【文献】
三洋化成ニュース2007春[オンライン],日本,2007年,No.441,URL,http://www.sanyo-chemical.co.jp/pr/pdf/pk66.pdf
【文献】
低モノオールポリプロピレングリコールを基材とするポリウレタンフォームの構造と物性に関する研究,長崎大学学術研究成果リポジトリ[オンライン],日本,国立大学法人長崎大学,2009年 2月18日,12頁,URL,http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10069/22017/6/so_25_wada.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光学異性体は物理的、化学的性質が全く同一であるが、生体に対する作用に差異がみられるケースがある。そのため、医薬、製薬などの分野においては光学純度の高い化合物を調製することが非常に重要な課題である。これらに応える手法として、光学異性体用分離剤を用いる高速液体クロマトグラフィーによる分取法が知られている。
【0003】
数ある光学異性体用分離剤の中でも、特にセルロース、アミロースのカルバメート又はエステル誘導体をシリカゲル上に担持させた分離剤は、極めて幅広い化合物に対し、不斉識別能を有することが知られている。
【0004】
クロマト分取法では、クロマト分取生産性を向上させる検討が進められ、分取目的化合物をさらによく分ける、すなわちより大きな分離係数(α値)を持った光学異性体用分離剤が望まれている。
【0005】
光学異性体用分離剤としては、例えばアミロースのフェニルカルバメート誘導体が知られている(例えば非特許文献1、特許文献1、及び特許文献2参照。)。アミロースのフェニルカルバメート誘導体の光学分割能としては、アミロースにおけるピラノース環又はフラノース環一つ当たりのフェニルカルバメート基の平均導入数が3以下である前記誘導体の光学分割能が一般に知られている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の光学異性体用分離剤は多糖誘導体を含有する。本発明における前記多糖誘導体は、セルロース又はアミロースの有する水酸基の水素原子の一部又は全部が下記式(1)及び(2)で表される原子団で置換されてなる。すなわち前記多糖誘導体は、これらの原子団によって前記水酸基の全ての水素原子が置換されていてもよいし、前記水酸基の一部の水素原子が置換されていてもよい。
【0019】
前記多糖誘導体におけるセルロース又はアミロースの数平均重合度(セルロース又はアミロース1分子中に含まれるピラノース環又はフラノース環(単糖ユニット)の平均数)は、多糖誘導体の高次構造形成の観点から、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。また前記多糖の数平均重合度は、特に上限はないが、取り扱いの容易さの観点から、1,000以下であることが好ましい。これらの観点から、前記多糖の数平均重合度は、5〜1,000であることが好ましく、10〜1,000であることがより好ましく、10〜500であることがさらに好ましい。
【0020】
前記R1及びR2は、それぞれ、置換基を有していてもよい、炭素数が1〜18の一価の脂肪族基、又は、置換基を有していてもよい、炭素数が6〜18の一価の芳香族基を表す。R1とR2とは同じであってもよいし、異なっていてもよい。R1及びR2が有していてもよい置換基としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、ハロゲン、アミノ基、及び炭素数1〜18のアルコキシル基が挙げられる。前記アルキル基は鎖状でも環状でもよい。このようなR1及びR2としては、例えば、メチル基、オクタデシル基、フェニル基、ナフチル基、シクロヘキシル基、ノルボルネニル基、3−クロロ−4−メチルフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、5−クロロ−2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、及び4−クロロフェニル基が挙げられる。
【0021】
前記Xは、単結合又は二価の有機基を表す。Xは、「−X−R2」が、光学分割において分離対象の光学異性体の光学分割に作用する官能基であることが好ましい。Xとしては、例えば、アミド結合、ウレタン結合、エーテル結合、及びエステル結合、及びこれらの結合を含む二価の基が挙げられる。
【0022】
本発明における前記多糖誘導体は、さらに、前記R1及びR2の平均導入数の和が単糖ユニット当たり3.0を超える。単糖ユニット当たりのR1及びR2の平均導入数の和とは、単糖ユニット当たりのR1の平均導入数とR2の平均導入数との和である。前記平均導入数は、多糖誘導体内部の立体障害による過分な高次構造の変化の観点から、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましい。また前記平均導入数は、平均導入数増加による十分な効果の観点から、3.05以上であることが好ましく、3.1以上であることがより好ましい。
【0023】
前記平均導入数は、例えばNMR分析によって測定することができる。例えば前記平均導入数は、前記多糖誘導体の
1H−NMRスペクトルにおける、R1やR2に特有の水素原子由来のピーク面積と、多糖骨格に特有の水素原子由来のピーク面積とから求めることができる。
【0024】
式(1)の原子団は、セルロース又はアミロースの水酸基と、式(1)の原子団に対応するイソシアネート誘導体とを反応させることによって、セルロース又はアミロースに導入することができる。このような式(1)の導入方法としては、例えば、多糖中の水酸基を、対応するイソシアネート誘導体と反応させ、カルバメート結合を形成する公知の方法(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照。)を利用することができる。
【0025】
式(2)の原子団は、式(1)の原子団が導入されたセルロース誘導体又はアミロース誘導体のアミノ基と、「−X−R2」に対応する化合物とを反応させることによって、セルロース誘導体又はアミロース誘導体に導入することができる。このような式(2)の原子団の導入方法としては、例えば、「−X−R2」に対応するイソシアネート誘導体と式(1)中のアミノ基の水素原子とを反応させアロファン酸エステルを生成する方法、及び、「−X−R2」に対応する酸無水物又は酸塩化物と式(1)中のアミノ基の水素原子とを反応させてアシル化する方法、が挙げられる。
【0026】
Xがアミド結合を表す場合では、式(1)の原子団に対応するイソシアネート誘導体と「−X−R2」に対応するイソシアネート誘導体とは、それぞれイソシアネート誘導体となる。このため、前記の場合では、式(1)に対応するイソシアネート誘導体をセルロース又はアミロースと反応させた後に、「−X−R2」に対応するイソシアネート誘導体をさらに反応させることによって、Xがアミド結合を表す多糖誘導体を得ることができる。或いは、前記イソシアネート誘導体の両方を、セルロース又はアミロースの水酸基に、前記カルバメート結合を形成する公知の方法に比べて総量でより過剰な量で反応させることによって、カルバメート結合の形成とアロファン酸エステルの生成とが同時に行われ、Xがアミド結合を表す多糖誘導体を得ることができる。
【0027】
Xがアミド結合を表し、かつR1及びR2が同じである場合では、式(1)の原子団に対応するイソシアネート誘導体と「−X−R2」に対応するイソシアネート誘導体とに同じイソシアネート誘導体を用いることができる。このため、前記の場合では、対応するイソシアネート誘導体を、セルロース又はアミロースの水酸基に、前記カルバメート結合を形成する公知の方法に比べてより過剰な量で反応させることによって、カルバメート結合の形成とアロファン酸エステルの生成とが同時に行われ、Xがアミド結合を表し、かつR1及びR2が同じである多糖誘導体を得ることができる。
【0028】
このような多糖誘導体の合成において、前記イソシアネート誘導体の使用量は、系内の水分によるイソシアネート失活の観点から、セルロース又はアミロースの全水酸基に対して1.3当量以上であることが好ましく、2.5当量以上であることがより好ましく、3.0当量以上であることがさらに好ましい。前記イソシアネート誘導体の使用量の上限は特に限定されないが、効果の頭打ちの観点から、10当量以下であることが好ましい。
【0029】
また、前記の多糖誘導体の合成において、反応温度は、前記カルバメート結合を形成する公知の方法における通常の温度よりも低くするか、又は通常の温度の中でも低めの温度とすることが、カルバメート結合の形成とアロファン酸エステルの生成とを同時に行う観点から好ましい。このような観点から、前記反応温度は、60℃から110℃であることが好ましく、70℃から90℃であることがより好ましい。
【0030】
また、前記の多糖誘導体の合成において、多糖は、前記平均導入数を高める観点から、アミロースであることがより好ましい。
【0031】
本発明の光学異性体用分離剤は、前記多糖誘導体を含有する形態であれば特に限定されない。前記光学異性体用分離剤は、前記多糖誘導体のみからなっていてもよいし、前記多糖誘導体が担体に担持されてなっていてもよい。
【0032】
前記多糖誘導体のみからなる光学異性体用分離剤は、前記多糖誘導体をカラム管に収容される円柱状の多孔質体に成形することによって製造することができる。また、前記多糖誘導体のみからなる光学異性体用分離剤は、前記多糖誘導体そのものを破砕及び又は球形化することによって製造することができる。前記光学異性体用分離剤の粒子は、球形化処理した粒子であることが分離度を高める上で好ましく、さらに粒度が揃えられた粒子であることが好ましい。光学異性体用分離剤の破砕及び球形化処理は公知の方法によって行うことができる。また粒度は分級や分級品の混合等によって調整することができる。
【0033】
前記多糖誘導体が担体に担持されてなる光学異性体用分離剤は、多糖誘導体を担体に担持することにより製造することができる。前記担体は、前記多糖誘導体を担持することができるものであれば特に限定されない。このような担体としては、前述したクロマトグラフィーで使用されることが知られている種々の担体を用いることができ、例えば多孔質有機担体や多孔質無機担体等が挙げられ、好ましくは多孔質無機担体である。前記多孔質有機担体としては、例えばポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート及びこれらの誘導体等の高分子物質が挙げられる。前記多孔質無機担体としては、例えばシリカゲル、アルミナ、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、ケイ酸塩、及びヒドロキシアパタイトが挙げられ、特にシリカゲルが好ましい。
【0034】
前記担体は、カラム管に収容される円柱状の多孔質体であってもよいし、粒子状の担体であってもよい。前記担体の粒径は0.1μmから10mmであることが好ましく、1μm〜300μmであることがより好ましく、1μm〜75μmであることがさらに好ましい。多孔質の担体における平均孔径は、1nmから100μmであることが好ましく、5nm〜5,000nmであることがより好ましい。担体がシリカゲルの場合、シリカゲルの表面は残存シラノールの影響を排除するために表面処理が施されていることが望ましいが、全く表面処理が施されていなくてもよい。前記表面処理は公知の方法によって行うことができる。
【0035】
前記担体への前記多糖誘導体の担持の形態は特に限定されない。このような形態としては、例えば、担体への多糖誘導体の物理的な吸着、担体と多糖誘導体との間の化学結合、担体上の多糖誘導体同士の化学結合が挙げられる。
【0036】
前記物理的な吸着としては、例えば、前記多糖誘導体を可溶性の溶剤に溶解し、例えば得られた溶液に担体を浸漬して溶液を担体に塗布し、減圧下、加温下、又は気流下において担体から溶剤を留去させる方法が挙げられる。前記化学結合としては、例えば、担体と多糖誘導体との間に第三成分を介在させた化学結合、及び、担体に吸着された多糖誘導体への光照射、放射線照射、及びこれらによるラジカル反応による担体と多糖誘導体との結合が挙げられる。前記多糖誘導体の担体への担持は、公知の方法によって行うことができる。
【0037】
前記担体への前記多糖誘導体の担持量は、光学異性体の分離方法や担体の種類に応じて異なるが、担体に対して1〜100重量部であることが好ましく、5〜60重量部であることがより好ましく、10〜50重量部であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明の光学異性体用分離剤は、光学異性体を分離する用途に応じた適当な形態とすることによって、光学異性体を分離する種々の用途に用いることができる。例えば、光学異性体用分離剤の形態が粒子や円柱状多孔質体であれば、光学異性体用分離剤をカラムに収容して用いる方法に用いることができる。このような方法としては、例えば、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、超臨界クロマトグラフィー、及び、擬似移動床クロマトグラフィーが挙げられる。また、光学異性体用分離剤の形態が粒子であれば、薄層クロマトグラフィーに用いることができる。
【0039】
また、本発明の光学異性体用分離剤は、前記多糖誘導体を膜に担持することによって、膜分離に用いることができる。さらに、本発明の光学異性体用分離剤は、キャピラリーカラムに前記多糖誘導体をコーティングすることによって、キャプラリーカラムに用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の方法を実際の例によって説明するが、本発明がこの例の範囲に限定されないことは言うまでもない。
【0041】
[実施例1]
[アミロース誘導体1の合成]
窒素雰囲気下、アミロースとアミロース中の水酸基に対して4当量の3−クロロ−4−メチルフェニルイソシアネートとを乾燥ピリジン中、110℃で24時間攪拌を行い、アミロース誘導体1を得た。得られたアミロース誘導体1を、重水素化ジメチルホルムアミドを溶媒とした
1H−NMRで測定した。得られた
1H−NMRスペクトルを
図1に示す。
【0042】
得られたアミロース誘導体1の単糖ユニット当たりの3−クロロ−4−メチルフェニル基の平均導入数Rは、前記
1H−NMRの測定結果から下記式(1)により算出したところ、3.2であった。なお、下記式(1)において、Aはアミロース骨格のメチレン及びメチンの水素に由来のピーク面積(δ=4.0〜6.0ppm)を表し、Bはベンゼン環の水素に由来のピーク面積(δ=6.5〜7.8ppm)を表し、Sはベンゼン環の水素の数を表している。
図1より、Aは7.0であり、Bは9.7であり、アミロース誘導体1の化学構造より、Sは3である。
R=7B/(S×A) (1)
【0043】
[光学異性体用分離剤1の製造]
前記の合成例で得られた5gのアミロース誘導体1を30mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、このTHF溶液を粒径5μmのシリカゲル20gに均一に塗付し、その後、THFを留去することで、アミロース誘導体1がシリカゲルに担持されてなる光学異性体用分離剤1を得た。
【0044】
[光学異性体分離用カラム1の製造]
前記の光学異性体用分離剤1をスラリー充填法により内径0.46cm×長さ25cmのステンレスカラムに充填し、光学異性体分離用カラム1を得た。
【0045】
[評価]
光学異性体分離カラム1を用い、高速液体クロマトグラフィー法により、下記式(ra−1)に示すトランススチルベンオキシド、及び下記式(ra−2)に示すビナフトール、下記式(ra−3)に示すWiland-Micscher ketone、下記式(ra−4)に示すBenzoyloxy-2-azetidinone、下記式(ra−5)に示すフェノプロフェンのラセミ体を分離した。この光学分割の分離条件は、(ra−1)及び(ra−2)については溶離液にn−ヘキサン/2−プロパノール=90/10(体積比)を用い、(ra−3)については溶離液にn−ヘキサン/2−プロパノール=80/20(体積比)を用い、(ra−4)については溶離液にアセトニトリルを用い、(ra−5)については溶離液にアセトニトリル/トリフルオロ酢酸=100/0.1(体積比)を用い、溶離液の流速は全て1.0mL/minとした。そして、得られたクロマトグラムから、より弱く吸着される成分(ラフィネート成分)の保持係数k’
1、より強く吸着される成分(エクストラクト成分)の保持係数k’
2、及び分離係数αを求めた。ラフィネート成分の保持係数k’
1は下記式(2)から求め、エクストラクト成分の保持係数k’
2は下記式(3)から求め、分離係数αは下記式(4)からを求めた。下記式中、t
0はデッドタイム(トリ−tert−ブチルベンゼンの溶出時間)を表し、t
1はラフィネート成分の溶出時間を表し、t
2はエクストラクト成分の溶出時間を表す。光学分割の結果を表1に示す。
k’
1=(t
1−t
0)/t
0 (2)
k’
2=(t
2−t
0)/t
0 (3)
α=k’
2/k’
1 (4)
【0046】
【化3】
【0047】
【表1】
【0048】
また、光学異性体分離カラム1を用い、高速液体クロマトグラフィー法により、下記式(rac−6)に示すγ−フェニル−γ−ブチロラクトン、下記式(rac−7)に示すチアプロフェニックアシッド、及び下記式(rac−8)に示すジプロフィリンのラセミ体を分離した。この光学分割の分離条件は、(rac−6)については溶離液にn−ヘキサン/2−プロパノール=80/20(体積比)を用い、(rac−7)についてはn−ヘキサン/2−プロパノール/トリフルオロ酢酸=90/10/0.1(体積比)を用い、(rac−8)についてはn−ヘキサン/2−プロパノール=60/40(体積比)を用い、溶離液の流速は全て1.0mL/minとした。そして、得られたクロマトグラムからラフィネート成分の保持係数k’
1と分離係数αを求めた。結果を表2に示す。
【0049】
【化4】
【0050】
【表2】
【0051】
[比較例1]
3−クロロ−4−メチルフェニルイソシアネートの使用量を減らす以外は、実施例1と同様に多糖誘導体を合成して、3−クロロ−4−メチルフェニル基の平均導入数Rが3.0であるアミローストリス(3−クロロ4−メチルフェニルカルバメート)を合成し、シリカゲル量を15gにする以外は、実施例1と同様に光学異性体用分離剤C1を作製し、光学異性体分離用カラムC1を得、光学分離能を評価した。光学分割の結果を表1及び2に示す。
【0052】
表1及び2から明らかなように、Rの平均導入数がより高いアミロース誘導体を有する光学異性体分離用カラム1は、光学異性体分離用カラムC1に比べて、前記の種々のラセミ体の全てにおいてより高い光学分離能を示すことから、光学異性体分離カラムC1に比べて、様々な光学異性体に対してより大きな分離係数を示すことが期待される。