(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016634
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】自動車の車体の下に取り付けられる部材に対する衝突保護装置
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
B62D25/20 N
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-532643(P2012-532643)
(86)(22)【出願日】2010年9月7日
(65)【公表番号】特表2013-506600(P2013-506600A)
(43)【公表日】2013年2月28日
(86)【国際出願番号】FR2010051859
(87)【国際公開番号】WO2011042633
(87)【国際公開日】20110414
【審査請求日】2013年8月13日
【審判番号】不服2015-10247(P2015-10247/J1)
【審判請求日】2015年6月2日
(31)【優先権主張番号】0956942
(32)【優先日】2009年10月6日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】カーボ, ジョゼ
【合議体】
【審判長】
島田 信一
【審判官】
平田 信勝
【審判官】
森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−130160(JP,U)
【文献】
特開2009−96438(JP,A)
【文献】
特開2008−265417(JP,A)
【文献】
実開昭52−151517(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体の下に突出して取り付けられた自動車の部材(20)のための衝突保護装置であって、
自動車の少なくとも一の車体構造部材に剛性接続される覆い要素であって、自動車の運転中に障害物に遭遇する可能性がある自動車の後端部と自動車の部材との間に位置する覆い要素(11)を含み、覆い要素(11)が荷台トレイ(41)によって形成される自動車の荷台背面の底壁(43)の外面に固定され、
前記覆い要素が、車体の下に、自動車の後端部と自動車の部材との間の略全長に亘って負の傾斜に沿って延びる下部支持面であって、障害物が傾斜の上を摺動して自動車を持ち上げることが可能であり、前記下部支持面の低点(12a)が前記自動車の部材の低点(21)よりも前記自動車の垂直軸(Z)に沿って低い、下部支持面(12)を備え、
前記衝突保護装置は前記自動車の部材(20)の直下には組み込まれないようになっていることを特徴とする、衝突保護装置。
【請求項2】
覆い要素(11)が荷台トレイ(41)によって形成される自動車の荷台背面の底壁(43)の外面に固定ネジを使用して剛性接続されることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
覆い要素(11)が自動車の桁部材(44)に剛性接続されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
覆い要素(11)が、前記覆い要素の下部支持面(12)の両側に延びて自動車の桁部材(44)の下面に突き当たることができる連結手段(13、14)を含むことを特徴とする、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
覆い要素(11)の下部支持面(12)の傾斜が、1°〜45°であり、好ましくは約5°であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記覆い要素(11)が、前記自動車の後部末端部と前記自動車の部材(20)との間に位置し、車両が逆進しているときの衝突から部材(20)を保護することを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体の下に突出して取り付けられる自動車の部材の衝突保護装置に関するものである。
【0002】
本発明は、具体的には、自動車の牽引バッテリの保護に適用される。
【背景技術】
【0003】
自動車の牽引バッテリは、自動車の車体の下に、自動車の荷台の後壁から車両の前部に向かって延びる車体下部に設置されるように設計される。牽引バッテリは、バッテリ構成/車両車体構成に応じて、車両の垂直軸に沿った車体下突出位置に位置するように自動車の車体の下に装備されるので、自動車の他のいずれの後部部材によっても保護されず、具体的には、荷台後壁よりも低く、かつ牽引バッテリの低点よりも高い地面の障害物からバッテリを保護することができるいずれの車体構造部材によっても保護されることがない。このような構成は、自動車の特定の操作を行う間、例えば逆進して歩道又は縁石に乗り上げるときに、牽引バッテリの物理的な完全性を危険に曝す。
【0004】
更に、このバッテリが脱着可能で、例えば特許文献1に記載の交換ステーションのようなバッテリ交換ステーションで取り替えることができる場合、迅速かつ容易に取り外さなければならない牽引バッテリに容易に手が届くようにする必要があることによって、牽引バッテリの真下に保護部材を組み込む可能性が排除されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5612606号
【発明の概要】
【0006】
このような背景から、本発明は、自動車の車体の下に突出して取り付けられる自動車の部材に対する保護装置を提供することを目的としており、すなわちこのような部材を、車体下部の衝突から、すなわちブロック、境界標識、及び歩道のように、車両の垂直軸に沿って部材の低点よりも高い路上の障害物によって生じる衝突から保護することを目的としており、このような衝突は、自動車の特定の操作を行なっているときに起こり易い。
【0007】
この目的のために、本発明、及び上記序文に提示された概略定義による装置は、概括すると、自動車の運転中に障害物に遭遇しうる自動車の一方の末端部と前記自動車の部材との間で自動車の少なくとも一つの車体構造部材に剛性接続される覆い要素を含み、前記覆い要素が、車体の下に、自動車の末端部と前記自動車の部材との間の略全長に亘って負の傾斜に沿って延びる下部支持面を備え、前記支持面の低点が、自動車の垂直軸に沿って前記自動車の部材の低点よりも低いことを特徴とする。
【0008】
一実施形態によれば、覆い要素は、
荷台トレイにより形成される自動車の荷台背面の底
壁の外面に剛性接続されるように設計される。
【0009】
特定の一実施形態によれば、覆い要素は、自動車の桁部材に剛性接続されるように設計される。
【0010】
この特定の実施形態によれば、覆い要素は、前記覆い要素の下部支持面の両側に延びる連結手段を含むことにより、自動車の桁部材の下面に対して連結手段を支持することができる。
【0011】
前記覆い要素の下部支持面の傾斜は、1°〜45°とすることができ、好ましくは約5°である。
【0012】
好適には、前記覆い要素は、前記自動車の後部末端部と前記自動車の部材との間に位置する、前記自動車の少なくとも一つの車体構造要素に剛性接続されて、車両が逆進しているときに衝突からこの部材を保護するように設計される。
【0013】
このような構成により、本発明による保護装置は、車両の後部に設置されて、保護対象の部材を備えた自動車の運転中に、自動車の背後に位置する潜在障害物と車体の下に設置される自動車の部材との間に確実に位置することができる。更に、本発明による保護装置は、負の傾斜の斜面を形成する下部支持面を車体の下に有し、車両の運転中に障害物が有利には負の傾斜面上を摺動することにより、障害物と接触すると自動車が持ち上がり、従って同時に、車体の下に設置された自動車の部材が障害物よりも高く持ち上がる。
【0014】
本発明の更なる詳細及び利点は、添付図面を参照しながら非限定的な例として以下に提示される本発明の特定の実施形態に関する説明に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明による保護装置が設置されて第1の「待機」構成にある自動車の後部の側面図であり、応力が保護装置に加わっていない(障害物の高さは、部材の低点よりも軸Zに沿って低い)。
【
図2】
図2は、本発明による保護装置が設置されて第2の「作動」構成にある自動車の後部の側面図であり、応力が保護装置に加わっている(障害物の高さは、部材の低点よりもZに沿って高い)。
【
図3】
図3は、本発明による保護装置の、保護対象部材の背後の自動車の後部への設置例を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
したがって、
図1は、自動車の後部AR、具体的には、自動車の後部端と車両の後部車軸との間に位置する車体構造部分40を示している。この車体構造部分40は荷台背面を含み、この荷台背面は、車体に取り付けられた、例えばプラスチック製の荷台トレイ41を備える。しかしながら、荷台背面は、車体のうち車体端部壁42を形成する板材によって直接形成することもできる。
【0017】
牽引バッテリ20は、車体の下の、荷台背面から自動車の前部に向かって延びる自動車の車体構造の一要素の上に設置される。具体的には、牽引バッテリ20は、車体端部壁42に脱着可能に装着され、例えば車体下部の桁部材に取り付けられて、車体構造の他の要素、具体的には
荷台トレイ41により形成される荷台背面
の底
壁43よりも、自動車の垂直軸Zに沿って下方に突出して位置している。
【0018】
車両を逆進させるときに荷台背面の下を通過する可能性があり、かつバッテリの底面である牽引バッテリの低点21よりもZに沿って高い障害物から牽引バッテリ20を保護するために、後部衝突保護装置10を車両の牽引バッテリの背後に設置する。
【0019】
具体的には、この後部衝突保護装置は、バッテリを保護すべきである運転中に障害物とバッテリとの間に配置されるように、自動車の後部端と牽引バッテリ20との間に位置する自動車の車体構造部材に剛性接続されるように設計された覆い要素11を備えている。
【0020】
後部衝突保護装置を形成する覆い要素11の機能は、障害物との接触により自動車を持ち上げて、牽引バッテリを障害物よりも上方に持ち上げることである。
【0021】
このように機能するために、覆い要素11は、車体の下を、自動車の後部端と牽引バッテリとの間のほぼ全長に亘って負の傾斜に沿って延びる下部支持面12を有し、換言すると、下部支持面12は、自動車の前後軸Xと時計回りの方向に或る角度を形成する。このように、支持面12の低点12aは、車両の前部に向かって位置し、かつ覆い要素11の前方の車体の下に設置される牽引バッテリ20の低点21よりも低い。
【0022】
したがって、覆い要素11が負の傾斜を持つ斜面の形状を有することで、障害物が斜面の上を摺動可能であることにより、自動車、具体的には牽引バッテリ20が障害物よりも上方に持ち上げられる。これにより、乗員の快適感及び安全を損ないうる、車両が前後軸Xに沿って突然停車する現象が防止される。この場合、車両は障害物に徐々に乗り上げて停車し、運転者に障害物があることが警告される。
【0023】
この目的のために、覆い要素の下部支持面12の傾斜は、自動車の垂直軸Zに沿った応力を最大にするように出来る限り小さくする必要があり、これらの応力は、後部車軸のバネによって、及びこれらの応力に耐える、又はこれらの応力を吸収することができ、かつこれらの応力を、応力を伝達することが困難な自動車の前後軸Xに沿って最小化することができる構造部材(桁部材、荷台トレイ)によって部分的に吸収される。傾斜は、1°〜45°の値の範囲に収まるようにすると有利であり、好ましくは略45°である。
【0024】
一実施形態によれば、覆い要素11は、荷台トレイ41により形成される荷台背面の底
壁43の外側面に、かつ車両の外側に、例えば
図3に示すように四つの固定ネジ11a〜11dを使用して取り付けられることが好ましい。更に、覆い要素11の下部支持面12は、一連の出っ張り部分12bが荷台トレイの出っ張り部分と対称になるように構成することができ、これらの出っ張り部分12bが軸Xに沿った応力を吸収する。四つのネジを使用して覆い要素を荷台背面の底
壁に取り付けるとともに、荷台トレイの出っ張り部分と対称になるように、X軸に沿って応力吸収出っ張り部分を配置するこの手段によって、障害物と接触する場合のXに沿った残留応力を効率的に吸収することができる。
【0025】
覆い要素11に、桁部材44の下面に接するように設計された連結手段を形成する付属部材13及び14を更に設けることにより、覆い要素11に加わる応力を伝達することができる。これらの付属部材は、下部支持面12の各側で、荷台トレイ41に組み付けられた覆い要素11の延長部分であり、例えば固定ネジ13a、13b、及び14a、14bをそれぞれ使用してこれらの桁部材に取り付けられる。
【0026】
覆い要素と覆い要素の周囲部材、具体的には荷台トレイは、後部において、軸Zに沿って自動車の重量を支持し、且つ支持面の傾斜に関連して軸Xに沿って生じる合力を支持するだけでなく、障害物との衝突時に発生する運動エネルギーを吸収するために十分な剛性を有しなければならない。
【0027】
図1は、障害物30の高さが十分低いために、保護対象のバッテリを搭載した自動車の運転中に障害物30が牽引バッテリ20の下を通過することができる事例を示している。この事例では、覆い要素11に応力が加わることがない。
【0028】
これとは異なり、
図2は、障害物30が、バッテリ21の底面よりも軸Zに沿って高い事例を示している。この事例では、自動車が逆進してこの障害物30に乗り上げたとき、障害物が覆い要素11に触れてしまう場合、障害物が覆い要素11に乗り、下部支持面12により形成される斜面に沿って矢印F1で示す方向に摺動する。前述のように、次いで、覆い要素11は障害物30に対する支持体として使用されて、車両及びバッテリを、荷台トレイ及び桁部材を介して矢印F2で示す方向に持ち上げる。下部支持面12の低点12aにより画定される斜面の端部が、常にバッテリ21の底面よりも自動車の垂直軸Zに沿って低く位置するように構成されることにより、障害物30が下部支持面12により形成される斜面に沿って摺動する限り、障害物30が方向F1に移動して、バッテリの底面よりも必ず低く位置することが保証される。
【0029】
したがって、覆い要素11の寸法は、特に軸Zに沿って、覆い要素11が弾性変形し、周囲部材(荷台背面)が塑性変形した後でも、斜面の端部の高さがバッテリの底面から軸Zに沿って残ることによって、常にバッテリを障害物よりも上方に持ち上げることができるように決定されなければならない。更に、このような変形を考慮に入れるために、かつ覆い要素の斜面の端部がバッテリの底面よりもZに沿って必ず低くなる状態を確保するために、覆い要素11の寸法は、機能的な要求に関し、覆い要素/周囲部材の変形合計値の分だけ軸Zに沿って大きくしなければならない。
【0030】
他方、覆い要素の軸Zに沿った寸法と、覆い要素の下部支持面12により形成される斜面の傾斜とは、車両の最低地上高と同等に保ち、駐車場斜面のような路面凹凸に接触することがないようにする必要がある。
【0031】
覆い要素は、更に、覆い要素が障害物に触れるときには、障害物がバッテリに達する前に信号(騒音、振動)を発生させることにより、運転者警告機能を果たすことができるので有利である。その結果、騒音又は振動が検出されると、運転者は、ブレーキを踏み、前方に向かって運転して、障害物を避けることができ、障害物は、F1とは反対の方向に、覆い要素の下部支持面上を摺動する。
【0032】
本発明による保護装置の覆い要素が車体の下の空気力学的流れの中に位置することにより、覆い要素の外形は、空気を通過させ、抗力を最小にすることができる。
【0033】
この説明は、自動車における、特定の車両操作の間に、車両の車体の下に取り付けられる牽引バッテリを後部衝突から保護するための使用に関するものである。しかしながら、本発明による装置は、一般に、自動車の下に組み付けられる全ての部材を、部材の低点よりも軸Zに沿って高い障害物から保護するために使用することができ、4x4後部車軸、ディファレンシャル、タンクなどの部材の直下に保護装置を設置することが容易でない場合に使用することができる。