株式会社品川工業所製、高圧蒸気釜SRB-H-100)に入れて、真空冷却機(株式会社品川工業所製、FCD型)を用いて、下記の表1及び2に示すサンプル毎の圧力雰囲気になるまで減圧して、5分間維持した。
【0046】
3.予備的加熱処理
上記の減圧処理が終了した後、蒸煮機の内部に約3分間程度かけて水蒸気を徐々に導入し、蒸煮機の内部の圧力を常圧に戻した。その後、蒸煮機内で、減圧処理された半割大豆に対して、80℃で10分間の加熱処理(加熱水蒸気の導入による加熱処理)を行った。
【0047】
4.蒸煮処理
上記加熱処理後、蒸煮機内に蒸気を送り続けることにより、下記の表1及び2に示すサンプル毎の温度と時間の条件に設定し蒸煮処理を行った。上記蒸煮処理後、蒸煮機内の圧力雰囲気を5kPaまで減圧し、蒸煮処理された加工大豆の品温が60℃になるまで保持することにより、加工大豆の表面乾燥を行った。その後、蒸煮機の内部の圧力を常圧まで戻して、加工大豆を回収した。
【0048】
5.乾燥処理
得られた加工大豆をメッシュパンに薄く均一に広げ、80℃に設定した箱型温風乾燥機(株式会社Yamato製、温風乾燥機;DN-61)に入れ6重量%以下の含水量となるまで乾燥した。乾燥後は30℃以下に冷やした。
【0049】
6.粉末化処理
エアーグラインダーを用いて、上記乾燥処理後に回収した加工大豆を粉末化した。当該粉末化処理は、平均粒子径が20〜50μmになるまで実施した。当該平均粒子径は、レーザー回析散乱式粒度分布測定機LA750(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。
【0050】
B.加工大豆の評価
上記で得られた加工大豆粉末の、ウレアーゼ活性、ムラの有無、甘み、及び青臭さは、以下のようにして測定・評価した。
【0051】
<ウレアーゼ活性の測定>
加工大豆0.1g及び水1mlを10ml容の比色管にいれ、十分に混合した。次いで、これに中性緩衝液(リン酸水素二ナトリウム5.79mg/ml及びリン酸二水素カリウム3.53mg/ml含有、pH 7)1mlを添加し、更に尿素溶液(尿素10mg/ml含有、残部 水)1mlを添加し、40℃で20分間インキュベートした。その後、水4mlを添加混合、タングステン酸ナトリウム溶液(タングステン酸ナトリウム100mg/ml含有、残部 水)1mlを添加混合、硫酸溶液(硫酸0.5容量%含有、残部 水)1mlを添加混合し、これをろ紙(No.5A)でろ過して、ろ液を回収した。
【0052】
次いで、得られたろ液2mlを25ml容の比色管に入れ、更に水15ml、酒石酸ナトリウムカリウム溶液((+)-酒石酸ナトリウムカリウム四水和物(ロッシェル塩)20mg/ml含有、残部 水)1ml、ナ氏試薬(ヨウ化水銀(II)(赤色)55mg/ml、ヨウ化カリウム41.25mg/ml、水酸化ナトリウム(144)mg/ml含有、残部 水)2ml、及び水を入れて25mlにする。
【0053】
斯くして処理した後の各サンプルの(色調)を観察し、下記判定基準に従って、評価した。
(判定基準)
陽性(+4) レンガ色混濁あるいは上層透明液
陽性(+3) 橙色上層透明液
陽性(+2) 深いゴールドあるいは黄色透明液
偽陽性(+1) 淡黄色あるいは微黄色上層透明液
陰性(−) 対照試験管
#1と同等あるいは薄い
#1 対照試験管とは、加工大豆0.1gの代わりに水0.1gを使用して、上記ウレアーゼ活性の評価を行ったものである。
【0054】
<ムラの有無>
各加工大豆サンプルから5〜10g大豆をランダムに取り出し、各々について残存ウレアーゼ活性を測定し、結果のバラつきを以下に従って評価した。
◎:全ての大豆サンプルにおいて、ウレアーゼ活性が陰性である。
○:ウレアーゼ活性が擬陽性以上の大豆サンプルが20%以下の確率で含まれる。
△:ウレアーゼ活性が擬陽性以上の大豆サンプルが20%〜40%の確立で含まれる(20%は含まれないが、40%は含まれる)。
×:ウレアーゼ活性が擬陽性易以上の大豆サンプルが40〜60%の確率で含まれる(40%は含まれないが、60%は含まれる)。
××:ウレアーゼ活性が擬陽性以上の大豆サンプルが60〜80%の確立で含まれる(60%は含まれないが、80%は含まれる)。
【0055】
<平均残存ウレアーゼ活性>
各加工大豆サンプルから5〜10gの大豆をランダムに取り出し、上記に従って残存ウレアーゼ活性を測定した。測定された残存活性の程度に応じて、下記の通りポイントに換算し、各処理条件毎の平均を求めた。
【0056】
陽性(+4): 5ポイント
陽性(+3): 4ポイント
陽性(+2): 3ポイント
偽陽性(+1): 2ポイント
陰性(−): 1ポイント
そして、求めた平均値を以下に従って、評価した。
【0057】
◎: 平均値が1(即ち、測定された全ての加工大豆の残存ウレアーゼ活性が陰性)
○: 平均値が1よりも大きく、2以下。
△: 平均値が2よりも大きく、3以下。
×: 平均値が3よりも大きく、4以下。
××: 平均値が4よりも大きく、5以下。
【0058】
<甘みの測定>
加工大豆を5名のパネラーに摂取させ、下記の判定基準に従って、甘みを評点化して評価を行った。結果は、各パネラーの評点の平均を算出した。
評点
5: 非常に甘い
4: 甘い
3: やや甘い
2: ほのかに甘い
1: 甘くない
【0059】
<青臭みの測定>
加工大豆を5名のパネラーに摂取させ、下記の判定基準に従って、青臭さを評点化して評価を行った。結果は、各パネラーの評点の平均を算出した。
評点
5: 青臭くない
4: ほのかに青臭い
3: やや青臭い
2: 青臭い
1: 非常に青臭い
【0060】
試験1:減圧条件の影響
下記の表1に示す通り、減圧条件のみを5〜100kPaの間で変化させ、得られた加工大豆についてその影響を調べた。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1の結果から、大豆を蒸煮する前に減圧処理に供することにより、処理後の大豆に残存するウレアーゼ活性のムラが明らかに低減されることが分かる。この効果は、特に減圧処理を30kPa以下で行うことにより顕著になることが示された。また、予め減圧処理を施すことにより、残存ウレアーゼ含量(即ちウレアーゼ活性)も格段に低減されることが明らかとなった。更に、ウレアーゼ含量に対する作用に留まらず、減圧処理を加えることにより、加工大豆の甘みが増し、青臭みも低減されることが明らかとなった。
【0063】
このような加工大豆中のウレアーゼ含量の低下や呈味の改善は、蒸煮処理前に減圧処理を行うことによって、大豆全体の熱伝導性が向上し、蒸煮処理時に加熱のムラが無く、均一な加熱ができたことに起因していると考えられる。なお、蒸煮処理前に減圧処理を行わなかった場合には、蒸煮処理時に大豆の加熱ムラが生じて、ウレアーゼ含量を十分に低減できるものではなかった。
【0064】
試験2:蒸煮条件の影響
下記の表2に示すように、蒸煮条件を変化させて処理した加工大豆について、青臭み及び残存ウレアーゼ活性を測定した。その結果を表2に併せて示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2の結果から、蒸煮温度が75℃以下であると蒸煮時間を長くしても、大豆の青臭み及びウレアーゼ活性を十分に低減することができないことが分かる。一方で、蒸煮温度が高くても(サンプル2−5)ウレアーゼ活性(即ち、残存ウレアーゼ含量)の低減及び青臭みの除去という作用には影響を及ぼさないことが明らかとなった。