特許第6016632号(P6016632)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016632
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】転がり軸受及び工作機械用主軸装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20161013BHJP
   B23B 19/02 20060101ALI20161013BHJP
   F16C 19/26 20060101ALI20161013BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   F16C33/46
   B23B19/02 B
   F16C19/26
   F16C33/66 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-529563(P2012-529563)
(86)(22)【出願日】2011年8月3日
(86)【国際出願番号】JP2011067778
(87)【国際公開番号】WO2012023437
(87)【国際公開日】20120223
【審査請求日】2014年7月24日
【審判番号】不服2016-2420(P2016-2420/J1)
【審判請求日】2016年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-183349(P2010-183349)
(32)【優先日】2010年8月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水上 敦司
【合議体】
【審判長】 森川 元嗣
【審判官】 内田 博之
【審判官】 中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−61483(JP,A)
【文献】 特開平11−22737(JP,A)
【文献】 特開2010−90974(JP,A)
【文献】 特開2008−175329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/46 , B23B 19/02 , F16C 19/26 , F16C 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する複数のポケットを有する保持器と、を備える転がり軸受であって、
前記保持器は、軸方向に並んで配置された第1円環部および第2円環部と、前記第1円環部と前記第2円環部とを繋ぐように周方向に所定の間隔で配置される複数の柱部と、を有し、
前記第1円環部および前記第2円環部は、それぞれの外周面上に周方向に離間して形成された複数の凸状突起部を有し、
前記第2円環部の凸状突起部は、前記第1円環部の凸状突起部とは周方向の異なる位置に形成され
前記凸状突起部は、前記柱部の外周面よりも大径で円周方向に沿った凸状突起部外周面をそれぞれ有し、
前記外輪の内周面に形成された保持器案内面によって、前記凸状突起部外周面が案内されることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記第1円環部の凸状突起部および前記第2円環部の凸状突起部は、それぞれ周方向に等間隔で配置されたことを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記第1円環部の凸状突起部および前記第2円環部の凸状突起部は、それぞれ前記柱部に軸方向に隣接して配置されたことを特徴とする請求項1又は2記載の転がり軸受。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の転がり軸受を備える工作機械用主軸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転がり軸受及び工作機械用主軸装置に関し、より詳細には、高速回転する工作機械の主軸や高速モータ等に用いられる転がり軸受及びそれを用いた工作機械用主軸用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の工作機械用主軸装置に用いられる軸受は、高効率加工のため高速化が進んでいる。高速回転する軸受において潤滑剤の排出性が悪いと、潤滑剤過多の状態となり、攪拌熱のため異常発熱が起こる。このような場合、軸受温度が異常に上昇し、軸受が破損するおそれがある。
【0003】
図10は、従来使用されている円筒ころ軸受100を示す。円筒ころ軸受100は、内周面に外輪軌道102aを有する外輪102と、外周面に内輪軌道103aを有する内輪103と、外輪軌道102aと内輪軌道103aとの間に転動自在に設けられた複数のころ104と、複数のころ104を保持する複数のポケット111を有する保持器110と、を備える。ここで、保持器110は外輪案内方式であり、保持器110の外周面110aが被案内面として機能している。
【0004】
このような外輪案内方式の保持器110においては、保持器110の外周面110aと外輪102の内周面との間の案内隙間g’が狭いために潤滑剤の排出性が悪く、円筒ころ軸受100の異常昇温が起こりやすい傾向がある。さらに、このような円筒ころ軸受100では、外輪軌道102a及び内輪軌道103aと、ころ(転動体)104とが線接触しているため、外輪軌道102a及び内輪軌道103aと、玉(転動体)とが点接触する玉軸受に比べて、円筒ころ軸受100が昇温しやすい。
【0005】
また、グリース潤滑を行う場合には、グリースを軸受に封入した後、封入されたグリースを軸受内部に均等に分散させるために、または余剰グリースを軸受周辺部に移動させるために、いわゆる慣らし運転が不可欠である。このような外輪案内方式の保持器110においては、保持器110の外周面110aと外輪102の内周面との案内隙間g’が狭いために潤滑剤の排出性が悪く、慣らし運転に時間がかかる傾向がある。
【0006】
潤滑剤の排出性を向上するためには、従来、保持器の被案内面に凹部を設けることが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特許第3651591号公報
【特許文献2】日本国特許第4342612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2記載の転がり軸受によれば、保持器の被案内面に設けられた凹部によって潤滑剤の排出性を向上することができる。しかしながら、潤滑剤が過多である場合には、転がり軸受の異常昇温が起こりやすいという問題があった。
【0009】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、潤滑剤の排出性を向上することによって、転がり軸受の異常昇温を抑制すると共に、グリース潤滑を行う場合の慣らし運転に必要な時間を短縮することができる転がり軸受及び工作機械用主軸装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する複数のポケットを有する保持器と、を備える転がり軸受であって、
前記保持器は、軸方向に並んで配置された第1円環部および第2円環部と、前記第1円環部と前記第2円環部とを繋ぐように周方向に所定の間隔で配置される複数の柱部と、を有し、
前記第1円環部および前記第2円環部は、それぞれの外周面上に周方向に離間して形成された複数の凸状突起部を有し、
前記第2円環部の凸状突起部は、前記第1円環部の凸状突起部とは周方向の異なる位置に形成され
前記凸状突起部は、前記柱部の外周面よりも大径で円周方向に沿った凸状突起部外周面をそれぞれ有し、
前記外輪の内周面に形成された保持器案内面によって、前記凸状突起部外周面が案内されることを特徴とする転がり軸受。
(2) 前記第1円環部の凸状突起部および前記第2円環部の凸状突起部は、それぞれ周方向に等間隔で配置されたことを特徴とする上記(1)記載の転がり軸受。
(3) 前記第1円環部の凸状突起部および前記第2円環部の凸状突起部は、それぞれ前記柱部に軸方向に隣接して配置されたことを特徴とする上記(1)または(2)記載の転がり軸受。
(4) 上記(1)から(3)のいずれかに記載の転がり軸受を備える工作機械用主軸装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の転がり軸受および工作機械用主軸装置によれば、保持器の凸状突起部が設けられていない部分から、潤滑剤をスムーズに排出することが可能となる。これにより、転がり軸受の異常昇温を抑制できることができると共に、グリース潤滑を行う場合に慣らし運転の時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
図2図1の保持器の斜視図である。
図3図2の保持器を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のI方向から見た部分上面図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る転がり軸受の保持器を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のII方向から見た部分上面図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る転がり軸受の保持器を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のIII方向から見た部分上面図である。
図6】実施例1、2で使用される試験装置を示す断面図である。
図7】実施例1の試験結果を示すグラフである。
図8】比較例2の転がり軸受に用いられる保持器を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のX方向から見た部分上面図である。
図9】実施例2の試験結果を示すグラフである。
図10】従来の転がり軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る転がり軸受の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る転がり軸受を図1に基づいて説明する。図1は第1実施形態に係る円筒ころ軸受1の断面図を示す。図2図1の保持器10の斜視図を示す。図3図2の保持器10を示し、(a)は保持器10の正面図、(b)は(a)のI方向から見た部分上面図である。
【0015】
図1に示されるように、円筒ころ軸受1は、内周面に外輪軌道面2aが形成された外輪2と、外周面に内輪軌道面3aが形成された内輪3と、転動体である複数の円筒ころ4と、外輪2と内輪3との間に配置された保持器10と、を備えている。保持器10には複数のポケット11が形成されており、各ポケット11には、複数の円筒ころ4が転動自在に保持されている。
【0016】
図2に示されるように、保持器10は、軸方向に並んで配置された一対の円環部12と、両円環部12間を繋ぐように円周方向に所定の間隔で配置された複数の柱部16と、を有する。一対の円環部12と、円周方向に隣り合う2つの柱部16と、によって、ポケット11が形成されている。また、柱部16の軸方向中間部の円周方向両側には、円筒ころ4を確実に保持するためのころ止め部14が、柱部16の外周面から突出するように設けられている。
【0017】
一対の円環部12の外周面13には、複数の凸状突起部15が、円周方向に所定の間隔で形成される。各凸状突起部15は、柱部16の外周面よりも大径である凸状突起部外周面15aと、凸状突起部外周面15aの円周方向両側からそれぞれ円環部12の外周面13へと連続する一対の立ち上がり部15bと、を有する。保持器10は、外輪2の内周面に形成された保持器案内面によって、凸状突起部外周面15aが案内される外輪案内方式である。
【0018】
また、凸状突起部15は、各円環部12の外周面13上で、柱部16と軸方向に隣接するように配置される。ここで、図2図3(a)及び(b)に示されるように、第1実施形態に用いられる保持器10において、各円環部12の複数の凸状突起部15は、1つおきの柱部16に対して軸方向に隣接するように配置される。また、一方の円環部12の凸状突起部15は、他方の円環部12の凸状突起部15が軸方向に隣接していない柱部16に対して軸方向に隣接するように配置されている。すなわち、凸状突起部15は、柱部16の軸方向両側に凸状突起部15が存在することのないように配置されており、柱部16の左右交互に千鳥状に配置されるように、一対の円環部12の外周面上に配置されている。
【0019】
このように、第1実施形態の円筒ころ軸受1は、外周面13上に円周方向に所定の間隔で複数の凸状突起部15が形成された保持器10を有しており、凸状突起部15は柱部16の軸方向のいずれか一方側のみに隣接するように形成されている。従って、柱部16の軸方向一方側において、凸状突起部外周面15aと保持器案内面との間の案内隙間gが従来の案内隙間g’と同様であっても、柱部16の軸方向他方側や、柱部16が存在しない部分においては、円環部12の外周面13と外輪2の内周面(保持器案内面)との間の隙間Gが大きい。そのため、この隙間Gから潤滑剤をスムーズに排出することができる。また、案内隙間gの大きさと隙間Gの大きさが異なることにより両円環部12間で圧力差が生じて空気の対流が起こり、対流作用により潤滑剤の排出がさらに促進される。また、凸状突起部外周面15aの円周方向両側からそれぞれ円環部12の外周面13へと連続する立ち上がり部15bを有することによって、高速回転時の空気抵抗が緩和されるため、潤滑剤の排出性がさらに向上する。したがって、本実施形態に係る円筒ころ軸受1によれば、高速回転時の異常昇温を抑制でき、グリース潤滑を行う場合にも慣らし運転の時間を短縮することができる。
【0020】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る転がり軸受を、図4に基づいて説明する。図4は第2実施形態に係る円筒ころ軸受に用いられる保持器20を示し、(a)は保持器20の正面図、(b)は(a)のII方向から見た部分上面図である。
【0021】
第2実施形態で用いられる保持器20は、第1実施形態で用いられる保持器10と同様に、軸方向に並んで配置された一対の円環部22と、両円環部22間を繋ぐように円周方向に所定の間隔で配置された複数の柱部26と、を有する。一対の円環部22と、円周方向に隣り合う2つの柱部26と、によって、ポケット21が形成されている。また、柱部26の軸方向中間部の円周方向両側には、柱部26の外周面から突出するようにころ止め部24が設けられている。
【0022】
一対の円環部22の外周面23には、複数の凸状突起部25が、円周方向に所定の間隔で形成される。各凸状突起部25は、柱部26の外周面よりも大径である凸状突起部外周面25aと、凸状突起部外周面25aの円周方向両側からそれぞれ円環部22の外周面23へと連続する一対の立ち上がり部25bと、を有する。保持器20は、外輪の内周面に形成された保持器案内面によって凸状突起部外周面25aが案内される外輪案内方式である。
【0023】
第2実施形態で用いられる保持器20においても、凸状突起部25は、柱部26の軸方向両側に凸状突起部25が存在することのないように配置されている。さらに保持器20においては、第1実施形態とは異なり、各円環部12の複数の凸状突起部15が、2つおきの柱部16に対して軸方向に隣接するように配置されている。このような配置により、円筒ころ軸受から潤滑剤をさらにスムーズに排出することができるため、高速回転時の異常昇温を抑制でき、グリース潤滑を行う場合にも慣らし運転の時間を短縮することができる。
【0024】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について、図5に基づいて説明する。図5は第3実施形態に係るアンギュラ玉軸受に用いられる保持器30を示し、(a)は保持器30の正面図、(b)は(a)のIII方向から見た部分上面図である。
【0025】
図5に示す保持器30は、第1実施形態で用いられる保持器10と同様に、軸方向に並んで配置された一対の円環部32と、両円環部32間を繋ぐように、円周方向に所定の間隔で配置された複数の柱部36と、を有する。一対の円環部32と、円周方向に隣り合う2つの柱部36と、によって、ポケット31が形成されている。
【0026】
一対の円環部32の外周面33には、柱部36の外周面よりも大径の凸状突起部外周面35aと、一対の凸状突起部周方向側面35bと、を有する複数の凸状突起部35が、円周方向に所定の間隔で形成されている。一対の凸状突起部周方向側面35bは、凸状突起部外周面35aの円周方向両側において、円環部32の外周面33と凸状突起部外周面35aとを略直角に接続している。保持器30は、外輪の内周面に形成された保持器案内面によって凸状突起部外周面35aが案内される外輪案内方式である。アンギュラ玉軸受の回転中、凸状突起部外周面35aは、凸状突起部周方向側面35bと円環部32の外周面33との交差部分に溜まった潤滑剤によって潤滑される。
【0027】
第3実施形態で用いられる保持器30においても、凸状突起部35は、柱部36の軸方向両側に凸状突起部35が存在することのないように配置されている。また、第1実施形態で用いられる保持器10と同様に、各円環部32の複数の凸状突起部35が、1つおきの柱部36に対して軸方向に隣接するように配置されている。このような配置により、アンギュラ玉軸受から潤滑剤をスムーズに排出することができるため、高速回転時の異常昇温を抑制でき、グリース潤滑を行う場合にも慣らし運転の時間を短縮することができる。
【0028】
尚、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更、改良等が可能である。上記実施形態では、円筒ころ軸受、アンギュラ玉軸受について説明したが、本発明は、深溝玉軸受、円すいころ軸受など、他の転がり軸受にも適用することができる。また、高速回転での使用を考慮すると、保持器材料としては、金属よりも軽量で、耐摩耗性に優れる合成樹脂が好ましく、フェノール、ポリアミド、PPS、PEEK、ポリイミドなどが良い。また、これらに、ガラス繊維・カーボン繊維・アラミド繊維などの強化剤が添加されても良い。
【0029】
また、凸状突起部は、柱部に対して軸方向に隣接するような配置に限定されず、円環部の外周面上のどこに配置されてもよい。例えば、凸状突起部は、ポケットに対して軸方向に隣接するように配置されてもよい。ポケットの軸方向一方側に凸状突起部が隣接する場合であっても、ポケットの軸方向他方側に凸状突起部が配置されない限りは、ポケットの軸方向一方側における案内隙間gが、ポケットの軸方向他方側における隙間Gと異なる大きさとなり、円環部間で圧力差が生じ、空気の対流が発生する。これにより、対流作用によって潤滑剤の排出が促進されることとなる。尚、凸状突起部の円周方向両側に立ち上がり部を設けるか、または凸状突起部周方向側面を設けるかは、転がり軸受の使用目的に応じて適宜定めることができる。
【実施例1】
【0030】
ここで、転がり軸受の高速回転時における昇温と、保持器の形状との関係について試験を行った。図6は、本試験に使用される評価試験装置50の断面図であり、試験軸受としての円筒ころ軸受1が、回転軸52の一端側を支承するようにハウジング51に対して組み込まれている。円筒ころ軸受1への潤滑剤の供給は、ノズル53を介して行われる。試験は、図1に示す円筒ころ軸受1(発明例)と、図10に示す円筒ころ軸受100(比較例1)を用いて行った。実施例1の試験条件(試験条件1)を以下に示す。
【0031】
(試験条件1)
・軸受:円筒ころ軸受(N1011RSTPKR)
・サイズ:内径Φ55mm×外形Φ90mm×幅18mm
・油量条件:0.01cc/1shot (2分間隔の間欠給油)
・使用油:タービン油 VG32
【0032】
図7は、実施例1の試験結果を示す。図7より、比較例1の円筒ころ軸受100は、運転開始から時間が経過して回転が高速になるにつれて急激に昇温しているのに対し、発明例の円筒ころ軸受10では昇温が抑制されていることが分かる。本試験結果より、本発明例の円筒ころ軸受1では、潤滑剤の排出性が向上しており、異常昇温を抑制可能であることが分かる。
【実施例2】
【0033】
転がり軸受の高速回転時における昇温と、保持器の形状との関係について、実施例1とは試験条件を変更して試験を行った。実施例2の試験においても、実施例1と同様に図6に示される評価試験装置50が使用される。試験は、図1に示す円筒ころ軸受1(発明例)と、図10に示す円筒ころ軸受100(比較例1)と、図8に示す保持器210が使用される転がり軸受(比較例2)を用いて行った。本試験の試験条件(試験条件2)を以下に示す。
【0034】
(試験条件2)
・軸受:円筒ころ軸受(N1011RSTPKR)
・サイズ:内径Φ55mm×外形Φ90mm×幅18mm
・油量条件:0.01cc/1shot (8分間隔の間欠給油)
・使用油:タービン油 VG32
【0035】
図8に示される保持器210は、本発明の第1実施形態で用いられる保持器10と同様に、軸方向に並んで配置された一対の円環部212と、両円環部212間を繋ぐように、円周方向に所定の間隔で配置された複数の柱部216と、を有する。一対の円環部212と、円周方向に隣り合う2つの柱部216と、によって、ポケット211が形成されている。一対の円環部212の外周面213には、柱部216を軸方向両側から挟みこむように、複数の凸状突起部215が形成されている。各凸状突起部215は、柱部216の外周面よりも大径である凸状突起部外周面215aを有する。保持器210は、外輪の内周面に形成された保持器案内面によって、凸状突起部外周面215aが案内される外輪案内方式である。
【0036】
図9は、実施例2の試験結果を示す。図9より、比較例1、2の円筒ころ軸受と比較して、発明例の円筒ころ軸受1の温度上昇が抑制されていることがわかる。本試験結果より、本発明例の円筒ころ軸受1では潤滑剤の排出性が向上しており、昇温が抑制されていることが分かる。
【0037】
ここで、比較例2の円筒ころ軸受よりも発明例の円筒ころ軸受1において昇温が抑制されているのは、比較例2に使用される保持器210においては凸状突出部215が柱部216の軸方向両側に配置されているのに対し、発明例に使用される保持器10においては凸状突起部15が柱部16の軸方向のいずれか一方側のみに形成されているためであると考えられる。比較例2に使用される保持器210の柱部216は、外径方向は外輪(不図示)によって、周方向両側は円筒ころ(不図示)によって、また、軸方向両側は凸状突出部215によって囲まれており、閉空間が形成されている。この閉空間内では空気の対流が生じにくいため、この閉空間内に入り込んだ潤滑剤は、閉空間から外部へと排出されづらい。
【0038】
これに対し、発明例の円筒ころ軸受1では、柱部16の外周側に付着している潤滑剤を、柱部16の軸方向の片側(凸状突起部15が形成されない側)からスムーズに排出できる。さらに、保持器10と外輪2との間に形成される案内隙間gと隙間Gの大きさが、柱部16の軸方向両側で異なることにより、両円環部12間で圧力差が生じて空気の対流が起こる。これにより、対流作用によって潤滑剤の排出がさらに促進されるため、潤滑剤の排出性が向上している。したがって、発明例に係る円筒ころ軸受1によれば、高速回転時の異常昇温を抑制でき、グリース潤滑を行う場合にも慣らし運転の時間を短縮することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。本出願は2010年8月18日出願の日本特許出願(特願2010−183349)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0040】
1 円筒ころ軸受
2 外輪
2a 外輪軌道面
3 内輪
3a 内輪軌道面
4 円筒ころ
10 保持器
11 ポケット
12 円環部
15 凸状突起部
16 柱部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10